レーザーオプトメターによる眼球調節作用の測定法 の吟味(その?) 同装置を用いた2,3の研究例
その他のタイトル On the Laser Optometer technique measuring accommodative response, IV : Some experiments
著者 池田 進
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 8
号 2
ページ 141‑146
発行年 1977‑03‑28
URL http://hdl.handle.net/10112/00023125
研 究 ノ ー ト
レーザーオフ゜トメクーによる眼球調節 作用の測定法の吟味(そのN) 同装置 を用いた
2,3の研究例
1)池 田
進
既に述べてきたように(池田, 1975; 1976 ; 1977)レーザーオプトメターはレーザーの粒状パ タンの性質を利用して眼球の調節作用を測定するための装置である。
レーザーが拡散面で拡散されるとき,観察面(フィルムまたは網膜)上にレーザー特有の回折 パタンの干渉を生ずる。これにともなって観察者は視野の中に顕著な特徴的パクンを見ることが できる。そのバクンの視覚的様相はレーザー
の照射されたスポットの中に無数に密集し た,粒状にきらめく光の小塊と比較的暗い部 分とからなる特徴的なものである。これを粒 状パクンとよぶことにする。粒状バタンのも つ性質のうちで,特に調節作用の測定にとっ て重要な点は,観察者が頭を上下左右にゆっ くり動かすにつれて光の粒子が一定方向に掃 くように流動してみえ,しかもその方向が,
そのときの眼の調節の状態によって順逆いず れかに変わることである。
この事実を利用して考案されたのがレーザ ーオプトメークーである。このレーザー法に は,従来の測定方法にくらべて被験者の視野 を妨害したり視野の現象に干渉したりする難 点が極めて少いこと,簡便かつ迅速に測定を
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N=l24 Mean=l.71D S.D.=0.72
Diopter~I 1 12 Inches 50 30 20
Resting Focus in Darkness
図1暗黒中での静的屈折の状態の分布 (H. W. Leibowitz教授の資料による)
1)この報告書は筆者が昭和49年度関西大学在外研究員として,米国ペンシルバニア州立大学において行な った研究活動の報告の一部をなすものである。在外研究の機会を与えていただいた関西大学, 同社会学部 教授会, および在外研究期間中の研究の便宜をはかってくださったペンシルバニア州立大学教授 H.W.
Leibowitz博士と同大学心理学研究室の方々のご厚意に対し深く感謝の意を表するものである。
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終えることができること,測定にあたって被験者,測定者とも熟練を必要としないこと,比較的 廉価に装置が製作できること等々の利点が認められる。
このレーザー法を用いた心理学的研究は現在その数を増しつつある。たとえば,自動車の夜間 運転の安全と夜間近視との関連についてペンシルバニア州立大学心理学教室で行われた基礎的な 研究の中で,暗黒中でのヒトの眼の静的屈折(なんら調節努力を行わぬときの自然の眼の屈折状 態:resting position)の分布が調査されている。その結果では,静的屈折が暗黒中では無限遠 ないし遠距離にではなくかなりの近距離に落ちること,しかもその約10%は15インチ以内に落ち るという注目すべき結果が得られている(図1)2)。
この報告ではまずレーザー法と従来の方法との比較検討を行ったいくつかの研究例を紹介した い。つぎにわれわれの種々の視覚的行動に付帯して起こっている調節の状態を測定して,調節と 視覚的行動との相互的関係を研究した2, 3の例を紹介することにする。
1. レーザー法と慣用の方法との比較
Knoll (1966)はリフラクターによる方法とレーザー法との比較を行った。 レーザー法での測 定では,低速で回転する円筒表面にレーザーを照射して生じた粒状パタンの運動を観察させなが ら,視軸に挿入したレンズの屈折率を徐々に強めていって最初の運動方向の逆転が報告されたと きのダイオプター値を起点とし, つぎに0.25Dptr. のステップでレンズの屈折率を低めていっ て運動が停止した (あるいは再逆転した) ときの値をそのメリディアンに関する矯正値とした
(極限法の下降系列に基づく閾の上限に相当する)。どのメリディアンについて測定を行うかは,
ドラムの回転軸を視軸に対して垂直な面にそって傾けることによって測定すべき軸を選択すれば よい。彼の第1実験においては7名の被験者の合計25のメリディアンについて測定を行い, そ のうち15のメリディアンでレーザー法による測定値がリフラクターによる測定値よりも約0.25 Dptr. (報告された資料から筆者が概算した差の平均値は+O.21 Dptr.)大きい値を示すことを 見出した。
Ingelstam & Ragnarsson (1972)はどのような手続によったかは明らかにしていないが,レ ーザー法が常通の視カチャートによる測定結果に比べて一0.25 Dptr. 以下の差しか示さないこ とを報告している。
Baldwin & Stove (1968)は Knoll(1966)の方法に準じて測定を行い,その値をレチノス コープによる測定値と Turvillの方法による測定値とに比較した結果, それぞれの間によい一 致を見出している。 Baldwin& Stover (1968)はレーザーによる方法が土0.25Dptr. のばら つきの範囲で従来の方法に代わって使える敏感な測定法であると述べており, Knoll(1966)や
Ingelstam & Ragnarsson (1972) のように測定値が系統的に一方向にかたよる傾向は見出し
2)この資料の提供は H.W. Leibowitz教授のご厚意によるものである。
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ていない。このちがいは,報告書には示されていない条件のちがいによって生じたものなのか,
あるいはレーザー法に対置された慣用の方法との間に見出された定常的な誤差なのかは明らかで ない。
Knoll (1966)とIngelstam& Ragnarsson (1972)はレーザー法にみられる結果のかたよ りを眼球の色収差によって説明しようとしている。
Knoll (1966)は,第1実験の手順(下降系列に相当)による測定値に加えて,第2実験で極 限法の上昇系列に相当する手順に基づく測定値をえて,両値に挟まれる区間をパタンの運動の停 止する範囲と考えた。この区間の幅は, 9名の被験者の合計35のメリディアンに関する測定値の うち, 29のメリディアンについて 0.25Dptr. 以下(資料から筆者が概算した区間の幅の平均値 は0.20Dptr.)であった。いまもしこの区間の幅を精神物理学的測定法における不定帯に相当す るものと仮定すれば,この値は測定のステップの幅に対して十分小さいものであるということが できよう。
池田 (1976)が極限法の手続きによって推定した不定帯の幅は0.34ないし0.38Dptr. で Knoll (1966)よりは大きな値になっている。
Ingelstam & Ragnarsson (1972)は,従来の主体的測定法が多かれ少なかれ標的のシンボ ルの読みやすさ (legibility)に依存するのにくらべてレーザー法は判断が一義的だから,幼児や 文字が読めない被験者にも使えるし,多数の被験者を同時に処理することができる利点もあると 述べている。しかしKnoll(1966)が幼稚園児を用いて行った集団実験では実施に際してかなり の困難を見出しているし,結果も整ー的なものではなかった。また,一般に集団実験の場合は注 視の条件を厳密に統制することはたやすくはないから,その信頼度は高いとはいえない。
2. 調節に対する周辺視野の効果
従来,調節作用を制御する機能は中心寓にあると考えられているが,周辺視野にも副次的な機 能がありうると予想されている。また視標の見かけの距離が調節に影響を及ぼす事実に示される ように,中枢的要因も調節作用に対して効果をもっている。
Hennessy & Leibowitz (1971)は中心視野に注視される視標を一定の距離に提示し, 同時 に,相対的に強い刺激を周辺視野に種々の異なる距離に提示して調節の値を測定した。
彼らの実験条件では,十分に照明された約2m四方の白色(反射率80彩)の衝立が被験者の前 方0.5m 4mの距離におかれる。衝立の中心部には円孔が穿たれ,その直径は被験者から衝立 までの距離にかかわらず一定の視角を保つように調整される。この円孔から暗幕で覆われた部屋 の壁面が見え, その手前,被験者から6mの位置に固定された視標(後方から照明された視角
0.287度の緑色円形の注視点)が円孔のちょうどまん中の中心視される位置にのぞかれる。視標 の照明の明るさは 6.36 fl., 周辺視される衝立の明るさは 15.90 fl. である。衝立の位置が被験者 から0.5m, 1m, 2m, 4m, 円孔の大きさが10と40の条件で視標に対する調節の状態がレー
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ザー法によって測定される。観察は単眼で行われる。
粒状パクンは被験者から1.34mへだたった直径10.2cm,長さ7.6cm,回転数毎分0.1回の金 属筒の表面に視角4.2°のひろがりで生じている。粒状パタンの光度は10.04flである。粒状パク
ンはビームスプリッターによって被験者の中心視野へ視標に重ねて短時間 (1秒間)投射される。
被験者は視標を注視しながらその間に短時間投射される粒状パクンの運動の方向を観察して報告 する。測定は角膜頂から24mmの位置におかれたレンズホルダーに屈折率の異なるレンズを次々 に挟叉法の手続きで挿入していき,運動の逆転の起こる前と後の値の平均値をもって測定値とし た。こうして得た結果は,視標と衝立の中間の位置に調節がなされること,その調節位置は,円 孔の直径が40のときよりも10のときに衝立の位置に強く影響されて偏ることを示している。
以前から知られている器械近視(instrumentmyopia)の現象は,周辺視野の視覚刺激が光学 器械をのぞくことによって制限される特殊な条件においてのみ生ずるので,調節に対する周辺視 野の要因の効果を示す好例でもある。しかしその実験的研究にあたっては,たとえば霜島(1967) や Schober(1952)は被験者に顕微鏡のビント合わせを行わせて,接眼レンズにあらかじめ刻 まれた目盛からその時の調節の値をよみとる方法をとっている。この手続きは,臨床眼科や器械 設計に関する基礎資料の収集にとって有効であるが,問題を一般化して,調節に対する周辺視野 の要因を探索しようとするときには,測定装置の制約のために実験条件を自在に操ることができ ないという難点を生ずる。
前述の Hennessy& Leibowitz (1971)の実験の目的は中心視野と周辺視野の視覚刺激の空 間関係が調節に対してどのような効果をおよぼすかを見ることにあったが,その実験状況は器械 近視の生ずる視野の配置に類比させたものでもあった。レーザーによる測定法を導入したことに よって可能となったこうした実験条件の設定はその展開によっては調節に関する一般的,基礎的 な情報を得ると同時に,あるいは器械近視に関する臨床面での重要な手掛りをも提供することに なるかもしれない。
あるいはまた,器械近視とともに, 臨床面実用面で注目される夜間近視 (noctralmyopia) や空白近視 (empty‑fieldmyopia)の研究においても,従来は,測定のために導入したインデ ィケークヘの注視の移動によって生ずる干渉が悪影響をもたらす困難があったが,レーザーによ る測定法はこの面に関してもかなりの改善をもたらすであろう。かつこれらの研究を組織的にす すめるならば,器械近視,夜間近視,空白近視の現象それぞれを規定するいくつかの要因の相互 関係の検討を媒介として調節作用の基本的機能が明らかにされるかもしれない。
3. 大きさの恒常現象における調節の機能
いわゆる見えの大きさの恒常性の実験においては,眼球の調節作用と輻義作用に制限が加わっ たとみなされる条件で恒常度が低下することが知られているが,いまもし,調節と輻帳をレンズ とプリズムの組合わせによって特定の光学的距離に強制したならば,見えの大きさがどのように
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変化するであろうかは一つの興味ある実験課題となる。
Leibowitz & Moore (1966)は0.lm, 0. 25m, 0. 5m, 1 m, 4 mに提示した視角10(高さ)
の二等辺三角形をフォロメークーをとおして観察し,比較刺激(高さの変えられる二等辺三角形)
によって見えの大きさを測定した。各提示位置の標準刺激に対する調節と輻義をー3.00 Dptr. か ら+3.00Dptr. までの11段階に強制したときのおおよその結果は,強制されたダイオプクー値 に相応する距離に対象を提示したときに期待できる見えの大きさの変化(大きさの恒常性に類比 される効果ともいえる)が生じたことを示している。 しかしこの実験ではレンズとプリズムの 組合わせによって調節と幅義を強制する操作を加えたのみで,結果として調節がどの位置に落 ちていたかを独立にたしかめる測度は採用されてはいなかった。そこで Leibowitz, Shiina &
Hennessy (1972)はレーザーによる測定を併用して上記の結果を再確認しようとした。
標準刺激は白色の二等辺三角形で, 0.153m, 0. 25m, O. 5m 1 m, 4 m の位置に提示され,
高さは視角10に保たれる。それぞれの提示位置に対する調節の強度を0,士0.25,士0.5, 士1.0,
士2.0,士3.0Dptr. の11段階に強制する。調節の各段階に対応する幅義の強度はあらかじめ算 出された値にしたがってプリズムの操作で調整される。比較刺激は被験者の右gooの方向1mの 位置に提示された二等辺三角形とする。標準比較両刺激の照度は13.lflである。被験者が標準刺 激の観察を行う間の調節の量の測定は0.5秒間の粒状パクンの左眼視野への投射によって行う。
測定装置および手続きについての詳述はないが,図示された装置の構成から Hennessy &
Leibowitz (1971)の場合と同様のものであると思われる。測定された見えの大きさの値を強制 された調節の値に対応させると前回 (Leibowitz& Moore, 1966) とほぼ同様の傾向が見出さ れた。
強制された調節の値と実測された調節の値とは標準刺激の位置が1m以下の条件では非常に高 い一致を示した。標準刺激の位置がlmおよび4mの条件では,実測値は強制された値よりも小 さくなる傾向が見出され,この傾向は4mにおいてより大であった。したがって見えの大きさの 値を調節の強制値にではなく実測値に対応させてみると,標準刺激が1mまでの範囲では見えの 大きさは実際に調節が落ちている位置(レンズなどが conjugateしている位置)において視角 10を張るぺき刺激の物理的大きさによく一致する傾向,すなわち見えの大きさの恒常性に類比し うる傾向が見出される。また標準刺激が4mの位置では調節の効果よりも視角の要因が優位には たらくことが見出される。
こうして見えの大きさの測定値と調節の値の実測値とを同時に求めることがレーザー法の適用 によって可能になったことによって,従来,恒常性という概念で一般的に述べられてきた事実 を,近距離の範囲(少なくとも 1mまでの範囲)では,網膜像と調節機能との感覚的情報の相互 関係においても追求できる可能性が見出されたといってよい。もしここで,両感覚情報の関連の 機構が明らかにされれば,中距離あるいは遠距離における恒常性の考え方にもあるいは影響を与 えることになるかもしれない。
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4. 視力の回復におよぼす暗示の効果
臨床眼科の領域におけるいくつかの研究は,ある種の訓練によって,レンズによる矯正なしに 近視が矯正される可能性を示している。この可能性は,患者の眼の屈折の状態に直接働きかける のではなく,視覚的な手掛りを効果的に使用することを習得させることによって生ずると考えら れている。また,催眠による暗示は長期にわたる訓練なしに視力の一時的改善を即時にもたらす ことが知られてきたが,この事実についてもある研究者は注意の集中によるものとし,ある研究 者は屈折の状態への直接の効果だと考えるなど,その機構はいまだ明らかではないようである。
Graham & Leibowitz (1972)は催眠時の暗示によって近視者の視力が改善されることを確 認すると同時に,その時の調節の状態をレーザー法で測定した。視標は開口部が0.5'から 9.8'ま での各列10個, 19列のランドルト環のチャートを100£1の明るさで照明したもので, 20ftの距離か ら両眼で観察する。実験は1日1セッションの3セッションよりなり,第1セッションでは覚醒 の状態で眼の屈折の状態が測定される。第2'第3セッションでは覚醒と催眠の両条件で視力の 測定と屈折の測定が並行して同時に行われる。レーザー法による測定は,従来の測定器具を催眠 時に使用することによるバイアスを最少にしえた。主たる結果として,暗示による視力の改善が みられること,その程度は近視の程度の強いものほど大きいが,視力の改善に対応する屈折の状 態の変化はみられないことが明らかにされた。
参 考 文 献
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