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幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果

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幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果

著者 今井 靖親, 柴田 真由美

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 36

号 1

ページ 127‑136

発行年 1987‑11‑25

その他のタイトル The Effect of The Presentation of Scripts on Learning to Write in Young Children

URL http://hdl.handle.net/10105/2069

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奈良教育人で紀要 第36巷 第1弓(人文・社会)昭和62年 Bull.Nara Univ.Educ.,Vol.36,No.1(cult.& soc.1.1987

幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果

今 井 靖 親・柴 田 真由美*

(奈良教育大学心理学教室) (昭和62年4月30II受理)

国立国語研究所(1972)が行った幼児の仮名文字の読み書き能力の習得調査によると、調査時 点で、 5歳児クラスで1字も読めない幼児は全体の1.1%にすぎない。また、 60文字以1・̲読める 幼児は63.9%を占めているO これに対して、 1字も書けない幼児は5.3%であり、 21文字以上it:

しく書ける幼児は56.7%を占めている。しかし、 60文字以上正しく書ける幼児は3.6%を占める にすぎない。このように、幼児の仮名文字を書く能力は、読む能力ほどには発達していないが、

字を書く活動が就学前の幼児のものになりつつある傾向は否定できない事実である。

ところで、浜崎・登根(1975b)は、就学前の幼児の乎仮名文字の習得状況について調査をお こない、就学前幼児のほぼ半数が、既に平仮名を書ける段階に至っていると報告している。いっ ぽう、 Steinberg 山田(1980)は、書字能力発達に関する基礎的研究を行った。彼らは、書字 学習の臨界期は3歳にあるとし、かなりの年少児も適切な教育環境が整備されるならば、書字学 習が可能であることを示唆した。これらの結果を考え合わせると、就学前の幼児、すなわち5歳 児は、 「文字を書くこと」を習得する段階にあるように思われる。

しかしながら、従来の心理学研究において、幼児を対象にした書字学習に関する実験的研究は 極めて少ない。それらのうち、主なものを次に紹介する。

今井・森岡(1977)は、幼児を対象に、ロシア文字を用いて、文字書きの指導法の効果を検討 した。その結果、単に番号や矢印で筆順を視覚的に提示するよりも、運動感覚や触覚などの手が かりを併用して文字を書くほうが効果的であることがわかった。杉村・矢吹(1978)は、カタカ

ナの「シ」と「ツ」の読み方を知らず、書くこともできない幼児を次のような書き方で指導した。

① 文字書きに先立って文字の読みを訓練する条件、 ② 文字の弁別を訓練する条件、 ③ 何も しない条件。さらにそれぞれの条件について、完全な点線文字をなぞらせる完全法と、文字の部 分が徐々に少なくなっていくいる点線文字を書かせる漸消法で指導したo その結果、弁別訓練に よって、やや成績がよくなる傾向が見られただけであった。浜崎・登板・福山(1977)、浜崎・登 板(1978)は、幼児のなぞり行動の研究を行い、 ① 年齢が上昇するにつれて、なぞりが発達す

る。 ② 適切な長さ(約10cm)の鉛筆を用いるべきである。 ③ 幼児はなぞり行動をとおして、

なぞりの方法すなわち字形の追跡要償を習得し、模写の方略として利用している。 ④ なぞり行 動にすぐれているものは、模写、書字数ともにすぐれている傾向が強い、などの結果を得ている。

文字を書く場合、 「なぞり」によって学習する方法と、 「模写」によって学習する方法の2つ の指導法の効果について、次のような相反する研究報告がなされている。まず、 Hirsch and Neidermeyer (1973)は、幼稚園児にアルファベット文字を次の4つの指導法で学習させた0 ① 模写、 ②模写+弁別訓練、 ③徐々に消えていく「なぞり」 、 ④徐々に消えていく「なぞり」 +秤

* 現在 大和郡山市立矢田幼稚園

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別訓練。その結果、 「なぞり」よりも模写のほうが成績がよく、文字識別訓練を行っても、文字 書きの成績はよくならなかった。いっぽう、小野瀬(1986)は、 3種類の書字技能課題として、

「なぞり」 、視写(模写に相当する) 、自由書字、を用いて、小学生の書字技能の発達を調べた。

その結果、 「なぞり」よりも「模写」のほうが困難であることがわかった。

このように、文字を書く学習をする際に、 ‑般的には、 「なぞり」と「模写」の指導法がよく 用いられるが、その有効性については、上述したとおり相反する実験結果が得られており、いず れがすぐれているかという結論はいまだに提出されていない。

浜崎・登限(1975a)は、幼児の書きにおける ‑一斉指導法の研究を行った。この研究において は、 「湧出法・一一字法」 、 「湧出法・語形法」、 「線画法・一・一字法」 、 「線画法・語形法」の4 群についての比較が行なわれた。その結果、 「一字法」による指導が「語形法」による指導より

もすぐれていることが示唆された。

ところで、浜崎・登根(1975)のいう「一字法」 、 「語形法」とは、読字学習や書字学習にお ける文字の提示方法のことである。福沢(1977)は、日本語における入門期の文字提示方法とし て、 「文字法」 、 「単語法」 、 「物語法」をあげている。また、村田(1974)によれば「音声法」

と「語形法」の効果をめぐる意見の対立は、言語教育の最も根強く、古くて新しい論争点である。

「音声法」は、言語教育の単位として、文字と音声の一つ一つの連合を強調する立場であるのに 対して, 「語形法」は、語全体の文字群の構成する形態を重視する立場である。こうした文字提 示方法については、読字学習の頚城で、さまざまな心理学的研究が行われている。

福沢(1959)は、平仮名の読みの学習における「一字指導(文字法) 」と「語形指導(単語法) 」 の効果を比較した。そして、 「一字指導」は、入門期における読みの学習の1‑‑・環として重視され てよい指導であるが、単独で用いずに、 「語形指導」を併用すべきだと主張している。また、 Bishop

(1964)は、大学生にアラビア文字の読みを学習させ、 Jeffery and Samuels (1961) 、藤野・

田中(1977)は、幼稚園児に人」二文字の読みを学習させ、 「文字法」と「単語法」の効果を比較 した。そして、 「単語法」よりも「文字法」のほうが効果があると報告している。

これらに対してSteinberg 山田(1977)は、幼児に単語レベルの発話音(単語法に相当する) と、シラベルレベルの発話音(文字法に相当する)を与え、前者のほうが成績が良いという結果 を得た。岡田(1973)は、文字から出発するやり方は、意味を伴わないことから、学習に興味が もてないという欠点を持ち、この点で「単語法」はすぐれた指導であるという立場をとっている。

いっぽう今井(1980)は、 「文字法」と「単語法」の短所を補い、長所を生かした「文字・単 語法」を提唱し、その効果を実験的に検証した。彼は、 「文字・単語法」の長所として、 ①学習 の動機づけを与える。 ②音節分解を与える。 ③単語の形や意味が手がかりとなって、文字の弁別 を容易にする。 ④語いの習得に役立つ、などの点をあげている。また、池本(1983)は「文字・

単語法」の効果をさらに詳しく検討するために、幼児に片仮名の清音の読みを学習させ、 「文字 法」、 「単語法」、 「文字・単語法」の比較を行った。その結果、 「文字・単語法」や、 「文字 法」で学習するほうが「単語法」で学習するよりも有効であった。さらに、今井・土江(1984) は、特殊音節文字を材料として研究を行い、池本(1983)と同様の結果を得ている。さらに高石

(1985)は、上記の今井・上江(1984)の実験方法に修正を加え、特殊音節文字の読字学習にお いて、 「文字・単語法」が極めて有効な文字提示方法であることを明らかにしている。

このように、読字学習における文字提示の効果についてと、さまざまな検討がなされてきた。

しかし、書字学習における文字提示方法の効果については、ほとんど検討がなされていない。

(4)

幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果 129

そこで、本研究では、幼児(5歳児)の書字学習における文字提示方法のうち、特に「文字法」

と「単語法」の効果を検討する。また、学習方法のrなぞり」と「模写」の有効性についても、

合わせて比較、検討を行う。

実験計画 2×2×2の3要閃計画を用いた。第 ‑・の要凶は文字提示方法(文字法、単語法) であり、第二二の要因は文字の学習方法(なぞり、模写)である(,第三の安川は杏定方法(文字テ スト、単語テスト)で、これは被験者内の要凶であるo実験に先itって、まず119名の5歳児を 対象に子備調査を行って80名を選出し、年齢、男女数、読字力、書字ノ)、図形模写能力がほぼ等 しくなるように配慮して、次の4群(各群20名)に分けた。 (1)文字法・なぞり群(2)文字法・模 写群(3)単語法・なぞり群(4)単語法・模写群 であるO なお、各群の平均<f一齢は、 (1)群からm に、 5歳8か月、 5歳8か月、 5歳9か月、 5歳8か月であり、各群の平均読字ノ)と平均卦'('‑力 は、 (1)群から順に63点、 5点;68点、 6点;66点、 6点;62点、 5点であった。また、各群の平 均図形模写能ノ)は、 (1)からl馴こ、 14点、 15点、 15点、 15点であったO

材  料  学習材料として、単語法群には、 「ウマ」 、 「ツメ」の2単語を用い、文字群に は、これらの単語を構成する文字として「ウ」、 「マ」、 「ツ」、 「メ」を用いた。なお、本実 験では、予備調査によって選定された人l」文字を用いて学習を行った。

文字法群  Ll (ウ) , よ (マ) , h (ツ) , ち (メ) 単語法群  Llよ   (ウマ) , hS   ツメ)

学習用カードとして、次のものを用いた。

文字カード、 3.5cmx 3.5cmの白い厚紙に、学習する4文字を黒ペソで1文字ずつ書いたもの を合わせて4枚(図1参照) 。 蝉語カード7.0cmx 3.5cmの白い厚紙に、学習する2つのii悠た

L ti

J‑ 3

図 1 文字カード 図 2 単語カード

を窯ペソで1つずつ書いたものを合わせて2枚(図2参照) 。なお、学習武子 ら テスト試行の際 には、各群とも練習用紙、テスト用紙と長さ10cmの2 Bの鉛筆を使川した。

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手続き  実験は、すべて個別に行った。まず被験者に氏名とクラス名を尋ねてから練習用紙 と鉛筆とを与え、 「これから私が宇宙人の字を見せますから、しっかり覚えてください0 」と赦 示した。次に、各群とも学習用カードを提示して、はっきりと読みあげ、それを被験者に模倣さ せた。例えば、文字法群では、文字カードを提示し、 「これは『ウ』と書いてあります。 ○○ちゃ んも『ウ』と言ってみてくださいO 」のようである。また、単語法群では、単語カードを提示し、

「これは『ウマ』と書いてあります。○○ちゃんも言ってみてください。 」のようである。また、

単語法群では、単語カードを提示し、 rこれは『ウマ』と書いてありますo OOちゃんも言って みてください。 」のようであるo その後、もう・度、文字または単語を読みあげ、実験者が鉛筆 で手本を書き、被験者にも5回書くように教示した。例えば、文字法・なぞり群には、 「それで は、私が『ウ』と書いてみます ( L│と書く)さあ、次はあなたの番です。点線をつないで

『ウ』と書いてくださいo Jのようである。また、単語法・模写群には、 「それでは、私が『ウ マ』と書いてみます ( LIJ‑と書く)さあ、次はあなたの番です。ここに『ウマ』と書いてく ださい。 」のようである。テスト試行では、実験者が文字および単語を言い、被験者に再生する ように求めた。ただし、文字法群では文字テストの後に単語テストを行い、単語法群では単語テ ストの後に文字テストを行った。

以I・.のような学習試行とテスト試行を1試行ずつ交互に3恒桁こった。なお、学習試行において、

学習カードの提示順は、試行ごとに変えて偏りのないように留意した0

結   果

結架の処理は次のように行ったo テスト試行において、被験者が1つの文字を正しく書けた場 合には、 1点を与えた。したがって、 1つの単語が書けた場合には2点を与えることになる。 1

表】 各群の平均得点

( )内は標準偏差

提 示 方 法 学 習 方 法

テス ト

全 体

文 字 法 な ぞ

4.3 5 2.6 0 ( 2.7 1) (2.0 8 )

4.6 5 3.0 5 ( 2.7 4 ) ( 3.0 1 )

3.6 6

語 法 な ぞ

2.4 5 4.8 5 (2.7 5 ) ( 2.6 5 )

4.6 0 7.5 5 (3.6 1 ) (3.0 1 )

4.8 6

全 体 4.0 1 4.5 1

試行での満点は、文字テスト4点、単語テスト4点、合計8点である0 3試行での満点は24点で

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幼児の害字学習に及ぼす文字提示法の効果 131 ある。各群のテスト試行における平均得点と標準偏差を示したものが表1である。これをもとに して、文字の捉′Jり)‑紘(文字法、単語法)と学習方法(なぞり、模写)を被験者間の要困、査定方法 (文字テスト、単語テスト)を被験者内の要因とする2×2×2の分散分析を行った。その結果、

文字提示方法のti.効果が、 F(l,76)‑3.99, P< .05で、学習方法の蝣j‑:効果が、 F(l,76)‑5.43, P< .05で有意であったO また、査定方法の1‑効果が、 F(l,76)‑3.80, .05<P< .10で有意

な傾向が認められた。さらに、提示方法と査定方法の交互作用が、 F(l,76)‑71.84, P< .01で 有意であり、捉示方法と学習方法の交互作用がF(l,76)‑2.91, .05<P< .10でイi意な傾向が 見られた。しかし、学習方法と杏定方法の交互作用は有意ではなかった。

提示方法の有意な主効果は、単語法のほうが文字法よりも成績がよかったことを示し、学習方 法の有意な」効果は、模写のほうがなぞりよりも成績がよかったことを示している。杏定方法の 二i二効果の有意な傾向は、単語テストの成績のほうが文字テストの成績よりもよかったことを示し BREォ

提示方法と学習方法の交互作用に有意な傾向が見られたので、誤差項( Mse‑ 14.45)を用 いて単純効果の検定を行ったところ、文字法においては、学習方法の違いによる有意差はなかっ たが、単語法においては、 /‑2.85, rf/‑76, P< .07で、なぞりよりも模写のはうが成績がよ かった。次に、なぞりにおいては、 2つの提示方法の間には有意差はなかったが、模写において は/‑2.62, rf/‑76, P< .05で、文字法よりも単語法のほうが成績がよかった。以上の結果を 図示したのが図3である。

文字法      単語法 *p<.05

** p <.01

図 3 各群の平均得点

提示方法と査定方法の交互作用が有意であったので、単純効果の検定を行ったところ、単語テ ストにおいては、 /‑5.17, df‑152, P<.01で、文字法よりも単語法のほうが成績かよかったが、

文字テストにおいては有意差はなかった。次に文字法においては、 /‑4.61, rf/‑76, P<.01で、

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文字テストの成績がよく、単語法においては、 /‑7.73, df‑76, P< .01て単語テストの成績が よかった。

本研究では、幼児の書字学習における文字提示方法と学習方法の有効性を実験的に検討した。

t三な結果は次のとおりであるO①文字提示方法については、「文字法」よりも「単語法」のほう が成績がよかったo②学習方法については、「なぞり」よりも「模写」のほうが成績がよかったQ

③文字テストで杏定した場合には、単語法よりも文字法のはうが成績がよく、単語テストで査定 した場合には、文字法よりも単語法のほうが成績がよかった。特に「単語法・模写」群は成績が すぐれていた。

以上の結果を中心に考察を行うことにする。まず、結果①の言語材料の提示方法の効果につい て述べると、文字法と単語法の比較では、単語法の有効性が認められた。これは、浜崎・登根 (1975a)の研究による「‑一字法」(本研究における「文字法」に相当する)の指導がすぐれて いるという結果とは異なっている。しかし、彼らの実験は、幼児を対象とはしているものの、

「一一一斉指導」の場で、「湧出法」という特別な書字学習方法をとり入れたものであり、また被験 鼻の書きのレディネスあるいは読み能力の統制なしに行われている点に問題がある。

本来、文字法は学習材料として文字を1字ずつ提示する方法である.このため岡田(1973)が 述べているように、材料自体に意味を伴わず、学習に興味を持たせにくいと考えられる。これに 対して、単語法は、学習材料を単語として提示するため、単語の持つ意味が学習に動機づけを与 えたり、手がかりとして利用されるo牛射こ、発達の末分化な段階にある幼児にとっては、文字を 書くという課題は、相当な困難を伴う作業であるために、興味の有無が課題の遂行に大きく作用 すると考えられる。、Steinberg岡(1978)も、文字の学習の際には有意味性が重要であると指 摘している。

ところで、今井(1980,1981,1983)は、彼の一連の実験的研究をとおして、幼児の読字学習 における「文字・単語法,」が有効であることを明らかにしているが、書字学習における単語法に は、この「史二字・単語法」と梅めてよく煩似した学習過程が存在すると考えられる。すなわち、

単語法では単語が提示さるため、学習すべき文字は最初は1つの塊(chank)として知覚され るL,しかし、被験者は単語の構成部分である文字の書き方を1文字ずつ練習することにより、個々 の文字‑の注視とその記銘が促進され、それとともに、5‑えられた単語がそれらの文字で構成さ れていることを理解する。しかも、単語を構成する文字を相互に比較して、形態的な示差特徴を とらえることもiTT能となる。つまり単語で提示された材料を部分と全体との有機的な関連で把握 Lた学習ができるという点では、「文字・単語法」の効果が読字学習の場合以l二に明確にIll I.IIてい

ると言えよう。

次に、結果(参に示したように、本研究においては、r模写」が「なぞり」よりも成績がよかっ たが、これは、小野瀬(1986)の研究結果とは異なっている。両者の違いは、二‡三として学習の査 定方法の違いによって生じたと思われる。小野瀬(1986)の研究では、各群ごとに学習した「な ぞり書きをした文字」と「模写した文字」について査定したのに対して、本研究では、各群が

「なぞり」または「模写」で学習を行った後に、テスト試行では「聴写」すなわち実験者から聞 いた文字および単語の斉声を文字で表記することが求められた。このように、小野瀬(1986)で

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幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果 133

は、各学習方法の発達が査定されたのに対して、本研究では、いわば学習の転移効果を測定する 形で、各群に共通した査定方法が採用された。一般に、ある文字が書けるか否かの査定は、 「聴 写」でなされるので、書字学習の効果の判定も、 「聴写」の査定結果にもとづいてなされるほう がより合理的であろう。

そこで,次に本研究に即して「なぞり」と「模写」の学習過程を分析的に検討してみようo

「なぞり」によって書字学習を行った被験者は、 「文字を書く」というよりは、 「点と点を線 で結ぶ作業」を行っているように見受けられた。すなわち、彼らは初めに文字および単語につい てr読み」を学習しているにもかかわらず、与えられた「音声」と「文字」の連合を行うことよ りも、 「文字の形をなぞる」ことを優先的に学習しているように観察された。したがって、 「聴 写」により.文字および単語を再生するテスト試行では、 「音声」と適合されている「形」 (‑文 辛)の結びつきが希薄なため、成績はよくなかったと考えられる。これに対して、 「模写」では、

書くべき文字のモデルを見ながら、それと同じ形態を生産することが要求される。そのため、全 体と部分の形態的特徴を正確に知覚しなければならない。その際、初めに与えられた文字の読み (音声と文字の連合)も手がかりとして利用され、書字学習を促進させる要因となっていると考 えられる。したがって、テスト試行において提示される「音声」に「文字」を適合させること、

すなわち学習した「文字」の再生は、それほど困難な課題ではなかったと言えるであろう。

結果(彰では、査定方法の違いによって、文字提示方法(文字法と単語法)の成績に差が生じる ことが明らかにされた。文字提示方法と査定方法とが異なる場合には、被験者は「文字」を舎成 して「単語」にしたり、逆に「単語」を分解して「文字」にする課題の遂行が新たに求められる。

幼児にとって、このような課題、すなわち実験群ごとに「 ‑一定の書字学習」 + 「査定の際に新た に加えられる文字の合成あるいは単語の分解」を連続して行う作業は、かなり難度の高いもので あったと思われるo 文字提示方法と査定方法が同じ場合には、同じ「書字学習」がもう1回加わ るだけのなだから、課題も易しいし、成績がよくなるのも当然であろう。

以1二、本研究により、幼児の苦学学習においては、 「単語法・模写」で学習する方法が有効で あることが明らかにされた。しかし、本研究で、書字学習後の把持の状態や、書字の際の文字の 正確さの発達的変化などについては十分な検討を行っていない。今後はこのような側面について も分析を加え、より有効な指導方法を兄い出していくことが必要である。

要   約

木研究の目的は、幼児が平仮名の清音の書きを学習する際に、学習材料の提示方法(文字法、

単語法)がいかなる効果を持つかを検討し、合わせて、学習方法(なぞり・模写)の効果を検討 することであった。

被験者は平均年齢5歳8か月の幼児80名であった。彼らの年齢、男女‑数、読字数、読字力、書 字力、図形模写能力がほぼ等しくなるように考慮して、 (1)文字法・なぞり群、 (2)文字法・模写群、

(3)単語法・なぞり群、 (4)単語法・模写群の4群に配置した。学習教材として、幼児を対象にして 予め実施した人工文字の模写難易度調査結果ももとに、人工文字4文字を選定し、高熟知語2単 語を構成する4文字とした。

まず、学習試行においては、文字法群では文字を、単語法群では単語をそれぞれ提示しながら 実験者が文字または単語を手本として書いて示した。次に、なぞり群では、点線文字を5回なぞ

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らせ、模写群では文字を5回書かせた。テスト試行では、文字および単語の聴写を行った。この ようにして、学習1試行(4文字、または2単語)とテスト1試行(文字テスト、単語テスト) とが交互に3回繰り返された。

1三な結果は次のとおりである。 (1)文字提示方法については、単語法のほうが文字法よりも成績 がよかった。 (2)学習方法については、 「聴写」のほうが「なぞり」よりも成績がよかった。

上記の結果にもとづき、次のような考察がなされた。

まず、本実験における書字学習では、単語法は文字法の長所も兼ね備えたすぐれた方法である と言える。その理由として次のことがあげられる。単語法では単語が提示されるため、学習すべ き文字は、最初は1つの塊り(chunk)として知覚される。しかし、被験者は単語の構成部分で ある文字の書き方を1文字ずつ練習するため、個々の文字‑の注視とその記銘とが促進される。

つまり、単語で提示された材料を部分と全体との有機的な関連で把握した学習が可能となる。ま た、模写による書字学習では、書くべき文字のモデルを見ながら,それと同じ形態を生産するこ

とが要求される。そのため、被験者は全体と部分の形態的特徴を正確に知覚しなければならない。

その際、初めに与えられた文字の読みも手がかりとして利用され、書字学習を促進させる要因と なっていると考えられる。

以Lの結果とその考察から総合的に解釈すると、就学前の幼児の書字学習においては、言語材 料を単語で提示し、模写によって学習する方法が効果的であると言うことができよう。

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幼児の書字学習に及ぼす文字提示法の効果 135

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杉村健・矢吹典子1978 文字書きの指導法に関する実験的研究 近畿大学教育研究所紀要, 4,9‑14.

高石礼P 1985 幼児における特殊音節の読字学習 奈良教育大学卒業論文.

付記  本論文の作成にあたり、実験に快く協力くださいました片桐幼稚固(山本和子園長) 、 郡山西幼稚園(宇野洋子園長) 、橿原保育所(今井道子園長)の先生方と園児の皆さんに 深く感謝します。

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The Effect of The Presentation of Scripts on Learning to Write in Young Children

Yasuchika IMAI and Mayumi SHIBATA

(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Received April 30, 1987)

The purpose of the present study was to examine the effects of the presentation of scripts and to compare the effects of the trace method and the reproduse method on learning to write in young children.

The subjects were 80 children whose average age was 5:8. 0n the basis of the age, the male‑to‑female ratio, the number of letters they could read and write, and the scores of figure‑reproduse test, they were assigned to the following four groups:scripts‑trace, scripts‑reproduse, word‑trace, and word‑reproduse. The scripts used in this experiment were four artificial scripts, both of which built up a high famihality word.

In the study trials each subject in the scripトpresentation groups was presented a script and each subject in the word‑presentation groups was presented a word. The experimenter showed how to write scripts or words to each subject as a model. In the trace group each subject was asked to trace scripts written with doted lines five times and in the reproduse groups each subject was asked to reproduse the scripts presented to him or her five times.

In the test trials each subject was requested to write scripts and words. A study trial and a test trial, successively, were administered three times.

The main findings of the investigation were as follows:

(1) The group which learned to write scripts presented as a word got higer scores than the group learned to write scripts presented one by one.

(2) The group which was taught to write scripts by the reproduse method was better than that in the trace method group.

The findings suggest that the word presentation and the reproduse method have facilitation effects on learning to write letters in young children.

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