橈骨遠位端骨折手術症例の検討
国立小浜病院整形外科
平
松
隆 ・久
芳
昭
紘
西
村
行
政
山口整形外科医院
山
口
重
嘉
Results
of Percutaneous
Pinning
Method
for the Factured
Distal
Radius
by
Takashi
Hiramatsu,
Akihiro
Kuba
and Yukimasa
Nishimura
Department of Orthopedic Surgery,
Obama National Hospital
Shigeyosi
Yamaguchi
Yamaguchi Orthopedic Clinic
Thirty-two
consecutive osteosyntheses
by percutaneous
pinning after prompt reduction for
fractured distal radii were done in thirty-two patients in our hospital.
Fourteen of them were
followed physically and radiologically
for an average of 14.7 months (range, five to seventy-seven
months).
Of these, four had minimal wrist pain on exercise, but no one had significantly impaired activities
of daily living. The examinees showed various degrees of motion range, grip strength, and
anatomi-cal parameters of the joint. Grip strength and motion range were keys to postoperative outcome, and
they were correlated.
Also there was positive correlation between grip and degrees of supination and
volar angles. Shortening of the radius was accompanied by poor supination and loss in volar angle.
In conclusion, less deteriorated volar angle and less shortened radius were considered to be two
major anatomical factors determining good prognosis in the management of the lesion in this series.
緒 言 関 節 内粉 砕 骨折 を除 く橈 骨 遠 位 端骨 折 の うち,整 復 位 保 持 の困 難 な症 例 の 一 部 に対 して,わ れ わ れ は 可及 的 早 期整 復 ・経皮 的 鋼 線 刺 入 固定 法 に よる治 療 を行 っ て きた.今 回,予 後 に関 与 す る因 子 を知 る た めに症 例 の追 跡調 査 を行 い,術 後 成績 の う ち,疼 痛,握 力,お よび 関節 可 動 域(ROM)と 解 剖学 的 パ ラー タ(X線 学 的 計 測値)と の 関係 につ い て検 討 した の で報 告 す る. 対 象 な ら び に 方 法 1981年6月 か ら1989年3月 まで に当科 にて この 方法 で 治療 した32例 の う ち,今 回,追 跡 調査 し えた成 人 例 は14名 で あ った.内 訳 は男3例(23∼62才,平 均43 才),女11例(57∼79才,平 均69才),左 右 別 で は左 が8例8肢,右 が6例6肢 で あ り,術 前 期 間 は0∼4 日,平 均0.7日,術 後 経過 期 間 は5カ 月∼6年5カ 月, 平 均14.7カ 月 で あ った.骨 折 の タ イ プ別(Frykman分 類1)2)およびSarmiento分 類1))に よる症 例 数 は表1に 示 す通 りで あ る. 手 術 手 技 は,伝 達 また は局 所麻 酔 下 に骨折 部 を徒 手 整復 後,数 本 のKirschner鋼 線 を橈 骨 遠 位端 か ら経 皮 的 に刺 入 し固定 す る簡 便 な方 法(図1)で あ る.透 視 下 に骨 折 部 の安 定 性 を精 査 し,外 固定 は骨折 部 が 安 定
図1症 例 タ イ プ はFrykman分 類Type8,Sarmiento 分 類Type4で あ り,末 梢 骨 片 の 掌 側 骨 皮 質 が 近 位 骨 片 背 側 に転 位 して いた.徒 手 整 復 後,径 2ミ リの鋼 線 で経 皮 的 に骨 接 合 し た, してい な い場 合 の み,行 う.固 定 期 間 は0∼9週,平 均2.8週 で あ つた. 予後 調 査 は直接 検 診 に よっ て,疼 痛,握 力,ADL障 害,神 経 障 害 お よびROMを 調 べ た.ROMに 関 す るパ ラメ ー タは 診察 に よ って直 接 得 られ る値(掌 屈,背 屈, 回外,回 内,橈 屈,尺 屈)お よび,そ の 術 側 ・健 側 比 を求 めた.次 に,解 剖学 的 パ ラメ ー タ として手 関 節X 線 の 回外位 前後 像 と側面 像 か ら図2に 示 す パ ラ メ ータ を計 測 し,そ れ らの 健側 と術 側 との差(二 次パ ラ メー タ)を 求 め た. これ らの デ ー タか ら,疼 痛,握 力 お よびROMと 解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ間 の関 係 を調査 した. 結 果 末 梢 神経 障 害 合併 例 は な く,ま た,疼 痛 も予 後 の 上 で 問題 とな る症例 は なか った ので,今 回 の術 後成 績 の 検 討項 目か ら除外 し,以 下 の1)∼2)の 関 係 に つ い て分析 した. 1)握 力 と解剖 学 的 パ ラメ ー タ:有 意 な相 関 は な か 図2測 定 した 解剖 学 的 パ ラメ ー タ.一 次 パ ラ メ ー タの 定 義 は 文献1)に 依 っ た. っ た が,握 力 が 大 き い 例 で はvolar angleとvariantが 健 側 に 近 い 値 を 示 し て い た(図3,a,b).握 力 と そ の 他 の 解 剖 学 的 一 次 お よ び 二 次 パ ラ メ ー タ と は 有 意 な 関 係 が み ら れ な か っ た. 2)ROMと 解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ:① 掌 屈 はvolar angleと 相 関 し て お り(図4,a),radial lengthと も 弱 く相 関 し て い た(図4,b).② 背 屈 は,ど の パ ラ メ ー タ と も 関 連 が な く,良 好 に 保 た れ て い た.③ 回 外 は volar angleの 大 きい 例 で は 可 動 域 も大 き い 傾 向 が み ら れ(図4,c).④ 回 内 は ど の 解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ と も 関 連 が み ら れ な か っ た が,Frykman分 類 のType8(図
5,a)お よ びSarmiento分 類 のType4(図5,b) で は 可 動 制 限 の あ る 症 例 が み ら れ た 。 ⑤ 橈 屈 は ほ とん ど の 症 例 で 健 側 との 差 が な か っ た が,過 度 に橈 屈 す る 例 で はradial angleの 値 が か な り小 さ い 例 が み ら れ た (図5,c).⑥ 尺 屈 はvariant差 お よ びradial width
図3握 力 と解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ との 関 係 a:握 力 とvolar angle差 の 関 係 b:握 力 とvariant差 の 関係
図4掌 屈,回 外 と解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ との 関 係. a:掌 屈 とvolar angleと の 関係.両 者 に は 比 例 関 係 が み られ る.
b:掌 屈 とradial lengthと の 関 係.radial lengthが 大 き い例 で は掌 屈 域 も大 きい. c:volar angleと 回 外 域 は よ く相 関 し て い る
図5a,b:骨 折 の タ イ プ と回 内 との 関 係. c:橈 屈 とradial angleと の 関 係 .
a,bと もに 転 位 の あ る関 節 内骨 折 で 回 内 制 限 の あ る例 が 見受 け られ る.cに お い て過 橈 屈 す る2例 はradial angleが 負 の 値 で あ っ た.
差 と逆 相 関 し,volar angle,radial lengthと は相 関 し て い た(図6,a∼d).radial angleが 大 きい ほ ど尺 屈域 が 大 き くな る傾 向 も認 め られ た. 考 察 橈 骨 遠位 端 骨 折 で は疼 痛,握 力,ROMが 術 後 成績 の 主 た る構 成 要 素 で あ るが,今 回 の対 象症 例 にお い て は 疼 痛 が 大 きな問 題 とな った例 は なか った.し た が って 握 力 とROMが 問題 で あ る. 1)握 力 と解 剖学 的 パ ラメ ー タ:握 力 の低 下 は 一般 に正 中 ・尺骨 神 経障 害,手 指関 節 の 拘縮,疼 痛,手 指 屈 筋 群 の緩 み に よ り発 生 す る と考 え られ て いる3).調査 例 で はvariant差 が大 きい例 で握 力 が弱 い傾 向がみ られ た が,こ れ は 橈 骨 短 縮 に よ る手 指 屈 筋 群 の 緩 み に よ り 発 生 し た た め と 考 え ら れ る.ま た,volar angle差 が 小 さ い と き も握 力 が 大 き い 理 由 は,volar angle差 が 小 さ い 例 で はvariant差 も小 さ い こ と に 原 因 が あ る とみ て い る. 2)ROMと 解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ:術 後 の 解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ は 健 側 と比 較 す る,お お む ねvolar angle, radial angle,radial length,radial widthは 小 さ く な
り,radial width,(ulnar)variantは 大 き くな る傾 向 が み ら れ た.こ れ ら と健 側 と の 差 が 小 さ い ほ どROMが 健 側 の そ れ に近 い とい え る4).ROMの う ち,と く に 回 外 運 動 は 日 常,強 い 回 転 力 を 要 す る 場 合(ド ア の ノ ブ を 回 す,タ オ ル を し ぼ る,な ど)に 多 く用 い ら れ る
-434-図6尺 屈 と解 剖 学 的 パ ラ メ ー タ との 関係. い ず れ の パ ラ メー タ も尺 屈 と有 意 な 関 係 を認 め るが,と くにvariant(a),volar angle(c)と の 関 係 が 統 計 学 的 に も有 意 で あ る. ので 重 要 で あ る.volar angleの 整 復 が い い とき回 外域 も大 きい こ とが わ か っ た.前 腕 の回 内,回 外 運 動 は近 位 お よび遠 位 橈 尺 関節 で行 わ れ る か ら,volar angleは 遠 位 橈 尺 関節 機 能 と密 接 な関 係 が あ る と推 察 され る. 以 上 の こ とか ら,術 後 の 予後 因子 として もっ と も重 要 な解 剖学 的 パ ラ メータ はvariantお よびvolar angle
と結 論 づ け られ る. 結 語 1.徒 手 整 復.経 皮 的 鋼 線 刺 入 固定 法 に よる橈 骨 遠 位 端 骨 折 の予 後 調 査 を行 い,疼 痛,握 力,ROMと 解 剖 学 的 パ ラメ ー タの 関係 を分 析 した. 2.術 後 成 績 の うち,疼 痛 が 問題 とな る例 は なか っ た.し た が っ て握 力 とROM(と くに 回外)が 問題 で あ る. 3.握 力 を保 つ た め に はvariant差 を 小 さ くす る(橈 骨 の 短 縮 を 最 小 限 に す る)こ と とvolar angleの 整 復 が 重 要 で あ り,ROM(回 外)制 限 を 防 ぐた め に はvolar angleの 整 復 が 要 点 で あ る と考 え ら れ た. 参 考 文 献
1) de Bruijn HP : Functional treatment of Colles fracture. Acta Orthop Scand, Suppl : 223, 1987. 2) Frykman G : Fractures of the distal radius
includ-ing sequelae-shoulder-hand-finclud-inger syndrome, distur-bance of the distal radio-ulnar joint, impairment of nerve function ; a clinical and experimental study . Acta Orthop Scand, Suppl : 108, 1967.
