論文内容要旨
論文題名
Generation of orthotopically functional salivary gland from embryonic stem cells.
(ES 細胞由来機能的唾液腺の作出)
掲載雑誌名
Nature Communications, Vol. 9(1), No. 4216, 2018 年
口腔病理学 田中 準一
内容要旨
再生医療のツールの一つとして臓器特有の構造と機能を持つ多能性幹 細胞由来オルガノイドが挙げられる。これまで生体内の臓器発生過程を
in
vitro
で模倣することによって多能性幹細胞から腎臓、肝臓、大脳など多種にわたる臓器のオルガノイド誘導方法が確立されてきた。しかしながら 唾液腺を含む外分泌腺オルガノイドについては発生過程に不明な点が多 く、分化誘導方法が確立されていなかった。唾液腺と同じく口腔粘膜を発 生母地とする下垂体オルガノイドについては既に報告されており、この方 法を改変することで
ES
細胞から口腔粘膜を誘導し、ES 細胞由来口腔粘 膜に対して唾液腺特異的転写因子を導入することにより唾液腺を誘導す るモデルを考えた。唾液腺発生についてはマスター転写因子が同定されて おらず、唾液腺誘導には転写因子の同定が必要であった。マウス唾液腺初期発生期の組織切片より唾液腺原基領域とその発生母 地である口腔粘膜領域をレーザーマイクロダイセクションで採取し、
RNA-seq
による遺伝子発現プロファイルを作製した。唾液腺原基で発現の高い転写因子として
Sox9, Foxc1
を含む転写因子群が抽出された。Sox9,
Foxc1
については唾液腺発生初期より高い発現を示し、成獣唾液腺においてもその発現を維持し、2つの転写因子が唾液腺発生に関与している可能 性が示唆された。
ES
細胞から口腔粘膜までの分化誘導に関しては下垂体オルガノイドの 分化誘導方法を改変し、マウスES
細胞由来原始口腔粘膜を誘導した。誘 導8
日目のES
細胞由来口腔粘膜にアデノウイルスを用いてSox9, Foxc1
の過剰発現を行った。誘導23
日後にはES
細胞の凝集塊から外方に突出 する形で分枝構造の発生が確認された。この構造はその後分枝を繰り返し ながら増殖し胎生期唾液腺様の構造を示した。この構造は唾液腺の構成細胞である腺房細胞、導管細胞、筋上皮細胞が極性を持って配列し、胎生
18
日の唾液腺と類似した構造を示した。またRNA-seq
による遺伝子発現 プロファイルの比較では胎生15〜18
日の唾液腺に極めて類似した遺伝子 発現パターンを示すことも明らかとなり、ES
細胞由来の唾液腺様組織を、誘導唾液腺原基(induced salivary gland rudiment; iSG)と名付けた。