Title
Studies on the Physiological Functions of Kaki Fruit Extracts
against Oxidative Stress in Skeletal Muscle( 内容と審査の要旨
(Summary) )
Author(s)
Nayla Majeda Alfarafisa
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第741号
Issue Date
2020-09-18
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/79660
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氏 名(本(国)籍) Nayla Majeda Alfarafisa(インドネシア共和国)
学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第741号 学 位 授 与 年 月 日 令和2年9月18日 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学
学 位 論 文 題 目 Studies on the Physiological Functions of Kaki Fruit Extracts against Oxidative Stress in Skeletal Muscle (骨格筋の酸化ストレスに対するカキ果実エキスの生理機 能に関する研究) 審 査 委 員 会 主査 産 総 研 教 授 千 葉 靖 典 副査 岐阜大学 教 授 矢 部 富 雄 副査 岐阜大学 准教授 勝 野 那嘉子 副査 岐阜大学 助 教 北 口 公 司
論 文 の 内 容 の 要 旨
高齢化社会を迎え,健康長寿を目指した食品科学によるアプローチの重要性が増している。 しかし,老化とはさまざまな生物学的反応が関与する非常に複雑な現象であることから,単純 化したモデル系での研究は困難であり,より対象を明確にした分子レベルでの研究の重要性が 今後ますます増してくると考えられる。本学位論文では,老化現象を説明する一つのメカニズ ムとして,酸化ストレス状態で蓄積されたフリーラジカル種が細胞内の分子に障害を与え,老 化という悪影響をもたらすことに注目している。具体的には,老化によってもたらされるサル コペニア(骨格筋の質量と強度の変性損失)の発症に寄与する病態生理学的要因の一つである 酸化ストレスに焦点を当て,骨格筋を構成する細胞の損傷を防ぐために,酸化ストレス状態に ある筋芽細胞(C2C12 細胞)に対して,柿(Diospyros kaki)の抽出物が有する効果の検証を行 うことを目的に,従来の単一培養系に替えて,ヒト腸管細胞(Caco-2 細胞)を用いた共培養系 を構築して研究を行った。 本研究では,まず柿果実を25%,50%,75%の 3 種類のエタノールを溶媒としてホットエタ ノール法で抽出し,柿の粗抽出液を分画したところ,6 種類の画分が得られた。各画分の機能解 析を行うため,生理活性化合物の活性を評価するため,フリーラジカル消去剤であるDPPH を 用い,DPPH アッセイから IC50値を算出した。その結果,柿画分のラジカル消去活性は,画分 F>画分 B と D と E>画分 C>画分 A の順に効果を発揮した。また,ORAC 法を用いて,ペルオキシルラジカル誘導酸化に対する抗酸化剤介在性保護を測定した。その結果,柿画分のORAC 値は,画分F(8.0 mmol TE/100 g)>画分B(6.2 mmol TE/100 g)とD(7.2 mmol TE/100 g)と E(7.1 mmol TE/100 g)>画分A(2.7 mmol TE/100 g)とC(3.5 mmol TE/100 g)の順に効果を 発揮した。さらに,全フェノール含有量は,画分F(3.87 g CE/100 g)>画分 D(1.10 g CE/100 g)>画分 B(0.75 g CE/100 g)と E(0.84 g CE/100 g)>画分 A(0.22 g CE/100 g)と C(0.39 g CE/100 g)の順に高かった。以上より,他の疎水性画分と同等の値を示した E 画分を除いて, 柿由来の疎水性画分(B, D, F)は親水性画分(A, C)と比較して,より強い抗酸化力を示す傾向 が示された。そこで,さらなる分析のために,画分B, D, E および F を選択した。 直接的細胞毒性は,WST-8 アッセイおよび TEER 値を用いて評価した。0.01–1 mg/mL の濃度 範囲でB, D, E, F 画分を添加したところ,Caco-2 もしくは C2C12 細胞培養において,24 時間培 養後の細胞生存率の有意な低下は認められなかった。また,TEER 値は,Caco-2 細胞が完全に 分化したことを示すだけでなく,腸管細胞における被験物質の亜致死毒性も示すことができる ことを利用して調査したところ,柿画分の添加直後に観測されたTEER 値の低下は,24 時間培 養後には0.1 mg/mL および 0.5 mg/mL ともに初期値を回復することが確認された。このことは, 用いた柿画分が腸管細胞に有害な毒性を有さないことを意味している。 さらに,共培養系として,1 mM の H2O2を添加して6 時間培養すると,C2C12 細胞の生存率 が著しく低下することを利用し,低濃度(0.1 mg/mL)と高濃度(0.5 mg/mL)の柿画分を Caco-2 細胞に作用させた後,回収した基底膜側培地を用いて CCaco-2C1Caco-2 筋芽細胞を Caco-24 時間培養して,細 胞生存率に対する影響を検討した。その結果,低濃度では,細胞生存率を回復させなかった一 方,高濃度の柿画分で前処理すると,H2O2に対してより顕著な細胞保護効果を示した(B,D, およびF)。このことから,柿画分の 0.5 mg/mL 画分 B, D, F によって誘導される Caco-2 細胞の 分泌物は,H2O2による酸化ストレスに対する細胞保護効果を有していることが示された。そし て,このような細胞保護効果を説明するために,H2O2による酸化ストレスで誘導されたC2C12 細胞の細胞内活性酸素量を測定した結果,柿画分を低濃度で添加して得られた基底膜側培地で の培養では,C2C12 細胞内の活性酸素レベルの有意な上昇を回復させることはできなかったが, 高濃度の B 画分を添加して得られた基底膜側培地での培養では,酸化ストレス誘導された C2C12 細胞内の活性酸素レベルを有意に減少させることができた。このことから,酸化ストレ スが誘発する細胞毒性からの保護効果は,細胞内の活性酸素の発生を抑制する効果に依存して いる可能性が高いことが示唆された。 以上の結果より,本学位論文では,柿果実に由来する抽出物は,in vitro においてフリーラジ カル消去活性と抗酸化物質を介したペルオキシルラジカル誘導酸化に対する保護作用を示し, また,筋芽細胞における酸化ストレスに対する細胞保護作用を有する代謝物の分泌をヒト腸管 細胞に対して誘導するという,筋芽細胞内の活性酸素消去効果を間接的に有していることを発 見したことを報告している。これらの知見は,骨格筋細胞のように食品成分と直接接触できな い組織への食品成分の作用機序の一端を示唆するものであり,共培養系を用いた新しい食品成 分の機能性評価に寄与するものである。
審 査 結 果 の 要 旨
申請者Nayla Majeda Alfarafisa は,老化現象の一つのメカニズムである酸化ストレスによ る骨格筋細胞の損傷を防ぐための食品科学におけるアプローチとして,酸化ストレス状態にあ る筋芽細胞に対して,柿の抽出物が有する効果の検証を行うことを目的に,従来の単一培養系 に替えてヒト腸管細胞を用いた共培養系を構築して研究を行った。その結果,柿果実に由来す る抽出物は,in vitro においてフリーラジカル消去活性と抗酸化物質を介したペルオキシルラジ カル誘導酸化に対する保護作用を示し,また,筋芽細胞における酸化ストレスに対する細胞保 護作用を有する代謝物の分泌をヒト腸管細胞に対して誘導するという,筋芽細胞内の活性酸素 消去効果を間接的に有していることを発見した。これらの知見は,骨格筋細胞のように食品成 分と直接接触できない組織への食品成分の作用機序の一端を示唆するものであり,共培養系を 用いた新しい食品成分の機能性評価に寄与するものであることを認める。 基礎となる学術論文
1) Nayla Majeda Alfarafisa, Kohji Kitaguchi, and Tomio Yabe: The aging of skeletal muscle and
potential therapeutic effects of extracts from edible and inedible plants. Reviews in Agricultural Science, 8, 70-88, 2020.
2) Nayla Majeda Alfarafisa, Kohji Kitaguchi, and Tomio Yabe: Diospyros kaki extract protects myoblasts from oxidative stress-induced cytotoxicity via secretions derived from intestinal epithelium. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, in press.