博士(工学)三浦則明 学位論文題名
ブラインドデコンボリューション法による 大 気 ゆ ら ぎ 劣 化 し た 天 体 像 の 回 復
学位論文内容の要旨
地上からの天体像観測においては、大気ゆらぎの影響によって、望遠鏡に到達する天体 からの波面がランダムに揺らいでしまぃ、ある瞬間の点状分布関数(PSF)が数秒角の広 がりを持つ斑点状(スペックル)パターンとなってしまう。この結果、このスペックル像 の空間的広がりが、可視域から赤外での観測における望遠鏡の分解能を規定し、どんな大 口径の望速鏡を用いても分解能は改善されないことになる。このように、望遠鏡の本来持 つ能カを発揮できないことは、わが国においても8メートル望速鏡の建設が進む現在、重 要 問 題 で あ り 、 そ れ を 克 服 す る 方 法 の 開 発 が 緊 急 の 課 題 と な っ て い る 。 地上から観測される天体像は、未知関数である天体像強度分布と、大気揺らぎと望遠鏡 を含めた系のPSFとのコンボリユーションとなっていることが知られている。しかしなが ら、大気の状態が時間と共に変動するためPSFも変化し、天体観測におけるPSFは一般に 未知である。このような観測像からの天体像の回復には、コンボリユーション像のみから ニつの 未知関数を 再生するブ ラインドデコンボリユーション(BD)法が適用できる。BD 法を使用する利点は、被観測天体以外の情報が不必要で観測効率が向上すること、1枚以 上の任意のフレーム数で適用可能なため天体像の動的な解析が容易となることである。
BDを実行するーつの方法として、1988年にAyersとDaintyが一般的な画像に適用可能で 効率的なアルゴリズムを持つ反復BD法を提案した。しかしながら、反復BD法においては、
ア´レゴリズムの収束性や得られる解の一意性について明確でないために、再生像の信頼性 があまり高くなかった。そこで、本論文では、特に大気ゆらぎによって劣化した天体像の 回復のために、AyresとDaintyによる反復BD法を改良、発展させた幾っかの方法を提案し ている。また、計算機シミュレーションによって提案した各方法の性能を検証し、さらに 実観測データへの適用を通して、天体像回復の可能性を実証している。本論文は全10章 から榊成されている。
第1章は序論であり、BDに関する研究の動向と、高空間分解能結像法の現状について 概説し、本研究の目的について述べている。.
第2章では、本研究の理論的背景を記述している。まず、大気揺らぎを通した天体像の 結像について述べた後、従来の高空RH分解能結像法を概説している。次に、AyerSとDamり によって捉案された反復BD法について、アルゴリズムの性質、特徴を詳説している。ま た、天体像のBDの可能性について議論し、天体の回折限界像の再生が常に可能であるこ とを述べている。最後に、Z変換とゼロシートの概念を用いてBDの意味を明かにしている。
第3章では、二重星と太陽表面の高空間分解能化の天文学的意義について述べている。
第4章では、自己相関法と反復BD法の併用による二重星像の回復法を述べている。こ の方法におぃては、まず自己相関法によって二重星の推定像を求め、その推定像を反復
BD法の初J別打£定として使用する。回復像の評価方法として、自己相関法からの出力像と、
反後BD法か らの 山力 像と の相 関を 用い る方 法を 提案 して いる 。その像a平価が平均自乗誤 差と よぃ一 致を 持つ こと を実 観測 データを用いて示している。また、良いシーイング状態 で撮 影され たフ レー ム選 択の ため の方法も提案している。これにより、像回復の成功率が 改善されることを示し、フレーム選択の有効性を示している。実際の二重星スペック´レデ ータ に適用 した 結果 を示 し、 それ が天体スペックル干渉法による解析結果とよい一致を示 すことを確認している。
. 第5章 で は 、 複 数 枚 の フ レ ー ムに 逐次 的に 反復BDを 適用 する こと によ って 、二 重星 だ けで なく広 がっ た物 体の 回復 を可 能に する 方法 を提 案し てい る。また、第4章で導入した 相関 計算を 用い た回 復像 評価 法を 複数フレームの場合に拡張している。この方法は、ある 入 力像 につ いて 複数 枚の フレ ームのBDか ら得 られ る複 数個 の出 力像 を平 均し 、次 のBDへ の入 カとす る、 とぃ う処 理を 反復 するもので、この様な平均操作によって収束性が改善さ れ、 複数フ レー ムの 使用 によ って 可能な解が限定されるという長所を持つ。しかし、回復 結果 が使用 する フレ ーム の順 序に 依存してしまぃ、その依存性を解消するためには多くの 計算 時間を 必要 とす る。 ここ では 、計算機シミュレーションによって、広がった物体の回 復 が良 好 に 行 わ れ る こ と を 示 し て い る 。 ま た 、 実 際 の 二 重 星デ ー タに 適用 して いる 。 第6章 で は 、 並 列BD法 を 提 案 して い る 。 こ れ は 、 第5章 で 述べ た 逐次 型ア ルゴ リズ ム を並 列型に 改良 した もの で、 その 結果計算効率が大幅に改良されている。また、複数フレ ー ムを 用い たBDの概 念が アル ゴリズ ムの 並列 化に よっ てよ り明 らか にな って いる 。計 算 機シ ミュレ ーシ ョン の結 果、 フレ ーム数が増加するにしたがって良好な像が得られること を確 認して いる 。さ らに 、二 重星 の観測データに適用し、二重星の高空間分解能像を回復 して いる。 この 回復 像か ら得 られ る二重星の角距離、位置角、等級差を従来法による結果 と比較し、良く一致していることを示している。
第7章 で は 、 第6章 で 述 べ た 並 列BD法 を 天 体 像 ば か り で な くよ り 一般 的な 画像 へ適 用 する ことを 目的 とし て、 一枚 のフ レームへの適用を行っている。この方法は一枚の劣化像 から 複数枚 の部 分画 像を 切り 出す ことによって、人為的に複数枚の劣化像を作り出すこと で 、並 列BD法の 適用 を可 能に するも ので ある 。こ の結 果、 一枚 のフ レー ムのBDに おい て も複 数枚の フレ ーム を用 いた もの と同様に、収束性および解の一意性が改善される。ただ し、 その切 り出 しに 際し ての しみ 込み、しみ出しの効果によって、各部分画像においては 厳密 にはそ のコ ンボ リュ ーシ ョン 関係が満たされないとぃう問題も生じる。ここでは、こ の効 果の補 正方 法を 述べ てい る。 計算機シミュレーションによって、しみ込みしみ出しの 補正 が良好 に行 われ てい るこ とを 確認している。また、本手法を太陽像に適用した結果を 示している。
第8章で は、 適用 対象 を太 陽粒 状班画 像に 制限 し、 複数 フレ ーム処理と画像切り出し処 理 を組 み合 わせ たBD法を 提案 してい る。 この 組み 合せ によ って 、従 来BDにお いて 問題 と なっ てきた 解の 一意 性や アル ゴリ ズムの収束性などの問題点が解決できる。このため、定 義し た誤差 関数 を最 小化 する こと によって真の解が得られることを述べている。計算機シ ミュ レーシ ョン によ って 、用 いた フレーム数と切り出し枚数が多いほど良好な再生像が得 られ ること 、お よび 誤差 関数 が必 ず収束することを確認している。この方法を、実際に観 測 し た 太 陽 粒 状 斑 画 像 に 適 用 し 、 本 手 法 の 有 効 性 を 実 証 し て い る 。 第9章で は、 スペ ク卜 ル位 相差 からの 天体 像再 生の 方法 を述 べている。この方法は、多 数フ レーム から 得ら れるKnox‑Thompsonスペ クト ル位 相に 関し て定義した誤差関数を最小 化す るよう な推 定像 を求 める もの である。計算機シミュレーションと実データへの適用の 結 果か ら良 好な 像再 生が 行わ れたこ とを 確認 して いる 。本 手法 はBD法で はな いが 、観 測 像 以外 の情 報が 不必 要で ある とぃう 点でBDと 一致 して おり 、BDとの 結合 が可 能で ある 。
ここでは、本手法とBDとの結合について捉案し、その効果について考察している。
第10章 は 本 論 文 の 結諭 で あり 、 提案 し た各 方 法 の特 徴 を総 括 して い る。
学位論文審査の要旨 主 査
副 査 副 査 副 査
教授 教授 教授 助教授
田中啓司 大場良次 新保 勝 馬場直志
学 位 論 文 題 名
ブラインドデコンボリュー ション法による 大 気 ゆ ら ぎ 劣 化 し た 天 体 像 の 回 復
地上からの天体像観測においては、大気ゆらぎの影響によって観a!IJ像が空間的に広がった劣化 像となってしまう。この結采、その空間的広がりが望遺鏡の分解能を規定してしまぃ、どんな大 口径の望遼鏡を用いても分解能は改善されないことになる。わが国におぃても8メートル望遼鏡 の建設が進む現在、それを克服する方法の開発が重要な課題となっている。ブラインドデコンボ リューション(BD)法は劣化像回復法のーつであり、天体像への適用に際して多くの利点を持っが、
従来提案されていたアルゴリズムには収束性と解の一意性に関するI岡題点が解決されず残ってい た。本論文は、大気ゆらぎ劣化した天体像の回後のため、BD法を改良、発展させた一迎の研究成 采をまとめたものであり、10章より榊成されている。
第1章は序論であり、BD法にI刈する研究の動向と、高空川分鮮能結像法の現状について餓説し、
本研究の目的と意義をlリJかにしている。
第2章では、本研究の理論的背泉を記述している。まず、大気揺らぎを通した天体像の結像に ついて述ベ、天体像回後にBD法が適川可能であることを示している。次に、従来提案されている BDtkおよびそれ以外の方法について、アルゴリズムの性質、特徴を祥説している。また、天体像 のBDの可能性について議論し、天体の回折限界像のW生が弼Hこ可能であることを述べている。最 後 に 、 Z変 換 と ゼ ロ シ ー ト の 概 念 を JHい て BDの 意 味 を 1リJか に し て い る 。 第3章では 、二!R星と 太陽表而 の商空 川分鮮能 化の天 文学的意鏗について述べている。
第4章では、L1己栩関法と反後BD法のO『川によるニ皿星像のl疊J後法を述ベ、回徴像の評価方法 として、自己栩I刈法からの出力像と、反f3tBD法からの出力像との椚I瑚を川いる方法を提案してい る。ここでは、尖際の二m星スペックルデ一夕に適用した轟|i架を示し、これが従来法による解析 結果とよい一致を示すことを疏認している。
第5章では、投数枚のフレームに逐次的に反改BDを適川することによって、二m星だけでなく 広がった物体の回徴を可能にする方法を挫案している。また、投数フレームの使用によって収束 性が改醤され、可能な解が限定されるという長所を持つことを示している。a|.算搬シミュレーシ
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ヨンに よって、 広がっ た物体 のI亜I徴 が良好に行われることを離|泌するとJIに、尖際の二m皿デー タに適用し良好な結采が僻られることも示している。
第6章では、第5章のアルゴルズムを並列型に改良したヨf′:列BD法を捉案し、非弼〓に効串的な骨1. 算カ沛I能であ ることを 示して い・る 。計算機シミュレーションによって、フレーム数が増加するに 従い 良 好 な 像が 得 ら れ るこ と を 叨 かに してい る。さ らに、 二m星の 観測デ ータに適 用し、 回復さ れた 二 重 星 の高空 間分解能 像から 得られ る二重 星の角 距離、 位越角 、等級 差を従来 法によ る結采 と比較し、良く一致していることを確認している。
第7章 で は 、並 列BD法を よ り 一 般的 な画 像へ適 用するこ とを目 的とし て、一 枚の劣 化像か ら複 数枚 の 部 分 画像を 切り出す ことに よって 、人為 的に複 数枚の 劣化像 を作り 出し、並 列BD法 の適用 を可 能 に す る方法 を提案し ている 。この 方法で は、一 枚のフ レーム のBDにお ぃても 複数枚 のフレ ーム を 用 い たもの と同様に 、収來 性およ び解の 一意性 が改普 される ことを 示してい る。ま た、そ の切 り 出 し の際に 生じてる しみ込 み、し み出し の補正 方法も 提案し 、計算 機シミュ レーシ ョンに よっ て 、 そ の補正 が良好に 行われ ている ことを 班認し ている 。また 、本手 法を太陽 像に適 用し、
良好な結果が得られることを示している。
第8章 で は 、適 用 対 象 を太 陽 粒 状 班画像 に限定 し、複 数フレ ーム処 理と画 像切り 出し処 理を組 み合 わ せ たBD法を提 案して いる。 この組み 合せに よって 、従来 問題と なって きた解 の一意 性やア ルゴ ル ズ ム の収束 性などの 問題点 が解決 でき、 誤差関 数を最 小化す ること によって 真の解 が得ら れるこ とを明か にして い・る 。計算 戯シミ ュレー ション によって、用いたフレーム数と切り出し枚 数が多 いぼど良 好な再 生像が 御られ ること 、およ び誤差 関数が必ず収束することを確認している。
こ の 方 法 を 、 実 際 に 観 測 し た 太 陽 粒 状 斑 画 像 に 適 用 し 、 本 手 法 の 有 効 性 を尖 証 し て いる 。 第9章 で は 、ス ペ ク ト ル位 相 差 デ ータか らの天 体像再 生の方 法を述 ベ、計 算機シ ミュレ ーショ ンと尖 データへ の適J1]の結采 から良 好な像iIf生が行われたことを確認している。本手法は観測像 以外の 情報が不 必要で あるた め、BD法 との)flllが可能 であり 、本章で はその 効采に ついても考察 している。
第10章 で は 、 提案 し た 各 方法 の 特 徴を 総括する とゴCに 、本研 究が天 文光学 の分野 に大き く貢 献するものであることが結論づけられている。
これを 要する に、著 者は、BD法に継 づく幾つ かの新 しぃ画 像回改法を抛案するとヨ£に、尖際に 天体像 の画像回 後に適用してそれらの布川11三を尖証したものであり、天文光学と応J1]物理学の分 wrに貢献するところ大なるものがある。
よ っ て 著 者 は 、Mニ ヒ ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 恕 め る 。
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