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九州大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

Z3対称性と符号問題の関係とグラディエントフロー に基づく純SU(2)ゲージ理論の解析

開田, 丈寛

https://doi.org/10.15017/4059986

出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

(様式6-2)

氏 名 開田 丈寛

論 文 名 Relation between Z3 symmetry and sign problem and analyses of pure SU(2) gauge theory based on gradient flow

(Z3対称性と符号問題の関係とグラディエントフローに基づく純SU(2)ゲ ージ理論の解析)

論文調査委員 主 査 九州大学 教授 肥山詠美子 副 査 九州大学 准教授 津村浩二 副 査 九州大学 教授 原田恒司

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

素粒子と呼ばれる粒子の内、ハドロン(核子の仲間であるバリオンと中間子の総称)は基本的な 粒子でなく、より基本的な粒子であるクォークや反クォークが強く結合してできた複合粒子であり、

通常の状態では、クォーク・反クォークはハドロンの中に閉じ込められている。クォークや反クォ ークをまとめてハドロンを構成しているのは、グルーオンによって媒介される強い相互作用であり、

それは量子色力学(QCD)によって記述されると考えられている。クォークの閉じ込めやクォーク の重い質量の生成の問題(カイラル対称性の破れ)は、強結合領域の現象であり、QCDの摂動論を 用いて説明する事ができない。近年、QCDを計算機上の離散的な格子空間上でシミュレーションす ることで非摂動的計算を行う格子 QCD の計算手法が飛躍的発展を遂げて、これらの非摂動的現象 が数値的に再現できるようになってきた。また、同様の手法で有限温度の統計力学的計算を行う事 により、高温かつ(クォークと反クォークの数の差が小さい)低クォーク密度では、クォークの閉 じ込めが破れて、多くの(軽い)クォークやグルーオンがプラズマ状態になるクォーク・グルーオ ン・プラズマ(QGP)の状態が出現する事がわかってきた。この状態は宇宙初期の状態に対応する と考えられる。しかし、高クォーク密度の領域では、格子 QCD 計算に符号問題とよばれる困難が 現れて信頼できる計算を行う事ができない。格子 QCD では、統計力学の大正準分配関数を経路積 分で書き表し、被積分関数を確立分布を表す関数として解釈し、インポータンス・サンプリングを 使ったモンテカルロ法などでその積分を近似的に評価するが、有限クォーク密度では被積分関数が 実数にならず、その実部も正定値にならないため確率解釈が不可能になるのである。

高クォーク密度の状態は、原子核や中性子星などのコンパクトな天体の内部における状態に対応 していると考えられ、その研究は非常に重要である。そこで申請者は、2つのアプローチで符号問 題の解決を目指した。第1の方法は符号問題をZ3対称性と関連付けて解析する事である。QCDの 有限温度の統計力学的計算を経路積分形式で行う場合は、時間方向の積分区間が有限となり、積分 の上限と下限の間に境界条件が設定される。この理論において、ゲージ変換を考える時もゲージ変 換の因子について通常は周期境界条件が課せられる。しかし、力学的クォークを含まない場合は、

ゲージ変換の境界条件を Z3 群(量子力学の対称群である SU(3)群の中心群)の要素分だけツイス トしても不変性が保たれる。通常の QCD のように、力学的クォークが存在するとこの対称性が破 れるが、3種のフレーバーのクォークを考えて、3種のクォークに3つの異なるZ3要素に対応させ たフレーバー依存の境界条件を課することによって、Z3対称性は回復する。このような特殊な境界

(3)

条件を持つQCDは有限温度では通常のQCDと異なるが低温極限では通常のQCDに近づく。また、

この模型は、Z3対称性を持っている事から符号問題が弱くなる事が予測された。そこで申請者は、

低温・高密度でZ3対称な格子QCDの計算を行い、そこから低温極限を求める事で、原子核や中性 子星内部などに対応する零温度の状態方程式を求めることができると考え、それを、まず、ポリヤ コフ・ライン模型とよばれる QCD の有効模型で確かめる事を試みた。申請者は、位相クエンチ近 似を用いた再重み法を用いてモンテカルロ・シミュレーションの計算を行い、Z3対称性のない有効 模型とZ3対称性のある有効模型の高密度での計算結果を比較した。その結果、Z3対称性のある模 型の方が計算の誤差(不定性)がはるかに小さい事、また、低温極限をとると、両者における物理 量の平均値は近づいていく事が示された。これは、低温において、Z3対称なQCDを用いる事の有 効性と妥当性を示す重要な結果である。さらに申請者は再重み法の改良も行い、改良された方法を 用いる事で、誤差をさらに小さくできる事を示した。

第2の方法は、現象論模型による解析である。そもそも格子 QCD 計算は計算コストが大きく、

それを実際の複雑な現象のデータの解析にそのまま用いる事はほぼ不可能である。そこで、現存す る格子QCD計算を再現する現象論模型を作り、それを使って現象を解析する試みが行われてきた。

さらにそれらの有効模型を高密度領域に適用し、カラー超電導相の存在などの、さまざま予言が行 われている。しかしながら、そのような現象論模型が格子 QCD 計算の存在しない高密度領域で有 効である保証はない。そこで、現象論模型の信頼性を検証する事が必要となる。もちろん、現状で は現実の QCD ではそのような検証はできない。しかしながら、色の自由度が1つ少ない2カラー の QCD では、高密度計算が可能であり、低密度領域で作られた現象論模型の高密度領域での有効 性を検証する事が可能である。2カラーQCDで現象論模型の妥当性を示すことができれば、3カラ ーの QCD の現象論模型の信頼性を上げる事ができる。しかし、このアプローチの場合、別種の問 題が重要となる。実際の現象の解析に使えるような精密な現象論模型の構築には、状態方程式の計 算が不可欠である。しかし、現実的な状態方程式を離散的な格子 QCD 計算から、連続極限をとっ て導出する事は難しく、また、非常に多くの計算コストがかかる。この困難の大きな原因の1つは、

状態方程式を含むエネルギー運動量テンソルは、時空間の並進対称性の生成子であるが、格子QCD ではその対称性が有限な格子サイズによって破られる事である。近年、この困難の克服に対してグ ラディエント・フローを使った方法が有効である事が示された。この方法では、格子 QCD の計算 結果を、一種の仮想時間の基で発展させる事により、繰り込みを行い、連続極限を無理なくとる事 ができる。そこで、申請者は、まず、2カラーの力学的クォークを含まないQCD(SU(2)の純ゲージ 理論)において、グラディエント・フローの計算を行う事で、状態方程式を低コストかつ高精度で導 出する事を試みた。結果として、グラディエント・フローを使用する事により、低コストにもかか わらず、今までの先行研究の結果と矛盾ない結果が得られること、臨界温度付近では、高温物質は まだかなり強い相互作用を含んでおり、理想気体の状態からは離れている事が確認された。これに よって、現象論模型の定量的なチェックへの方法論が示されたと言える。

以上の結果は、原子核物理学(ハドロン物理学)の分野において価値ある業績と認められる。よ って、本研究者は博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。

参照

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