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日産婦誌62巻9号研修コーナー

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Academic year: 2021

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N―126 日産婦誌62巻 9 号 順天堂大学

竹田

座長:埼玉医科大学総合医療センター

博之

宮崎大学

池ノ上 克

妊産婦死亡は確実に減少しているが,2005年度厚生労働省研究班の調査によると,毎 年4,000∼5,000人の重症妊産婦管理例がいると推定されている.その重症妊婦の中でも 大量出血によるものが最も多く,子宮摘出術や経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)を施行し,かろうじて救命し得た症例の分析では,帝王切 開術中の大量出血が70%を占めている.多くは前置癒着胎盤,胎盤剝離面からの出血, 播種性血管内凝固症候群(DIC)合併例などであり,帝王切開時の出血コントロールに習熟 することは極めて重要である.また,死亡例では経腟分娩後の弛緩出血や子宮破裂が多く, その診断,対応に熟知し,早期に高次医療機関に搬送することが重要と思われ,まだまだ 母体死亡対策には改善の余地が残されている1)2) . 産科出血は突然大量に起こり,DIC に陥りやすいなどの特殊性から,従来の輸血や新 鮮凍結血漿(FFP)輸血ガイドラインは実情に合わず,臨床上問題が多いことが指摘されて いる1)2) . 産科 DIC に陥るとフィブリノゲンが極めて低値となり, 出血傾向からの離脱は, 欧米のように cryoprecipitate やフィブリノゲン製剤が使えない本邦においてその供給源 は FFP 輸血しかない2) .これらの問題点を解決するため,「産科危機的出血への対応ガイド ライン」が策定され3),産科輸血療法の新しい考え方や DIC の治療法が提唱されている. 最新の知見をもとに catheter intervention や子宮温存を目的とした止血法を紹介する とともに DIC の病態に即した早期止血を図る輸血法について解説する. 産科出血の病態 産科出血の特徴は,突発し,大量になることであり,2,000mL を超えると DIC を伴う 頻度が高くなることである.DIC を合併すると出血傾向だけでなく,子宮収縮も障害さ れ,二次的弛緩出血からますます出血量が多くなり悪循環に陥る.このため,迅速かつ適 切な止血法と輸血法の実践が極めて重要である1)2) .また,希釈性凝固障害とは別に消費性

クリニカルカンファレンス2 産科異常出血の管理

2)産科疾患と異常出血

Obstetric Diseases and Massive Hemorrhage Satoru TAKEDA

Department of Obstetrics and Gynecology, Juntendo University, Tokyo

Key words : Postpartum hemorrhage・Disseminated intravascular coagulopathy (DIC)・Uterine tamponade・Uterine compression suture・Transcatheter

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(図 1) 管理法 凝固障害が合併しやすい病態(常位胎盤早期剝離,羊水塞栓,妊娠高血圧症候群重症型な ど)があり,産科大量出血では現在の輸血ガイドライン(急性出血時の濃厚赤血球濃縮液 (RCC)開始:Hb 値7g"dL,FFP 輸血開始:プロトロンビン時間(PT)30%以下,フィブ リノゲン100mg"dL 未満など)での対応は問題が多い.産科出血では血液濃縮により Hb 値が7g"dL 以上であってもショックに陥ることもあるし,DIC が合併していても PT が 50%以上のこともしばしば認められる.また,消費性凝固障害では短時間にフィブリノ ゲン値が100mg"dL 以下になることも多い. このため, 出血の評価は Hb 値のみならず, ショックインデックスなどバイタルサインに基づいて総合的に評価し,血算,生化学検査 のみならず凝固検査(PT,APTT,フィブリノゲン,FDP,d―ダイマー,血沈など)にも 注意を払い管理することになる. 大量出血・DIC は新鮮凍結血漿(FFP)が重要 大量出血では,正確な出血量の評価は困難なことがあり,多くは過小評価となり,輸血 のタイミングが遅れることも多い2) .このため輸血が届くまでの人工膠質液の大量輸液, アルブミン製剤の輸液のみならずパッキング,子宮圧迫や大動脈圧迫など可及的止血が大 切である(図1).これらの処置によっても循環不全が続く場合や DIC を発症した場合は, 濃厚赤血球液(RCC)のみの輸血では循環維持はできず,血圧上昇,維持するためには必 ず新鮮凍結血漿(FFP:1単位が120mL)の投与が必要となる.ショックに陥った場合, RCC のみでは血圧上昇させることはできないことを知るべきで,外傷時と同様 RCC: FFP 比を1:1で投与する.また,常位胎盤早期剝離や羊水塞栓などの消費性 DIC や,大

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N―128 日産婦誌62巻 9 号 (図 2) 大量出血・DIC症例に対する管理方法 量出血後のでき上がった DIC では血中フィブリノゲン値は100mg"dL 以下になっている ことが多く,出血傾向から離脱するためにはまず FFP を6∼7単位(FFP1単位(120mL) に含まれるフィブリノゲンは0.45∼0.6g である.3∼4g 投与で血中フィブリノゲン値が 約100mg"dL 上昇する)輸血しなければならない.すなわち出血傾向から離脱するために は RCC ではなく,FFP をまず6∼7単位急速輸血することであり,これを怠ると出血が 止まらず,何日も出血傾向が続くことになる1) .産科 DIC 管理は,24時間以内の DIC 離 脱であり,FFP を急速投与し,まず血中フィブリノゲン値を150mg"dL 以上,PT 70% 以上にすることを目標にする.夜間など凝固検査ができない場合は総蛋白量4.0g"dL を 目標にする.このように治療を行うと,輸血総量の FFP"RCC 比は2.0を超えることにな る1)2) .このように凝固因子補充を重点に管理すると,常位胎盤早期剝離症例300例以上に おいても一度も止血不能から子宮摘出になった症例はない. 急速 FFP 投与の問題点は,25.7%に無症候性(SpO295%以下)および症候性肺水腫を 併発することである.このため CVP モニターや SpO2モニターを行い,早めに利尿薬, カルペリチド(ハンプⓇ )やβ―刺激薬で対応する必要がある.また,欧米では DIC に使用 できるフィブリノゲン製剤3g(FFP6∼7単位量のフィブリノゲンと同等,保険適用はない) の投与は,速やかに血中レベルを増加させ FFP 投与量を減らし,循環負荷も少なく DIC 治療に極めて有用である.生命を脅かす危機的出血では,ガイドラインにのっとり O 型 異型適合血など躊躇なく対応する(図2)4) . 止血法 大量出血時,全身管理を行いながら,出血点を鑑別し,縫合,圧迫,子宮収縮薬などで 止血をはかる.これらの処置にもかかわらず止血しない場合は,子宮内ガーゼ充填を行い, 高次医療施設への搬送を推奨してきた(図1).近年,メトロイリンテルを子宮内に留置す るバルーンタンポナーデ法が,動脈塞栓術や開腹術などの侵襲的治療と同等の止血効果が あると報告されている.川上ら5) は手に入りやすいフジメトロⓇ を使用し,弛緩出血に有効 であると報告している.また,FIGO でも推奨されている.我々の追試成績でも有効性が 確認されており,今後の症例集積が必要である(図3).それでもなお止血不能な場合は, 躊躇なく動脈塞栓術(TAE)または開腹止血術を行う(図1). 動脈塞栓術(TAE) 子宮破裂を除く子宮出血で止血不能な場合,躊躇なく両側内腸骨動脈もしくは子宮動脈 塞栓術を行う1) .TAE は腟壁血腫や後腹膜血腫の止血にも有用である.TAE 導入後は,

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(図 3) 子宮内バルーンタンポナーデ

子宮筋腫合併妊娠例の経腟分娩後弛緩出血に対してフジメトロを挿 入し,生食水 120mL注入した.バルーンが抜けないように腟内に ガーゼパッキングした.24時間後に止血を確認し,抜去した.

(図 4) 胎盤剥離面や Placenta accretaの止血法

弛緩出血や DIC 合併の子宮出血コントロール不能例の子宮摘出術はほとんどなくなった. 順天堂大学と埼玉医大総合医療センターでの産科出血(2001∼2008年)に対する TAE の 効果は,57例中4例は再出血のため TAE を2回以上の複数回施行したが,全例止血でき 子宮摘出術は回避できた.弛緩出血や体部の胎盤遺残,癒着胎盤は良い適応と思われる. しかし限界もあり,子宮破裂など TAE でも止血できない症例もあるため鑑別診断と TAE

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N―130 日産婦誌62巻 9 号

(図 5) Verticalcompression sutures

の適応を考慮して施行すべきである1).また,帝切既往前置癒着胎盤や嵌入胎盤,穿通胎 盤では外腸骨動脈由来の傍腟結合織や腟壁よりの血流が著明なため内腸骨動脈系 TAE で は止血し難い6) .TAE 後の Asherman 症候群やその後の妊娠では,前期破水,早産,帝 王切開術,癒着胎盤,産褥出血の頻度が上昇する報告もある. 帝王切開時の弛緩出血・胎盤剝離面からの止血法 多胎や前置胎盤など子宮収縮不全が帝王切開術中に起きた場合,双手圧迫法や収縮薬投 与を行うが,oozing なら子宮内に長ガーゼを充填する2) .前置胎盤や低位胎盤などで胎 盤剝離面からの出血が多くコントロールできない場合,まずは滅菌タオル2,3本を挿入 し,子宮後壁からそのタオルをはさむようにして剝離面を圧迫止血する.その後,タオル をずらして,内腔側から合成吸収糸で単縫合や Z 縫合し可及的に止血する7).この際,子 宮筋全層を貫通させ,U 字縫合8)

や intterrupted circular suture9)

のように漿膜面へ出す と縫合しやすい(図4).このような直接縫合で止血できない場合,compression suture が 有 用 で あ る.我 々 は 縦 方 向 の vertical compression suture を 好 ん で 用 い て い る (図5)10) .糸はラピッドバイクリルなどの吸収糸を用いている.薬剤に反応しない弛緩出 血では,B-Lynch suture を試みるのも一法である.また,通常の妊娠子宮は90%が子 宮動脈より血流を受けているため,子宮体部からの出血である弛緩出血では子宮動脈上行 枝を筋層ごと縫合結紮すると止血できる場合もある.内腸骨動脈結紮術は妊娠時動脈吻合 が豊富となるため止血成功率は低い.止血困難例では躊躇せず子宮摘出術を行う.

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上の出血で止血見込みがつかない場合,早めに輸血の手配と母体搬送を考慮する.一次, 二次医療施設と高次医療機関との早目早目の緊密な医療連携こそ,輸血量の低減,子宮摘 出の回避さらには母体救命につながると考えられる1) . 《参考文献》 1.竹田 省,保母るつ子,田中利隆,松永茂剛,村山敬彦,関 博之.弛緩出血.産 婦人科治療 2009;99:239―246 2.竹田 省,西原沙織,牧野真太郎,田中利隆.産科出血の管理.産婦治療 2008; 97:300―306 3.日本輸血・細胞治療学会.産科危機的出血への対応ガイドライン.2010 http:""w ww.jstmct.or.jp"jstmct"MedicalInfo"Guideline.aspx#guideline12 4.社団法人 日本麻酔学会,有限責任中間法人 日本輸血・細胞治療学会.危機的出 血への対応ガイドライン.2007 http:""www.anesth.or.jp 5.川上浩介,高島 健,田中浩正,太崎友紀子,吉村宣純,長田知恵子,藤井 毅, 藤田拓司,木下秀一郎,進 岳史.メトロイリンテルを用いたバルーンタンポナー デ法により止血術を施行した産褥出血の3例.産婦の実際 2009;58:1405― 1409 6.竹田 省,寺尾泰久,村山敬彦,関 博之.前置癒着胎盤.産婦の実際 2008;57: 1973―1980 7.竹田 省,田中利隆,岩田 睦,他.実践手術学:病変部位別手術対応方法 帝王 切開時の胎盤剥離面の止血法 産婦人科手術.メジカルビュー社 2008;19:57― 64 8.小辻文和.実践手術学:病変部位別手術対応方法 前置胎盤,低置胎盤,前置血管 の帝王切開―従来法に「子宮底部横切開法」「子宮下部 U 字縫合」を組み合わせた治 療指針―産婦人科手術.メジカルビュー社 2008;19:47―54

9.JY Cho, SJ Kim, KY Cha, MI Kim, KS Cha. Interrupted circular suture : Bleeding control during cesarean delivery in placenta previa accrete. Obstet Gynecol 1991 ; 78 : 876―879 10.田中利隆,牧野真太郎,太田篤之,竹田 省.前置胎盤.産と婦 2010;77:171― 177 11.村山敬彦,岩田 睦,板倉敦夫,馬場一憲,関 博之,竹田 省.各施設における 臨床経験と前置癒着胎盤の取り扱い 埼玉医科大学総合周産期母子医療センターに おける取扱.産婦の実際 2008;57:921―930

参照

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