合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会 的背景 その2 昭和53年以降について
その他のタイトル Development of the consumerism and its social background in case of synthetic detergents
著者 高木 修, 坂口 哲司
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 12
号 1
ページ 89‑141
発行年 1980‑12‑20
URL http://hdl.handle.net/10112/00022876
合成洗剤問題に対する消費者運動の 展開とその社会的背景
—その 2
昭和53 年 以 降 に つ い て _
高 木 修 ・ 坂 口 哲 司
は じ め に
I
合成洗剤追放運動の変遥
1 昭和53年ー一官民一体による合成洗剤追放の素地が形成される段階—
2 昭和54
年ー一積年の合成洗剤追放運動の結実の第一段階
(滋賀県琵琶湖条例制定をめぐって)_
3
昭和5
5年前期一一積年の合成洗剤追放運動結実の第二段階
(滋賀県琵琶湖条例をめぐる自治体の動向)ー一
n
運動特性に基づく分類と変遷過程
は じ め に
本稿は,我々が行なった前回の報告(註 1) の続きである。我々はこの一連の研究において,
長い運動の歴史を有し,代表的な消費問題とされている合成洗剤問題に焦点を絞ってきた。そし て , この問題に対する消費者運動を跡付け,運動の特性と変遷過程を明らかにするとともに,そ の背景となった社会的出来事の強い影響を解明しようとしている。
前回の報告で我々は,各年ごとの合成洗剤追放運動を整理し,その特性と変遷過程から次のよ うに各年を命名した。
1 . 昭和47 年:合成洗剤の諸問題の認識と追放運動の創世の段階
2.昭和48 年:個別運動から連合運動への発展の段階
3.
昭和49 年:バニックによる運動の停滞と全国的規模の運動への加速の段階
4.昭和5
0年:業界・行政官庁の消費者団体への対応の段階
5.
昭和
51年:業界・行政官庁の巻き返しの段階
6.
昭和
52年:合成洗剤追放運動の質の充実と国民的運動への飛朔の段階
以上のような合成洗剤追放運動の変遷過程を踏まえて,本稿では,昭和53 年
1月から昭和5
5年
6月末までの合成洗剤追放運動を跡付け,各年ごとの運動の特性とその変遷過程を明らかにする。
I
合 成 洗 剤 追 放 運 動 の 変 遷
近畿の水ガメである琵琶湖の富栄養化現象を解消するために滋賀県は, 昭和
55年
7月
1日 ,
「滋賀県琵琶糊富栄旋化の防止に関する条例」 (昨年,
10月1
6日県議会で可決)を施行した。
戦後の日本の消費者運動の歴史のなかで,合成洗剤の問題ほど,ひとつのテーマで長いあいだ 運動が続けられているものは他にない。すなわち,合成洗剤の問題は,十数年の歴史を有し,人 体への有苔性と環撓汚染の原因として問題提起された。今日,合成洗剤追放運動は,地道な草の 根消喪者運動の長い努力の結実として,新たなる段階に入ろうとしている。滋賀県の「髭琶湖 栄旋化防止条例」の制定と施行は,まさにその典型である。合成洗剤追放運動は,この影響を受 けて,新たな展開を示そうとしている。
合成洗剤の問題に対する運動の歴史を概観するにあたり,我々は,前回の報告の手続と同様に,
合成洗剤に関する新聞の掲載記事を資料とした。そのために用いた新聞は,朝日,毎日,続売,
日経および日本消投経済新聞の五紙である。今回の期間は,前述のように昭和
53年
1月
1日から 昭和
55年 6月3 0日までである。合成洗剤に関する記事は,前四紙に比較して日本消費経済新聞が,
週刊発行紙とはいえ,圧俄的に多数掲載しており,その内容も詳細にわたっている。したがって,
歴史的変遷をたどる場合,日本消費経済新聞に負うところが多かった。
合成洗剤追放運動の歴史を,昭和
53年から昭和
55年前期まで,各年ごとに述べていくことにす る。また,本文中の運動の詳細は,附表の運動年表を参照されたい。なお,本稿は前回の報告の 続きでもあり,前回の報告もあわせて参照されることを希望する。
1.
昭和
53年 官民一体となった合成洗剤追放の素地が形成される段階
昭和
53年此は, 「生活が経済発展の犠牲になるのではなく,経済が生活に奉仕すべきものであ るという国民生活擾先の理念にのっとって」 (国民生活審議会答申)制定された 消費者保護基 本法 施行の1
0年目にあたる。合成洗剤問題は地道な消費者運動の積み重ねのなかから,今日 全国的規模にまで拡大されてきた。特に,近畿の水ガメである琵琶湖や瀬戸内海沿岸の常態化し た赤潮発生の主要因と目される合成洗剤の追放運動が,自治体ならびに消費者団体を中核として,
県民一体となった運動へと発展していく。では,主要な運動を順次列挙しよう。
1
月には, ‘‘水と健康と環境を守るために・~みんなで使おう石けんを一,, と兵庫県)
II西市 生活学校述合会主催の「第 4回消潰者大会」が開かれた。席上,各地区の生活学校から合成洗剤 の使用や被宙尖態,石けんの
1出頭設置状況などに関するアンケート調査結果が発表された。調査 結果によると,消費者の20% は手荒れなどの被害を受けながら, 安い','便利','石けんが入手 しにくい'などの理由で多くの人が合成洗剤を使用していること,約半数の販売店は 売れない' を理由に,店頭に石けんを置いていないことなどの実態が明らかにされた。同月下旬,全大阪消 費者団体連絡会は,消費者運動の内容と意義を多くの消費者に知ってもらう目的で, 「消費者運
‑ 90‑
合成洗剤問題に対する消費者運勁の展開とその社会的背屈(高木・坂口)
動ニュース」と題する旬刊の新聞を発行することにした。
2
月 に は 第20 回「新生活全国婦人のつどい」が東京農林年金会館で開かれ,消費者問題とし て石けん洗剤運動の拡大,プラスチック容器のボイコット運動などの声があがった。公正取引委 員会は数年前から各業界に対し表示についての自主規準である「公正競争規約」の作成を指導 してきたが, 2年ほど前から検討されている家電製品,合成洗剤,ウィスキーといった頂要商品 に関しては遅々として作業が進まず,また,公聴会の準備さえ整っていないことが同月下旬に朋
らかになった。
食品公害を追放し安全な食ぺ物を求める会は, 恐ろしい魔法の薬・界面活性剤"を主題に,
合成洗剤が及ぼす健康と環境への影響について「食品公古七ミナー」を開催した。講師の坂下 栄・三重大助手は, 洗剤中のリンが富栄蓋化の最も大きな要因となり, 河川や海の水質汚濁,
環境悪化をひき起こしている'点を鋭く指摘した。守口市消費生活リーダークラプは,第 2 回合 成洗剤使用実態調査(対象・市内主婦1
00人)の結果をまとめた。去年夏の第
1回調査結果と比 較したところ,
60%以上の家庭が合成洗剤の使用をやめたり,以前に比ぺて使用盤を減らしてい ることが判明した。同クラプはその後の安全性論議などが,主婦に対してかなりの影轡を与え たのではないかとみている。
3 月に経済企画庁は,
280万件にものぼる商品やサービスによる被害に関して「消費者被害調 査」の結果を公表したが,それによると,身体被害を受けた商品の第 2位が 洗剤などの衛生品
(11%)"であり, また,取引による被害の第
3位を 化粧品・石けん・洗剤 が占めていた。
これらの調査結果は今後の国民生活審議会の消費者教育救済部会や消費者保護政策部会の重要 な参考資料にされていくが,特に苦情救済を申し入れた人たちのうち,その処理に 不満だった',
不満だがどうしようもない' という人が, 身体などの被害で63%, 商品の欠陥被害で
49%,取 引で82%, サーピスで78% と多くいて,被害救済の解決に多くの人が不満を抱いていることが判 明した。
同月,滋賀県・大津市消費者七ンクーは,同センクー開設
・3周年を記念して, 「消費者週闘」
を開催した。合成洗剤を追放し粉石けんに切り替える運動を進めている大津市は,期間中「消費 者懇談会」を開き,粉石けんメーカーやスーパーなどの販売店の代表者と消費者20 人が,合成洗 剤を追放し,各自の立場で粉石けんの普及に努力していくことをその場で確約し合った。
同月下旬, “私たちに未米はあるか←~ と題する婦人民主クラプ主催に よる「反公古・女集会」が東)れで開催された。この集会では現在の公
9占社会を生み出した行政 への批判と,自らの身体と精神が公省に位され続ける危険に目覚め,反公害に
luJけて立ち上がる 姿勢が強調された。
4 月,滋賀県漁業協同組合連合会は,組合長会議において, リン酸塩を含む合成洗剤の家庭廃
水によって赤潮発生が常態化している琵琶瑚の水質汚濁を一掃するため, 県下の組合員
2.200批
帯から一斉に合成洗剤を回収し,粉石けんに切り替える運動を決定した。
また,東京都消費者センクーにおいて「びわ湖を県民の生活にとりもどす会」,「合成洗剤追放 全国連絡会」, 「日本消費者連盟」, 「ドキュメンクリー・フィルムセンクー」などの主催による
「琵琶湖の水質汚濁の問題を追究する集会」が開かれた。鈴木紀雄教授(滋賀大)は, 琵琶湖 の水の汚染状態は今後さ・らに悪化すると予想され, このままの状態で放置されれば水を欽んでい る住民たちに影響が及び,第 2の水俣病になりかねない と指摘し,特に,琵琶湖に流される廃 水の 5 割強が家庭廃水であり,しかもそのうちの半分が合成洗剤によるものであることから,
合成洗剤がこの汚染の重大な要素である と指摘した。
同じく 4月に,食品公宙を追放し安全な食ぺ物を求める会は,辻田啓志・琵琶湖環境権訴訟団 長を招き, 水は誰のものか をテーマに「食品公害セミナー」を開いた。辻田氏は,年々,自 然保護の重要性が訴えられているが,琵琶湖の汚染が進行している実態を訴えるとともに,大阪 府.兵庫県など近隣各府県が琵琶湖総合開発を推進している点を批判し,また,ここ
10年間に40 兆円もの国家予算をつぎ込んで大型下水処理場建設を促進している国の姿勢も批判した。
昨年頃から使い古した天ぷら廃油を回収して石鹸と交換する,いわゆる「石鹸交換運動」が展 開され出しているが,堺母親大会連絡会も,同市の泉北ニュークウンにおいて
1年前からこの運 動を手掛けてきた。 合成洗剤追放','資源再利用 を合言葉に, この運動を今後,全市域に広 めたいとして, P R用のビラを配布し,また,各自治会にも協力を求めていくことにした。
5
月に,使い捨て時代を考える会は, 農薬一環境汚染一健康汚染..をテーマに
4月から勉強 会を進めてきたが,市民に汚染問題を考えてもらおうと京都会館で講演会を開いた。会員の一人 である十倉桂氏は, 合成洗剤追放と廃油回収の私たちの試み と題して,合成洗剤の問題や石 けんとの洗浄力の差異ならびに環境を汚染から守るために家庭廃油から粉石けんを得る運動の推 進を力説した。
家庭廃油から粉石けんへの運動の発展は,例えば,大阪府枚方市内の消費者団体と婦人組織
(12団体)による枚方市消費者団体連絡会の発足集会にみられた。これまで各団体が取り組んで きた
(1)合成洗剤を粉石けんと交換する運動の展開,
(2)資源の有効利用のために鹿油を石け んに再生する運動.などを連絡会として取り組むことを決定した。
同月中旬,神戸生活科学センクーは, 「商品研究会」において合成洗剤による環境汚染の問題 を取り上げ,消費者,メーカーや行政の代表者が参加した。席上,県水質課の代表からは,昨年 の瀬戸内海全城にわたる赤潮発生の大きな原因として合成洗剤に含まれるリンがあり,兵庫県と しては, 環境保全の立場からリンを規制する必要上,合成洗剤を 使わない 作らない 方 伯
Jへもっていくことにした と合成洗剤追放を決定したいきさつが報告された。これに対して,
日本石けん洗剤工業会の代表は, 合成洗剤が水質汚濁の原因だとは思わない。現在,各社とも リンを12% 程度使っているが,厚生省通達の
9 10%の水準へもっていくよう努力している。今 後も洗剤の適正使用量を PR し , 生産, 阪売していく.. と反論をした。このため参加者から不 満の声が出た。
‑92‑
合成洗剤問題に対する消吸者運動の展開とその社会的背飛(向木・坂口)
同月下旬,神戸市において, 「日本の医療を告発するすぺての人々のつどいー第 8 回全国集 会」が開かれた。総会では,スローガンのひとつとして, 合成洗剤追放"が確認された。
5
月3
0日は,消費者保談基本法が施行されて1
0年目にあたり,政府はこの日を「消費者の日」
と決め,各地で様々な行事がおこなわれた。
6
月には,全大阪消団連,公団自治会関西協議会が,
5月下旬から
6月初旬にかけて千里ニュ ークウンや金剛団地など府下
5団地の主婦
500人を対象におこなった「テレビコマーシャルの見 直し調査」の結果が発表された。これによると,テレビスボットやテレビ番組C M で流される年 間広告嚢(関西地区)の筆頭は花王石瞼
(146.1時間)であり,第
5位 に ラ イ オ ン 油 脂
(64.3時 間),第
7位にライオン歯磨
(57.7時間) と洗剤関係の企業が目立っていた。 また, テレビ
C Mの功罪として,間断なくお茶の間に飛び込む広告により幼時から特定企業の商品を買いならされ る危険性があり,消費者の立場から改善を求めていくべきであると指摘された。
同月中旬, 日本消費者連盟は,第 5 回定期総会を東京・ーツ橋の日本教育会館で開き,その分 科会において合成洗剤を取り上げ,消費者としてなぜこれに反対するのかを再検討した。また,
消費科学連合会ほ,洗濯補助剤の使用テストと使用実態アンケート調査の結果を発表した。
200人の消費者を対象にした調査結果によると,洗た<洗剤の使用状況では,粉末合成洗剤
(52%),粉石けん
(30%),液体洗剤
(17%)の順となっていた。同連絡会は, 新しいクイブの濃縮液 体洗剤を使っている人が意外に多かったので,二次被害が心配だし, とかく使い過ぎになるおそ れもある と結論づけた。
同月下旬, 「きれいな水といのちを守る合成洗剤追放東日本集会」が東京の日本教育会館で開 かれた。これまで,東日本連絡会は,合成洗剤追放運動の連絡会として全水道労組が事務局を務 める全国連絡会という大きな器に吸収され,キメ細かい地域活動に欠けるきらいがあった。今回 の集会を機会に,中央レペルの運動は全国連で行なう一方,各地域の連絡を密にし,地域運動を 盛り上げていくことが求められた。集会では, みんなに洗剤の不買運動を勧めよう','海,河,
土,ゆたかな水をとりもどそう など
5つのスローガンを掲げ,
(1)学校給食と合成洗剤, (2)なぜ合成洗剤はいけないのか,
(3)水と合成洗剤,
(4)追放運動をどう進めるか,の4つの分 科会において合成洗剤追放運動の具体化が検討された。
7月には,恒例の兵庫県主催による「消費者団体代表者会議」が開かれた。県下各プロックの 団体代表者は,合成洗剤追放の立場から石鹸普及運動に全力を注ぐことを報告した。報告のなか で,西播消費者団体連絡協議会は,県の「合成洗剤対策推進要網」の中の 合成洗剤の適量使用' に触れ, 姫路市では合成洗剤追放審議会を5
0年にスクートさせ,合成洗剤追放運動を展開して
きた。赤潮被害がもうマックなしの状態なのに 適正使用'とは生ヌルイ。本当に追放する気が あるのか"と県の姿勢を厳しく追求した。
同月上旬,大阪母親大会が開かれた。今年の大会の特色のひとつは, 「廃油から石けんをつく
る実験コーナー」が設置されたことである。実際に廃油から石けんを作る工程を参加者にみせ,
資観の再利用と合成洗剤から石けんへの切り替え運動を呼びかけたところに意義がみられた。同 じく,同月下旬には, 日本母親大会が東京で開催された。 「洗剤・ 石けん」の分科会では,合成 洗剤の有害性がわかっていても,効果の上がらない石けん運動に悩みが集中した。席上,東京医 科歯科大学の柳沢文徳教授は, 年間
200億円もの宜伝費を費やし,消費者をだましている合成 洗剤企業の強い体制と消費者の健康をかえりみない行政の姿勢が,有害な洗剤消費に拍車をかけ ている 'と厳しく批判した。
同月下旬,琵琶湖と淀川水系の六府県,および三大都市の首長で構成する「琵琶湖・淀川環境 会議」の第 3 回会議が京都で開かれた。武村正義・滋賀県知事は,琶琵湖の赤潮防止対策として 近い将来,県条例で合成洗剤の使用を規制したい"と前向きの発言をした。これに対して,播 磨灘の赤潮で多大の被害を出している兵庫県,伊勢湾での赤潮で膨大な被害をこうむっている三 重県などから滋賀県の姿勢に対して同調の発言がなされた。また,大阪府からも, 粉石けん使 用を一般消費者へ PR し,近く消費者と学識経験者らを交えて検討する との発言がなされた。
なお,同月中旬から下旬にかけて,播磨灘全域に発生した赤潮による被害は,兵庫県赤潮対策本 部の2
5日朝までのまとめによると,養殖ハマチ
34万匹が死んだ(被害総額
4億
4千万円)。
8 月には,滋賀県八日市の消費者問題研究会は,中元などの贈答用合成洗剤と粉石けんの交換 会を開いた。この交換会は,地元の西友ストアーの協力で開かれたものである。
同月中旬,全自動洗瀧機に入れた洗濯ものに黒いゴミがつき,その原因が粉石けんであるとの 某紙の報道があった。これに対して,例えば,合成洗剤追放運動を始めて 8 年近い岡山県高梁市 の岡本夫妻は, 粉石けんのゴミ問題を洗濯の便利さからだけ考えずに,地球上の水を汚染しな いという立場で見直すべきだ"との主張がなされた。また, メーカーや消費者団体からは,全自 動洗濯機の使用に伴う粉石鹸のゴミの解消法が幾つか提案された。
同月中旬,合成洗剤追放運動の科学的根拠を提起する目的で,昨年 4 月に発足した「合成洗剤 研究会」の第 2 回研究発表会が,三重県・津市で開かれた。研究会には,全国各地で合成洗剤の 有害性を研究している学者や専門家のほかに,追放運動を手掛けている消費者団体,地方自治体 関係者らが集まり,この
1年間に取り組んできた研究結果や運動成果の報告があった。
同月下旬,近畿の水ガメである琵琶湖の富栄養化と水質汚濁を防ぐために,県民ぐるみで合成 洗剤追放運動を推進しようと滋賀県では「琵琶湖の水といのちを守る粉石けん使用推進県民連絡 会議」が発足した。滋賀県のように連絡会議を結成して県民ぐるみで追放運動を展開しようとい うのは全国でも初めてであり,今後の合成洗剤追放運動の動向を占う試金石ともなった。発足集 会では,
(1)団体や組織構成員の粉石けん使用者をふやす,
(2)参加団体以外にも運動の輪を広げる,
(3)粉石けん使用推進運動の理解を探める, (4)粉石けん普及に努める, (5)団体組 織で合成洗剤不使用宣言をする,などの運動方針が申し合わされた。なお,滋賀県では,この運 動が成功し,粉石けん使用率が50 劣を越えれば,県民のコンセンサスが得られたとして,県条例 で合成洗剤を規制する方針を固めた。
ー 以 一
合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会的背倣(店木・坂口)
同月下旬,兵庫県でも姫戸市など県下
4市
2町を粉石けん使用モデル地城に指定し,石けんの 共同購入の促進や使用拡大を指導するなど,合成洗剤追放のための総合対策を推進することにし た。モデル地域である程度の成果が得られれば,瀬戸内海沿岸の 10 府県に呼びかけて粉石けん見 直し運動を盛り上げる方針をたてた。
9月に,環境庁は,環境を汚染している化学物質を総点検する昭和52
年度の化学物質環境汚染 調査の結果を発表した。そして今回は9
1物質の汚染状況が明らかにされた。
91物質のなかに合成 洗剤の界面活性剤
LASが含まれており,予想通り広く環境を汚染していることが判明した。
15都道府県に及ぶ合計38 地区の調査地域のうち水質調査では,鶴見川河口(神奈川県)甲府市内の 濁川,福岡市内の那珂川など
9検体から,底質調査では,大阪の道頓掘川
(260ppm) を最高に,
多摩川,諏訪湖など
21検体から高漉度の
LASが検出された。そして, 環境汚染状況を継続し て観察する必要がある物質
(7種)'に
LASが含まれていた。
同月上旬, より豊かな暮らしを求めて生活の科学化への確かな足どりを確認しよう"と「第
15回兵庫県生活科学推進大会」が開かれた。大会会場において合成洗剤やゴミ問題などに関する
22項目のアンケート調査がなされ,今春来兵庫県が合成洗剤から粉石けんへの切替えを呼びかけ ていることが,徐々にではあるが実りつつあることが確認された。
同月中旬,近畿の水ガメ・琵琶湖を汚染から守るために琵琶湖を調査し.監視しようと地元滋 賀県の学者市民運動家などが「滋賀の自然と琵琶湖を守る市民の会」を結成し,琵琶湖の総合 調査を開始した。また,房総海岸で赤潮公害が発生している千葉市は,合成洗剤と安全性で優れ ている石けんとを比較したバンフレットを市民に配布し, 安全性や無公害ものを優先的に選ぼ
う と呼びかけた。
同月下旬,大阪府衛生婦人奉仕会は,顛戸内海汚染の主要因とされる家庭廃水・洗剤の問題を とらえ, 「瀬戸内海環境保全研修会」を開いた。研修会では, 主婦が公害の加害者とならない ように粉石けん運動に真剣に取り組んでいかねばならない"との意見が大勢を占めた。同じく,
船橋市消費者の会は,月例学習会で印幡沼の汚濁スライドを上映し,石けんについての学習会と 座談会をおこなった。
10
月に,安全食品連絡会は,わが国で始めてノープランド(無商標)商品を発表したスーパー の最大手ダイエーと懇談会を開いた。同会は, ダイニーに対して, ノープランド商品の中に洗 剤を入れるのはもってのほか", "企業も環境を守るという意識をもって, 販売は粉石けん一本 にすべきだ"などの意見と要望が出された。
同月中旬,きれいな水といのちを守る合成洗剤追放大阪連絡会は, 「合成洗剤追放をめざして ー大阪討論集会」を開いた。集会では,昭和54 年度には大阪府や市などへ,
(1)人体を汚染し,
環境を破壊する合成洗剤の使用禁止,琵琶湖・淀川環境会議を確認し,住民への石けん転換,合 成洗剤使用対策をたてること,
(2)学校, 保育所, 病院など公的施設での集団給食においては 石けんに転換させること,
(3) ABS, LASの工場排水基準を厳しく規制,監督,告発すること.
‑ 95‑
(4)
病院での洗提, シーツなどの洗た<, 医根器具の洗浄に合成洗剤の使用を禁止すること,
(5)
学校教育において合成洗剤の有害性についての知識を教えること,を要求していくことが 提案された。
また,同月下旬には, きれいな水といのちを守るため合成洗剤の製造・販売・使用を禁止さ せよう"と第
5回「合成洗剤追放全国集会」が東京で開かれた。そして,
(1)なぜ合成洗剤は いけないか,
(2)下水道と合成洗剤,
(3)集団給食と合成洗剤,
(4)追放運動をどう進める か,の 4つのテーマが分科会において討論された。政府や関係省庁,洗剤メーカーヘの要請交渉 や全体集会などの日程が組まれた。合成洗剤追放運動が全国津々浦々まで広がりをしめし,自治 体行政への本格的な取り組みとその成果,ならびに日教組が運動の輪に加わるなど,大会として は,合成洗剤追放運動の進展をみせるものであった。同じく,東大阪石けんの会は, きれいな 水といのちを守り,合成洗剤を追放しよう"と「第 4 回石けん広場」を開き,合成洗剤追放運動 の意義と取り組みについて紹介し,参加者に粉石けんへの切り替えを呼びかけた。
11
月には,第1
7回「全国消費者大会」が東京で開催された。消費者団体の最大関心事である安 全性問題は,第 4 分科会で論議され,遣伝毒性問題にも関与する合成洗剤追放運動についての発 言が目立った。
同月初旬,資源リサイクルや粉石けんの推進運動などを展開している長岡生活学校は,恒例の
「生活学校展」を開いた。会場では, 合成洗剤から粉石けん使用運動", "廃油を生かした粉 石けん作り"の活動状況をパネルや実物で展示し,市民にアピールをおこなった。
同月,静岡市議会の一般質問に登壇した小林ひで子議員(社革クラプ)は,熱帯魚の入った
2つの水そうを持ち込み,一方に合成洗剤, もう一方に粉石けんを入れて,合成洗剤の魚への有害 性の実験をおこなった。今まで消費者団体が訴えていた公的施設から合成洗剤を追放するという 点に具体的に応じていなかった市当局も,小林議員の魚の実験を見せられ, 洗剤問題をより一 層市民へ啓発するとともに,給食センクーなどで食器洗浄に使っている洗剤を粉石けんに切り替 える と積極的態度に変容をしめした。
同月中旬,西宮市で「くらしを守る消費者週間」が開かれ,市内1
2消費者団体の研究成果が一 挙に展示された。 粉石けんを見直す消費者の交流集会"では,特に,関西学院大学生協の石井 専務理事による「合成洗剤の追放と粉石けん使用に関する実践報告」が注目された。
同月下旬,大阪府主催による「大阪府消費者研究発表大会」が開催された。大会発表では,大 阪母親大会連絡会の植田副委員長による 捨てる油を石けんに"と題する発表があった。参加者 からは, 自分の地元でも石けん運動を進めたいので,メーカー名を教えてほしい"などの質問 が提出された。また,兵庫県では, 務らしの中の資源と環境を考える をテーマに「第
1回消 費者問題県民会議」が開かれた。助言者として出席した風呂勉・神戸商科大学教授は, 県は合 成洗剤の適量使用を提唱しているが, これでは粉石けん普及運動が進まない"と発言し,合成洗 剤追放運動を全面的に推進していくことの必要性を強調した。
‑ 96‑
合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会的背景(高木・坂口)
12
月には,徳島県で主婦
719人を対象に実施した合成洗剤と石けんの使用意識や皮膚障害経験 の有無に関する調査の結果が発表された。それによると,合成洗剤使用者が全体の
95%を占め,
合成洗剤使用理由の大半が 汚れが落ちやすい'であった。合成洗剤について 環境汚染の原因 だと思うし,安全性にも不安を感じているが,やむなく使用している 人が全体の
47%を占めて い た 。 し か も 最 近
1年間に洗剤を使用して何らかの被害を受けた人が
27%もいながら,なお合 成洗剤を使用するという矛盾した消費者の行動がみられた。
同月中旬,八王子市消費者の会は,昭和48年の同会結成以来,石けん運動を市民ぐるみの運動 に盛り上げ,市内の学校給食から合成洗剤をほぼ
100%追放させてきた。 しかし, 依然として贈 答用に合成洗剤が使われており,お歳暮などの贈答品に合成洗剤を使わないようにと市内 3ヶ所 のデパートの前で,合成洗剤の危険性をマンガ入りで解説した手作りのビラ 2万枚を市民に配布
した。
同月下旬, 日本石鹸洗剤工業会は,滋賀県,茨城県など閉鎖性水域を抱える自治体で合成洗剤 追放運動の動きが活発化してきていることに対応して,
(1)合成洗剤中のリン分を低減する,
(2)
液体の無リン合成洗剤を開発する,
(3)需要に応じて粉石けんを増産する,などを申し合 わせた。
昭和
53年度の洗剤運動の特徴を要約すると以下のようになる。
第
1に,合成洗剤追放運動の連帯を強めるため,
1都
7県で構成する「きれいな水といのちを 守る合成洗剤追放東日本連絡会」が結成されたことである。これまで,合成洗剤追放運動の連絡・
会としては全水道労組が事務局を務める全国連絡会があり,その翼下の形で西日本・北日本連絡 会があったが,東日本の場合は,全国連絡会の中にダプった形であったため,独自の運動, とく に地域の草の根グループが互いに連絡し合ってきめ細かな地域活動を展開するという点に欠けて いた。東日本連絡会の結成を契機に,全国津々浦々の地域まで,合成洗剤追放運動を盛り上げて いく基盤が出来たことである。また,全国集会では, 日教組も加わり運動の輪が大きな広がりを みせた。
第
2は,近畿の水ガメである琵琶湖と淀川水系の
6府県,および三大都市の首長で構成する
「琵琶湖・淀川環境会議」において, 水質保全のためには合成洗剤対策は重要かつ必要であり,
具体策は各府県が実情にあわせて検討していく"と 6府県による合成洗剤運動に対する共同歩調 がとられたことである。赤潮など水質汚濁の原因である合成洗剤に対して, 6府県の積極的構え が打ち出されたことである。
第 3は,同じく,琵琶湖の富栄養化と水質汚濁を防ぐため,滋賀県の官民一体となった「琵琶 湖の水といのちを守る粉石けん使用推進県民運動連絡会議」の発足である。連絡会議には, 「 琵 ・ 琶湖の水といのちを守る連絡会」のほか,消費者,婦人,事業者,教育,公益,労働各団体と
15市町村連絡会議ら
95団体が参加し,県民ぐるみの合成洗剤追放運動の進展が認められた。特に,
県としては, この運動が成功し,粉石けん使用率が
50%を越えれば,県民のコンセンサスが得ら
れたとして,合成洗剤を県条例で規制するとの方針を明確に打ち出した。
第 4は,家庭廃油をまとめて石鹸メーカーに提供し,出来上った石けんと物々交換するいわゆ る石けん交換運動や家庭廃油から直接消費者の手で石けんを製造する石けんづくり運動が,全国 的拡がりをみせたことである。下水道が油カスでつまったり,腐敗したりして,隠れた公害源と いわれていた家庭廃油は,食用油として使えなくても動植物としての有効利用の途があり,省資 源としての観点からも石けんへの再生は意義があると指摘された。この運動は,合成洗剤追放運 動の一側面を提供した。
第 5 には,合成洗剤運動に対する洗剤業界の対応の変化がある。今年になって,滋賀県や茨城 県では,生活排水に含まれる合成洗剤のリンに着目し,合成洗剤の使用を自粛するとともに粉石 けんに切り替える運動が県民ぐるみで実施された。この自治体主導による合成洗剤追放運動は,
各地へ波及する可能性が強く,メーカー側の対応が迫られていた。日本石けん洗剤工業会は,
(1)
合成洗剤中のリン分を低減する,
(2)液体の無リン合成洗剤を増産する,
(3)需要に応 じて粉石けんを増産する,など一歩後退の徴候を示した。
2.
昭和
54年積年の合成洗剤追放運動の結実の第一段階
(滋賀県琵琶湖条例制定をめぐって)
昭和
54年度は,
1970年代の終幕を飾る年である。
70年代の消費者運動の幕明けの年にカラーテ レビ不買運動が開始され,その運動こそ,アメリカのラルフ・ネーダーをして「日本の消費者運 動を見直した」といわせ,我が国でも本格的なコンシュマーリズムがはじまったと自他ともに認 めさせたものである。この
70年代終幕の年となった本年には,十数年の長きにわたる草の根消費 者運動の努力の結実として,合成洗剤追放運動の新たな第一歩をしるす滋賀県の「琵琶湖富栄養 化防止条例」が制定された。では,主要な動きを列挙しよう。
1
月には,千葉県我孫子市の消費者,婦人,労組団体などの
15団体は, 市民ぐるみの石けん 運動を"と「我孫子に石けんを広める会」を,同市中央公民館大ホールで開いた。発会式には,
15
団体の代表者ら約
150人が参加し, 各団体間の情報交換,積極的な学習会,啓発活動などをお こないながら,結束して市民に石けんを広めていくことを申し合わせた。また,我孫子市議会も,
昨年 6月に消費者団体から出されていた 学校給食など公的施設からの合成洗剤追放"を採択し て,公的施設での粉石けん使用を実験的に開始し,同会への運動を租極的にバックアップするこ
とを決めた。
同月末,横浜市は,同中区の産業貿易七ンクー会議室において第 2回「公害七ミナーー合成洗 剤」を開いた。セミナーには,金子光美(国立公衆衛生院),近藤邦成(日本鹸洗剤工業会),山 口泰子(横浜洗剤を考える会),小林勇(川崎衛生研究所)の四氏が出席し, 消費者自身が加害 者になっている合成洗剤公害にどのように取り組むかを話し合った。
2月初旬, みんなでつくろうくらしの安全 をテーマに,東京・品川区主催の「消費生活
‑ 98‑
合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会的背飛(高木・坂口)
展」が大井町の阪急百貨店で開かれた。会場では,区内の消費者や婦人団体が,環境・食品・化 粧品・洗剤などの安全性に関する日頃の勉強の成果をパネルや現物で展示した。
同月中旬,茨城県の霞ケ浦問題研究会(流域28 市町村で結成,会長・系賀喜一美浦村長)は,
霞ケ浦の水を住民ぐるみで守ろうと,流域28市町村の全世帯に試供用粉石けんと霞ケ浦の実態を 知ってもらうチラシを配布した。また,粉石けんの使用の感想や購入希望の有無などのアンケー ト調査も合せて実施した。同研究会は,流域全市町村に,粉石けん普及運動の推進母体となる
「粉石けん使用運動推進協議会」の設置を準備していた。
同月中旬,第 2回「消費者問題兵庫県民会議」が. 暮らしの中の資源と環境を考える をテ ーマに県教育会館で開かれ,消費者と生産者・流通の代表者
150名が出席した。会議では,県内 各地の消費者団体による粉石けん推進運動の取り組が報告された。また.県や日本石鹸洗剤工業 会に対して粉石けんの上手な使用法の P Rと品質改善を,また日本電気工業会には粉石けんに適
した洗たく機の使用法の説明を求めることを決議した。
同月下旬,兵庫県立姫路生活科学センクーと西播消費者団体連絡協議会による「西播地区省資 源運動推進協議会」が きれいな水を守るために"をテーマに開かれた。地元や滋賀県の消費者 団体の代表,行政,専門家,一般消費者など約
250人が参加して, 粉石けん使用運動の今後の方 針について話し合った。この大会の背景には,瀬戸内海の汚染の原因となる合成洗剤の追放を,
粉石けん普及の先進県である滋賀県の消費者団体から学ぶという目的があった。
同月下旬,合成洗剤追放全国連絡会は,運営委員会を開いて.合成洗剤に関する公開質問状を 大平首相に出すことを決定した。昨年も福田前首相に質問しているが,総理が交代したため,再 度の質問をおこなうことにした。また,運営委員会では,
3月に
(1)サンケイ新聞社と花王石鹸への抗議一ーサンケイ新聞に連載されたものを花王石鹸がパンフレットにまとめ,消費者団体 などへ配布した「水と合成洗剤」に関する記事の内容について,
(2)科学技術庁デークヘの反 論一昨年科学技術庁が合成洗剤に関して第 2 次の「安全宜言」ともいうべきデークを公表した が.これに対し有害説をとる専門家の意見やデークをそろえて正式に反論する,
(3)生協の新洗 剤の評価ー一生協連が新しく開発したクル(砂糖からとった界面活性剤)と石けんとによる洗剤 の評価についてひとつの見解を提出する,などを決議した。
3 月,日本消費者連盟は,一人でも多くの一般消費者に運動に参加,協力してもらうために,
また,消費者に知識を深めてもらうために「草の根学校」を 4月をメドに開校する準備に取りか かった。構想では,同連盟の地域会員が核になって,仲間を
3人 ,
5人とさそい. 月
1, 2回開 校する。学校では「草の根のいずみ」と呼ばれるテキストをもとに,これを読んだり話し合った
りして広く消費者問題を学習し,消費者運動のすそ野の拡大を狙った。
同月初旬,兵庫県立生活科学研究所は,合成洗剤と粉石けんの洗浄力比較実験の中間報告をま とめた。実験は,粉石けん
9種,複合石けん
1種,合成洗剤
5種(うち液体洗剤
2種)の計1
5種 類を対象に行なわれた。報告には, 低温で完全に溶解していない状態でも粉石けんの方が洗浄
99‑
力が優れている'という結果があった。
同月中旬,千葉県消費者団体連絡協議会は,消費者大会を千葉市の東電*ールで開いた。大会 には,同協議会加盟の県下1
0消費者グループの会員や代表者ら約
150人が参加した。大会では,
我孫子消費者の会から, 安全性はもちろん洗浄力の点でも石けんの方が優れている' との実験 結果が報告された。また,ふなばし消費者の会も.地元船橋市議会に「合成洗剤から無害な石け んに替える意見書」を全議員一致で採択させる一方,同様の請願を政府に対しても行なっていく
ことを報告した。
同月中旬,東京地裁は,東京都に対して, 昭和48 年の洗剤パニックの原因はメーカーの操作 によるものではなかった として,花王石鹸に慰謝料
100万円を支払うよう判決を下した。 これ は,東京都物価局が, 洗剤不足はメーカーの生産制限と出荷操作が原因である' との調査結果 を公表したことに対して,花王石鹸が 東京都の調査には頂大な誤認があり, 著しく名脊と信用 を偽つけられた'として謝罪広告の掲載と慰謝料の支払いを求めた訴訟に対する判決である。
同月下旬, 日本消費者連盟と合成洗剤追放東日本連絡会は合同で,この判決に抗議するととも に東京都と花王石鹸に公開質問状を出した。東京都には, ( 1 ) 判決にしたがって慰謝料を支 払うとしたら,それは税金から支払うことになり,納税者として納得できない。直ちに控訴する こと,
(2)ー企業が裁判所に問題を持ち込むことは行政と消費者に対する威圧行為であり,調 査結果や広報活動による 知る権利 の侵害行為である。都としては, この種の調査活動を活発 にし,広報活動も続けること,などを求めた。花王石瞼に対しては, ( 1 ) 都民は慰謝料を支払 う意思はないが,それでもなお百万円の支払を請求するかどうか,
(2)都の調査は不当というが,バニックの最中に大幅値上げしたことは企業の社会的責任を全うしたことになるのか。また,
不当行為がないのなら,その根拠を消費者の前に明らかにして理解を求めればよく,法廷に持ち 込むのは明らかに行政に対する威圧であり消費者の知る権利を侵害するものだ,直ちに提訴を 取り下げるべきだ, と質問した。
4月,滋賀県は,粉石けん運動を推進する団体やグルーブに対して,新年度から 粉石けん一 箱につき百円進呈 という「奨励金制度」をスクートさせると通達した。原則として個人に還元 しない。方法としては,琵琶湖を守る粉石けん使用推進県民運動連絡会議の構成団体や石けん運 動と取り組む自治会,町内会を対象とし,石けん箱の表にある「家庭用品表示」の部分を切りと って集められたものに見合う分を市町村の窓口を通じて各団体に還元することにしている。県で はその助成費として
1千万円を計上し,合成洗剤追放運動に支援をおこなおうとした。
同月中旬,滋賀県は,県内の約
1割に当たる
2万
6千世帯を対象に実施した粉石けん使用実態 調査の結果を発表した。調査結果から,
3世帯に
1世帯の割合で粉石けんが使用されていて,県 ぐるみの粉石けん使用運動の効果が現われていることが判明した。この調査結果は,各地の粉石 けん使用運動にとって,行政を呼びこんだ地域ぐるみの運動がもっとも有効であることを証左し た。また滋賀県知事の諮問機関である滋賀県水質審議会は,琵琶湖におけるリン・窒素の目標値
ーら100ー
合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会的背景(高木・坂口)
と排水の規制対策に関する中間報告をまとめた。この報告は,最近の淡水赤潮に象徴される富栄 養化現象を分析し,琵琶湖流域の状況から, リンや窒素との関連を明らかにしたものである。滋 賀県は,国に先がけて, リン・窒素の総量規制を含む「琵琶湖の富栄養化防止条例」 (仮称)の 制定を準備しているが, この報告をその条例づくりの資料にする考えである。
同月下旬,合成洗剤追放東日本連絡会の主催による「洗剤パニック裁判を聞く会」が,東京・
有楽町の消費者センクーで開かれ.多数の消費者団体が参加し, この裁判への支援が表明された。
この会において.東京都と花王石鹸に出した公開質問状に対して都からの回答のみがあったこと が報告された。回答内容は, ( 1 )東京地裁へ上告した, ( 2 )百万円の慰謝料は高裁判決が出る まで保証される,
(3)今後も消費者問題に関する調査は手を抜かず積極的にやる, とのもので あった。出席者の山本茂子(都民生活局価格調査部)課長は, ( 1 ) 洗剤パニックは消費者の買 いだめで起こったのではなく.業界等による出荷制限などの操作によって起こったと疑わざるを えない,
(2)業界は消費者に対して適切な措置をとったとは思えない. と説明した。消費者側 からは.花王石鹸の訴訟に対して,消費者の知る権利と情報公開の原則を規制するものであり.
今後. これらを確立するために消費者運動としても積極的に取り組んでいくぺきだ,という意見 が大勢を占めた。
5 月,合成洗剤追放全国連絡会議(斉藤親仁事務局長)は,洗剤の安全性に関する大平首相の 見解や対策を聞くための質問主意醤を衆議院に提出した。これは島本虎三議員(社会党)を通じ て質問したもので,国会法の規定によれば 2週間以前に回答しなければならないことになってい る。昨年,同様の形式で福田首相に提出したが, ハイ・. . イイエ のみの不充分な回答であっ たため,今回は,首相の考え方を引き出す形式の質問に変えた。質問は40 項目にわたり,さらに 細かい分類になっているが,その中心は,合成洗剤に関する有害説を列挙,集大成して,その評 価を聞くものであった。また,学校給食での合成洗剤使用中止や石けんの増産など,直接,消費 者運動と結びつく問題についてもふれていた。
同月中旬,香川県沿岸のハマチ養殖業者は,毎年発生している播磨難の赤潮被害を避けるため,
蓋殖ハマチ 300万匹を, 小豆島から西の備讃瀬戸の水域に移動させた。しかし,避難する側の漁 場と受け入れる側の漁場との利害の調整など,幾つかの問題をかかえている。県としては,羞殖 中止を提言するなど,今後の猶殖漁場移動をめぐる諸問題の解決が待たれることとなった。
同月下旬,
JII西市(兵庫県)主催による消費者セミナー「合成洗剤と環境」が開かれた。平田 好顕・兵庫県生活科学研究所長のほか,行政,メーカーの代表と一般消費者約7 0人が出席した。
近藤邦成氏(日本石鹸洗剤工業会理事)は, 環境水系の汚染に及ぼす合成洗剤の害はわずかだ が , リン酸の削減には努力する と発言した。これに対して小林勇氏(川崎市術生研究所員)は,
洗剤中のリン酸が赤潮発生や魚貝類の減少などの原因であるのは朋らか。最近ある町で,汚水
処理施設の浄化状籐を調ぺるため,住民の 7割に石けんに切り替えてもらったところ,汚水中の
リン識の餘去率が大幅にアッブした。汚染の責任は洗剤メーカーだけでなく,それを使う消費者
にもあるわけで,浄化能力の高い石けんを使おう と発言した。
6月,環境庁は,瀬戸内海環境保全特別措置法
(12月施行)で実施する赤潮対策として,原因 物質のリンの規制案をまとめた。これにより,瀬戸内海沿岸
13府県のリンの排出塁の削減目標が 汚染度によって義務づけられた。
同月初旬,日本消費者連盟(竹内直一代表)は,
54年度総会を開き,
l句こう
1年間の運動方針 を決めた。その一項目として,合成洗剤を追放し石けんを復活させる運動を強力に進めることを 盛り込んだ。
同月中旬,総理府は,消費者の日
(5月3
0日)にちなみ実施した「消費者問題に関する世論調 査 」 (全国3
,000人対象)の結果を発表した。調査結果によると, 消費者の日を知っている人は,
20%
しかいなかった。消費者運動の効果については,全体の62% の人が 効果がある と回答し ている。すなわち,消費者行政の熟知度や関心度は低いが,消費者運動の効果については翡い評 果を得ている。今後の消費者運動への期待はますます大きくなるものと予想される。
同月中旬,近畿の水ガメである琵琶湖を合成洗剤から守ろうと,地元・滋賀県は,今秋の県議 会に合成洗剤の販売規制条例案を上程する予定であるが,環境庁が武村県知事に対して,条例案 作りをくれぐれも慎重に運ぶよう要請したことが判明した。その理由は ( 1 ) 科学技術庁が人体 への影響について, 使用基準通り使えば安全 との結論をくだしている,
(2)県の積極的姿勢 はわかるが,憲法上に保障された営業の自由に抵触する恐れがある,などである。これに対して,
地元はじめ東京などの環境行政担当者は, 条例の成立が可能か否か不明の段階で早々と横やり を入れるとは といった驚きを示した。
同月下旬,政府は公害対策会議(会長・大平首相)は,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海の閉鎮性 3 水域に対して実施する水質総規制の「総蓋削減基本方針」を決定した。 「生活排水」, 「産業排 水」,そして「その他の排水」 (家蓄のふん尿や,山林•水田からの汚濁物質を含む) の発生源 別に削減目慄批を決め, 3水城ごとに,上流部を含め関係する都府県別の目傑削減旦を示してい る。関係都府県は,大ワクで示された削減割当址を検討し. 「総益削減計画」を作成して行くが,
環境庁は できれば年内に としている。
同月下旬.社会党の島本虎三議員を通じて大平首相にあてた合成洗剤の安全性などに関する公 開質問状に対する回答が,合成洗剤追放全国連絡会に届いた。合計6
5項目にわたる質問に対して,
全て 問題なし・..心配なし と合成洗剤安全論の回答であった。
i記者発表の席に同席した柳沢 文徳教授(東J
;(医科歯科大学)は, " / : が生省や某界サイドの学説だけを m い,外蔀のあらゆる学
説や研究デークをすべて拒絶している。そのうえ,身内のデークの中からも都合の良い個所だけ を取り出し,安全性で疑問を示すデークにはほおかむりしている。科学技術庁の調査報告にも動 物の免疫性が減退するという報告があるのに,ただ安全だの一点張りだ。無知と矛盾に満ちて
1,ヽる と反論した。合成洗剤追放全国連絡会としては,今後も,
(1)煎点をしぼって再質問する,
(2)
国会(公害環境問題特別委)で採り上げていく,
(3)各団体の機関誌で全国の組織へ事実
‑102‑
合成洗剤問題に対する消費者運動の展開とその社会的背景(高木・坂口)
を知らせる,などに力を入れていくことを決定した。
7月,上村環境庁長官は,滋賀県守山市において.滋賀県が現在取り組んでいる合成洗済販売 規制を柱にした琵琶湖の富栄養化防止条例(仮称)制定について, 国としては販売規制ではな
<.合成洗剤のリン含有盤を
4,5年後にはゼロにする方向で行政指道するが, 地域の特性に応 じた条例ということで, これを尊重したい"と発言した。
同月上旬.坂井兵庫県知事から 兵庫県における合成洗剤対策 について委嘱を受けて検討を 進めてきた「兵庫県合成洗剤対策委員会」 (会長・斉藤行正神戸山手短大教授)は 瀬戸内海汚 染原因の一つにリンがあげられる。合成洗剤が相当盤のリンを含んでいることを考えると,その 使用量を削減し, この負荷を軽減する必要がある。このため合成洗剤と同等の洗浄力を持つ石け ん運動を推進していく必要があるが,粉石けんに切り替えた場合,
COD C化学的酸素要求簸)
が増え海が汚濁するため十分な監視が必要である との提言を知事に提出した。この提言は,粉 石けんも
COD・の負荷を増加させるという配慮から. 石けん使用運動とともに合成洗剤の減量 使用運動も行うべきだ.. という折衷案的なものとなった。
同月中旬,東京都民生協は, 日本の自然と子や孫の健康をまもるため"というキャッチフレ ーズのもとに
LAS洗剤の追放運動を開始した。行政やメーカー.工業会などに対して合成洗剤の中止を求める一斉要請行動を起こすとともに,一般消費者にも
10万枚のビラを配布して,使用 中止を訴えた。
同月下旬, 「琵琶湖を守る粉石けん使用推進県民運動」県連絡会議の第
1回定例総会と同会議 主催による「琵琶湖にはきれいな水を一粉石けんのすすめ」をテーマにした・ンソポジウムが草 津市民会館で開かれた。会議ではまず武村滋賀県知事がこの県民運動を高く評価し, 9 月の定例 県議会で合成洗剤の販売禁止を含めた琵琶湖富栄養化防止条例を提案したいとあいさつした。ま た業務報告の
1つとして石けんの使用率が約40% に達し,運動の成果が着実に伸びていることが 報告された。最後に今後の運動推進方針として. ( 1 ) 洗剤についての科学的知識の学習を深め る ,
(2)地域における参加団体等相互の実践協調を深める,などを申し合わせた。 また,シン ボジウムは,約
400人の参加者を迎え.発表者,助言者をまじえ, 琵琶湖を守るために県民一 人ひとりが何をしたらよいか について活発な討論がなされた。
同月下旬.第 3回合成洗剤研究会が新潟市のミナミプラザで開催された。催奇形性など人体に 対する有害性問題から,赤潮に及ぼす影響などの環境問題,さらに家庭教育の問題から食用廃油 の再利用など.あわせて20 の研究報告がなされた。同研究会は,合成洗剤の有害性や環境への悪 影響について調企・研究を進めている多くの学者や専門家によって構成されているもので,合成 洗剤追放運動の理論的基盤を提供している。
同月下旬,日本石瞼洗剤工業会は.滋賀県が 9月制定をメドにしている「琵琶湖の富栄養化防
止条例」 (仮称)
rヽロム成洗剤の販売規制を盛り 込む'-と I~· ‑ っぃ℃ 武村滋賀県知事に対して阪売
規制の項目を削除するよう要望醤を提出した。これに対して武村知事は, 合成洗剤の販光規制
は欠かせない条件であり, 9月の定例県議会で議定の方針で取り組む と回答した。また逆にエ 業会に対しては, 良質で安価な粉石けんの開発と安定した供給'を求めた。
8 月,水質汚濁や水需要の増大に直面している琵琶湖問題を,下流の大阪の人々にも考えても らうことを目的に,琵琶湖問題研究機構などの努力により「琵琶湖問題大阪シンポジウム」が開 催された。 「大阪と琵琶湖」をテーマに,水道関係の官公庁,企業の担当者ら約
400人が参加し た。問題提起者の
1人である末石富太郎阪大教授は, 毎年,瀬田川洗いぜきの上で,両府県民 が高級井戸端会議を開いていこう"と呼びかけた。
同月上旬,合成洗剤追放東日本連絡会は,石けんに関する表示規定問題で,通産省を相手どり
「家庭用品品質表示法第 9条」にもとづく不服申し立ての行政訴訟を起こすことを決定した。石 けんの品質表示が,
(1)石けん=純石けん分
50%以上(界面活性剤も
3 %未満なら認められる),
(2)