博 士 ( 医 学 ) 穴 口 裕 子
The effect of transforming growth factor‑beta on mechanical properties of the fibrous tissue regenerated in the patellar tendon after resecting the central portion
(Transforming growth factor
―beta の投与が膝蓋腱中央切除部に
再 生 す る 線 維 性 組 織 の カ 学 的 特 性 に 与 え る 効 果 )
学位論文内容の要旨
膝蓋腱中央1/3は,靭帯再建の材料としてよく用いられるが,自家膝蓋腱採取部位には線維 性組織が再生されることが臨床的にも実験的にも報告されている.これは,in vivoにおける 腱再生のメカニズムを研究するための重要なモデルである.しかしながら,中央1/3切除後 の 膝蓋腱全体の構造特性についての報告はあるが,再生された組織そのものの特性を調べ た研究はほとんどない.我々は家兎モデルを用いて,膝蓋腱中央1/3切除後に線維性組織の 再 生が起こる過程を詳細に研究し,再生組織と周囲の腱組織を分離してそれぞれの生体力 学 的特性を報告した,その結果,再生組織の引張強度は6週で正常膝蓋腱の約32%、24週 で も約64%と,生体力学的成熟は従来に想像されていたほど早いものではなく,この再生 組 織の成熟を時間的・強度的に促進させるサイ卜カインを明らかにすることは,腱・靭帯 損傷の治療に再生工学・組織工学を応用するための有用な情報が与えられると考えられる,
一 方,移植腱や損傷靭帯においてTGF‑betaの投与が生体力学的特性を向上させるという報 告が散見される.
我々はTGF‑betalは膝蓋腱中 央切除後に再生される組織の生体力学的特性の改善を促進 す る と い う 仮 説 を 立 て た . 本 研 究 の 目 的は ,膝 蓋腱 中央1/3切 除時 にお ける 外因 性 TGF‑betalの投与が,欠損部に 再生する線維性組織のカ学的特性に与える効果を明らかに することである.
実 験に は, 日本 白色 家兎30羽 を用 いた ,右 膝蓋 腱中 央部 に 幅3mm,長さ10mmの矩形 の 欠損を鋭的に作成し,その4隅に5‑0ナイロン糸でマーカ ーを残し,創を縫合した後,
無 作 為に10羽 ずっ3群 に分 けた .1群 ではこの欠損 部に5ngのTGF‑betalを,O.lccのPBS を 担 体と して 経皮 的に27Gの注 射 針で 投与 した .H群で はO.lccのPBSのみ投与 した.m 群 では何も投与しなかった,各動物は,外固定を行わずケージ内で飼育した.尚,左膝蓋 腱 を 無作 為に10羽抽出 し正常対照N群とした.6週で屠殺し,膝関節を摘出し,8羽を生 体力学的評価に,2羽を組織学的評価に供した,生体力学的評価では,膝蓋腱長と全体の断 面 積を光学的に計測した後,手術時に残したナイロン糸マーカーを基準に内側,中央,外 一14−
側 に分 離 し , 各部 の 内 外 側1/3を 切 除 した 膝 蓋 骨 一軟 組 織 ― 脛骨 複 合体 を作成 し,お のおの のTngentmoduluS, 引 張 強度 , 破 断 ひず み をvidcodimCnSion卸alyzerを用い た引張 試験に て 計測した.また,組織学的評価として,線維芽細胞密度を測定した,
膝蓋腱 の長さ は各群 (I群;25,2土4.7,u群 ;24.6土3.2,m群;25.6土3.5mm)ともN群
(20.4土1.2mm) に比較 し有意 に長くな ってい たが, 各群問 には有意差はなかった,また,膝 蓋腱全体の断面積もN群(18.5土6.2cm2冫に比較し各群(I群;28.9土11.0,n群;29.8土8.0, m群 ;31.7土9.lcm2) と も 有意 に 大 き くな ってい たが, 各群問 には有 意差は なかっ た.I群 の再生組織のTangentmodulus(280.9土82.3MPa)は,u群(144.4土58.9MPa)及び皿群(137.8 土51.1MPa) の そ れよ り も 有 意の 高 値 を 示し た .H群 及 びm群 間に 有 意 差 はな か っ た .周 囲 の 腱組 織 に 関 して は, 各群間 に有意 差はな かった ,また ,各群 ともN群 (795.4土97.6MPa) に比較 すると 再生組 織も周 囲のJ腱 組織も 有意に低 値だっ た,引 張強度に関しても,I群(17.0 土3.8MPa冫はH群(12.4土2.6MPa)及ぴm群(]2.3土2.9MPa)のそれより有意に高値であった,
破 断 ひず み は ,I群 で小 さ ぃ 傾 向だ っ た が 、各 群 間 に 有意 差 は な かっ た , 組 織学 的 に は ,N 群 に比 較 し 各 群と も 再 生 組織 のcrInlppaHernは乱れ ており, 細胞数 の増加 が認め られた .線 維 芽 細 胞 密 度 はN群 に 比 較 し 再 生 組 織 ,周 囲 の 腱 組織 と も 各 群で 有 意 に 高値 で あ っ たが , 各群間には有意差はなかった,
本 研究 に お い て,time0にお け るTGF.betalの 投与 が 膝 蓋 腱中 央 切 除後に 再生す る線維 性組 織 のTangentmodulusと 引 張 強度 を 有 意 に向 上さ せた, 広範な 欠損を 有する腱 損傷に おいて , あ る成 長 因 子 を使 っ た 革 新的 な 治 療 を開 発 するた めの重 要な情 報を提 供するこ とがで きる,
ま た , 所Wy。 に お け る こ の 研 究 結 果 は ,exviVoに お け る 腱 組 織 形 成 の た め のti88ue engineeringにTGF‐betalが有用性であることを示唆した.
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学位論文審査の要旨
The effect of transforming growth factor‑beta on mechanical properties of the fibrous tissue regenerated in the patellar tendon after resecting the central portion
(Transforming growth factor
―beta の投与が膝蓋腱中央切除部に
再 生 す る 線 維 性 組 織 の カ 学 的 特 性 に 与 え る 効 果 )
膝蓋 腱中央め は,靭 帯再建の 材料とし てよく 用いられ るが, 自家膝蓋 腱採取 部位には 線 維性組 織が甲i生さ れること カ蹴的に も実験的にも報告されている.これは,in vivoに お ける腱 再生のメ カニズ ムを研究 するための重要なモデルである.家兎モデルによる再生 線 維性組 織の生体 力学的 特性の変 化を報 告した研 究で,再 生組織の引張強度は6週で正常 膝 蓋 睫の約32% 、24週で も約64%と ,生体 力学的成 熟は従 来に想像 されてい たほど 早い も のでは ないこと が明ら かとなっ た.この再生組織の成熟を時間的・強度的に促進させる サ イトカ インを明 らかに すること は,腱・靭帯損傷の治療に再生工学・組織工学を応用す る た め の 有 用 な 情 報 が 与 え ら れ ると 考 え られ る . 一方 , 移 植 腱や 損 傷 靭帯 に お いて TGF‑betaの投与が 生体力 学的特性 を向上させるという報告が散見されるが,transforming growth factor Bl (TGF‑B1)を投与して再生組織の強度を促進させる研究はこれまでなかった・
そ こ で,申請 者はTGF‑B1は 膝蓋腱中 央切除 後に再生 される 線維性組 織のカ学 的特性 に与 える効果を調べた・
実 験 には , 日 本白 色 家 兎30羽 を用 い た .右 膝 蓋 腱中 央 部 に 幅3mm,長 さ10mmの 矩形 の 欠 損を鋭的 に作成し ,その4隅に5‑0ナ イロン糸 でマーカ ーを残 し,創を 縫合し た後,
無 作 為 に10羽 ず っ3群 に 分 け た .I群 で は こ の 欠 損 部 に5ngのTGF‑BIを ,O.lccのPBS を 担 体として 経皮的に2'7Gの注射 針で投 与した.1I群では.O.lccのPBSの み投与 した.m 群 では何 も投与し なかっ た.各動 物は,外固定を行わずケージ内で飼育した.尚,左膝蓋 腱 を 無 作 為に10羽抽 出 し 正常 対照N群と した.6週で 屠殺し ,膝関節 を摘出し ,8羽を生 体 力学的 評価に,2羽 を組織学 的評価に 供した .生体力 学的計 測には,膝蓋腱長をノギス で ,また 全体の断 面積を 非接触的 方法で計測した後,手術時に残したナイロン糸マーカー を 基準に 内側,中 央,外 側に分離 し,各 部の内外 側1/3を 切除し た膝蓋骨一軟組織一脛骨 複 合体を 作成し, 万能試 験機を用 いて,20mm/minの速度で軟組織実質部を破断させた.腱 実 質 部 の 歪み の 計 測はvideodimensionanalyZerを 用い た .応カひ ずみ曲 線を作成 し,
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平 男
則
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明 和
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査 査
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主 副
副
Tangent mou螂,引張強度,破断ぴす弧を求めた.N群について強,正常膝蓋腱中央1居 を同様の手技でダンベル状に形成し,計測した.また,組織学的評価として,線維芽細胞 密度を測定した.結果として,膝蓋睫の長さは各群ともN群に比較し有意に長くなってい たが,各群間には有意差はなかった.また,膝蓋睫全体の断面瞶もN群に比較し各群とも 有意に大きくなっていたが,各群聞には有意差はなかった,I群の再生組織の1細gent moduhBは,n群 及ぴm群の それより も有意の高値を示した.u群及びm群間に有意差は なかった.周囲の腱組織に関しては,各群問に有意差はなかった.また,各群ともN群に 比較すると再生組織も周囲の腱細織も有意に低値だった.引張強度に関しても,I群はn 群及びm群のそれより有意に高値であった.破断ひずみは,I群で小さい傾向だったが、
各群間に有意差はなかった.細織学的には,N群に比較し各群とも再生組織の田nlppa蜘1 は乱れており,細胞数の増加が認められた.線維芽細胞密度はN群に比較し再生組織,周 囲の腱組織とも各群で有意に高値であったが,各群間には有意差はなかった.この実験は,
血伽におけるTGF.Blの投与が膝蓋腱中央切除後に再生する線維性組織の生体力学的特性 を向上させたことを示している・
口頭発表にあたり、三浪教授からはTGpbetaを選択した理由について、山本教授から はTGpbetaの初回一回投与を選択した理由や、線維芽細胞密度に有意差がなかったにもか かわらずカ学的特性が向上した理由について、安田教授からは臨床応用の可能性に関して 質問があった.これらに対して申請者は自己の研究結果と文献的知識に基づぃて概ね妥当 な回答を行った・
この論文は,腱の広範な欠損部に再生する線維性組織の生体力学的強度を,成長因子を 使って向上させた初めての研究であり,今後あるサイトカインを使った革新的な治療を開 発するための重要な情報を提供ナるものと期待される.
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や取得単位なども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。