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小児尿路感染症に関する臨床的・細菌学的検討 1)

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(1)

小児尿路感染症に関する臨床的・細菌学的検討

1)千葉県こども病院感染症科,2)千葉大学大学院医学研究院小児病態学,3)千葉県こども病院検査科

星野 直

1)2)

石和田稔彦

2)

阿部 克昭

1)2)

澤田 恭子

3)

河野 陽一

2)

(平成 18 年 3 月 28 日受付)

(平成 18 年 8 月 9 日受理)

Key words : Urinary tract infection, Escherichia coli, MIC, child

小児尿路感染症 120 例の臨床背景,ならびに起炎菌として頻度の高い大腸菌の抗菌薬感受性を中心に検討 を行った.大腸菌は 98 例(81.7%)より分離されており,単純性尿路感染症 50 例の全起炎菌を占めた.大 腸菌性尿路感染症 98 例のうち,71 例が第 2 世代セフェムで治療されていたが,その治療効果は第 3,4 世 代セフェムと同等であった.セフェム系抗菌薬の大腸菌に対する MIC50,MIC90(µg!mL)は,cefazolin 2,

4,cefmetazole"0.5,2,ceftazidime"0.25,"0.25 と第 2 世代セフェムの感受性も保たれており,またい ずれも経年的な感受性の低下は認められなかった.なお,ceftazidime を含む第 3 世代セフェムに対する MIC が 2µg!mL 以上に上昇した株を 6 株認めており,今後の薬剤耐性化の動向には注意が必要と思われた.

〔感染症誌 81:6〜11,2007〕

小児尿路感染症は日常診療で比較的遭遇することの 多い細菌感染症である.泌尿器科的基礎疾患を伴わな い単純性尿路感染症では大腸菌の分離頻度が高く,治 療に難渋する症例も多くはない.しかし,近年大腸菌 のなかに基質拡張型βラクタマーゼ(Extended spec- trum β-lactamase:ESBL)産生株が検出されるよう になり,その薬剤耐性機構に若干の変化が見受けられ る.今回,当院開設後の 16 年間の尿路感染症例につ いてまとめ,大腸菌の薬剤感受性を中心とした検討を 行ったので報告する.

対象と方法

1988 年 10 月〜2004 年 9 月に,千葉県こども病院感 染症科に入院した市中感染による尿路感染症患者 120 例(再発例を除く)を対象に,臨床的・細菌学的背景 について検討した.また,大腸菌性尿路感染症につい ては,分離菌に対する抗菌薬感受性,ならびに治療抗 菌薬に関する検討を行った.さらに,治療経過中抗菌 薬の変更のなかった大腸菌性単純性尿路感染症 46 例 に,千葉大学小児科で入院治療を受けた同様の 8 例を 加えた 54 例については,第 2 世代セフェム,第 3,4 世代セフェムによる治療効果について比較検討した.

抗菌薬感受性は日本化学療法学会標準法に準拠した微 量液体希釈法により最小発育阻止濃度(Minimal in- hibitory concentration:MIC)を測定した.測定対象 抗菌薬は ampicillin(ABPC),cefazolin(CEZ),cefmeta- zole(CMZ),ceftizoxime(CZX),ceftazidime(CAZ),

cefpirome(CPR),imipenem!cilastatin(IPM!CS),

panipenem!betamipron(PAPM!BP),gentamycin

(GM),そ し て norfloxacin(NFLX)の 10 薬 剤 と し た.なお,薬剤により MIC の測定時期が若干異なる も の が あ り,IPM!CS は 1998 年 ま で,CPR,NFLX は 1994 年 以 降,PAPM!BP は 1999 年 以 降 の 測 定 で あった.治療効果の比較における有意差の検討には t 検定を用いた.

1.基礎疾患

全 120 例の平均 年 齢 は 1 歳 8 カ 月(13 日〜16 歳 1 カ月)で,男児 75 例,女児 45 例と男児を多く認めた.

基礎疾患を伴う複雑性尿路感染症は 70 例,伴わない 単純性尿路感染症は 50 例であった.これらの男女比 は,複雑性が男児 38 例,女児 12 例,単純性がそれぞ れ 37 例,33 例であり,複雑性における男児の比率が 高かった.基礎疾患は重複例を含め延べ 83 例認めた が,その内訳は膀胱尿管逆流症が最多で 54 例,以下 水腎症,二分脊椎+神経因性膀胱が各 8 例,重複腎盂

別刷請求先:(〒266―0007)千葉市緑区辺田町 579―1

千葉県こども病院感染症科 星野 直

(2)

Fig. 1 Underlying disease of83 casesofcomplicated uri nary tractinfection.

尿管 4 例,尿管瘤,萎縮腎各 3 例であった(Fig. 1).

2.起炎菌

起炎菌は大腸菌 98 例(81.7%),Klebsiella pneumoniae 5 例(4.2%),Pseudomonas aeruginosa 3 例(2.5%),

Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA), Methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis(MRSE), Enterococcus faecalisMorganella morganii 各 2 例

(1.7%),その他 6 例(5.0%)であった.単純性の 50 例は全て大腸菌によるものであり,非大腸菌例はいず れも複雑性であった(Fig. 2).なお,大腸菌による 6 例で血液培養が陽性となり,うち 1 例は髄膜炎を合併 した.

3.大腸菌に対する抗菌薬感受性

CEZ,CMZ,CAZ,CPR のセフェム 4 薬剤に,ABPC,

PAPM!BP,GM,NFLX を加えた計 8 薬剤の大腸菌 に対する感受性分布と,MIC 累積百分率の変化を示 す(Fig. 3,4).MIC50,MIC90(µg!ml)は,そ れ ぞ れ順に CEZ 2,4,CMZ"0.5,2,CAZ"0.25,"0.25,

CPR "0.25,"0.25,ABPC 4,#16,PAPM!BP "

0.5,"0.5,GM 1,2,NFLX"0.5,"0.5 であり,CAZ,

CPR,PAPM!BP,NFLX が優れた MIC を示すとと もに,第 2 世代セフェムである CMZ の感受性も比較 的保たれていた.累積百分率の比較では,いずれも明 らかな感受性の低下は認められなかった.なお,第 3 世代セフェムの MIC が 2〜8µg!mL と高値を示す株 が 6 株分離されていた(Table 1).

4.大腸菌性尿路感染症に対する治療抗菌薬 治療抗菌薬は第 1 世代セフェムが 1 例(CEZ),第 2 世代セフェムが 71 例(cefotiam(CTM)62 例,CMZ 9 例),第 3,4 世代セフェム 21 例(cefotaxime 11 例,

ceftriaxone(CTRX)4 例,CZX 3 例,CAZ 1 例,CPR 2 例),その他 5 例であり,主に第 2 世代セフェムが 用いられていた.

5.大腸菌性単純性尿路感染症における治療効果の 比較

治療開始から解熱までに要した日数は,第 2 世代セ フェムを用いた 36 例で 1.3 日,第 3,4 世代セフェム を用いた 18 例で 1.5 日であり,有意な差は認められ なかった(p=0.374,Fig. 5).

小児尿路感染症は,そのほとんどが上行性感染によ り生じるため,起炎菌は主に腸内細菌科のグラム陰性 桿菌が占める.なかでも,大腸菌の分離頻度が最も高 く,多少の幅はあるものの,その頻度は 60〜90% 弱 と報告されている1)〜3).本検討における大腸菌の分離 頻度も,全体の 81.7%,単純性尿路感染症の 100% で あり,本疾患の治療にあたりまず念頭に置くべき起炎 菌であると考えられる.

対象期間内に,大腸菌に対する各種抗菌薬の感受性 に低下傾向は認められなかった.しかし,Table 1に 示したように第 3 世代セフェムの MIC の上昇した株 が 6 株分離されていた.分離された時点では,クラブ ラン酸添加試験や ESBL 遺伝子の検出は実施してお らず,このなかに ESBL 産生株が含まれていたか否 かは不明である.しかし,NCCLS により規定された CAZ の break point に あ た る 32µg!mL4)に 迫 る MIC を示すような高度耐性株は今回分離されておらず,実 際にいずれの症例も第 2 世代セフェム,あるいは第 3,

4 世代セフェムにより治療に難渋することなく軽快し ていた.ただし,ESBL 遺伝子はプラスミドにより菌 種を超えて伝達されるため5),特に院内感染の原因と して問題視されており6),急速に増加する可能性を秘 めている.すでに,小児例を含め ESBL 産生大腸菌 による尿路感染症例が報告されており7)8),今後の抗菌 薬感受性の動向には注意を要する.

日本感染症学会・日本化学療法学会より刊行されて いる抗菌薬使用のガイドラインでは,乳幼児の尿路感 染症に対する静注抗菌薬として,第 2 世代,第 3 世代 セフェムの使用が推奨されている9).当院においても,

泌尿器科的基礎疾患を伴うことが明らかな例を除き,

基本的に第 2 世代セフェムで治療を開始している.単 純性尿路感染症では大腸菌の分離頻度が高いと同時 に,大腸菌に対する第 2 世代セフェムの感受性は保た れており,さらに他のセフェムと同様に高い腎排泄率 を有するためである.当然ながら,第 3 世代セフェム に比べ抗菌スペクトラムが狭いことにも配慮してい る.今回,第 2 世代セフェムと第 3,4 世代セフェム 使用例の間で,治療開始から解熱までの期間を比較し たが,それぞれ 1.3 日,1.5 日と有意な差はなく,第 2 世代セフェムは第 3,4 世代セフェムに劣らない治療 効果を示した.

対象患者のうち,血液培養陽性例,すなわち敗血症 合併例を 5 例(4.2%)認め,生後 11 カ月の 1 例を除

(3)

Fig. 2 Pathogensin 120 casesofurinary tractinfection.

Fig. 3 Percent distribution ofantimicrobialsusceptibilities for 98 strains of Escherichia coli.CEZ:cefazolin;CMZ:cefmetazole;CAZ:ceftazidime;

CPR:cefpirome;ABPC:ampicillin;PAPM/BP:panipenem/betamipron;

GM:gentamycin;and NFLX:norfloxacin.

きいずれも 3 カ月以下の乳児例であった.さらに,生 後 1 カ月の 1 例は髄膜炎を合併した重症例であった.

この例では,CTM で治療を開始したものの,治療開 始翌日に髄膜炎の合併が判明したため,大腸菌に対す

(4)

Table 1 Onset(year) , antimicrobial susceptibilities and clinical backgrounds of 6 cases of isolated E.coli with high-MIC of third-generation cephems(≧ 2μg/mL)

Underlying disease Antibiotics

MIC(μg/mL)

Year CEZ CMZ CZX CAZ CPR IPM/CS NFLX

CTX-CPR

ND 0.5

ND 2

0.25 0.5

2 1989

VUR,DD CTM

ND 0.5

ND 2

0.25 2

2 1993

CTM

ND 0.5

ND 2

0.25 4

2 1993

VUR CTM-CPR

_

0.5

_

0.25

_

0.25 4

8 8

> 16 1997

VUR,DD,NB CTX-CPR

_

0.5

_

0.25

_

0.25 2

2 16

> 16 1998

VUR CTM

2

_

0.25

_

0.25 1

4 4

16 2001

CEZ:cefazolin;CMZ:cefmetazole;CZX:ceftizoxime;CPR:cefpirome;IPM/CS:imipenem/cilastatin;NFLX:norfloxacin;ND:

not done;VUR:vesicoureteralreflux;DD:double pelvis and double ureter;and NB:neurogenic bladder.MIC panipenm/betamipron.

Fig. 4 Comparison of cumulative MICs for E. coli between 1989-1995(35 strains),1996-2000(26 strains),and 2001-2004(35 strains).CEZ:cefazolin;

CMZ:cefmetazole;CAZ:ceftazidime;CPR:cefpirome;ABPC:ampicillin;

PAPM/BP:panipenem/betamipron;GM:gentamycin;and NFLX:norfloxacin.

る抗菌力が優れ,かつ髄液移行が良好な CTRX に変 更し,後遺症なく治癒した.尿路感染症における血液 培養陽性率に関する報告として,生後 3 カ月以下で

10%10),生後 2 カ月未満で 22.7%11)とするものもあり,

本検討においても 3 カ月以下の 44 例に限定すると 9.1% と高率であった.CMZ の大腸菌に対する MIC90

(5)

Fig. 5 Comparison of fever duration between patients treated with second-generation cephemsand third and fourth-generation cephems. CTM:cefotiam;CMZ:

cefmetazole CTRX ceftriaxone CTX :cefotaxime CZX ceftizoxime CAZ ceftazidime and CPR:

cefpirome.

は 2µg!mL であり,全身感染症の治療薬としての抗 菌力は十分とは言えない.したがって,敗血症合併の 頻度が高い新生児や早期乳児例に対しては,初期治療 薬として第 3 世代セフェムの投与も考慮する必要があ る.また,今後第 3 世代セフェムに対する耐性をも獲 得した ESBL 産生株が増加するようなことがあれば,

カルバペネムや小児に対し使用制限のあるニューキノ ロンの使用頻度が増加する可能性もある.現時点では,

特に単純性尿路感染症に対しては第 2 世代セフェムで 治療開始することが適切と考えているが,臨床背景や 薬剤耐性化の動向を踏まえた抗菌薬の選択も必要かと 思われる.

文 献

1)Marcus N, Ashkenazi S, Yaari A, Samra Z, Livni G:Non-Escherichia coli Versus Es- cherichia coli Community-Aquired Urinary Tract Infections in Children Hospitarized in a Tertiary Center. Pediatr Infect Dis J 2005;24:

581―5.

2)Ashkenazi S, Even-Tov S, Samra Z, Dinari G:

Uropahogens of Various Childhood Populations

and Their Antibiotic Susceptibility. Pediatr In- fect Dis J 1991;10:742―6.

3)Prais D, Straussberg R, Avitzur Y, Nussinovitch M, Harel L, Amir J:Bacterial Susceptibility to Oral Antibiotics in Community Acquired Uri- nary Tract Infection. Arch Dis Child 2003;88:

215―8.

4)National Committee for Clinical Laboratory Standards:Performance standards for antimi- crobial susceptibility testing (M100-S13) 6th in- formation supplement. January 2003.

5)Chanal C, Sirot D, Romaszko JP, Sirot J:Sur- vey of Prevalence of Extended Spectrum β- Lactamases among Enterobacteriaceae. J An- timicrob Chemother 1996;38:127―32.

6)Yagi T, Hiroshi K, Senda K, Ichiyama S, Ito H, Ohsuka S,et al.:Nosocomial Spread of Cephem- Resistant Escherichia coli Strains Carrying mul- tiple Toho-1-Likeβ-Lactamase Gene. Antimicrob Agents Chemother 1997;41:2606―11.

7)伊藤重彦,中村司朗,村谷哲郎,松本哲朗:Tazo- bactam!piperacillin が 有 効 で あ っ た ESBL 産 生 大腸菌による急性腎盂腎炎の 1 例.日化療会誌 2003;51:347―51.

8)秋葉伴晴,池田博行,金井雅代,笹 真一,鳥

谷部美弥,坂本美千代,他:CTX-M-9 型βラク タマーゼ産生大腸菌による尿路感染症の 1 小児 例.小児科臨床 2005;58:843―6.

9)砂川慶介:II-5 小児感染症:日本感染症学会,日 本化学療法学会編,抗菌薬使用の手引き.協和 企画,東京,2005;p. 141―145.

10)Newman TB, Bernzweig JA, Takayama JI, Finch SA, Wasserman RC, Pantell RH:Urine testing and urinary tract infections in febrile in- fants seen in office settings:the Pediatric Re- search in Office Settingsʼ Febrile Infant Study.

Arch Pediatr Addresc Med 2002;156:44―54.

11)Pitetti RD, Choi S:Utility of blood cultures in febrile children with UTI. Am J Emerg Med 2002;20:271―4.

(6)

Clinical and Bacterial Analysis of Pediatric Urinary Tract Infection

Tadashi HOSHINO1)2), Naruhiko ISHIWADA2), Katsuaki ABE1)2), Kyoko SAWADA3)& Yoichi KOHNO2)

1)Division of Infectious Diseases, Chiba Childrenʼs Hospital,

2)Department of Pediatrics, Chiba University Graduate School of Medicine,

3)Division of Clinical Laboratory, Chiba Childrenʼs Hospital

We analyzed the clinical and bacterial backgrounds of 120 patients with pediatric urinary tract infection (UTI).Escherichia coli was the main pathogen recovered from 98 patients (81.7%). All causative agents iso- lated from 50 uncomplicated UTI cases wereE. coli. Of 98 cases ofE. coliUTI, 71 were treated with second- generation cephems, whose therapeutic effect was equal to that of third and fourth-generation cephems.

MIC50 and MIC90(µg!mL) for E. coliwere as follows : cefazolin : 2, 4 ; cefmetazole :"0.5, 2 ; and ceftazidime :"0.25,"

0.25. Yearly decline in susceptibility was not observed, but MIC elevation for third generation cephems (#2µg!mL) including ceftazidime was seen in six isolates. Careful monitoring of susceptibility trends is therefore necessary for appropriate antimicrobial therapy.

Tabl e 1 Onset(year)  ,  anti mi crobi al  suscepti bi l i ti es and cl i ni cal  backgrounds of  6 cases of  i sol ated  E

参照

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