九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
公立小・中学校における非正規教員の任用制度に関 する研究 : 教員の身分保障と専門性を手掛かりに
原北, 祥悟
http://hdl.handle.net/2324/4784388
出版情報:Kyushu University, 2021, 博士(教育学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
公立小・中学校における非正規教員の任用制度に関する研究
―教員の身分保障と専門性を手掛かりに―
原北 祥悟 HARAKITA Shogo
目次
序章 本研究の課題と方法 ... 1
第1節 本研究の目的と問題の所在 ... 1
第2節 本研究の分析枠組みと課題 ... 9
第3節 非正規教員の制度的多様性 ... 14
第1章 非正規教員問題の布置構造 ... 19
第1節 法制構造上の非正規教員の位置 ... 19
第2節 非正規教員の量的実態とその限界 ... 28
第3節 非正規教員の任用を惹起する外的要因 ... 35
第4節 小括―任用制度の曖昧さと任用実態の把握の困難さ... 39
第2章 80-90年代の非正規教員任用における「補完」の複線化 ... 41
第1節 80年代の労働市場と学校教育の課題 ... 41
第 2 節 「初任者研修」と「社会人活用」の議論にみる非正規教員への異なる「期待」 ... 42
第3節 「多様性の補完」としての非正規教員の台頭 ... 48
第4節 小括―無資格者の参入を契機とする専門職性の揺らぎ ... 54
第3章 2001年義務標準法改正による「非常勤講師」活用の導入過程 ... 57
第1節 行政システム改革の急進による地方公務員制度への影響 ... 57
第2節 教育の論理による「非常勤講師」活用の模索 ... 61
第3節 「非常勤講師」活用の看過された問題性 ... 71
第4節 小括―非常勤講師が有する専門性への「期待」 ... 73
第4章 「総額裁量制」導入過程における非正規教員の位置 ... 76
第1節 義務教育費国庫負担制度の意義の変遷 ... 76
第2節 地方分権改革要求の論理と教育の論理の矛盾 ... 81
第3節 非正規教員の任用に対する「総額裁量制」の制度的影響 ... 86
第4節 小括―ブラックボックスとしての「総額裁量制」 ... 91
第5章 非正規教員の任用傾向とその「不足」に関する一考察―福岡県を事例として .... 95
第1節 非正規教員「不足」の社会的・制度的要因 ... 95
第2節 福岡県にみる非正規教員の任用実態とその特質 ... 100
第3節 臨時免許状の発行状況にみる専門性をめぐる問題 ... 105
第4節 小括―専門性がもつ理念の後退 ... 107
終章 本研究の総括 ... 109
第1節 本研究の成果 ... 109
第2節 本研究の課題 ... 114
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序章 本研究の課題と方法
第 1 節 本研究の目的と問題の所在
(1)本研究の目的
本研究は、任用制度上「例外」であるはずの非正規教員が拡大する中で、それを正当化す る論理が積み重ねられていく過程の解明を目指すものである。
周知の通り、公立学校に勤務する教員を含めた地方公務員は、「無期」任用が原則となっ ている(地方公務員法第17条)。このことから、任期の定めのある「有期」での任用はこれ まで「例外」として理解されてきたし、今もなお「例外」として理解すべきである。それに も関わらず、非正規教員が拡大の一途を辿っていることに鑑みると、教員の任用にかかる各 主体の様々な期待が見え隠れする。本研究は、非正規教員の拡大という事態を正面から受け 止め、なぜ非正規教員が期待されてきたのかを問うものである。後に詳述するが、非正規教 員への期待を問うことは、「教員」=「正規」とする教育(行政)学の認識枠組みの転換を 迫り、教員の身分保障や専門性を内包する「教職の専門職性」概念の問い直しの必要性を提 起するものである。
(2)今日の非正規教員を取り巻く諸状況―問題の背景
周知の通り、教育行政は教育にかかわる諸条件の整備を主たる任務とする。諸条件には学 校の設置や教科書無償給与など多岐にわたるが、その中でも人的条件整備は子どもの学習 権を保障するための最も重要な事項の一つである。そのため、例えば、教員の養成(免許)
―採用―研修の各制度は、教育水準の維持・向上を意図した体系的なシステムとして整備さ れ今日に至っている。
その一方で、今日、義務教育諸学校において臨時的任用教員や非常勤講師、再任用教員な ど、有期で雇用されるいわゆる「非正規教員」と呼ばれる教員は高い割合で任用されている。
文部科学省(2012)の資料によると、2005(平成17)年度時点で8.4万人(全国教職員全 体の12.3%)いた非正規教員が2011(平成23)年度には11.2万人(全国教職員全体の16.0%)
と増加傾向にあることが示されている。教員の労働(条件)をめぐる問題も教育条件整備の 重要な論点であるものの(永井1980:p.15)、後述するように非正規教員の労働条件をめぐ る諸問題に焦点化した研究は極めて少ない。実際に生じている問題として、賃金(給料)号 給の上限設定の問題や、共済組合資格が付与されないケースは依然として存在しており、彼 らの労働/生活条件は極めて厳しいものとなっている。なお、先の文部科学省資料では、そ の増加要因として教員の年齢構成平準化による採用調整や国の定数改善計画がない(平成
18(2006)年度以降)こと、地方公務員の定員削減計画(平成18-22年の5年間にわたる
「集中改革プラン」)を挙げるにとどまり、条件整備の主体として具体的な取り組みや方針 を明示していない。
非正規教員が増加した制度的要因として、2001年に改正された「公立義務教育諸学校の
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学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下、義務標準法)による非常勤講師の定 数活用条項(いわゆる「定数崩し」)や 2004 年に導入された義務教育費国庫負担制度への 総額裁量制が挙げられている(山崎ら 2017 など)。これら制度改正は教育の地方分権を意 図して実施されたものであり、都道府県の判断で40人を下回る学級編制を可能にする弾力 化(義務標準法)や給与の種類・額あるいは教職員数を自由に決定できる(総額裁量制)仕 組みの整備は、自治体の裁量を高め、多様な教育実践の展開を促すものとなった。自治体・
学校の実情に応じた少人数学級の編制やティーム・ティーチングの実現に寄与したと評価 されているものの、自治体によっては逼迫する財政事情を背景に教員の非正規化へと舵を 切る誘因となっている。
さらに今日では、非正規教員さえ「不足」する事態が散見されるようになり、非正規教員 の任用をめぐっては新たなフェーズに突入した。具体的には、「全国の公立小中学校で定数 に対する教員の不足が、2017年度当初に少なくとも357人に上っ」ており(毎日新聞2017 年11月28日西部朝刊1面)、とりわけ福岡県では2016年9月1日時点で85人が欠員(県 教育委員会53人、福岡市教育委員会16人、北九州市教育委員会16人:小学校72人、中 学校13人)であったことが報道されている(朝日新聞2016年10月19日朝刊1社会)。 教員が不足するという事態は直接的に子どもの学習権を奪うものであるが、このような不 足を補うために臨時免許状を発行することで対応するケースが報道されている点に注目す る必要がある。たとえば、北海道では「教職員定数に対する教諭の欠員(2017 年 10 月現 在)は、札幌市を除く道内の公立小学校で1万2592人に対して36人、中学校で7,986人 に対して15人」であり、「中学校の免許所有者に『臨時免許状』を発行して小学校で教えて もらう」よう検討している(朝日新聞2018年1月17日朝刊北海道総合26面)。不足を埋 めるために臨時免許状が運用されており、免許制度によって公証されるはずの教師の専門 性が原理的に後退している懸念が看取される。すなわち、非正規教員の任用をめぐる問題は 身分保障の観点だけではなく、教師の専門性という視点も射程に入れた両にらみの議論の 必要性を示唆している。
(3)先行研究の検討―なぜ非正規教員研究は少ないのか
非正規教員問題は彼らの身分保障―労働条件や生活条件―の劣悪性にのみ注目されがち であるが、昨今の不足の事態によって非正規教員問題は単純な労働問題の域を超え、教育問 題として俯瞰的に捉えていくべきイシューである。人的条件整備を主たる任務とする教育 行政の在り方に対して批判的に検討する教育行政学研究が、人的条件の主役ともいえる教 員の任用形態に無自覚である上、本来「例外」であるはずの非正規教員の存在を等閑視して きたと言える。以下では、なぜ非正規教員研究が少ないのかという問いに回答する形で先行 研究を検討することで、非正規教員問題を俯瞰的に捉えていく。
今までの教員人事において非正規教員は、正規教員の欠員等の補充人員であり、いわば
(正規)教員人事の「補完」とみなされてきたことが、非正規教員研究がほとんど蓄積され
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てこなかった現実的な背景であると考えられる(非正規教員研究が少ない第一の理由)。で はまず、教員人事に関連する先行研究が何を対象/問題としていたのか、またその時、非正 規教員はどのように位置づけられていたのか検討する。
①教育行政学の「教員」に対する視野の狭さ
そもそも教員人事とは、教育水準の維持向上に資する人的条件を整備するための様々な 制度の総体である。つまり、教育水準の維持向上の手段としての教員の専門性を高めるため に、採用・研修・異動・評価等の各制度が構築されている。例えば、中教審答申「これから の学校教育を担う教員の資質能力の向上について―学び合い、高め合う教員育成コミュニ ティの構築に向けて―」(平成27年12月21日)では、養成・採用・研修の各段階の改革 を提示し、育成指標の策定や研修計画の全国的な構築を目指している。よりよい人材を育て、
採用し、長期的な視点で研修を実施することで、教員の専門性を高め、教育の質的向上を目 指すものである。折りしも、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の要請・採用・研修等の 在り方について」(令和3年3月12 日)が文部科学大臣から中央教育審議会に諮問された ばかりである。現在、審議中ではあるものの、基本的には「正規」教員の質的向上に資する 制度・政策的な整備が主たる論点となっていることに変わりはない。教員人事制度は教員を 継続的・計画的に育成する視点で構築されてきたものであり、「正規」で任用することを大 前提に置いていることが最大の特徴である。換言するならば、今までの教員人事制度は教員 の専門性の保障・向上を理念として掲げ、その具現化に力点を置いてきたと言える。この立 場に則れば、正規で採用することが前提となるため、あえて非正規教員を積極的に採用しよ うとする発想は生じ得ないはずである。
そのため、教育制度を主たる対象とする教育行政学においても、無自覚のまま正規教員を 前提とした議論を展開させていると言える。まず、教員人事を対象とする先行研究を概観す る。とはいえ、教員人事を総合的に取り扱った研究は、わずかに佐藤・若井編著(1992)や 川上(2013)が挙げられるに留まる。佐藤・若井(1992)は教員人事の法制や歴史的な整 理だけでなく、人事の実際として管理職人事や昇任・転任人事を明らかにしている。また、
教員の専門性や学校における教育水準の質的向上という視点から教員人事の意義や課題を 提示しようとする点に特徴がある。教員人事に関する法制の一つに「教員の身分保障の原則」
を挙げ、その重要性を論じているが、その具体には「我が国の公立小・中学校等教員の転任..
人事に関しても.......
留意すべき努力事項として位置づけられるべきもの」と言及している(p.8、
傍点筆者)。本書が刊行された時代的背景もあるが、佐藤・若井(1992)は転任人事の在り 方が教員の身分保障上の中心的な問題として捉えていた。すなわち、「正規」教員の身分を めぐる課題に焦点が当てられており、そこに「非正規」教員という存在は現れない。他方、
川上(2013)は「教員の人事制度がどのように設計・運用され、その結果教員がどのように 異動し、それが学校(教育)にどのような影響を及ぼしているのか」解明し、「教員人事行 政の成り立ちとその作用を明らかにすること」を主題としている(p.12)。どちらの先行研 究においても学校教育の質的向上に資する教員人事の在り方を志向しており、人事の実態
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を実証的なアプローチによって解明している点は共通している。
しかし同時に、人事制度の中でも昇任や転任人事に対象が傾斜しており、人事制度・人事 行政の全体像を網羅的に捉えているとは言い難い。教員人事行政とは、人的条件整備にかか るすべての制度やその営みを指すが、その中でも川上(2013)の研究は「人事異動」、「昇任 人事」に焦点を当てている。「教員人事行政の成り立ちとその作用」を解明するためには、
「正規」教員の異動や昇任だけでは不十分であろう。「正規」教員の人事行政の裏では、常 に非正規教員の任用が行われているからであり、非正規教員による「補完」機能も含めて教 員人事行政を捉えなければならない。たとえば、4月から新たに採用した初任者の配置に連 動するように、初任者代替として非正規教員を同一の学校に配置しなければならない。また、
人口の流動性が高い地域の学校では、その動向によっては突発的な欠員は生じやすい。この 欠員をいかに補充していくかも教員人事行政に課せられた重要な任務である。佐藤・若井編 著(1992)、川上(2013)は、昇任や転任人事を対象としているがゆえにその教員は「正規」
で採用された者に自ずと絞られる。非正規教員の昨今の状況に鑑みると、非正規教員の任用 の在り方も学校教育の質を大きく左右する人事上の変数となり得ている事実と向き合わな ければならない。
さて、教員人事制度は養成―採用―研修といった非常に広範な諸制度の総体を指すのは 周知の通りである。非正規教員の任用は、正規教員の欠員補充という「例外」に本来限られ ることを踏まえると、誰をどのように採用するかという「採用制度」との関係性はとりわけ 強い。教員採用の動向に応じて、非正規教員の任用の多寡に影響が及ぶからである。したが って、採用制度に関する先行研究の動向にも目を向けておく。前田(2017)は教員採用制度 に関する研究蓄積の乏しさに言及しながら、教員採用制度研究を 4 つに類型している
(p.138)。それは、①就職差別問題に関する研究(主に1960年代~1970年代)、②教員の 需要―供給関係に関する研究(1980年代~1990年代)、③情報公開に関する研究、④「選 考方法の多様化」に関する研究(1980年代~2010年代)である。①については、個人の思 想等で不採用になることをめぐる問題性を突くもので、思想統制への危機感や教員採用試 験の公正性を問うことが主題となっている。②の教員需給については、山崎博敏の一連の研 究が代表的である(1998、2014など)。各都道府県の詳細な統計分析が行われており、出生 数、児童生徒数、教員数、退職者数等の変数から推計が導かれている。また、教員の安定的 な供給―計画的な教員養成の難しさとそれへの対応についても考察されている。この難し さの中に、非正規教員の任用の在り方も変数に入れ込み検討しなければならないが、山崎の 問題関心とは異なるがゆえに十分に言及されていない。③、④においては、より良い「正規」
教員を採用するための選考の公正性・基準性をめぐる問題性や、なぜ多様化したのかを問う もの等であり、正規/非正規という任用形態には関心が向けられていない。「正規」教員の 採用には様々な視点から重要な論点が提出されているにもかかわらず、非正規教員の任用 はまさに「例外」として捨象されている。非正規教員の任用は確かに「例外」であるが、今 日の任用状況に鑑みると、任用の是非も含めた採用プロセスの透明性や公正性に関する論
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点が提示されてもよいはずだが、その任用自体がブラックボックスのまま今に至っている。
このように教育行政学は、戦後以降、教員を「正規」であると限定的に捉え、非正規教員 を無自覚のままその対象から排除してきたと言える。とりわけ教員=「公立」に「正規」と して勤務している者という認識が強く、その下で研究知見が蓄積されてきた。これは教育学 研究の教職に対する関心の低さ(油布2009:p.8-9)にも要因があると思われる。本来、教 員は一枚岩ではなく多様であるはずだが、教育行政学研究の視点が、教員=「正規」の認識 に留まっていることが、非正規教員研究の乏しさにつながっていると思われる(非正規教員 研究が少ない第二の理由)。
しかしながら、現実問題として非正規教員の拡大が確認でき、各主体(国、文科省、各県 各市教育委員会等)もこの事態を無視できないものとして認識し始めている。学校によって は全教職員の 2-3 割を非正規教員で占めることも珍しくないことからも窺える通り、正規 教員の「補完」として非正規教員の任用をみなすことが現実的に難しくなってきたと言え、
教育行政学における視点の転換が求められている。「正規」が「当たり前」の認識のままで は、非正規教員の任用実態は「例外」や「必要悪」としか評価できないため、非正規教員を めぐる任用制度を内在的に検討しなければいけない。
②非正規教員研究における理論枠組みの不在
そこで、以下では非正規教員問題に言及した数少ない研究をみていく。非正規教員の任用 をめぐっては、非正規教員の身分保障上の問題(労働条件、生活条件等)や任用制度上の「例 外」が拡大解釈されていることへの疑義が指摘されている。
まず、学校組織との関わりの中で、臨時的任用教員は長期的見通しの下での力量形成の対 象とはなりにくい点(臼井2016:p.5)や、職員会議における発言が実質的に保障されてい ないことが指摘されており(前屋2017:p.96)、「非正規」という任用形態ではあるが、教 員として保障されるべき身分が学校組織内部で蔑ろにされている一端を確認することがで きる。また、学校組織内部において非正規教員は「お客様扱い」される一方で、必ずしも自 分自身の仕事ではないものを引き受けざるをえない立場にあることが当事者へのヒアリン グから明らかにされており(前屋2021:pp.49-60)、ある種の「都合の良い」教員として認 識されていることが看取される。なお、非常勤講師の配置状況と学校・教員の業務量の多寡 に関して量的な分析を行った青木・神林(2013)の研究によると、非常勤講師の配置が必ず しも学校・教員の業務を軽減するとは言えず、両者には相関がないことが示されている
(p.164)。この結果は、非正規教員が研修の機会に恵まれておらず、学校組織内部の中で相 対的に劣位に置かれていることと深く関連している可能性も示唆され、研修の有無や非正 規教員の置かれている状況等を変数に加えた更に詳細な分析が待たれる。
次に、非正規教員としての生き方(キャリア)に着目した研究もある。たとえば、正規教 員になるために「将来へのリスクを覚悟しながら、不安定な非正規教員の身分を経」ること が当然のキャリアとなりつつあることから、身分の不安定性に懸念を示すものや(金子
2014:p.43)、非正規教員はやりがい・高給・浪人ネットワークといった資源を獲得するこ
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とで「非正規の過酷な現状を受け入れようとする」(上原2016:p.80)ことが指摘されてい る。また、非正規教員自身が昇給や賞与面において正規教員との格差を実感し、不公平感を 抱いている点も示されている(三上ら2016:p.124)。これらの先行研究は、非正規教員の 身分や待遇に関する重要な論点が提示されているものの、「その問題自体があまり認知され ておらず、臨時教員の増加と労働条件に対して、行政・司法そして学問研究のいずれの分野 においても、有効な規制や改善があまり検討されていない」点が指摘されている通り(三宅
2013:p.102-103)、十分な関心を集められていない。とりわけ学問研究の状況は今日にお
いても状況は変わっておらず、非正規教員の存在自体が等閑視されていると言わざるをえ ない。他方で、非正規教員(あるいは、臨時的任用や非常勤講師等)を表題に冠した各種団 体による報告書はいくつか公表されており、同僚や上司等から直接/間接差別を受ける事 例やハラスメントの事例等をはじめとする当事者のリアルが生々しく記述されている(た とえば、全労連2019『非正規公務員酷書』)。これら先行研究・報告書は、非正規教員の不 安的な身分に起因する苦悩を詳らかにした点で有用な知見であるものの、身分や待遇にの み焦点を当てているが故に、その多くが一般労働市場におけるそれと同様の問題を明らか にしたに留まっているという課題を抱えている。
非正規教員を労働者の側面から問題提起するのではなく、非正規教員問題を教育行政や 教育法制の問題として位置づけようとする研究も散見される。土屋(2017)によると、今日 の非正規教員は、教育や労働法制の改編とともに、いわゆる「三位一体改革」、義務教育費 国庫負担制度の改悪、総額裁量制の導入を主たる要因として、政策的に増やされ........
て. いる..
こと を指摘し、この状況を「臨時教員制度の新局面」として位置づけている(p.604:傍点筆者)。 労働条件が劣悪であることに加えて、教師としての地位向上、諸権利の確立を重要な課題と して提示している(p.610)。教師の安定的な身分保障、諸権利保障は子どもの学習権を保障 するための仕組みであり、その意味において労働条件の低下は教育行政や教育法制の問題 として引き取らなければならないテーマである。山崎ら(2017)の研究も土屋の指摘に概 ね沿うものであり、非正規教員の増加の理由として「公務員削減方針と『教育改革』に対応」
するためであることと、「労働法制の抜け穴と法改悪」によるものとして制度的な要因を指 摘している(p.106-108)。また、山崎(2021)の論考によると、自治体裁量による少人数学 級制の拡大が非正規教員の増加に深く関わっていることが示されており(p.136)、これを
「『地方分権』の成果として容認することはできない」と強く批判している(p.137)。 さて、土屋や山崎らが指摘している通り、非正規教員と地方分権改革は深く関連している。
そこで、これより教育の地方分権改革を対象とした先行研究の検討にうつる。先に結論を端 的に示すと、これら先行研究の特徴は、非正規教員の任用に対して具体的な評価を避けたり、
もしくは地方分権の具現化の一つとして位置付ける傾向にある。ただし、それはあくまで地 方分権改革が主たる分析対象であることによる。以下、具体的に検討していく。非正規教員 の任用を含む教職員の配置はつまるところ財政制度と密接に関連していることもあり、財 政改革が教育の地方分権改革の主たるテーマとなっている。とくに、義務教育費国庫負担制
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度の改廃をめぐっては多くの先行研究の蓄積がある。たとえば、義務教育費国庫負担制度を めぐる論点や争点を整理した研究(窪田2005)や総額裁量制導入によって義務教育に関す る財源の安定的な確保が可能なのか検証した研究(渡辺2005)等が挙げられる。この改廃 の議論をめぐって、国による財政保障が後退する懸念は教育学全体に共有され、日本教育学 会が2005年に「緊急特集 義務教育の危機」を組んだことはその証左であろう。教育財政 の観点から教職員配置の議論が展開されており、それに対して、非常勤講師等の配置による 少人数学級の実現は各自治体の「財政的な工夫」の結果でしかなく、学級編制の弾力化の「裏 づけとなる財政措置がない」点が問題として指摘されている(清原編著2002:p.101)。こ のように財政制度の問題への指摘は多いものの、非正規教員の身分や地位との関わりから 論究する研究は極めて少ない。そこには、“財政的な保障がないのだから非正規教員の増加 は仕方がない”という、いわば「必要悪」としての前提認識が窺える。すなわち、非正規教 員の増加は、教員の身分保障を劣位に置き、ひいては子どもの学習権を侵害しうる深刻な問 題であるため、人的条件整備のための適切な財政保障をすべきという立場から論究されて いないのである。「非正規教員の増加」という事象に対しては、青木(2013)は少人数学級 編制の政策過程を分析することが主たる課題であるため、「非正規雇用教員の増加の是非の 議論については本書では行わない」としているし(p.62)、入江(2005)は地方分権による 義務標準法改正が可能にした非常勤講師等の活用に対して、「学級編制と教職員の配置が学 校現場に応じて弾力的にできるようになった」と表現するにとどめている(p.22)。教育の 地方分権研究は、自治体裁量による政策選択が拡大したことを踏まえ、自治体による主体的 な政策立案への関心の高まりや自治体独自の教育改革事例を分析することに積極的であっ た反面、その政策の実現を支える教員人事(誰をどのような身分で任用するのか)への着目 は十分ではなかったと言える。
教育の地方分権改革に関する先行研究の傾向をまとめると、大きく二つの認識を看取す ることができる。一つは、非正規教員の置かれている労働環境や待遇等の劣悪性を指摘する グループであり、もう一つは非正規教員の任用の是非を示さず、教育の地方分権が具現化さ れた一つの姿としてその事実を記述するグループである。非正規教員に関する研究は、その 任用の是非を表明する/しないことが明確に分かれることが特徴的であると思われる。そ の背後には、教育の地方分権改革の文脈から非正規教員を捉えることの困難性が指摘でき る。地方による主体的な教員配置・学級編制は地方分権(あるいは地方自治)の理念に照ら すとポジティブな評価を与えられるべきである一方で、新たに配置される教員が非正規教 員であるときに教員の身分保障原則との対立関係が立ち上がり、途端に論争的になる。ゆえ に、教育の地方分権を主たる対象にした研究の多くは、議論の錯綜を避けるため非正規教員 問題に(あえて)言及しないのである。そのため、非正規教員問題を学術的に捉えるための 理論・分析枠組みが十分に構築されていないのである。また、非正規教員に関する問題に言 及している研究の多くは、非正規教員問題の事実やその問題性を明らかにするにとどまっ ていることが指摘できるだろう。
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なお、近年、非正規教員の実態を詳らかにしようとする実証研究が少しずつ取り組まれ始 めている。山田・和井田・藤田(2021)は、非正規教員の現状や課題を整理することを目的 に、非正規教員問題の歴史的変遷として4つの時代に区分している(日本教育学会第80回 大会発表資料)。それは、第一に「雇用者都合による抑圧の時代(1960年~)」、第二に「団 体交渉と闘争の時代(1970年~)」、第三に「規制緩和と量的拡大の時代(2000年~)」、第 四に「待遇改善と質保証の時代へ(2020年~)」である。時代ごとに非正規教員自身がいか なる問題と対峙していたのかという視点から整理された歴史的区分であり、教員の身分保 障をめぐる問題を検討するうえで示唆的である。また、佐久間・島崎(2021)は、地方分権 改革の帰結として教員の非正規化と教員未配置が生じたことを独自の調査資料に基づき明 らかにしている(日本教育学会第 80 回大会発表資料)。特に、教員未配置については第一 次、二次、三次と3つに区分したうえで、それぞれの特徴を示している。第一次未配置は、
少子化等による欠員・産育休・病休の増加によって生起し、第二次未配置は臨時的任用教員 の需要が高まり、それに対応する供給量が不足したために生じたとしており、第三次未配置 として臨時的任用の代替としての非常勤講師が不足する事態を指している。地方分権改革 の帰結として教員の未配置問題を論じており、本研究の問題関心とも深く関わるものであ る。佐久間・島崎(2021)の研究によると、非正規教員の増加は、様々な事情(地方分権改 革はもとより、産育休や臨時的任用の需給バランスの崩壊、免許更新制による免許失効、特 別支援学級の増加等)による複合的な帰結として捉えており、非正規教員の増加という事実 を分析するうえでは重要な視点である。しかしながら、それは事実として整理するに留まっ ており、なぜ本来的には「例外」である非正規教員の任用が正当化されてきたのか、その制 度・政策的な論理構造には言及していない。また、山田・和井田・藤田(2021)の研究とも 共通しているが、両者の研究視点は非正規教員の量的あるいは質的な実態からそこにおけ る問題性を明らかにしようとするものであり、非正規教員の拡大メカニズムを問うことに は一定の限界があるように思われる。なぜならば、上記のような非正規教員の実態の側から のアプローチでは、増加要因の一つとして地方分権改革を取り上げるにとどまり、非正規教 員の拡大と地方分権改革の関係性が単純化・矮小化される恐れがあるためである。
戦後以降の教員法制の理念―身分保障と専門性―に照らせば、非正規教員を政策的に増 やす選択肢は論争を生んだり、もしくは棄却されるはずであることを勘案すれば、非正規教 員の任用制度改正過程には複雑な力学が働いた可能性が考えられる。それにも関わらず、非 正規教員拡大の制度・政策メカニズムは不問に付されており、いかなるプロセスを経て今日 の拡大状況に至ったのか十分に検討されていないのである。以上から、今日の拡大状況に至 った理由を新自由主義的な教育政策(規制緩和や地方分権改革)に求めることはいささか単 純な理解であると思われる。なぜならば、そこには新自由主義的な教育政策と矛盾するよう な教員法制の理念―身分保障と専門性―が存在しているためである。たしかに、教育の地方 分権政策によって非正規教員が増加したという関係性は非正規教員問題を語る上で通説的 な理解となっており、実際にも非正規教員が増加してもおかしくない制度・政策メカニズム
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になっている。ただし、これは戦後以降の教員法制が目指してきた理念―身分保障と専門性
―には矛盾するものである上、このような状況が生じているにも関わらず先行研究はその 矛盾に十分に着目してこなかった。したがって、非正規教員は理念と政策の矛盾の中に置か れたのにも関わらず、なぜ拡大しているのか、また拡大する中で教員法制の理念―身分保障 と専門性―はどのように語られてきたのか検討する必要がある。本研究では、戦後以降の教 員制度の理念の変質に伴って、非正規教員が拡大したものとして捉え、その理念の変質過程 における論理の積み重ねを解明することを目指す。したがって、非正規教員の拡大プロセス を分析する視点として、以下では教員の身分保障と専門性に関する議論を参照する。
第 2 節 本研究の分析枠組みと課題
前節では、非正規教員研究がこれまで十分に蓄積されてこなかった理由の一つとして、教 員の多様性に対する視点の欠如を挙げた。そのため、これから参照する教員の身分保障と専 門性の議論も正規教員が前提に置かれたものであることに留意する。
以下ではまず、教員の身分保障と専門性の関係性について整理しておく。身分保障は主と して教職の専門職性研究の中で「地位」論として展開されてきた。神田(1972)が指摘して いる通り、教師は教育を中心的・具体的に担うがゆえに「自らの地位を含めた諸条件が保障 されなければならない」(p.116)。これは教職の特殊性の一つとして理解すべき事項であり、
兼子(1969)も教師の労働条件はその教師の生活条件であると同時に「教育条件」であるこ とを指摘している(p.34)。なお、兼子の言う「教育条件」とは、教育がより良く行われる ための「前提条件」である。また、教育公務員特例法の前身にあたる教員身分法の制定過程 において、教員の身分保障の本質は教員による「教育の自主性」保障であり、国の民主主義 実現に不可欠であるという認識に基づき議論されていたことが指摘されている(北神1982:
p.62-68)。周知の通り、教員身分法が制定されることはなく公務員制度のなかに組み入れら
れた教育公務員特例法として成立することになるが、教員の教育・学問の自由、教育権の独 立を志向する原理としての身分保障は、子どもの学習環境を整える教育条件整備の一環で あることに変わりはないと解する必要がある(嘉納1994:p.101)。要するに教員の身分保 障は、「子どもの成長・発達権に照応しうる教育の専門的自律性を保障する仕組み」(高橋 2013:p.203)である。以上から、教員の身分保障と専門性の関係性は、身分保障を何より の前提に置き、それを土台として専門性の向上を目指すべきとする従属的な関係である。こ の枠組みに基づく教職の専門職性研究が求められる。
しかしながら、このように教員の身分保障は子どもたちの学習権にとって不可欠な概念 として位置づけられているにも関わらず、身分保障に関する研究は低調であった。この傾向 に関して、今津(2017)は「地位」論から「役割・実践」論への移行を指摘している(p.46)。 身分を保障し専門職として確立していくことが一種の権威主義的なニュアンスを内包する ものとして批判されるに伴い、「脱専門職化」論のもと教師による専門性(専門的な力量)
の内実やその向上に焦点が当てられるようになったのである。こうした移行により、教師に
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求められている資質・能力や必要な研修システム、またはその内容など多岐にわたって専門 性論は展開されているものの、そこには「正規」で雇用されていることが前提として構築さ れていると言える。「地位」論≒いわば教員の身分保障に関する研究が低調となったことが、
非正規教員をめぐる問題への学問的なアプローチの乏しさの遠因となっていると思われる。
このような研究上の移行に逆行するような非正規教員の拡大状況に鑑みたとき、教員の 身分保障という根幹が崩れていく只中にあり、改めて身分保障と専門性をめぐる関係性を 問い直していく必要がある。福島(2008)が指摘しているように、戦後の教育行政学は教育 行政からの相対的な自律性確保のために教師の地位論(≒身分保障論:筆者注)を展開して きた(p.53)。そして、その身分保障に基づき、専門性の向上を目指してきたのである。こ の観点に立てば、非正規教員は身分が極めて不安定であり、研修制度の対象から外れている だけでなく、試補制度的な機能を果たしているとの指摘もある(神田・土屋1984:p.120)
ことから、身分保障とそれに基づく専門性が奪われている象徴として注目されるに値する 存在であるはずだが、これまでの先行研究が非正規教員問題に十分な関心を払ってこなか った点は奇妙にうつる。
他方で、教師の専門性やそれをめぐる状況の内実を明らかにしようとする研究は多く蓄 積されている。その中でも、たとえば、浜田編著(2020)は「教職の専門性」が、今日の学 校ガバナンス改革の中において相対的に劣位に置かれているとの問題関心から、教職の専 門性をめぐる状況の内実を解明している。ここにおける「教職の専門性」とは、「学校の教 員という職業に不可欠で、かつ他の教育関係の職業に求められるものとは区別される固有 の見識・知識・技能の総体」(浜田編著2020:p.10)であり、本研究における専門性という 用語とほぼ同義である。浜田編著(2020)による研究は、保護者・地域住民の学校運営への 参加・参画や学校管理職への「民間人」等の登用の制度化等といった各種制度改革が「脱教 職化」へと進行させ、「教職の専門性」概念を従来のように自明なものとして位置づけるの が困難になっているとする問題意識(pp.2-6)から議論がスタートしている。本書の大きな 特徴は、「教職」の専門性を「教育」の専門性と対比させることで、「教職の専門性」を見定 めようとする視点と、それによって「教職の専門性」の正統化装置を模索した点にある。事 例研究の結果、「教職の専門性」の劣位化は実証されなかったとしている一方で、教員の意 識として教職の専門性の「矮小化」が内在している傾向・可能性(=非「教職の専門性」と は異なるものを有しているとして、逆説的に自己の存在意義を表明しようとする事実)を明 らかにしている(p.204)。この明らかになった点を踏まえ、教職の専門性の内実が「はたし て誰によって、何を根拠に、どのようにして正統化されうるのか」(あるいは、されるべき なのか)に関して、十分な議論の蓄積がない点を指摘している(p.204)。まさにこの議論の 蓄積の乏しさこそが、非正規教員の任用拡大につながった理論的な問題であり、後述するよ うに専門性概念が曖昧であるがゆえにその時々の政策に合致するように概念解釈が多様に 付せられていく。ただし、浜田編著(2020)の議論は、〔教職アクター/非教職アクター〕
という枠組みの中から「教職の専門性」の相対的劣位性を論じようとしたものであり、非正
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規教員の任用拡大の状況から捉えようとした場合、教職アクターの「内部」から教職の専門 性が切り崩されている可能性が想起されるのである。すなわち、専門性研究では教職アクタ ー内部の多様性(非正規教員の存在)が単純化されていると言える。
さて、非正規教員問題を分析する上で、教員の身分保障、専門性に関する議論はそれぞれ に課題がある。まず、専門性に関する研究は、専門的な力量の内実やその向上のための条件 整備の在り方等を検討することが主眼に置かれており、教職の身分保障は常に前提視され ている。つまり、正規教員を前提とした研究が進められている。他方、身分保障に関する研 究は、教職の身分を不安定にさせる諸要件の分析や批判が目指されているため、非正規教員 問題はすでにあるものとして捉えられ、非正規教員の待遇改善や正規化というある種単純 な解決策が提示されやすいことにある。このように、教員の身分保障と専門性に関する研究 はこれまで独立して蓄積されてきたと言える。それに対し、本研究はこの独立した 2 つの 視点を架橋する立場を取る。それによって、非正規教員に関する研究の少なさや運動論的な 主張が先行するという現状を乗り越える試みとしたい。
その際、①「非正規」教員の多様性に対する視点の欠如と、②「教育の質保証(教育水準 の維持向上など)」概念の曖昧さ、の 2 点を射程に入れる必要がある。まず前者について、
既述した通り、そもそも教員=正規と限定的に捉えてきた従来の教育行政学では、非正規教 員は「例外」や「必要悪」としか評価できない。また、数少ない非正規教員研究の場合にお いても、教員を正規/非正規の 2 項対立的な構図で捉えており、非正規教員の多様性を単 純化しているため、非正規雇用に伴う労働条件の劣悪性にのみ傾斜した批判が展開されて いる。当然ではあるが、非正規教員は臨時的任用や非常勤講師、再任用教員など任用形態だ けみても多様なうえ、教員採用試験合格を目指す若年層から働き方の一つとしてパートタ イム・非常勤を積極的に希望する層、長期間の非正規歴を有するベテランの者まで非正規教 員として勤務する者の事情・背景は多岐にわたる。このような非正規教員の多様性を都合よ く取り出して(あるいは抜きにして)語られるため、非正規教員をめぐる諸問題は経験論や 印象論、あるいは放言的なものまで多様化の様相を呈している。前節で述べたように、少人 数学級の編成やチームティーチングの実現など多様な教育実践に寄与し、教育の質的向上 が図れたと肯定的な評価をする向きは存在しているし、新自由主義的な教育政策の渦中で は仕方がないもの=「必要悪」として認識されたり、「教育に臨時はない」として断固とし て非正規雇用を許さないとする主張などがその代表例であろう。なお、詳しくは本研究を通 して論じていくが、「多様である」という単純な認識枠組みが、非正規教員の任用の正当化 を促す要因の一つとなっている。
次に後者について、教員人事制度の観点からいえば、教員の養成(免許)-採用-研修と いう体系的なシステムに基づき、教育の質保証が図られてきた。教員人事制度の体系性は、
まさに教員の身分保障を原則に置き、継続的・計画的に専門性向上の機会を準備するもので あり、この体系性を根拠に教育の質保証を図る意図がある。しかし、その体系性の高さが教 員の専門性を画一的なものに落とし込み、柔軟性を欠くものであるとしてどの程度教育の
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質保証に資するのかという疑義も散見される。そのため、教育の地方分権改革の観点から、
自治体発の教育政策である各自治体・学校の実情に応じた多様な教育実践(ティームティー チングや少人数授業・学級など)の展開こそが教育の質保証に資するとして肯定的に捉えら れている向きもある。教育の質保証をいかに理解するかによって教員の任用の在り方も変 わってくる。ここに、非正規教員の任用拡大の正当化論理が潜んでいると思われる。
以上から、教員の身分保障―専門性の関係性に対して、非正規教員問題が提起するものは、
多様な非正規教員が存在するからこそ身分保障と専門性の理念は一枚岩ではないし、揺ら ぐことが十分にあり得るということであり、また、その揺らぎの引き金となったものが教育 の地方分権改革なのである。身分保障と専門性は理念であるはずだが、非正規教員を対象と した途端にそれは一気に脆いものへと変質してしまう。換言するならば、非正規教員の身分 保障や専門性に対しては、どのような解釈も可能となっているのである。たとえば、教員採 用試験の合格を目指す若年層には「非正規教員も良い経験である」として身分保障の必要性 を棚上げできるし、主たる生計者ではないパートタイム希望者も待遇の優先度は必ずしも 高くはない分、身分保障に関する問題は問われずに済む。また、再任用教員は身分保障が十 分でなくとも高い専門性を期待できる等、その時の制度・政策が都合の良い解釈を付与する ことのできる性質を有しているのである。特に、地方分権を推進していく時には、正規だけ で構成されていた従来の教職員集団に対して、新たに非正規教員を組み込むことによって 生まれる「組織の多様性」こそが多様な教育実践の展開を可能にし、教育の質保証に資する とする「言説」すら成立しているようにみえる。必ずしも「組織の多様性」が教育の質保証 に資するとは言えないが、あたかも質保証につながるかのような論理を構築できることに 問題の本質がある。したがって、非正規教員の任用制度をめぐって身分保障と専門性といっ た理念がどのように解釈されてきたのか分析する必要がある。すなわち、非正規教員の任用 という「例外」がなぜ・どのように正当化されてきたのか、身分保障と専門性の2つの視点 を紐づけながら解明する。これは、非正規教員だけの問題ではなく、教員全体の身分保障―
専門性関係の問い直し、ひいては教職の専門職性研究の再構築を促すものである。
さて、非正規教員の拡大状況に鑑みたときに、なぜ非正規教員は「期待」されてきたのか を問うことは、「教員」=「正規」とする教育学の認識枠組みの転換を迫るものであり、教 員の身分保障―専門性関係を問い直す必要性を提起するものである。したがって、本研究で は、任用制度上「例外」であるはずの非正規教員が拡大する中で、それを正当化する論理が 積み重ねられていく過程の解明を目指すものである。よって、身分保障・専門性の2つの視 点を手掛かりに、非正規教員の拡大過程における制度・政策的特質を明らかにする。具体的 には以下の課題にアプローチする。
まず、非正規教員問題の布置構造を示す。本来「例外」であるがゆえに、非正規教員の任 用制度それ自体が極めて曖昧なまま今日まで運用されてきた。いかなる「制度」がどう曖昧 であるのか、その全体像を把握する。また、非正規教員の任用拡大は制度・政策的な要因だ けでなく、たとえば、「例外」としての任用=欠員の拡大にも影響を受けており、教員年齢
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構成を平準化するために、あえて欠員を発生させる場合もある。また、初任者や病気休職者 等の増加も非正規教員の任用を拡大させる要因にもなっている。制度・政策にのみ傾斜する のを可能な限り避け、非正規教員の任用のリアルに迫る。
次に、非正規教員の任用という「例外」規定が、教育改革の名の下で拡大解釈されていく 過程を分析する。臨教審答申以降の 80-90 年代に着目すると、様々な理由を根拠に本来欠 員の補完としてのみ機能していた「例外」が複線化していく様子が見て取れる。社会人を活 用することが学校教育の質保証に資するという考えや、初任者研修の充実のためにその代 替として非正規教員が必要であるとする論理、「多様な教育実践」という政策アイディアに 利用されることになる。教員法制の理念に立てば棄却される制度案がおよそ無批判に導入 されていく過程には、いかなる論理が立ちはだかっていたのだろうか。非正規教員の任用制 度が曖昧であることが起点となり、「例外」規定に「風穴」が開いていく過程とその論理を 考察する。
三点目に、非正規教員の任用が法制的に正当化された2001年義務標準法の改正過程を分 析する。「定数崩し」がなぜ・どのように導入されたのか、身分保障・専門性の観点から分 析すれば、再任用教員を非正規教員の代表的存在として主張することで身分保障と専門性 をめぐる諸問題を回避しようとする動きが確認できる。また、学習指導要領の改訂に対応す ることを理由に「定数崩し」が正当化されていく過程も併せて確認できる。本来、今ある人 的資源を前提にした上で、学習指導要領の要請に対応していくべきであるが、学習指導要領 の要請に対応するために人的条件整備を切り崩していくという逆行するベクトルを指摘す る。
四点目に、義務教育費国庫負担制度に「総額裁量制」が導入された過程に着目する。「総 額裁量制」の導入に際して、教員の身分保障や専門性がいかに語られていたのか分析する。
すでに「定数崩し」が導入されていることも相まって、非正規教員の増加≒身分保障をめぐ る論点が提示されるものの、ティームティーチングや少人数学級を各自治体の判断で実施 することが教育の質保証に資するとする論理によって等閑視されていく。他方、教育財政の 観点から、非正規教員の身分保障や専門性がどのように保障しようとしていたのか/いな かったのか資料等を用いて分析すると、必ずしも非正規教員の待遇が劣位に置かれていた わけではなく、最低限度の身分保障を目指す仕組みが看取される。
最後に、今日における非正規教員の任用傾向、とりわけ非正規教員の不足を臨時免許状の 発行によって対応している実態を考察する。非正規教員の任用が多様な教育実践を実現す るための手段として制度化されてきたが、その帰結として非正規教員「不足」が顕在化する こととなる。教員の不足は直接的に子どもの学習権を侵害する深刻な問題を立ち上げるも のであり、適切な人的条件整備の抜本的な対策・対応が求められるが、実際には「臨時免許 状」の発行による弥縫策が採られ、事実上「無資格」の非正規教員の任用が拡大していくこ とになる。教員法制の所期の理念である身分と専門性の保障の在り方に立ち返る必要性を 提起する事実として考察していく。
14 図序-1 本研究の分析枠組み
以上の検討を通して、身分保障と専門性を手掛かりに、非正規教員の拡大過程における制 度的な特質を明らかにする。これは、これまで非正規教員の問題を身分保障論として捉えて いた先行研究に対し、専門性という視点とともに検討することで教育条件としての人的条 件整備の方向性を示すことになると言える。なお、本研究の全体像は以下の通りである。
図序-2 本研究の全体像
第 3 節 非正規教員の制度的多様性
後述するように非正規教員は様々な法的根拠に基づき任用されている。折しも、2017年 5月の「地方公務員法及び地方自治体法の一部を改正する法律」によって、2020年4月よ り会計年度任用職員という職が新たに登場したばかりである。非正規教員の任用形態は多 様・複雑であり、ややもすれば自治体独自の運用がなされている可能性も否定できない。そ
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のすべてを拾い上げ整理することには限界があるため、あくまで制度的に位置づく非正規 教員の類型を提示する。
①臨時的任用(常勤講師)
非正規教員の中で多くの割合を占めているの任用形態が臨時的任用である。以下の地方 公務員法第22条の3に基づき、臨時的任用は行われる。
人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めると ころにより、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職 に関するとき、又は採用候補者名簿(第二十一条の四第四項において読み替えて準用す る第二十一条第一項に規定する昇任候補者名簿を含む。)がないときは、人事委員会の 承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、
任命権者は、人事委員会の承認を得て、当該臨時的任用を六月を超えない期間で更新す ることができるが、再度更新することはできない。
地方公務員は任期の定めのない任用が原則であるが、地方公務員法第22条の3の通り臨 時的任用を例外的に任用することができる常勤(フルタイム)の職である。それは①緊急の とき、②臨時の職に関するとき、③採用候補者名簿がないとき、の3つの場合に限られてい る。一般的に①緊急のときとは怪我や病気等による代替であり、②臨時の職とは産休・育休 あるいは研修等による代替を指す。同法によれば任用期間は 6 か月である。更新も一度に 限っており、それも6か月を超えない範囲であるため、最長 1年を超えない任用期間であ る。しかしながら、その実態としては「再度の任用」の解釈の下、繰り返し任用されている
(上林2015:p.52-53)。
②非常勤講師
非常勤講師についても臨時的任用と並んで多く任用されている任用形態である。非常勤 講師とは臨時的任用(常勤講師)とは異なり、いわゆるパートタイムの勤務形態であり、小 学校では専科教員(算数・理科・音楽など)や少人数指導のために任用され、中学校では授 業時数の少ない教科(技術や家庭科など)の担当として任用される傾向にある。その任用根 拠は曖昧であり、地方公務員法第3条3項3号や第17条に基づく任用となっている。3条 3項3号は特別職に関する条文となっており、「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱 託員及びこれらの者に準ずる者の職(専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であ つて、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行 うものに限る。)」として特別職非常勤講師に任用している。この条項による任用は地方公務 員法が想定していないとして、17条(任命の方法)「職員の職に欠員を生じた場合において は、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれかの方法により、職員を任命すること ができる。」を根拠に一般職非常勤講師として任用しているケースも存在している(山崎ら
2017:p.109-110)。なお、2020年4月より非常勤講師は原則的にすべて会計年度任用職員
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として法的な位置づけが変更となり、今日では特別職の非常勤講師は原則として存在して いない。
③会計年度任用職員
会計年度任用職員制度は、2017年5月に公布された「地方公務員法及び地方自治法の一 部を改正する法律」が2020年4月1日より施行されることで新たに創設された(地方公務 員法第22条の2)。会計年度任用職員は勤務時間に応じて、フルタイムとパートタイムの2 つの類型が設けられており、従来の非常勤職員、臨時的任用職員の多くが当該制度の枠組み に吸収されることとなった。法改正の趣旨は、地方公務員の臨時・非常勤職員の増加傾向に あり地方行政の重要な担い手となっているため、またその一方で、適正な任用・勤務条件の 確保に課題があったためであるとされる(総務省自治行政局公務員部長通知「地方公務員法 及び地方自治法の一部を改正する法律の運用について」(平成29年6月28日総行公第87 号、総行給第 33 号))。よって、フルタイム・パートタイムともに期末手当などの諸手当、
年次有給休暇などの休暇等が一定程度取得可能になっており、臨時・非常勤職員の身分保障 が制度的に裏付けられたと言えよう。しかしながら、留意すべき点として、地方公務員制度 は任期の定めのない任用が原則であることから、本制度を臨時・非常勤職員の地位(身分や 報酬など)向上に寄与したと一概に評価することはできない。総務省自治行政局公務員部
(平成29年8月)「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第1版)」 によると、職務内容や勤務形態等に応じて、「任期の定めのない常勤職員」、「任期付職員」、
「臨時・非常勤職員(会計年度任用職員、臨時的任用職員、特別職非常勤職員)」の3つの いずれかに位置づけることを求めており(p.6)、有期での任用を制度的に正当化しているも のとして捉えられる。
なお、会計年度任用職員制度は施行され 1 年程度の運用実績であり実態を把握すること は時期早々であろう。ただし、学校現場においては非常勤講師が会計年度任用職員(パート タイム)に切り替わったものの、従来の臨時的任用は引き続き「臨時的任用」で任用されて いる点を踏まえ、今後の制度運用を注視していく必要がある。
④定年退職者の再任用
再任用制度は、公的年金の支給開始年齢が2001年4月より引き上げられることに伴い導 入された制度である。地方公務員法第28 条の4に基づき、「一年を超えない範囲内で任期 を定め、常時勤務を要する職に採用すること」が可能であり、フルタイム勤務になる。また、
同法28条の5に基づき、「一年を超えない範囲内で任期を定め、短時間勤務の職(当該職 を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間が、常時勤務を要する職でその職務が当該 短時間勤務の職と同種のものを占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時 間であるものをいう。以下同じ。)に採用すること」が可能であり、短時間勤務になる。要 は、再任用教員にはフルタイムと短時間の2つの勤務形態がある。
⑤任期付任用
任期付任用とは、「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用等に関する法律」(一般職任
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期付法)を根拠とする任用形態である。「高度の専門的な知識経験又は優れた識見を有する 者」を「一定の期間活用して遂行することが特に必要とされる業務」に限り、選考により任 期を定めて採用することができる(第3条 1項)。また、「一定の期間内に終了することが 見込まれる業務」もしくは「一定の期間内に限り業務量の増加が見込まれる業務」である場 合も同様である(第4条)。任期は5年(もしくは3年)を超えない範囲である(第6条)。
学校現場では、市町村単独で任用する場合や民間人校長を任用する場合に一般職任期付 法を根拠しているが、散発的な運用にとどまっており全国的にも活用されている制度とは 言えない。
他方で、「地方公務員の育児休業等に関する法律」6 条に基づく任期付任用は積極的に活 用されつつある。育児休業期間は他の休業等と比較してある程度予測ができるため、複数年 の任期(一般的には3年程度)で採用が可能であると言える。自治体によっては、大量退職 による若い世代の正規採用が進んでいることから産休・育休制度利用者が増加しており、今 後も本法に基づく任期付採用は増える見込みである。臨時的任用に比べて、およそ 3 年の 期間中は安心して教育活動に取り組むことは可能であるが、その任期が切れた際に再度任 期付の採用が準備されているわけではなく、不安定な身分であることに変わりはない。
⑥市町村費負担教職員
①から⑤と異なり、これは任用形態ではなく給与負担者が市町村である場合を指す。2006 年の制度改正によって市町村は特別支援教育の対応や外国人児童生徒の対応、少人数学級 編制などその地域課題に沿った人的配置を行っていることが明らかになっている(阿内
2016:p.14)。地域における特色ある教育の推進を後押しする制度である一方、その任用形
態は非常勤講師を中心とする非正規教員であるが、フルタイムでの勤務形態も可能である。
この推進状況からも窺える通り、地域の教育ニーズへの対応が優先されており、当該教員の 身分を保障する観点は乏しい。
⑦期限付任用
上記で述べてきた①~⑥の任用はすべて法律によって定められている。しかし、期限付任 用については行政解釈に基づく任用であるため、他の任期の定めのある任用とは性格が異 なる。糟谷(2000)は、例外的な措置として任期を定めた任用を必要とする「特段の事由」
がある場合は期限付任用も可能であるとする最高裁判決(昭和37・4・2)を引きながら、
その任用の是非を含めて解説している(pp.69-70)。ただし、管見の限り、このような行政 解釈に基づく任用は見られず、各自治体は地方公務員法第22条の3の拡大解釈によって臨 時的任用として採用していると思われる。
以上、7つのタイプの非正規教員を整理したが、それを法的根拠と関連させながらまとめ ると下表の通りになる(表序-1)。任用根拠は多様であるが、一般的な認識として、フルタ イム/常勤の者は「常勤講師」、短時間/非常勤の者は「非常勤講師」と呼称される。しか しながら、あくまで下表は法的根拠に基づく類型に過ぎず、自治体の運用状況によっては独 特な表現で非正規教員を任用している場合もあり(たとえば、臨時的任用された講師を「6・
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6 講師」や「期限付講師」などと呼称する自治体もある)、全国的な非正規教員の運用実態 やその多様性(任用の曖昧さも含めて)を把握するためには、自治体・学校現場における呼 称・通称も射程に入れた整理は欠かせないだろう。
表序-1 非正規教員の類型 職
区 分
任 用 形態
法的根拠 任期 勤務時間 勤務
形態 教員の名称
一 般 職
正 規 採用
地公法第17条 なし フルタイム 常勤 いわゆる
「正規教員」
臨 時 的任 用
地公法第 22条 の3
期間は6月。ただ
し、1回の更新可 フルタイム 常勤 臨時的任用 常勤講師 出 産 補 助 職 員
確保法第 3 条 第1項
出産前6週~産後 8週/休業開始か ら14週
フルタイム 常勤 産休代替 常勤講師 地 公 育 児 休 業
法第 6 条第 11 項2号
1年以内 フルタイム 常勤 育休代替 常勤講師
再任 用
地公法第 28条
の4 1年を越えない範 囲。原則、65歳ま で更新可。
フルタイム 常勤 再任用フルタイ ム
地公法第 28条
の5 短時間 非常勤 再任用短時間
任 期 付
任期付法4条 3年もしくは5年
以内 フルタイム 常勤 ― 地 公 育 児 休 業
法第6条第1項 1号
3年以内 フルタイム 常勤 育休代替 常勤講師 任 期 付 法 第 5
条
3年もしくは5年
以内 短時間 非常勤 ― 会
計 年 度任 用
地公法第 22条
の2第2項 一 会 計 年 度 を 越 えない範囲
フルタイム 常勤 ― 地公法第 22条
の2第1項 短時間 非常勤 非常勤講師 出典:上林(2012:p.121)の表をもとに筆者作成
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第 1 章 非正規教員問題の布置構造
本章では、非正規教員をめぐる問題がいかなる構造によって生じているのか示すことを 通じて、非正規教員にかかる何がいかに多様であるのかを明らかにする。これは序章で述べ た通り、非正規教員の拡大状況を新自由主義的な教育政策に求めることはいささか単純な 理解であるという本研究の問題意識に基づく。以下では、「多様」をキーワードに任用法制、
任用実態、外的要因の3つの観点から非正規教員問題の布置を描く。
第 1 節 法制構造上の非正規教員の位置
序章で既述した通り、公立学校に勤務する教員は地方公務員であることから、その任用は 原則として「無期」任用となる。これは「職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権 者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれかの方法により、職員を任命することができる。」 と規定する地方公務員法第17条を根拠とする。条文には「無期」任用と明文化されてはい ないが、「無期」で任用することを前提としていることは多言を要しない。それにも関わら ず、なぜ非正規教員は拡大の一途を辿っているのだろうか。それは端的に、任用法制にかか る「任用」解釈の多様性(曖昧さ)に起因している。その曖昧さについて、以下では(1)
明文化された制度と(2)明文化されていない制度、(3)非正規であることを正当化する 制度の3つの観点から論じていく。
(1)臨時的任用と特別職非常勤の任用をめぐる解釈
「有期」任用の代表的な法的根拠は地方公務員法第22の3「臨時的任用」が挙げられる。
臨時的任用は「六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができ」、さらに一度に限り、
「六月を超えない期間で更新することができる」ものの、「再度更新することはできない」
規定となっている。この規定に基づけば、当該臨時的任用者を 2 年以上継続的に任用する ことは許されないが、現実には「繰り返し任用されることによって、事実上、常勤職員と同 一の勤務形態となっている事例もある」と指摘されている(地方公務員制度調査研究会1999
年:p.21)。なぜ繰り返し任用することが制度上可能であるかというと、「再度の任用」とい
う解釈に依る。「任期の更新」ではなく「再度の任用」とするためには、一度の更新を経た 最長一年の任用ののち、一日(あるいは数日)の空白を意図的に作り出し(=任用を終了さ せ)、その後改めて臨時的任用として辞令を交付するのである。意図的な空白の一日問題は、
当該任用者を無職に追い込むことであり、この一日のために国民健康保険等への加入が求 められ、身分・待遇が極めて劣悪な状況に立たされることとなる。
このような深刻な問題は今日においては改善されているものの、本節で強調すべきは、任 用権者の都合によって「任用」の解釈を構築してきた事実である。地方公務員は「無期」任 用を原則とする法構造であるがゆえに、「例外」である有期の任用をめぐる解釈が曖昧なま ま展開されてきた。先の地方公務員制度調査会(1999)においても「必ずしも任用根拠が明