銅内包カーボンナノチューブの 酸処理による構造変化
平成 25 年度
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程 分子素材工学専攻
レーザー光化学研究室
宮林 卓史
目次
第 1 章:序論 4
1.1 アーク放電 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.1 アーク放電
1.1.2 アーク放電による超微粒子、ナノ粒子の生成
1.1.3 アーク放電によるフラーレン、ナノチューブの生成 1.1.4 水素アーク放電
1.2 カーボンナノチューブ(CNT) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.3 ナノカーボン物質と金属の複合体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.3.1 金属内包ナノカーボン物質 1.3.2 金属または金属化合物内包 CNT
1.4 ナノカーボン物質と銅の複合体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1.4.1 銅の特徴
1.4.2 銅とカーボンの相互作用 1.4.3 銅内包 CNT
1.4.4 銅内包 CNT の高効率形成
1.5 当研究室で作製した銅内包 CNT の特性評価 ・・・・・・・・・・・・12
1.5.1 銅内包 CNT の熱処理 1.5.2 銅内包 CNT の加圧処理
1.6 ナノカーボン物質の酸処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 1.6.1 ナノカーボン物質の精製
1.6.2 ナノカーボン物質表面への化学修飾
1.7 本研究の目的と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
第 2 章:実験 16
2.1 銅内包 CNT の作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.1.1 銅含有炭素電極の作製
2.1.2 水素アーク放電法による銅内包 CNT の作製
2.2 銅内包 CNT の還流 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
2.2.1 銅内包 CNT の還流(標準条件) 2.2.2 硝酸還流の条件を変化
2.3 炭素材料の作製と還流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2.3.1 銅内包 CNT の熱処理
2.3.2 炭素粒子の作製
2.3.3 硫化銅内包 CNT の作製
2.4 生成物の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
第 3 章:結果 25
3.1 作製した銅内包 CNT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
3.2 還流した銅内包 CNT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
3.3 還流条件の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
3.3.1 仕込み量依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
3.3.2 時間依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
3.3.3 温度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
3.3.4 濃度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
3.3.5 最大値条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
3.4 他の炭素材料の硝酸還流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
3.4.1 多層 CNT を還流した場合 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
3.4.2 多層 CNT と銅粉末を還流した場合 ・・・・・・・・・・・・・・71
3.4.3 熱処理した銅内包 CNT を還流した場合 ・・・・・・・・・・・・74
第 4 章:考察 85
第 5 章:総括 90
付録 91
① 銅内包 CNT の超音波処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91 ② 他の炭素材料を硝酸還流した場合の上澄み溶液の分析 ・・・・・・・93 ③ 銅内包 CNT を硝酸還流した場合の上澄み溶液の蛍光分析・・・・・・101
参考文献 102
謝辞 104
第 1 章 序論
1.1 アーク放電
1.1.1 アーク放電
アーク放電は持続放電の一種 で、グロー放電から更に電流を増 加させた時、遷移領域を経て生じ る 放 電 の 最 終 形 態 で あ る ( 図 1.1)[1]。グロー放電とは、密閉さ れた空気圧の低い管の中に一対 の電極を置き、直流電流を流し込 んだ時、一定の電圧を超えたとこ ろで放電現象が発生する性質、現 象のことである。真空状態におけ
る二つの電極で電子と気体を衝突 図 1.1:低気圧放電管の電流と電圧関係 [1]
させると、励起し発光する。
グロー放電は高電圧、低電流で気体分子の温度も低い放電であるのに対し、ア ーク放電は低電圧、高電流で、気体分子の温度も高い放電である。異常グロー で電流密度が増加するにつれて、電圧降下による陰極暗部の厚さが減少し、正 イオンに与えられるエネルギーは増加する。したがって、このイオンによる衝 突で陰極の温度は上昇する。炭素やタングステンのように融点の高い物質では 熱電子放射を行い、電圧降下中に生じる正イオンが増加するため、さらに陰極 を熱する[2]。放電の中心部で数 1000 ℃以上、その周囲においても数 100 ℃以 上の高温になるため、その熱を利用した金属の溶接や溶断など様々な用途があ る。
1.1.2 アーク放電による超微粒子、ナノ粒子の生成
現在アーク放電法は、ナノカーボン物質を生成する有力な方法の一つとして
知られているが、以前から、超微粒子(粒径 0.1
m以下)やナノ粒子の研究に用
アルゴン雰囲気下で酸化物、もしくは炭化物を用いたアーク放電によって鉄、
シリコン、シリコンカーバイド、
Al2O
3などの超微粒子を作製できることを報 告している[3]。また、 Zhong らは、ヘリウム雰囲気下(500 Torr)で直流のアーク 放電によって、Ni もしくは Co を蒸発させて 5‐70 nm のナノ粒子を形成した と報告している[4]。その後、アーク放電はナノカーボン物質の生成法としても 有効であることが分かってきた。
1.1.3 アーク放電によるフラーレン、ナノチューブの生成
ナノカーボン物質の形成における一般的なアーク放電法は、二つのグラファ イト電極を軽く接触させ、電極間に電流を流し、通電加熱させた後 1-2 mm 程 度離すことでアークプラズマを発生させ、高温になる陽極側の炭素電極を蒸発 させる方法である。この熱を利用して、陽極に含有させた金属なども同時に蒸 発させることができる。蒸発したグラファイト電極は、気相中で凝集し煤を形 成してチャンバー内壁に付着する煤(チャンバー煤)や、陰極に付着する煤(陰極 煤)、陰極先端に凝縮して堆積するスラグになる。
1990 年に Krätschmer と Huffuman のグルー プによって、 He ガス雰囲気下でグラファイト ロッドを抵抗加熱することで、初めてフラー レンの多量合成が報告され、盛んに研究が行 われるようになった ( 図 1.2)[5] 。また、飯島は 1991 年、 Ar ガス雰囲気下 (100 Torr) で、グラ ファイトロッドを用いたアーク放電を行った ところ、得られた陰極に堆積したスラグから
直径 5-20 nm の多層カーボンナノチューブ
(MWNT) を発見した [6] 。さらに 1993 年、飯島 図 1.2 :フラーレン C
60模型図
・市橋と Bethune ら 2 つのグループによって
同時に単層カーボンナノチューブ (SWNT) が形成できることが報告された [7,8] 。
触媒として 2 at.% の Fe 、あるいは Co をグラファイトロッドに混合した陽極を用
いて、 He ガス雰囲気下 (100 ‐ 500 Torr) でアーク放電を行い、放電後チャンバー
内壁に付着したクモの巣状の煤から SWNT を発見したと報告している。その後
すぐに齊藤らは Ni を用いても SWNT が形成されることを報告した[9]。
1.1.4
水素アーク放電
従来のアーク放電では連続合成が困難であったり、不純物を多く生成してし まうなどの問題があるために、様々な改良を施したアーク放電法の研究がなさ れてきた。例えば液体中のアーク放電 [10] や、直流電源の代わりに交流電源を用 いたアーク放電 [11] 、るつぼを用いたアーク放電 [12] など様々なアーク放電法が 現在までに報告されている。その中の一つに水素アーク放電法がある。水素ガ ス中で放電を行うとアモルファスカーボン、カーボン粒子などの副生成物の生 成が抑えられることが報告されている [13] 。また、副生成物の生成を抑制する他、
安藤らが生成した密な構造の MWNT[14] や、 Qiu らが触媒として硫化鉄と塩化カ リウムを混合したグラファイトロッドを用いて生成した二層カーボンナノチュ ーブ [15] など、様々な特徴的な構造を持つカーボンナノチューブの生成が報告さ れている。
1.2 カーボンナノチューブ(CNT)
1991 年に飯島によって発見された MWNT は、 2 から数十層のグラフェンシー トが同心円状に積み重なった円筒状の構造を持っている [6] 。さらに MWNT の先 端は側面と連続的につながるグラファイト層によりできているため、同じ数の 層が多面体的に閉じている。チューブの先端を閉じるためには、 6 個の五員環の 存在が必要である。先端部が多面体的形態を示すのは、六員環ネットに導入さ れた五員環の周りにひずみが集中するためで、そこが頂点のように尖る。五員 環の配置のされ方によっては先端の形態は変化する。 MWNT のグラファイト層 間の距離は、理想的なグラファイト結晶における面間隔 (0.3354 nm) より 2,3 % 伸 びている。この広がった面間隔は乱層構造の炭素に特有のものである。カーボ ンナノチューブを構成する円筒の曲率がそれぞれ異なること、及びカイラル角 が一本のチューブの中でも複数種類存在することにより、必然的に上下の層の 間で原子の相対的位置のずれと方位のずれが生じる。そのため、理想的なグラ ファイトにおける六方晶積層構造を保つことができずに、乱層構造炭素と同じ ように層間の距離が広がる [16] 。
さらに、 1993 年には飯島と市橋、 Bethune らの二つの研究グループによって発 見された SWNT は、一枚のグラフェンシートが円筒状に閉じた構造を持つ[7,8]。
SWNT は、アーク放電以外にもレーザー蒸発法や化学気相成長法でも生成する
る。化学気相成長法では、触媒として Fe 、 Mo などを用いて炭化水素ガスを熱分 解することで多量に SWNT を生成することができる。いずれの方法でも SWNT を成長させるためには、金属触媒が必ず必要である。
このようなカーボンナノチューブは、電気的、力学的、機械的等の様々な優 れた特性を兼ね備えている。これらの優れた特性から、複合体材料・電子材料 等の材料分野やエネルギー分野、バイオテクノロジーなど幅広い分野への応用 が期待されている [16] 。
1.3 ナノカーボン物質と金属の複合体
1.3.1
金属内包ナノカーボン物質
ナノカーボン物質を応用した高機能材料 の開発に向けて、ナノカーボン物質と単体 金属や金属化合物の複合化に関する研究が 盛んに行われている。単体金属や金属化合 物には金属元素ごとに固有の電気伝導性や 熱伝導性、磁性を有している半面、大気中 で酸化されたり加水分解したりすることで、
その特性を低下させたり、失ってしまう物 質が多い。しかしナノカーボン物質で覆う
ことによって、それらの物質を保護すること 図 1.3 : LaC
2を内包した CNC [16]
ができる。例えば、 Ruoff らおよび富田らは、
炭化ランタン (LaC
2) を内包するグラファイトの多面体カプセル (CNC) の形成を
報告した [17,18] 。 LaC
2は大気中の水と反応し、容易に加水分解されるが、多面
体カプセルの中の LaC
2は全く変質しなかった ( 図 1.3) 。これは、グラファイトの 炭素六角網面構造の気密性が優れており、内部物質を化学的変化から保護する からであると考えられている。 LaC
2以外にも様々な元素を内包するナノカーボ ン物質の研究が行われている。結果として、希土類元素 ( イットリウム [19] 、ガ ドリニウム [19,20] など ) 、アクチノイド元素 ( トリウム [21] など ) 、 4 族元素 ( チタン [22]、 ジルコニウム[23]など)、 5 族元素(バナジウム[23]など)、 6 族元素(クロム[24]、
モリブデン[24]など)は、炭化物を形成し CNC に内包され、鉄族金属元素(鉄 [20,25]、コバルト[20,22]、ニッケル[20,22])および貨幣金属元素(銅[22,24,26,27]、
金[28])は、金属のまま内包されると報告されている。金属をグラファイトで被
覆することは、ナノ粒子の酸化保護のみならず、磁性金属ナノ粒子同士の交換
相互作用を阻害することも分かった。このように、ナノカーボン物質と金属の 複合体の合成によりその物理的特異性を有効に活用した材料の開発への展開が 見込める。
1.3.2
金属または金属化合物内包
CNTCNT と金属ナノワイヤーの両方の機能を合わせ持つような複合体の形成を目 指し、金属内包 CNT の形成が試みられている。金属内包 CNT の形成には、主 に次の二つの方法がある。一つは、あらかじめ作製した中空のナノチューブに 金属を吸いこませる方法である。ナノチューブの先端を、熱処理等によって破 り、金属もしくは金属塩を毛細管現象により吸い込ませる。もう一つは、アー ク放電法や化学気相法などによるワンステップでの形成である。
前者のあらかじめ作製しておいたナノチューブに吸い込ませる研究として、
Ajayan らは次のように報告している。 低融点の Pb を MWNT の表面に蒸着させ、
それを空気中で加熱 (400 ℃、 30 min) することで Pb 内包ナノチューブを形成し
た ( 乾式法 )( 図 1.4)[29] 。同様な方法を用いて、 Bi 内包ナノチューブの形成例も報
告されている [30] 。
図 1.4 :乾式法によって形成した Pb 内包ナノチューブ [29]
また、 Tsang らは、硝酸ニッケルを含む硝酸溶液の中でナノチューブの酸処理
(140 ℃のオイルバス中で 4.5 h 還流 ) を行った [31] 。酸処理によってナノチューブ
の先端が開き、 Ni 酸化物が流れ込むことにより、 Ni 酸化物を内包したナノチュ ーブの形成に成功した ( 湿式法 )( 図 1.5) 。また同様な方法を用いて、 Co 、 Fe 、 Sn の酸化物を内包するナノチューブの形成例も報告されている [31,32] 。
後者のワンステップでの形成の研究として、これまでに希土類元素のイット リウム[33]やガドリニウム[34]、 3d 遷移金属の鉄[35]、コバルト[36]、ニッケル[37]、
マンガン[38]、クロム[39]、及び銅[40,41]、半金属元素のゲルマニウム及びアン
チモン[42]が MWNT の中に内包されている(図 1.6)。また、これらの元素で希土
図 1.5 :湿式法によって形成した 図 1.6 :ワンステップで形成した Ni 酸化物内包ナノチューブ [31] (CVD 法 )Ni 内包ナノチューブ [37]
1.4 ナノカーボン物質と銅の複合体
1.4.1
銅の特徴
ナノカーボン物質の内部に様々な物質を挿入する研究が非常に多く行われる ようになり、ナノカーボン物質の可能性が広がってきている。ナノカーボン物 質に挿入する物質の一つとして銅が注目されている。銅は、様々な金属の中で も高い電気伝導性や高い熱伝導性などの優れた性質を持っているため、電気器 具の配線、回路、ケーブルなどあらゆる用途に広く用いられている。また、コ ストが安いことも大きな要因の一つである。したがって、銅とナノカーボン物 質の複合化は、次世代のナノデバイスを開発する上で重要な課題であるといえ る。
1.4.2
銅とカーボンの相互作用
銅とカーボンは反応性が低いことが知られている。例えば、銅は d 殻を完全 に満たした電子構造をもつため、安定な炭化物を形成しない [43] 。また、 Bever らは、銅に対するカーボンの溶解性が極めて低い (1100 ℃で 0.0001 w.%) ことを 報告している [44] 。グラファイト化における銅の触媒作用が乏しいこともわかっ ている。スクロースを酸化銅の存在下で加熱しても、わずかしかグラファイト 化しない。加熱することでグラファイト化したカーボンを生成できるコールタ ールピッチも、銅化合物を添加するとグラファイト化の促進は観察されない[45]。
一方、銅が SWNT の触媒として働くという報告もある。 2006 年、 Zhou らは、
銅のナノ粒子を触媒とし、エタンやエタノールを炭素源として用いた化学気相
成長 (CVD) 法によって SWNT の形成を報告した [46] 。銅を SWNT 成長の効果的 な触媒として用いるためには触媒粒子のサイズや反応温度を厳密に制御する必 要があった。このように銅が最適化された条件においてナノチューブ成長の触 媒として働くという報告は存在するが、一般的には銅とカーボンは相互作用し にくく、複合体形成における問題点の一つであると考えられている。
1.4.3
銅内包カーボンナノチューブ
銅とカーボンの複合体に関して、様々な銅内包カーボンナノ物質の形成が試
みられている。その中で、一次元構造を持つ銅内包カーボンナノチューブ (CNT)
の形成についていくつか報告されている。 Dai らは、水素アーク放電法 (500 Torr)
により、銅内包 CNT を形成した [47] 。この銅内包 CNT は、多結晶の銅が結晶性
の低いグラファイト層に覆われている構造を持っている。しかし、図 1.7 のよう
に銅が断続的に内包されていたり、銅が充填されていない中空のナノチューブ
も存在し、銅内包 CNT は、全体の 20~30 % しか形成されていない。また、比較
実験として雰囲気ガスを水素からヘリウムに変えて行ったが、ヘリウム雰囲気
下では銅内包 CNT は形成されなかった [40] 。 Wang らは、陽極に酸化銅とコール
を詰めたグラファイトロッドを用い、アルゴン雰囲気下でのアーク放電によっ
て銅内包 CNT を形成した [48] 。単結晶の銅が 20 層程度のグラファイト層に覆わ
れた構造を持っている。銅内包 CNT は、図 1.8 より全体の 40~50 % 形成してい
た。また、比較実験としてコールを用いないで実験を行ったが、銅内包 CNT は
形成されなかった。 G.Y.Zhang らは、高周波プラズマ支援 CVD 法により、銅内
包 CNT を形成した [41] 。単結晶の銅を内包し、十数層のグラファイト層で覆わ
れているが、中空のナノチューブが多量に存在し、銅内包 CNT は全体の 10 % し
か形成されなかった ( 図 1.9) 。 Q.Zhang らは、銅の供給源としてマイクログリッ
ドを用い、水素、メタン、アルゴンの混合ガスを導入しながら石英管内で加熱
することによって銅内包 CNT を形成した [49] 。銅内包 CNT は末端まですき間な
く充填しているが、全体の 50 % 程度の形成効率であった。
図 1.7 :断続的に内包した 図 1.8 :充填率が 40-50 % の 図 1.9 :充填率の低い 銅内包ナノチューブ 銅内包ナノチューブ 銅内包ナノチューブ ( アーク放電法 ) [47] ( アーク放電法 ) [48] (CVD 法 ) [41]
以上の生成法では、いずれも生成物の収率、充填率が低く、また銅が内包さ れていない中空のナノチューブが生成されてしまうという問題点がある。さら に共通することとして、形成の際、雰囲気ガスもしくは原料として水素が必要 不可欠である。 Setlur らや Wang らの比較実験からも、水素を含んでいないと銅 内包 CNT が形成されないことが確認されており、銅内包 CNT の形成において 水素は何らかの形で反応に関与していると考えられる [40,48] 。
1.4.4
銅内包カーボンナノチューブの高効率形成
当研究室では、多くの水素を利用する水素アーク放電法を用いることで、従
来よりも優れた銅内包 CNT の高効率形成に成功した [50] 。形成した銅内包 CNT
の SEM 、 TEM 像を図 1.10 ‐ 13 に示す。これらより、銅内包 CNT は全体の約 90 %
と非常に高い割合で形成されており、末端まですき間なく銅が充填しているこ
とが確認できた。また、グラファイト層が十層未満と比較的薄いことも大きな
特徴である。副生成物として、同様なグラファイト層に覆われた銅ナノ粒子も
存在することが確認できた。
図 1.10 :銅内包 CNT の SEM 像 図 1.11 :銅内包 CNT の TEM 像
図 1.12 :銅内包 CNT のナノチューブ層 図 1.13 :副生成物の銅ナノ粒子
1.5 当研究室で作製した銅内包 CNT の特性評価
1.5.1
銅内包
CNTの熱処理
当研究室で形成された銅内包 CNT に関して、実用化に向けた銅内包 CNT の 特性評価が行われてきた。その結果、いくつかの興味深い特性を見出した。そ の一つに銅内包 CNT の熱処理による内包銅の溶出挙動がある。当研究室で作製 された銅内包 CNT は、前項で述べたように CNT 内部に高い充填率で銅が内包 されているが、熱処理の温度を上げることで銅が溶出し始め、500℃を超えると
高収量 高充填
で 5 h 熱処理した銅内包 CNT である。これらの TEM 像から、 400 ℃から 500 ℃ の間に CNT に内包されていた銅が溶出していることがわかる。銅結晶の融点 1083 ℃に比べ、極めて低い温度で銅の溶解が起こっているといえる。
図 1.14 :銅内包 CNT の熱処理による構造変化 (a)400 ℃ (b)500 ℃
1.5.2 銅内包 CNT の加圧処理
銅内包 CNT の興味深い特性として、熱処理のほかに加圧処理による内包銅の 溶出がある。加圧処理の方法として、水素アーク放電法で作製した銅内包 CNT の粉末を 1 kN の圧力でペレット状に成型した。その結果、銅内包 CNT に内包 されていた銅が抜け出し、中空の CNT が増加していることが確認された[52]。
図 1.15(a)の as-grown 銅内包 CNT の TEM 像と図 1.15(b)の加圧処理後のサン プルの TEM 像を比較すると、加圧処理後、CNT に内包されていた銅が溶出し 中空の CNT が増加していることや、銅ナノ粒子が増加していることがわかる。
図 1.15:銅内包 CNT の加圧処理による構造変化 (a) as-grown (b)加圧処理後
(a) (b)
(a) (b)
1.6 ナノカーボン物質の酸処理
1.6.1 ナノカーボン物質の精製
ナノカーボン物質を作製する際に使用する金属触媒や、不純物として生成さ れるアモルファス炭素などを除去する方法として酸による溶液法がある。使用 する酸としては硝酸が一般的である。図 1.16 のように、 E.Dujardin らは、レー ザー蒸発法によって作製された単層 CNT サンプル中に含まれている不純物を、
濃硝酸中で超音波処理、還流処理することで除去できることを見出した[53]。
図 1.16:酸処理による単層 CNT の精製[53] (a)酸処理前(b)酸処理後
しかし、硝酸などが持つ強い酸化力によって、主生成物であるナノカーボン物 質自身にも損傷を与えることがわかっている。I.D.Rosca らは、図 1.17 のよう に、 多層 CNT を硝酸中で還流処理することによって多層 CNT 構造が破壊され、
処理時間の増加とともにアモルファス炭素などが増加することを示した[54]。
Scale bar : 20 nm
(a) (b)
1.6.2 ナノカーボン物質表面への化学修飾
ナノカーボン物質の酸処理は、前項で述べた精製のほかに、ナノカーボン物 質表面へのカルボキシル基やヒドロキシル基などの官能基の導入をもたらすこ とがわかっている[55]。さらにこの官能基を足場として触媒粒子を担持させるな どの応用が多数報告されている。 D.Z.Mezalira らは、図 1.18(a)のように、硝酸 を用いて多層 CNT 表面にカルボキシル基やヒドロキシル基を導入し、マイクロ 波‐ポリオール法によって白金ナノ粒子を担持した[56]。また、P.Azadi らは、
図 1.18(b)で示されるように、硝酸を用いて多層 CNT にカルボキシル基やヒド
ロキシル基を導入し、硝酸ニッケルに含浸させた後焼成することでニッケルナ ノ粒子を担持した[57]。
図 1.18:金属ナノ粒子を担持させた多層 CNT (a)白金ナノ粒子[56] (b)ニッケル ナノ粒子[57]
1.7 本研究の目的と概要
本研究では、水素アーク放電法で作製した銅内包 CNT の熱処理や加圧処理に よって見られる内包銅の特異な溶出挙動のさらなる調査を目的として、金属を 溶解させる一般的な方法である酸処理を行った。酸処理の方法として硝酸を用 いた還流を行い、銅内包 CNT に与える影響やそれに伴う構造変化について検討 した。
(a) (b)
第 2 章 実験
2.1 銅内包 CNT の作製
2.1.1 銅含有炭素電極の作製
直径 5 mm、長さ 300 mm の炭素ロッド(純度:99.99 % 株式会社 Nilaco 社 製)を電動カッターを用いて 50 mm の長さにカットし 6 等分した。カットした
50 mm の炭素ロッドの中心に、ボール盤(DPN-13 株式会社東芝)を用いて、直
径 3 mm、深さ 30 mm の穴を開けた。この開けた穴をほぼ満たす程度まで銅粉
末(純度:99.8 % 株式会社 Nilaco 社製)を充填し、最後に銅粉末がこぼれないよ うにグラファイト粉末でふたをして、銅含有炭素電極とした。
2.1.2 水素アーク放電法による銅内包 CNT の作製
2.1.1 で作製した銅含有炭素電極を陽極、直径 20 mm、長さ 50 mm の炭素ロ
ッド(純度:99.99 % 株式会社 Nilaco 社製)を陰極として双方が接触するように
チャンバー内に設置した。ロータリーポンプを用いてチャンバー内を約 8 Pa ま
で排気させた後、チャンバー内に水素ガス(純度 99.99999%)を 0.1 MPa まで満
たし、その後 500 mL/min の流量で水素ガスを流した。電極間に 55 A の電流を
流し、冷却水を流しながら、自動電極送り装置を用いて電極間を 1 mm 程度離
して高温のアークプラズマを発生させ陽極を蒸発させた。その後、電極間の距
離を一定に保ちながら約 5 分間放電を行った。放電終了後、アルゴンガスを流
し 40 分空冷した。冷却後、チャンバー内に堆積した煤を回収した。
図 2.1:アーク放電装置の概略図
図 2.2:アークプラズマによる陽極の蒸発
陰極
陽極
電極を離す
アークプラズマ
2.2 銅内包 CNT の還流
2.2.1 銅内包 CNT の還流 (標準条件)
2.1.2 において作製した銅内包 CNT 50 mg、濃度 60%の濃硝酸 50 mL、沸騰
石 3 粒を 100 mL 丸底フラスコに入れ、マントルヒーター内に設置した。丸底
フラスコの先端にジムロート冷却器を取り付け、冷却水を流しながらマントル ヒーターに接続した温度調節器(アズワン TJA-550)の設定温度を 140℃にした。
丸底フラスコ内の溶液が設定温度に達するまで昇温時間として 30 分程度 140℃
で加熱し続けた後 1 時間還流を行った。還流後、冷却水を流したまま 2 時間空 冷 し た 。 溶 液 の 酸 を 除 去 す る た め に 、 溶 液 を 遠 沈 管 に 入 れ て 遠 心 分 離 機 (KUBOTA 7780Ⅱ)を用いて遠心分離を行い、上澄みを取り除いて蒸留水に置き 換える操作を 5 回程度行った。酸を完全に除去した溶液をサンプル瓶に移し、
乾燥器(アズワン DO-450A)を用いて 100℃で一晩乾燥させた。乾燥後、サンプ ル瓶内に残ったものを試料とした。
ジムロート冷却器
マントルヒーター 温度調節器
熱電対
銅内包 CNT
2.2.2 硝酸還流の条件を変化
還流の条件の変化による構造の変化を調べるために 各条件((ⅰ)仕込み量、
(ⅱ)時間、(ⅲ)温度、(ⅳ)濃度) を変化させて還流を行った。
(ⅰ) 仕込み量依存性
2.2.1 で行った銅内包 CNT の仕込み量 50 mg の実験と比較するために、
仕込み量を 10 mg、100 mg、200 mg と変化させ、それぞれ濃度 60 %の濃 硝酸 50 mL、還流温度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
(ⅱ) 還流時間依存性
2.2.1 で行った還流時間 1 時間の実験と比較するために、還流時間を 10 分、 6 時間、 12 時間と変化させ、それぞれ銅内包 CNT の仕込み量 50 mg、
濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、還流温度 140 ℃の条件で還流を行った。
(ⅲ) 温度依存性
2.2.1 で行った還流温度 140 ℃の実験と比較するために、還流温度を室温 (25℃)、 80 ℃、 110 ℃と変化させ、 それぞれ銅内包 CNT の仕込み量 50 mg、
濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。25 ℃
の条件のみマグネティックスターラーと撹拌子を用いて攪拌させた。
(ⅳ) 濃度依存性
2.2.1 で行った濃硝酸の濃度 60%の実験と比較するために、濃度 10%の 希硝酸、濃度 35%の濃硝酸を用いて銅内包 CNT の仕込み量 50 mg、温度
140℃、時間 1 時間の条件で還流を行った。また、各濃度において仕込み量
を 200 mg にした場合、還流時間を 12 時間にした場合について還流を行っ
た。
(ⅴ) 各条件を最大にした場合(最大値条件)
還流の条件を銅内包 CNT の仕込み量 200 mg、60%の濃硝酸 50 mg、還
流時間 12 時間、還流温度 140℃とした。
2.3 炭素材料の作製と還流
銅 内 包 CNT を 硝 酸 還 流 し た 場 合 と 比 較 す る た め に ( ⅰ ) 多 層 CNT(Nanostructured & Amorphous Materials 社製)、 (ⅱ)多層 CNT と銅粉末、
(ⅲ)熱処理した銅内包 CNT、(ⅳ)炭素粒子、(ⅴ)硫化銅内包 CNT の材料を用い
て還流を行った。条件は仕込み量 50 mg、温度 140℃、時間 1 時間とした。
(ⅰ) 多層 CNT の還流
市販の多層 CNT の仕込み量を 50 mg 用いて、 濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、
還流温度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
(ⅱ) 多層 CNT と銅粉末の還流
市販の多層 CNT の仕込み量 50 mg と銅粉末 50 mg を用いて、濃度 60 % の濃硝酸 50 mL、還流温度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
(ⅲ) 熱処理した銅内包 CNT の還流
2.1.2 で作製した銅内包 CNT を 1000 ℃、 5 時間真空中で熱処理(2.3.1 参 照)した試料 50 mg を仕込み量として、濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、還流温 度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
(ⅳ) 炭素粒子の還流
アルコールアーク放電法(2.3.2 参照)によって作製した炭素粒子 50 mg を 仕込み量として、濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、還流温度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
(ⅴ) 硫化銅内包 CNT の還流
二硫化炭素を用いたアルコールアーク放電法(2.3.3 参照)によって作製し た硫化銅内包 CNT 50 mg を仕込み量として、濃度 60 %の濃硝酸 50 mL、
還流温度 140 ℃、還流時間 1 時間の条件で還流を行った。
2.3.1 銅内包 CNT の熱処理
2.1.2 で作製した銅内包 CNT 500 mg を石英ボートに入れ、直径 27 mm、長
さ 60 cm の石英管内に配置した。その石英管を、石英ボートが電気炉の中心に
なるように設置し、石英管をターボ分子ポンプおよびロータリーポンプにより 約 10
-6Torr に保った。その後電気炉を使用して昇温し、温度 1000 ℃で 5 時間 の加熱処理を行った。
図 2.4:熱処理の概略図
2.3.2 炭素粒子の作製
2.1.2 と同様のアーク放電装置を用いた。直径 5 mm、長さ 50 mm の炭素ロ ッド(純度: 99.99 % 株式会社 Nilaco 社製)を陽極、直径 20 mm、長さ 50 mm の炭素ロッド(純度:99.99 % 株式会社 Nilaco 社製)を陰極とした。チャンバー 内にアルゴンガスを 0.1 MPa で満たした後、マントルヒーターにより 50℃に保 ったエタノールを流量 1000 mL/min のアルゴンガスでバブリングし、チャンバ ー内に導入した。電極間に 90 A の電流を流し、自動電極送り装置を用いて電極
間を 1 mm 程度離して高温のアークプラズマを発生させ陽極を蒸発させた。そ
の後、電極間の距離を一定に保ちながら約 5 分間放電を行った。放電終了後、
アルゴンガスを流し 40 分空冷した。冷却後、チャンバー内に堆積した煤を回収
した。
2.3.3 硫化銅内包 CNT の作製
2.1.2 と同様に、2.1.1 で作製した銅含有炭素電極を陽極、直径 20 mm、長さ
50 mm の炭素ロッド(純度: 99.99 % 株式会社 Nilaco 社製)を陰極として双方が 接触するようにチャンバー内に設置した。チャンバー内にアルゴンガスを 0.1 MPa で満たした後、マントルヒーターにより 50℃に保ったエタノール:二硫化 炭素の体積比 9 : 1 の混合液を流量 500 mL/min のアルゴンガスでバブリングし、
チャンバー内に導入した。電極間に 70 A の電流を流し、自動電極送り装置を用 いて電極間を 1 mm 程度離して高温のアークプラズマを発生させ陽極を蒸発さ せた。その後、電極間の距離を一定に保ちながら約 5 分間放電を行った。放電 終了後、アルゴンガスを流し 40 分空冷した。冷却後、チャンバー内に堆積した 煤を回収した。
図 2.6:硫化銅内包 CNT を作製するためのアルコールアーク放電法の概略図
2.4 生成物の評価
本実験において、以下の方法を用いて各試料の評価を行った。
(ⅰ) 透過型電子顕微鏡(TEM)観察
各試料をそれぞれエタノールに加え、超音波洗浄機(アズワン ASU-2)に よって約 5 分間分散させた後、マイクログリッドに滴下し、乾燥させた。
グリッドに乗せた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立製作所 H-7000)を用 いて加速電圧 100 kV 下で観察した。
(ⅱ) X 線回折(XRD)測定
各試料を石英ホルダー(1.5cm×1.5cm)上に平滑になるように乗せ、試料 水平型 XRD 装置(Rigaku 製、UltimaⅣ)を用いて測定した。X 線は波長 0.15418 nm の CuK
α線を使用した。測定範囲は 20°から 80°、スキャン スピードは 4°/min とした。
(ⅲ) ラマン分光測定
ラマンスペクトル測定用のアルマイト製ホルダー中央の穴(直径約 1 mm) に、平らになるよう生成物を詰め、ラマン分光器(Jobin Yvon T64000M1) を用いてラマンスペクトルの測定を行った。励起光は波長 488 nm の Ar イ オンレーザー(スポット径 約 10 µm)を用いた。
(ⅳ) 吸光度測定
石英セルに還流後の上澄み溶液を入れ、紫外可視分光光度計(島津製作所 製 UV-1800)を用いて吸光スペクトルを測定した。光源として紫外領域で重 水素ランプ、 可視・近赤外領域でハロゲンランプを用いた。 測定範囲は 190‐
1100 nm、光源切替波長は 340 nm とした。
第 3 章 結果
3.1 作製した銅内包 CNT
水素アーク放電法で作製された銅内包 CNT の TEM 像を図 3.1(a)、直径分布 を図 3.1(b)、 XRD パターンを図 3.2、 ラマンスペクトルを図 3.3 にそれぞれ示す。
水素アーク放電法によって得られた煤の TEM 像(図 3.1(a))から、当研究室の 従来の研究と同様に、銅内包 CNT が約 90%と非常に高い割合で形成されており、
薄層の CNT 内に末端まですき間なく銅が充填していることが確認できた。銅内 包 CNT の直径を測定したところ直径分布は 8‐24 nm であり、平均直径は約
13 nm であった(図 3.1(b))。また、副生成物として薄いグラファイト層に覆われ
た銅ナノ粒子が存在していることが確認できた。
水素アーク放電法で作製された銅内包 CNT の XRD パターン(図 3.2)から、銅 由来の(111)面、(200)面、(220)面が観察できた。ピーク位置はそれぞれ(111)面
=43.2°、(200)面=50.4°、(220)面=74.0°であった。また、各ピークの半値 幅はそれぞれ(111)面=0.3°、(200)面=0.3°、(220)面=0.3°であった。これ は、CNT に内包されている銅ナノワイヤーや副生成物として形成された銅ナノ 粒子に起因するピークであると考えられる。一方、銅内包 CNT の CNT 層に起
因する 26.4°付近のグラファイト(002)面はほとんど観察できなかった。これは
CNT 層が薄層であることやグラファイト性が高くないアモルファスライクな構 造であることに起因すると考えられる。
水素アーク放電法で作製された銅内包 CNT のラマンスペクトル(図 3.3)から グラファイトの六員環構造に起因する 1585 cm
-1付近の G-band、2707 cm
-1付 近の 2D-band、欠陥に起因する 1358 cm
-1付近の D-band がそれぞれ確認でき た。半値幅はそれぞれ 96 cm
-1、 93 cm
-1、 100 cm
-1であった。水素アーク放電法 で作製された銅内包 CNT は、欠陥由来の D-band 強度が大きく、結晶性由来の
G-band がブロードであることから、 XRD パターンの結果と同様に、 CNT 層の
結晶性が低いことがわかった。
図 3.1:水素アーク放電法で作製した銅内包 CNT (a)TEM 像 (b)直径分布
図 3.2:水素アーク放電法で作製した銅内包 CNT の XRD パターン
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
20 30 40 50 60 70 80
0 100 200 300 400
In tensity (cps)
2theta (degree)
Cu (111)
Cu (200)
Cu (220) 直径分布:8‐24 nm
平均直径:13 nm
C (002)
(a) (b)
図 3.3:水素アーク放電法で作製した銅内包 CNT のラマンスペクトル
1200 1400 1600 2600 2800 3000
Int ensity (a . u.)
Raman Shift
D-band G-band
2D-band
(cm
-1)
3.2 還流した銅内包 CNT
3.1 で示した銅内包 CNT 50 mg を、濃硝酸 50 mL を用いて、温度 140 ℃、
時間 1 h の条件で還流した結果の TEM 像を図 3.4(a, b)、 直径分布を図 3.5、 XRD パターンを図 3.6 に示す。また、図 3.3 で示された銅内包 CNT と還流した後の 銅内包 CNT のラマンスペクトルを図 3.7 に示す。
銅内包 CNT の還流によって得られた試料の TEM 像(図 3.4)から、内包されて いた銅の溶出と CNT の直径の増加が観察できた(図 3.4(a))。直径の増加は還流 前に比べ銅内包 CNT の CNT 層が厚くなったためであることがわかった。 また、
先端に内包されていた銅が移動し、粒子状になっているものが観察できた(図 3.4(b))。還流後の CNT の直径を測定したところ、直径分布は 15‐45 nm であ り、平均直径は 29 nm であった(図 3.5)。還流する前の水素アーク放電法によっ て作製された銅内包 CNT と比べ、直径が大きく増加していることがわかった。
銅内包 CNT を還流した時の上澄み溶液は淡黄色であった(図 3.6)。この溶液 の吸光スペクトル(図 3.7(a))から、800 nm 付近のブロードなピークが検出され た。また、400 nm 以下の紫外域にピークがあることがわかった。800 nm 付近 のピークは銅化合物の吸光によるピークであり、黄色から赤色の可視光を吸収 するため、青色に着色していると考えられる。 400 nm 付近に見られる裾は、濃 硝酸の光や熱による分解または銅と濃硝酸の反応によって生じた赤褐色の気体 である二酸化窒素が溶液中に含まれているためであると考えられる。上澄み溶 液を蒸留水で 10 倍に希釈した溶液の吸光スペクトル(図 3.7(b))から、 300 nm 付 近のピーク、 200 nm 付近のピークが検出された。これらのピークは、溶液中の 硝酸イオンに由来するピークであると推測される。したがって、光学写真で見 られたような淡黄色は、銅由来の青色と二酸化窒素由来の赤褐色が混合された 色であると思われる。以下に濃硝酸の分解反応式と銅と濃硝酸の化学反応式を 示す(式 3.1, 2)。
4HNO
3→ 4NO
2+ 2H
2O + O
2(式 3.1)
Cu + 4HNO
3→ Cu(NO
3)
2+ 2H
2O + 2NO
2(式 3.2)
図 3.4:銅内包 CNT を還流した後の TEM 像
図 3.5:還流後の直径分布 図 3.6:上澄み溶液の光学写真
図 3.7:上澄み溶液の吸光スペクトル (a)希釈なし (b)10 倍に希釈
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
(a) (b)
直径分布:15‐45 nm 平均直径:29 nm
(a)
(b)
銅内包 CNT の還流によって得られた試料の XRD パターン(図 3.8)から、図 3.2 で示された銅内包 CNT の XRD パターンでは観察できなかったグラファイ ト由来の(002)面が 2θ=26.4°に確認できた。また、還流前の銅内包 CNT に比 べて、銅由来の(111)面の強度が減少しブロードになっていることが確認できた。
半値幅はそれぞれ C(002)=0.5°、 Cu(111)面=2.2°であった。グラファイトの ピークは、TEM 像からわかるように、還流によって CNT 層が増加したことに 起因していると考えられる。また、26°付近のグラファイトピークの低角度側 の裾は、アモルファス炭素やグラファイト層間の拡張に起因している可能性が あると推測される。一方、銅のピークの減少は、内包されていた銅や副生成物 として存在していたカプセル化された銅ナノ粒子が濃硝酸によって溶解したた めであると考えられる。
銅内包 CNT の還流によって得られた試料のラマンスペクトル(図 3.9(b))から、
1358 cm
-1付近の D-band、 1585 cm
-1付近の G-band、 2722 cm
-1付近の 2D-band がそれぞれ確認できた。半値幅はそれぞれ 90 cm
-1、 72 cm
-1、 72 cm
-1であった。
また、 1620 cm
-1付近にグラファイトの面内欠陥由来の D´-band が確認された。
還流前の銅内包 CNT のラマンスペクトル(図 3.9(a))では、 G-band がブロードで あった。それに対して、還流後のラマンスペクトルでは、結晶性を示す G-band がシャープになり、 D-band と G-band の間の谷が深くなっていることから欠陥 やアモルファス炭素が減少し、結晶性が向上していることがわかった。さらに、
還流後の 2D-band が還流前に比べて 15 cm
-1程度高波数側にシフトしているこ
とからグラファイト層数が増加していると考えられる。
図 3.8:銅内包 CNT を還流した後の XRD パターン
図 3.9:還流前と後のラマンスペクトル (a)還流前 (b)還流後
20 30 40 50 60 70 80
0 100 200 300 400
In tensity (cps)
2theta (degree)
1200 1400 1600 2600 2800 3000
Int ensity (a . u.)
Raman Shift (cm
-1)
(a) (b) D-band G-band
2D-band C (002)
Cu (111)
3.3 還流条件の変化
銅内包 CNT の還流について、銅内包 CNT の仕込み量依存性、還流時間依存 性、還流温度依存性、濃硝酸の濃度依存性を検討した結果をそれぞれ 3.3.1‐4 に示す。また、各パラメータを最も大きくした条件で還流した結果を 3.3.5 に示 す。
3.3.1 仕込み量依存性
銅内包 CNT の仕込み量を変化させた場合の各試料の TEM 像を図 3.10(a, c, e)、
直径分布図 3.10(b, d, f)、仕込み量と平均直径の相関図を図 3.11、上澄み溶液の 光学写真を図 3.12、上澄み溶液の吸光スペクトルを図 3.13, 14、XRD パターン を図 3.15、ラマンスペクトルを図 3.16 に示す。
銅内包 CNT の仕込み量を変化させた場合の各試料の TEM 像(図 3.10(a, c, e)) から仕込み量 50 mg の場合と同様に内包されていた銅の溶出がみられた。また、
10 mg、 50 mg の試料で示されたような先端に銅ナノ粒子が存在するチューブは
100 mg、200 mg においても観察された。仕込み量が 10 mg、100 mg、200 mg の時の直径を測定したところ、直径分布はそれぞれ 13‐41 nm、17‐46 nm、
21‐61 nm であり、平均直径はそれぞれ 25 nm、32 nm、38 nm であることが
わかった(図 3.10(b, d, f))。この結果から、仕込み量と平均直径の関係をまとめ
ると、仕込み量の増加とともに CNT の直径が増加していることがわかった(図
3.11)。
図 3.10:銅内包 CNT の仕込み量を変化させた場合の TEM 像と直径分布
(a, b) 10 mg (c, d) 100 mg (e, f) 200 mg
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
(a)
(c)
(e)
(b)
(d)
(f)
直径分布:13‐41 nm 平均直径:25 nm
直径分布:17‐46 nm 平均直径:32 nm
直径分布:21‐61 nm 平均直径:38 nm
図 3.11:仕込み量と平均直径の相関図
0 50 100 150 200
25 30 35 40
Aver ag e dia me ter (n m)
Amount of Cu@CNT (mg)
銅内包 CNT の仕込み量を変化させた場合の各上澄み溶液の光学写真(図 3.12) から、銅内包 CNT の仕込み量の増加とともに溶液の色が濃くなっている様子が 観察できた。 仕込み量 50 mg の場合と同様に、 各上澄み溶液の吸光スペクトル(図
3.13)から、銅由来の 800 nm 付近のブロードなピーク、二酸化窒素由来の 400
nm 付近に見られる裾が確認でき、仕込み量の増加によってピーク強度が増加し ていることがわかった。また、各上澄み溶液を蒸留水で 10 倍に希釈した溶液の 吸光スペクトル(図 3.14)から、硝酸イオン由来の 200 nm 付近、300 nm 付近の ピークが確認でき、仕込み量の変化によってピーク強度に変化がないことがわ かった。したがって、仕込み量の増加とともに見られた溶液の色の変化は、仕 込み量の増加によって青色の銅錯体の濃度や赤褐色の二酸化窒素の濃度が増加 したためであると考えられる。
200 mg の銅内包 CNT の還流によって得られた試料の XRD パターン(図
3.15(b))から、グラファイト由来の(002)面が 2θ=26.4°に確認できた。また、
銅由来の(111)面がわずかに確認できた。半値幅はそれぞれ C(002)=0.3°、
Cu(111)面=2.2°であった。仕込み量 50 mg の場合(図 3.15(a))に比べ、グラフ ァイト(002)面がシャープになり、結晶性が向上していることがわかった。これ は還流によって CNT 層が増加したことに起因していると考えられる。また、
26°付近のグラファイトピークの低角度側の裾は、アモルファス炭素に起因し ていると考えられる。
銅内包 CNT の仕込み量を変化させた場合の各試料のラマンスペクトル(図 3.16)から、1358 cm
-1付近の D-band、1585 cm
-1付近の G-band、2722 cm
-1付
近の 2D-band がそれぞれ確認できた。各スペクトルの半値幅を以下に示す(表
3.1)。還流前の銅内包 CNT は、グラファイトの結晶性を示す G-band がブロー
ドであったが、すべての条件において還流によって G-band がシャープになって
いることや、 D-band と G-band の間の谷が深くなっていることから結晶性が向
上していることがわかった。また、仕込み量の増加に伴って D´-band 強度が減
少し、結晶性の良い CNT になっていることが示された。 2D-band は仕込み量を
変化させた場合でもシフトしていないことがわかった。
D-band G-band 2D-band
200 mg 84 48 70
100 mg 91 62 70
50 mg 90 72 72
10 mg 90 70 66
表 3.1 :仕込み量を変化させた場合の各試料のラマンスペクトルの半値幅 (cm
-1)
図 3.12:還流後の上澄み溶液の光学写真
200 400 600 800 1000
Ab sor bance (a . u.)
Wavelength (nm)
200mg 100mg 50mg 10mg 200 mg 100 mg
50 mg 10 mg
200 mg 100 mg 50 mg 10 mg
図 3.14:還流後の上澄み溶液を 10 倍に希釈した場合の吸光スペクトル
図 3.15:還流後の各試料の XRD パターン (a)50 mg (b)200 mg
200 400 600 800 1000
Ab sor bance (a . u.)
Wavelength (nm)
200mg 100mg 50mg 10mg
20 30 40 50 60 70 80
Int ensity (a . u.)
2theta (degree)
(b)
(a) C (002)
Cu (111)
C (002)
200 mg 100 mg 50 mg 10 mg
図 3.16:ラマンスペクトルの仕込み量依存性
1200 1400 1600 2600 2800 3000
Int ens ity ( a. u.)
Raman Shift
200 mg 100 mg 50 mg 10 mg as-grown
(cm
-1)
D-band
G-band
2D-band
3.3.2 時間依存性
銅内包 CNT を還流する際の時間を変化させた場合の各試料の TEM 像を図 3.17(a, c, e)、直径分布を図 3.17(b, d, f)、還流時間と平均直径の相関図を図 3.18、
上澄み溶液の光学写真を図 3.19、上澄み溶液の吸光スペクトルを図 3.20, 21、
XRD パターンを図 3.22、ラマンスペクトルを図 3.23 に示す。
銅内包 CNT を還流する際の時間を変化させた場合の各試料の TEM 像(図
3.17(a, c, e))から、還流時間 1 h の場合と同様に内包されていた銅の溶出がみら
れた。還流後の直径変化は還流時間 10 min の場合小さく、還流時間 6 h、12 h
の場合大きいことがわかった。還流時間が 10 min、6 h、12 h の時の直径を測
定したところ、直径分布はそれぞれ 8‐31 nm、15‐64 nm、17‐63 nm であ
り、平均直径はそれぞれ 15 nm、36 nm、42 nm であった(図 3.17(b, d, f))。こ
の結果から、還流時間と平均直径の関係をグラフにまとめると、 10 min から 60
min の間で平均直径が大きく変化し、その後還流が長時間になるに伴い増加率
が減少していることがわかった(図 3.18)。
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50 60 70
Fraction (%)
Diameter (nm)
直径分布:8‐31 nm 平均直径:15 nm
直径分布:15‐64 nm 平均直径:36 nm
直径分布:17‐63 nm 平均直径:42 nm
(a)
(c)
(e)
(b)
(d)
(f)
図 3.18:還流時間と平均直径の相関図
0 100 200 300 400 500 600 700 10
20 30 40 50
Ave ra ge dia me ter (n m)
Reflux time (min)
銅内包 CNT を還流する時間を変化させた場合の各上澄み溶液の光学写真(図
3.19)から、還流時間が 10 min の場合青色であり、 1 時間以降の条件では淡黄色
から緑色に変化することがわかった。各上澄み溶液の吸光スペクトル(図 3.20) から、銅由来の 800 nm 付近のブロードなピーク、二酸化窒素由来の 400 nm 付 近に見られる裾が確認でき、還流時間を増加させても 800 nm 付近のピークに は変化がないことがわかった。これは仕込み量の変化がなく反応する銅の量が ほぼ同じであるためであると考えられる。一方、二酸化窒素由来の 400 nm 付 近に見られる裾は、還流時間が 10 min の場合観察できず、1 h の場合が最も大 きかった。これは、還流初期では反応が十分に進行していないためであり、長 時間の還流では、二酸化窒素が二量体を形成して無色の四酸化二窒素と平衡状 態になり溶液に溶け込む二酸化窒素量が減少したため、あるいは二酸化窒素が 大気中に放出してしまったためであると考えられる。各上澄み溶液を蒸留水で 10 倍に希釈した溶液の吸光スペクトル(図 3.21)から、硝酸イオン由来の 200 nm
付近、 300 nm 付近のピークが確認でき、還流時間の変化によってピーク強度に
変化がないことがわかった。
12 h の還流によって得られた試料の XRD パターン(図 3.22(b))から、グラフ ァイト由来の(002)面が 2θ=26.4°に確認できた。また、銅由来の(111)面がわ ずかに確認できた。半値幅はそれぞれ C(002)=0.3°、 Cu(111)面=0.6°であっ た。還流時間 1 h の場合(図 3.22(a))に比べ、グラファイト(002)面がシャープに なり、結晶性が向上していることがわかった。これは還流によって CNT 層が増 加したことに起因していると考えられる。また、26°付近のグラファイトピー クの低角度側の裾は、アモルファス炭素に起因していると考えられる。
銅内包 CNT を還流する時間を変化させた場合のラマンスペクトル(図 3.23)か ら、1358 cm
-1付近の D-band、1585 cm
-1付近の G-band、2722 cm
-1付近の
2D-band がそれぞれ確認できた。各スペクトルの半値幅を以下に示す(表 3.2)。
還流前の銅内包 CNT は、グラファイトの結晶性を示す G-band がブロードであ
ったが、還流時間 1 h までの条件において還流によって結晶性を示す G-band
がシャープになっていることから結晶性が向上していることがわかった。しか
し、還流時間が 6 h、12 h と長時間になるにしたがって、D-band、D´-band
強度が増加し、欠陥が増加していることがわかった。また、2D-band は還流時
間を変化させた場合でもシフトしていないことがわかった。
D-band G-band 2D-band
12 h 72 70 93
6 h 69 64 97
1 h 90 57 97
10 min 80 56 92
表 3.2 :還流時間を変化させた場合の各試料のラマンスペクトルの半値幅 (cm
-1)
図 3.19:還流後の上澄み溶液の光学写真
図 3.20:還流後の上澄み溶液の吸光スペクトル
200 400 600 800 1000
Ab sor bance (a . u.)
Wavelength (nm)
12h 6h 1h 10min 12 h
6 h 10 min 1 h
12 h 6 h 1 h 10 min
図 3.21:還流後の上澄み溶液を 10 倍に希釈した場合の吸光スペクトル
200 400 600 800 1000
Ab sor bance (a . u.)
Wavelength (nm)
12h 6h 1h 10min
20 30 40 50 60 70 80
In tensity (a. u. )
2theta (degree)
(b)
(a) C (002)
Cu (111)
C (002)
12 h 6 h 1 h 10 min
図 3.23:ラマンスペクトルの時間依存性
1200 1400 1600 2600 2800 3000
Int ensity (a. u.)
Raman Shift
as-grown 12 h
6 h
1 h
10 min
(cm
-1)
D-band G-band
2D-band