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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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学 位 論 文 題 名

博 士( 獣 医 学 )大 島正 伸

APC 遺伝子ターゲテイングマウスの作出と 腸管腫瘍発生機序に関する分子病理学的研究

学位論文内容の要旨

  APC遺伝子(adenomatous polyposis coli)は、常染色体優性の遺伝病である、家 族 性 大腸ポ リープ症(FAP)の原因遺 伝子として 単離され た。また 、APC遺伝子 の 変異やLOH (loss of heterozygosity)は、散発性の大腸癌においても広〈認められ て い る。 し た がっ て 、APC遺 伝 子は 、大腸 癌全般め 発生に関 わる癌抑 制遺伝子 と し て位 置 づ けら れ る。 さ ら に、At)c遺 伝子がマ ッピング されたヒ ト染色体 5q21の 領 域は 、 大腸 ボ ル ープ か ら 進行した 大腸癌ま で広くLOHが 認められ る。

この ことから 、APC遺伝子 の変異は 、Vogelsteinらが提 唱した大腸癌の多段階発 癌 モ デルの 、最も早 期に起こ るものと考 えられて いる。本 研究では 、腸管に お け る 腫瘍 発 生 機序 の 解析 を 目 的と して 、マウスAPC遺伝子の ジ,ンタ ーゲテイ ングを行なった。

  APC遺伝 子は15個の エクソン から構成 され、15番 目の最終エク ソンが全体の 3/4の 領域 を 占 め、 約2840残基 の ア ミノ酸から なる蛋白 をコード している 。最 初 に 、APC遺 伝 子 の エ ク ソ ン1か ら14ま で の 領 域 で、 転 写 産物 で あるmRNAの 解 析 をRT‑ PCRに よっ て 行 なっ た 。 その結果、 エクソン7とェクソ ン9の一部 の 双 方 、また はぃずれ か‐方を 選択的にス プライシ ングする ことによ って欠損 す るmRNAが 検出 さ れた 。 エ クソ ン7は 、他の領 域に比ぺ てヒトと マウスで の相同 性 が 低く 、 ア ミノ 酸 配列 か ら 推測 さ れる 様 々 な機 能 領域 に 含 まれ ないため 、 APC蛋 白の 構 造 領域 と 考え ら れ た。 また、 別のエク ソンも選 択的スブ ライシン グを 受ける可 能性が示 唆された。したがって、ジーンターゲテイングによって、

確実に遺伝千の!甌写を終1ヒさせるため、工クソン15のN.宋側にある716冊コドン

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を タ ー ゲ テイ ング 部 位と した 。こ れは 、エ クソ ン15が最 終工 ク. ソン であ る ため 、 選 択 的 ス ブ ラ イ シ ン グ を 受 け な い か ら で あ る 。716番 コ ド ン は 、FAPで 報 告 さ れ ている変異領域に含まれる。

  胚 性 幹 細 胞 に お い て 、APC遺 伝 子 で の 相 同 組 み 換 え を 起 こ さ せ る た め に 、 置 き 換 え 型 の タ ー ゲ テ イ ン グ ベ ク タ ー を 作 製 し た 。 ベ ク タ ー の 相 同 領 域 に は 胚 性 幹 細 胞 と 同 一 系 統 マ ウ ス で あ る129/Sv由 来 の ゲ ノ ムDNAを 用 い た 。 こ れ に よ り 、 高 い 効 率 (4.5% ) で相 同組 み換 え体 が得 られ た。 相同 組み 換え 胚性 幹細 胞 から 作 出 し たAPC遺 伝 子 夕 ー ゲ テ イ ン グ (APCd7Jっ マ ウ ス で は 、 変 異APくZ染色 体 が生 殖 系 列 に 入 り 、 メ ン デ ル 遺 伝 の 法 則 に 従 っ て 子 孫 に 伝 達 さ れ た 。 ヘ テ 口 接 合 体 (apcl十 ) マ ウ ス は 正 常 に 発 生 し て 産 ま れ 、 生 後3〜5週 齢 か ら 腸 管 全 体 に 多 発 性 に ボ リ ー プ を 発 現 し た 。 ヘ テ 口 接 合 体(apc/+)マ ウ ス 同 士 の 交 配 の 結 果 、 ほ と ん ど の ホ モ 接 合 体(apcl apcマ ウ ス は 胎 齢8.5日 以 前 に 致 死 し た 。 致死 するI段階 が 器 官 形 成 期 以 前 で あ っ た の で 、 死 因 と し て は 、 組 織 の 機 能 不 全 で は な く 、 細 胞 レベルでの生存能力欠失が考えられた。

  APC゜mマ ウ ス をC57BL/6J(B6) に 戻 し 交 配 す る 過 程 で 、 症 状 に 変 化 が 認 め ら れ た 。 キ メ ラ マ ウ ス とF1マ ウ ス は 、 生 後26週 齢 ま で 症 状 を 示 さ ず 生 存 し た が 、 B6に2回 戻 し 交 配 し たN2マ ウ ス は 、16週 齢 か ら 重 度 の 貧 血 症 状 を 示 し て 衰 弱 し 始 め 、26週 齢 ま で に80% が 死 亡 し た 。 剖 検 の 結 果 、 小 腸 に は 遺 伝 的 背 景 に 関 係 な く 、 多 発 性 ボ ル ー ブ を 発 生 し て い た が 、 結 腸 の ポ リ ー プ は 死 亡 し たN2マ ウ ス の み に 認 め ら れ た 。 結 腸 に 発 生 し た ボ ル ー ブ は 、 発 生 率 は 腸 管 全 体 の ポ リ ー ブ の2% と 少 な か っ た が 、 ポ リ ー ブ の 直 径 が1〜7mmと 大 き か っ た 。 こ の た め 腸 管 内 容 物 の 通 過 に 伴 う 、 持 続 的 な 出 血 が ボ リ ー ブ に 生 じ 、 こ れ が 貧 血 の 原 因 と考えられた。

  化 学 発 癌 剤 に よ っ て 、APC遺 伝 子 の850番 コ ド ン に 終 止 変 異 の 人 っ た ^ むD

(multipIcintcstinaIneoplasia)マ ウス での 研 究か ら、APC遺伝 子変 異に 起 因す る ボリーブ発生の頻度を軽減する、^′′0nl.I(modi【ierofmin.L)遺伝子の存在が報告 さ れ て い る 。 し か し 、N2マ ウ ス のM。m゜I座 位 の 遺 伝 型 を 検 索 し て も 、 症 状 と の     t

相 関 は 認 め ら れ な か っ た 。 し た が っ て 、129/svに は 優 性 に 結 腸 の ボ リ ー ブ の 発 生を抑えるMDm.! 以外の遺伝子の存在が示唆された。

症 状 を ポ したAPC m.ー 、′ ウス の病 理学 的検 索の 結栄 、全 ての 腸侍 腫癌 は 良性 の 無 茎 性 乳 頭 ボ リ ー ブ で あ り 、 悪 性 腫 瘍 は 認 め ら れ な か っ た 。 大 腸 癌 の 多 段 階 発

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癌モ デルでは 、良性の腫瘍にK‑rasヽp53、DCCなどの癌遺伝子や癌抑制遺伝子に 変異 が入ると 癌腫へ進 行すると されてい る。したがって、腸癌発生機序の解析 は、これらの遺伝子の変異マウスを作出して、A PC'1 716マウスと交配させること により、可能となるであろう。

  APCd lJ6マウスのボリーブは、雌で3週齢から、雄で5週齢から発生し始め、そ の後 、加齢と ともに新しいボリーブが出現し続け、16週齢では多い個体で300個 以上 に達した 。また、直径0.5mm以下の小さなポリープが、検索したいずれの週 齢においても観察され、ポリーブ発生に確率論的(stochastic)な機序が示唆され     ,  丶

た。

  小腸ポリーブの初期のものと考えられる微小腺腫は、嚢胞状で、正常上皮に被

´われて絨毛内側に存在していた。この腺腫細胞は腸陰窩と連続しており、上皮 細胞層が陰窩の増殖帯で反転し、隣接する絨毛の粘膜固有層内で増殖していた。

小腸の微小腺腫を被覆する正常上皮を注意深く剥離し、腺腫細胞のみを回収し、

染色 体特異的PCRにてAPC遺伝 型を解析 した結果 、全ての 微小腺腫に 変異APC染 色体 は存在し ていたが 、正常APC染 色体はLOHにより欠損を起していた。結腸に おぃ ても異常 な分岐と 異型性を 示す陰窩 が観察さ れ、小腸と 同様に正 常APC染 色体 のLOHが検出 された。Knudsonの2ヒット 説による と、癌抑 制遺伝子は双方 の対 立染色体 でLOHや変異 が入ると 腫瘍が形成される。一方、FAP患者では、生 殖系 列でAPC遺伝 子上の変 異の入っ た部位が 、腸管に 発生するポ リープ数と相 関す るとの報 告がある 。したが って、ポ リーブ形成に関して、変異‑APC蛋白に よるドミナントネガテイブの機序が示唆されている。しかし、今回の結果では、

正常APC染色体のLOHがポルー ブ形成に 関与して おり、APC遺 伝子の場合も、他 の 癌 抑制 遺 伝 子と 同 様にKnudsonの2ヒット説 によって 説明され ることが 明ら かとなった。

  小腸 陰窩の細 胞は、分 裂を繰り 返して絨毛へと移動するが、械毛上皮からの TGF.pな どの増殖 抑制因子 の刺激を 受けると、分裂が止まり分化すると考えら れている。今回の実験では、正常APC遺f云・予のLOHによって、粘膜固有層側で増 殖す る腺腫細 胞自身に 腫瘍原性 が生じた のではなく、TGF‑ロなどの増殖抑制因 fからの位i霞rrな逸脱により分裂増埴を繰り返すとぃうボルーブ発′ト.職序が考 えち れた。結 腸におけ る細胞周 期の制御 因子は未だ明らかにされていない。し か し 、今 回 作 出し た 結腸ポ ループで は、APC遺伝 子のLOHによ って陰窩 が異常

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に分岐していたことから、結腸ポリーブも小腸と同様の機序で発生したことが 考えられた。

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学位論文審査の要旨

主査    教授    板 倉智敏    副査    教 授    佐藤 文昭 副査    教授    斉 藤昌之    副査    教 授    渡邊 智正

学 位 論 文 題 名

APC 遺伝子ターゲテイングマウスの作出と 腸管腫瘍発生機序に関する分子病理学的研究

  Adenomatous poliposis coli (APC)遺伝子は大腸癌発生に関与する癌抑制遺伝子として 単離 さ れ た .申 請 者はジ ーンター ゲティ ングの手 法を用 いて,APC遺伝f変異 マウス を 作 出 レ , 腸 管 腫 瘍 の 発 生 機 序 を 分 子 病 理 学 的 に解 析 し ,本 論 文 をま と め た,

  本論文 では,APC遺伝 子の第716番ア ミノ酸の 直後に終 止変異 を導人し ,C末側欠損 型の変 異APC蛋 白を発 現するAPC4 716マウスを 作出した.ホモ接合体マウスは胎齢8.5 日以前 に致死し た.ヘ テロ接合 体マウス は腸管 全体に多発性のポリープを発生し,そ のほと んどは小 腸で認 められた .APC4 716マウ スは129/SvとC57BL/6Jとのマウス系統 間の遺 伝的背景 の違い によって ,結腸で のポリ ープ発生頻度に変化が生じ,129/Svに は 優 性 に 結 腸 の ポ リ ー プ の 発 生 を 抑 え る 遺 伝 子 の 存 在 が 示 唆 さ れ た .   APC4 716マウス に発生 するポリ ープ数 は,加齢 とともに増加し,確率論的なポリー プ発生 機序が示 唆され た,小腸での早期の病変である微小腺腫は嚢胞状で,iE常1|皮 に被わ れて絨毛 内側に 存在して いた,こ の腺腫 細胞は腸陰窩に由来し,陰窩の細胞層 が反転 して,隣 接する 絨毛の粘 膜固有層 内で増 殖していた.腺腫細胞から抽出した染 色 体DNAの 解 析 の 結 果 , 全 て の 微 小 腺 腫 で , 正 常APC染 色 体 のへ テ 口 接合 体 欠 失

(Loss of heterozygosity: LOH)が認められた,結腸においても異常な分岐を示して異 型 性 を 伴 う 陰 窩 が 観 察 さ れ , 小 腸 と 同 様 に 正 常APC染 色体 のLOHが 観 察さ れ た .   以 上 の よう に , 申請者は ,APC遺伝子のLOHと, それに 伴う腸陰 簡の細 胞動態の 変 化が, 腸管腫瘍 発生の 原因であ ることを 初めて 明らかにした,この成果は大腸癌の病 態究明 に大きく 貢献す る.よっ て,審査 員一同 は,大島 正伸氏 が博ヤf獣医学)の学 位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた.

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