博 士 ( 理 学 ) 戸 崎 靜 香
学位論文題名
Analysis of Tolerance Induction in Metamorphosing Xenopus (変態期のアフリカツメガエルにおける寛容性誘導機構の解析)
学位論文内容の要旨
脊椎 動物の免 疫システ ムはその 発生過程 において 「自己」の 成分に対して反応 しな いように しながら 、「自己 」以外の 成分、っ まり「非自 己」の成分に対する 反応 性を獲得 していく 。この自 己に対す る非反応 性は免疫寛 容性を獲得すること によ って成立 する。そ の成立メ カニズム としては 、自己反応 性免疫細胞の消失(
deletion)や 不活 性化(anergy)、あ るいはこ れら免疫細 胞の反応 を抑制す る細胞 の出 現が考えられている。胸腺内に発現される抗原に対しては、deletionが起こっ てい る可能性が、transgenic mouse等を用いた研究から示されているが、胸腺外で 発現する抗原に対する寛容性誘導機構の解析は遅れている。
本研 究では哺 乳類と基 本的に同 じ免疫シ ステムを 持つ、無尾 両生類の一種であ るア フリカツ メガェル(,Xenopus laevis)を用いて、その変態期に誘導される免疫 寛 容 性 の 成 立 機 構 の 解 析 を 行 っ た 。 主 要 組 織 適 合 抗 原 複 合 体 (Maor HistocompatibilityComples;MHC)がホモであるJ系統(以下JJとす)の幼生に、JJ とそ の近縁種であるX6〇′ピロ觚(BB)とをかけ合わせて得た雑種F1(JB)由来の 皮膚 を移植し た場合に は移植片 は容易に 生着する が、JJ成体に 移植した場合には 移植 片は拒絶 され、寛 容性は決 して誘導 されない 。またJB皮膚 移植直前にJJ幼生 の胸 腺を摘除 すると移 植片が拒 絶される ことから 、この寛容 性誘導は胸腺に依存 すると考えられる。
免疫抑制剤CyclosporinAによる寛容性誘導の試み:
ヒト の 臓 器移 植 の際 に 免 疫抑 制 剤と し て広 く用いら れているCyclosporinA( CsA)は 、 同 種 異 個 体 由 来 の組 織 に 対す る 拒絶 反 応 を抑 え るこ と が 知ら れ てい る 。 本研 究 ではJJ成体にCsAを 投与する ことによ って、JB皮 膚に対す る寛容性を 誘導 すること を試みた 。CsA投与JJ成 体にJB皮膚を 移植した ところ、CsA投与中は 移植 片は生着 し続けた が、投与 中止後すみ やかに拒 絶され、 寛容性を誘導するこ と は でき な かっ た。CsA投与JJ成体にBB皮 膚を移植 したとこ ろ、JB皮膚 を移植し た 場 合と は 異な り、CsA投与 にも関わ らず移植 片は移植 直後から 拒絶された 。ま た、JJ成体の脾 臓細胞をJB成体脾臓 細胞又はBB牌 臓細胞と 混合培養する際に、培 養 液 にCsAを 加えて 、JJ脾臓細 胞の分裂 頻度を計 測したと ころ、JB、BBいずれの 脾臓細胞と混合培養した場合も、CsA濃度が10‑8 g/rril以上で分裂頻度の低下が認め られた。
脾臓 細 胞 の混合 培養で分 裂増殖す る細胞は 主にT細胞 であるこ とが知られ てい る こ と か ら 、CsAはJB、BBに対 す るJJ成 体のT細 胞 の 分裂 を 抑え る と 考え ら れ
る 。しかしな がらCsA投与JJ成体はBB皮 膚を拒絶 すること から、JJ成体の免疫シ ス テ ムはJB皮 膚に対し てはT細胞 に依存し た反応を、BB皮膚に対 してはT細 胞以 外の、おそらくB細胞やNatural Killer細胞に依存した反応によって、それぞれの移 植片を拒絶しているものと考えられた。
寛容性誘導機構に対する胸腺の役割についての解析:
変 態期のJJ幼生 に見られ るJB皮膚に 対する寛 容性は、 胸腺に依存して誘導され る ことから、 幼生胸腺 の持つJB皮 膚に対す る抑制活 性が寛容性誘導に関与すると 考えられる。そこで本研究で|ま、発生初期に胸腺を摘除した(E―Txd) JJ成体にJJ 幼 生胸腺を移 植し、JB皮 膚に対す る寛容性 を誘導す ることを試みた。幼生胸腺を 移 植されたE‑Txd JJ成 体ではJB皮 膚は拒絶 され、寛 容性は誘導されなかったが、
成 体胸腺を移 植されたE―Txd JJ幼生の場合は、JB皮膚に対する寛容性が誘導され た 。この結果 から、成 体胸腺で も幼生体 内にある 場合には 、JB皮膚に対する拒絶 反応を抑えて寛容性を誘導をすることが明らかとなった。
一 度JJ幼生(一 次宿主) に移植されて生着しているJB皮膚片(tol‑JB skin)を、
移 植直前に胸腺を除去された(L―Txd) JJ幼生(二次宿主)に移植すると、寛容性 が誘導されることから、tol‑JB skinは胸腺と同じく抑制活性を持っと考えられる。
そこでtol‑JB skinをJJ成体に移植して、寛容性を誘導することを試みた。L‑Txd JJ 成体にtol‑JB skinを移植すると、寛容性が誘導された個体が得られた。また、tol‑
JB skinと胸腺を同時にE‑Txd JJ成体に移植したところ、胸腺のみを移植した場合と は 異 なり 、E‑Txd JJ成 体にJB皮 膚 に 対する 寛容性が 誘導された 。以上の 結果か ら、tol−JB skin中に含まれる抑制活性の導入によってJJ成体にも寛容性を誘導でき ることが明らかとなった。
以上 の研究結 果は、脊 椎動物における寛容性誘導機構の理解に役立っと考えら れる。寛容性誘導機構については、哺乳類を材料にdeletionやanergyの現象を中心 に研 究が行わ れている が、抑制活性についての研究は遅れている。本研究で得ら れた 結果は、 抑制活性 による寛容性誘導機構を将来分子レベルで解析する手がか りを与えるものと考えられる。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 鈴 木 範 男 副 査 教 授 山 下 正 兼 副 査 教 授 片 倉 晴 雄 副 査 助 教 授 若 原 正 己 副 査 助 教 授 栃 内 新
学位論文題名
Analysis of Tolerance Induction in Metamorphosing Xenopus (変態期のアフリカツメガエルにおける寛容性誘導機構の解析)
近年 、免疫に関する研究が盛んに行われている。脊椎動物 の免疫システムの成立は「自己 を構成する成分」に対して反応せず、「非 自己成分」を認識して反応性する機構の獲得、す なわ ち、自己に対する非反応性は免疫寛容性を獲得するこ とによると考えられる。免疫寛 容性 の成立は、自己反応性免疫細胞の消失や不活性化、あ るいはこれらの免疫細胞の反応 を抑 制する細胞が出現するためと考えられている。胸腺内 に発現される抗原に対しては、
消失 が起こっている可能性が明らかにされているが、胸腺 外にしか発現されない抗原に対 する寛容性誘導機構は未解明であった。
本 学位論文は哺乳類と基本的に同じ免疫システムを持つ 、無尾両生類の一種であるアフ リカ ツメガエルを用いて、その変態期に誘導される免疫寛 容性の成立機構の解析を行い、
(1) 主 要 組 織 適 合 抗 原 複 合 体(MHC)が ホ モ で あ るJ系統 (以 下JJとす )の 幼生 に、JJ とそ の近 縁種 であ るXenopusborealis (BB)とを かけ 合わ せて 得た 雑種Fl (JB)由 来の皮 膚を 移植した場合には移植片は容易に生着するが、JJ成体 に移植した場合には移植片は拒 絶さ れ、 寛容 性は 決し て誘 導 されない。(2)JB皮膚移植 直前にJJ幼生の胸腺を摘除する と移 植片が拒絶されることを見出し、この寛容性誘導は胸 腺に依存することを明らかにし たものである。
学 位論 文は2章か らな り、 第1章 では 、ヒ トの 臓器 移植 の際に免疫抑制剤として広く用 い ら れ て い るCyclosporinA (CsA)をJJ成 体 に 投 与 する 実験 からCsAはJB、BBに 対す る JJ成 体のT細胞 の分 裂反 応は 抑え るが 、JJ成体 の免 疫シ ステムはJB皮膚に対してはT細胞 に 依 存 し た 反 応 を 、BB皮膚 に対 して はT細 胞以 外の 、お そら くB細 胞やNK細 胞に 依存 し た反 応に よっ て、 それ ぞれ の 移植片を拒絶していることを明らかにした。第2章では、寛 容性誘導機構に対する胸腺の役割について の解析を行い、(1)成体胸腺でも幼生体内にあ る場 合には、JB皮膚に対する拒絶反応を抑えて寛容性誘導 を引き起こすことを明らかにし た。 (2) 一度JJ幼 生( 一次 宿主)に移植されて生着して いるJB皮膚片中に含まれる抑制 活性 を導入することによってJJ成体にも寛容性を誘導する ことができることを明らかにし た。
以 上の研究結果は、従来その複雑さから解析が遅れてい た脊椎動物における寛容性誘導 機構 の理解に資するものである。よって著者は、北海道大 学博士(理学)の学位を授与さ れる資格あるものと認める。