博 士 ( 医 学 ) 松 本 亮 司
学位論文題名
多形膠芽腫における腫瘍抑制遺伝子 p53 の 変 異 と そ の 臨 床 病 理 学 的 意 義
学位論文内容の要旨
く緒 言> 多形 膠芽腫 は成 人脳 に発 生す る最 も悪 性な 脳腫 瘍の―つで,様々な治療の施行 にも関わらず,その予後は極めて悪い,多形膠芽腫の予後に関わる因子として年齢,手術,
腫瘍 の局 在, 放射線 治療 ,術 後の 神経 症状(Karnofsky performance status,以 下KPS) 等が報告されているが,いずれにせよ・5年以上の生存例は稀である.多形膠芽腫での遺伝 子 異 常 とし て , 腫 瘍 抑 制 遺 伝 子p53の 変異 ,p16遺伝 子の 変異 ・欠 失, 上皮細 胞増 殖因 子 受 容 体(epidermal growth factor receptor, 以下EGFR)の 遺伝 子再 構成・ 増幅 ,第 10染 色体 の欠 失など が報 告さ れているが,p53の変異は星細胞腫で約半数に認められる.
p53の ノッ クア ウト マウ スの 星状 膠細 胞は 増殖が 早く ,不 死化 して おり ,12代継 代培 養 する と腫 瘍形 質を獲 得す る. 膠芽腫の細胞株に野性型p53を導入すると腫瘍形質が失われ る,p53の 変異 が原 因と され るLi―Fraumeni症候 群で も, 若年 者に 星細 胞腫 が高 発す る など の理 由か らp53遺伝 子の 変異 は星 細胞 腫の原 因の ―つ と考えられている.p53変異の ある 星細 胞腫 は高率 に再 発し ,多形膠芽腫へと悪性転化する.このp53機能喪失が関連す る悪 性転 化は 多形膠 芽腫 へ至 る経路の―っとされている,従来,多形膠芽腫はp53の変異 の有 無に より2群に 分類 され ,変異のあるものは比較的若年発症で予後が良く,無いもの はEGFRの 過剰 発現を 認め ,高 齢発 症で 予後 不良 とさ れて いる.しかしながら,多形膠芽 腫に おけ るp53の変 異の 臨床 的意義は必ずしも明らかとなっていない.そこで今回,多形 膠芽腫におけるp53の変異とその臨床病理学的意義を検討した.
く 材 料 と 方 法 > 対 象 は ,1990年6月 か ら1996年12月 ま で に 北 海道 大 学 附 属 病 院 な ら び に 関 連 施 設 で , 摘 出 手 術 あ る い は 生 検 を 受 け ,WHO分 類 に 基づ い て , 多 形 膠 芽 腫 (WHO Grade IV)と病理学的に診断された計42例である.
1. Yeast functionalassayに よ るp53変 異 の 検 出 腫 瘍 組 織 は −80℃ で 冷 凍 保 存の 後,Trizol溶液 と共 にホ モジ ナイ ザ― で破 砕しAGPC法に より 全RNA抽出 を行 った ・ 抽 出 し たRNAをp53特 異 的 プ ラ イマ ーに て, 逆転 写反 応を 行い ,こ のcDNAを鋳 型と して p53特 異的 プラ イマ ―に て,PCR増 幅を おこ なっ た.p53レ ボ― 夕一 プラ スミ ドを あら か じ め 組み 込 ん だADE2変 異 酵 母 株yIG397を 使 用 し , ア デ ニ ン を 含む 完 全YPDA++で 培 養 し ,PCR産 物 を 線 形 化 さ れ たp53発 現 ベ ク タ ―pSS16と と も に 酵母yIG397に り チ ウ ム 酢酸 ・熱 ショ ック法 で導 入し ,低 アデ ニン 加・ ロイ シン 無添加選択プレ―卜上で30℃に
て48時間 培養 した ,ADE2遺 伝子 変異 株の 酵母内 で野 性型p53が発 現す ると,酵母に導入 して ある レポ ―夕 ―プ ラス ミド のp53蛋白 認識 配列 に結 合し ,下 流のADE2遺伝子の転写 を活 性化 し, アデニン合成経路が正常に作動し酵母コロ二―は白色となり,変異型p53が 発現 する と異 常なp53蛋 白が 合成 され ,ADE2遺 伝子 は転 写さ れず ,ア デニン合成の中間 代謝産物が蓄積し酵母コロニーが赤くなる,コロニ一形成後,赤コロニーの百分率を計算 し,赤コロ二―が10%以上のものをp53変異ありとした,
2. EGFR免 疫 組 織 化 学染 色 病 理 標 本 の 利 用 可 能 で あ っ た37例 でEGFR免 疫 組 織化 学染 色 を 施 行 し た . ホル マリ ン固定 パラ フィ ン包 埋標 本を 用い ,90℃のlOmMのク エン 酸緩 衝液 にて20分 間処 理し た後 ,50倍の ウサ ギボリ クロ ーナ ル抗 体を4℃ で―晩反応させ,
ビオ チン 化抗 ウサ ギlgGヤギ ポリ クロ ーナ ル抗体を用い,ABC法にて染色した,染色の判 定 は 著 者 を 含 め た3人 の 独 立 し た 判 定 者に よ っ て 行 い , そ の 判 定 結 果 を 総 合 し た . 3. 放 射 線 感 受 性 放射 線照 射前 後のMRIで 腫瘍 の状 態を 評価 し, 放射 線照 射終 了後 から 再 増 大 ま で の 期 間(time to progression,以 下TTP)を 放射 線に よる 制御 期間 とし た,
4. 統 計 学 的 検 討 年 齢 , 性 別 ,p53変 異 ,EGFR染 色 , 腫 瘍 の 局 在 , 手 術 に よ る腫 瘍摘 出度 ,術 後のKPSの7つ の項 目で 発症 後の 生存期 間(survival)及 びTTPとの関係を統計 学的 に検 討し た,surviva| 及びTTPはKaplan―Meier法により計算し,log−rank解析に て有 意差 検定 を行 った .同 時にCoxの 比例 ハザ ―ド モデ ルに て多 変量 解析を行い,危険 率5%以下のとき有意差ありとした,
く 結 果 >1. p53変 異42例 中 ,p53の 変 異 を 認 め た の が18例(43% ) , 変 異 の 無 い の が24例であった,変異の有る群(平均42歳)が無い群(平均55歳)より有意に若い年齢にて 発病していた,(pく0.027)
2. EGFRの 発 現p53変 異 を 認 め た17例 の う ち10例 でEGFR染 色 が 陽 性で あ り ,p53変 異 を 認 め な か っ た20例中14例で 陰性 であ った .p53変 異のあ る例 でEGFRの 発現 カj強い 傾向があるが,有意な差は認めなかった,(p=0.078)
3. 予 後 に 関 わ る 因子log−rank解析 では ,発 症年 齢が 若く(50歳 以下 ,pく0.0111),
p53変異が有り(pく0.0005),腫瘍が浅い部位にあり(pく0.0026),術後のKPSが良いほど (80以上 のと き,pく0.0147) survivalが 長いと いう 結果 であ った ,多 変量解析ではp53 変異 (pく0.0335)と腫瘍の局在(pく0.0297)のみがsurviva|と相関する因子であった,
4.放 射 綜 感 受 性 に 関 わ る 因 子log‐rank解 析 で は 放 射 線 感 受 性 を 高 め る 因 子 は 年 齢 (50歳以 下の とき,pく0.0145),p53変異の有るとき(pくO.OOOl),腫瘍が浅い部位とき
(pく0.0122),手 術に より 根治 的に 摘出 したと き(pく0.0198), 術後 のKPSが良いとき (80以上 :pく0.0001)であった,多変量解析ではp53変異があること(pく0.0146)のみが 放射線感受性を高める因子であった.
5.放 射 線 に よ る 再 発 抑 制 期 間 と 生 存 期 間 の 関 係 腫 瘍 の 再 増 大 か ら 死 亡 ま で の 期 間 は,p53変異の有る群(平均11.4年)と,無い群(平均9.1年)では有意な差はなかった(p‑
0.3785).そし て,surviva|とTTPとのあいだには有意な相関が得られた(pく0.0001).
以 上の 結果 より,p53の変異は予後においても放射線感受性においても最も相関の高い 因子 であ り,p53変異のある多形膠芽腫では有意に放射線の感受性が高く,それが予後に
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
多形膠芽腫における腫瘍抑制遺伝子p53 の 変異とその臨床病理学的意義
腫 瘍抑 制遺 伝子p53の 遺伝 子転 写活 性可 能を 直接 判定 でき るYeast functional assay 及びEGFR免疫 組織 化学 染色 を用 いて 多形 膠芽腫 にお けるp53の変 異と その臨 床病 理学的 意 義 を 検 討 し た 。 対 象は 、1990年6月 か ら1996年12月 ま でに 北海 道大 学附 属病院 なら び に 関 連 施 設 で 、 摘 出 手 術 あ る い は生 検 を 受 け 、WHO分 類 に 基 づぃ て 、 多 形 膠 芽 腫 (WHO Grade IV)と病理学的に診断された計42例である。
こ の42例 に つ い てYeast functional assayに てp53の 変異 を検 討、 免疫 組織化 学染 色に てEGFRの 過剰 発現 を調 ぺた 。次 に放 射線照 射前 後のMRIで腫 瘍の 状態を 評価 し、放 射線 照射 終了 後か ら再 増大までの期間を放射線による制御期間とし、年齢、性別、p53変 異 、EGFR染 色 、 腫 瘍 の局 在 、 手 術 に よ る 腫 瘍 摘 出 度 、術 後のKarnofsky performance status(KPS)の7つ の 項 目 で 発 症 後 の生 存 期 間 及 び 放 射 線 に よ る 制 御 期 間 をKaplan‑
Meier法 によ り計算 し、 |og‐rank解 析に て有 意差 検定を行った。同時にCoxの比例ハザ ー ド モ デ ル に て 多 変 量 解 析 を 行 い 、 危 険 率5% 以 下 の と き 有 意 差 あ り と し た 。 42例 中 、p53の 変 異 を 認め たの が18例(43%) 、変 異の 無い のが24例 であ った。 変異 の 有 る 群 ( 平 均42歳 )が 無い 群( 平均55歳 )よ り有 意に 若い 年齢 にて 発病 してい た。
(pく0.027) p53変 異 を 認め た17例の うち10例 でEGFR染色 が陽 性で あり 、p53変異 を認 め な か っ た20例 中14例で 陰 性 で あ っ た 。p53変 異 のあ る 例でEGFRの発 現が 強い傾 向が ある が、 有意 な差 は認 めな かっ た。(p=0.078)発症 後の生存期間についてはlog‐rank解 析では、発症年齢が若く(50歳以下,pく0.0111)、 p53変異が有り(pく0.0005)、腫瘍が浅 い部 位に あり (pく0.0026)、術 後のKPSが 良い ほど(80以上のとき,pく0.0147)生存期間 が 長 い と い う 結 果 で あ っ た 。 多 変 量 解 析 で はp53変 異 (pくO.0335)と 腫 瘍 の 局 在
(pく0.0297)のみが生存期間を規定する因子であった。放射線感受性については|og‑rank 解析 では 放射 線感 受性 を高める因子は年齢(50歳以下のとき,pく0.0145)、p53変異の有 るとき(pく0.0001)、腫瘍が浅い部位とき(pく0.0122)、手術により根治的に摘出したと き(pく0.0198)、 術後 のKPSが良 いと き(80以上 :pく0.0001)で あっ た。多 変量 解析で
弘郎 也 和哲 部嶋 内 阿長 守 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
はp53変 異 が あ る こ と (pく0.0146)の み が 放 射 線 感 受 性を 高める 因子 であ った 。腫 瘍 の再増大から死亡までの期間は、p53変異の有る群(平均11.4月)と、無い群(平均9.1月)
で は有 意な 差は なか った(p=0.3785)。 そし て、 生存期間と放射線感受性とのあいだには 有 意な 相関 が得 られ た(pく0.0001)。 以上 の結 果より、p53の変異は予後においても放 射 線感 受性 にお いて も最も関係の高い因子であり、p53変異のある多形膠芽腫では有意に 放 射 線 の 感 受 性 が 高 く 、 そ れ が 予 後 に 影 響 し て い る と 考 え ら れ る 結 果 で あ っ た 。 公開 発表 にお いて 長嶋 和郎 教授 より 星細 胞腫 から 多形膠 芽腫 への 悪性 転化 とp53変異 の関係、及び放射線治療の感受性の判定法について質問があった。次いで守内哲也教授よ り 、p53変 異とMDM2遺伝 子増幅 の関 係、 及び 放射 線照 射に よる アポ ト― シス の誘導につ いて質問があった。いずれの質問に対しても、申請者は自らの研究に基づく経験や過去の 論文の内容を引用し、豊富な知識に基づいて明快に解答した。
この 論文 は、 多形 膠芽腫における腫瘍抑制遺伝子p53の変異の意義、特に放射線感受性 との関係を明かにした点で高く評価され、今後の多形膠芽腫での実臨床とくに放射線治療 において役立っものと期待される。
審査員ー同はこれらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格を 有 す る も の と 判 定 し た 。