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ソシオンの理論 : ソーシャル・ネットワークへの システム・ダイナミック・アプロ‑チ

その他のタイトル Introduction to Socion Theory : A System Dynamic Approach to Social Network

著者 木村 洋二, 藤沢 等, 雨宮 俊彦

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 21

号 2

ページ 67‑143

発行年 1990‑01‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00022616

(2)

関西大学「社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号 , 1 9 9 0 , p p .  6 7 ‑ 1 4 3 .   ISSN 0 2 8 7 ‑ 6 8 1 7  

ソ シ オ ン の 理 論

一 ノ ー シ ャ ル ・ ネ ッ ト ワ ー ク ヘ の シ ス テ ム ・ ダ イ ナ ミ ッ ク ・ ア プ ロ ー チ ー ― ―

木 村 洋 ニ ・ 藤 沢 等 ・ 雨 宮 俊 彦

Introduction t o  Socion Theory :  A System Dynamic Approach t o  S o c i a l  Network 

Y  o h j i  Kimura, Hitoshi Fujisawa, Toshihiko Amemiya 

A b s t r a c t  

" S o c i o n "   i s   o u r  t e r m  f o r  a  t r a n s m i t t i n g  u n i t  ( " p e r s o n " )   o f   s o c i a l   n e t w o r k  n a m e d   a f t e r  n e u r o n .   E a c h   s o c i o n  o u t p u t s   i n t e r n a l   s t a t e ( " a t t i t u d e " )   t h r o u g h   i n f o r m a t i o n   c h a n n e l s   w e i g h t e d   s e l e c t i v e l y  b y  t h e   o t h e r   c o u p l e d   s o c i o n s .   T h e   i n t e r n a l   s t a t e  o f   a  g i v e n   s o c i o n   i s   d e t e r m i n e d  b y  t h e   i n t e g r a t i o n  o f  w e i g h t e d   i n p u t s   f r o m  t h e  o t h e r   s o c i o n s ,   w h i c h   w e   c a l l   " s e l e c t i v e   h e t e r o n o m y " .  

" S o c i o s " ,   a  n e t w o r k  o f   s o c i o n s ,   t e n d s   t o  e v o l v e   s o m e  e m e r g e n t   s o c i a l   o r d e r   t h r o u g h  t h e  s y s t e m  d y n a m i c s  o f   c h a n n e l ‑ w e i g h t s  a d j u s t i n g  p r o c e s s ,  m e d i a t e d  b y   t h e   l e a r n i n g  b e h a v i o r  o f   i n d i v i d u a l   s o c i o n s .   O u r  a i m  i s   t o  d e s c r i b e  a n d  e x p l a i n   t h i s   s e l f ‑ o r g a n a i z i n g  d y n a m i c s  o f   s o c i a l   n e t w o r k  s y s t e m ,   t h r o u g h   c o m p u t o r  s i m u ‑ l a t i o n ,   t h o u g h t  e x p e r i m e n t ,   s o c i o n  g a m e  a n d  d a t a  s u r v e y .   S o c i o n  t h e o r y  m a y  p r o ‑ v i d e  a  n e w  t h e o r e t i c a l  p a r a d i g m  f o r  c o m m u n i c a t i o n  s t u d y ,   g r o u p  d y n a m i c s  a n d   s o c i o l o g y   i n   g e n e r a l .  

Key Words: S o c i a l  n e t w o r k ,  C o m m u n i c a t i o n ,  S e l f  o r g a n i z a t i o n ,   S e l e c t i v e  h e t e r o n o m y ,   S o c i o n ,  S o c i o s ,  S o c i o n  game, S i m u l a t i o n  m o d e l ,  N e u r a l  n e t w o r k ,  I n f l u e n c e ,   C r e d i b i l i t y ,  Channel w e i g h t s ,  A t t i t u d e ,  S e l f .  

抄 録

ソシオンは,荷重を学習する社会的ネットワークの素子(個人や集因)を指すわれわれの造語 である。ソシオンは内部状態をもち,それを情報チャンネルを通じて他のソシオンに出力する。

ソシオンの内部状態は,他のソシオンからの荷重つき情報入力のある統合によって決定される

(「選択的他律」)。情報チャンネルヘの荷重は選択的で,学習によって変化する。

ソシオンのネットワークをソシオスとよぶ。ソシオン相互の荷重調整学習に媒介されて,ソシ オスのなかに,一定の創発的な秩序が生成する。社会的ネットワークに内生するこの自己組織的 な力学を,コンピュータ・シミュレーションと思考実験,さらにソシオン・ゲームや調査研究の 連動によって記述・説明するのが,われわれのねらいである。ソシオン理論は,コミュニケーシ ョン理論をはじめ,グループ・ダイナミックス,社会学に,新しい有力な理論的パラダイムを提 供できるかもしれない。

キーワード:社会的ネットワーク,コミュニケーション,自己組織化,選択的他律,ソシオン,

ソシオス,ソシオン・ゲーム,シミュレーション・モデル,ニューラル・ネットワ ーク,影響力,信頼,荷重,態度,自己

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関西大学「社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

は じ め に

ヒトは,自分の目でみて確かめることのできることも,さらに自分のあたまで考えることがで きることもたいへん限られている。つまり,多かれ少なかれ,他者の意見や他者からの情報に依 拠して自分の意見や態度を決定しなければならない。しかも,ヒトはたがいに嘘をついたり誤っ

たりすることがあることも知っている。

この自分の無力さと,他者のおそろしさを前にして,なんとか生きのびるために採用したヒト 科の秘策が,自分が信用している他者の意見にもとづいて,あるいはその強い影響のもとで,自 分の意見や態度を決める,という選択的他律 ( s e l e c t i v eheteronomy) の戦略であった,と考 えられる。そして,それはそれなりに,合理的な方略ではあった。

もし,このように,ヒトの思考という情報処理の大半が,本人の思い込みに反して,他者の言 説や意見の意識的ー無意識的な取り込みによって成り立っているとすれば,ヒトの個体の情報処 理体としての基本的な自律性を前提にして人間の行動や社会システムの運動を説明しようとして きた個人主義の人間モデルが,いずれ限界に突き当たるのはほとんど論理的必然であった,とい わなければならない。

われわれは,ある個人がだれだれと情報チャンネルをもち,そのうちどの他者の言説を重視し ているか,どのチャンネルからの情報をどのていど信用しているのか,その信用の置き方とチャ ンネルネットワークのパクーンそれ自体が,一見自律的に見える個人の意思決定に,ひいては社 会システムの状態決定に,情報内容そのものとはかなり独立に,大きな影響を及ぼしていると予 想する。

ソシオン理論は,ヒトの社会システムを,各個体によってそれぞれに荷重されたコミュニケー ション・チャンネルのネットワーク・パクーンとしてとらえようとする,ひとつの統一的な思考 の枠組みであり,共同の試行のフィールドである。いわゆる個人はむしろ,このネットワークに よって育まれた生きた結び目,一定の自律性と自励性をもつネットワークの結節素子としてとら えられるだろう。われわれは,みずから情報チャンネルを開き,荷重を自己学習するこの生きた 素子をソシオン ( s o e i o n ) と名づけ,複数のソシオンによって編みあげられる荷重ネットワーク

システムをソシオネット ( s o c i o ‑ n e t w o r k ) またはソシオス ( s o e i o s ) と呼ぶことを提案する。

荷重を学習するこのソシオンのネットワークは,個々のソシオンには還元できない,特有のシ ステム・ダイナミックスに従って運動する,と予想できる。ソシオン理論は,ソシオンのネット ワークのレベルで発現する創発的な ( e m e r g e n t ) 運動特性 ( = s o c i o ‑ l o g i c s ) を,思考実験とコ ンビューク・シミュレーションの連動によって解明していこうとする協同的な作業の場であり,

そのためのシミュレーション・モデルを漸進的に開発していこうとする試みである。

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ゾシオンの理論(木村•藤沢・雨宮)

目 次

I  ソシオンの基礎理論 IA  ソシオンとは何か

1 .   ソシオン・内部状態・情報

2 .   チャンネル・メディア・カップリング 3 .   荷重・信頼・リアリティ

4 .   内部状態の決定 5 .   ソシオンの学習

1B  ソシオン理論の射程(その 1) 1 .   ソシオンと世界

2 .   ソシオンと自己意識

3 .   ソシオンのコミュニケーション 4 .   ソシオンの社会

n  ソシオンのコンピュータ・シミュレーション 1 .   ソシオスとしての指標

2 .   ソシオンの基本モジュール

3 .   個と全体,ソシオンとソシオスの関係 4 .   ソシオンモデルのシミュレーション 1 1 I   ソシオン理論の位置づけ

1 .   ソシオン理論の構成とその特徴

2 .   ニューラル・ネットワークモデルとの比較 3 .   ソシオンモデルとその周辺

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関西大学『社会学部紀要』第 2 1 巻第 2 号

I  ソシオンの基礎理論

IA  ソシオンとは何か

選択的なチャンネルをもち, 荷重を自己学習する生きたネットワーク素子をソシオン s o c i o n

と呼ぶ。ソシオンは,他のソシオンからの情報入力の選択的統合によって自己の内部状態を決定 する。この内部状態は,一定の選択性を経て他のソシオンに出力される。ソシオンはこうして,

互いに他のソシオンに情報的に連結され,ひとつの生きたネットワークを形成する。このソシオ ンのネットワークをソシオス s o c i o s と呼ぶ。ソシオスは,個々のソシオンの荷重学習とチャン ネル選択活動に媒介されながら,荷重ネットワークに内在するシステムの力学にしたがって,均 衡状態を目指して自己運動を展開する。ソシオンは情報素子としてみたヒトの個体(あるいは統 合された意思決定機構をもつ集団), ソシオスはそれらが互いに他と連結されて形成するネット

ワークつまり社会である。

ソシオンの骨子 1 .   ソシオンは内部状態をもつ

2 .   ソシオンは他のソシオンと結合する 3 .   ソシオンは自己帰還ループをもつ 4 .   ソシオンはチャンネル入力に荷重する

5 .   ソシオンは入力を統合して内部状態を更新する 6 .   ソシオンは内部状態を出力する

7 .   ソシオンは出カチャンネルを選択する

8 .   ソシオンは入力荷重とチャンネル選択を学習する

1  ソシオン・内部状態・情報

1) ソシオンは選択可能な内部状態をもつ

ソシオンは実現可能な複数の内部状態をもち,そのうちのある状態を選択的に発現することが できる。情報をもつということの核心は,自己の状態の決定について選択性をもつということに ある。いうまでもないが,モノは内部状態の選択性をもたない。石は石であり,コップはコップで ある。これに対し,生き物は,木が葉を落としたり,ヘビが脱皮したりするように,環境や DNA

から情報を読みこんで,選択的に内部状態を発現しながら,自己を構成していく。ポンコツ車の

「御機嫌」も一種の内部状態のゆらぎと解せるが,これを選択的に発現させる情報をもたない。

蹴飛ばしてときたまご機嫌がなおる程度である。

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ソシオンの理論(木村•藤沢●雨宮)

ヒトは石とちがって泣いたり笑ったり,おこったりする。つまりいろいろ微妙なあるいは粗雑 な内部状態をもち, しかも(ポンコツ車とちがって)それらを選択的に発現する精妙な情報チャ ンネルを備えている。たとえば,生体内のホルモンや神経情報によって,あるいは他者の口から 囁かれたコトバによって,さらに自分の意志によって,ヒトの内部状態は,それなりに精妙に選 択され,決定されていく。そして,ソシオンであるヒトは,気分や感情や思惑などさまざまな内 部状態をたがいに他のソシオンと情報的に連結し,そのことによって,さらに高次の選択性をも つ社会システムを実現する。

2) 内部状態は行動の選択性をもたらすポテンシャルである

ヒトや生き物がある行動をとることができるのは,内部状態の選択性(情報)によってであ る。内部状態を一つしかもたないモノは突然製いかかったりしない。生きたシステムの内部状態 の核心は,選択的な行動を可能にする一種のポテンシャルであると考えられる。そして,すべて の生命システムにおいて,もっとも枢要な行動選択は常に,近づくか遠ざかるか,飛びかかるか 逃げるか ( f i g h to r  f l i g h t  p r o b l e m ) の決定である。

行動するシステムであるソシオンの内部状態は,最終的に「ヤル気があるのか o r ないのか」

の問題,ある行動に「賛成なのか, 反対なのか」, その行動の選択的実現を可能にする差異化さ れた態勢,として捉えることができる。つまり,ソシオン(ヒト)の内部状態についての選択性 の核心は,あるデキゴトーテーマにたいして,肯定的態度をとるか,それとも否定的態度をとる か,の決定にある。

3) ソシオンはすくなくとも 3 つの内部状態をもつ

ソシオンの内部状態としては,〔 0 , 1 )ではなく, 負の態度をふくむすくなくとも 3 つの状態

C  +1,  o ,   ‑1) を考えなければならない。

とりあえず,われわれのモデルでは,ソシオンの内部状態は,形式化して次の 5 つの状態をと るものとする。

ソシオンの内部状態 s:SE 〔 十 2 ,+ 1 ,   0 ,   ‑ 1 ,  ‑2) 

+とーは極性を,絶対値の大きさは態度の強さを, 0 は中立をあらわす。

それぞれの値には,極性と度合いをもつ内的状態なら何をあてはめてもいい。(賛成, 中立,

反対)といったいわゆる態度のほかに,〔好き一嫌い〕(怒り一恐怖)などの情動も経験的レファ レントと考えることができる。

4) パーソナリティは,指定可能なデキゴト・テーマ・行動プラン 1 n に対する態度の総和 である

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関西大学『社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

現実のソシオンの内部状態(ヒトのこころ)は,さまざまな思いを胸中に秘め,微妙な感情に ゆれている複雑なシステムである。しかし,そうした思いや感情は,それぞれ,なにか指定可能 なデキゴト・テーマ・行動プランについて抱かれるものである,と仮定すると,テーマあるいは 行動プログラムを指定することによって,ソシオンの状態空間を定義することができる。指定可 能なあらゆるテーマに関するあるソシオンの態度をあつめたその集合は,そのソシオンの内部状 態の総体,つまりパーソナリティをあらわすと考えることができる。

P= 匹 凶

E 1 は指定可能なテーマ ( i は ln)

A 1 は デ キ ゴ ト 瓦 対 す る 態 度 た だ し A ヨ 〔 + 2 ,+ 1 ,   0 ,   ‑1, ‑2 〕 P はソシオンのパーソナリティ

ソシオンのすべての内部状態をふくむ全状態空間の大きさは,指定可能なテーマ/立案可能な 行動プログラムの次元数に一致し,内部状態の種類は弁別可能な態度の数(本稿では 5) の"乗 個あることになる。

この内部状態のセットは,現実の人間がしばしばそうであるように,ある種の整合性をもった 一貫したシステムを成している場合もあれば,矛盾していたり支離滅裂だったりしてもいい。

ソシオスの状態も,同じように,定義することができる。あるデキゴト,テーマについてのす べてのソシオンの態度の集合が,ソシオスのひとつの状態であり,この状態をすべてのテーマに ついて集めたものが,いわゆる社会に対応する,と考えられる。

2  チャンネル・メディア・カップリング 1) ソシオンは情報チャンネルをもつ

ソシオンは,情報チャンネルを自分から開きながら,他の素子といわば勝手に結合する,生き た情報変換素子である。 それは個体 ( i n d i v i d u a l ) , あるいは閉じたモナドではない。ソシオン は,情報チャンネルをもち,それを通じて他のソシオンと連結するぺくつくられている。あるい はむしろ,連結されたネットワークのなかから生み出されてくるものがソシオンである,といっ ていい。

ソシオンは,見えないコミュニケーション・チャンネルをもつ生きたトランジスクーのような ものである。この生きた素子は,他の機械的な素子とはちがって,チャンネルを自分から発芽す るという顕著な特徴をもつ。ソシオンは,その見えないチャンネルを伸ばしたり縮めたりしなが

ら他のソシオンと連結し,社会的な情報ネットワークを形成する%

1) ソシオンは神経ーホルモン性の内部情報チャンネルを通じて生体と,感覚ー運動系をつうじて外部の自 然環境と,それぞれ情報的に接合されている。空腹時に理由もなくイラだったり,青い海をみて気分が 和らいだりするのは,こうした非社会性の入力によって内部状態が影響をうけるからである。行動する

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ソシオンの理論(木村•藤沢•雨宮)

2) ソシオンは他のソシオンとカップリングする

情報はメディアがなければ伝達することができない。ヒトが使用できるメディアが何である が,によってチャンネルの性質もカップリングのあり方も大きく変わってくる。サルは顔の毛を 抜いて,顔をメディアにした。ヒトは,話すために口を使うことを学んだ。性器はもとより,目 や手もふくめたヒトの感覚ー運動器官は,個体の生物学的必要をみたすのと同じぐらいに,他の 個体とコミュニケートするための器官として使用される。

こうしたヒトの身体的なメディアによって開かれる情報チャンネルの数や情報容量には,当然 脳の神経生理学的容量によって規定される上限がある(「結合定量」)。たとえばふつうのヒトが 名前と顔をおぽえられる他人の数は数百のレベルに限られるし,一度に何人もの話しを聞ける人 はすくない。常時,親密な交際をたもてる他者の数はせいぜい数十から二,三百のオーダーに落 ち着くだろう 2 ) 。

3) ソシオンは自己帰還 J レープをもっ

ソシオンは,内部状態についての記憶を選択的に呼びだして,現在の内部状態に再入力する自 己帰還ループをもつ。過去の記憶ファイル(未来の予期も含む)から,ある時間遅れ (t‑1) を

生物個体としてヒトをみるばあい,この身体と外部環境というふたつの入力を無視することはむろんで きない。

しかし,このソシオン・モデルは身体 o r 環境からの入力は各ソシオンとも一様であると仮定し,社 会的な入力(ソシオ入力), つまり他のソシオンからの入力と自己帰還入力だけを問題にする。ヒトを コミュニケーション・ネットワークの中継変換素子と見たばあい,仮定されるその素子としての性質だ けから, ヒトの社会的な行動特性をどこまで導きだせるか,が問題だからである。

図 1 ‑ 1 ソシオンの環境

2)ソシオンのカップリングは,さらに現実にヒトやモノや情報の行き来を可能にするメディア・テクノロ ジーによっても大きく規定される。文字,電話,道路,自動車,飛行機,ラジオ, T Vなど,文明がも たらしたコミュニケーション・メディアは,そのつど,連結の可能性や密度を画期的に革新してきた。

これらの非身体的メディアの発達は,ソシオンの神経一生理学的な次元にも影響をおよぼさずにはいな いだろう。たとえば,新聞も T Vもなかった昔, ヒトが一日に処理するコトバや映像の量は %00 にも満 たなかったと思われる。脳の回路構成が変化しない方が不思議である。

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関西大学「社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

ともないながら,現在のソシオン・チャンネルに自己帰還されるこの私の内部状態についての情 報は,「私」についての指向的意識(たとえば「ぼくはなんて不幸なんだろう」)となって,他者 がコトバによって私に入力する「私」についての情報(「君は幸せだね」)とともに,ソシオンの いわゆる自己意識(後出)を構成する,と考えることができる。

4) ソシオンは個体ではない

ソシオンはつねに,他者と連結された状態でのみ,生きた素子として機能し,現実的に存在す ることができる。いわゆる i n d i v i d u a l として個体レベルまで分割 ( d e v i d e ) されたヒトは,す でに生きた状態では記述されていない。孤立した一個の神経をいくら調べても,生きた神経ネッ

トワークにおけるその神経の性質や挙動が明らかにはならないように,社会的コミュニケーショ ンのネットワークから切り離したヒトつまり個人からは,すでに人間のもつ社会性の核心は失わ れている。

ヒトというものがはじめに存在して時々コミュニケーションをするのではない。むしろ,時折 コミュニケーションとして顕在化する連結されたネットワークの動作のなかから,ひとつの結節 として生み出され,変換素子として固有の性質(個性)を帯びてきたのが人間である,と考えら れる。ヒトとヒトがおこなういわば二次的なデキゴトがコミュニケーションである,というより も,コミュニケーションという一次的なデキゴトがソシオンという結節をヒトにおいて生み出 す 。

5) ソシオンはチャンネルを選択する

ソシオンは,たとえば嫌いな人には口をきかなかったり,わざわざ誰かのそばまで行って耳元 にささやいたりするように,どのチャンネルに情報を発信するか,どのチャンネルには沈黙する か,内部状態を開示するに際して,発信チャンネルを選択する一定の自由度をもつ。

ソシオンは,どういう基準で発信先を選択するかについて,たとえば信頼している人から先に 話しをする,といった一定のルールをもつと考えられる。その詳細は後章で見るが,ともかくチ ャンネルの選択に際して一定の恣意性をはたらかせることができるというこの発信チャンネル選 択の自由度は,受信チャンネルにたいする入力荷重の選択性(後出)とともに,ソシオンが一定 の自律性をもった変換素子として,つまり一個の主体として存在するための基本的な条件であ る 。

自分から自律的にチャンネルを選択しながら自発的に他と結合する,というこのソシオンのユ ニークな性質は,それによってソシオンのネットワークが自己組織的に生成する基本的なポテン シャルともなっている。

6) チャンネルの制限,固定化がソシオス(ソシオネット)の形を決める

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ソシオンの理論(木村•藤沢•雨宮)

ふつうソシオンは自分から自律的にチャンネルを選択しながら自発的に他と結合する自然な傾 向をもつが,それによっていろいろな仲間はできても,一定の機能をはたす社会制度までは組め ない。そこでソシオスの形を決めて制度をつくるために,このチャンネル選択を社会的に誘導す る,つまりソシオンのチャンネルをよそから指定し,制限するということも,昔からよくおこな われてきた。「あの人と口をきいてはいけません!」から始まって, きちんと「窓口を通しなさ い。」にいたるまで, このチャンネルの指定・制限という方法は, いまでもやはり,ソシオンを 規定のソシオス・パターンヘ適合させ,社会化する,もっとも伝統的で基本的な手法である。

3  荷重・信頼・リアリティ

1) ソシオンは,入カチャンネルに選択的に荷重する

ヒトが自分の目で見たり確かめたりできる情報はたいへん限られている。つまりヒトは他者か らの情報に大きく依存せざるをえない。しかも,他者のコトバは(さらに自分のコトバも)嘘ま たは間違いである原理的な可能性をもつことを知っている。ヒトが生き延びるためには,どの他 者のいうことをどの程度信頼したらいいのかを識別し,だれの言うことをどの程度聞くべきか,

を学習しなければならない。

このように,無力なヒトの個体が群れのなかで生き延びるために編み出した基本戦略が,他者 からの情報に選択的に荷重するというソシオンの選択的他律のメカニズムである。

2)荷重は入力情報の信頼度あるいは割引率である

「オオカミが来た 1 」と少年が言ったのか,爺さんがいったのかで,情報の内容は同じでも,

情報としての作用力,つまり他者の内部状態の選択的決定に与える現実の力は大きく異なる。現 実のコミュニケーションではつねに,伝えられる情報の内容といっしょに,それを誰がどのよう な場面で言ったのか,その発言の信憑性 ( c r e d i b i l i t y ) , 信頼性がかならず問題となる。もしこの 信憑性が乏しいと判断されれば, (たとえばヒットラーが侵攻する, という情報が黙殺されたよ

うに)せっかくのメッセージもほとんど効力を発揮することができない。

情報は,現実のシステムにおいて内部状態の選択的指定力として力を顕在化するまでは,あく まで一種のポテンシャルにとどまる。このポテンシャルを顕在化するにさいしで情報にたいして 乗ぜられるべき係数が,ここでいう荷重 ( w e i g h t ) である。ヒトのいるシステムのあいだで実際 に伝達される情報の現実的な作用力は,つねに入力情報と荷重の積で定義されなければならな い 。

3) 荷重は入力情報にリアリティの感覚を付与する

情報システムである人間は, 「現実そのもの」を経験することはできない。情報として入力さ れたものだけが,現実としてであれフィクションとしてであれ,経験されうる。生体は,こうし

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関西大学「社会学部紀要』第2 1 巻第 2 号

たさまざまな情報入力のなかから,自己の生存にかかわる一定の情報を選択的に受容し,これに 優先的に対応しなければ死滅するだろう。入力された情報にそれなりの優先順位を与えるメカニ ズムがここでいう荷重である。

荷重は,ただのコトバを真実あるいは現実にする。つまり,つよい荷重をうけた情報ほど,っ よい信憑性・現実性の感覚をもって経験される。荷重は入力情報にその重みに見あったリアリテ ィの感覚を付与する。

むろん,どのような回路メカニズムによって入力情報あるいは表象にたいするこの荷重という 現象が可能となるのか,その詳細はまだ不明である。しかし,ちょうどこの荷重の裏にあたる現 象は(理解されているとはいえないが)よく知られている。ほかでもない笑いがそれで,このヒ

トに特有の精神一生理現象は,荷重を一瞬のうちに吹き飛ばし,ある情報について体験されてい たリアリティを一挙に空無化する神経回路現象として統一的に理解できる丸

4) 信じることは荷重を置くことである

ある人を信じることは,その人からの入カチャンネルに荷重することである。あるコトバを信 じることは,そのメッセージあるいは表象に荷重することである。逆に,疑うということは荷重 を撤収することである。そして,思い悩むことは,荷重が 1 と 0 のあいだでゆらぐことである。

コトバをはじめて知った子どもはまだ疑うことを(したがって信じるということも)知らな い。つまりソシオンの荷重は初め,白紙にちかい未決定の状態にあると考えられる。子どもは知 るべき情報のカオス以前に,置くべき荷重のカオスの中にいる,といっていい。そこで「知らな いオジちゃんを信用してはいけません!」「お母さんのいうことを信じなさい!」という荷重の 刷り込みが大切となる。ソシオン・チャンネルにたいする荷重の基本パクーンは, 「教育」をつ

うじて刷り込まれ,固定される。

5) 荷重はソシオンの歴史である

荷重は一夜にしてはできない。ソシオンの社会的な経験と自己学習の成果である荷重にはソシ オンの歴史が蓄積する。ヒトがヒトに抱いた不信や裏切り,他者によって恵まれた好意や愛情の 3)  「笑いとは, ( 1 ) 通常両義的もしくは非一義的パターンの同化をめぐって図式の作動回路に生じるある種 のスイッチンゲ現象を引き金にして, ( 2 ) ‑ 瞬作動図式が賦活信号出力系から脱離する一時的な負荷脱離 の現象であり, ( 3 ) これは余剰出力の放出を通じて愉快感を生み出すと同時に, ( 4 ) 作動中の図式に急激なデ カセクシスを引き起こして,その図式について体験されていた現象学的リアリティを生理学的にキャン セルする。」(木村, 1 9 8 3 ) 。ちなみに,本稿でいう「荷重」は, かって木村がカセクシスとよんだもの の機能であり,最終的にはある表象に供給される賦活出力信号の量として定義できるかもしれない。

なお,極めて興味深いことに,近年の大腹生理学は,脳幹から上行して視床下部から基底核,側頭葉 に分岐しながら最終的に新皮質前頭前野へ投射されているドバミン作動性の無髄神経系の存在をつきと めた。このAlOとよばれる賦活神経系は,前頭前野でオートレセプターを欠く,つまりセルフ・フィー ドバック・メカニズムをもたないという顕著な特質を有しており(大木幸介, 1 9 8 6 ) ,   快感神経と目さ れている。笑いも荷重も,この賦活神経系の機能と密接に関係している可能性が高い。なお,快感と賦 活出力との関係については,木村洋二「退屈論」関西大学社会学部紀要 1硝~2 号を参照されたい。

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ソシオンの理論(木村・藤沢•雨官)

経験がすべて,ソシオンのチャンネルとチャンネルヘの荷重パクーンに蓄積する。それは回路的 に具現されたソシオンのライフ・ヒストリーであるといっていい。

荷重をつくるには時間がかかるが, 吹き飛ぶのは一瞬である。 ヒトでも (「オオカミが来た

!」),メディアでも(「 KY ってだれだ?」), 他者が私に置いた荷重, 私の歴史が蓄積してきた 他者の信頼を吹き飛ばすには,たった一度,悪質な嘘をつけばそれで十分である。一度荷重が飛 んでしまえば,そのチャンネルからの声には,もはや,だれも聞く耳をもたない。たとえ真実を 叫んでもである。

6) 組織は,チャンネルを固定して荷重を制度化する

官僚制などフォーマルな組織は,チャンネルをあるかたちに組み,荷重を 1 に設定して人為的 につくりだされるソシオンの人エネットワークである。正規のチャンネルから入った情報を疑っ てはならないし,指令には無条件に従わなければならない。それは強制あるいは約束による荷重 の制度化が生み出したソシオン・マシーンである。なお,あるチャンネルに荷重が集中したとき に生まれるのが,いわゆる権威である。カリスマ的な個人崇拝は,個人チャンネルヘの荷重が組 織の制度的チャンネルからはみ出して凝固し絶対化したものと考えられる。絶対的な荷重をひと つのチャンネルに集中する個人崇拝や聖典信仰は,荷重を小刻みにして分散的に配分・制度化す

るフォーマルな組織とは比較とならない影響カ・動員力を発揮する丸

4)従来の社会学的コミュニケーション論/組織論は主に,ある目的達成に機能的であるように人為的にチ ャンネルが整備されたソシオンのネットワークパターン(トリーかセミ・ラティスかといったネットワ ークのパターン構造の問題)に照準してきた。そこには,社会をなにか固定的な秩序をもったひとつの 制度,パターン化された構造態としてとらえたがる認識論的な視点の拘束があったようにおもわれる。

小集団のなかのコミュニケーション・チャンネルに照準した研究にソシオメトリーがあるが,そこで は対人相互作用の頻度や好き一嫌いといった対人的態度の布置パターンが主な変数であって,荷重入力 の統合•変換によって各人の内部状態が動的に決定される,といったシステム・ダイナミックス的捉え 方は行われていない。

近年,友人・知人のつながり具合を追跡して社会システムのインフォーマルで自生的な,いわば「非 構造的」側面を照明しようとする「ネットワーク研究」が注目を集めているが,そこでもしかし,チャ

ンネル荷重に類したコンセプトは見当たらない。

他方,われわれが「荷重」というタームで理論フレームのなかに取り込もうとしている現象は,カッ ツたちの『パーソナル・インフルエンス」以来,コミュニケーションの「影響」,「効果」研究で扱われ てきたテーマと重なる部分をもつ。しかし,もともと広告,宜伝という実践的要請から派生したこの手 の研究は,マス・コミュニケーションの効果や影響力さらにはニュース・ソースの c r e d i b i l i t y といっ たプラクテイカルな問題領域に限定されており,その影響概念をコミュニケーションの一般理論の文脈 でエラボレートするという方向性は見られない。

唯一, トータルな社会理論の文脈のなかで荷重現象に注目し,信頼という現象のもつシステム論的重 要性を理論的に明晰に語った理論家に• N .  ルーマンがいるが, 彼とても, これまでのところ思弁的な 整理の段階にとどまっており,モデル構築への志向は見られない。いずれにしても,従来のネットワー ク研究は,ソシオスのもつこのチャンネル・パターンの布置構造という側面のみに集中してきたきらい があり,われわれが主題的に扱おうとしている「荷重」の問題や,その荷重の学習によって,構造パタ ーンを刻々と更新しながら一定の均衝状態へ到達するネットワーク・システムの動的プロセスについて は,ほとんど言及されることも探究されることもなかったように思われる。近年, Maturana1 9 8 4 や 正村 1 9 8 9 など新しいコミュニケーション理論の胎動が見られるが,われわれのモデルはこうした探究 にひとつのツールを提供しようとするものである。このようなネットワーク・システムのダイナミック

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関西大学「社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

4  内部状態の決定

1) ソシオンの内部状態は,非決定性は高いが自己選択性は弱い

子どもは,泣きたいのに,周囲の笑いにつられて笑いだす。大人でも,不景気な顔をした人間 が目の前にいると,せっかくの華やいだ気分もしけこんでくる。自分が美味しいとおもうものを 友人が不味いというとあわてたり,自分がいいと思う絵を「通」がけなすと,自身を失ったりす る。このように,ソシオンであるヒトの内部状態は,他者の内部状態の影響をうけやすく,しば しば「私」の意向を超えて決まってしまうことが多い。

仮に,ヒトが本来,自己決定的な自律性をもつとすれば,他者からの入力を遮断されれば,ま すます自己決定性がたかまり純粋な「自己」が顕れてくるはずである。しかし,事実はまった<

逆で,入力遮断のもとでは,内部状態はまもなく極端に不安定化し,ヒトは極度の不安に陥るこ とが知られている。しかも,この状態では他者の指示にたいする被暗示性も大幅に昂進する。

この簡単で基本的な事実は,ヒトの内部状態はゆらぎやすく,高い非決定性をもつこと,しか し,その状態を自分で決める自己選択能力はそう高くないことを明らかにしている。

2) 内部状態をきめるのは他者たちの入力である

そこでわれわれはむしろ発想を逆にして,ソシオンの内部状態は基本的に他者からの入力によ って決定される,と考えたい。その場合,内的状態の決定に対する影響力は,誰がそれを言った のか(「オオカミが来た 1 」)によって,大きく異なる。伝達された意味(メッセージ)は同じでも,

権威がそれを言えばメッセージはよりリアルとなり, リアルなメッセージは当然より強い影響力 を及ぼさずにはいない (Milgram1 9 7  4 ) 。

一般に,そのメッセージを発した人への信頼荷重が大きいほど,そこからの情報はより大きな 影響力をもっ,と考えられる。要約すると;

①  ソシオンの内部状態は他のソシオンからの入力によって変化する R  入力とは,他のソシオンの内部状態についての情報である

⑧  この入力は「強度」をもつ

ここで,入力される情報の「強度」とは,ソシオンの内部状態を変える力(情報の選択的作用 力を発現させるポテンシャル)で,〔内部状態(他のソシオンからの出力量) X 当のソシオンがそ のチャンネルにおいた荷重)で表される。荷重が 0 に近ければ.いくら声を大にして入力しても

な運動を,単なる想像の域をこえた思弁と実験の姐上にのせるためには,コンピュークが不可欠である。

その意味で,われわれのソシオン・モデルは,コンピュータが生み出すべくして生み出そうとしている ひとつの必然的な社会モデルである,といっていいかもしれない。

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ソシオンの理論(木村•藤沢・雨宮)

「どこふく風」, 荷重が 1 に近づけば,そのひとの「言いなり」になることを意味する。なお,

それぞれのチャンネルは異なった荷重をもちうる。

F . B   M 

図 1 ‑ 2 ソシオンのユニット

C W はチャンネル入力荷重 IS は内部状態 SR は出カチャ ンネル選択規準 F B は自己帰還ループ M は記樟バッファー

3) ソシオンの内部状態は,各チャンネル入力のある合成(統合・変換)によって決まる あるチャンネル i から入る情報,すなわちあるソシオン X ; の内部状態(感情や信念)を知ら せる情報 q ; が,その情報を受けたソシオンめの内部状態(感情や信念)を変化させる力 P ( q , ; ) は,次のようになる。

〔入力情報 x 荷重〕ー~(情報の作用ポテンシャル〕

P ( q j ; )  = W j i " Q j i  

P は情報をうけたシステムの内部状態を変化させるカ

荷重 W J iは, ノシオンめがふからのチャンネルにおいた荷重

ある任意のソシオンめの内部状態は,そのソシオンが連結された各チャンネルから入力され るこの情報的ポテンシャル P ( q ; , ) を,ある関数によって統合し,変換したものと考える。

〔各チャンネル入力のある合成〕̲〔ソシ才ンの内部状態〕

X ; , 、 = 力 ( w w q , ; ,w , r X ; , 1 ‑ 1 )  

4) 自己帰還入力もソシオン・チャンネルに入力される

自己帰還入力も, 他者からの情報が入力されるソシオン・チャンネルに入力される, と考え る。ソシオンのもつ自律性は,この自己帰還ループヘの自己荷重の大きさの問題として,モデル に組み込むことができる。

たとえば,自己帰還入力への荷重が少ないと,主体性が乏しく周囲を気にする同調主義的性格

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関西大学『社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

が生まれ,荷重が強すぎると頑固,我が強い,生意気,自信過剰,あるいはたいへん主体的など といわれる個人主義者が誕生する。

5)入力の合成値が一定の閾値を超えると内部状態が変わる

ソシオンの状態変動(心変わり)は,合成された入力の総量が一定の閾値を越えたときに起き る。この閾値はソシオンのもつある種の性格特性と対応する。たとえば, 「過敏で, 浮ついてい る」人は,閾値が低く,「鈍感で,落ち着きがある」人は閾値が高い。全般に閾値が下がってき たような場合は,「浮き足だつ」などと表現されるだろう。

6)入力の合成法はいくとおりかあり得る

入力を合成する方法にはいくつかのクイプがありうる(詳細は I 1 を参照)。 ここで, こころみ にいくつか列挙すると,

同 調 型

みんなの意見(周囲の声)に動かされるクイプで,多数決あるいは日和見型の決定法。和を もって尊しとなす調和志向型,いつも中をとる日本的同調主義などが含まれる。

雷 同 型

声の大きい者に引きずられるクイプで,最大入カチャンネルを優先的に受容する決定法。明 快で強い意見にのせられやすい。いわゆる不和雷同型。

忠 実 型

荷重の大きいチャンネルからの入力を選択的に受容する荷重優先型で,いったんこれと決め た人の言うことに従う。権威の言うことを鵜のみにする権威主義もそのひとつ。

自 尊 型

自分の考えを重視する独立自尊のクイプで,要は自己回帰}レープヘの荷重が高い。いわゆる 個人主義者がこれに相当するが,しばしば頑固,かたくな,偏屈などとも評される。

このように,入力の合成法(変換関数のかたち)は,ソシオンの社会的性格をあらわしてい る,と見ることができる。ちなみに,同調型は孤立と不和に弱く,雷同型は慎重さを欠き,忠実 型は権威の保証がないと不安,自尊型は独り善がりになりやすいという弱点をもつ。

7) ソシオンのゆらぎはソシオスを柔らかいシステムにする

ソシオンは,どのようにでも存在できる自由度,というより非決定性をもつ。いいかえると,

ソシオンである「私」のかたちは決まっていない。そして,この「私」にともかくも一定のかた ちを与える,つまり「私」の内部状態を(すくなくともその選択の幅を)決定するのが, 「 私 」 とカップリングした他者たちからのソシオン入力なのである。ソシオンは,他者からの入力なし には,自分の内部状態を決定することも,安定的に保持することもむずかしい。

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ソシオンの理論(木村•藤沢•雨宮)

内部状態を他者とのカップリングによって決定する,というソシオンのもつまさにこの特質 が,ソシオスにシステムとしての可塑性と多様性をあたえる鍵となっている。ヒトが形成する集 団や社会の多様性の秘密は,個体が内部状態について高い非決定性(情報量)をもちながら,そ の状態は社会的にしか決定•安定化されない,というこの基本的事実のうちにある。

5  ソシオンの学習

1) ソシオンは他律を学習する

相手を見ずに他人の言うことを信用したり,だれかれ構わず自分の本心をしゃべってある<人 は,バカ正直な人である。バカ正直な人は素直に他人の言うことを信じてだまされたり,相手を 見ずにものを言ってえらい目にあったりするので,学習して賢くならなければいけない。こうし て,人を疑うソシオンの学習,素直に信じていい人を見きわめ,正直に本心を明かせる人を見わ けるソシオンの学習がはじまる。

信頼の学習は,人間のもっとも内面的な自由に属する。荷重は信頼であり,ソシオンに信頼を 強制することはできない。彼のいうことは正しかったから以後すこし耳を傾けてみようとか,だ れの言うことはいい加減で信用に値しないとか,ソシオンが学習においてしめす,この信頼荷重 の自律的な変更能力こそ,ヒトの主体性の重要な根拠である。

ソシオンは他者の信用を自分で学習する。そして,信用できる他者を選んで,その他者の言い なりになる。ソシオンの主体性は,自分の主体的判断で信用できる他者をえらび,その他者の主 体的判断にみずから進んで従属するところにある。われわれが選択的他律とよぶソシオンの戦略 の核心である。

2) ソシオンは自律も学習する

はじめ無力な幼児として生まれ,全面的に選択的他律の戦略をとるしかなかったソシオンも,

いずれ成長するにつれておおかれ少なかれ力をつけて,それなりに自分を信頼することができる ようになる。経験の蓄積をつうじて自己帰還回路からの入力がある信頼性をもつようになると,

帰還ループヘの荷重も徐々に増大して安定し,いわゆる自信が生まれると考えられる。

なお,この自己信頼の学習において,他者からの入力への荷重が強すぎると,他人の意見にふ りまわされていつまでも依存性が消えず,あまり自己帰還が強いと堂々めぐりを起こして発展性 がなくなり,システムは成長することができない。ただ,繰り返しいうように,この自信,自己 信頼は,ある限られた範囲や領域においての信頼であって,自分で見ることのできないもの,自 分で考えることのできないもの,自分ひとりですることのできないことに関しては,ソシオンは 基本的に信頼する他者に頼るしかない。ソシオンの自律性は以然として選択的他律の圏内にあ

る 。

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3) ソシオンは発信を学習する

ソシオンは他者からの情報をとりこむことによって世界を拡大するばかりでなく,他者へ情報 を発信し,その他者を動かすことで生存の可能性を拡大する。他者を動かす,といっても,私の コトバに何の信用もおいていない人, 「聞く耳をもたない」人にいくら声を大にして言ってみた ところで無駄だろう。つまり他者に影響力を行使するチャンスは,他者が私からのチャンネルに おいている荷重,私への信頼荷重が大きいほど増大する。

ソシオンは,発信(とくに言語的なそれ)にさいして嘘をつけるほどの自由度と恣意性をもつ が,とりあえず,ソシオンは自分をヨリ信頼している他者から順に声をかける,つまり相手がこ ちらからの出カチャンネルにおいた荷重の大きさによって出力先を選択する(藤沢の学習プログ ラム)傾向がある,と仮定したい。つまり,発信チャンネルの選択は,一応,他者が私において いる荷重の変化(実はこれを私は推測によってしか知ることができないのだが)に追随して変更 される,と考える。

もちろん,自分を信頼していない人とは口もきかない,という単純な学習だけがソシオンの発 信学習ではない。不信をもっている人を説得するために信頼しているようにみせかけたり,信頼 している人の間でも言っていいことと悪いことを見きわめる分別を身につけたり,話し方のテク ニック(とくにメッセージ荷重の置き方)を学んだりすることは,ソシオンならではの重要な学 習の一環である。しかし,こうした大小の誇張や嘘をふくむソシオ・ポリティックスの生々しい シュミレーションは,正直をモットーとするわれわれのソシオン・モデルは,当分のあいだ扱う ことができない。

4)学習ルールは文化である

まず,単位ソシオンの学習を支配するもっとも基本的なルールとして,

①  一度謳されたらなかなか信じない

②  信じてうまくいったら,ますます信じる

のすくなくとも 2 つの傾向を仮定できるだろう。(興味ぶかいことに, このソシオンの信頼荷重 の学習ルールは,神経系のシナプス荷重の学習によく似ている。)

①の謳されたら信じるのをやめる,というのは分かりやすい。一度痛い目にあったら懲りる,

という動物伝来の学習ルールである。なんど痛い目にあっても懲りない人は,いつまでも学習で きないという点で,確かに馬や鹿(あるいは仏)にちかい。

問題は,②にある。ソシオンはいったい何をもって「うまくいった」と考えるのだろうか。た またま駅の売場で買った宝くじが当たったら,売場への荷重は増すだろうか。呪いをかけた相手 がたまたま木から落ちて死んでしまったら,呪術師への信頼はやはり増すのだろうか。

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ソシオンの理論(木村•藤沢•雨官)

ことほどさように,ソシオンの学習は,デキゴトの意味づけを抜きにしては成立しない。そし てこの意味づけには,個々のソシオンを超えた文化システムが大きく関与している。同じ行動で も,文化がちがうと,失敗となったり成功と意味づけられたりする。もともと,哲学,倫理,思 想,人生観から処世術まで,いわゆる文化の目的は,経験を意味づけることであり,ソシオンの 学習ルールを記したテキストそれ自体が文化であるといっていい。

5)  3 つの学習ルールが考えられる

ソシオン相互の間の学習ルールをどう決定するかで,ソシオスあるいはソシオネットの挙動は 大きく変わる。社会にとってもソシオン理論にとっても,この学習ルールをどう設定するかは,

システム構成の成否を決めるもっとも本質的な問題である。

とりあえず,ほとんどの文化に共通する基本的なルールとして,

①  生存:「私」の生活チャンスを拡大する

③  評価:他者が私においた荷重(後出の「私」 I I ) を増大する

⑧  互酬:私と他者の荷重の対称性を強める

の 3 つはここでもあげておかなければならないだろう。

①は個体としての自己保存にかかわる原理で,前節の単位ソシオンの学習は基本的にこのルー ルによる。人のいうことを聞いたら,痛い目にあった,命をおとすところだったという場合は,

ふつうなら次からもう耳をかさないだろう。言うことを聞いて損をした,何かを失ったという場 合も同様である。厳密には一体何が保存すぺき自己であるか,という点で,文化的意味づけのシ ステムの規定をうけるが,ここでは一応,有機体としての生存を優先する生物個体の学習原理の 延長にある通文化的な原理として考える。

③は,ヒトの社会性に対応する重要なルールで,ヒトは他者の自分にたいする評価,つまり社 会的認知 s o c i a lr e c o g n i t i o n  (Thomas 1 9 2 3 ) を最大化するように学習する, という)レールで ある。他者が私に荷重するほど,他者は私の言うことをきいてくれる。他者のなかの私の重みが 増すほど,ソシオネットにおける私の言動の影響力も増大する。いわゆる自尊心の充足から名誉 さらには権力への願望にいたるまで,社会的な自己(私 I I ) の実現をめざすソシオンの運動はす べて,この原理による荷重増大学習の一環として理解することができる。

⑧は,ヒトは他者が私に置いた荷重にちょうど釣り合うように私の荷重を調整しようとする傾 向性をもっ,ということである。あるいは,私が他者を信頼する程度に他者に信頼されようと試 みる,といってもいい。人類学や社会学が論じてきた互酬性の規範 t h e norm o f   r e c i p r o c i t y  

( S a h l i n s  1 9 7 4 ) がこれに相当する。他者が信頼してくれていることを知ったら,自分も信頼に 応えようとするだろう。逆に,他者が不信の目でみているとすれば,私も他者に不信の念をもつ

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関西大学『社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

ようになる公算がたかい。発信についても同様に,うわの空でしか聞いてくれないばあい,人は つぎからあまり話そうとしなくなるだろう。言うことを思ったよりよく聞いてくれたり,頼んだ ことをうまくやってくれたようなときには,反対に相手はより選択されやすくなるにちがいな い 。

これらのルールは,時にトレード・オフの関係に入って,マジメに学習するソシオンのアクマ を混乱させる。名誉(③)のために生命や財産(①)を失いかねない戦争やポトラッチ,互酬性 の規範(⑧)に忠実なあまり,ネガティヴな応報(「目には目を」)へ落ちこんでしまう不幸な対 立などがその一例である。「いかに生くぺきか」を説き明かす倫理思想は, これらの原理に優先 順位をつけてトレードオフをうまく処理あるいは隠蔽するためのメタロジックシステムと考える

ことができよう。

学習ルールについては,なお詳細な検討と学習が必要である。

1B  ソシオン理論の射程(その 1)

ソシオンの基本的なコンセプトは以上の通りである。 IB では,ソシオンの概念をさらに敷術 しながら,人間ー社会科学におけるソシオン理論の射程を探ってみたい。

1  ソシオンと世界

1)情報チャンネルは環境を世界へ誘導する

チャンネルは,現境のデキゴトを情報に変換してシステムの内部へ誘導する。情報として入力 されないデキゴトは, システムにとって意味をもたない。システムは訳のわからないデキゴト に,なすすべもなく見舞われるだけである。

情報は,空間的な隣接関係を超えて展開するチャンネルを通じて,選択的で遠隔性の作用を及 ぼすことを可能にする。情報チャンネルをもつことで,システムは選択的作用力を獲得する。生 体膜は,分子を選択的に透過する一種の情報チャンネルであり,この分子チャンネルを通じて離 れた器官に選択的に作用を及ぼすことができる。情報チャンネルをもたないモノは,一様な近傍 の世界にさらされ,非選択的な力学に従うしかない。ダニは酪酸チャンネルを通じて温い血にあ りつく ( U e x h i i l l1 9 3 4 ) 。生命システムの自己構成と生存が可能になるのは,こうした情報チャ ンネルをつうじてはたらく選択的な作用力の複合によってである。

2) 他者は私のメディアである

他者とチャンネルを開くことによって,互いに他者を自分の目の延長として獲得したソシオン が,他者をメディアとして選択的に構成する情報環境をソシオンの世界とよぶ。私が目撃してい ないデキゴトを他者のコトバによって入力するこのソシオンの世界は,生れたときから私という 個体を超出しており,それ自身非個体的な世界であるといっていい。この点をさらに敷行して,

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(20)

ソシオンの理論(木村•藤沢•雨宮)

互いに他をメディアとして構成するそれぞれのソシオンの世界は, 総体として互いに連結され て,ひとつの超個体的情報システムを形成している,とみることもできる。

ソシオスの世界あるいは社会的世界とは,こうして相互に連結されながら,各ソシオンがそれ ぞれに選択・荷重して個別の脳に構成したさまざまな世界のなかに,分散的に情報を貯蔵した超 個体的な情報ネットワークそれ自体である,といえるだろう。私の世界は,この情報ネットワー クに連なり育まれながら,一定の自律性をもって機能するひとつの結節である,と理解できる。

3) ソシオンの世界は閉じられていない

ソシオンは,誰とどういうチャンネルを開くかについて選択性をもつ。チャンネルを選択する ということは,環境から世界を選択的に構成することを意味する。ソシオンの世界は動物の環境 世界のように閉じられていない。誰とチャンネルができたか,どんなメディアを手にいれたか,

どういうかたちでカップリングするかで,ソシオンの世界は一変する。ソシオンの世界はメディ アとチャンネルを介して環境に開かれており,種として決定されていない。本や T V をつうじて 著者やタレントと開かれた新しいチャンネルは,明らかにヒトの生きる現象学的な世界の構造を 変えつつある。種としては同ーであっても, T V をみるヒトとみないヒトは,もはや同じ世界を 生きてはいない (Mcluhan1 9 6 0 ) 。顕微鏡,望遠鏡などの物理的メディアが人類の世界を変えた ように,電話や車はソシオンの世界を変える。

4) 荷重の選択性は世界の多様性をもたらす

ヒトは,さまざまな入カデークのなかから,私あるいは私たちの生存や繁栄にとって肝要なも のと末節であるものを見分け,それらに選択的に荷重して, リアリティをもつひとつの世界を構 成する。もし同じチャンネルをもち,同じ情報が入力されたとしても,荷重の置き方が違えば,

ソシオンの世界はすでに同じではない。入力情報にたいするこの荷重の選択性は,ヒトの世界に 多様性を生み出す重要な要因である。

同じ友だちをもっていても誰のいうことを信頼するか,チャンネル荷重の置き方次第で世界の あり方がかわる。おなじニュースでも,見出しの大きさが違えば紙面が変わり,同じ本を読んで も視点がちがえば読まれた内容は変わる。荷重の置き方が違えば,情報的におなじ内容で構成さ れた世界も,違った現実となる。荷重パクーンの差異は,同じ情報の集合を違った世界として機 能させる。

5) 荷重は世界をささえる柱である

荷重は世界つまり入力表象の空間の構造をささえる柱のようなものである。荷重がゆらぐとソ シオンは不安に陥る。荷重がゆらぐことは,世界が不安定化することを意味するからである。ヒ トがカオスを恐怖するのは,任意の表象空間にたいして荷重が,本来,決定されていないからで

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関西大学「社会学部紀要」第 2 1 巻第 2 号

ある。そしてたぶん,この荷重のゆらぎ 5 ) こそ, ヒトの脳があたらしい情報を創造する秘訣なの だ 。

ヒトに絶対真理を求めさせるのはこの荷重のゆらぎがもたらす不安である。絶対真理まではい かなくても,ふつうのヒトは不安になれば,信頼する他者の方をチラリと見やる。目尻でとらえ た彼の表情から,その内部状態をソシオン回路に入力して,荷重のゆらぎを止めようとするので ある。他者の笑いを気にするのも同様で,私がリアルと信じた表象入力の荷重を他者たちが無化

して私の世界が支えを失い,ゆらぐ柱とともに宙に浮いてしまうのが怖いからである。

私が世界つまり環界からの入力におく荷重は,他者たちのソシオン的サポートなしでは安定 化しない。「社会的現実」は他者とのコミュニケーションをつうじてしか構成・保持されない ( B e r g e r  1 9 6 7 ) 理由である。

6)思考は表象 x 荷重の操作である

なお,絶対真理の信仰は,特定のチャンネルヘ荷重を集中して,強いリアリティあるいは聖性 の感覚によって世界のゆらぎをとめ,ソシオンのカオス不安を静める伝統的な手法である。この 種の宗教的信仰は,しかし,その絶対的安全保証感とひきかえに,ソシオンから荷重の自己操作 能力つまり思考の自由度を剥奪する。もし冒漬や嘲笑によってその荷重が剥奪されば,思考の自 由度をもたない敬虔なソシオンは「聖なる天蓋」をささえる大黒柱を失って極度の混乱に陥るし かない。

理性的な思考が可能であるためには,カオスの不安にかられることなく,教義のリアリティを 疑う,つまり表象から荷重を撤収できるのでなければならない。疑うことができなければ,そも そも荷重を操作することができないし,したがって自由に思考するということもできない。疑う ということはソシオンに荷重の選択性を,つまり思考する自由をもたらす重要な能力である。な お笑いは,一瞬のうちに荷重を撤収して表象を虚空に宙吊りにするという点で,単なる感情であ るよりはむしろひとつの決定的な思考である。

7) メッセージ荷重はコンテクストに依存する

荷重ははじめチャンネルに置かれる。しかし,お父さんの言うことはみんな正しい!と信じこ んでいた子どもも,ときには父も嘘をいったり,誤ったりすることを知らなければならない。嘘 つきとおもっていた友だちが本当のことを言い,先生の言ったことがウソであることを知るかも

しれない。信頼する他者の言うことを鵜のみにしていた子どもも大人も,そのような経験を重ね るうちに,首をひねり頭をしぼってすこしは自分の頭で考えるようになる。

5) ヒトの脳に情報を創発させるこの荷重のゆらぎは,脳幹から新皮質に投射する AlO 神経の出力のゆらぎ

(無髄神経はアナログ作動をする!)に対応しているのかもしれない。すくなくとも,その理論的可能 性はある。

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(22)

ソシオンの理論(木村•藤沢・雨宮)

特定の人間に対する信頼は,徐々に語られた内容そのものの真理性に席をゆずる。メッセージ の真理性が,チャンネル荷重に加えて,語られた文脈によって,さらに自分の知識に照らして判 断されるようになるのである。最後は,だれが何といっても真理は真理だ,と叫んで,メッセー ジ荷重はチャンネルから独立を宣言する。それでも地球は回る,といったようなタイプの真理,

チャンネルから全く独立した,メッセージそれ自身の信頼つまり普逼的真理が誕生する。

しかし,これで思考が他者から自律した,とよろこんでばかりはいられない。メッセージの真 理性を判定するコンテクストがいったん成立すると,「認知的不協和低減の法則」 ( F e s t i n g e r1 9 5 7   が働きだす。自分がすでに真理として受け入れた知識に照らして信憑性のある言説だけが荷重さ れて,真理として受け入れられるにすぎない。しかも,その私の思考の前提は,信頼できる他者 や専門家からの荷重情報によって組みたてられている。すでに私が荷重した概念のシステムに重 要な変更をせまるようなメッセージは,よほど信頼荷重の高いチャンネルからでも入力されない かぎり,何かの間違いとして荷重を剥奪されるか,真赤な嘘としてはねつけられるだろう。回心 や思想改造に,絶対荷重をもつ神やカリスマのチャンネルが持ちだされる理由である。

2  ソシオンと自己意識

1) 私という意識性と,私の内部状態は同一ではない

個体の内部状態は,私という意識そのものではない。たとえば,一緒に踊ったり,談笑してい るとき,あるいは飲んで気炎をあげているとき, ヒトはソシオンであっても,パーソナリティで はない。ヒトの意識はつねに「私」あるいは「自己」と言われるような個別的な人格性を保存し てはいない。「あのときはどうかしていた」と後になって思ったりすることはよくあることであ る。自分が自分でないようになる, われを忘れる, ワルノリをしてしまったなどという時, 私 は,私の内部状態を,ソシオン的決定のなかをただよういわば無人称のデキゴト一体験として,

私という意識性へ統合されないままに生きてしまったのだ。

ソシオンの体験は,私がそれに気づき,それを名づけるという形で自己帰還の回路に取りこま れないかぎり,私という人格的存在に帰属されることなく,直接に生きられてしまう。場合によ っては,人格ー私から解離されたり, 私でない他者の情態として投影されたりすることすらある らしい ( S u l l i v a n 1 9 5 4 ) 。いずれにしてもソシオン的な意識の作動の上部にあって,その状態を 気づきというかたちで意識化する,自己帰還を軸としたある回路現象が,私という人格的意識の 中心を構成している可能性がたかい。ソシオンの内部に生じる状態は,一次的には他者と情報的 に連結されたかたちで生まれてくる,本来社会的なデキゴトであって,いわば他者との「間」に あるこの「根源的な場所」(木村敏 1 9 7 2 ) から,「私」への帰還を通じて回路が自己の同一性を 紡ぎ出す,と考えられる。

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図 2 ‑ 7 b 初期動作設定(初期値入力をキーインするかランダムに設定するかの選択と,

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