論文内容要旨
論文題名
High-molecular-weight amyloid β1-42 oligomers inducing neurotoxicity via plasma membrane damage
(高分子 Aβ オリゴマーは細胞膜を破綻し神経細胞毒性を誘導する)
掲載雑誌名
The FASEB Journal.Vol.33,8:9220-9234,2019
年doi: 10.1096/fj.201900604R
専攻名 病理系薬理学(医科薬理学分野)氏名 安本太郎
【背景・目的】アルツハイマー型認知症(AD)は認知症性疾患において最多 である。病理学的には老人斑として特徴づけられているアミロイド β 蛋 白(Aβ)の凝集物の脳内蓄積が原因の一つとされているが、その詳細な神 経細胞毒性の機序などは明らかになっていない。Aβの凝集物はモノマー
(単一)、オリゴマー(数個から数百個)、成熟繊維(数千個以上)の順に 重合数に応じて三形態に分かれ,重合数の多い高分子オリゴマーの毒性が 最も強いとされている。本研究では
Aβオリゴマーの分子サイズによる神
経細胞毒性の比較、及びその機序を明らかにすることを目的とした。【方法】細胞毒性が強いとされる Aβ42 を高速液体クロマトグラフィーに て、モノマーに近い低分子オリゴマー(LMW-Aβ)および数百個の Aβ よ りなる高分子オリゴマー(HMW-Aβ)に分出した。ヒト神経膠芽腫細胞(SH-
SY5Y)に両 Aβ オリゴマー(5 μM)を 30
分間処置し、細胞傷害作用としてミトコンドリア活性(MTT)測定、lactate dehydrogenase(LDH)測定、酸 化ストレス作用として
reactive oxygen species
(ROS)及び細胞膜リン脂 質過酸化の測定、さらに細胞内Ca
2+濃度([Ca2+]
i)の動態を測定した。細胞
膜への作用としてWhole-cell
パッチクランプによる細胞膜電気的抵抗性 の測定、細胞膜流動性測定を行った。加えて、C57BLマウスの海馬スライ スにお ける シナ プ ス応答 を高 周波 刺 激によ る興 奮性 シ ナプス 後電位(fEPSP)、長期増幅(LTP)の測定をした。
【結果】LMW-Aβ および
HMW-Aβ を処置した SH-SY5Y
細胞は、細胞傷害作 用、酸化ストレス作用が無処置細胞に比べ有意に増加した。その傷害強度 は、HMW-Aβ 処置でより顕著であった。また、[Ca2+]
iは、両 Aβ オリゴマ ー処置で上昇を認めたが、HMW-Aβ の方が、持続的な[Ca
2+]
iの上昇を示した。Aβ オリゴマーによる[Ca2+
]
iの上昇は、ニカルジピンおよびメマンチ ンの前処置で抑制した。さらに、HMW-Aβ を処置したSH-SY5Y
細胞は、細 胞膜リン脂質の過酸化、細胞膜電気的抵抗性および細胞膜流動性の低下を 顕著に示した。またシナプス応答は、無処置スライスに比べHMW-Aβ 処置
で有意に低下した。【考察】両 Aβ オリゴマーは、神経細胞傷害作用を示したが、LMW-Aβ よ りも、多くの Aβ 分子から形成された
HMW-Aβ の方がより強い細胞傷害作
用を示した。HMW-Aβ は、Ca2+チャネルを介し持続的に[Ca2+]
iを上昇し、細胞膜リン脂質を過酸化し、細胞膜抵抗性および細胞膜流動性を低下させ た。これより、
AD
発症の機序の1
つとして、HMW-Aβ オリゴマーは、神経
細胞膜リン脂質の過酸化による細胞膜構造変化を引き起こし、神経細胞膜 破壊、神経細胞毒性を誘発することが明らかとなった。最も毒性の強いHMW-Aβ オリゴマーの産生を抑制することが、 AD
予防および進行遅延ための治療標的となり得る。