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絵本の選択がADHD児の読み聞かせに及ぼす効果(3) : 物語の構造が異なる2種類の絵本への反応

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1 .問題と目的

 絵本は絵と文が響きあって作り出している芸 術作品である。絵は空間的な展開で物語り、文 字は時間的展開で物語る。つまり、絵本は空間 的、時間的展開の両面から構成されている。  さて、読み聞かせは、絵本の読み手が洗練さ れた美しい日本語を読み手の声で聞き手に伝え ることのできる活動である。また、読み聞かせ は、それを実践した者だけが、子どもに与える 積極的な影響を実感できると言える。  このような絵本の読み聞かせは、今日、特別 支援学校や幼稚園、保育所などで盛んに行われ ている。それは、絵本を介して子どもたちと絵 本の世界を共有し、心を通わすことができるか らである。また、子どもたちにとって読み聞か せは優れた絵本に出会うだけでなく、子どもの 成長・発達においても重要である。  そこで、本研究では、ADHD 児を中心とし た軽度発達障害児を対象に絵本の読み聞かせ実 践を行う。特に、読み聞かせの実践場面を録画 したビデオデータを分析することによって、絵 本の選択が ADHD 児の読み聞かせに及ぼす効 果について検討する。本研究では、次の点を明 らかにすることを目的とする。それは、一場面 完結型の絵本とストーリーがある継時的な絵本 の違いが聞き手である ADHD 児にどのような 影響を与えるのか、また、このような絵本の構 成が異なる 2 つのタイプの絵本への興味は発達 的にどのように推移するのか、を明らかにする ことである。

2 .方    法

( 1 )調査対象  聞き手は A 通園教室の男子 6 人であり、被 験児でもある。各被験児の発達検査結果を始め とする諸特性は以下の通りである。なお、括弧 内の数字は発達指数を示す。 ○ A 児  性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 5 歳 8 か月である。新版 K 式発達検査では P -M は DA クリア、C-A は 3 歳 0 か月(53)、 L-S は 2 歳 3 か月(40)で、全領域 は 2 歳 8 か月(47)である。 ○ B 児  性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 5 歳 2 か月である。新版 K 式発達検査は、P- M が DA クリア、C-A は 6 歳 0 か月(116)、

絵本の選択が ADHD 児の読み聞かせに及ぼす効果( 3 )

── 物語の構造が異なる2 種類の絵本への反応 ──

近 藤 文 里・辻 元 千佳子

The Effect of Selection of Books on Picture Book Reading

for The Children with ADHD

(III)

── Comparison of Responses to Two Types of Picture Books

which Differ in Structure of Stories ──

Fumisato KONDO and Chikako TSUJIMOTO

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L-S は 4 歳 6 か月(87)であり、全領域は 5 歳 4 か月(103)である。 ○ C 児  性別は男児で、ADHD 傾向の障害がある。 CA は 6 歳 2 か月である。新版 K 式発達検査で は、P-M が 5 歳 5 か 月、DA は ク リ ア、C- A は 5 歳 5 か月(79)、L-S も 5 歳 5 か月(79) で、全領域は 5 歳 5 か月(79)である。 ○ D 児  性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 6 歳 3 か月である。新版 K 式発達検査は、P- M は DA ク リ ア、C-A は 4 歳 3 か 月(68)、 L-S は 4 歳 3 か月(68)であり、全領域 は 4 歳 3 か月(68)である。 ○ E 児  性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 4 歳11か月である。新版 K 式発達検査で P- M は DA ク リ ア、C-A は 3 歳 8 か 月(74)、 L-S は 3 歳 2 か月(64)で、全領域では 3 歳 5 か月(69)である。 ○ F 児  性別は男児で、ADHD 傾向を示す。CA 6 歳 10か月である。新版 K 式発達検査は、P-M は DA クリア、C-A は 6 歳 4 か月(93)、L- S は 5 歳 0 か月(73)、全領域は 5 歳 8 か月(84) である。 ( 2 )手続き  読み手は筆者の一人であり、小学校で長い読 み聞かせ経験がある辻元が行った。A 通園教 室で 6 回の読み聞かせを行った。 6 回の読み聞 かせのうち、本研究では 3 回を分析対象とする。 読み聞かせした絵本は、『たまごのあかちゃん』 『あかちゃんあそぼ 2  あっぷっぷ』(以下、 『あっぷっぷ』と略す)、『はじめてのぼうけん 1  ぴょーん』(以下、『ぴょーん』と略す)『も こ もこもこ』、『うずらちゃんのかくれんぼ』 (以下、『うずらちゃん』と略す)、『ないしょ ないしょ』である。  読み手と聞き手の位置関係は、聞き手は絵本 の見える範囲で扇形に椅子に座り、読み手は低 い椅子(聞き手と同じ椅子)に座って読み聞か せを行った。読み聞かせは、聞き手が全員椅子 に座った時点で始めた。  読み聞かせの様子はビデオで録画した。分析 は時間見本法により聞き手に関する行動指標に 基づいて行った。タイムサンプリングの時間単 位は15秒毎である。15秒単位で各分析カテゴ リーにおける行動指標の出現頻度を集計するが、 同一の行動指標が15秒内に複数回出現しても 「 1 」とカウントする。また、同じ15秒内に異 なる行動指標の反応が出現した場合には各々の 行動指標に該当する反応が各 1 回出現したとす る。  分析カテゴリーは、「視点」、「発話」、「動作」 の 3 項目である。また、各々の項目については 具体的な行動指標を設けた。この分析カテゴ リー「視点」、「発話」、「動作」の 3 項目に属す る行動指標は先行研究である近藤・辻元(2007) と同様である。また、個々の行動指標は結果の 部分で述べるのでここでは省略する。なお、分 析期間は、表紙から裏表紙までの間であり、こ の間に生起した行動指標の生起率を算出する。  本研究では絵本の構成の違いが読み聞かせに 及ぼす効果を検討することであった。特に、一 場面完結型の絵本であるか、ストーリーがある 連続する場面で構成された絵本であるかの違い を分析することを目的とした。絵本への反応は 個人差が考えられるので、異なる絵本にどのよ うな反応を示すのかを被験児毎に検討する。ま た、被験児に共通する特徴を抽出することで、 ADHD に共通する傾向が発達年齢との関係で あるのかどうかを検討する。  今回は 6 冊の絵本に対する反応を個人毎に検 討し、物語の構成等で異なる絵本に対する反応 を比較検討する。また、このことと併せて、絵 本の特徴(繰り返し、擬音語・擬態語など)に よって ADHD 児の行動はどのように変化する のか、についても検討する。

3 .結    果

( 1 )A 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  A 児の「視点」の分析結果について述べる。 A 児は発達年齢が 2 歳 8 か月であり、被験児 のなかでは最も低い。  「視点」に関する行動指標は、「絵本・読み手

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を見ている」、「他児を見ている」、「(担任の) 先生を見ている」、「それ以外を見ている」の 4 つである。  図 1 は、これらの行動指標について、一場面 完結型の絵本、『たまごのあかちゃん』『あっぷっ ぷ』『ぴょーん』と、ストーリーがある継時的 な絵本、『もこ もこもこ』『うずらちゃん』『な いしょ ないしょ』について「視点」に関する 行動指標毎の生起率を図示したものである。  図 1 から、「絵本・読み手(を見ている)」と いう行動指標に該当する反応は読み聞かせ過程 の全体を通じて一貫して認められる。しかし、 ストーリー展開がある絵本である『ないしょ ないしょ』では低下している。また、『ないしょ ないしょ』の読み聞かせでは「それ以外(を見 ている)」に見られるように、読み聞かせの初 めから終わりまで注意が逸れていることが認め られる。  ここで注意すべき点がある。それは絵本につ いて行動指標の生起率を合計しても100になら ず、場合によっては超過することもあることで ある。これは既に述べたように、時間見本法で は15秒間に「絵本・読み手(を見ている)」と「そ れ以外(を見ている)」がどちらも観察された 場合は、どちらの行動指標もその間に 1 回生起 したとカウントするからである。  以上の A 児の「視線」の結果で言えることは、 A 児は読み聞かせを全く聴けないということ ではないということである。確かに A 児の注 意は「他児」や「先生」や「それ以外」に向か いやすい。この傾向はストーリーがある継時的 な絵本では特に強いと言える。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  次に、A 児の「発話」に関する結果を述べる。 分析カテゴリー「発話」には 5 つの行動指標を 設けた。それは、「絵本の内容に関連した意見 表出」(「内容関連発話」と略す)」、「感情表出」、 「絵本に関係のない発話」(「無関係独話」と略 す)、「友人と絵本のことで話し合う」(「友と絵 本の話」と略す)、「友人と絵本のことでない事 で話し合う」(「友と無関係な話」と略す)であ る。  図 2 は、これらの行動指標について、一場面 完結型の絵本 3 冊と、ストーリーがある継時的 な絵本 3 冊について、「発話」に関する行動指 標の生起率を図示したものである。  図 2 から、絵本の内容に関連した発話をする 「内容関連発話」が顕著であり、特に『ぴょーん』 と『もこ もこもこ』では高い生起率であった。 前者は一場面完結型の絵本であり、後者は、ス トーリーがある継時的な絵本である。  しかし、これら 2 冊の絵本には共通するとこ ろが 3 つある。 1 つ目の共通点は、擬音語・擬 態語を用いている点である。『ぴょーん』は、 「ぴょーん」の言葉の響きが、『もこ もこもこ』 は、「もこ」とか「ぱく」とか「ぱちん」など の擬音が面白い。   2 つ目の共通点は、話の展開が繰り返しに なっているところである。『ぴょーん』の絵本は、 登場人物が登場する場面と「ぴょーん」と飛ぶ 場面の繰り返しで構成されており、登場人物が 変化することを期待して楽しむというわかりや すい展開になっている。一方、『もこ もこもこ』 図 1  A 児に関する「視点」の分析 図 2  A 児に関する「発話」の分析

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は、絵本の始まりにあった「しーん」、「もこ」 の場面が終盤にもあり、最初に戻るというよう に終わりのない展開になっている。   3 つ目は、絵が変化する点である。『ぴょーん』 では、登場人物が登場するという静止の場面か ら「ぴょーん」と飛ぶ動きに変化している。一 方、『もこ もこもこ』は、擬音語に合わせて形 や色が変化していくものになっている。  以上のように、A 児にとってはオノマトペ による言葉の響きや面白さ、繰り返し、静と動 の変化、が絵本を楽しむ要素となったと思われ る。  さて、『ないしょ ないしょ』の絵本では絵本 に無関係な発話(「無関係独話」)が顕著であっ た。このような結果は注意の転導が認められた 「視点」の結果と符合するものである。  「発話」に関する以上の分析から、A 児は一 場面完結型の絵本であるか否かにかかわらず、 楽しめる要素があれば絵本を楽しむことができ る。しかし、ストーリーがある継時的な絵本に 関しては本の内容によっては理解が難しく、注 意が転導する傾向が認められた。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  A 児の「動作」の分析結果について述べる。 分析カテゴリー「動作」の行動指標は、「感情 の身体化」、「多動傾向を示す動作」(「多動な動 作」と略す)、「対象操作を伴った行為」(「対象 操作」と略す)、「絵本の内容を理解した行動変 化」(「内容理解行動」と略す)、「絵本の内容へ の拒否、無関心を示す動作」(「拒否・無関心」 と略す)である。  図 3 は、一場面完結型の絵本 3 冊と、ストー リーがある継時的な絵本 3 冊について、「発話」 に関する行動指標の生起率を図示したものであ る。  図 3 から、どの絵本においても「多動な動作」 が顕著であることが認められる。これは、A 児の立ち歩きや足揺すりによる。多動な動作は、 そのほとんどが足揺すりによるものである。立 ち歩きは絵本を近くに見に行くことも含まれた が、登場人物の真似をする、嬉しくなって読み 手の所へ絵本を叩きに行く、などの行動が見ら れた。これらの反応は見方を変えれば「感情の 身体化」や「絵本の内容を理解した行動変化」 に分類される。  さらに、「感情の身体化」で反応の生起率が 高かった『あっぷっぷ』『ぴょーん』『もこ も こもこ』では、感情の高まりを自分で制御しき れず、行動指標の「多動な動作」も連動して高 くなった。  「感情の身体化」、「内容理解行動」のいずれ においても高頻度の反応が認められた。この理 由は、A 児は笑ったり、真似をしたり、リズ ムを取ったりしたことによる。感情の高揚をそ のまま行動に表わすこれら反応は、一場面完結 型の絵本で多く出現する傾向があった。  また、絵本の内容への「拒否、無関心」は、『な いしょ ないしょ』で見られた。この絵本はス トーリーがある絵本で、内容理解の困難さに起 因したものと思われる。行動指標として「拒否、 無関心」という名称を用いたが、字義通りに絵 本を拒否するとか絵本に無関心であったと解釈 することは妥当ではないだろう。このような行 動指標にカウントされた行動には絵本全体の流 れがつかめず、他の刺激に注意が転導した反応 が含まれる。 ( 2 )B 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  B 児の「視点」の分析結果について述べる。 B 児の発達年齢は 5 歳 4 か月で、被験児全体で は高い方に属す。図 4 は、一場面完結型の絵本 である 3 冊の絵本と、ストーリーがある継時的 な絵本、『もこ もこもこ』について、「視点」 図 3  A 児に関する「動作」の分析

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に関する行動指標の生起率を図示した。 図 4  B 児に関する「視点」の分析  図 4 から明らかなように、どの絵本において もしっかりと絵本を見ていることが認められる。 また、『たまごのあかちゃん』と『あっぷっぷ』 では、「他児」を見ているという行動指標に該 当する反応が顕著であった。  B 児の場合、「他児」以外にも「先生」、「そ れ以外」を見る傾向は一場面完結型の絵本で多 いことが認められる。これは、B 児が一場面完 結型の絵本を見て笑うよりも友達の笑う顔を見 て楽しむというものであり、内容の理解という 点では余裕がみられた。これに対して、ストー リーがある絵本では内容理解に心的資源を投入 しなければならず、「他児」や「先生」や「そ れ以外」を見る余裕がなかったと思われる。  「視点」の分析から一場面完結型の絵本は B 児の発達年齢からして易し過ぎたために絵本以 外に目をやることが多く認められたと言える。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  次は、B 児の「発話」に関する結果について 述べる。図 5 は、一場面完結型の絵本『たまご のあかちゃん』『あっぷっぷ』『ぴょーん』と、 ストーリーがある継時的な絵本『もこ もこも こ』について、「発話」に関する結果を図示し たものである。  図 5 から明らかなように、どの絵本において も、絵本の内容に関連した「内容関連発話」と 「感情表出」の反応生起率が高くなっている。『た まごのあかちゃん』では「感情表出」の生起率 は低いが、絵本の内容に関連した発話は顕著で、 絵本の内容に注意し意見を述べていたと言える。 また、それ以外の絵本でも B 児の発話に関す る結果は、絵本を楽しんでいたことが伺われる。  一方、B 児は絵本に関係のない「無関係独話」 や「友と(絵本に)無関係な話」をする反応が 生起している。このような反応は一場面完結型 の絵本に見られる傾向があった。  さらに、「友と絵本の話」をする反応も認め られたが、これは友達に登場人物に関すること で話したものである。なお、『ぴょーん』の読 み聞かせの後で、読み手に「カタツムリだけ飛 べへんねんな」と発言する姿が見られた。  B 児は、一場面完結型の絵本であるかストー リーがある継時的な絵本であるかにかかわらず、 絵本の内容を理解して発話した。しかし、絵本 と無関係な話をすることに関しては一場面完結 型の絵本で生起する傾向がある。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  B 児の「動作」に関する結果を図 6 に示した。 この図は、一場面完結型の『たまごのあかちゃ ん』『あっぷっぷ』『ぴょーん』と、ストーリー がある継時的な絵本『もこ もこもこ』について、 図 5  B 児に関する「発話」の分析 図 6  B 児に関する「動作」の分析

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B 児の反応を図示したものである。  図 6 から明らかなように、「多動な動作」、「対 象操作」を伴った行為、「感情の身体化」のい ずれにおいても顕著な反応が認められた。  まず、「感情の身体化」では、変化や動きの ある絵本である『あっぷっぷ』『ぴょーん』『も こ もこもこ』で反応生起率が高くなっている。 B 児には体全体で笑ったり、表現したりする姿 が認められた。このような体全体をつかう感情 表現は、「多動な動作」にも該当したため、多 動な動作に関しても高い生起率を示す結果と なった。  次に、「対象操作」を伴った行為に関しては、 一場面完結型の絵本で共通して高かった。この ような結果になったのは、一場面完結型の絵本 では対象操作をしていても絵本を楽しめたこと によるものであり、一場面完結型の絵本は B 児には易し過ぎた可能性が考えられる。 ( 3 )C 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  C 児の「視点」に関する結果について述べる。 C 児は B 児と同様に発達年齢が 5 歳台と高い。 図 7 は、一場面完結型の絵本 3 冊と、ストーリー がある継時的な絵本 3 冊について、「視点」に 関する生起率を図示したものである。  図 7 から明らかなように、C 児は一貫して「絵 本・読み手」を見ていることが認められる。  一方、「それ以外」を見ている反応が比較的 高いことが認められる。特に、「それ以外」を 見ているという行動指標に関しては、ストー リーがある継時的な絵本では絵本毎に生起率が 大きく異なることが明らかである。ストーリー があるこれら 3 冊の絵本では、どれも「絵本・ 読み手」を一貫して見ていることからすれば「そ れ以外」を見ているという行動指標で認められ る差異は、ストーリーの内容についての C 児 の興味を反映したものと思われる。  また、概して一場面完結型の絵本では、「先生」 を見ているや、「それ以外」を見ているに該当 する反応が少なからず認められた。これは先生 や周り子どもたちの反応を気にしていたことに よる。C 児のこれらの行動指標に関する反応は、 絵本そのものよりも周囲の子ども達の喜ぶ姿を 見て楽しむというものであった。これは結果的 には絵本からの転導であり、B 児の「視点」の 結果と類似した結果となった。  以上から、C 児は理解が容易な一場面完結型 の絵本では反って周囲の状況に転導することが 認められた。それに対して、ストーリーがある 継時的な絵本では絵本の内容への興味の差異を 反映した結果が認められた。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  次は、C 児の「発話」の結果について述べる。 図 8 には、一場面完結型の絵本 3 冊と、ストー リーがある継時的な絵本 3 冊について、発話に 関する行動指標の生起率を図示した。  図 8 から明らかなように、絵本の内容に関連 した「内容関連発話」と「感情表出」でのみ反 応が認められた。ただし、『ないしょ ないしょ』 図 7  C 児に関する「視点」の分析 図 8  C 児に関する「発話」の分析

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の絵本ではいずれの行動指標に該当する反応は 認められなかった。この原因は、A 児の多動 な行動に大きく影響を受けたためにいかなる発 話もみられず、絵本に集中し切れなかったと推 察される。  「発話」に関する結果から、発達年齢が高い C 児でも読み聞かせ環境に左右されやすいこと。 また、一場面完結型の絵本であるか否かにかか わらず絵本の内容に関連して発言したり感情表 現したりしていることが認められた。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  C 児の「動作」に関する結果について述べる。 図 9 は、一場面完結型の絵本 3 冊と、ストーリー がある継時的な絵本 3 冊について、「動作」に 関する行動指標の生起率を図示したものである。  図 9 から「多動な動作」と「対象操作」を伴っ た行為のいずれの指標でも反応生起率が高いこ とが認められる。  また、「感情の身体化」では、一場面完結型 の絵本の方が物語の展開がある継時的な絵本よ りも生起率が高いことが認められる。これは、 ストーリーがある継時的な絵本では物語の流れ に持続的な注意資源を投入しなければならない のに対して、一場面完結型の絵本では個々の場 面で出現する事象に対して感情をともなうリア クションをするだけで済むため感情表現が容易 である。したがって、一概に「感情の身体化」 が多く見られる絵本が必ずしもよい絵本とは言 えないこと。継時的な絵本で「感情の身体化」 に該当する反応が少なくなるのは、物語の流れ に持続的な注意を払わなくてはならなかったこ とによると考えられる。  「対象操作」を伴った行為に関しては、継時 的な絵本である『もこ もこもこ』と『ないしょ ないしょ』で高い反応の生起が認められた。こ れは、C 児においてはこれらの絵本の読み聞か せ時に爪かみの癖が出たことによる。しかし、 この結果は転導性というよりも、むしろ継時的 な絵本の内容を追うことに没頭した姿を反映し ている。  さらに、「多動な動作」に関しては、『うずらゃ ん』以外は高い反応の生起が認められた。C 児 が「多動な動作」で高い頻度の反応を示したの は、足をパタパタする癖や指さわりによるもの であった。一場面完結型の絵本では「感情の身 体化」に該当する反応が多く認められたが、継 時的な絵本の方は、必ずしも多くなかった。  以上から、C 児の場合は読み聞かせの環境に 影響されて注意が持続しない面があった。また、 C 児は絵本の一場面完結型の絵本は容易に理解 できる。一方、ストーリーがある絵本では話の 筋を追う努力をするものの、絵本の内容によっ て影響される側面が認められた。 ( 4 )D 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  D 児の「視点」について述べる。本児は発達 年齢は 4 歳 3 か月で、既に述べた B 児や C 児 よりも低い。図10は、一場面完結型な絵本のス トーリーがある継時的な絵本について、「視点」 図 9  C 児に関する「動作」の分析 図10 D 児に関する「視点」の分析

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に関する行動指標の生起率を図示したものであ る。  図10に示されるように、どの絵本でも「絵本・ 読み手」をしっかり見ていることが認められる。  しかし、その反面で「それ以外」を見ている という反応も高くなっている。このような結果 は、先に述べた C 児の「視点」の結果と類似 したものである。すなわち、D 児はどの絵本で も「絵本・読み手」を一貫して見ているものの、 「それ以外」に注意が転導する。この結果はス トーリーそのものの内容への興味を反映してい る。  「視点」に関する以上の結果から、D 児は読 み聞かせで絵本をしっかり見ようとしている反 面、ストーリーがある絵本では絵本の内容自体 に影響されることが認められた。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  D 児の「発話」について述べる。図11は、一 場面完結型の 3 冊の絵本と、ストーリーがある 継時的な絵本の 3 冊について、「発話」に関す る行動指標の反応生起率を図示したものである。 図11 D 児に関する「発話」の分析  図11から、D 児はこれまで紹介した被験児に 比べて絵本について発言したり、笑ったりする ことが少ない。しかし、少ないながらも『ない しょ ないしょ』を除いて、絵本の内容に関連 した発話が認める。また、「感情表出」に関し ても生起率としては低かったが『あっぷっぷ』 と『もこ もこもこ』で認められた。  「発話」に関する結果から、D 児は言語表現 や感情表現は豊かではないが、絵本の内容に興 味を示した発言をしている。ただし、そのよう な発言は一場面完結型の絵本での反応が高いが、 ストーリーがある絵本では絵本間に差が大きく なる傾向が認められる。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  D 児の「動作」に関する結果について述べる。 図12は、一場面完結型の絵本 3 冊と、ストーリー がある継時的な絵本 3 冊について、「動作」に 関する行動指標の頻度を図示したものである。 図12 D 児に関する「動作」の分析  図12から、「多動な動作」に関する反応の生 起率が高く、一場面完結型の絵本で顕著である。 すなわち、『あっぷっぷ』や『ぴょーん』では 本児の足揺すりの癖が影響した。しかし、この ような多動性は本児自身が示した足揺すりだけ でなく、他児(B 児)が持っていたおもちゃや、 他児(B 児)が絵本を叩きに行った時の立ち歩 きによっても誘発されたと思われる。  次に、「感情の身体化」に関しても、概して 一場面完結型の絵本で顕著に高くなっている。 例えば、『あっぷっぷ』の絵本は「あっぷっぷ」 の発声を繰り返すという親しみやすい絵本であ る。そのため、D 児は嬉しさの余りに親しみを 込めて絵本を叩きに行くという行動が見られた。  さらに、「対象操作」を伴った行為に関しても、 一場面完結型の絵本である『たまごのあかちゃ ん』と『ぴょーん』で生起率が高くなっている。 『たまごのあかちゃん』では他児(B 児)がお もちゃに触ることが気になるとか、本児に爪か みの癖があらわれたことによる。また、『ぴょー ん』では、鞄に注意が転導しために高くなった。  以上から、「動作」に関して、D 児は何か物 に触ったり、足を動かしたりしながら絵本の読

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み聞かせを聴いていることが多く、転導性が現 われやすい。そのことは、特に一場面完結型の 絵本の読み聞かせにおいて認められた。 ( 5 )E 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  E 児の「視点」の結果について述べる。本児 の発達年齢は 3 歳 5 か月で、A 児よりは高い が全体のなかでは低い方に位置づく。図13は、 一場面完結型の絵本『たまごのあかちゃん』 『あっぷっぷ』と、ストーリーがある継時的な 絵本『もこ もこもこ』について、「視点」に関 する行動指標の生起率を図示したものである。  図13に示したように、一場面完結型の絵本で は「絵本・読み手」を見ていたと言えるが、ス トーリーがある継時的な絵本である『もこ も こもこ』では「絵本・読み手」を見ている反応 がやや低く、途中でよそ見をしていたことを反 映している。  また、「先生」を見ている反応が『あっぷっぷ』 で示されたのは、本文中にある「わらっちゃっ た」の文の後で、自分自身も笑いながら「わらっ ちゃった」と先生に向かって発言したからであ る。これは、おそらく自分の楽しさを自分の身 近な安心できる存在である担任の先生に伝えた かったことによるものと考えられる。E 児は未 だ周りと楽しさを共有できる段階に至ってない ものの、特定の人(担任)に自分の感情を理解 してもらいたかったものと思われる。  『たまごのあかちゃん』で「それ以外」を見 ている反応が E 児に見られたのは、B 児がもっ ていたおもちゃに転導したからある。  以上の E 児の「視点」に関する主な結果では、 一場面完結型の絵本には一貫して「絵本・読み 手」を見ようとしている反面、そのような過程 で転導性も生じていることが認められる。一方、 展開がある『もこ もこもこ』では読み聞かせ 中に「絵本・読み手」を見てない行動が認めら れた。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  次は、E 児の「発話」について述べる。図14 は、「発話」に関して、一場面完結型の絵本『た まごのあかちゃん』『あっぷっぷ』と、ストーリー がある継時的な絵本『もこ もこもこ』について、 「発話」に関する行動指標の生起率を図示した ものである。  図14に示したように、絵本の「内容関連発話」 が 3 冊とも高い生起率が認められた。特に、一 場面完結型の絵本である『たまごのあかちゃん』 では高かったが、これは登場人物に対して発言 したものであり、親しみやすい動物がたくさん 登場してきたことも高い生起率につながった。  また、『あっぷっぷ』と『もこ もこもこ』で は、「内容関連発話」と同じくらい「感情表出」 に該当する反応が出現している。前者では「あっ ぷっぷ」遊びで笑い、その後で先生に向かって 「わらっちゃった」と発言している。後者は、 擬音語・擬態語の繰り返しや絵の変化を楽しん だ発言をしており、それが感情反応に結びつい た。  「発話」の結果から、E 児は絵本をしっかり 図13  E 児に関する「視点」の分析 図14 E 児に関する「発話」の分析

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見て自分が感じたことや気付いたことを発言し ていた。ただし、絵本の内容に関連した発話に 注目すると、一場面完結型の方が理解しやすく 発話しやすかったものと考えられる。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  E 児の「動作」に関する結果について述べる。 図15は、一場面完結型の絵本『たまごのあかちゃ ん』『あっぷっぷ』と、ストーリーがある継時 的な絵本『もこ もこもこ』について、「動作」 に関する行動指標の生起率を図示したものであ る。  図15から明らかなように、「多動な動作」、「感 情の身体化」のいずれの指標においても顕著な 反応が認められた。『あっぷっぷ』と『もこ も こもこ』では、いずれの行動指標でも同程度の 反応生起率となった。「感情の身体化」に関し ては、前者の絵本では体全体で笑い、絵本を叩 きに行く行為が見られた。後者の絵本では笑い つつ、体をのけ反らす行為が見られた。また、「多 動な動作」としては、足を動かす、指を触ると いう行為が持続して見られた。  これらの絵本に関した「動作」の分析では感 情の身体化に重畳する形で多動反応が認められ、 落ち着いて絵本に集中する姿とは乖離したもの となった。   一方、『たまごのあかちゃん』では「感情の 身体化」に該当する反応は認められなかった。 これは『たまごのあかちゃん』では、E 児は他 児とは違って、たまごのなかに何が隠れている のかを予想しなかったからである。E 児は登場 人物が出現した後で、その度に登場人物の名前 を発声しているというものだった。  『たまごのあかちゃん』は、登場人物が登場 するだけで、絵の変化という点では動きがない 絵本である。また、登場人物の出現を予想しな い E 児は、発声はするが感情反応をするまで には至らなかった。  さて、「対象操作」を伴った行為については、 『あっぷっぷ』で反応生起率が高かった。これは、 「あっぷっぷ」遊びを想い出し、自分でしてい るうちに顔を手で触ったことによる。  さらに、絵本の「内容理解行動」に関しては、 E 児は指差しをしたり体を乗り出したりした他 に、絵本に関係したことを体で表現したことに よる。  以上の「動作」に関する結果から、E 児は注 意の持続という点では困難を抱えるが、絵本の 構成で異なる 2 つのタイプの絵本の効果に関し ては「動作」の検討では明らかにはならなかっ た。 ( 6 )F 児の分析 ①分析カテゴリー「視点」に関して  発達年齢が 5 歳 8 か月と被験児のなかでは最 も高い F 児の「視点」の結果を述べる。図16は、 一場面完結型の絵本の 3 冊と、ストーリーがあ る継時的な絵本の 3 冊について、「視点」に関 する行動指標の生起率を図示したものである。  図16から、F 児は『たまごのあかちゃん』以 外では、しっかりと絵本を見ていることが明ら かである。しかし、一場面完結型の絵本である 『たまごのあかちゃん』の読み聞かせでは、気 図15  E 児に関する「動作」の分析 図16 F 児に関する「視点」の分析

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持ちを絵本に向かせることが困難であった。そ のことは、「それ以外」を見ているという反応 が『たまごのあかちゃん』で顕著であったこと とも符合する。このような結果は、発達年齢が 高い F 児が一場面完結型の絵本が理解できな いというよりも、むしろ内容的に易し過ぎたた めに興味を減退させた結果ではないかと考えら れる。  なお、ストーリーがある絵本の『ないしょ ないしょ』では、生起率としては高くないが「先 生」を見ている反応が認められた。これは自分 が発言した際に担任の先生に視線を向けたこと による。また、「それ以外」を見ている反応も 認められたが、これは読み聞かせの終盤で A 児の影響を受けて視線を絵本から外してしまっ たことによる。 ②分析カテゴリー「発話」に関して  次は、F 児の「発話」に関する結果について 述べる。図17は、一場面完結型の絵本の 3 冊と、 ストーリーがある継時的な絵本の 3 冊について、 「発話」に関する行動指標の生起率を図示した ものである。  図17から、絵本の内容に関連した意見表出で ある「内容関連発話」に該当する反応の生起率 は継時的な絵本で高くなる傾向が認められた。 それに対して、「感情表出」は一場面完結型の 絵本の方がやや高くなる傾向がある。  また、絵本に関係のない発話である「無関係 独話」に該当する反応が一場面完結型の絵本で 認められた。これは絵本自体が F 児にとって 易し過ぎたことによると思われる。  「発話」に関する結果から、F 児はストーリー のある継時的な絵本では内容を追いながら理解 し、絵本の内容に関係した発言をしていること が示された。一方、一場面完結型の絵本では本 児の発達年齢からして易し過ぎたことが絵本と 無関係な独り言を誘発する結果となったと考え られる。 ③分析カテゴリー「動作」に関して  F 児の「動作」に関する結果ついて述べる。 図18は、一場面完結型の絵本の 3 冊と、ストー リーがある継時的な絵本の 3 冊について F 児 の「動作」に関する行動指標の反応生起率を図 示したものである。  図18から、「多動な動作」に該当する反応の 生起率が比較的高いことが認められる。これは 集中力が持続しないために生じたものである。  また、「対象操作」を伴った行為も比較的高 い生起率を示しているが、これも集中力が持続 しなかったことの反映と考えられる。  さらに、絵本の内容への「拒否・無関心」を 示す行動に該当する反応の生起率が一場面完結 型の絵本である『たまごのあかちゃん』と『あっ ぷっぷ』で高かった。これは、「発話」の分析 で無関係な独話がこの 2 つの絵本で多かったこ こに符合するものである。  次に、「感情の身体化」に関しては、絵本ご とに反応生起率に差が認められた。特に反応生 起率が高かったのは、『あっぷっぷ』、『うずら ちゃん』、『ないしょ ないしょ』である。この 図17 F 児に関する「発話」の分析 図18 F 児に関する「動作」の分析

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3 冊は、繰り返しの要素をもつ他に、次のよう な要素がある。それは、「あっぷっぷ」などの 擬声音をともなった遊びであること。また、 「じゃんけん」という遊びや、「かくれんぼ」の 仕掛けの絵や、内緒話という要素があること。 さらに共通していることは何よりもリズムがあ ること、である。これらの要素は F 児にとっ て絵本を楽しめる要素となったと思われる。  ところで、絵本の内容を理解した行動である 「内容理解行動」は、ストーリーがある継時的 な絵本で認められた。また、「感情の身体化」 に関しても概して継時的な絵本でより多く認め られる傾向があった。  以上の「動作」に関する結果から、F 児は注 意の持続には困難さをもっているが、絵本の内 容を理解したり身体で感情表現したりする点で はストーリーがある継時的な絵本でそのような 行動がより多く見られたと言えよう。

4 .考    察

   本研究の目的であった一場面完結型の絵本と ストーリーがある継時的な絵本の比較では、必 ずしも一場面完結型の方が注意を集中するとは 必ずしも言えなかった。絵本に楽しめる要素が あれば一場面完結型の絵本であってもストー リーがある継時的な絵本であっても楽しむこと ができる。このことは対象とした被験児全員に ついて言えることである。   ま た、 本 研 究 で 明 ら か に な っ た こ と は、 ADHD 児は読み聞かせの環境に容易に影響さ れるものの、全く聴いていないのではないとい うことである。つまり、彼らの注意は局外刺激 に転導されやすいという弱さをもちながらも絵 本の読み聞かせに積極的に参加しようとしてい ることが明らかになった。    次に、各被験者がより楽しめる絵本は何かと いう視点から、絵本のタイプ別に比較してみる ことにする。つまり、一場面完結型の絵本の方 が楽しめる聞き手と、ストーリーがある継時的 な絵本の方が楽しめる聞き手、さらにはある構 造の絵本から異なる構造をした絵本への移行期 にあると思われる聞き手、に分けるとすれば次 のような傾向があった。  まず、発達年齢が 2 歳 8 か月の A 児は絵本 に楽しめる要素があれば一場面完結型の絵本で も継時的な絵本に関係なく楽しむことができた。 しかし、絵本に楽しめる要素が含まれていなけ れば継時的な絵本の内容理解は困難であった。 したがって、A 児は概して一場面完結型の絵 本の方がより楽しめる段階にあると考える。  次に、発達年齢が 5 歳 4 か月と高い B 児は、 一場面完結型の絵本もストーリーがある継時的 な絵本も絵本の内容を理解して楽しむ力があっ た。しかし、「視線」や「発話」に関する分析 から一場面完結型の絵本の読み聞かせの時は絵 本それ自体を楽しむというよりも友達が楽しん でいる姿を見て楽しむという余裕が認められた。 しかし、このような余裕は結果的には注意の転 導につながった。一方、ストーリーがある絵本 では物語の流れを理解することに心的資源が投 入されたことにより絵本以外への転導が少な かった。このようなことから、B 児はストーリー がある継時的な絵本の方をより楽しむ段階にあ るのではないかと推測される。  発達年齢が 5 歳 5 か月の C 児も、一場面完 結型の絵本も継時的な絵本も楽しむことができ る。しかし、一場面完結型の絵本は内容が容易 なために反って注意の転導が認められたのに対 し、ストーリーのある絵本では絵本の内容に よって影響されることが認められた。このよう な結果は、ストーリーがある継時的な絵本の方 をより楽しめる段階に移行しつつあると考えら れる。  さて、発達年齢が 4 歳 3 か月の D 児は継時 的な絵本の内容を理解することは大体できるが 必ずしも十分ではない。それは D 児の発話に 関する分析から、D 児の絵本の内容に関連した 発話は一場面完結型は概して高いのに対して、 ストーリーがある絵本では絵本によって差が顕 著であったことによる。また、同じことは視点 に関する分析でも認められた。すなわち、D 児 はストーリーのある絵本では、注意の維持が絵 本の内容に左右されるという結果が示唆された。 このことは、D 児は C 児と同様に、ストーリー がある絵本の方をより楽しめる段階に移行しつ つあると言えるだろう。  次に、発達年齢が 3 歳 5 か月と低い方に位置

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づく E 児は、一場面完結型の絵本の方が内容 を理解した発話が顕著であったことから、A 児と同様に一場面完結型の絵本の方が楽しめる 段階にあると言えるだろう。  最後に、発達年齢が 5 歳 8 か月と最も高い F 児について考える。一場面完結型の絵本では内 容が易しすぎたために絵本以外の物や人を見た り無関係な独り言を言ったりした。これに対し て、ストーリーがある継時的な絵本では絵本の 内容を追いながら理解し、絵本の内容に関連し た発話や感情表現を行っていた。このような反 応のパターンは、発達年齢が 5 歳を超えていた B 児や C 児と類似しており、ストーリーがあ る継時的な絵本の方でより集中し、楽しめてい たと考えられる。  以上のように、絵本の構成が異なる絵本への 興味や関心は発達年齢が関係していると言える。 すなわち、聞き手の発達年齢が高くなるにつれ て、一場面完結型の絵本の方を楽しむ段階から、 一場面完結型の絵本からストーリーがある絵本 へと移行期を経て、やがてストーリーがある継 時的な絵本の方がより楽しめる段階へと進んで いくと考えられる。  しかし、定型発達児の絵本の読み聞かせを考 えると、ADHD 児の場合は 1 年ないしは 2 年 くらい絵本の理解が遅れる傾向があると考えら れる。この原因は、彼らの注意の特性が読み聞 かせに関係のない局外刺激に転導したり、注意 を持続させることが困難であったりすることが 影響していると考えられる。しかし、それだけ ではない。Berk & Potts(1991)が明らかにし たように、ADHD 児は内言の発達が 1 歳ない しは 2 歳程度遅れるという知見からすれば、絵 本の内容理解にとどまらず、自己制御において も困難さをもつものと思われる。  絵本の読み聞かせを多動な子どもたちに実施 する場合は、読み聞かせる側としてはいろいろ な配慮をしなければならない。そのことは近藤・ 辻元(2008)長年にわたり読み聞かせの実践を している人達を対象としたアンケート調査でも 明らかになった。調査は、読み聞かせる子ども の中に多動児がいた場合に配慮していることを、 環境設定、読み聞かせの導入、読んでいく過程、 読み終わった後、全体にかかわって、と分けて 質問したところ実に多様な回答があった。回答 のなかでも、読み聞かせの全体にかかわって配 慮することに関して言えば、「積極的な無視」 が回答のなかで35%と一番多かった。積極的無 視というのは冷たい感覚でとらえられるかもし れないが、無理やり座らせようとせずに、必ず 何日かたつと、そういう子どもも聞くようにな るという大らかさをもって臨む姿勢を示してい る。次に多かった回答は「絵本の選択」で25% も占めた。具体的には、あまり長い絵本は選ば ない、好きな絵本を 1 ~ 2 冊読み、たくさん は読まない、などの注意の持続に配慮した回答 があった。また、楽しい本を選ぶ、その子にあ う本を選ぶ、大型絵本を使って、ゆっくりと分 かりやすく読む、などに示されるように理解の しやすさに心掛けた回答があった。  読み聞かせる絵本の理解のしやすさという点 では、経験的に思いきって 1 歳から 2 歳程度く らいは易しいものを選択するようにするという 意見もあった。これは、本研究の結果と対応す るものであり、そのような経験知として得られ たことをビデオ分析から裏付けたものと言える。 文 献

Berk, L.E., & Potts, M.K. 1991 Development and functional significance of private speech among attention-deficit and hyperactivity disorder and normal boys. Journal of Abnormal Child Psychology, 19, 357-377. 近藤文里・辻元千佳子 2007 絵本の読み聞かせに 関する基礎研究と ADHD 児教育への応用( 3 ) ― 5 歳前半児と 5 歳後半児の聞き手の比較―  滋賀大学教育学部紀要,第57号,27-38. 近藤文里・辻元千佳子 2008 絵本の読み聞かせに 関する基礎研究と ADHD 児教育への応用( 6 ) ―絵本の読み聞かせ実践者へのアンケート調査 ―滋賀大学教育学部紀要,第58号,17-29.

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