論文の内容の要旨
氏名:岡 村 祐 己
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:関節リウマチにおけるサブスタンスP/Mas-related gene X2を介した滑膜マスト細胞による 炎症の増悪機序の解明
背景:関節リウマチ (RA) 患者滑膜組織では脱顆粒したマスト細胞数の増加や、関節液中にマスト細胞の メディエーターであるヒスタミンおよびトリプターゼ濃度が上昇し、また RA 患者の関節液中には変形性 関節症 (OA) と比べ、有意なサブスタンスP (SP) 濃度の増加が報告されている。SPは、感覚神経より放 出される神経ペプチドであり、結合組織型マスト細胞の脱顆粒を誘導するが、RAでのSPの役割について は明らかになっていない。またSPのRAでの産生細胞としては神経細胞、滑膜線維芽細胞、単球・マクロ ファージおよびリンパ球が考えられるが、マスト細胞についての検討はない。
目的:①RAおよびOA患者の滑膜組織におけるマスト細胞がSP産生細胞となっているか検討すること。
②培養ヒト滑膜マスト細胞からのSP産生機序について検討すること。③培養ヒト滑膜マスト細胞における SPの機能的責任受容体を同定すること、の以上3点を目的とした。
方法:関節滑膜は人工膝関節置換術の際に採取し、培養滑膜マスト細胞は関節滑膜を酵素処理し、調製し た。滑膜組織と培養滑膜マスト細胞におけるSPやMrgX2の発現は、免疫組織化学染色で観察した。マス ト細胞からのメディエーターの測定は酵素免疫測定法で行った。サイトカイン、ケモカインおよびプレプ ロタキキニンⅠ (PPTⅠ) mRNAの発現はRT-PCRおよび定量的RT-PCR法で行った。shRNA技術によ りMrgX2遺伝子発現抑制を行い、SP刺激によるヒスタミン遊離やPGD2産生の検討をした。
結果:関節滑膜組織においてマスト細胞は SP を発現していた。SP陽性滑膜マスト細胞数は RA 患者と OA 患者との間に有意差はなかったが、共焦点顕微鏡での観察の結果、RA 患者のマスト細胞においては SPが細胞膜周囲に局在し、リング状に染色された。一方、OA患者ではSPはびまん性に細胞質に存在し ていた。単離した培養滑膜マスト細胞は、FcRI架橋によって活性化されると、SPが細胞膜周囲へ移行す る像が共焦点顕微鏡で観察された。またSPとトリプターゼの局在は同じであったことからSPは、顆粒に 存在していることが示唆された。FcRIの架橋刺激によって培養滑膜マスト細胞においてPPTⅠmRNA発 現レベルの上昇を認め、またSPが細胞外に遊離した。そして滑膜マスト細胞は、NK-1Rではなく、MrgX2 を介してSP刺激により活性化され、ヒスタミン遊離、PGD2産生および、IL-6、IL-8、オステオポンチン mRNAの発現が上昇した。
結論: 滑膜マスト細胞内にSPが存在することを同定し、OAおよびRA患者滑膜マスト細胞におけるSP の局在の違いを示した。滑膜マスト細胞は、FcRIを介する刺激によってSPを合成・遊離し、遊離された SPはオートクラインまたはパラクラインの機序でMrgX2を介して滑膜マスト細胞を活性化することが示 唆された。したがってSP-MrgX2を介するマスト細胞の活性化がRAの病態に関与していると考えられた。