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(1)

トップビジネスにおける昇進規定要因について :  学歴・年功効果を中心として

その他のタイトル Promotion system of big business under the influence of seniority and academic career

著者 岡田 至雄, 上嶋 正博

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 10

号 2

ページ 79‑100

発行年 1979‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10112/00022904

(2)

トップビジネスにおける昇進規定要因について

—学歴。年功効果を中心として一一

岡 田 至 雄 ・ 上 嶋 正 博

I は じ め に

経営労務研究会は「労務管理の体質改善期」への始発点を,また日経連は「企業内労務管理の 再調整期」への起点を,それぞれ1957年に見立てている。つまり, 1960年代の経済成長期を目前 にして,わが国のトップビジネスを中心にして,科学的合理主義をベースにした労務管理への傾 注が,急速に展開されようとしていたわけである。

「学歴が職能の差を示し,年功が技能の差を示す」といった学歴・年功偏重の伝統的な人事管 理システムの基盤が, 1950年代前半の「合理主義・科学主義・業綬主義・実力主義」を根本理念 とするアメリカ的労務管理システムの直輸入を契機として,その存立基盤さえ脅かされていった。

そして,実質的にはともかく,形式的・理念的には,学歴に応じて企業内のヒニラルキーを決定 し,給与と昇進の両面にわたって高学歴を優遇し,年功を重視するという考え方の転換が, 1950 年代後半のいわゆる経済拡大時代への突入と符合するかのように, トップビジネスの人事ボリシ

ーの中で公然と示されるにいたった。

従来の「年功・高学歴」優遇の昇進制度に代わるものとして,科学的・合理的昇進システムの 導入という重要課題に対するフォーマルな取り組みの先鞭は, 1949年,日経連の「新しい労務管 理の確立に関する決議」によって付けられ,この決議をベースとして, 1951年,人材養成のため の業績評定を科学的・合理的に行なうためのモデルとして「人事考課の手引」を発表し,一般企 業に対して伝統的体質の改善の方向を示唆した。しかし一般企業のこのような人事考課制度に対 する理解度は当初には低く, 1950年代には昇給・賞与の査定に利用するというケースを除けば,

実質的には活用されず,本来の主旨に副って,このシステムを導入しようとする気運が熟すのは 1960年代に入ってからであった。たとえば住友金属,ヂーゼル機器,九州電力,松下電器,三菱 電機,富士フィルムなどのトップビジネスが,積極的に,公正な能力主義を基軸とした実力本位 の昇進制度の採用を公表し,昇進・給与・教育訓練などと人事考課制度とを有機的に統合しよう とする動向が出てくるのも,この時期である。九州電力が,昇進に学歴差が直接影響しないよう に,中卒者でも実力次第で学卒者並みの昇進ができるように門戸を開いた,いわゆる昇進試験の 実施も,この時期 (1964年)になされている。しかし,他方では,このような試行が進行する中 トップビジネスの中でも旧態然とした学歴・年功偏重のシステムが根強く残存する兆しもあ

‑ 79‑

(3)

った。たとえば, T機械メーカーでは,課長に昇進する場合の学歴別標準年齢がモデル化され,

大卒39歳,高卒45歳,中卒52 (いずれも事務系統の場合)と学歴によって昇進年限に差をつ ける,いわゆる学歴優遇の理念がみられた。 (1961年時点のモデル)

新しい人事管理システムの禅入・開発という緊急課題に直面した1960年代中期には,この問題 の科学的解決への方向を示唆する諸種の論調が展開され,啓蒙書や専門的文献も多く公表された。

その中で, もっとも注目すべきものの一つに G.W.バウマンが『生産性』に発表した「昇進の 条件」を挙げることができようI)。かれの主張は,本音はともかく,建前としては,当時のトッ プビジネスの幹部層が考えている「期待する人間像」を見事に代弁・反映しているように思われ

役に立つ比率% 役に立つ比率%

現 実

l

理 想 現 実 理 想

コミュニケートする能力 94.7%  98.7%  92.3%  92.1% 

. 

93.5  97.4  人との協力による作業遂行 91.5  97.9 

^ 

93.4  94.4  重 労 働 に 堪 え る 能 力 91.2  97.3  健 全 な 意 志 決 定 93.1  98.4 

. 

91.2  98.4 

92.3  96.8 

成功にプラスするイメージ(『生産性』 19644月号34

ここで,特に関心を唆る問題は,理想的条件と現実的条件とのギャップ, とりわけ,学歴に係 わる「大学教育」という条件が,現実には No3にランクされている点である。つまり,理想的 条件としての「コミュニケーション能力」や「健全な意思決定」を保障する文脈要因が,結局,

アメリカでも学歴・教育水準に連動せざるを得ないということなのであろうか。このことは,

「昇進試験を実施してもたいていの場合,大学卒の方が,高・中卒よりも成績が優れている」と 公言するわが国のトップビジネスの判定とも符合する。つまり学歴とか年功という言葉を使わな いで,実質的には学歴や年功をチェックするような尺度で試験をしているのか,あるいは,まさ に,学歴・年功が,ホンモノの差と等しいのか,判然とはしないが,実態としては,学歴・年功 が結局決め手になる昇進システムを呈しているわけで,この傾向は, 「われわれは知識水準の高 い人間を求めている。変化に対処し, うまく適応できる人材を必要としている」 (帝人人事担当 常務談) という言葉の中に端的に言い尽くされている。知識水準の高い人材ということは,現 代社会では学歴と一次的に結びつかざるを得ないからである。

このようにしてみてくると, 1957年以降,急旋回する新しい人事管理ボリシーヘの傾斜は,実 際には,旧態秩序をそのまま湿存・強化することになったのではないかという疑念さえ感じられ る。特に,昇進制度に関する種々の改革は,学歴・年功偏重主義の打破を目指しつつも,内容は 科学的合理主義という名目の下での,みせかけの構想ではなかったかという危惧を感じざるを得 ない。

‑ 80‑

(4)

I・ップビジネスにおける昇進規定要因について(岡田・上鳩)

このような危惧を問題意識としてもちつつ, 日本のトップビジネスにみられる最近の昇進実態 を,現代的労務管理への体質改善期に突入した1957年を始点とし, 10年毎(つまり19571967→  1977)の推移を吟味するという形で,検討していきたい。このようなトップビジネスの中枢の生 成・補充過程ー一彼らがどのような過程を経て昇進し,その地位に到達するのかという実証的な 側面ー一—に関して言えば,過去に於いてそのような方向性をもつ研究が皆無であったというわけ ではない註1) 普遍妥当的な仮説を樹立するほどには研究が進展してきたとは思えない。 一般 的な脈絡に副って言えば,特殊主義 (particuralism)から普遍主義 (universalism)へ,属性 主義 (ascription)から業績主義(achievement)へ という流れの中で,昇進の規定要因として,

出自• 財産・学歴・勤続年数・年功・パーソナリティー特性などが論議されてきた。本稿におい ては, トップビジネスの指導者の昇進の過程に介在する多くの要因の中から, とくに年功と学歴 に焦点を絞り,年功・学歴が昇進の過程にどのような形で影響をおよぼすのかを実態に即して考 察することを主たる目的とする。

デーク・ソースについて

ダイヤモンド社出版の『会社職員録』 (1957,  1967,  1977)に掲載されている企業の中から,

(1)まず,標本を通時期的に同一企業に固定化するために, 1957年版に掲載された企業を母集団と し,無作為群別抽出法によって, 50社を抽出した。具体的な抽出企業名は次の通りである。

朝日新聞,池貝鉄工,石川島播磨重工,片倉工業,兼松江商,協和銀行,麒麟麦酒,小松製作 所,三共,三光汽船,三洋証券,松竹,昭和電工,新日本製鉄,住友金属工業,銭高組,太陽 神戸銀行,中部電力,帝国産業,電気化学工業,東京瓦斯,東芝,同和火災海上, 日産自動車,

日清製粉, 日本碍子, 日本鋼管, 日本鉱業, 日本石油, 日本セメント, 日本電池, 日本郵船,

阪急電鉄,富士銀行,古河電気工業,北越製紙,北海道拓殖銀行,北海道炭磯汽船,丸紅,三 井東圧化学,三菱ガス化学,三菱重工,三菱地所,明治製果,明治生命,明電舎,山一証券,

ユニチカ,横浜銀行, リコー, (会社名は77年度の会社名で表示)

(2)これらの標本企業を固定し, 1957, 1967,  1977  3時点におけるこれらの企業の旧制中学以上 の学歴を有する課長・部長•取締役の在職者す べてについて生年と学歴註2)をチェックした。

各年度のこれらの企業の階梯別在職者総数は次 の通りであった。.(表ー 1)

ー1

~ I

1957 

1967 

1977 

課 長

I

1671

I

2121

I

22s1

部 長 1 786

I

1459

I

2729

取締役

418 1 768

I

968

1)  例えば,青沼吉松『日本の経営層ーーその出身と性格』(日経新書, 1965年),万成博『ビジネス・エ リート』(中央新書, 1965年),麻生誠『ニリートと新育』 (福村出版, 1967年)等々が代表的なものと して挙げられるであろう。

2)  学歴は,例えば,旧制の名古屋高商は名古屋大学というように全て新しい学制に直してチェックした。

ただし旧制中学,旧制実業学校,新制高校は一括して旧制中学としてある。

81‑

(5)

(3)社長については各年度版に掲載されている企業の旧制中学以上の学歴を有する全ての社長につ いて,生年と学歴をチェックした。

(4)なお,企業によっては一部,特定の年度の特定の階梯について,掲載のない場合があったこと を付記しておく。

Il 年 功 と 昇 進

野田一夫氏は昭和34年に日経連労務管理研究会の行なった「昇進制度に関する調査」から,昇 進を規定する要因として勤続年数と学歴が圧倒的に重要な意味をもつという事実を指摘してい る。 日本のトップビジネスのホワイトカラーの雇用形態の重要な枢軸の一つとして,いわゆる

「終身雇用制」を指摘できる。この制度を前提にする時,勤続年数の蓄積を年齢の上昇という形 で置き換えることが論理的には可能であろう。

1957年度(以下57年度と省略), 1967年度(以下67 年度と省略), 1977年度(以下77年度と省略)に おけるそれぞれの階梯ごとの平均年齢は表ー 2の

ごとくである。全体的にみれば,同一年度におけ る階梯間の平均年齢の差は全て統計的に有意であ

(付表ー 1) いずれの年度においても課長→

2

1957  1967  1977 

課 長 44.19 44.73 45.00 部 長

I

48.69 51.20 50.70

取締役 54.15 57.14 58.20 社 長

I

60.32

I

61.74歳,‑63.11 部長→取締役→社長と階梯を上昇するにつれて平均年齢が高くなっていることがわかる。

このことは年功序列を大きく逸脱しない昇進システムが主流をなし,昇進の規定要因として年 功・勤続年数が根強く残存していることを示唆している。

また乎均年齢の上昇は上記の同一年度における階梯上昇に伴うもののほか,年度別に同一階梯 に在職している者の平均年齢についてみた場合も,大筋では(部長の67年から77年への移行期を 除けば)年数を経るにしたがって平均年齢が上昇し, この上昇傾向は統計的にも有意であり,

(付表ー2)いわば昇進要因の中で年功のウエイトが強化されていることが指摘できる。

この趨勢は他の調査結果4)とオーヴァーラップさせてみる時, この20年間にのみ特有なものでは なく,かなり長期にわたっての趨勢であると判断できる。萬成博氏は一もっともこの場合は明 治初期と大正期のビジネスエリート註3)の比較であるが一一この趨勢を,①日本人の寿命の伸び,

Rビジネス=リートが明治初期に比較して大正期においては学校教育をうけたのちに企業の世界 に入るようになった事実,③工業化の進歩につれての企業の世襲や創設の機会の減少に伴う年功 や官僚制的経験の必要性,という 3点から説明しようとしている5)。この20年間に限って言えば,

取締役,社長は除外して考える必要があるにしても,定年制の徹底などにより,乎均寿命の問題

3)  万成氏は, ビジネス・エリートを「各産業における企業および経済団体の最高の地位を占める人び と」(『ビジネス・エリート』 8頁)と規定している。

‑82‑

(6)

トップビジネスにおける昇進規定嬰因について(岡田・上嶋)

は課長,部長という範囲においては大きな理由とはならず,平均刀命は沿実な伸びを示してはい るものの,それと年功との関係は少ないように思われる。その意味では,一般に言い尽くされて いる③の学校教育期間の延長を原因とする考え方の方が妥当性をもつ。しかし③の学校教育をう けてのちに企業の世界に入るという現象が,また③の企業の世襲や創設の機会の減少が,一般化

したのちもなお,この趨勢を持続させている背景とはいったい何であろうか。先ず考えられるの は企業規模の拡大に伴う監督範囲の拡大,それに対応する形での階梯の垂直的分化の多様化とい う事実である。増大した階梯を上昇しようとすれば以前にもまして年数の蓄積を必要とするのは 当然のことであろう。さらに,いわゆる「キャリア型社会」の到来ということを考える必要があ る。社会が有機的に高度化すればするほど一つの決定を下すにしても専門的知識,あるいはさま ざまな状況への配慮というものが要求されてくる。 このことは A.トゥレーヌがよく指摘すると ころである6)。 このような状況に対応するためには当然いままで以上のキャリアというものが必 要とされ,結果として豊富な実務体験,その裏付けとしての年数の蓄積が不可避になるという点 を見逃がしてはなるまい。とりわけ「企業内での経験」を軸にして,そのような状況に「しきた り」で対応しようとする傾向が強い日本においては,なおさらこの趨勢が増幅,強化された形で 現出したとしても不自然ではない。

年功の問題を考えるに当って,少し視点を変えてみよう。表ー3は,各年度における各階梯到 達者の最低年齢を示したものである。

この表から先ず,傾向として逐年時に各階梯在職 者の最低年齢が上昇,高齢化していることが指摘 できる。また,各階梯到逹者の最低年齢は,各年 度とも課長から取締役までは年功序列を逸脱しな い形で昇進が行なわれているにもかかわらず,社 長の年齢は取締役平均よりも低いことがわかる。

贔 I

課 長

I

部 長

I

取締役

社 長

I

表‑3 1957 

26

32

I

40

32

1967 

1977 

32

32

36

36

40

42

38

38

この原因の一つは,データ・ソースの問題もあるが, (つまり社長は各年度版の全収録企業の旧 制中学以上の学歴を有する社長をデークソースとしていること)他の有力な理由として取締役ま での昇進システムと社長への昇進過程では異なる昇進のパターンの存在を意味しているようにも 思える。つまり,一つは「企業家支配」的ビジネスがいまだに温存すること,他の一つは「経営 者支配」的ビジネスでは,企業経営の要は「取締役」であり,社長は「代表取締役」であって,

企業のシンボル的意味しかもたないケースがでてきたことなどによってこの事実は説明できよう。

以上の諸結果は,いずれも実力主義=年功強化,昇進年齢の高齢化という現象を,実態として は示していることになる。換言すれば高度工業社会における管理職への昇進は,今まで以上に年 功が重要になることを示唆しているのである。

‑ 83 ‑

(7)

昇進の規定要因としての学歴—占有率を中心として

昇進の規定要因としての「学歴」を考察する場合,通常,学歴という言葉は二重の意味で使用 されている。一つは新堀通也氏の言う「垂直的な学歴(主義)」,あるいは青沼吉松氏の言う文字 通りの「学歴」,すなわち「大学出・高校出・中学出などという段階別の学歴」 を指し示す側面 からの使用であり,他の一つは, 「同じ段階の学歴をもっているにしても,出た大学の固有名 8)すなわち新堀通也氏の言う「水乎的な学歴(主義)」,あるいは青沼吉松氏の言う「学校格 差」,野田一夫氏の言う「銘柄」などという面から使用する場合である。そこで,先ず前者の意 味における学歴が`昇進の過程におよぼす影響力の考察から始めよう。

旧制中学卒業者(以下旧制中学と省略)が各年度の各階梯において占める割合(以下これを

「占有率」と呼ぶ)は,大学卒業者の占有率とは,かなりの開きがあることがわかる。(表一41) 41 (%)  42(信頼限界) (%) 

祠迎竺 I

1957 

1967 

1977 

~

1957

1967 

1977 

課 長

I

8.1 

9.4  12.1  課 長 日

10.5 13.4 

8.3  10.8  部 長 5.3 

4.5 

4.7 

取締役 4.5 

3.8 

2.4 

部 長 PPu  6.9  5.6  5,5  3.7  3.4  3.9  Pu  6.5 

52..5 

3.4 

取締役 PL  2.5  1.4 

社 長

I

6,4  10.4 

10.7  社 長 Pu PL  84..35   128..27   128..96  

また,旧制中学の57 67 77年,各々の階梯上昇に伴う占有率の推移は, 57年課長→部長,

67年課長→部長,取締役→社長, 77年課長→部長,部長→取締役,取締役→社長,への過程にお いて,その差は統計的に有意であるが,他は差がないという結果をえた。 (付表ー3)

すなわち,これは中等教育出身者の場合,課長から部長や取締役への昇進プロセスで,何らかの 大きな障害のあることを賠示している。つまり経営者支配の企業時代においては, トップマネジ メントとそのプレーン的役割を果たすビジネスエリートの充実を必要とし,彼らとフォアマン的 役割を強化しつつあるミドルマネジメントとは明らかに昇進の基準が異なることを示唆している。

課長職では旧制中学・新制高校出身者が着実にその占有率を拡大する傾向にあるのに対して,部 長•取締役の占有率が逐年毎に逓減傾向を強めているという実態は,その意味で経営の専門職能 化がビジネスエリートの高学歴化に一元的に連動することを立証するものと推定できよう。

次に各年度の各階梯の平均年齢と旧制中学の平均年齢を比較してみたい。当該階梯の乎均年齢 との比較はいったいどのような意味があるのだろうか。日本における雇用形態が終身雇用制とい う色彩が濃い以上,他の資本主義諸国に比ぺて,企業指導者達は「勤務先を変えることによって,

経営の多面的な訓練や経験をつむという慣行がない。」9)ために,経営能力の習得は主として同一

‑ 8 4 ‑

(8)

トッブビジネスにおける昇進規定要因について(岡田・上嶋)

企業での職務経験を軸として,換言すれば「官僚制的キャリア」註4)の着実な積み重ねによって,

内部昇進していくというパクーンが一般的なのである。 もっとも特異なパクーンとして「天下 り」あるいは「横すべり」という例外的なケースも考えられうるが,全体からみればごく僅かの 部分を占めるにすぎないので大局的には看過してもよかろう註5)。 したがって一般的なケースの 場合,当該の階梯に早く到達するということは,何らかの有利な昇進条件を有しているであろう

ことは否めない。表ー5は各年度,各階梯の旧制中 5 学の平均年齢である。当該階梯の平均年齢を下回る

という階梯は各年度ともなく, 逆に課長や部長で は,明らかに各年度とも全体の平均値よりも高齢と なっている。また取締役と社長の場合には全体と比 べた時, 統計的に有意な差は認められなかった。

~

課 長 部 長 取締役 社 長

1957  46.10 50.45 56.50 62.30

(付表ー4)平均年齢の側面からみた場合にも,旧 ※表ー2を参照のこと

1967  1977  48.05

I

48.02

52.02 52.61 56.29 60.15 61.71 63.35

制中学では比較的階梯の低い段階で昇進に大きな障壁のあることが示されている。これを東大卒 と比べてみれば,課長で5年の遅れのあることがわかろう。 (表ー17参照)しかし取締役以上の 場合にはその障壁も統計的には解消され,当該階梯の平均年齢との間の差もほとんどないという 事実が明示されている。確かに旧制中学は占有率を軸にした考察においても,また階梯到達年齢

という面でも昇進におけるその不利な位置は否めない。しかしながらその不利な位置を何らかの 契機や条件によって突破した小数の一群の人々は, 67 77年の社長の占有率の伸びにみられる

ように,逆にトップに到達するのに有利な形で階梯を上昇するようである。

以上のことから,垂直的な学歴という点から,昇進への影響プロセスを吟味すると,高度工業 化とテクノクラシーを支えるビジネスエリートやテクノクラートヘの昇進が学歴主義, とりわけ 中等教育出身者の累進的逓減傾向に結着していることが,また大学卒に比べて彼らが大きなハソ ディをもつことが明白になった。

次に水乎的な学歴という面から, とりわけ大学を焦点にしつつ「学校格差」がどのような形で 昇進に影響をおよぼすかについて考察していこう。

公立大学出身者の各年度,各階梯の占有率は表ー61のごとく非常に低いので,全体の趨勢 にさほど大きな影響をおよぼさないと判断されるため,ここでは国立大学卒業者(以下国立と省 略)と私立大学卒業者(以下私立と省略)に焦点を絞って考察することにしたい。

4)  萬成氏は, 「日本の大企業は職業経歴を進めるうえに, きわめて強固な制度をつくりあげてきた。す なわち,大企業では学力試験にもとづいて,経営幹部の候補者を採用する。社員は企業内の事務職ある いは技術職から出発し,組織内のさまざまなボストの移動を通じて,管理職に昇進している。すべてJ:: 役より任命される一連の企業内の地位を登って, ついに企業の指導的地位に達する。 このような制度 は,官僚制的キャリアとよぶことができる」(『ビジネス・エリート』 15頁)と述べている。

5)  このような天下り・横すべり現象は,当為のことながら上位の階梯に集中するが,野田氏は「日本の 大会社の重役がアメリカの大会社などに比べて相対的に多い」事実を指摘し, 「横すべり重役の占める 比率は,全体からみるとほとんどとるに足らぬ数」であると述べている。(『日本の重役』 172ー174

‑ 8 5 ‑

(9)

表→ー1 (%)  62(信頼限界)  

心遵竺 I

1957  1967 

1977  階梯 年度

I

1957 

1967 

1977  課 長

I

2.8  2.6  2.9  課 長 Pu PL  32..60   s2..20  

32..62  

部 長

I

2.4・  1.9・  1.8  部 長 Pu PL  31..53  

21..33  

取締役

4.1  ・  1.5  0.9  取締役 PPu  62..0 

I

2.4

10..53  

社 長

I

2.0  2.1  3.3 

I

社 長 日 30..19   31..20   42..51  

各年度,各階梯における国立と 私立とを母数にして,両者の占有 の割合を示せば表ー7のごとくで ある。

全ての年度の全ての階梯におけ る国立と私立の差は統計的に有意 であり, (付表ー5)両者の占有 の割合の差は各年度とも階梯上昇

表—7   年 度 1957 

1967 

1977 

国立 私立 国立 私立 国立 私立

課 長 63.o 

37.1  58.8 

41.2  62.6  37.4 

部 長

I

11.2 

2s.9  72.7  21.4 

73.5  26.5  取締役

79.1 

20.9  81.8  18.2  80.2  19.8  社 長

I

76.0 

24.0 

71.8 

28.2 

70.5 

29.5 

に伴い取締役までは拡大し続け,国立の優位性が明示されている。しかし社長の場合には,むし ろ私立の占有の割合が増大傾向を示していることが注目に値するが,量的には特に部長以上の占 有の割合において国立が大きなウエイトを占めていることが確認できる。しかしここで特に注意 を要する点は,国立と私立のそれぞれが同一階梯において示す割合が課長を除けば,この20年間 統計的に差がないということである。 (付表ー6)

すなわちこの事実は,国立と私立に限定して比較した場合,課長を除く他の階梯,つまり部長,

取締役,社長という上位の階梯での割合が,この20年間固定化していることを示唆しており,国 立と私立の「格差」が量的には固定化していることを意味している。また全サソプルをベースに みた時,国立と私立は,さらに階梯上昇に伴う占有

率の推移においても著しい相違をみせている。国立 各年度,各階梯の占有率は表ー8の ご と く で あ

国立においては,課長から取締役までは階梯上昇 に伴い,その占有率を上昇させるが,取締役から社 長に至る過程において,その占有率は低下するか変

表—8

贔 I

1957  課 長

I

56.0 

部 長 1 65.7 

取締役

72.3 

社 長

I

69.7 

(%)  1967 

1911 

51.7 

52.9 

67.9 

68.6 

77.5 

77.6 

62.s 

60.6 

わらないという事実を指摘することができる。 (付表ー7)このことは,課長→部長→取締役と いう一連の昇進パクーンを順調に昇進してきた一群の人々にとって,取締役から社長への昇進の

‑ 86 ‑

(10)

トップビジネスにおける昇進規定要因について(岡田・上嶋)

過程において,資格条件の根本的変質という障壁が存在していることを暗示している。つまり社 長になるためには,出自,閾閥,政治的手腕など学歴以外の要因が影響するものと推量される。

一方,私立の各年度,各階梯の占有率は表ー 9の ごとくである。

取締役から社長への過程を除き, 国立と正反対 に,通時期的にヒエラルキーの上昇と占有率が反比 例することが統計的に検証されている。(付表ー8) 私立においては,国立とは逆に課長から取締役の過 程までは,階梯上昇に伴いその占有率を低下させて

心 I

課 長 1

部 長

I

取締役

社 長

I

1957  33.0  26.6  19.1  22.0 

9   1967  1977  36.2  31.8  25.6  24.8  17.3  19.1  24.7  25.4 

いるにもかかわらず,取締役から社長に至る過程においてはその占有率は上昇するか,変化がな いという結果が得られた。この私立の階梯上昇に伴う占有率の変化のパクーンは,前章でとりあ げた旧制中学のパクーンとかなり似かよっている。すなわち課長から取締役までの昇進の過程に おいては,階梯上昇に伴いその不利な状況を増幅させているにもかかわらず,その選抜を経てき た一群の人々にとって, トップヘの昇進はかなり有利に展開するという意味において類似性があ る。この趨勢は国立と私立の各年度, 各階梯の平均年齢の比較(表ー10,11)においても,かな り明確に見い出せる。(もっとも旧制中学においては当該階梯の全平均年齢との比較であったが)

10(国立の平均年齢) 11(私立の平均年齢)

心さ~I 1957 

1967 

1977 

課 長

I

43.87

I

44.03

I

44.19

~

1957  1967 

1977 

課 長

I

44.05 44.97

I

44.87

部 長

I

48.48 51.16

I

so.11 部 長 48.74 51.16 50.33

取締役

53.81 57.31

I

ss.19 取締役 54.73 56.97 58.13

社 長

I

so.sg 62.41

I

64.21

I

社 長

I

58.35

I

60.06

I

60.38

I

国立と私立の各年度,各階梯の平均年齢の差は, 57年社長, 67年課長,社長, 77年課長,部長,

社長については統計的に有意差が検出されたが,これ以外のケースでは有意差がないという結果 を得た。 (付表ー9)先ず統計的に有意な差が課長を中心とする階梯の低い段階と社長という昇 進の最終の段階に多く出現している事実,そして社長では,国立が私立の平均年齢を上回ってい るにもかかわらず,他の階梯では逆に私立の方が平均年齢が高くなっている点に注目すべきであ る。つまり再度,ここでもビジネスエリートの重みが水平的学歴に直結していることを確認でき る。この結果からも私立は比較的階梯の低い段階においては国立に比してではあるが,昇進を考 えるうえで不利な状況におかれてはいるものの,その選抜を経てきた一群の人々にとってのトッ プヘの昇進に関しては,やはり逆に確率的には有利な位置を占めているという趨勢に突き当たる。

以上のように国立と私立の間の「格差」はこの調査に関する限り,かなり明確な形で見い出さ れ,昇進のパクーンも国立と私立においては異なり,私立の昇進パクーンと旧制中学のそれとで

87‑

参照

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