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新規免疫抑制化合物

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 柳 川 芳 毅

学 位 論 文 題 名

新規免疫抑制化合物 FTY720 の作用機構の解析:

リンパ球ホーミングの促進による免疫抑制作用の発現

I序 論

学位論文内容の要旨

  臓 器 移 植 に お け る 急 性 拒 絶 反 応 の 予 防 に は 免 疫 抑 制 剤 が 不 可 欠 で あ り , cyclosporineA(CsA)およびtacrolimus (FK506)は,最も汎用されている免疫抑制剤 である,これらの薬剤は,ともに移植片の急性拒絶反応を抑制する用量で,腎毒性や 肝毒性などを示すため,臨床においては低用量で用いられ,免疫抑制作用を補うため に他の 薬剤との併 用が行わ れている ,したが って,CsAお よびFK506とは作用機構 を異なり,これらと併用可能な副作用の少ない新規免疫抑制剤の開発が待望されてい る,最近,冬虫夏草菌類の―種であるツクツクボウシダケ(Isar ia sinclairii)の培養上 清から免疫抑制物質,ISP‑Iが発見された,ISP‑Iよ加vivoでの毒性が強かったため,

種々のISP‑I誘導体が合成された.その結果,強カな免疫抑制活性を保持しかつ毒性 が 軽 減 さ れ た 合 成 化 合物 ,FTY720が 見 い出 さ れ た.FTY720はCsAお よびFK506 で問題とされている腎毒性や肝毒性を示さず,種々の同種移植モデルにおいて著しい 移植片生着延長効果を示した.本研究においては,加vivoにおけるFTY720の作用機 序を解析し,本化合物がこれまでにないユニ―クな機構によって免疫抑制作用を発現 することを明らかにしたので報告する,

ロ 同 種 皮膚 移植にお けるFTY720,CsAとFK506に よる移植 片生着延 長作用

  WKAHラットをド ナーとし ,F344ラット をレシピ エントとした主要組織適合抗原 が異なるラ ット間で の同種皮 膚移植モ デルにお いて,CsA,FK506とFTY720の移植 片生着延長作用を比較した.FTY720は,0.03 mg/kgの用量で有意となる,用量依存 的な移植片 の生着延 長作用を 示した. ー方,CsAお よびFK506も移植片の生着を延 長し た が,FTY720より も 高い 用 量 が必 要 であ っ た .す な わ ち,FTY720はCsAや FK506よ り も 強 カ な 免 疫 抑 制 作 用 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た . 皿FTY720による末 梢血リン パ球滅少 作用の解析

  F.・TY720の最も特徴的な作用は,免疫抑制作用を示す用量で,投与後数時間以内に,

末梢血中のりンパ球,とくにT細胞を著しく減少させることである.血中のりンパ球 は血流を介して全身を循環するとともに,リンパ節およびパイエル板ヘ移行する,こ のりンパ球の移行はりンパ球ホーミングと呼ばれ,リンパ節およびパイエル板に存在

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す る 特 殊 な 構 造 を も っ た 高 内 皮 性 細 静 脈(HEV)を 介 し て い る と 考 え ら れ て い る. リ ンパ 球 は, リン パ節 およ びパ イエ ル板 へ移 行し た後 ,輸 出リ ン パ管 を通 過し て再び血 中 へ 移 行 し , 血 流 中 を 再 循 環 す る . こ の り ン パ 球の ホ ーミ ング およ び再 循環 に着 目 し ,FTY720の 作 用 機 構 を 検 討 し た , ラ ッ ト にFTY720を0.1お よ び1mg/kgで 単 回 経口 投 与し ,末 梢血 ,末 梢リ ンパ 節, 腸間 膜リ ンパ 節, パイ エ ル板 およ び脾 臓におけ る り ン パ 球 数 を フ ロ ― サ イ ト メ ト リ ― に よ っ て 経時 的 に測 定し た.FTY720の 投与 後 3〜24時 間 で , 末 梢 血 中 の り ン パ 球 が 著 し く 減 少 し, その 後徐 々に 増加 して ,7日 目 に はcontrolと 同 程 度 にま で回 復し た. 脾臓 にお いて も 同様 にり ンパ 球の 減少 が認 め ら れ た , こ れ と は 逆 に, リ ンパ 節お よび パイ エル 板に おい ては 投与 後3〜24時 間で , リ ン パ 球 がcontrolの1.5〜3倍 に増 加し ,そ の後 減少 し て,7日 目に はcontrolと同 程 度の 値 を示 した .螢 光標 識リ ンパ 球を 用い て, 末梢 血か ら各 リ ンパ 系組 織へ のりンパ 球 の 移 行 に 対 す るFTY720の 作 用 を 調 べ た 結 果 , 本化 合 物は りン パ節 およ びパ イエ ル 板へ の りン パ球 ホー ミン グを 促進 して いる こと が判 明し た. 以 上の 結果 から ,FTY720 は末 梢 血か らり ンパ 節お よび パイ エル 板へ のり ンパ 球ホ ―ミ ン グを 促進 させ ,これら の り ン パ 系 組 織 に り ン パ 球 を 隔 絶 す る こ と に よ って 末 梢血 中の りン パ球 を著 しく 減 少さ せ ると 考え られ る.

IV移植片中のinterleukin‑2 (IL‑2)とinferferon‐Y(IFNlY)のmRNA発現および   T細胞浸潤に対するFTY720とCsAの作用

  同 種 移 植 片 は , 末 梢 血 か ら移 植片 へのT細胞 の浸 潤お よび 移植 片中 でのIL‑2およ び

|FN‑yに よ る 浸 潤T細 胞 の 活 性化 など ,― 連の 免疫 反応 によ って 拒絶 され ると 考え ら れ て い る .FTY720はCsAと の 併 用 に よ り , 同 種 移 植 片 の 生 着 に 対 し て 著 し い 相 乗 効 果 を 発揮 した .そ こで ,こ の相 乗効 果の 発現 機構 を解 析するため,移植 片中のIL―2と

|FN‑yのmRNA発 現 お よ びT細 胞 浸 潤 に 対 す るF・ .TY720お よ びCsAの 作 用 を 検 討 し た .WKAHラ ッ ト の 皮 膚 をF344ラ ッ ト に 移 植 し て5日 後 に 移 植 片 中 のIL‑2お よ び IFN‑yのmRNA発 現 量 を , ま た , 移 植 片 中 のT細 胞 浸 潤 量 の 指 標 と し てT細 胞 に 定 常 的 に 発 現 さ れ て い るCD3 mRNAの 発 現 量 を 各 々RT‑PCR法 に よ り 測 定 し た .FTY720 (0.1 mg/kg)お よ びCsA (10 mg/kg)を それ ぞれ 単剤 で投 与し た場 合, 移植 片生 着の 中 央 値(MST)は そ れ ぞ れ10.5お よ び11日 で あ り , 同 等 の 免 疫 抑 制 作 用 を 示 し た . 一 方 ,FTY720は 移 植 片 中 のCD3 mRNAの 発 現 (T細 胞 浸 潤 ) の 増 加 を 強 く 抑 制 し た の に 対 し ,CsAはIL‑2お よ びIFN‑yのmRNA発 現 を 強 く 抑 制 し , 移 植 片 中 の 免 疫 反 応 に 対 す る 作 用 はFTY720とCsAで 全 く 異 な っ て い た , ま た ,FTY720 (0.1 mg/kg)お よ びCsA (10 mg/kg)を 併 用 し た 場 合 ,IL‑2,IFN‑yお よ びCD3のmRNA発 現 の 増 加 は , と も に 同 系 移 植 の レ ベ ル に ま で 抑 制 さ れ ,MSTは70日 以 上 と 著 し い 相 乗 作 用 が 認 め ら れ た , さ ら に ,FTY720に よ る 移 植 片 へ のT細 胞 浸 潤 の 抑 制 に つ い て は , フ 口 ー サ イ ト メ ト リ ー よ っ て も 確 認 し た . 以 上 の 結 果 か ら ,FTY720は ,CsAと は 異 な り ,T細 胞 の 移 植 片 へ の 浸 潤 を著 しく 抑制 する こと によ って 免疫 抑制 作用 を発 現す る と 考 え ら れ る , ま た ,FTY720とCsAの 併 用 時 に お い て は ,T細 胞 の 移 植 片 へ の 浸 潤 お よ び移 植片 中で のサ イト カイ ン産 生が とも に著 しく 抑制 さ れる こと によ って ,相乗 効 果 が発 現す ると 推察 され た,

Vま と め

  本 研 究 で 得 ら れ た 結 果 を ま と め る と ,FTY720はり ンパ 節お よび パイ エル 板へ のり ン パ 球 ホ ー ミ ン グ を 促進 させ るこ とに よっ て血 中を 循環 す るり ンパ 球, とく にT細胞

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を著しく減少させた,その結果,移植片へのT細胞の浸潤は抑制され,免疫抑制作用 が発現すると考えられる.CsAなどこれまでの免疫抑制剤は,免疫担当細胞に直接作 用し,細胞の機能あるいは増殖を抑制することによって作用を発現する.FTY720は,

これら既存の薬剤とは異なり,全身におけるりンパ球の動態に作用することによって 免疫抑 制作用を発現するユニ―クな機序をもつことが示された.以上のことから,

FTY720は,臓器移植における急性拒絶予防薬としてばかりでなく,免疫反応を研究 する際のツールとして極めて有用であると考える.

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

長 澤 滋 治 徳 光 幸 子 野 村 靖 幸 高 橋 和 彦

学 位 論 文 題 名

新 規免 疫抑 制 化合 物 FTY720 の作 用機 構 の解析:

リンパ球ホーミングの促進に よる免疫抑制作用の発現

  冬 虫夏 草 菌 類の 一 種 で ある ツ ク ツク ボ ウ シダ ケ(Isaria sinclairii)の 培養上 清 か ら 免疫 抑 制 物質 が 見 い 出さ れ た が, 毒 性 が強 か っ たた め , 種々 の 誘 導体 が 合 成 さ れた , そ の結 果 , 強 カな 免 疫 抑制 活 性 を保 持 し かつ 毒 性 が軽 減 さ れた 化 合 物 ,FTY720の 合 成 に 成 功 し た ,FTY720は 従 来 の 免 疫 抑 制 薬 で あ るCsA お よ びFK506と は 異 な り 腎 毒 性 , 膵 毒 性 な ど を 示 さ ず , 著 し い 移 植 片 生 着 延 長 効 果 を 示 し た , ま た , 加vitroに お い て ,FTY720は ,CsAやFK506と は 異 な り ,IL‑2の 産 生 を 抑 制 し な い こと が 示 され た . した が っ て,FTY720は ,CsA ま た はFK506と の 併 用 が 可 能 で あ り , 臓 器 移 植 に お け る 急 性 拒 絶 反 応 の 予 防 に 有 用 で あ る と 期 待 さ れ る . 本 論 文 提 出 者 は , 加vivoに お け るFTY720の 作 用 機 序 を解 析 し ,本 化 合 物 がこ れ ま でに な い ュニ ー ク な機 構 に よっ て 免 疫抑 制 作 用 を 発現 す る こと を 明 ら かに し た ,

  ラ ッ ト の 同 種 皮 膚 移 植 モ デ ル に お い て ,CsA,FK506お よ びF, ・TY720の移 植 片 生 着 延 長 作 用 を 比 較 し た ,Control群 に お い て , 移 植 片 は 術 後6〜7日 で 拒 絶 さ れ た .FTY720の 投 与 は 移 植 片 の 生 着 延 長 作 用 を 示 し た .CsAお よ び FK506も 移 植 片 の 生 着 を 延 長 し た が ,FTY720は CsAやFK506よ り も 強 カ な 免 疫 抑 制作 用 を 示す こ と が 明ら か と なっ た ,

  FTY720の 最 も 特 徴 的 な 作 用 は 末 梢 血 中 の り ン パ 球 , と 〈 にT細 胞 を 著 し く 滅 少 さ せ る こ と で あ る . こ の よ う な 現 象 は ,CsAお よ びFK506を 投 与 し た 場 合 に は 認め ら れ ない . 血 中 のり ン パ 球の 移 行 はり ン パ 球ホ ー ミ ング と 呼 ばれ , リ ン パ 節 お よ び パ イ エ ル 板 に 存 在 す る 特 殊 な 構 造 を も っ た 高 内 皮 性 細 静 脈 (high endothelial venule|HEV)を 介 し てい る . ラ ット | こFTY720を 単 回経口 投 与 し , 末 梢 血 , 末 梢 リ ン パ 節(PLN), 腸 聞 膜 リ ン パ 節(MLN), パ イ エ ル 板

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(PP)およ び 脾臓 に お ける り ン パ球 数 を測 定する と,FTY720の投 与は末梢 血 中のりン パ球を著 しく減少 させた,睥 臓におい ても同様 にりンパ球の減少が 認められた.一方,末梢リンパ節,腸間膜リンパ節およびパイエル板のりンパ 球数は,これとは逆に増加した.

  FTY720の 作 用 はB細 胞 に 比 べ てT細胞 に 対 して 顕 著 であ っ た, さ ら に,

螢光物質 であるcalceinで 槻繊したりンパ球を用いて,末梢血から各リンパ系 組織 へ の りン パ 球の 移 行 に対 す るFTY720の作用を 關べた.FTY720は末梢リ ンパ節,腸聞膜リンパ節およびパイエル板へのりンパ球ホ―ミングを促進させ た,FTY720によ るりンパ 球ホーミ ングは,通 常のりン パ球ホーミングと同様 に,リンパ球ホーミングレセプターに対する抗体の処理によって抑制された,

  以上の結 果から,FTY720は末梢血 からりンパ 節および パイエル板へのりン パ球ホーミングを促進させ,これらのりンパ系組織にりンパ球を隔絶すること に よ っ て , 末 梢 血 中 の り ン パ 球 を 著 し く 滅 少 さ せ る と 考 え ら れ る .   同種移植 片は,末 梢血から 移植片へのT細胞の浸潤および移植片中でのIL‑2 およびinterferon1(lFN1)による浸潤T細胞の活性化などで拒絶されると考え られ て い る,FTY720はCsAと の併 用 によ り , 同種 移 植片 の 生 着に 対 し て著 し い 相 乗 効 果 を 発 揮 し た . ー 方,FTY720は 移 植 片中 のCD3mRNAの 発 現 (T 細胞浸潤 )の増加 を強く抑 制したのに 対し,CsAは |L.2およびIFNイのmRNA 発現 を 強 く抑 制 し, 移 植 片中 の 免疫 反 応 に対 す る作 用 はFTY720とCsAで全 く異なっ ていた. また,FTY720お よびCsAを併用 した場合 ,IL−2,|FNイお よ びCD3のmRNA発 現 の 増 加 は , と も に 同 系 移 植 (Isogramの レ ベ ル に ま で抑制され,移植片生着の中央値は70日以上と著しい相乗作用が認められた.

以上 の 結 果か ら ,Fnワ20は ,CsAと は 異な り,T細胞 の移植片 への浸潤 を著 しく抑制することによって免疫抑制作用を発現すると考えられる.したがって,

F.・TY720およ びCsAの併用 は,T細胞 の移植片へ の浸潤および移植片中での サイトカイン産生がともに著しく抑制されることによって,相乗効果が発現す ると推察された,

  CsAな どこ れまでの 免疫抑制 剤は,免 疫担当細 胞に直接 作用し, 細胞の機 能あるい は増殖を 抑制する ことによっ て作用を 発現する ,FTY720は,これら 既存の薬剤とは異なり,全身におけるりンパ球の動態に作用することによって 免 疫 抑 制 作 用 を 発 現 す る ユ ニ ー ク な 機 序 を も つ こ と が 示 さ れ た .   以 上 の免 疫 抑制 薬 と して 合 成さ れ た 新規化 合物FTY720は臓 器移植の 拒絶 反応予防 薬として 大きく貢 献したもの である. 審査員一 同これらの研究を高 く評価し,本論文提出者が博士(薬学)の称号を受けるにふさわしいものと一 致して判断した,

参照

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