これまでの銅内包CNTの研究から、銅内包 CNTの内包銅の溶出は CNT先 端からであると考えられていた[59]。しかし、CNT 層に存在する原子空孔欠陥 から内包銅が溶出するプロセスも同時に起こり、その溶出プロセスがCNT層に 影響を与えて直径変化やグラファイト化を引き起こしたと考えた。
しかし、3.4.3 で示したように、熱処理後中空の CNT となった試料を硝酸で 還流した場合においても直径が増加していることから、内包銅は直径変化に直 接関係していないと考えられる。したがって、銅内包CNTにみられた直径の増 加は、銅内包CNTのCNT層に原因があると推測される。
4.3 膨張化グラファイトに類似した変化
グラファイトは、平面構造を持つグラフェンが層状に積み重なった構造を持 った物質である。グラファイトの層間はファンデルワールス力によって結合し ているため、グラファイト層を容易に拡張させることができる(図 4.2)。その方 法として酸処理と熱処理が用いられる[60]。
図4.2:酸処理と熱処理による膨張化グラファイトの形成 (a)グラファイト (b, c) 膨張化グラファイト[60]
そこで、本研究においてもこのように層間の拡張が起こり、銅内包CNTの直 径が変化したのではないかと考えた。
一般的に CNT には同心円構造のもの(図 4.2(a))とスクロール構造のもの(図
4.2(b))がある。はじめに、本研究で使用した銅内包CNTのCNT層が同心円構
造であるとした場合、直径の変化が起こったとき各層の直径が増加するための 炭素供給が必要であることや、CNTが炭素原子の強い sp2結合からできており 体積弾性係数が大きく熱膨張が少ないこと[61]から、CNT 層の拡張は起こらな いと考えられる。次に、本研究で使用した銅内包CNTがスクロール構造である とした場合、直径の変化が起こったとき、前者の場合とは異なり各層間を拡張
(a) (b) (c)
たようにグラファイトの(002)面の半値幅の減少に一致しないと考えられる。し たがって、銅内包 CNT の直径が増加するためには、CNT 構造の変化だけでは なく、反応中に何らかの方法で炭素が供給される必要があると考えられる。
図4.3:多層CNTの概略図[61] (a)同心円構造 (b)スクロール構造
4.4 CNT層の形成
これまで述べてきたように、酸を用いたCNTの酸処理は、CNTの精製やCNT 構造の破壊をもたらす。しかし、S.Wangらは、酸化グラフェンを濃硝酸中で超 音波処理する方法を用いて、図 4.4 で示すように、多環芳香族炭化水素(PAH) を縮合させることによって炭素ナノ粒子やCNTを合成した(図4.5)[62]。
図4.4:S.Wangらの実験のメカニズムの概略図[62]
(a) (b)
図4.5:PAHから合成したCNT (a)TEM像 (b)高分解能TEM像[62]
本研究においても同様または類似した反応が起こり、銅内包CNTの直径が変 化したのではないかと考えた。
S.Wangらの研究から本研究の反応プロセスを考察すると、銅内包CNTを還
流する際、試料中に存在していたPAHが銅内包CNTをテンプレートとして配 列することで銅内包CNTの外側に新たにCNT層が合成され、直径が増加した と考えられる。還流後、直径増加したCNTが高い割合で存在していることから、
CNT層の原料となり得るPAH量がas-grown銅内包CNT試料中に存在してい たもののみでは不足していると考えられる。したがって、還流によってPAHが 形成されたと考えると、以下の2通りが可能性としてあげられる。
① 内径の変化は観察されなかったが、内包銅が溶出する際、内側の数層のCNT 層が引っ張られ、溶液中にPAHとして分散された。
② 直径分布で確認できるように、還流後、細いチューブの割合が減少したこと から、細いチューブが酸化されることによって破壊されPAHを形成した。
さらに、還流条件を変化させた場合について考察すると、仕込み量を変化さ せた場合、仕込み量の増加によって溶液中に存在するPAHが増加するため、直 径が仕込み量の増加に伴って増加していくといえる。還流時間を変化させた場 合、還流時間の増加によってPAHが消費されて減少するため、還流時間が長時 間になると直径の増加率が減少するといえる。また、還流温度、硝酸濃度を増 加させた場合、硝酸の酸化作用が促進されるため、直径の増加につながったと 考えられる。したがって、PAH などの炭素化合物の吸着によって CNT 層が形 成し直径が変化した可能性は高いと考えられる。以下にこの反応の概略図を示
図4.6:CNT層が形成されると仮定した場合のメカニズムの概略図