Form J (F→O) 提出日 Submission Date: 2015 /1 / 6
博士学位論文審査報告書
Summary of Doctoral Thesis and Report of Examination
研究科長 殿: 下記のとおり、審査結果を報告します。
To the Dean: We report the result of Examination for the Doctoral Thesis below.
学籍番号
Student ID 4010s011-7 学生氏名Name 島林孝樹
和文題名 Title in Japanese
ポスト冷戦期における日本の対インドシナ・メコン地域政策
―インドシナ総合開発フォーラムを中心に―
英文題名 Title in English
Japan's Regional Policy toward Indochina/Mekong in the Post-Cold War Period:
An Analysis of FCDI
記 1. 口述試験参加教員 Faculty Members Involved in Oral Examination
①審査委員会主査 Chief Referee of the Screening Committee 氏名
Name 白石昌也 専門分野
Field of Specialization
東南アジア国際関係論 所属
Affiliated Institution
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 資格
Status 教授 博士学位名
Ph.D. Title Earned
博士(学術) 取得大学名
Name of Institution
東京大学
②審査委員会副査(審査委員 1)Deputy Advisor (Member of Screening Committee 1) 氏名
Name 村嶋英治 専門分野
Field of Specialization
地域研究 所属
Affiliated Institution
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 資格
Status 教授 博士学位名
Ph.D. Title Earned
取得大学名 Name of Institution
③審査委員 2 Member of Screening Committee 2 氏名
Name 山岡道男 専門分野
Field of Specialization
地域研究 所属
Affiliated Institution
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 資格
Status 教授 博士学位名
Ph.D. Title Earned
学術博士 取得大学名
Name of Institution
早稲田大学
④審査委員 3 Member of Screening Committee 3 氏名
Name 古田元夫 専門分野
Field of Specialization
ベトナム現代史 所属
Affiliated Institution
東京大学大学院総合文化研究科 資格
Status 教授 博士学位名
Ph.D. Title Earned
学術博士 取得大学名
Name of Institution
東京大学
⑤審査委員 4[該当者のみ]Member of Screening Committee 4 [if any]
氏名
Name 印 専門分野
Field of Specialization 所属
Affiliated Institution
資格 Status 博士学位名
Ph.D. Title Earned
取得大学名 Name of Institution
[時限 / Period] 1st: 9:00-10:30, 2nd: 10:40-12:10, 3rd: 13:00-14:30, 4th: 14:45-16:15, 5th: 16:30-18:00, 6th: 18:15-19:45, 7th: 20:00-21:30
2. 開催日時 Date / Time 2014 年(YY)/ 11 月(MM)/ 24 日(DD) ※ 17 : 00 ~ 19: 00 (Time)
3. 会場 Venue 19 号館(BLDG No.) 314 室(Room No.)
4. 合否判定 Result 合/Passed ・ 否/Failed ※該当する方に○ Circle as appropriate
5. 添付資料 7 枚 pages
#和文 4,000 字程度、もしくは英文 1,500 語程度。ただし、論文題目のみは、和文・英文を併記すること。
博士論文審査報告書
学生氏名: 島林孝樹 学籍番号: 4010s011-7
題名 Title :ポスト冷戦期における日本の対インドシナ・メコン地域政策
―インドシナ総合開発フォーラムを中心に―
Japan's Regional Policy toward Indochina/Mekong in the Post-Cold War Period:
An Analysis of FCDI
1.概要
日本外交における対インドシナ・メコン地域政策について、とりわけ1993年1月の宮澤 喜一首相のバイコク・スピーチにおいて提唱された「インドシナ総合開発フォーラム」
(FCDI: Forum for Comprehensive Development of Indochina)を取り上げる。FCDIは インドシナ 3 国(カンボジア、ラオス、ベトナム)の戦後復興、経済・社会発展に対する 支援をめぐって、日本が国際社会を牽引することを狙って提起されたものである。1993年 12月の高級事務レベル会合(東京)を踏まえて、1995年2月に閣僚級会合(東京)が実施 され、インドシナ3か国の他に20か国と7機関が参加した(他に1か国と2機関がオブザ ーバー参加)。さらに、閣僚会合以降に、それをフォローアップするためのアドバイザリー・
グループ会合やインフラ作業委員会、人材育成作業委員会などが継続的に実施されたが、
1997年以降FCDIに係る活動は徐々に停滞していった。
本論文は一次資料、二次資料を駆使して、以上のような FCDI の構想成立から自然消滅 に至るまでの過程を詳細に分析する。それらを通じて、日本のODA政策における伝統的な 二国間主義を越えた地域レベルでの協力を志向し、かつ国際社会を巻き込んだ形で展開さ れたFCDIの意義と限界を検討する。
2.論文構成
論文は以下の、序章、1~5章、終章から構成される。参考文献リストなどを含めて全部 で221頁である。
序章
第1節 問題背景
第2節 インドシナ・メコン地域開発に関する先行研究 第3節 研究対象
第4節 FCDIに関する先行研究
第5節 本論の目的と分析の視角 第6節 依拠資料
第7節 章構成
第1章 FCDI提唱に至るまでの地域政策に関する議論
第1節 カンボジア紛争以前における対インドシナ地域政策 第2項 ベトナム戦争後における復興構想
第3福田ドクトリンの表明
第2節 カンボジア紛争と対インドシナ地域政策 第1項 カンボジア紛争の勃発
第2項 カンボジア和平への取り組み 第3項 カンボジア復興
第3節 宮澤喜一首相による東南アジア歴訪とFCDIの提唱 第1項 21世紀のアジア・太平洋と日本を考える懇談会 第2項 東南アジア歴訪の概要とFCDIの提唱
第3項 日・インドネシア、日・マレーシア首脳会談 第4項 日・タイ首脳会談
総括
第2章 準備会合に向けた協議 第1節 東南アジア歴訪直後 第1項 国会における答弁
第2項 1993年6月作成の決裁書 第2節 準備会合開催直前
第1項 1993年10月7日作成の準備会合開催要領 第2項 1993年10月27日作成の決裁書
第3項 1993年11月作成の外交公電 第3節 準備会合の開催
第1項 準備会合の概要 第2項 議長サマリー
第3項 参議院国際問題に関する調査会(1993年12月10日)
総括
第3章 閣僚会合に向けた協議
第1節 FCDIの運営方針をめぐる国内議論 第1項 1994年5月, 6月作成の決裁書 第2項 1994年9月作成の閣僚会合開催要綱 第2節 域外国・国際機関との協議
第1項 ADBとの協議
第2項 FCDIの運営方針を記した電子案および招待状の作成 第3項 各国との協議
第4項 閣僚会合直前における国際機関との協議 第3節 閣僚会合直前における国際議論
第1項 1994年12月作成の決裁書
第2項 1995年1月作成の閣僚会合開催要領 第3項 対プレス事前ブリーフ
第4項 閣僚会合直前の協議 総括
第4章 FCDI閣僚会合における議論 第1節 閣僚会合の概要
第2節 共同ステートメント
第1項 閣僚会合における合意事項 第2項 閣僚会合の成果
第3節 閣僚会合における日本の役割と貢献 第1項 閣僚会合における日本の意図表明 第2項 運輸網整備に関する4つの構想 総括
第5章 閣僚会合以後におけるFCDIの活動とFCDIの終焉 第1節 閣僚会合以後におけるFCDIの活動
第1項 民間シンポジウム
第2項 FCDI合同打ち合わせ会合
第3項 インドシナ地域におけるWIDセミナーの開催 第4項 アドバイザリー・グループ
第5項 インフラ作業委員会 第6項 人材育成作業委員会 第2節 FCDIの終焉
総括 終章
第1節 これまでの検討経緯 第2節 FCDIの意義づけ
第1項 日本の政治的役割の模索 第2項 地域政策構想の模索
第3項 ラーニング・プロセスとしての役割 第3節 今後の展望
謝辞
参考文献 一次資料 二次資料 新聞
白書・年鑑・統計 ウェブサイト インタビューリスト
3.内容
序章においては、先行研究を整理した後に、本論文の基本的な問題提起を、次の4点に まとめる。第1に、なぜFCDIというインドシナ開発に関する議論の場を日本の政策担当 者が提供するに至ったのか、第2に、FCDIを展開する上で地域政策の具体的な中身として どのような対応や方針がとられたのか、第3に、なぜインドシナ3国を一括して地域を対 象にした政策を打ち出す必要があったのか、第4に、FCDIが日本の対インドシナODA援 助政策の展開にどのような影響を与えたのか。
以上の問題提起に基づいて、第 1 章では、日本政府の指導者たちによる対インドシナ地 域政策をめぐる言説を、ベトナム戦争期、カンボジア紛争期に遡って概観し、さらに1978 年の福田ドクトリンの意義を振り返る。しかる後に、FCDI構想の伏線となった宮澤喜一首 相の私的懇談会「21世紀のアジア・太平洋と日本を考える懇談会」による提言(1992年)、 そして日本がFCDI構想を対外的に提起する機会となった1993年の宮澤喜一首相による東 南アジア歴訪(1993年)について述べる。
第2章では、宮澤首相の東南アジア歴訪以降、FCDI準備のための高級事務レベル会合が 東京で開催される1993年12月までの日本外務省内部における協議、関係国や国際機関と の折衝、そして同会合の開催について分析する。その過程で、FCDIの目的として、国際社 会の関心喚起、広域的な側面(国境を越えたインフラ整備など)の強調、及びインドシナ3 国の市場経済化支援のための国際的な支援体制の構築といった基本的なコンセプトが形成 された。
第3章では、高級事務レベル準備会合以降、閣僚会合が開催される1995年2月に至るま での過程について、外務省内部での協議、そして関係国(特にインドシナ 3 か国、タイ、
フランス)や国際機関(特にアジア開発銀行)との折衝について分析する。その際に、国 際社会が関わる対ラオス円卓会議、カンボジア復興国際委員会(ICORC)、対ベトナム支援 国会議、そしてアジア開発銀行が主導するメコン圏(GMS)開発計画などすでに始動して いる既存のスキームと、FCDIの役割をどのように差別化するかが、重要なイシューとなっ たことを指摘する。
第4章では、1965年2月に東京で開催されたFCDI閣僚会合について、そこでの協議内 容、共同ステートメントの内容、そして日本政府の意図などを検討する。閣僚会合の成果
には、①インドシナ地域全体の均衡のとれた開発(広域的開発)に政治的弾みを与える、
②インドシナ地域の開発の現状と展望について情報・意見を交換し、それを通じて各国、
機関の間での自発的な援助調整の契機を提供する、③インドシナシナ 3 国の市場経済化支 援を強調するという日本政府の意向が反映された。
第5章では、閣僚会合以降に実施されたFCDIに関する民間シンポジウム(1995年3月、
バンコク)、合同打ち合わせ会合(1995年6月、ヴィエンチャン)、インドシナ地域におけ るWID(途上国の女性配慮)セミナー(1996年1月、ハノイ)、FCDIアドバイザリー・
グループ会合(1996年3月、バンコク)、インフラ作業委員会(1996年9月、シドニー)、 人材育成作業委員会(1996年12月、バンコク)について分析する。しかる後、FCDIの活 動が自然消滅していったことに関して、5つの要因を指摘する。
終章では、序章で提起した4つの問題点に関して、次のような回答を与える。(1)FCDI を提唱した理由は、日本がこの地域に対する国際的役割を発揮する上で、多数のドナー国・
国際機関を巻き込み、牽引していく場を設定する必要があると判断したからである。(2)
FCDI の具体的な中身については、構想を提唱した当初には、インドシナ開発に関する意 見・情報交換の場を提供するという域を出るものではなかったが、その後 FCDI が具体化 する過程で、国境を超えたインフラ整備など広域的な開発構想を展開し始めているADB主 導のGMS開発支援、国際ドナー間の援助調整、そして最終的には日本自身のインドシナ開 発支援計画の策定といった方針が盛り込まれることとなった。(3)インドシナ3国を一括 して地域政策の対象とした理由は、国際社会が1国ごとに支援するための枠組みが、対ラ オス円卓会議やカンボジア復興委員会(ICORC)、対ベトナム支援国会合という形ですでに 存在しており、それらとの差別化を図ることによって、日本のイニシアティブを強調する 必要があったからである。(4)日本のODA 援助政策の展開に及ぼした影響については、
FCDI が有した「ラーニング・プロセス」としての意義を指摘できる。すなわち、越境的、
広域的な性格を有する地域開発支援に不慣れであった日本政府が、ADBなど他ドナーが蓄 積する経験や知識を吸収して、独自の支援構想を具体化していく上で、FCDIの果たした役 割は大きかった。
最後に、本論文で十分に究明できなかった今後の課題として、以下の4点を指摘する。
第1に、外務省内における政策形成過程のより具体的な分析、第2に、他省庁の利害や意 図と外務省の関係の解明、第3に、対象国であるインドシナ 3国や域外国・国際機関との 相互作用のより詳細な分析、第4に、FCDI以外の協力枠組みとの比較検討である。
4.評価と問題点
(1)本論文は、221 頁からなる。注釈は全部で 827 あり、丹念な文献、資料、情報源の 明記、そして補足的な説明が付されている。巻末の参考資料リストに掲げる一次資料は136 点、邦語の二次文献105点、英語の二次文献30点、新聞・白書・年鑑類23点、ウエブサ イト情報9点、インタビュー7点、合計で310点である。
(2)本論文は、日本政府による対インドシナ・メコン地域政策の展開において重要な節 目 と な っ た 「 イ ン ド シ ナ 総 合 開 発 フ ォ ー ラ ム 」(FCDI: Forum for Comprehensive Development of Indochina)に関して、その構想成立から、実際の展開、そして自然消滅 に至るまでの過程を解明したものである。
多くの先行研究においても FCDI の役割や意義が論じられてきたが、様々な事象の一つ として取り上げるに留まり、FCDI について専論したものはない。それに対して本論文は、
FCDIを研究テーマとして取り上げ、その全貌を解明しようとした最初の試みである。
冷戦の終結、カンボジア和平の成立によって激しく流動し始めた世界情勢、地域情勢の 中で、日本政府は自らの東南アジア地域政策やODA政策に対して新たな対応を迫られ、ま た湾岸戦争の苦い経験から新たな国際貢献の方途を模索していた。日本政府が直面してい たそれら課題に応える一つの試みとして、FCDI が構想され具体化された。したがって、
FCDIの展開を跡づけ、その成果と限界を整理し総括することは、日本の対外政策や地域政 策、そしてODA政策の展開を論じる際に、貴重な貢献を果たし得るものである。
(3)FCDIに言及する先行研究は、また、既刊、既公開の資料・文献類にもっぱら依拠 するものであった。それに対して本論文は、それらに留まらず、外務省の開示請求資料や インタビュー情報を活用し、さらに外交青書など年鑑類や国会議事録、当時の新聞情報な どにも細かく目を通して、従来知られていなかった、もしくは見落とされていた多くの情 報や事実を発掘している。
(4)とりわけ、外務省当局者間での事前協議や準備、日本政府と関係国・機関との事 前折衝などの経緯を明らかにしたことは、FCDIをめぐる外交政策の決定過程の解明にとっ て新たな知見をもたらすものである。また、FCDI構想は宮澤首相による政策スピーチとし て対外発信されたものであって、その背景を理解するために首相の私的懇談会の経緯を明 らかにしたことも、貴重な貢献である。
ただし、著者自身が結論部分で指摘している通り、宮澤の東南アジア歴訪以降の総理官 邸の動向、そしてADBに深く関与する大蔵省、ほぼ同時期にFCDIとは別の対メコン地域 支援枠組みを立ち上げた通産省の動きなど、外務省以外の官庁の利害や意図、それら省庁 と外務省の折衝過程などは、今後さらに解明すべき課題として残る。
(5)日本のインドシナ・メコン地域政策の観点からは、ベトナム戦争期、カンボジア 紛争期に遡って日本政府指導者の言説などをフォローする。また、FCDI構想との関連で重 要な意味を持つ1987年福田ドクトリンについてもカバーしている。ただし、FCDIの自然 消滅以降、21世紀に入ってから日本政府が手がけることとなる日本とインドシナ3か国間 の「日本・CLV」協力、それを継承して大陸部東南アジア5か国に対象を拡大した「日本・
メコン」協力などとの関連において、FCDIの意義と限界を整理することが、さらに必要で ある。
(6)日本の ODA政策の観点から見るならば、越境的、広域的な性格を持つ地域支援、
南南協力支援、国際ドナー間の調整などといった、従来の日本外務省にとって経験と知識
の不足していた分野でFCDIが果たした意義、及びFCDIに先行してADBのイニシアティ ブに基づいて始動したGMS(大メコン圏)開発計画との関連や日本外務省とADBの折衝 過程などに関して、本論文は具体的に解明している。ただし、GMS開発計画以外にも、イ ンドシナ・メコン地域をめぐって様々な協力枠組みがほぼ同時に発足し、それらとの「競 合」関係の中で FCDI が埋没していく経緯についての分析は、著者自身が結論部分で指摘 している通り、不十分である。
また、ポスト冷戦期になって日本政府が地域政策の対象として着目したのは、インドシ ナ・メコン地域に留まらない。時期を前後して、アフリカ、中近東、中央アジア、太平洋 島嶼諸国などに対しても、日本は地域政策を展開している。そのことに関して本論文も言 及しているが、それら他域に対する取り組みと FCDI の比較や関連性などについての究明 も、今後に残された課題である。
(7)文章表現については、繰り返しが多くやや冗漫な印象を与える。また、議論の展 開が十分に整序されていない箇所もあるが、全体としては平易である。
5.結論
以上のように幾つかの問題点を含みながらも、全体として評価するならば、先行研究を 踏まえつつ、FCDIの展開過程を詳細かつ具体的に分析した本論文は、十分にオリジナリテ ィーを有し、日本・東南アジア(とりわけインドシナ)関係、日本の地域政策、ODA政策 の研究にとって貴重な貢献を果たす学術的な価値を有すると判断する。また、問題設定、
分析アプローチ、実証的な考察プロセス、結論、日本語記述などにおいて、博士学位論文 の基準を十分に満たしている。とりわけ、開示請求によって多くの外交文書を発掘し活用 した努力は評価されてしかるべきである。
以上により、博士論文審査委員会は全委員一致で博士号の授与を提案する。