絵本の選択が ADHD 児の読み聞かせに及ぼす効果 (5)
―― 絵本におけるオノマトペの作用 ――
近 藤 文 里 *・ 元 千佳子 **
The Effect of Selection of Books on Picture Book Reading
for the Children with ADHD (V)
―― The Effects of Onomatopoeia in Picture Book ――
Fumisato KONDO and Chikako TSUJIMOTO
キーワード:絵本、オノマトペ、ADHD、読み聞かせ、発達障害 1.問 題 と 目 的 絵本の文章表現にはその絵本がもつ聴覚・言 語的特徴が含まれる。このような聴覚・言語的 特徴について検討するうえで見逃すことができ ないのは擬音語・擬態語である。このような言 葉はフランス語ではオノマトペと言われ、日本 語では実に豊富である。日本語でオノマトペが 豊富なのは表音文字であるひらがな、かたかな をもっていることと関係しており、文字と音が 1 対 1 に対応することで微妙な感覚的表現がで きたことによる。 松居 (1973) は、言葉ははじめは音でありリ ズムである、と述べている。それが赤ちゃんの 耳に入って定着するにしたがって意味的要素が 強くなるとともに、元々の響きやリズムといっ た感覚的な側面は意識しないようになる。 オノマトペ表現を用いた絵本は非常に多い。 しかし、絵本におけるオノマトペ表現を中心的 なテーマとした研究は極めて少なく、詳細な分 析はない。蘇・甲斐・石井 (2010) は、保育園 の 2、3 歳児を対象としたオノマトペ絵本を読 み聞かせるなかで、オノマトペに反応する赤 ちゃんの様子を観察しているが、発達障害をも つ子どもの検討は行われていない。 このような研究状況において、本研究は発達 障害児の通園施設で継続的に行っている絵本の 読み聞かせにおいて、次のことを明らかにする ことを目的とする。 第 1 は、絵本表現のなかでオノマトペがどの ように働きをしているのか明らかにする。 第 2 は、ADHD をはじめとする発達障害児 を対象とする場合、オノマトペを用いた絵本の 読み聞かかせにおいて留意すべきことはあるの か、あるとすればそれは何なのかについて明ら かにすることである。 2.方 法 (1) 調査対象 聞き手 (被験児) は A 通園教室に通う 11 名 であり、男児 8 名、女児 3 名である。各被験児 の発達検査結果と諸特性は以下の通りである。 なお、括弧内の数字は発達指数を示している。 * 滋賀大学 ** 甲良東小学校教諭○ A 児 性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 5 歳 8 か月である。新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 3 歳 0 か月 (53)、L− S は 2 歳 3 か月 (40) で、全領域は 2 歳 8 か月 (47) である。 ○ B 児 性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 5 歳 2 か月である。新版 K 式発達検査で P−M が DA ク リ ア、C−A は 6 歳 0 か 月 (116)、 L−S は 4 歳 6 か月 (87) で、全領域は 5 歳 4 か月 (103) である。 ○ C 児 性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 6 歳 2 か月である。新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 5 歳 5 か月 (79)、L− S も 5 歳 5 か月 (79) で、全領域は 5 歳 5 か月 (79) である。 ○ D 児 性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 6 歳 3 か月である。新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 4 歳 3 か月 (68)、L− S は 4 歳 3 か月 (68) であり、全領域 は 4 歳 3 か月 (68) である。 ○ E 児 性別は男児で、ADHD 傾向がある。CA は 4 歳 11 か月である。新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 3 歳 8 か月 (74)、L− S は 3 歳 2 か月 (64) で、全領域では 3 歳 5 か 月 (69) である。 ○ F 児 性別は男児で、ADHD 傾向を示す。CA は 6 歳 10 か月である。新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 6 歳 4 か月 (93)、L− S は 5 歳 0 か月 (73)、全領域では 5 歳 8 か月 (84) である。 ○ G 児 性別は男児で、精神発達遅滞がある、CA は 5 歳 7 か月で、新版 K 式発達検査で P−M は 3 歳 1 か 月 (56)、C−A は 2 歳 8 か 月 (48)、 L−S は 2 歳 7 か月 (47)、全領域では 2 歳 8 か 月 (48) である。 ○ H 児 性別は女児で、広汎性発達障害傾向がある。 CA は 4 歳 1 か月で、新版 K 式発達検査で P− M は DA クリア、C−A は 3 歳 1 か月 (76)、 L−S は 3 歳 2 か月 (78)、全領域は 3 歳 2 か月 (78) である。 ○ I 児 性 別 は 男 児 で、広 汎 性 発 達 障 害 傾 向 と ADHD 傾向がある。CA は 4 歳 7 か月で、新 版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 2 歳 11 か月 (64)、L−S は 3 歳 3 か月 (71)、 全領域では 3 歳 2 か月 (69) である。 ○ J 児 性別は女児で、広汎性発達障害に ADHD 傾 向を合併する。CA は 6:3 であり、新版 K 式 発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 5 歳 11 か月 (94)、L−S は 5 歳 0 か月 (80)、全領 域では 5 歳 5 か月 (86) である。 ○ K 児 性別は女児であり、自閉症に ADHD 傾向を 合併する。CA は 5 歳 11 か月であり、新版 K 式発達検査で P−M は DA クリア、C−A は 4 歳 2 か月 (70)、L−S は 3 歳 7 か月 (60)、全 領域は 3 歳 11 か月 (66) である。 (2) 手続き A 通園教室では 12 回の読み聞かせを行った が、本研究では 4 冊の絵本を分析の対象とする。 それは『きたきた うずまき』(元永定正 作)、 『もこ もこもこ』(谷川俊太郎 作・元永定正 絵)、『でんしゃにのって』(豊田一彦 作)、『ご ろごろにゃーん』(長 新太 作) である。『き たきた うずまき』と『でんしゃにのって』の 読み手は筆者の一人で小学校で長い読み聞かせ 経験がある辻元が行った。他の 2 冊は練習を積 んだ 2 名の女子学生が読み聞かせを行った。 読み手と聞き手の位置関係は、聞き手は絵本 の見える範囲で扇状に椅子に座り、読み手は低 い椅子 (聞き手と同じ椅子) に座って読み聞か せを行った。読み聞かせは、聞き手全員が椅子 に座った時点から始めた。 読み聞かせの様子はビデオで録画した。分析 は時間見本法を用い、聞き手に関する行動指標 がどの程度生起するかを集計した。タイムサン プリングの時間単位は 15 秒毎である。15 秒単 位で各分析カテゴリーに係わる行動指標がどれ
だけの頻度で出現するか集計するが、同一の行 動指標が 15 秒内に複数回出現した場合でも 「1」とカウントする。また、同じ 15 秒内に異 なる行動指標の反応が出現した場合であっても 各々の行動指標に該当する反応はそれぞれ 1 回 出現した、とする。 分析カテゴリーは、「視点」、「発話」、「動作」 の 3 項目である。また、各分析カテゴリーつい ては具体的な行動指標を設けた。分析カテゴ リーは「視点」、「発話」、「動作」であり、それ ぞれに属す行動指標は先行研究である近藤・辻 元 (2007) と同様である。設けられた個々の行 動指標が何かについては結果の部分で述べるの で、ここでは省略する。なお、分析期間は、表 紙から裏表紙までの間であり、この間に生起し た行動指標の生起率を算出する。 今回の結果の分析は、個々の絵本に対する反 応を個人毎に検討するものであり、個々の絵本 のオノマトペ表現がもつ意味を個別に検討する。 3.結 果 (1) 『きたきた うずまき』 絵本『きたきた うずまき』の読み聞かせに は A 児、B 児、C 児、D 児、E 児、F 児 の 6 名が参加した。 ① 分析カテゴリー「視点」に関して 分 析 カ テ ゴ リ ー で あ る「視 点」に は、「絵 本・読み手を見ている」という行動指標がある。 この指標に関しては、6 名ともどの 15 秒間の サンプリング期間でも 1 度はそのような行動を 示したことから、反応生起率は 100% となった。 このような結果は、筆者らが行った先行研究で 分析した他の絵本での分析結果と同様であった。 また、「視点」カテゴリーには「他の子ども を見ている」という行動指標があるが、B 児と C 児ではともに 20%、F 児では 40% の率で認 められた。 さらに、「(担任の) 先生を見ている」という 指標に関しては、F 児でのみに認められ、20% の反応生起率であった。 「視点」カテゴリーのうち、最後の「それ以 外を見ている」という指標に関しては、A 児 が 40% の反応生起率を示したのみであった。 以上、「視点」に関した反応では「絵本・読 み手を見ている」以外の 3 指標への反応生起率 の平均はいずれも 15% 未満であった。これは、 当該の絵本の読み聞かせでは、概して絵本や読 み手に集中できていたことを示唆する結果で あったと言える。 ② 分析カテゴリー「発話」に関して 分析カテゴリー「発話」には「絵本の内容に 関連した意見表出」をはじめとして 5 つの行動 指標を設けた。 まず、「絵本の内容に関連した意見表出」に 関しては、他の行動指標に比べて最も多く認め られた。具体的には、A 児と C 児ではどの分 析区間でもこのような行動が認められ (100%)、 B 児は 40%、D 児と E 児ではともに 20% が認 められた。それに対して、F 児のみにこのよう な行動は認められなかった。 次の行動指標である「感情表出」は、B 児で 20% が認められたが、他の被験児では認めら れなかった。 さらに、「絵本に関係のない発話」という行 動指標は、D 児で 20% 認められたが、他の被 験児では認められなかった。 その他の行動指標として、「友人と絵本のこ とで話し合う」「友人と絵本と関係のないこと で話し合う」が設けられていたが、これらに該 当する反応はどの被験児にも認められなかった。 以上の「発話」に関する反応の結果を概観す ると、絵本の内容に関連した意見表出を独り言 の形ですることは頻繁に認められたものの、絵 本について友人と話し合ったり、絵本に無関係 なことを話し合ったりすることは認められな かったと言える。 ③ 分析カテゴリー「動作」に関して 分析カテゴリー「動作」についても 5 つの行 動指標を設けて、それぞれの反応生起率を検討 した。 まず、最初の行動指標である「感情の身体 化」については、A 児と B 児と C 児に認めら れ た。A 児 は 40%、B 児 と C 児 は ど ち ら も 20% の反応生起率を示した。 「動作」に関する 2 つ目の行動指標に「多動 傾向を示す行動」があるが、このような行動は 他の「動作」関連の指標に比べて最も高い頻度
で現れた。つまり、D 児以外の他の 5 名はど の分析区間でも 1 回以上はこのような多動傾向 と見なされる行動を示した (100%)。被験児毎 に特徴は違うが、立ち歩いたり、手や足をそわ そわ動かしたり、体を揺すったりする行動が見 られた。D 児の場合も手や足をそわそわ動か す行動が見られたが、連続的なものではなく、 全体の 40% の分析区間で現れた。 3 つ目の行動指標である「対象操作を伴った 動作」は、個人差が顕著であった。C 児は一貫 して自分の足を触る行為が見られたが、A 児 と B 児と D 児は全く認められなかった。E 児 と F 児は、その中間で、それぞれ 20% と 40% の生起率を示した。 ④ 場面毎の感情にかかわる反応 さて、読み聞かせの過程では、既にみてきた ような行動がどのように推移したかを検討して みる必要がある。特に、感情にかかわる反応が 場面の推移と関連してどのように生起したかを 検討することは重要で、子どもが絵本のどの辺 りに興味を示していたかをとらえるうえで有効 と思われる。 そこで、発話カテゴリーに含まれる「感情表 出」と動作カテゴリーに含まれる「感情の身体 化」について、場面毎の生起率の推移を示した のが図 1 である。各場面は A から K と符号化 したが、場面毎の内容との対応は表 1 を参照し てもらいたい。 図 1 から明らかなように、「感情表出」と 「感情の身体化」が場面 E と H と I で生起して いることが認められる。場面 E は、うずまき がはじめて動いた場面で、「くるりん/くるく る」というオノマトペが提示されるところであ る。また、場面 H では「くるるる くるるる/ くるくる くるりん」が提示される。さらに、場 面 I は画面いっぱいに多様な渦巻の絵が示され、 「くるりん/くるくる/くるるる/ぐるる/ぐ るぐる/ぐるりん」と読み下される。渦巻の絵 と音が賑やかになる場面では感情にかかわる発 話と身体化が認められる。 ⑤ 絵本の本文と子どもの発話 読み聞かせる前の被験児の様子を述べておく。 この絵本を取り出すとき、読み手が「次の絵本 が出てきた」と言ったところ、D 児は「えっ、 何なん?どんなもの?」と聞き、取り出された 絵本の表紙を見て「すうじー」と叫んだ。うず まきの形から数字を連想したようだ。また、E 児は表紙の絵を指さして「あ、これかたつむり のやつ」と言い、かたつむりを連想したよう だった。 さて、表 1 は『きたきた うずまき』の場面 毎の子どもの発話をまとめたものである。 A 児は、場面 E と H で笑顔が見られた。ど ちらもオノマトペが使われている場面で、A 児は「くるりん」「くるりーん」と言いながら 笑い、言葉の響きの面白さを楽しんでいた。 B 児は、場面 I で「うわっ」と体を後ろに引 いて驚く様子が見られた。これはたくさんの渦 巻を見たことによる驚きである。 C 児は、A 児と同様に読み手が読んだ本文を 繰り返す発話が多く認められた。場面 C と D においては、読み手の読み方を真似て「おおま き」を大きめの声で言い、「こまき」を小声で 言った。このことにみられるように、C 児は大 小を意識していたが、A 児はどちらにも同じ 声の大きさで発話していた。 D 児は、場面 G で読み手が「あおまき」と 読んだ後に続けて「みどりー」と発話した。他 の場面でもいろいろな色をしたうずまきが登場 しているが、この場面では色についての発話を した。この場面では左頁に大きいな赤色の渦巻 きが、右頁に大きな緑色の渦巻きが描かれてい るにもかかわらず「あかまき/あおまき」とい う文であったことから、「みどりー」という発 話になったものである。つまり、D 児にとっ ては「あお」ではなくて「みどり」であること を主張したかったのである。 図 1 『きたきた うずまき』の感情関連反応
E 児は、場面 G でのみ発話がみられたが、D 児の発話につられたものであり、「みどり」と 言った。 F 児に関しては、発話は一切なく、この絵本 に対する反応はほとんど認められなかった。 この絵本は、日常ではあまり見かけない渦巻 きの現象を主題にしており、その大小や色や数 の多少を絵と言葉で表現している。この絵本で は、絵だけでは表現できない動きの微妙な違い を「くるりん」とか「くるくる」とかいうオノ マトペで表現しており、動きの変化が感動を もって子ども達に伝わったと思われる。 (2) 『でんしゃにのって』 絵本『でんしゃにのって』の読み聞かせには C 児、D 児、E 児の 3 名が参加した。 ① 分析カテゴリー「視点」に関して 分析カテゴリー「視点」には、「絵本・読み 手を見ている」という行動指標があるが、この 指標に関しては、3 名ともどの分析区間でも 15 (笑顔) 「くるりーん」 (A を見る) 「くるくる」「く るるる」「くる りーん‼」(体 を回転する) (笑顔) くるるる くるるる/ くるくる くるりん H 本文 A 児 B 児 C 児 D 児 E 児 F 児 K 場面 表 1 『きたきた うずまき』の本文と聞き手の発話 「いろいろう ずまき‼」 (頭 をぐるぐ る回してうず まきを表現) 「い ろい ろう ずまき」「みみ ず (?)」 (後 ろ で立ちながら 見る) いろいろ/うずまき F 「みどり」 「みどりー‼」 「あかまき」 「あおまき」 「あおまき」 「あかまき」 「あおまき」 (後ろでたち ながら見る) あかまき/あおまき G 「おおまき‼」 「こまき」(小声) 「おおまき」 「こまき」 おおまき/こまき D 「くるりん」 「くるくる」 「くるりん」(笑 顔) 「くるくる ん」(笑顔) (立ち歩く) くるりん/くるくる E 「きたきたう ずまき!」 「きたきたう ずまきって!」 きた きた/うずまき B 「こ ま き」 (小 声)「おおまき」 「おおまきや」 こまき/おおまき C 「くるるるる る」 「おしまい‼」 「くるるるる る」 「ど こ へ いく?」 (後ろで立ち ながら見る) くるくるるるるる/ どこへいく 「きたきたう ずまき!」 きたきた うずまき A 「夜ごーはー ん(?)‼」 (両手を前に 出 し て 動 か す) 「ぐるるる」 「ぐるぐるぐ る」 「うわっ‼」 (体を後ろに 引き、驚いた 様子) 「く る く る」 「く る る る」 「ぐるぐるぐ るぐる」 (後ろで立ち ながら見る) くるりん/くるくる /くるるる/ぐるる る/ぐるぐる/ぐる りん I 「な ら ん で」 「くるくるく る く る」(後 ろ で 立 ち な がら見る) ならんで/くるくる J
秒間に 1 度はそのような行動を示したために、 反応生起率は 100% となった。このような結果 は、先に述べた『きたきた うずまき』の読み 聞かせの結果と同様である。 また、「他の子どもを見ている」という行動 指標に関しては、C 児で 7 % 認められただけで、 D 児と E 児では認められなかった。 「(担任の) 先生を見ている」に関しては、C 児で 7 %、E 児で 20% の反応生起率が認めら れたが、D 児では認められなかった。 最後の「それ以外を見ている」という指標に 関しては、C 児、D 児、E 児はそれぞれ 13%、 20%、33% の反応生起率を示した。 以上の分析カテゴリー「視点」に関する指標 のうち、「絵本・読み手を見ている」以外は転 導性を示す指標である。これら転導性を示す 3 指標に注目すると、C 児と D 児は絵本や読み 手をよく見ていたことを示す結果であったが、 発達年齢が最も低い E 児は、担任の先生や絵 本以外の物にも目が逸れる傾向が強いことを示 す結果であった。 ② 分析カテゴリー「発話」に関して 分析カテゴリー「発話」のうち、最初の行動 指標である「絵本の内容に関連した意見表出」 に関しては、他の指標に比べて高い反応生起率 が認められた。すなわち、C 児では 53%、E 児 では 47% 認められた。ただし、D 児ではこの ような行動は全く認められなかった。 次の行動指標である「感情表出」に関しても、 C 児では 27%、E 児では 7 % 認められたが、D 児ではこのような行動は認められなかった。 さらに、「絵本に関係のない発話」が認めら れたのは C 児と E 児であるが、反応生起率は 低く、C 児も E 児も読み聞かせの全過程に占 める割合はいずれも 7 % であった。 その他の行動指標に、「友人と絵本のことで 話し合う」「友人と絵本と関係のないことで話 し合う」を設けていた。これらに該当する反応 は、先に述べた『きたきた うずまき』と同様 に、どの被験児にも認められなかった。 以上、「発話」に関する結果をまとめると、 絵本の内容に関連した意見表出を独り言の形で 言ったり感情表出したりはするが、絵本と無関 係な発話をしたり友人と話したりすることは無 いか、あったとしても極めて少ないと言える。 ③ 分析カテゴリー「動作」に関して 分析カテゴリー「動作」のうち、最初の指標 である「感情の身体化」は C 児と D 児に認め られ、C 児は 47%、D 児は 33% であった。し かし、E 児についてはこのような行動指標に該 当する反応は認められなかった。 2 つ目の行動指標である「多動傾向を示す行 動」に関しては、どの被験児でも明確に現われ た。最も顕著なのは C 児の 87% で、次は E 児 の 53% であった。最も少ない D 児でさえ 40% 認められ、多動傾向が伺われる結果となった。 「動作」に関連した 3 つ目の指標である「対 象操作を伴った行為」に関しては読み聞かせ中 に顕在化した行動であったが、個人差が顕著で あった。E 児は 80%、D 児は 40%、C 児は 7 % の生起率を示した。具体的には、D 児は他の 絵本を、E は鞄を触り続けていたことによる。 さらに、「絵本の内容を理解した行動変化」 という指標に関しては、概して低い値ではあっ たが、全員に認められている。C 児は 20%、E 児は 13% の生起率であり、指さしや体を乗り 出すといった行動が見られた。また、D 児は 7 % の反応生起率で「ガタゴトー」という電 車の音のリズムに合わせて体を揺らす動作が認 められた。 最後の行動指標である「絵本の内容への拒否、 無関心を示す行動」については、E 児のみに認 められ、20% の値を示した。これは、この絵 本の前に読み聞かせた『ひとりでうんちできる かな』の絵本を自分でめくって見ていたためで あり、『でんしゃにのって』の読み聞かせに注 意を切り替えることができなかったことによる ものである。 ④ 場面毎の感情にかかわる反応 読み聞かせの過程で聞き手の行動がどのよう に推移したかを検討する。ここでは、先に述べ た絵本『きたきた うずまき』で行った分析と 同様に、感情にかかわる反応の推移を検討する ために、発話カテゴリー中の「感情表出」と動 作カテゴリーの「感情の身体化」について場面 毎の生起率の推移を図 2 に示した。 『でんしゃにのって』は繰り返しがある絵本 なので、場面の符号化は次のようにした。すな
わち、電車が「わにだ駅」に到着する場面を C1 とすれば「ワニ」が乗車してくる場面を D1 と符号化した。同様に、「くまだ駅」に到着し た場面を C2 として、「くま」が乗車してくる 場面を D2 とした。以下は同様に、到着する駅 毎に異なる動物が乗り込んでくる繰り返しを Cn と Dn で示した。 図 2 から明らかなように、Cn と Dn の繰り 返しに呼応する形で「感情表出」(発話) が出 現していることが伺える。また、「感情の身体 化」(動作) もこのような繰り返しが重ねられ る過程で生起したものと考えられる。 繰り返しのなかでは聞き手は容易に登場する 動物が予測できる。例えば、わにだ駅でワニが 電車に乗り、くまだ駅でクマが乗ってくれば、 ぞうだ駅ではゾウが乗ってくることは容易に予 測可能であり、期待も高まる。一方、終盤の G から C7 で感情関連反応が認められなかったの は、このような繰り返しが終了したことによる。 表 2 は、『でんしゃにのって』の場面毎の発 話 (動作) をまとめたものである。 まず、C 児はこの絵本を示すと、内容を知っ ていたのか「おばあちゃんが迎えにくる!」と 言い、読み聞かせが始まると乗車してくる動物 の順番を思い出しながら次はどんな動物かを当 てることに夢中になっていた。また、場面 D2 や D3 ではクマやゾウが子ども連れで乗車して くるが、動物の子どもに親近感がわくからなの か、「くまの子や」とか「あー子どもや」と声 をあげていた。 D 児は発話こそなかったが、笑顔や期待感 のある表情が見られ、絵本に関心を示していた。 特に、C4 と C5 の場面で期待感のある表情が 現われており、どちらの場面でも読み手が「つ ぎは」と読む度に D 児は視線を読み手に移し て、次はどんな動物が登場するのか期待してい る様子が見られた。 E 児に関しては、既に述べたが、読み聞かせ が始まっても 1 冊目に読み聞かせた絵本を持っ ていて、それに注意が逸れていた。担任の先生 に取り上げられそうになったのを嫌がった。し かし、読み聞かせ中は持っている絵本を開かな いこと、後でそれを見るという約束を先生と交 わして読み聞かせの絵本の話に場面 B から 入っていくことができた。この絵本では乗車し てきた動物が 1 人ずつ座席に座るが、C3 の場 面では「ゾウだったらめっちゃ大きいから入ら へん」と言い、D4 の場面では「こんなん (う さぎは) 入り切らへん」と言っている。E 児は ゾウの大きさや、乗車人数の増加から考えて実 際に電車に乗れるのかという疑問を持っている ことが伺える。また、E 児は、場面 C6 で「つ ぎは ここだー ここだー」を聞いて「ここ や」と言っており、主人公のうららちゃんが降 りる駅がわかっていることが伺えた。 さて、『でんしゃにのって』の絵本のなかで オノマトペはどのような働きをしていたのだろ うか。この絵本では、繰り返しのなかで駅毎に 乗車してくる動物を予測する楽しみがある。し かし、それだけではない。「ガタゴトー」とい う擬音語の繰り返しのなかで時間の推移を理解 させ、場面が切り替わったことを表現する働き をもっていたと思われる。 (3) 『もこ もこもこ』 絵本『もこ もこもこ』の読み聞かせに参加 したのは G 児、H 児、I 児、J 児、K 児の 5 名 である。 ① 分析カテゴリー「視点」に関して 分析カテゴリー「視点」には、「絵本・読み 手を見ている」という行動指標があるが、この 指標に関しては、先に述べた絵本の結果や同じ 絵本を他のグループに読み聞かせた結果や先行 研究 (2012) の結果と同様に、全員が一貫して 絵本・読み手を見ていることが認められた。 しかしながら、注意の転導性を示すそれ以外 図 2 『でんしゃにのって』の感情関連反応
「まもなく はっしゃ しまーす」 I 「おばけ?おばけ やったら○○はこ わいな」 「おばけ」 つぎは おばけだー おばけだー/ガタゴトー ガ タゴトー C7 本文 C 児 D 児 E 児 場面 表 2 『でんしゃにのって』の本文と聞き手の発話 シュー/ここだよ! F 「あっ、きっぷ!」 G 「ありがとう」 H 「えっあっあそこお る!」 (笑 顔,身を 乗り出して指さし) 「はい、おじゃましますよ。おや、まんいん…」 D5 「ここや」 (『ガタゴトー ガタ ゴトー』に 合 わせ て体を軽く揺らす) (笑顔) 「はい、しつれい、しつれい…」/ガタゴトー ガ タゴトー/ガタゴトー ガタゴトー/ガタゴトー ガタゴトー/「つぎは ここだー ここだー」 C6 ガタン/「ここだー ここだー」 E D3 (期待感のある表 情) 「へび」「うさぎかー」 (笑顔) 「おや、すみませんね。どっこいしょ。おじょう ちゃん どこまで?」/「『ここだ』までです」/そ う、ひとりで えらいわね」/ガタゴトー ガタゴ トー/「つぎは/うさぎだー/うさぎだー」 C4 「こんなん入り切 らへん」 「はい、おじゃましますよ。おや、まんいん…」 D4 (笑顔)(期待感の ある表情) 「へび!」 (笑顔で指さし) 「ど う ぞ、ど う ぞ」 / 「お や、す み ま せ ん ね。/ じゃ、えんりょなく」/ガタゴトー ガタゴトー/ 「つぎは へびだー へびだー」 C5 ガタゴトー ガタゴトー/「つぎは くまだー くま だー」 C2 (笑顔) 「くまの、くまの子ー や」(身を乗り出し て指さし)(笑顔) 「はい、おじゃましますよ」 D2 「ぞう‼ぞうだっ たらめっちゃ大き いから入らへん」 (挙手) (期待感のある表 情) 「ぞうー!」 (体をのけぞりう れしそうな表情) ガタゴトー ガタゴトー/「つぎは ぞうだー ぞう だー」 C3 (笑顔) 「あー子どもや」 (笑顔,身を乗り 出して指さし) 「はい、おじゃましますよ」 「えー‼」 うららちゃんは おばあちゃんの ところへ ひと りで でかけます。 B 「自転車ー‼」 おばあちゃんへの おみやげと、きっぷを しっか り もっています。おりるえきは『ここだ』えき です。/ガタゴトー ガタゴトー/ガタゴトー ガ タゴトー/「つぎは わにだー わにだー」 C1 「わにだと大人な ん(?)」 (軽く身を乗り出 して) (笑顔) 「なんで?なんで、 なんで、なんで女 がおるん?」 (笑顔、身を乗り 出して指さし) 「はい、おじゃましますよ」 D1 (笑顔) 「わ ー」 (小 声、体 をのけぞりうれし そうな表情) (1 冊目の絵本を め く る)「や だ」 (絵本を取り上げ ら れ そ う に な っ て) 「かわいい」(指さ し し て 絵 本 を 触 る)「何やってるの よー‼」(カメラに 向かって) でんしゃにのって A 「1 人で出かけた らだめだね」
の 3 つの行動指標に関しては、これまで述べた 2 冊の絵本の分析結果よりも頻度が高かった。 まず、「他の子どもを見ている」に関しては、 I 児ではこのような行動は全く認められなかっ たが、G 児と H 児と K 児はともに 38%、J 児 は 13% 認められた。 次に、「(担任の) 先生を見ている」は、J 児 で は 見 ら れ な か っ た も の の、G 児、H 児 は 38%、I 児は 25%、K 児は 13% 認められた。 さらに、「それ以外を見ている」に関しては、 H 児で 50%、G 児と I 児は 38% と比較的多く、 J 児と K 児も 13% 認められている。 『もこ もこもこ』の読み聞かせについては、 近藤・辻元 (2012) は A 児、B 児 C 児、D 児、 E 児、F 児を対象とした分析を行ったが、それ と比較すると、被験児が異なることもあって、 今回は転導性の傾向がやや高かった。 ② 分析カテゴリー「発話」に関して 「発話」カテゴリーに該当する反応は概して 少なかったと言える。 しかし、反応頻度が少なかったとはいえ、最 初の行動指標である「絵本の内容に関連した意 見表出」は、他の指標より多く認められた。す なわち、K 児では 63%、H 児では 25% 認めら れた。ただし、それ以外の被験児ではこのよう な行動は全く認められなかった。 次の行動指標である「感情表出」に関しても、 K 児では 25%、H 児では 13% 認められたが、 それ以外の被験児では認められなかった。 しかしながら、「発話」カテゴリーには「絵 本に関係のない発話」「友人と絵本のことで話 し合う」「友人と絵本と関係のないことで話し 合う」という行動指標を設けていたが、これら に該当する行動を示す被験児は 1 人も認められ なかった。 以上の「発話」に関する結果をまとめると、 絵本の内容に関連した意見表出は認められたが、 先に紹介した 2 冊の絵本の発話と比較すると、 やや反応が少なかったと言える。また、それ以 外の指標に対する反応は先に述べた 2 冊の絵本 と同様に、反応としてはほとんどなかった。 ③ 分析カテゴリー「動作」に関して 分析カテゴリー「動作」のうち「多動傾向を 示す行動」に関しては、どの被験児でも明確に 現われた。G 児と J 児は 100% の反応生起率を 示し、I 児は 88%、H 児と K 児も 75% の反応 を示した。 「動作」カテゴリーに関連した行動指標で 2 番目に多く認められたのが「対象操作を伴った 行為」であった。H 児と I 児は 100%、J 児も 38% の反応生起率を示した。ただし、G 児と K 児には該当する反応は認められなかった。 「動作」カテゴリーで 3 番目に多く認められ た反応は「感情の身体化」であった。K 児は 63% の反応生起率を示し、H 児と J 児はとも に 50% の反応が見られた。ただし、G 児と I 児は、このような行動に該当する反応は認めら れなかった。 さらに、「絵本の内容を理解した行動変化」 は、J 児 は 38%、K 児 は 25% と 顕 著 で は な かった。また、それ以外の被験児でも認められ ないか、認められても低い値であった。 最後の行動指標、「絵本の内容への拒否、無 関心を示す行動」については、どの被験児にも 認められなかった。 ④ 場面毎の感情にかかわる反応 読み聞かせの過程で聞き手の行動がどのよう に推移したかを検討する。その中でも、『もこ もこもこ』の読み聞かせで見られた感情にかか わる反応の推移を検討するために、発話カテゴ リーの「感情表出」と動作カテゴリーの「感情 の身体化」について場面毎の生起率の推移を図 3 に示した。 図 3 から、「感情表出」は場面 E と場面 I で のみ生起していることが認められる。それぞれ の場面は、「もぐもぐ」と「ぱちん」というオ 図 3 『もこ もこもこ』の感情関連反応
ノマトペが読み聞かされた場面である。「もぐ もぐ」は食べる様子を表した擬態語であり、 「ぱちん」は今までの流れを破る擬音語で、驚 きの反応を示したものである。 「感情の身体化」では、場面 C1、C2、I、C4 で高い値が認められる。C1 と C2 で値が上 がったのは B1 の「しーん」で表現される何も ないところから「もこ」(C1) とか、「もこも こ にょき」(C2) というように、何かが急に 出現した面白さが感じられる。場面 I の「ぎら ぎら」では太陽が連想され、場面 L の「ふん わ」では軽い物が空中に浮かんだ様子ととらえ どころのない絵の面白さに反応したと思われる。 そして、最後の場面 C4 の「しーん」では、新 たなはじまりへの回帰を想像させることから生 じた反応と思われる。 ⑤ 絵本の本文と子どもの発話 表 3 は『もこ もこもこ』における場面毎の 子どもの発話をまとめたものである。 表 3 から、G 児と I 児以外は何らかの発言を したり、感情反応を示したりしていることが認 められる。 H 児は、絵本の内容の変化や擬態語を楽し んでいたように思われた。先生や友達、周りを 見て笑っている。このことから、H 児は、自 分が感じた楽しさを周囲の子どもと一緒に楽し みたいという気持ちがあり、絵本の擬態語やそ れに伴う絵の変化を楽しんでいたと思われる。 J 児はときどき首を傾げるが、それ以外は 笑っている。このことは何を示しているのだろ うか。J 児は発言こそなかったが、絵本の内容 が理解できた場面では絵や音の変化の面白さに 反応して笑う。しかし、何が起きたのかわから 本文 G 児 H 児 I 児 J 児 K 児 場面 表 3 『もこ もこもこ』の本文と聞き手の発話 B2 「またもこって なった。」(笑う) 「おしまいや。」 (少し笑う) もこ C4 (文字なし) K 「こ れ 何?」 (笑 う)「三角や。」 (笑う) ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ ふんわ L 「戻った。」(笑う) しーん ぎらぎら I 「うわっ。」「三角 や。」(笑って) 「パーン。」 ぱちん! J 「四角や。」 (笑って) (指指し) (体を乗り出す) (周りに笑いか ける) ぽろり G 「ボールや。」 (少し笑う) ぷうっ H 「ぎら。太陽や。」 (笑う) (少し笑う) (首を傾げる) ぱく D (H 児を見る) 「あっは。」(笑い) 「らっこ。」 もぐもぐ E (首を傾げる) (G 児など友達 に笑いかける) つん F (少し笑う) もこもこ にょき C2 (少し笑う) もこもこもこ にょきにょき C3 「お団子や。」 (笑って体を乗 り出して) (首を傾げる) (少し笑う) しーん B1 (少し笑う) (先生の方を向 いて笑う) もこ C1 (笑う) (にこっとする) もこもこもこ A
ない場面では素直に首を傾げていたと思われる。 さらに、K 児は絵の変化を見て、自分が感 じたことを言ったり、知っている形や物に出会 うと自分の直感をそのまま口に出している。本 児は絵が変化していくことを楽しんでいた。ま た、終盤の場面で「またもこってなった」と言 い、はじめの場面との一致に気づいていた。 さて、『もこ もこもこ』は、前の場面を記 憶していないと理解が難しいということでは継 時的な絵本ではある。しかし、視覚と聴覚の対 応によって同時的な処理で楽しむ要素も持つ絵 本である。聞き手である子どもたちの反応を見 てみると、個人差が顕著であることが認められ た。絵本の内容を理解できずに楽しめない子、 場面毎の視覚と聴覚の対応だけで絵本を楽しむ 子、場面の展開を理解しながら絵と音の対応の 面白さを楽しめた子というように、絵本に対し てはいろいろな形で楽しむ様子が観察された。 今回は、一度で読んで読み聞かせを終えてい るが、筆者らの先行研究 (2011) では 2 度繰り 返して読み聞かせている。今回もこのようにす れば、1 度目の記憶があるため、余裕ができて 理解しやすくなったのではないかと思われる。 (4) 『ごろごろ にゃーん』 絵本『ごろごろ にゃーん』の読み聞かせに は G 児と H 児と I 児の 3 名が参加した。 ① 分析カテゴリー「視点」に関して まず、視点カテゴリーの「絵本・読み手を見 ている」について述べる。このような行動は、 先述した 3 冊の絵本でもそうであったように、 全員について 100% の反応生起率で絵本や読み 手を見ていることが確認された。 しかし、この絵本の場合は他の 3 冊の絵本に 比べて転導性が明確になった。特に、行動指標 である「それ以外を見ている」に関しては、G 児、H 児、I 児はそれぞれ 58%、67%、58% を 示しており、絵本や読み手以外も見ていたこと が明らかである。このような結果は、絵本に集 中できなかったことを示している。 次に絵本・読み手以外を見ることが多かった のは「(担任の) 先生を見ている」であった。 H 児は 75% もの反応生起率が認められ、絵本 に集中できずに担任の先生を見ることが多く なったことを示している。G 児や I 児でも 17% の生起率を示している。 さらに、「他の子どもを見ている」に関して は、G 児で 17% 認められているが、H 児と I 児ではこのような行動は見られなかった。 ② 分析カテゴリー「発話」に関して 分析カテゴリー「発話」には、「絵本の内容 に関連した意見表出」をはじめとして 5 つの行 動指標を設けた。しかし、いずれの行動指標に おいても 3 名の被験児は発話に関した反応を示 すことはなかった。 さて、この 3 名について『もこ もこもこ』 の読み聞かせで発話行動はどうだったかを調べ てみたところ、G 児と I 児は何も発話していな いが、H 児は『もこ もこもこ』では所々の 場面で絵本内容に呼応して発話している。絵本 『ごろごろ にゃーん』で発話に関連した行動 が認められなかったことが何を意味するのか、 以後の分析を含めて考える必要がある。 ③ 分析カテゴリー「動作」に関して 「動作」に関する行動指標には、5 つの行動 指標を設けたが、『ごろごろ にゃーん』の読 み聞かせで顕著だった行動は、「多動傾向を示 す行動」と「対象操作を伴った行為」であった。 まず、「多動傾向を示す動作」は 3 名全員 に認められ、しかも高頻度であった。G 児は 100%、H 児は 83%、I 児は 75% と、高い反応 生起率を示した。3 名に共通していた特徴は、 体や足を動かす動作が多かったことである。 次に、「対象操作を伴った行為」に関しては、 H 児と I 児に認められた。I 児は 100% の率で 認められているが、これは自分の腕を触る行為 によるものである。また、H 児は 75% の率で 自分の首や顔を触る行為が認められた。 なお、これ以外の行動指標である「感情の身 体化」「絵本の内容を理解した行動変化」「絵本 の内容への拒否、無関心を示す行動」について は、3 名とも該当する反応は認められなかった。 さて、この 3 名について、先に述べた『もこ もこもこ』の読み聞かせ時の「動作」カテゴ リーへの反応と比較してみると、今回『ごろご ろ にゃーん』で観察された多動傾向を示す動 作や対象操作を伴った行為がより顕著であると は言えず、どちらの絵本の読み聞かせでも高い
頻度であったという点で共通していると言える。 それでは、2 冊の絵本への反応で異なるとこ ろは何か。それは「感情の身体化」である。H 児は『もこ もこもこ』では絵本の内容に呼応 して自己の感情の高まりを表現していた。しか し、『ごろごろ にゃーん』になると、H 児は G 児と I 児と同様に、全くそのような反応を示 さなかった。この理由については、絵本の内容 と被験児の理解について詳しく検討してみる必 要がある。 ④ 場面毎の感情にかかわる反応 『ごろごろ にゃーん』の読み聞かせの過程 で感情に関連した反応の推移を検討するために、 「感情表出」と「感情の身体化」について場面 毎の生起率の推移をみたが、どの場面でも感情 関連反応は認められなかった。したがって、結 果を図示することは省略するが、これは他の 3 冊と大きく異なる結果となった。 ⑤ 絵本の本文と子どもの発話 表 4 は『ごろごろ にゃーん』における場面 毎の子どもの発話をまとめたものである。 表 4 より、3 人ともに目立った発話や動作が 全くなく、この絵本に対する反応はほとんどな かったことが伺える。この絵本は、ほとんどの 場面で「ごろごろ にゃーん」が何の変化もな く繰り返えされており、ストーリーの説明に関 係した文はほとんどない。また、絵とオノマト ペの対応もある訳ではない。したがって、聞き 手は絵の変化だけに注目し、ストーリーの展開 を理解しなければならない。 本文 絵の説明 G 児 H 児 I 児 場面 表 4 『ごろごろにゃーん』の本文および絵の説明と聞き手の発話 人の手が出現するが,すり抜けて飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B15 猫は飛行機を降りてボートに乗って帰る ごろごろ にゃーん ただいまー。 C1 鉄橋の下をくぐり抜けて飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B12 ジャンボジェットの横を飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B13 夜の森の上を飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B14 B9 たくさんの犬に吠えられる ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B10 1 匹の犬が飛行機の尾翼に噛みつく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B11 UFO に追いかけられる ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B7 寝ているヘビの上を飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B8 ビルが立ち並ぶ都会を飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます 捕った魚を猫は嬉しそうに食べる ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B4 クジラに飛行機は追いかけられる ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B5 嵐の山岳地帯を飛んでいく ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B6 B1 飛行機の窓から猫の顔 ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B2 飛行機から魚釣りをする ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます B3 (表紙) ごろごろ にゃーん A1 (中表紙) ごろごろ にゃーん A2 猫はボートから飛行機へ ひこうきは ごろごろ,ねこたちは にゃーん にゃーん ないています
この絵本ではオノマトペを手がかりにしてこ の絵本の展開を理解することはできない。絵本 の展開を理解するには、絵を注意深く見て、そ の場の状況を把握しなければならないだろう。 また、魚の形をした飛行機が場面毎に大きく描 かれたり小さく描かれたりしているため、それ らは一貫して同じ物であるという認識 (形の類 同視) をもつことは困難だったかもしれない。 しかしながら、この絵本の読み聞かせでは 1 歳児や 2 歳児でも楽しめると一般に言われてい るのはなぜか。それは、1、2 歳の幼児では場 面毎に出現する物との出会いを楽しむことがで きるからだろう。絵本ではクジラや UFO や蛇 や犬、などが登場するが、1、2 歳児にとって は飛行機との大小関係や場面のつながりを考え るよりも、登場した動物や乗り物の出現そのも のが楽しいのであろう。 それが 3 歳を過ぎると、物語の展開をとらえ ようとする傾向が現われる。この絵本は、物語 の構造としては〈行きて帰りし物語〉形式を とっており、安定した構造をもっている。しか し、話の筋を追うことに一生懸命になると、場 面毎の面白さは理解できなくなるだろう。この 絵本で起こる出来事は奇想天外なことばかりで ある。例えば、飛行機から猫が釣りをする、ク ジラに飛行機が飲み込まれそうになる、一匹の 犬が魚型飛行機の尾翼に噛みつく、などの出来 事が起こる。この絵本を面白いと思えるかどう かは、話の筋を理解するよりも、個々の出来事 を自由な心で楽しめるかどうかにかかっている。 子どもが日常知をもとにして物語の筋を理解し ようとすれば、その面白さは理解できなくなる 可能性がある。 読み聞かせの対象とした被験児の G 児と H 児と I 児は生活年齢でそれぞれ 5 歳 7 か月、4 歳 1 か月、4 歳 7 か月である。発達年齢として は、それぞれ 2 歳 8 か月、3 歳 2 か月、3 歳 2 か月である。子ども達が、この絵本を楽しめな かった理由は、発達年齢の問題だけだったのだ ろうか。おそらく、そうではないであろう。彼 らがかかえる障害や読み手の読み方の問題が関 係したと思われるが、この問題については考察 のところで検討することにしたい。 さて、この絵本ではオノマトペが絵本の展開 についての理解を促すものではなかったと述べ たが、それではこの絵本のなかではオノマトペ がどのような働きをしていたのだろうか。それ は、おそらく冒険旅行中の背景音楽だったので は な い か。冒 険 旅 行 の 全 過 程 で「ご ろ ご ろ にゃーん」という背景音楽が奏でられたことで、 辺りの静けさが感じられたと思われる。つまり、 魚の形をした飛行機が発する音以外には聞こえ ない天空の静けさを表現していたと考えられる。 4.考 察 さて、本研究の第 1 の目的は、絵本表現のな かでオノマトペがどのような働きをしているの か、について明らかにすることであった。 この点に関して、絵本の読み聞かせで明らか になったことは次の点である。すなわち、絵に 対応させる最も相応しい言葉としてオノマトペ 以外にはないという場面でそれが使われている ことである。つまり、1 場面毎に見た場合、視 覚と聴覚の対応という点で、オノマトペが両者 の関係を感覚的にとらえやすくしている。 このことは、『もこ もこもこ』で特に明ら かである。すなわち、『もこ もこもこ』では、 地面が少し隆起し始めた絵には「もこ」という 文が当てられ、別の場所からでた異なる形の隆 起を示す絵には「にょき」という文が当てられ ている。同じ隆起でも「もこ」と「にょき」の 違いによって隆起の様子がリアルにとらえられ る。特に、幼児や発達障害をもつ子どもの場合 は、視覚に対する注意が弱くてもオノマトペの 呈示によってそのような弱さは補われるものと 思われる。 さて、絵本におけるオノマトペの働きはそれ 以外にもあるだろう。それは、既に述べた特定 の 1 場面の理解という点で効果があるだけでな く、場面の連続のなかでオノマトペが果たす役 割である。つまり、人や物の変容について、運 動や時間を表現するうえでオノマトペが使われ ていることである。 このことについては、『きたきた うずまき』 で明らかである。「くるりん/くるくる」から 「くるるる くるるる/くるくる くるりん」 になり、「くるりん くるくる くるるる/ぐ
るるる ぐるぐる ぐるりん」へと変化してい る。このような変化は、渦巻きが益々激しく 回っている様子をよく表現していると思われる。 また、『もこ もこもこ』でも、「もこ」の場面 から「もこもこ」の場面への変化は運動や時間 をうまく表現していると言えるだろう。 上で述べたような連続した場面で作用するオ ノマトペの効果は、時間や運動を表現するとい うだけで言い尽くせたのだろうか。次のような 場合を考えると、他の効果があると言えるだろ う。すなわち、場面が連続していなくても、意 味的にまとまりがあるエピソードの区切りにオ ノマトペが入れられると、そこに異なる効果が 生み出される。それは、『でんしゃにのって』 で見られた「ガタゴトー」がそれである。この 「ガタゴトー」によって、1 つのエピソードが 完結したことを示していると言えるだろう。 それでは、絵本におけるオノマトペの効果は 上であげた 3 点と考えてよいのだろうか。今回 は限られた 4 冊の絵本しか取り上げていない。 しかし、この 4 冊の絵本に限っただけでもオノ マトペの作用については言い尽くせていないよ うな気がする。なぜならば、ここまで述べた内 容には『ごろごろ にゃーん』で述べたオノマ トペの効果が含まれていないからである。 既に、絵本『ごろごろ にゃーん』における 独創的な「ごろごろ にゃーん」というオノマ トペは冒険旅行中の背景音楽だったのではない かと考えた。つまり、ここで使われたオノマト ペの繰り返しは場面の理解には影響しないが、 状況にまつわる雰囲気が表現されている。この ような雰囲気は物語全体に流れているものであ り、それを言葉で「静かな空を飛んでいきます」 と表現しないところに芸術性があるのだろう。 以上、本研究の第 1 の目的、つまり、絵本に おけるオノマトペの働きは 4 つあることが明ら かになった。ここでは、それらをまとめておく ことにする。 まず、その 1 つは、オノマトペは場面の絵 (視覚) に音 (聴覚) を対応させるうえで感性 的に最も適合した言葉となっていることである。 第 2 は、人や物の変容について、運動や時間 をうまく表現するうえでオノマトペが使われて いることである。 第 3 は、意味的にまとまりがあるエピソード の区切りにオノマトペが入れられると、1 つの エピソードに区切りがついたことを示す働きが あることである。 第 4 は、同じオノマトペの繰り返しが背景音 楽効果をつくりだし、状況がはらむ雰囲気など を伝える働きがあることである。 以上は絵本におけるオノマトペの主な働きを 示したものと言えるが、読み聞かせを通して分 析した絵本が限られていることもあり、これで オノマトペの働きを言い尽くせたと言い切れな いかもしれない。今後、この点についてさらに 検討していくことは興味深いことと思われる。 さて、本研究の第 2 の目的は ADHD をはじ めとする発達障害の場合、絵本の読み聞かせに おけるオノマトペの作用において何らかの特殊 性があるのか、あるとすればそれは何なのか、 について明らかにすることであった。 この 2 つ目の目的に関連したことで述べなけ ればならないことは、絵本『ごろごろ にゃー ん』への発達障害児の反応である。既に結果で 述べたように、この絵本の読み聞かせの過程で は「感情表出」や「感情の身体化」はどの場面 でも認められなかった。 また、この絵本のオノマトペの効果について は、「ごろごろ にゃーん」が場面毎の絵と対 応したものではなく、冒険旅行中の背景音楽 だったのではないかと考えられた。このような ねらいがあったにもかかわらず、発達障害児で はそのような効果が発揮されなかった。 その理由は何だろうか。このことについて考 えられたことは、絵を細部まで注意して見な かったために面白いと感じられなかったのでは ないかと考えた。また、大きく描かれたり小さ く描かれたりする魚形の飛行機を同一の物とし て認識 (形の類同視) するのが困難だったこと も考えられた。 しかし、上で述べたような「細部への注意」 や「形の類同視」の困難は、発達年齢の低さだ けでなく、彼らがかかえる障害が関係している のではないか。ここでは、この問題についてさ らに検討することにしたい。 対象とした 3 名のうち、G 児は精神発達遅滞 があり、H 児と I 児は広汎性発達障害の傾向が
ある。レヴィン (1957) の研究によれば、精神 発達遅滞には「硬さ」で表現される人格構造の 特徴があり、柔軟性に乏しいことが心的飽和現 象をみた実験で明らかにされた。また、広汎性 発達障害は、「社会性の障害」、「コミュニケー ションの障害」に併せて「想像力の障害」があ るとされてきた。被験児がもつ「想像力の障 害」が読み聞かせの過程で表面化したとすれば、 この絵本がもつ面白さを感じることは難しかっ たと推察される。 しかし、発達障害をもつ子どもの場合は、先 に述べた「硬さ」や「想像力の障害」に併せて、 より基本的なところでは「注意の障害」がある。 もし、このような障害があれば、絵本のいくつ かの場面で表現されていた大小関係の意味が理 解できていたかどうかが疑問である。すなわち、 〈大きなクジラに飲み込まれそうになる小さな 魚型飛行機〉であるとか、〈大きな魚型飛行機 の尾翼に噛みついた小さな犬〉などを描いた場 面において、大きく描かれた絵は注視するだろ うが、小さく描かれた絵への注意が困難ではな かったか。なぜならば、そのような大小のコン トラストが大き過ぎるからである。 視覚刺激に対する注意の問題があったとすれ ば場面毎の面白さは伝わらないだろう。それで は、読み手に求められる配慮は何だったのか。 それは、発達障害をもつ子どもにこのような絵 本を読み聞かす場合には見逃しやすい小さな刺 激を指でさすなどの配慮が必要だったのかもし れない。この点で、西郷 (1979) が絵本の読み 聞かせで大事なところは指さしすることを勧め ていることは参考になる。 『ごろごろ にゃーん』の読み聞かせにおい て、読み手が注意すべきそれ以外のことはな かったのだろうか。上で述べたこととも関係す るが、聞き手の認知の速度を配慮してページを めくることが必要だったのではないだろうか。 こ の 点 で は、読 み 手 は 見 開 き で「ご ろ ご ろ にゃーん」と読む以外はないので、ややもすれ ば聞き手が理解しようがしまいが、ページをど んどんめくってしまいかねない。これでは、読 み聞かせの過程で求められる読み手と聞き手の 相互性は生まれないだろう。 さらに言えば、読み手の表情も大事ではない だろうか。つまり、読み手自身が場面毎に起こ る事件に驚きをもって表情豊かに読み聞かせて おれば、聞き手もどこにそのような面白さがあ るのかを探そうとするだろう。絵本の読み聞か せは読み手と聞き手の相互作用で成り立つ。そ のことが考察するなかで改めて明らかになった。 絵本の読み聞かせとは、まさに奥の深いもので あることを感じずはいられない。 文 献 長 新太作 1984 『ごろごろにゃーん』福音館書店. 近藤文里・元千佳子 2007 絵本の読み聞かせに 関する基礎研究と ADHD 児教育への応用 (3) ―― 5 歳前半児と 5 歳後半児の聞き手の比較 ―― 滋賀大学教育学部紀要,第 57 号,27-38. 近藤文里・元千佳子 2008 絵本の読み聞かせに 関する基礎研究と ADHD 児教育への応用 (6) ―― 絵本の読み聞かせ実践者へのアンケート調 査 ―― 滋 賀 大 学 教 育 学 部 紀 要,第 58 号, 17-29. 近藤文里・元千佳子 2011 絵本の選択が ADHD 児の読み聞かせに及ぼす効果についての研究 (4) ―― 繰り返し読み聞かせることの意義につ いて ―― 滋賀大学教育学部附属教育実践指導 センター紀要,第 20 巻,9-15. レヴィン,K.1957 相良守次・小川 隆訳『パー ソナリティの力学説』岩波書店. 元永定正作 2005 『きたきた うずまき』福音館書 店. 西郷竹彦 1979 『絵本の指導』黎明書房. 谷川俊太郎作・元永定正絵 1977 『もこ もこも こ』文研出版. 豊田一彦作 1997 『でんしゃにのって』アリス館. 蘇 懿禎・甲斐聖子・石井光恵 2010 赤ちゃん絵 本とオノマトペ 日本女子大学大学院家政学 研 究 科・人 間 生 活 学 研 究 科 紀 要,第 16 号, 1-11.