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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 生 命 科 学 ) 村 田 知 慧

    学位論文題名

Study on the evolution of the sex chromosomes and the SRY gene in the Okinawa splnyrat,7bカ 勿C励 励 絖 勿 ¢ 髭 刀 励カZ

(オキナワトゲネズミにおける性染色体とS.足y遺伝子の進化に関する研究)

学位論文内容の要旨

  私 達 ヒ トを 含 め 、 哺 乳 類 はXX/XY型 の性 染 色 体 を も ち 、SRY遺 伝 子に よ る 性 決 定 機 構 を 約1億8000万 年 前 か ら 維 持 し て き た 。X染 色体 とY染 色 体 はもともと一対の常染色体であったが、性決定遺伝子を獲得したY染色体は、

X染色体 との 組換 えを 抑制さ れ、 有害 な突然 変異 の蓄積と欠失を繰り返し、

X染 色 体と は大 きく 異なる 姿と なっ た。進 化の 過程 で、Y染 色体 に存在 して いた 遺伝 子の多 くは 失われたが、一方で残された遺伝子の多くは、オスにと って 重要 な機能 を獲 得し た。Y染 色体 は、こ のま ま遺伝子を失い続けて消失 する のか 、それ とも 強い 選択 圧を受 けて 生き 残る のか、Y染色体の運命につ いて は議 論の最 中で ある 。そ こで、 私は 哺乳 類のY染色体進化について新た な知 見を 得るた めに 、ト ゲネ ズミ属3種に注 目し た。アマミトゲネズミとト ク ノ シ マ トゲ ネ ズ ミ の 染 色 体 数 は 、 それ ぞ れ25本 と45本 で あ り 、 両種 は XO/XO型 の 性 染 色 体 構 成 を も ち 、Y染 色 体 だ け で な くSRY遺 伝子 を 消 失 し た極 めて めずら しい 哺乳類である。一方、オキナワトゲネズミの染色体数は 44本 で あ り、 本 種 はXX/XY型 の 性 染 色 体を もつ 。本研 究で は、 トゲネ ズミ 属 のY染色 体の 進化 過程を 解明 する ために 、ト ゲネ ズミ 属で唯 一Y染色 体を 保 持 す る オキ ナ ワ ト ゲ ネ ズ ミ の 性 染 色体 とSRY遺伝子 の特 徴を 明らか にす るこ とを 目的と した 。オ キナ ワトゲ ネズ ミは トゲ ネズミ3種の中で、特に深 刻 な 絶 減の危 機に 瀕し てお り、サ ンプ ルの 入手 が非常 に困 難で あった が、

2008〜2010年 に約30年 ぶり に生息 個体 が捕 獲さ れ、分 子系 統学 的、分 子細 胞遺伝学的解析が可能となった。

  第1章 では 、3種 の 系 統 関 係 の 解 明 韜よ び 、 オ キ ナ ワ ト ゲ ネ ズ ミ のX、Y 染色体の同定、エSRY遺伝子の検出を行った。まず、オキナワトゲネズミの系 統学 的位 置を明 らか にす るた めにト ゲネ ズミ 属3種を用いた分子系統解析を 行った。その結果、ネズミ亜科において3種の単系統が高い信頼性で示され、

さ ら に3種の う ち オ キ ナ ワ ト グ ネ ズ ミ が先 に分 岐した こと が明 らかに なっ た。 次に オキナ ワト ゲネ ズミ のXおよ びY染色 体を 同定するために、G‐およ ぴC‑分染 法を行 った 結果、最も大きく、メタセントリック型で、動原体付近 に 大 き なへテ ロク ロマ チン をもっ もの がX染色 体と 同定 された 。ま た、4番 目に 大き く、メ タセ ントリック型で、長腕全体がへテロクロマチンに覆われ てい るも のがY染 色体 である こと がわ かった 。さ らに、一般的な哺乳類に比 べ て 、 オキナ ワト ゲネ ズミ のXおよ びY染色 体は 非常に 大型 であ ること が示

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さ れ た。一 方、 ^SRY遺 伝子 を検 出する ため にPCRお よび サザ ンブロ ット 解 析 を行 った結 果、 オキ ナワ トゲネ ズミ のオ スがSRY遺伝子を複数コピーもつ こ と が明ら かと なり 、FISH解析 によ り染 色体 上の位 置を 決定 したと ころ 、

^9RY配列 はY染色体の長腕全体に分布することがわかった。さらに、シーケ ン ス 解析の 結果 、本 種は 少なく とも24種 類の ^9RY配 列をも ち、 その うち3 配 列 の み が 完 全 なORFを 保 存 し て い るこ とが 明らか にな った 。しか しな が ら 、SRYの 機 能 に 重 要 ぬDNA結 合 ド メ イ ン で あ るHMG‑box内 に 、 オ キ ナ ワ トゲ ネズミ 特異的なアラニンからセリンへの置換が観察された。この置換 は 、本 種の全 配列 に共 通し てみら れ、 重複 前のSRY配列に生じた置換である ことが示唆された。以上の結果から、Y染色体とェ9RY遺伝子の消失は、XO/XO| 型 トゲ ネズミ2種の共 通祖 先に 起き たこと がわ かり、一方のオキナワトゲネ ズ ミ は 一 般 的 なXX/XY型 の 性 染 色 体 構 成 を も っ に もか か わ ら ず 、 そ のY染 色 体 と ^SRY遺 伝 子 は 、 独 自 の 進 化 を 遂 げ て い る こ と が 示 さ れ た 。   第2章で は、 オキナ ワト ゲネ ズミ の性染 色体 の特徴をより詳細に明らかに し た。 まず、 オキナワトゲネズミの性染色体が大型化した要因を明らかにす る た め にZoo‑FISH解 析を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 マ ウス の11番 お よ ぴ16番 染 色 体 と相同 であ る一 対の 常染色 体が 、オ キナ ワトゲ ネズ ミのXお よびY染 色 体 に 転座し たこ とが 明ら かとな った 。ま た、 マウス の11番染 色体に 連鎖 す る 遺 伝 子 とX連 鎖 遺 伝 子 のcDNAク ロ ー ン を 用 い てFISH解 析 を 行 っ た 結 果 、 オキナ ワト ゲネ ズミ の祖先X染色体 領域 とX染色 体に 転座 した常 染色 体 領 域は それぞ れ他のネズミ類と遺伝子オーダーが一致し、構造変化はみられ な か った。 しか しな がら 、性分 化関 連遺 伝子 のひと っで あるCBX2が 、性 染 色 体に 転座し た一対の常染色体上だけでなく、他の常染色体にも存在し、重 複 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。XO/XO型 ト ゲ ネ ズ ミ2種 に お い て も CBX2は ニ 対 の 常 染 色 体に 存 在 し て いる こと が知 られ ており 、3種の 共通 祖 先 にお いて重 複し たこ とが 示唆さ れた 。ま た、CGH解析により、オキナワト ゲ ネズ ミにお いて 性特 異的 な領域 は検 出さ れなかったが、本種のY連鎖遺伝 子 のcDNAク ロ ー ン を 用 い たFISH解 析 に よ り、 転 座 す る 以 前 の 祖 先Y染 色 体 の ユーク ロマ チン 領域 が短腕 の動 原体 付近 に保持 され てい ること が示 唆 された。

  第3章で は、 オキナワトゲネズミのェ9RY遺伝子の機能性の予測を試みた。

マ ウ ス のSRYはNR5A1と 協 同 で 、Sox9遺 伝 子 の 精 巣 特 異 的 エ ン ハ ン サ ー 領域(TES)に結合し、その転写を活性化することが知られている。そこで、

オ キ ナワト ゲネ ズミ 特異 的なア ミノ 酸置 換に よる転 写活 性能 への影 響を 確 認 す る た め に 、 マ ウ ス のSRY、SRYA24S(1アミ ノ 酸 置 換 を 加 え たSRY)、 NR5A1、 | %xウ プ ロ モー タ ー お よ びTESCO配 列を用 いたco ̄transfection a88ayを 行 っ た 。 そ の結 果 、SRYとSRYA24sど ちらを 用い た場 合も、 両者 は 同 程度 の高い 転写活性能を示し、アミノ酸置換による転写活性能への影響は 観 察 さ れ な か っ た 。 次 に 、TESコ ア 配 列 (TESCO) 内 のSRY結 合 配 列 の 保 存 性 を 確 認 し た 結 果 、 マ ウ ス に 存 在 す る3つのSRY結 合 配 列 の う ち2配 列 が オキ ナワト ゲネズミにおいて保存されていなぃことがわかった。オキナワ ト ゲ ネ ズ ミ に お い てSRYがTESCOの 活 性 化 を介 し て 、SDxタ の 発 現 を 調 飾 し て い る か を 明 ら か に す る た め に は 、 さ ら な る 解 析 が 必 要 と さ れ た 。   本研 究では 、オキナワトゲネズミに韜いて、性染色体と一対の常染色体の 転座および、.衄y遺伝子の重複という独自の進化が起きたことを明らかにし

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(3)

た。このことから、Y染色体の進化に大きな影響を与えるイベントが、トゲ ネズミ3種の共通祖先において生じ、その後、ニ系統において、消失と存続 というY染色体の運命が大きく二分されたことが示唆された。このように、

本研究により、トゲネズミ属のY染色体進化に新たな仮説が立てられた。

‑ 1468

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学位論文審査の要旨

主 査   准 教 授   黒 岩 麻 里 副 査   教 授   高 橋 孝 行 副 査   教 授   山 下 正 兼 副 査   准 教 授   瀧 谷 重 治

    学 位 論 文 題 名

Study on the evolution of the sex chromosomes and the SRY gene in the Okinawa splnyrat7bカ 勿Cな 励0銘 銘 ¢ 銘 銘 励 カ ¢

( オ キ ナ ワ ト ゲ ネ ズ ミ に お け る 性 染 色 体 と 、SRy遺 伝 子 の 進 化 に 関 す る 研 究 )

  哺 乳類 はXX/XY型の 性染 色体 を もち 、Y染色 体上のSRY遺伝子によ る性決定機構を維 持 してきた。しかしながら、例外的にトゲネズミ属には、Y染色体とェ9RY遺伝子を消失 し た種が存在している。近年、トゲネズミ属の性染色体進化に関する研究が盛んに行われ て い るが 、そ のほ とん どはY染 色 体とSRY遺伝 子を消失させたトゲネズミ2種(アマミ ト ゲネズミとトクノシマトゲネズミ)における性染色体進化の解明を目的としている。そ の ため、消失以前のトゲネズミ祖先のY染色体とェSRY遺伝子の特徴については、ほとん ど 明 ら か に な っ て お ら ず 、 今 後 の 発 展 が 待 た れ て い る 状 況 に あ る 。   本論文は,このような現況にあるトゲネズミ属の性染色体の進化研究について,唯一Y 染 色体を保持するオキナワトゲネズミを用いて,本種のY染色体と.9RY遺伝子の特徴を 分 子細胞遺伝学的に研究し、消失前のトゲネズミ祖先のY染色体とェ9RY遺伝子の構造を 明 らかにし、トゲネズミ属のY染色体進化過程をより詳細に解明することを目的としたも のである。本論文では、未解明であったトゲネズミ属3種における分子系統解析を行った。

そ の結果、ネズミ亜科内におけるトゲネズミ3種の単系統が高い信頼性で示され、さらに 3種のうちオキナワトゲネズミが最初に分岐したことが明らかになった。次に、オキナワ ト ゲ ネズ ミのXお よびY染色 体を 同定 し、 両者 は祖 先Xお よびY染色 体領 域を保持する 一 方で、一対の常染色体が転座したことにより、大型化していることを明らかにした。ま た 、本論文により、通常は単一遺伝子であるェ9RY遺伝子が、オキナワトゲネズミにおい て、マルチコピー化しており、Y染色体の長腕に広く分布していることが明らかになった。

完 全なORFをもつ機能配列が確 認されたものの、全コピーに共通してェ9RY遺伝子の機能 に 重 要なDNA結合 ドメ イン であ るHMG‑box内に 、オ キナ ワト ゲ ネズ ミ特 異的なアミノ 酸 置換が観察され、DNA結合能 や転写活性能への影響が示唆された。さらに、.9RY遺伝 子 の 標的 であ るSox9遺 伝子 上流 のSRY結合 サイトを比較ゲノム学的 に解析した結果、

SRY遺伝子の機能性に問題がある可能性が示唆された。

  本研究によって、オキナワトゲネズミのY染色体と.9RY遺伝子が独自の進化を遂げた こ とが明らかになった。このことから、トゲネズミ3種の共通祖先において、Y染色体と SRY遺伝子の独自の進化を促す重大なイベントが起きたことが示された。トゲネズミ属は 国 の天然記念物であるため、研究材料として自由な入手は望めない。行なえる実験系に限 り がある状況下で、着実に結果を積み重ね、哺乳類のY染色体進化研究に新たな知見をも たらした本論文は、大変高く評価できる。

  よって著者は、北海道大学博士(生命科学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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