論文の内容の要旨
氏名:染 井 千 佳 子 専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:Expression of BDNF and TrkB in Gingival Inflammation (炎症性歯肉の BDNF および TrkB の発現)
脳由来神経栄養因子(BDNF)およびその受容体である TrkB は、成長因子からなる神経栄養因子ファミリ ーに属し、脳における重要な生理学的機能を調節する。BDNF と TrkB は神経栄養因子の一つで未分化な神経 細胞の生存維持や分化促進を有し、非神経組織においても発現し細胞の増殖、分化あるいは生存の制御に 関わっている。また、異常な神経栄養因子によるシグナル伝達が基盤となって種々の炎症状態が発生する。
この事から、我々は予備実験でヒト歯肉上皮細胞に BDNF を添加し炎症性サイトカインが上昇していること を確認した。
そこで、ヒトの炎症組織における BDNF と TrkB の発現パターンならびに実験用ラットの歯周組織における BDNF と TrkB の発現を解析した。
その結果、BDNF と TrkB の発現レベルは、健康なヒトの歯肉組織よりも歯周炎患者の歯肉組織において高 いことが証明された。また、ラットを用いた in vivo 試験では、実験用ラットの炎症性歯肉組織でも BDNF と TrkB の発現が増加することが示された。ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)およびヒト歯肉上皮(HGE)細胞に 炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)を作用させる事により BDNF と TrkB の mRNA の 高い発現を認めた。また、HGF による BDNF の発現は、IL-1βの存在下で増加されることが ELISA で確認さ れた。iNOS の特異的阻害物質である S-メチルイソチオ尿素硫酸塩(SMT)を添加すると、HGF における BDNF の産生が大幅に減少した。
このことから、炎症のメカニズムに iNOS が関与している事や、iNOS 阻害剤により BDNF およびその受容 体である TrkB の発現が減少したことから iNOS と BDNF、TrkB は、歯肉の炎症において相関関係にある事が 示唆された。