日本小児循環器学会雑誌 9巻4号 522〜530頁(1994年)
完全大血管転i換症・両大血管右室起始症 における大動脈弁下狭窄の検討
一 大動脈縮窄・離断合併との関係一
(平成4年11月12日受付)
(平成5年12月21日受理)
東京女子医科大学附属日本心臓血管研究所小児科
桃井 伸緒 瀬口 正史 中澤 誠
同 小児外科今 井 康 晴 key words:大血管転換症,両大血管右室起始症,大動脈弁下狭窄
門間 和夫
要 旨
完全大血管転換症(TGA)2型62例中5例(8.1%)と肺動脈狭窄・閉鎖を伴わない両大血管右室起始 症(DORV)58例中16例(27.6%)に大動脈縮窄(CoA)または大動脈離断(IAA)の合併を認めた.
CoA・IAA合併例の21例中15例で大動脈再建術時に肺動脈絞拒術が施行されたが,このうち3例で術後
に大動脈弁下での圧較差の出現を認めた.心内修復術は21例中13例でなされていたが,全例で大動脈弁 皮下切除術または大動脈弁下狭窄を回避するためにDamus−Kaye−Stansel型手術がなされていた.狭窄 の原因としては,漏斗部中隔の肥厚・偏位のみによるものと異常筋束または三尖弁下組織からなる副組 織の大動脈弁下への挿入が関係しているものに分類された.TGA群では全例が前者であり,大動脈弁下切除を加えたJatene手術が可能であった.一方DORV群では,10例中8例で副組織の挿入を認め,こ
のうち5例では,筋束の切除または乳頭筋・腱索の挿入に対してはこれを切離し心内導管作成後に再縫 着することにより心内修復が可能であった.3例では狭窄の解除が不可能でDamus−Kaye−Stansel型手 術が施行された.心室中隔欠損(VSD)の位置と副組織の挿入の関係では, subaortic VSDの4症例で すべて副組織の挿入を伴っており,診断上参考になると思われた.CoA・IAA非合併群では,肺動脈絞拓術前後ともに大動脈弁下での圧較差をみた症例は無く,心内修
復術が施行されていた80例中,大動脈弁下切除術が合わせて行われていた症例は2例のみであった.心血管造影からの検討でも合併群で大動脈弁下が非合併群に比して狭いことが確認されたが,正確な 弁下狭窄の診断には,斜位を含めた弁下造影が必要と考えられた.
緒 言
肺血流増加型の完全大血管転換症(TGA)および両
大血管右室起始症(DORV)の中に大動脈縮窄症
(CoA)または大動脈離断症(IAA)を合併する群があ
る.この群では大動脈弁下が狭いことが多く2)一一5)9)1°),
術前には肺動脈弁輪を通過する血流に比して大動脈弁 別刷請求先:(〒162)東京都新宿区河田町8番1号 東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究 所小児科 桃井 伸緒
輪を通過する血流が少ないため,大動脈弁下にて圧較 差を認めないことが多いものの,大動脈再建と肺動脈 絞拒術を行った後に大動脈弁輪を通過する血流が増加 することから,圧較差が生じ不幸な転帰を招くことが ある.またintraventricular reroutingの際に,左心室 から大動脈へのルートを妨げることもあり,その術前 の評価が重要である.
今回,TGA 2型と肺動脈狭窄,肺動脈閉鎖を伴わな いDORVについて, CoAまたはIAA合併例の治療経
過を調べ,心内修復例については大動脈弁下狭窄の状 態について手術所見からも検討した.また,心血管造 影所見からCoA・IAAの合併の有無による大動脈弁 下狭窄の程度および大動脈・肺動脈の径の違いを検討 し,CoA・IAA合併症例の治療方針について考案した.
対象および方法
対象は1985年より1991年までに東京女子医科大学附 属日本心臓血圧研究所小児科に入院歴を有するTGA 2型62例と肺動脈狭窄,肺動脈閉鎖を伴わないDORV 58例の計120例である.主要心血管区分による分類を表
1に示した.現在までの生存例は92例,死亡例は28例 で,生存例の現在までの年齢は1歳3ヵ月から28歳,
死亡例の死亡時年齢は25日から12歳であった.CoAま たはIAAを合併し,大動脈再建術を要した群を合併群 とし,それ以外の群を非合併群とした.心血管造影に よる検討は,合併群の造影時の体表面積が全例0.3m2 以下であったため,対象を0.3m2以下とし,このうち術 前に心血管造影の施行してある37症例について行っ た.方法は,収縮期末期での大動脈弁下径,大動脈弁 輪径,肺動脈弁輪径,上行大動脈径(無名動脈分枝直 前),主肺動脈径を正面像および側面像で測定し,その 平均値を用いて検討した.なお弁輪径の正常値は Sieversらの心血管造影での平均値を用い18),上行大 動脈径,主肺動脈径の正常値はBiniら心血管造影上の 平均値19)を用いた.
表1 主要心血管区分による分類.括孤内は大動脈 縮窄症または大動脈離断症を合併した症例数
TGA群
{S,D, D} 61(5)
Criss・Cross Heart 1
DORV群
{S,D, D}
subaortic VSD 11(4)
subpulmonary VSD 26(7)
non・committed VSD 2 doubly−committed VSD 1(1)
others(hypo LV etc.) 4(1)
44(13)
{1,L, L} 2
{S,L, L} 2
{S,D, L} 3
Polysplenia 5(1)
Criss−Cross Heart 2(2)
結 果
1.大動脈縮窄症,大動脈離断症の合併の頻度 合併例は120例中21例(17.5%)で,うちTGA群は
62例中5例(8.1%,CoA 5例, IAA 1例)で, DORV 群は58例中16例(27.6%,CoA 15例, IAA 1例)と DORV群に合併することが多かった.主要心血管区分
による分類を表1に示し,CoA・IAA合併症例数を括 弧内に示した.合併群の現在までの死亡例は21例中13 例(61.9%),非合併例の死亡例は99例中15例(15.2%)
と合併群で高い死亡率を示していた.
2,合併群の治療経過
合併群の治療経過の概要を1期手術術式,1期手術 時年齢,1期手術から2期手術までの期間,2期手術 術式および予後についてまとめ表2に示した.合併群 21例中11例で2期的手術が,2例で1期的手術が施行 され,残りの8例は第1期手術として大動脈再建と肺 動脈絞拒術がなされていた.術前より大動脈弁下で圧 較差を認めた症例はなかったが,肺動脈絞拒術後に3 例(case 9,16,17)で15〜25mmHgの圧較差を認め た.うち,Case 9は術直後および5ヵ月後のエコーで は圧差を認めておらず,狭窄の進行した例と考えられ
た.
術式については,TGA群の5例中2例は肺動脈絞
拒術をせずに大動脈再建術を施行し,2週間以内に大 動脈弁下切除を加えたJatene手術を施行した.1例は 他院で大動脈再建および肺動脈絞拒術をされた後に紹 介され,当院にてJatene手術を施行した.残りの2例 は肺動脈絞拒術および大動脈再建術施行後で心内修復 未施行の症例であるが,1例は現在経過観察中で圧較 差は認めないものの,心エコーにて形態上,大動脈弁 下狭窄の進行を認めており,1例は術後25日に突然死した.
DORV群の16例中,心内修復術を施行されている症 例は10例(case 6〜15)であり,このうち6例(case 9,11,15)は1期手術として大動脈再建術と肺動脈絞 拒術を施行されており,2例(case 12,13)は1期手 術に大動脈再建術のみ施行され,残りの2例(case 10,
14)では1期的に大動脈再建術と心内修復術が施行さ れていた.現在までに心内修復術がなされていない6 例は,全例,大動脈再建時に肺動脈絞拒術がなされて いたが,現在生存しているのは1例のみで,死亡した 5例中2例は術後早期に死亡し,2例は自宅にて術後 1年と1年10ヵ月に突然死していた.残りの1例は他 院にて肺動脈絞掘術を施行されたが心不全改善しない
524−(14) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第4号 表2 合併群の治療経過.・は他院で大動脈再建術および肺動脈絞拒術を施行さ
れた後に紹介された症例 Case First operation
procedure (age) Interval Second operation
procedure Prognosis
TGA
1 Arch R (55d) →4d → Jatene+subAo R death
2 Arch R (64d) →14d→ Jatene+subAo R alive 3 Arch R十PAB* (9d) →6m → Jatene+subAo R alive
4 Arch R十PAB (43d) alive
5 Arch R十PAB (16d) death
DORV
6 Arch R十PAB* (46d) →47d→ IVR十subAo R death
7 Arch R十PAB (14d) →10m→ IVR十subAo R alive
8 Arch R十PAB (14d) →40m→ IVR+subAo R death
9 Arch R十PAB (3m) →42m→ IVR+subAo R alive
10 Arch R十IVR+subAo R (36m) alive
11 Arch R十PAB (33d) →12d→
DKS
death12 Arch R (8d) →13d→
DKS
death13 Arch R (57d) →7d →
DKS
death14 Arch R+DKS (8m) death
15 arch R十PAB* (72d) →49d→ Jatene+subAo R alive
16 arch R十PAB (5d) alive
17 arch R十PAB (2d) death
18 arch R+PAB (16d) death
19 arch R+PAB (19d) death
20 arch R寸PAB (10d) death
21 arch R十PAB串 (10d) death
Arch R:Arch repair, PAB:Pulmonary artery banding, IVR:Intraventricular rerout・
ing, DKS:Damus−Kaye−Stansel operation, subAo R:subaortic resection.
ため当科へ紹介となった症例であったが,心カテ後に 死亡した.
3.合併群における心内修復術式と大動脈弁下狭窄 の原因
心内修復術の術式は,intraventricular reroutingと Damus−Kaye・Stanse1型手術とJatene手術に分けら れた.intraventricular reroutingとJatene手術が施 行されていた症例は,全例で大動脈弁下の狭窄の解除 を目的とした術式があわせて行われていた.Damus−
Kaye・Stansel型手術は4例についてなされていたが,
いずれも大動脈弁下狭窄の解除が困難なためにこの術 式の選択がなされていた.
次に,心内修復術がなされている13例について術中 所見より弁下狭窄の原因について検討した.表3に手 術記録から,各症例の弁下狭窄の原因について示し,
狭窄の程度についての記載があったものについては括 弧内にそれを示した.TGAの1例(case 3)について は弁下切除を施行したとの記載のみであったが,他の
症例については程度の差はあるものの狭窄の所見を認 めていた.弁下狭窄の要因は,(1)漏斗部中隔の偏位・
弁下円錐の肥厚によるものと,(2)異常筋束や三尖弁 の乳頭筋,腱索などの副組織の弁下への挿入を伴うも のの2つに分類されると考えられた.前者をAgroup,
Bgroupとして分類すると表4のようになりTGA群
では副組織の挿入を伴う症例はなかった.DORV群では10例中8例で副組織の挿入を認めており,特に
subaortic VSDの全例で副組織の挿入を認めていた.弁下狭窄の原因と術式との関係についてみると,A groupの症例では,弁下がconusの肥厚により狭小化 し大動脈弁輪も小さかった1症例(case 12)で Damus−Kaye−Stansel型手術が選択された以外は,全
例大動脈弁下切除術を合わせて行うことにより
Jatene手術またはintraventricular reroutingが可能 であった.Bgroupについては,8例中5症例(case 6〜10)では,筋束の切除または乳頭筋・腱索の挿入に 対してこれを切離し心内導管作成後に再縫着すること表3 大動脈弁下狭窄の要因.心内修復術を施行されている症例について,術中所見か ら見た弁下狭窄の原因を示し,その程度についての記載があるものについては括孤内 にそれを示した.(弁下へ挿入している乳頭筋はすべて三尖弁に付属する.)
Case VSDの位置 狭窄の原因(狭窄の程度)
TGA
1 漏斗部中隔の偏位
2 著明な漏斗部中隔の偏位(moderately severe stenosis)
3 弁下部ぱ切除にて広げたとだけ記載
DORV
6 subpulmonary 弁下円錐の肥大と乳頭筋の挿入(almost completely obstruct)
7 subaortic 異常乳頭筋の挿入(moderately severe stenosis)
8 subaortic 心室中隔欠損を横切る異常筋束
9 subaortic 弁下円錐の肥大とLancizi乳頭筋の挿入
10 subaortic 弁下円錐の肥大(little resistance)と異常筋束の挿入 11 subpulmonary 弁下円錐の肥大(tight stenosis)と三尖弁腱索の挿入 12 subpulmonary 弁下円錐の肥大
13 subpulmonary 乳頭筋の挿入(obstruction)
14 doubly・committed 三尖弁前尖の異常挿入(severe stenosis)
15 non−committed 弁下円錐の肥大
表4 大動脈弁下狭窄の要因のまとめ VSDの位置 Agroup Bgroup
TGA
3 0subpulmonary 1 3
subaortic 0 4
DORV
doubly−committed 0 1non−committed 1 0
Agroup:漏斗部中隔の肥厚・偏位のみによる群, B group:異常筋束や三尖弁の乳頭筋・腱索などの副組織の 大動脈弁下への挿入を伴う群.
により心内修復が可能であったが,3症例(case ll,
13,14)では解除が不可能でDamus・Kaye・Stansel型 手術が施行された.
4.非合併群における大動脈弁下狭窄
術前より大動脈弁下で圧較差の存在を認めた症例は なく,99例中47例で肺動脈絞拒術が施行されていたが,
術後77日から23年10ヵ月(中間値3年11ヵ月)の経過 にても,圧較差を生じていた症例はなかった.心内修 復術を施行されている症例は80例(TGA群56/57,
DORV群24/42)であったが,心内修復術の際に大動脈 弁下切除術が合わせて行われたのはJatene手術をな
されていたTGA 1例とDORV 1例の計2例のみで
あり,その他に大動脈弁下狭窄が問題となった症例は なかった.20 ■IAA or CoA(+)
ロIAA, CoA(・)
.ロ
5 0 5 1 1
(目日︶﹄30日田口o≧時>9毛o<
0 .14 .16 .18 .2 .22 .24 .26 .28 ◆3
BSA (M2)
図1 体表面積と大動脈弁輪径の関係.●大動脈縮窄 症または大動脈離断症合併群,口非合併群(図2〜6 も同様).図中の曲線は正常値および70%信頼区間を しめす7)(図2も同様).
5.心血管造影での検討
大動脈弁輪径(図1),肺動脈弁輪径(図2),上行 大動脈径(図3),主肺動脈径(図4)と体表面積の関 係を示した.対象症例全体の分布を正常の平均値と比 較すると,大動脈弁輪径・上行大動脈径が小さく,肺 動脈弁輪径・主肺動脈径が大きいという傾向が見られ
526−(16) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第4号
0 5 0 52 1 1
(日日︶﹄3③巨屈自︒≧弱﹀ら﹄昌︒﹄目﹄
「.6LA(tdL−oJ;r:一}gKI71111coA(+)
ロIAA, CoA(・)
●_/「σ
皇,一一
014.16.18ユ22.24.2628.3
BSA (m2)
図2 体表面積と肺動脈弁輪径の関係.
A
ξ・①:離錨(+)喜
』15
ξ
三1°
⁝
i5
.14 .16 .18 .2 22 24 .26 .28 .3
BSA (m2)
図4 体表面積と主肺動脈径の関係.
鳳A。rC。駆[
O
砿
塩
工■
口
●
● ●
●● ●
11
10 9 8 7 6 エ
匹(日旦ヒ3︒日田自︒盲昌這o自目至白
.14 』6 』8 ◎2 .22 24 26 .28 3
BSA (M2)
図3 体表面積と上行大動脈径(無名動脈分枝直前の 径)の関係.図中の曲線は正常値を示す8)(図4も同
様).
4 2 1 8 〆0 4
1 1
』O一●已口ロ一︹一●﹀一雨﹀一目﹄\﹄O一●∈口雨一︵一臼﹀一閃>O
:畿蒜司
.14 .16 ◆18 .2 .22 24 .26 .28 .3
BSA (m2)
図5 体表面積と大動脈弁輪径/肺動脈弁輪径の関係.
合併群のほとんどが0.6以下であった.非合併群で 0.6以下を示した3例中1例(a)は,Jatene手術の 際に大動脈弁下切除術が追加されたTGAの症例.
たが,CoA・IAA合併例ではその傾向が更に強かった.
大動脈弁輪径と肺動脈弁輪径の比を計算すると,図5 のように合併群と非合併群の差は明確となり,合併群 のほとんどが0.6以下を示した.非合併例で0.6以下と なった症例は3例あったが,このうちTGAの1例(a)
はJatene手術の際に弁下狭窄の所見があり,大動脈弁 下切除術を追加されていた症例であった.
大動脈弁下径の測定では,正面像または側面像で肺 動脈弁下の造影と重なってしまうことが多く,明確に 正側の両側で計測が可能であったのは37例中15例で あった.大動脈弁下は正円ではないことが多く,正側 で計測できた症例で正面像と側面像の比を計算すると 0.55〜1.6と広い範囲を示した.両側で計測できた15例 において,正側の径の平均を求め体表面積との関係を
(自E已ロ︶﹄●一●自品鳴一︵一9一一﹄O儒工口m一
10
9
.16 』8 .2 .22 .24 .26
BSA (m2)
図6 体表面積と大動脈弁下径の関係,
は正側の平均値を用いた.
28 3
大動脈弁下径
図6に示した.合併群の全例が6mm以下,非合併群の 全例が5mm以上を示し,明らかに合併群で大動脈弁下 が狭いことが示された.
考 案
TGA・DORVに合併する大動脈弁下狭窄について
は,過去にもいくつかの報告がある.TGAについて は,1963年にEliotら1)がVSDを伴うTGAの22例中 3例に弁下狭窄を認めたことを報告し,その後Schne−eweissら2)やRudolfら㍉こよっても報告がなされて いる.大動脈弁下狭窄とCoA・IAAの合併についての 報告も散見し2)〜5),Rudolf6), Milanesiら4)はその関連 について右室流出路の狭窄が胎生期に肺動脈から動脈 管への血流を増加させ,大動脈弓の低形成を招いたと している.狭窄の形態学的成因としては,漏斗部中隔 の前方偏位によるものが多いが,異常筋束の弁下への 挿入によるものもあり,この2つに分類して報告して いることが多い3)5)7).DORVについては, Sridaromont らがsubaortic VSDの2例に合併した大動脈弁下狭 窄例を報告しているが8),Subpulmonary VSDに合併 しやすいためTaussig−Bing奇形と弁下狭窄について の報告が多く,TGAと同様iにCoA・IAAと合併しや すいとしている9)1°).また,大動脈弁下狭窄は肺動脈絞 拓術などによる右室圧の上昇が引き金となって増強す るという報告があり2)3),Thanopoulosl)やde Vivie ら12)は,肺動脈絞拒術直後には見られなかった弁下狭 窄が,進行し圧較差が出現した症例の報告をしている.
今回,我々は術前の心血管造影所見からCoA・IAA 合併の有無による弁下狭窄の程度を検討すると共に,
CoA・IAA合併例の治療経過を検討することにより,
CoA・IAAの合併例の治療方針について考案した.
今回の検討でも,CoA・IAA合併症例においては心 内修復術の際に,全例で大動脈弁下切除術または弁下 狭窄を回避するためにDamus−Kaye−Stansel型手術 がなされており,CoA・IAAの合併していなかった80 例で弁下切除がなされていた例が2例のみであったこ
とと比較して,CoA・IAAと大動脈弁下狭窄の関連が 深いことが改めて示された.大動脈弁下狭窄のある症 例の外科的治療の問題点は大きく2つあると思われ た.その1点は大動脈再建と肺動脈絞拒術後に大動脈 弁下での圧較差が出現または増強し,後負荷の急激な 増加から心不全をきたす可能性があることである.こ の大動脈弁下での圧較差の出現・増強の機序としては 2点考えられ,その1点はCoA・IAA合併症例の多く が右左短絡路としての動脈管をもち,手術前の大動脈 弁を通過する血流のほとんどが上半身への血流であっ たのに対し,動脈管を離断して大動脈再建をすること により大動脈血流が増加するためであり,もう1点は,
これに加えて肺動脈絞拒術を行うことにより肺動脈へ の流出が妨げられ,体血流が増加し両流出路の後負荷 が増加するためである.今回の検討でも,合併群21例 中15例に肺動脈絞拒術が施行されていたが,このうち
6例が二期手術前に絞拒術後早期死亡または1年以内 の突然死をきたしており,肺動脈絞拒術後の管理の難 しいことがわかる.また,この肺動脈絞拒術後の弁下 狭窄の出現については,術直後に圧差がなくとも次第 に狭窄が進行していく症例があることが前述のように 報告されており,今回の検討でもCoA・IAA合併例で 進行例が見られ,経過観察上,注意が必要と考えられ た.過去の報告ではCoA・IAA非合併例においても進 行した例が報告されているが,今回の検討ではCoA・
IAAのない症例では進行例は見られなかった.
外科的治療上の問題点のもう1点は
intraventricular reroutingの際,大動脈弁下狭窄が左 心室一心室中隔欠損孔(VSD)一大動脈のルートを妨 げることがある点である.この点については,狭窄を つくる原因の面から三尖弁下組織などの副組織の挿入 を伴うかどうかが術式の選択上重要である13}.TGA 群では,三尖弁下組織がVSD上縁に挿入しRastelli 手術の際には問題になるという報告はあるものの14),
DORV群に比して副組織の挿入の頻度は少なく,
528−(18)
Boyadjievら15)のJatene手術後の肺動脈弁下狭窄(術 前の大動脈弁下にあたる)の検討でも乳頭筋や腱索な どの副組織の挿入を認めた症例はなく,全例Jatene手 術時に切除可能としている.したがってCoA・IAAを 伴うTGAに対しては,房室弁や肺動脈弁の異常がな ければ,大動脈再建術+肺動脈絞拒術後にJatene手術 を施行するか,肺動脈絞Vtlをせずに大動脈再建術を行 い,早期にJatene手術を施行することが第一選択と考 えられる.一方,DORV群では,心内修復の術式は VSDの位置,大血管の位置関係により異なるが9},
TGA群と異なり大動脈弁下に異常筋束や三尖弁の乳 頭筋・腱索が挿入することが多く,術式の選択上,問 題となると考えられた.副組織の挿入の診断には断層 心エコーが有効であるが,VSDの位置からは,肺動脈 弁を通過する血流が大動脈弁を通過する血流に比して 多くCoA・IAAの合併をきたしやすいsubpolmonary VSD以外の症例,特にsubaortic VSD症例でCoA・
IAAを合併している場合には要注意と考えられ,実際 に今回の検討でもsubaortic VSDの症例は,全例,副 組織の弁下への挿入を認めていた.副組織の診断にあ
たっては,それが切除可能なものであるか,
intraventricular reroutingの際に左心室から大動脈 へのルートを邪魔することが無いかについて検討する 必要があり,大動脈弁下が利用不可能な症例について はDamus・Kaye・Stansel型手術が選択される.今回の 検討で,合併群のDamus・Kaye・Stansel型手術の成績 は不良であった.これは肺高血圧が存在したこと,新 生児期の手術が含まれていたことがrisk factorで あったと考えられ16),Waldmanら17)が述べているよ うに早期に肺動脈絞拒術を施行し肺を保護し,弁下狭 窄の進行に注意しながらDamus−Kays−Stansel型手 術を待機することが望ましいと考えられた.また,三 尖弁下組織の挿入に対する術式としては,最近,弁下 組織をconal flapとして切離し心内導管作成後に再縫 着する方法(conal日ap法)による成績が良好であり,
可能であれぽ選択されるべき術式と考えられる.
心血管造影所見からの検討では,合併群では大動脈 弁輪径・上行大動脈径が小さく,肺動脈弁輪径・肺動 脈径が大きく,大動脈弁輪径と肺動脈弁輪径の比をみ
るとほとんどが0.6以下を示し,過去の報告通り胎児期 からの血流分布異常が示唆された4)6).大動脈再建術を 要しなかった症例で大動脈弁輪径/肺動脈弁輪径が0.6 以下であった症例は3症例あったが,うち1例で大動 脈弁下切除術が施行されており,CoA・IAA非合併例
日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第4号 でも大動脈弁輪径と肺動脈弁輪径の比が小さい症例は 弁下狭窄に注意する必要があると思われた,大動脈弁 下径についても合併群では狭いことが確認され,平均 径6mm以下であったが,形態は円形でないことが多 く,造影上,肺動脈弁下陰影と重なることも多いため,
正確な弁下狭窄の診断には斜位を含めた弁下造影が必 要と考えられた.
結 語
TGA 2型と肺動脈閉鎖・肺動脈狭窄を伴わない DORVについて, CoA・IAAの合併の有無から2群に 分け,治療経過,心血管造影所見より大動脈弁下狭窄
の検討を行った.CoA・IAAの合併はDORV群に多
く,合併例は非合併例に比較し予後は不良であった.
CoA・IAA合併群や大動脈弁輪径/肺動脈弁輪径が小 さい症例は,大動脈弁下が狭く,術前にその程度につ いて心エコーや斜位を含めた大動脈弁下造影などで充 分に検討する必要がある.狭窄の原因は,漏斗部中隔 の偏位・肥大のみによるものと,弁下への副組織の挿 入が関与しているものに分類され,後者はDORV群,
特にSubaortic VSDの症例で高頻度に見られる.副組 織の挿入の診断にあたっては,切除可能なものである か,また心内導管の作成の際に邪魔にならないかにつ いて検討することが重要である.
References
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530−(20) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第4号
Subaortic Stenosis in Patients with Transposition of the Great Arteries and Double Outlet Right Ventricle−Relation to Aortic Arch Malformation一
Nobuo Momoi, Masashi Seguchi, Makoto Nakazawa and Kazuo Momma Department of Pediatric Cardiology, Heart Institute of Japan, Tokyo Women s Medical College
Aortic arch malformation(coarctation of the aorta or interruption of the aortic arch)was found in 50f 62 patients(8.1%)with transposition of the great arteries with ventricular septal defect(TGA2)
and 160f 58 patients(27.6%)with double outlet right ventricle(DORV)which were not associated with pulmonary stenosis or pulmonary atrtesia.90f the 21 patients with aortic arch malformation were underwent arterial switch operation or intraventricular rerouting, all of whom needed subaortic resection. 4 of the 21 patients were underwent Damus−Stansel operation for subaortic stenosis. There were 2 types of cause in subaortic stenosis:only hypertrophy or deviation of conus septum was in 31%
and insertion of accessory tissue(mainly papillary muscle or chorda of tricuspid valve)to subaortic sapce with or without hypertrophy of conus septum was in 69%. No patient with TGA2 and 80%of the patients with DORV had insertion of accessory tissue. Angiocardiographically, in patients with aortic arch malformation, the subaortic diameter in end・systolic phase were narrower(less than 6 mm)than in patients without aortic arch malformation. It is important to evaluate subaortic stenosis in patients with TGA or DORV who were associated with aortic arch malformation in order to choose adequate operative method and prospect postoperative status.