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幼児の文の読解に及ぼす絵の効果

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児の文の読解に及ぼす絵の効果

著者 今井 靖親

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 20

ページ 47‑57

発行年 1984‑03‑23

その他のタイトル Effect of Pictures on Reading Sentences in Young Children

URL http://hdl.handle.net/10105/6565

(2)

幼児の文の読解に及ぼす絵の効果‡

今 井 靖 親榊

 (心理学教室)

 幼児が文字の読みを学習したり、読み聞かされた文章の内容を理解する際に、絵を対提示する ことが、いかなる効果を持っているかについて、従来、さまざまな実験が行われてきた。

 Samuels(1967)は、(1〕単語だけが書かれたカードを提示する群、(2〕単語及びその内容を表わ す線画が描かれたカードを提示する群、13〕単語及びその内容を表わす絵・他の事物の絵が彩色さ れて描かれた力一ドを提示する群の3群の幼児に、単語の読みを学習させた。その結果、ωの成 績が最もよく、12〕、制の間には差が見られなかっナ.。わが国においては、杉村(ユ974)がSamu−

eIs(1967)と同様の手続きで、片仮名と漢字の単語を用いて、それらの読字学習に及ぼす絵の効 果を調べた結果、やはり、絵が与えられない群は、絵が与えられた郡よりも、有意に成績がよか

った。このように、読字学習においては、絵を提示することによって、かえって学習が妨害され る、という幾つかの報告があるが、今井(1979)は、漢字と片仮名の読字学習を行う際の、絵の 同時提示と継時提示とを比較し、継時提示を行った群が、同時提示を行った郡よりも、有意に成 績がよい、という結果を得た。

 一方、Rusted and Coltheart(1979)は、記憶研究の分野で、幼児の散文の理解に絵は効果を 持つか否かを検討した。その結果、被験者の読字力水準の高低にかかわらず、絵を与えられた群 が有意によい成績をおさめることが明らかにされた。さらに、佐藤(1980)は、3歳から6歳ま での幼児に絵本を読み聞かせ、その際に、具体的挿絵の提示、抽象的挿絵の提示、挿絵の提示な

し、の3条件のうち、どれが有効かを検討した。その結果、3歳児では挿絵なし条件が最も成績 がよかったが、4歳児、5歳児、6歳児では、いずれも具体的挿絵のある場合の方が、挿絵のな い場合よりも理解度が高かった。

 ところで、国立国語研究所(1972)は、3歳児から5歳児を対象に、読字力水準をA〜Hの8 段階に分けて、文章の読みの調査を行った。その結果、読みの水準の高い者ほど文の内容をよく 理解していた。先に述べたように、Rusted and Co1theart(1979)の実験では、読字力水準によ る差はなかったが、彼らの実験では、被験者の年齢が高く(平均9歳11か月)、読字力水準の設 定は、「読手カ年令」(Readi㎎age)が1i歳5か月と8歳4か月の者についての比較という形 でなされたものである。もしも、軍立国語研究所(1町2)の実験のように、低年齢の被験者を用

‡ Ef邊㏄t of Pictures on Reading Sentences in Young Chi亘dren

榊Yasuchika Imai(Department of PsychoIogy,Nara Uhiversity of Education,

 Nara,Japan)

一47

(3)

いて、読手カ水準も、平仮名が完全に読める者と、不完全にしか読めない者の比較、という形で 行われたならば、当然、文の内容理解にも差が生じたと思われる。ただし、国立国語研究所

(1972)の実験においては、文の内容理解の査定は、幼児が与えられた文を読んで、そこに書か れた指示どおりに行動できるか否かを尺度としてなされている。幼児の場合には、たとえ文の内 容が理解できたとしても、行動がそのとおりに実行できない者もいると思われるので、この査定 方法には問題がある。内容に関する簡単な質疑応答の形をとって、より正確な理解度を査定すべ きであろう。また、佐藤(1980)め実験においては、長い文章の読み聞かぜに対する絵の提示効 果を調べているが、この場合、被験者自身は、視覚的には絵を見ることに集中するだけで、文字 を読まなくてよいのであるから、絵が効果を持つのは当然であると思われる。3歳児において、

絵がないほうが成績がよかったのは、絵に対する注意の分散が絵本の読み聞かせによる文章の理 解を妨害したためだ、と解釈できよう。

実験 I

 日  的

 本実験においては、文と同時に絵を提示し、被験者自身が文を読む際に、絵は文の読解に有効 な手がかりとして利用されるのか、それとも、被験者の注意が文と絵に分散かれるために、文の 読解に妨害作用をもたらすのか、という問題について検討する。

 方  法

  実設計画 2×2の要因計画が用いられた。第1の要因は読字力水準(高と低)、第2の要 因は実験材料の相違(提示するカードに総有りと絵無し)である。

  被験者  橿原市と川西町の保育園年長組の幼児143名(男児76名、女児67)に読字力調査 を行い、その成績を基に選出した80名である。年齢の範囲は5歳3か月から6歳2か月であり、

年齢がほぼ等しくなるように配慮して、次の4群をつくった。ω読字力が高水準で、文と絵が描 かれたカードを提示する群(高・総有り群と略称する。以下同様)、121読字力高水準で文だけが 書かれたカードを提示する群(高・絵無し群)、13廠学力低水準で、文と絵の描かれたカードを 提示する群(低・総有り群)、14)読字力低水準で、文だけが書かれたカードを提示する群(低・

絵無し群)。4群の平均年齢は、(1〕の高・総有り群が5歳10か月、(21の高・絵無し群が5歳9か 月、13〕の低・総有り群が5歳7か月、(4〕の低・絵無し群が5歳8か月であった。

材料 11呼仮名読字力調査の材料 国立国語研究所(1972)のr調査文字カード(ひらがな)」

を利用した。このカードには、清音45文字、騒音1文字、濁音20文字、半濁音5文字、合計71文 字の他に、特殊音節文字(拗音、促音、長音、拗長音)が書かれている。

 121実験材料 17.9㎝×25.2㎝の白色の厚紙に、3㎝の茶色の厚紙の枠をつけたカードを用い た。まず、文と絵が描かれたカードには、カードの上部に1㎝×1㎝の明朝体の平仮名を用いて、

2つの文が書かれており、各文の下に、文の内容を表示する彩色画が描かれている。また、文だ けが書かれているカードには、カードの上部に、文と絵の描かれたカードと同様の文が書かれ、

(4)

力一ドの下部は空白になっている。カードはそれぞれ12枚ずつある。なお、田中(1979)の実験 によると、幼児が物語を受容する際には、文の表現形式が大きな影響を及ぼす、という結果が報 告されているので、本実験では、主語・述語・修飾語がそれぞれ1つだけの、短い文を材料とし て用いることにした。これらの文は表1に、実験材料の一部は図工に示した。

表1 実験Iに用いた文とカードに描かれた絵の内容

おおきな

ソいさな みかんが あります閧 ごが あります

大きなみかん小さなりんこ

おおきな

ソいさな いぬが います、さぎが います 大きな犬ャさなうさぎ おおきなソいさな

ももが ありますいちごが あります 大きな挑

ャさないろご きいろい とりが います

?ィい ねこが います 黄色い鳥ツい猫 みどりの とんぼが います

?ゥい ちょうちょが います 緑のとんぼヤい蝶

くろい オろい

つばめが いますにわとりが います 黒いつばめ

窒「にわとり いすのうえに

「すのしたに すずが ありますスいこが あります

いすとその上に鈴いすとその下にたいこ

いすのうえに

「すのしたに ほんが ありますヲんぴつがあります

いすとその上に本いすとその下にえんぴつ

I きのはのうタにきのはのうえに かたつオr幻が いまオ 大の重ルそのHこかたつ打わ きのはのしたに かたっむりが います

くもが います おんなのこは

おとこのこは すいかを

ぶと うを たべています たべています おんなのこは

おとこのこは

りすを

かめを もっています もっています

木の薬とその上にかたつむり 木の薬とその下にくも すいかを食べている女の干 ぶどうを食べている男の子 りすを持っている女の子 かめを持っている男の子 おんなのこは

おとこのこは ぼうしを かぶっています

かさを さしています 帽子をかぶっている女の子 傘をさしている男の子

ミ11

、、

あ み り か ま ん

すが

、、

.が

図1 実験材料の例(実験I)

49

(5)

手境き  ω 平仮名読字力調査 調査は個別に行った。まず、被験者に氏名・年齢・クラス を尋ねた後、r今から文字の書いてあるカードを見せます。知っている字があったら、何と読む のか教えてください。知らない字が出てきたら、答えなくていいですよ。」という教示を与え、順 番にカードを提示して読ませた。その結果、71文字と特殊音節文字が完全に読めた者を高水準、

40文字以上71文字以下の文字は読めるが、特殊音節文字は全く読めない者を低水準とし、各水準 から40名ずつを選び、実験に移った。

 (2〕実験 個別に行われた。まず、すべての被験者に共通に、氏名・年齢・クラスを尋ねた後、

「今からお話が書いてあるカードを見せますから、○○ちゃんは、そのお話を読んでください。

知らない字があったら、それは読まなくていいです。後で、何が書いてあったか聞きますから答 えてください。」という教示を与え、以下、各群の条件に合ったカードを提示する。被験者が読み 終わり次第、カードを伏せ、質問に移る。例えば、被験者が、「おおきなみかんがあります」rち

いさなリンゴがあります」と書かれたカードを読んだ時は、「大きいのは何でしたか」と言って、

被験者の答えを聞き、次に、「小さいのは何でしたか」といって、被験者の答えを聞いた。回答 のない場合には、20秒で打ち切って、次の質問又は次のカード提示に移った。答えが誤っている 場合でも訂正は行わなかった。このようにして、1枚のカードを終了し、同様にして12枚のカー

ドを用いて実験を行った。なお、被験者が1枚のカードを読むのに要した時間を、ストップウォ ッチで測定した。

結  果

 平仮名読字力調査 平仮名71文字では、それぞれの文字1つが正しく読めた場合に1文字と数 え、特殊音節文字では、2ユ板の特殊音節文字カードがすべて読めた場合を、完全に読めた、と判 定した。

 高・総有り群、高・絵無し群は、共に71文字と特殊音節文字が完全に読めた。低・総有り群は 平均58文字、低・絵無し群は平均59文字が読め、共に特殊音節文字は全く読めなかった。

 実験 被験者が実験者の質問に対して正しい答えをした場合に1点を与えた。ただし、被験者 の答えが厳密にカードの単語どおりではなくても、内容が正しければ、文を読解できているとみ なして正答とした。例えば、rほん」と答えるべきところをrごほん」、「とり」と答えるべきと ころをrとりさん」と答えても正答とみなした。妻2は、各群の平均正答数と標準偏差を示した ものである。

表2 各群における平均正答数と標準偏差(実験I)

平均正答数 標準偏差

高・総有り群 21.20 1,86

高・絵無し群 17.65 4.46

低・総有り群 20.75 1.97

低・絵無し群 5.84 5.84

(6)

 4群の成績についてH検定を行った結果、H=43.59(d∫=3,P<.001)で有意であった。

そこで、さらにU検定を行ってみた結果、次に示す群間に有意差が認められた。

   読字力高水準の2群と低水準の2群(2=2.92,P<.O1)。

   総有りの2群と絵無しの2群(2=5.51,p・<.OO1)。

   高・総有り群と高・絵無し群(σ=10615,P<.05)。

   高・総有り群と低・絵無し群(σ=3,0,P<.01)。

   高・絵無し群と低・総有り群(ぴ=117.5,P<.05)。

   高・絵無し群と低・絵無し群(ぴ=45.0,P<.01)。

   低・総有り群と低・絵無し群(ぴ=3.O,P<.O1)。

 以上の結果を図示したのが図2である。これより、文の読解では、読手カが高水準の者が低水 準の者よりも成績がよいが、絵を添えた力一ドを用いた場合には、読字力水準による差は見られ

ない。また、読字力水準の高・低に関係なく、総有りのほうが、絵なしよりも有意に成績がよい、

と言える。

囮総有り

[コ絵無し

20

10

0

萬群      低群 島群     低群

読手力

団2 各群の平均正答数

 次に、文を読むのに要した時間と得られた成績との相関を調べてみたところ、一以下に示すよう な結果が認められた。

   4群をこみにした場合の、所要時間と正答数(r=一〇一52、ψ土78,P<.05)。

   高・総有り群における所要時間と正答数(ドー0.29、〃=18、π.s.)。

   高・絵無し群における所要時間と正答数(r=一〇.08、ψ=18、π.s.)。

一51一

(7)

   低・総有り群における所要時間と正答数(r=一0.22、〃=18、π.5.)。

   低・絵無し群における所要時間と正答数(r亡一0,70、〃=18,P<.01)。

 すなわち、4群をこみにした場合に、所要時間と読解の成績に相関が見られ、特に、読字力低 水準の者が絵無しで文の読解を行う場合に、所要時間と読解の成績には、顕著な負の相関が認め

られた。

 萎  胎

 実験Iの結果から、読字力高水準の2群が、読字力低水準の2群に比べて、有意に成績がよい ことが見い出された。この結果は、国立国語研究所(ユ972)や神戸市立教育研究所(1973)の調 査結果を支持するものである。しかし、本実験における読字力高水準群の成績は、特殊音節文字 を含めて、平仮名が完全に読めるからといって、文の読解で、その内容を完全に理解しうるとは 限らないことを示唆している。

 ところで、首藤(1975)によれば、幼児の読みの発達は、r逐字読み」→r単語読み」→rセ ンテンス読み」の過程をたどると言われている。文の内容の把握という観点から見た場合、r逐時 読み」は、文字を1っ1つたどる読み方となるため、単語や文を読んでも、1つの意味のまとま りとしてはとらえにくい、と考えられる。また、上記のような読み方を、読みに要する時間との 関連からみた場合、個人差はあるとしても、一般に「逐字読み」は最も所要時間が長く、rセン

テンス読み」が最も短いはずである。事実、本実験において、読字力低水準の2群における文の 読み方には、rお、お、き、な、い、ち、ご、が・・・…」というような「逐字読み」が多かった。

このため、1枚のカードを読むのに、島群が平均8.7秒を要しているのに対して、低群は平均 30.5秒もかかっている。そこで、1枚のカードを読むのに要した時間と、文の読解の成績との相 関を求めてみたところ、高い負の相関が認められた。特に、読字力低水準の絵無し群では、文の 読みに要した時間と内容理解の間には、顕著な負の相関が見い出された。

 上記の結果は、幼児が与えられた文を読むのに要する時間が長いほど、文の内容理解が悪い傾 向のあることを示している。しかし、たとえ読字力水準が低い者であっても、文と共に絵が提示 されると、文を読む所要時間にかかわりなく、よい成績をおさめることが可能である。

 次に、総有りの2群の方が、絵無しの2郡よりも有意に成績がよかったが、これは、提示され た絵を手がかりとして利用することによって、文の内容理解が促進されたことを示している。こ れを各群ごとに細かく見てゆくと、高・総有り群は高・絵無し郡よりも有意に成績がよく、同様 に、低・総有り群は低・絵無し郡よりも有意に成績がよい。特に、低・絵無し群の平均正答数が 5.84であるのに対して、低・総有り群の平均正答数は20.75という高い成績を示しており、高・

絵無し郡よりも成績がよく、高・総有り群の成績と差がないほどであった。

 以上のことから、児童に文を読ませて実験したRusted and Coltheart(1979)や、幼児に文を 読み聞かせて実験した佐藤(期0)と同様に、幼児自身に文を読ませた本実験においても、絵は 文の内容理解を促進する重要な手がかりとして有効である、と結論づけることができよう。

(8)

実験 皿

 目  的

 実験Iにおいて、文を読んでその内容を理解する際に、絵に対する依存度が高いことが明らか にされた。しかし、この場合、材料として用いられた絵は、すべて文に表現された内容を具体的 に描いたものであった。そのために、各被験者が文の読解という課題遂行にあたって、実際に、

どの程度を文に頼り、また、どの程度を絵に頼っているかは、明確にとらえられなかった。そこ で、実験皿においては、文を読んで内容を理解する際の、絵に対する依存度を明らかにするため、

材料として、文と内容の異なる絵を提示することにした。その際に、全く異なった絵になるなら ば、被験者が絵を利用しない恐れがあるので、実験Iの材料Iの主語を変えた絵を用いた。

 方  法

 被験者  奈良市内の幼稚園年長児185名(男児94名、女児91名)に読字力調査を行ない、そ の成績をもとに被験者を選出した。高水準群20名、低水準群20名である。年齢の範囲は、5歳7 か月から6歳7か月であり、各群の平均年齢は、6歳0か月と6歳3か月である。

 材科 (1〕平仮名読字力調査材料 実験Iと同じr調査文字カード(ひらがな)」を用いた。

 12〕実験材料 実験Iと同形のカードを12枚用い、力一ドの上部には実験Iと同一の文が2っ書 かれ、カードの下部には、文の表示とは異なる事物の彩色画が描かれている。文と絵の内容は妻

3に、実験材料の例は図3に示す。

表3 実験nに用いた文と力一ドに描かれた絵の内容

絵 の 内 容

おおきな みかんが あります

ソいさな りんごが あります 大きなすいかャさないちご おおきな いぬが います

ソいさな うさぎが います 大きなライオンャさなねずみ おおきな ももが あります

ソいさい いちごが あります ャさい柿大きなぷどっ きいろい とりが います

?ィい ねこが います

黄色い虎 ツいきつね

みどりの とんぼが いますあかい ちょうちょが います 緑のはった

ヤいてんとう虫 ぐるい つばめが います

オろい にわとりが います 黒い象窒「熊

いすのっえに すずが ありますいすのしたに たいこが あります いすとその上にかばん

「すとその下にくつ

いすのっ又に ほんが ありますいすのしたに えんぴつが あります いすとその上に花いすとその下にコップ

きのはのうえに かたつむりが います ォのはのしたに くもが います

木の薬とその上に犠 リの薬とその下にかぶと虫 おんなのこは すいかを たべています

ィとこのこは ぶどうを たべています 號饒農搬菱の子

おんなのこは りすを もっています

ィとこのこは かめを もっています 人形を持っている女の子 {を持っている男の子 おんなのこは ぼっしを かぶっています

ィとこのこは かさを ざしている スカーフをかぶっている女の手

≠ さしている男の子

53一

(9)

いにし いつく

ま わ ろ  ま ぱ ろ

すとい すめい

り    oが

  が

図3 実験材料の例(実験皿)

 手僚き  (1呼仮名読字力調査 調査の手続きは実験Iと同じである。その結果、71文字と特 殊音節文字が完全に読めた者を島群、40文字以上7ユ文字以下の文字は読めるが、特殊音節文字は 全く読めない者を低群とし、各群20名ずつを選んだ。

 12〕実験 実験は個別に行った。まず、被験者に氏名、年齢、クラス名を尋ねた後、「今からお 話の書いてあるカードを見せますから、○○ちゃんは、そのお話を読んでください。知らない字 があったら読まなくていいです。後で何が書いてあったか聞きますから答えてください。」とい う教示を与え、カードを提示する。被験者が文を読み終わったら力一ドを伏せ、質問に移る。例 えば、被験者がrおおきなみかんがあります。ちいさなリンゴがあります」と書かれたカードを 読んだ時には、r大きいのは何でしたか」と尋ねて被験者に答えさせ、さらに、r小さいのは何 でしたか」と尋ねて、被験者の回答を求めた。その際、被験者が、「お話の方は、みかんだったけ れど、すいかの絵が描いてあった」というような回答をした場合には、「お話には何が書いてあっ たか教えてくださいね」と言った。答えがない場合には、20秒で打ち切って、次の質問または次 のカード提示に移った。答えが誤っている場合でも、訂正は行わなかった。同様にして12枚のカ ードを用いて実験を行った。

 結  果

 採点の基準は実験Iと同じである。図4に示したように、被験者の反応には、正答、誤答(絵 にもとづいて答える、何も答えない、その他)が認められれ

 まず、正答について分析を行った。妻4は各群における平均正答数と標準偏差を示したもので ある。個々の平均値を〉7丁子変換し、分散分析を行ったところ、読手カ島群は、低群よりも有 意に成績がよいことが明らかになった(F(1,38)=7,05,P<.05)。

 次に、誤答について分析を行った。誤答のうち、提示された絵を手がかりにしたために誤りと なった数を調べたところ、表5に示したような結果が得られた。個々の値を〉再変換し、分 散分析を行った結果、低群の誤りは、島群の誤りよりも有意に多いことがわかった。 (F(1、

(10)

20

1O

[コ正答

〔ZZ誤答(絵に頼って答えた)

[=コ誤答(何も答えない)

ロエロ誤答(その他)

島群   低群   読字力

 図4 実験Iにおける各群の反応の分析

表4 各群における平均正答数と標準偏差(実験皿)

読手カ島群 読字力低群

平均正答数

工0.i0  5.45

標準偏差

5.6エ

6.72

表5 給への依存による誤答の平均値と標準偏差

読字力高群 読手カ低群

平均値 4.80 11.55

標準偏差

6,65 7,07

38) = 1O.35, jP<.O1) 。

 議  論

 実験皿の結果から、読字力高群は低群に比べて、有意に成績がよいことが認められた。これは、

実験Iの結果と同様であり、読字力高水準の者が、低水準の者よりも文の読解力が高い、という 事実を示している。しかし、島群だけについて見るならば、正答数は半数にも達していない。実 験Iや国立国語研究所(1972)で明らかなように、本来、読字力が本実験の被験者程度の高水準

にある者は、文の読解力がかなり高いはずである。このことが実験皿の島群にあてはまらなかっ た原因の1つに、使用された絵の違いが考えられる。すなわち、実験Iの場合には、文の読解の 手がかりとして、文も絵も、両方利用することができた。しかし、実験皿では、提示される絵は

これを手がかりとして利用すると、かえって誤りとなるような仕方でセットされ、文の読解を妨 害する効果を持っていたと考えられる。このため、読字力はきわめて高く、文だけの提示でも、

一55一

(11)

かなりの読解力を示す島群でも、読解を妨げるような絵が同時提示されたため、混乱が生じ、正 答数が減少した、と解釈することができよう。このような結果は、使用されている個々の文字の 読みが、完全にできる者であっても、文と絵が同時に提示されている場合には、必ずしも文だけ の記述に頼って読解を行っているのではなく、絵による情報をも利用していることを示唆してい

る。

 誤答の中には、提示された絵を手がかりにして答えた、何も答えない、その他、の3種の回答 形式が認められたが、この中で、絵による誤った情報に従って答えた場合の誤答を分析した結果、

低群の方が、島群よりも、絵に対する依存度が高かった。このことから、低群は、島群に比べて 文の読解の手がかりとして、絵をより多く利用している、と言える。本実験における低群の被験 者程度の読字力では、文を読んで十分に内容を理解することは困難であるので、文と同時提示さ れている絵を利用することの比重が高まるのは当然と言えよう。

      要   約

 本研究の目的は、幼児の文の読解に及ぼす絵の効果を検討することであった。そのために2つ の実験が行われた。まず、実験Iにおいては、幼児が文を読んで、その内容を理解する時に、絵 を対提示することが、いかなる効果を持っているかについて検討した。被験者は保育園年長児で 平仮名読字力調査を行って、読字力が高水準・低水準の者、各40名を選出した。実験には、文だ け書かれたカードと、文に絵を添えたカードの2種類が用いられた。材料と読字力水準の要因に よって、被験者は次の4群に分けられた。ω読字力高・総有り群、12)読字力高・絵無し群、13〕読 字力低・総有り群、14〕読字力低・絵無し群。これらの4群に12枚のカードを提示した後、文の内 容の理解度を査定した。その結果、絵の無いカードを提示した場合には、読字力高群は低群の者

に比べて、有意によい成績を示したが、絵の有るカードを提示した場合には、読字力にかかわり なくよい成績を示した。このことから、幼児が文の読解をする際に、絵は有効な手がかりとして 用いられると言える。

 実験Iにおいては、文の内容を表わす絵を提示したので、被験者がどの程度文に依存し、どの 程度絵に依存しているかは、明確にはとらえられなかった。そこで、実験皿では、文とは異なっ

た内容を表わす絵を用いて検討した。その結果、読字力が高水準の者では、文に頼って、その内 容を理解することが多いが、同時に提示された絵の情報も利用していること、また、読字力が低 水準の者は、絵の情報への依存度がより大きいこと、が明らかにされた。

      引用文献

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(12)

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首藤久義 1975読みの学習と教育一メソッド総合の視点一日本語の表現体系と子どもの学    習・発達に即して一読書科学、19,69−85。

田中労一 1976絵本の受容に関する研究1I〕一物語絵本の文章表現の相違が幼児の反応に及ぼ    す影響について一読書科学、20,37−5]。

付 記 本論文を作成するにあたって、資料の収集と整理に柴田昌美さんのご援助を得ました。

   実験には、奈良・佐保幼稚園、成和保育園、橿原保育園の諸先生方や園児の皆さんのご協    力をいただきました。心から感謝します。

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参照

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