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閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が動脈伸展性を増大させる機序にKlothoが果たす役割

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全文

(1)

閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が

動脈伸展性を増大させる機序にKlothoが果たす役割

著者

松原 朋子

発行年

2015

学位授与大学

筑波大学 (University of Tsukuba)

学位授与年度

2014

報告番号

12102甲第7489号

URL

http://hdl.handle.net/2241/00126616

(2)

士 論 文

閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が

動脈伸展性を増大させる機序に

Klotho が果たす役割

平成

26 年度

筑波大学大学院

人間総合科学研究科 スポーツ医学専攻

原 朋 子

(3)

目次

I. 序論 1 1. 研究の背景 1 2. 研究の目的 4 3. 用語の定義 4 II. 文献研究 6 1. 動脈の構造と役割 6 2. 動脈伸展性 8 2-1. 動脈伸展性 8 2-2. 加齢・閉経と動脈伸展性 9 2-3. 運動と動脈伸展性 11 2-4. 動脈伸展性の評価法 12 2-4-1. 超音波法 (動脈コンプライアンス・β スティフネス) 13 2-4-2. 脈派伝播速度 13 3. 血管内皮機能 15 3-1. 血管内皮機能 15 3-2. 加齢・閉経と血管内皮機能 15 3-3. 運動と血管内皮機能 15 3-4. 血管内皮機能の評価法 16 4. Klotho 18

(4)

4-1. Klotho 18 4-2. 加齢・閉経と Klotho 20 4-3. 疾患と Klotho 21 4-4. 身体活動と Klotho 22 4-5. 血管への Klotho の影響 22 III. 本研究の課題 25 1. 本研究の仮説と課題 25 2. 本研究で用いた方法 27 IV. 研究課題 1: 動脈石灰化モデルラットにおける長期の自発運動が 膜 Klotho 発現と動脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響 33 1. 緒言 33 2. 目的 35 3. 方法 35 4. 結果 38 5. 考察 47 6. 要約 49 V. 研究課題 2: 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が 血漿 Klotho 濃度に及ぼす影響 50

(5)

ii. 研究課題 2-1: 有酸素性運動能力と血漿 Klotho 濃度の関係 51 1. 目的 51 2. 方法 51 3. 結果 53 4. 考察 57 5. 要約 59 iii. 研究課題 2-2: 有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度に 及ぼす影響 60 1. 目的 60 2. 方法 60 3. 結果 62 4. 考察 67 5. 要約 68 VI. 研究課題 3: 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が 血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性に及ぼす影響 69 i. 緒言 69 ii. 研究課題 3-1: 血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性の関係 71 1. 目的 71 2. 方法 71 3. 結果 73

(6)

5. 要約 79 iii. 研究課題 3-2: 有酸素性運動トレーニングが動脈伸展性と 血漿 Klotho 濃度に及ぼす影響 80 1. 目的 80 2. 方法 80 3. 結果 82 4. 考察 88 5. 要約 89 VII. 研究課題 4: 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が 血漿 Klotho 濃度と血管内皮機能および内膜中膜複合体厚に 及ぼす影響 90 i. 緒言 90 ii. 研究課題 4-1: 血漿 Klotho 濃度と血管内皮機能および 内膜中膜複合体厚の関係 92 1. 目的 92 2. 方法 92 3. 結果 94 4. 考察 99 5. 要約 101 iii. 研究課題 4-2: 有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度と血管

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1. 目的 102 2. 方法 102 3. 結果 104 4. 考察 111 5. 要約 113 VIII. 総合討論 114 IX. 結論 122 謝辞 124 参考文献 125 参考図書 141

(8)

本論文は, 以下の原著論文に加筆修正し, 未発表の研究成果を加えてまとめた ものである.

1. Matsubara T, Miyaki A, Akazawa N, Choi Y, Ra SG, Tanahashi K, Kumagai

H, Oikawa S and Maeda S. Aerobic exercise training increases plasma Klotho

levels and reduces arterial stiffness in postmenopausal women. American Journal of Physiology Heart and Circulatory Physiology 306(3): H348-355, 2014.

2. Matsubara T, Miyaki AZ, Akazawa N, Choi Y, Ra SG, Tanahashi K,

Kumagai H, Oikawa S, Yoshikawa T and Maeda S. Aerobic exercise training

improves vascular endothelial function with an increase in circulating Klotho levels in postmenopausal women. Advances in Exercise and Sports Physiology, in press

(9)

I. 序論

1. 研究の背景 心血管疾患は, わが国の死因の 4 分の 1 を占め, 年間 32 万人以上が心血管疾患によ り死亡している. また, わが国における循環器系疾患の診療医療費は年々増加してお り, 平成 24 年度は 5 兆 7973 億円に達した. これは全診療医療費の 20.5%を占め, 傷病 分類の中で最も高額であった (平成 24 年度 厚生労働省 国民医療費の概況). これら のことから, 心血管疾患は深刻な社会問題であり, 心血管疾患を予防・抑制すること は極めて重要である. 加齢による動脈伸展性の低下は, 心血管疾患の独立した危険因子である (Laurent et al., 2001). 動脈の加齢変化には血管壁構造の変化 (器質的変化) と血管作動性物質や 交感神経系による生理的機能の変化 (機能的変化) がある. 器質的変化としては, 加 齢に伴って, 血管平滑筋石灰化, 血管壁肥厚, エラスチン断片化, コラーゲン蓄積な どが生じる (Dao et al., 2005; Lakatta, 2003; Osborne-Pellegrin et al., 2010). また, 機能的 変化としては, 加齢により血管内皮機能の低下が生じる (Celermajer et al., 1994). こ れには, 血管拡張物質である一酸化窒素 (NO) の産生低下や血管収縮物質であるエ ンドセリン-1 (ET-1) の産生増加などがその一因として示唆されている (Taddei et al., 2000). これらの器質的・機能的な加齢変化は動脈伸展性の低下に繋がると考えられて いる.

また, 女性においては閉経を境に顕著に動脈伸展性が低下する (Zaydun et al., 2006). さらに, 女性は閉経すると心血管イベントの発生が急増することが大規模調査により

(10)

報告されている (Kannel et al., 1996). したがって, 閉経後女性において動脈伸展性を 増大させることは重要な課題である. 閉経による動脈伸展性低下の要因として, 閉経 によるエストロゲンの減少が示唆されている (Nagai et al., 1999). エストロゲンによ る副甲状腺ホルモンの骨吸収抑制が閉経により減弱すると血管石灰化が促進される (Cosman et al., 1993). さらに, エストロゲンは血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への 分化を誘導するRANKL シグナルを抑制する (Osako et al., 2010). エストロゲンは血

管内皮細胞からのNO 産生を促進し, ET-1 の産生を抑制するため, 血管内皮機能を向 上させる (Mikkola et al., 1998). また, 血管平滑筋細胞の病的な増殖や遊走は血管壁の 肥厚と動脈伸展性の低下に繋がるが, エストロゲンは血管平滑筋細胞の増殖と遊走を 抑制する (Dai-Do et al., 1996). さらに, エストロゲンは血中の低密度リポタンパク (LDL) コレステロールを減らし, 高密度 (HDL) コレステロールを増加させる (Jones et al., 2002). 血液中の高濃度の LDL コレステロールは, アテローム, 酸化ストレス, NO 産生低下を生じさせると考えられている (Tomkin and Owens, 2012; Jung et al., 2014; Casino et al., 1993). 一方, HDL コレステロールは酸化ストレス・炎症の抑制, NO 産生の増加, 血管内皮の修復促進など, 様々な血管保護作用を持つ (Barter et al., 2011). すなわち, 閉経により, これらのエストロゲンの作用が急激に失われると, NO 産生の減少, 血管壁の肥厚, LDL コレステロールの増加, HDL コレステロールの減少 が生じ, これらは動脈伸展性の低下に繋がると考えられている. 一方, 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動は動脈伸展性を増大させる (Moreau et al., 2003). また, 習慣的な有酸素性運動により, 動脈伸展性に影響を与える 器質的および機能的因子が変化することも報告されている. 老齢マウスにおいて, 長 期の自発運動により血管平滑筋石灰化, コラーゲン沈着などの加齢による器質的変化

(11)

が抑制されることが示されている (Fleenor et al., 2010; Park et al., 2008). また, 中高齢 者における有酸素性運動トレーニングにより血管内皮機能が向上する (DeSouza et al., 2000). これらのメカニズムには酸化ストレスの抑制や抗炎症などの関与が示唆され ているが (Fleenor et al., 2010; Lesniewski et al., 2011), 習慣的な有酸素性運動が動脈伸 展性を増大させる機序は不明な点が多い.

近年, Klotho タンパクの血管保護作用が注目されている. Klotho 遺伝子は, その遺伝 子欠損マウスが動脈石灰化, 骨粗鬆症, 白内障などの老化様症状を呈し, 短命であっ たことから, 抗老化遺伝子として発見された (Kuro-o et al., 1997). Klotho は主に腎臓 で発現しており, 脳, 骨格筋, 精巣, 卵巣, 大動脈などでも微量ながら発現は確認され ている. Klotho タンパクには一回膜貫通型 (膜 Klotho) と分泌型 (分泌 Klotho) の 2 種 類がある. 膜 Klotho は細胞膜上に, 分泌 Klotho は血液, 尿, 脳脊髄液中に存在する. 腎臓において, 膜 Klotho は線維芽細胞増殖因子 23 (FGF23) の共役レセプターとして 働き, FGF23-Klotho シグナルは腎臓におけるリン (Pi) 再吸収を抑制する (Ohnishi et al., 2009). また, 腎臓の FGF23-Klotho シグナルは活性型ビタミン D3の合成も抑制する

(Medici et al., 2008). 活性型ビタミン D3は腸管におけるCa2+吸収および腎臓における

Pi 再吸収を促進する (Haussler et al., 2010). Ca および Pi は血液中の濃度が高くなると, 血管に沈着し, 石灰化を生じさせる (Kuro-o et al., 2013). さらに, 活性型ビタミン D3

は骨芽細胞および血管平滑筋細胞におけるRANKL 発現を誘導し, 骨吸収および血管

平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への分化を促進する (Haussler at al., 2010; Zhan et al., 2014). したがって, これらの作用により腎臓の膜 Klotho は血管石灰化を抑制する. し かし, マウスにおいて大動脈の Klotho mRNA 発現は腎臓に比べて約 7000 分の 1 とは るかに低く, 大動脈における膜 Klotho-FGF23 シグナルは血管の石灰化に影響しない

(12)

ことが示されている (Lindberg et al., 2013). すなわち, 膜 Klotho による血管石灰化の

抑制には動脈ではなく腎臓の膜 Klotho が重要であると考えられている. 一方, 分泌

Klotho は血液を循環することで, 液性因子として働くことが分かっている. 血管内皮 細胞において, 分泌 Klotho は, 過剰な Ca2+の流入抑制により, 内皮のバリア維持に貢 献している (Kusaba et al., 2010). また, 分泌 Klotho は酸化ストレス・炎症の抑制, 石 灰化, 血管内皮細胞の老化・アポトーシスの抑制, NO 産生増加を誘導する (Buendia et al., 2014; Maekawa et al., 2009; Chen et al., 2013; Ikushima et al., 2006; Six et al., 2014). し たがって, Klotho は腎臓における膜 Klotho と血中を循環する分泌 Klotho によって, 血 管の器質面および機能面の両者に作用していると考えられる. また, Klotho の血管保 護作用は, 習慣的な有酸素性運動による血管への作用と類似している. しかし, 習慣 的な有酸素性運動による血管変化とKlotho の関連は不明である. 2. 研究の目的 本研究では, 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動による動脈伸展性の 増大に対する抗老化因子 Klotho の影響, さらに動脈伸展性に影響すると考えられる 血管の器質的・機能的因子に対するKlotho の影響を検討することを目的とした. そこ で, ①動脈石灰化モデルラットにおける長期の自発運動が腎臓における膜 Klotho 発 現と動脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響, ②閉経後中高齢女性における有酸素性運動 トレーニングが血漿 Klotho 濃度に及ぼす影響, ③閉経後中高齢女性における有酸素 性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性に及ぼす影響, ④閉経後中高齢 女性における有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度と血管内皮機能および動 脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響, を検討した.

(13)

3. 用語の定義 動脈伸展性 本研究における動脈伸展性は, 物理学的な「動脈壁の構造的・力学的な弾性」とい う意味だけでなく, 生理学的な「器質的・機能的な弾性」も含む. その評価法は, 脈派 伝播速度 (PWV), 頸動脈コンプライアンス, β スティフネスなどがある. 本研究では 頸動脈コンプライアンス, β スティフネスを動脈伸展性の指標として用いた. 血管内皮機能 血管内皮機能は血管内皮細胞から分泌される血管作動性物質による血管壁の収 縮・弛緩のことである. その評価法としては, NO 作用薬 (アセチルコチン, ブラジキ ニン, ヒスタミン) や NO 合成阻害薬 (L-NMMA) の投与後に血流量を評価する方法 や, 血管拡張物質である NO や血管収縮物質である ET-1 の血中濃度を評価する方法な どがある. 本研究では, 上腕部の虚血反応性充血後に血管径変化を評価する血流依存 性血管拡張反応 (FMD) を血管内皮機能の指標として用いた.

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II. 文献研究

1. 動脈の構造と役割 血管には動脈・毛細血管・静脈の3 種類があり, 動脈は心臓から全身へと血液を送 り出し, 酸素や栄養を運搬する役割を担う. 動脈は外膜・中膜・内膜の 3 層構造から なる (図 1-1). 外膜は線維芽細胞, 弾性線維 (エラスチン), 膠原線維 (コラーゲン) で 構成されている. 外膜には栄養血管と神経が存在し, 神経による調節や血管への栄養 供給が行われる. 中膜は平滑筋, 弾性線維, 膠原線維からなり, 平滑筋細胞が収縮す ることで, 血液の供給が調節される. 内膜は 1 層の内皮細胞および基底膜で構成され る. 血管内皮細胞は血管作動性物質を分泌し, 血管機能を調節している (Vanhoutte and Mombouli, 1996). 図1-1. 動脈の構造 (山科, 2004) さらに, 動脈は中膜の構造により, 弾性動脈・筋型動脈・細動脈の 3 つに分類され る. 弾性動脈には心臓に近い大動脈, 鎖骨下動脈, 総頸動脈などがあり, その中膜は 弾性板と平滑筋が交互に層をなしている. 弾性動脈はその伸展性により, 心収縮期に は拡張し, 心拡張期に収縮することで血液を押し出す (Windkessel 効果). それにより,

(15)

末梢まで血流を維持するだけでなく, 末梢への高い圧力を緩衝する役割をもつ. 筋型 動脈は上腕動脈, 外頸動脈, 頸骨動脈, 臓器内の細動脈に至るまでの動脈などであり, 弾性板が中膜の最外層と最内層に存在し, その間に平滑筋が挟まれている. そして, 細動脈には, 平滑筋と内皮細胞の間に一層の弾性板が存在するのみで, 血管抵抗が大 きく, 神経系などの刺激を受けることで血管抵抗の調節を行う.

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2. 動脈伸展性 2-1. 動脈伸展性

動脈伸展性の低下は, 収縮期血圧や脈圧の上昇, 心臓の左室後負荷の増大を引き起 こすため, 心不全, 虚血性心疾患の発症リスクが高くなる. また, 動脈伸展性の低下 は, それ自体が心血管疾患 (CVD) の罹患および CVD による死亡の独立した危険因 子である (Laurent et al., 2001; van Popele et al., 2001). さらに, 動脈伸展性の低下は脳 血管疾患と関連があり (Dijk et al., 2004), 動脈伸展性が低い人は脳卒中の発症率が高 いことが報告されている (Sutton-Tyrrell et al., 2005). 動脈伸展性は加齢に伴い低下する (Avolio et al., 1983) (図 1-2). また, 喫煙, 肥満, 運動不足などの生活習慣により動脈伸展性は低下する (Mozos et al., 2012). さらに, 高血圧, 腎疾患, 糖尿病などの疾患によっても動脈伸展性の低下が促進される (Zieman et al., 2005). すなわち, これらの疾患では合併症として CVD を発症するリス クが高まる. 特に, 腎疾患患者においては CVD が主要な死因となっている. 一方, 中 高齢者や肥満者における運動トレーニングや食生活の改善が動脈伸展性を増大 (改 善) させることが報告されている (Tanaka et al., 2000; Miyaki et al., 2009).

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動脈伸展性は血管の構造 (器質) (エラスチンとコラーゲン割合, 平滑筋細胞の肥大 や石灰化などによる物理的要因) と機能 (血管作動性物質や交感神経などによる生理 的機能) の影響を受ける (Zieman et al., 2005). 器質的要因には平滑筋の石灰化, 間質 の線維化, 内膜肥厚やアテローム形成があり, これらは動脈伸展性を低下させる. 機 能的要因となる血管作動性物質には, 血管拡張物質である一酸化窒素 (NO) や血管 収縮物質であるエンドセリン−1 (ET-1) がある. また, 交感神経も機能的要因であり, 血管を収縮させるアドレナリンα1 受容体, 血管を弛緩させる β1 受容体が動脈伸展性 に影響する. これらの機能的要因は平滑筋細胞に作用して, 血管トーヌス (緊張度) を調節する. 2-2. 加齢・閉経と動脈伸展性 動脈伸展性は加齢に伴って低下することが多くの研究で報告されている. 加齢によ り動脈において様々な器質的変化が起こる. 動脈中のコラーゲンは増加し, 相対的な エラスチン量は減少する (Osborne-Pellegrin et al., 2010). エラスチンに比べてコラー ゲンは弾性率が低いため, コラーゲンの比率の増大は動脈伸展性を低下させる (松本, 2006). また, 石灰化も伸展性を低下させる要因となる. 加齢によるエラスチンの断片 化や平滑筋細胞のアポトーシスの増加はミネラル沈着を増加させ, 石灰化を促進する (Dao et al., 2005). さらに, 老化した血管平滑筋細胞は骨芽細胞様細胞への分化が促進 される (Nakano-Kurimoto et al., 2009). 血管平滑筋細胞の老化は細胞自体の肥大と伸 展性低下をもたらす (Qiu et al., 2010). 老化した血管では, 病的な血管平滑筋細胞の 増殖が起こり, 内膜に集積する. そして, 細胞の肥大, コラーゲンなどの細胞外マト リクスの蓄積, 血管平滑筋細胞の病的増殖などは, 内膜および中膜の肥厚を招く

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(Lakatta, 2003). これらの加齢による器質的変化は動脈伸展性の低下に繋がる.

動脈の機能的変化も動脈伸展性低下の要因として考えられている. 加齢により, 血

管内皮細胞において血管拡張物質である NO やプロスタサイクリンの産生は低下し,

血管収縮物質であるET-1 の産生は増加する (Taddei et al., 2000). また, 加齢により動

脈において血管収縮を促すアドレナリンα 受容体の感受性は増し, 血管拡張を促す β

受容体の感受性は低下する (Benetos et al., 1993; Pan et al., 1986).

女性は閉経前までは同年代の男性と比較して動脈伸展性が高い (Waddell et al., 2001). しかし, 閉経は加齢による動脈伸展性の低下を増強し, 閉経後女性の動脈伸展 性低下は同年代の男性よりも顕著である (Zaydun et al., 2006; Waddell et al., 2001). 一 方, 閉経後の女性にエストロゲンを投与すると動脈伸展性が増大することから (Nagai et al., 1999), 閉経による動脈伸展性低下はエストロゲンの減少が要因と考えら れ て い る. 閉 経 前 女 性 に お け る 卵 巣 摘 出 (OVX) は 血 管 内 皮 機 能 を 障 害 す る (Ohmichi et al., 2003). これはエストロゲンによる血管内皮細胞からの NO 産生促進作 用などが失われることが関与していると考えられる (Chambliss et al., 2002). 血管平 滑筋細胞の病的な増殖は動脈伸展性を低下させる要因となるが, エストロゲンは血管 平滑筋の病的な増殖を抑制する (Takahashi et al., 2003). また, エストロゲンは血中の 低密度リポタンパク (LDL) コレステロールを減らし, 高密度リポタンパク (HDL) コレステロールを増やすことから, 血管に対する間接的な保護効果も持つ (Jones et al., 2002). さらに, 閉経後女性において大動脈石灰化を有する人では血清エストラジ オール濃度が低いことが報告されており (中尾ら, 1978), ラットにおいて OVX によ り血管石灰化が生じる (Park et al., 2008). エストラジオールは副甲状腺ホルモンの骨 吸収作用を抑制することから (Cosman et al., 1993), 閉経後は骨から流出した Ca およ

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び Pi が血管壁に沈着することで血管の石灰化が生じる. エストラジオールは血管平 滑 筋 細 胞 の 骨 芽 細 胞 様 細 胞 へ の 分 化 を 誘 導 す る NFκB 活性化受容体リガンド (RANKL) シグナルを抑制する (Osako et al., 2010).

2-3. 運動と動脈伸展性 中高齢者において, 動脈伸展性は有酸素性運動トレーニングにより増大する (Tanaka et al., 2000). 閉経後中高齢女性においても有酸素性運動トレーニングによる 動脈伸展性の増大が起こり, 運動は乳癌などの危険性が高まるホルモン療法に代わる 方法として期待できる (Moreau et al., 2003) (図 1-3). 図1-3. 閉経後中高齢女性における有酸素性運動トレーニングによる 動脈伸展性の改善 (Moreau, 2003 より改変). 左からホルモン補充療法 (HRT) を受けていない人におけるトレーニング前, HRT を受けていな い人のトレーニング後, HRT を受けている運動習慣のない人. 血管の器質面に対する運動の効果としては, 老齢マウスにおける検討により, 長期の

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いる (Fleenor et al., 2010). また, 閉経後中高齢女性において有酸素性運動トレーニン グにより血管内皮機能が改善することが報告されている (Yoshizawa et al., 2010) . 中

高齢者における有酸素性運動トレーニングは血漿ET-1 濃度を低下させ, NO の代謝産

物であるNOx の濃度を増加させる (Maeda et al., 2004; Maeda et al., 2009). また, 老齢

ラットにおける水泳トレーニングは大動脈における NO 合成酵素 (eNOS) の発現を

増加させる (Tanabe et al., 2003). これらのメカニズムとして, 酸化ストレスの抑制, 抗炎症などが示唆されている (Fleenor et al., 2010; Lesniewski et al., 2009; Lesniewski et al., 2011). さらに, 有酸素性運動トレーニングによる LDL コレステロールの低下も動 脈伸展性増大の一因として考えられている (Seals et al., 2009). 一方, 高強度筋力トレーニングにより動脈伸展性は低下し, このメカニズムとして 酸化ストレスの増大が示唆されている (Choi et al., 2010). しかし, 高強度トレーニン グによる動脈伸展性の低下はトレーニングによる生理的適応なのか, 心血管疾患のリ スクがあるのかは不明である. 2-4. 動脈伸展性の評価法 動脈伸展性の代表的な評価法として, 超音波法と脈波伝播速度がある. 超音波法は 動脈の状態を視覚的に捉えることができ, 内膜中膜複合体の肥厚やプラークを発見で きるというメリットがあるが, 熟練した技術が必要というデメリットがある. 一方, 脈波伝播速度は機器の操作が簡便であり, 短時間で測定できるというメリットがあ る.

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2-4-1. 超音波法 (動脈コンプライアンス・β スティフネス) 超音波法による動脈伸展性の評価の代表的な方法が動脈コンプライアンスとβ ステ ィフネスである. これらは, 超音波, CT や MRI により画像から血管径を測定し, 血圧 変化に対する血管径の変化から算出される. 動脈コンプライアンスは数値が大きいほ ど動脈伸展性が高いことを意味する. β スティフネスは動脈コンプライアンスと同様 の測定を行い, 計算式により血圧の影響の少ない値を算出する方法である. 圧の対数 値と容積は直線関係を示すことを利用した方法である. β スティフネスは値が低いほ ど, 動脈伸展性が高いことを意味する. 2-4-2. 脈派伝播速度 心臓からの血液の拍出により生じる拍動 (脈波) は, 動脈伸展性の影響を受けて末 梢まで到達する. 脈派伝播速度 (PWV) は, 脈波が伝わる速度により動脈伸展性を評 価する方法であり, “脈派伝播速度は動脈の弾性率 (ヤング率), 壁厚, 内径, 流体密度 で表せる” とする Moens-Korteweg 式を用いている. Moens-Korteweg 式: PWV2 = (管壁のヤング率 × 壁厚)/(2 × 流体速度 × 血管内半径) すなわち, 血管壁が硬く, 厚く, 血管が細く, 血液密度が小さいほど脈波は早く伝わ る. 測定は体表面で 2 ヶ所の脈波を記録し, 2 点間の距離および脈派の時間差を算出す る. 中心動脈伸展性の指標としては, 頸動脈-大腿動脈間 PWV (cfPWV) が用いられる. また, 全身の動脈伸展性の指標として, 上腕-足首間 PWV (baPWV) がある. cfPWV は 臨床的意義が高いとされるが, 頸動脈と大腿動脈における測定は技術を要する. 一方,

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baPWV は cfPWV と高い相関関係があり (Yamashita et al., 2002), 中心動脈伸展性を反 映すると考えられている. また, 測定が簡便であることから, 近年, 臨床現場でよく 用いられている.

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3. 血管内皮機能 3-1. 血管内皮機能 ずり応力や神経伝達物質であるアセチルコリンなどの刺激を受けた血管内皮細胞 は血管作動性物質を分泌し, 血管平滑筋の拡張・収縮により血管トーヌス (緊張度) を調節している. 血管拡張物質である NO や血管収縮物質である ET-1 などのバランス が血管内皮機能には重要である. また, 血管内皮機能障害は心血管疾患のリスクファ クターである (Deanfield et al., 2007). 血管内皮機能に影響する因子として, 加齢, エ ストロゲン, 運動, 酸化ストレスなどが報告されている. ラットにおいて, NO 合成酵素阻害薬 (L-NAME) の投与により中心動脈の伸展性が 低下したことから, NO は動脈伸展性を調節する可能性が示唆された (Fitch et al., 2001). したがって, 血管内皮機能障害は動脈伸展性低下に繋がると考えられている. 3-2. 加齢・閉経と血管内皮機能 血管内皮機能は男女ともに加齢に伴って低下し, 特に女性においては, 閉経後に著 しい低下が認められる (Celermajer et al., 1994). これは, 閉経によるエストロゲンの 減少が要因として考えられている (Taddei et al., 2000). エストロゲンは血管内皮細胞 におけるプロスタサイクリンおよびNO の産生を増加させるだけでなく, ET-1 産生を 抑制する (Mikkola et al., 1998). そのため, 閉経後女性におけるエストロゲン投与は血 管内皮機能の改善を生じさせる (Moreau et al., 2013). 3-3. 運動と血管内皮機能 加齢に伴って血管内皮機能は低下するが, 閉経後中高齢女性における有酸素性運動

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トレーニングは加齢による血管内皮機能低下を改善することが報告されている (Yoshizawa et al., 2010). したがって, 有酸素性運動トレーニングは CVD のリスクを低 下させることに繋がる. これまでに, 有酸素性運動による血管内皮機能改善のメカニ ズムとして, ずり応力の増大による NO の産生増加が示唆されている (Taddei et al., 2000; Wang et al., 1993). さらに, ET-1 の産生低下も有酸素性運動による血管内皮機能 改善に関与していると考えられている (Tanabe et al., 2003; Maeda et al., 2009). また, 有酸素性運動トレーニングによる酸化ストレスの低下もその一因として考えられて いる (Walker et al., 2014). 高強度トレーニングによって血管内皮機能の低下と同時に 酸化ストレスの増大が生じることもこの結果を支持する (Tinken et al., 2008). 3-4. 血管内皮機能の評価法 血管内皮機能の評価法は, 血液などを用いて生化学的に評価する方法と内皮依存性 の血管拡張を生理学的に評価する方法に分かれる. 生化学的な方法では, 血管内皮細胞から分泌される血管作動性物質の血中濃度を評 価する. 血管拡張物質である NO と血管収縮物質である ET-1 は血管トーヌスに影響す るため, 血管内皮機能の指標として用いられている (Maeda et al., 2002). 内皮依存性の血管拡張を評価する方法には2 つある. まず, NO 作用薬 (アセチルコ チン, ブラジキニン, ヒスタミンなど) や NO 合成阻害薬 (L-NMMA など) の投与後 に血流量の経時的変化をプレスチモグラフにより評価する方法である. この方法で反 映される血管内皮機能は, 細動脈レベルと考えられている (東, 2009). カテーテルの 挿入や検査時間の長さなど, 被験者の負担が大きいという点がデメリットである. そ して, もう 1 つは上腕部の虚血反応性充血後に血管径変化を超音波により評価する血

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流依存性血管拡張反応 (FMD) という方法である. この方法により反映される血管内 皮機能は, 冠動脈レベルと考えられている (東, 2009). 非侵襲的であり, 検査時間が 短いという点がメリットである.

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4. Klotho 4-1. Klotho

Klotho (αKlotho) 遺伝子は, その遺伝子欠損マウスが様々な老化様症状 (骨粗鬆症, 血管石灰化, 白内障など) を示したことから, 老化抑制に関連する遺伝子として発見 された (Kuro-o et al., 1997) (図 1-4). Klotho タンパクは腎臓における発現量が多く, 脳, 脳下垂体, 胎盤, 骨格筋, 膀胱, 精巣, 卵巣, 結腸, 甲状腺, 大動脈でも発現が確認さ れている. Klotho タンパクは一回膜貫通型 (膜型) と分泌型の 2 種類があり, 膜型は細 胞膜上, 分泌型は血液, 尿, 脳脊髄液で検出されている (図 1-5). Klotho はオルタナテ ィブスプライシングにより膜型と分泌型が産生される. さらに, 膜型は膜上に存在す る切断酵素 (ADAM10, ADAM17) により切断され, その細胞外ドメインは分泌型と して循環する (Bloch et al., 2009). しかし, 膜 Klotho の切断による分泌 Klotho の調節 に関しては, 現在のところインスリンがこれらの切断酵素の活性化を介して膜 Klotho の切断を促進することが報告されているのみである (Chen et al., 2007). Klotho タンパ

クの細胞外ドメインは2 つの反復配列を持ち, それぞれに β-glucosidase と相同のアミ

ノ酸配列が存在する. Klotho タンパクは膜型が 135 kDa, 分泌型が 130 kDa と 68 kDa である. 分泌型のうち, 130 kDa は血液中で検出されるが, 68 kDa は血液中からは検出 されない.

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および筋型動脈の内膜肥厚 (b) (Kuro-o et al., 1997)

図1-5. 膜 Klotho の切断による分泌 Klotho の遊離 (Huang et al., 2010 より改変) Klotho タンパクの機能は膜型と分泌型で異なる. 膜 Klotho は, 同じく膜上に存在す る FGF レセプターと結合することで共役レセプターとして働き, 線維芽細胞増殖因 子23 (FGF23) が FGF レセプターと結合することが可能になる. FGF23-Klotho システ ムは腎臓近位尿細管におけるNa 依存性 Pi トランスポーター (NaPi2a) の転写抑制を 介したPi 再吸収抑制, ビタミン D3 1α–水酸化酵素 (Cyp27b1) の転写抑制を介した活 性型ビタミンD3の合成抑制を誘導する. 一方, 分泌 Klotho は液性因子として働き, イ オンチャネルやトランスポーター, レセプター等に作用する. 分泌 Klotho は腎臓の遠 位尿細管において, Ca2+チャネル (TRPV5) や K+チャネル (ROMK1) の細胞外糖鎖を 加水分解することでチャネルを細胞膜上に留め, カルシウムおよびカリウムの流入を 促進する (Chang et al., 2005; Cha et al., 2009). これは, Klotho のもつ β-glucosidase 活性 によるものと考えられている. さらに, 分泌 Klotho は NaPi2a の内部移行を促進するこ とで, Pi 吸収を抑制する (Hu et al., 2010). また, 腎臓において分泌 Klotho は形質転換 増殖因子β 受容体 II (TGF-βR2) に結合し, 形質転換増殖因子 β1 (TGF-β1) と競合する ことで, TGF-β1 シグナルを抑制する (Doi et al., 2011).

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4-2. 加齢・閉経と Klotho

Klotho 遺伝子欠損マウスは短命であり, 早い段階で様々な老化様症状 (血管石灰化,

骨粗鬆症, 白内障など) が現われることから, 老化抑制に関与すると考えられている. ヒトにおいては, 加齢に伴って血清 Klotho 濃度が減少する (Yamazaki et al., 2010) (図 1-6).

図1-6. 加齢に伴う血中 Klotho 濃度の低下 (Yamazaki et al., 2010)

aromatase KO マウスの腎臓において, Klotho のタンパクおよび遺伝子の発現が高い が, estradiol 投与によりその発現は通常レベルに戻る (Oz et al., 2007). また, CKD モデ ルラットにおいて, OVX により甲状腺における Klotho 遺伝子発現が低下するが, estradiol 投与によりその発現低下は抑制される (Carrillo-Ropez et al., 2009). これらの ことから, 動物においては, estradiol が Klotho の発現に抑制的に働いていることが示 唆されている. しかし, 一方で, ヒトにおいては, 血中 Klotho レベルに男女差は認め られておらず, 女性の閉経前後で Klotho レベルが変化するという報告はない. したが って, estradiol は Klotho 発現に影響を及ぼす可能性はあるが, ヒトにおいて生理的レ ベルでその影響がどの程度現れるかは定かではない.

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4-3. 疾患と Klotho

CKD 患者においては, 腎臓の Klotho mRNA 発現が低く, 血清および尿中の Klotho 濃度も低い (de Borst et al., 2011). これは, Angiotensin II の増加, Klotho を産生する遠 位尿細管細胞の細胞死, 酸化ストレスなどが原因として考えられている (de Borst et al., 2011). また, CKD 患者における血清 Klotho 濃度の低下は, 腎機能低下, 冠動脈疾 患の重症度, 動脈石灰化などと関連することが示されており, 血中 Klotho 濃度はそれ らの重要なマーカーとなる (Hu et al., 2014).

2 型糖尿病患者においては血漿 Klotho 濃度の低下が報告されている (Liu et al., 2014). この要因として, 炎症や酸化ストレスにより腎臓の Klotho mRNA 発現低下が 示唆されている (Zhao et al., 2011). 血漿 Klotho 濃度の低下は, さらなる炎症や酸化ス トレス, 糖尿病性腎症の病態悪化を引き起こす可能性がある.

乳癌, 肺癌, 大腸癌, 子宮頸癌, メラノーマ等の多くの癌組織では, Klotho 発現の低 下が確認されている (Zhou and Wang, 2014). Klotho は IGF-1/insulin シグナルの活性抑 制を介して腫瘍抑制に働くことから, 癌細胞の増殖および生存を抑制するためのメカ ニズムとして考えられる. 一方, 卵巣癌では卵巣組織中 Klotho 発現が高く, その発現 レベルは癌の進行と関連することが報告されている (Lu et al., 2008). これは, 血管新 生が影響している可能性が考えられている. Klotho 欠損マウスにおいて血管新生の障 害が認められるが, 現時点で Klotho が血管新生を直接的に刺激するかは不明である. 腎疾患, 糖尿病, 癌などの様々な疾患において Klotho 発現が低下することは, 合併 症としての心血管疾患のリスクを高めることになるため, Klotho のコントロールは重 要な課題である.

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4-4. 身体活動と Klotho

65 才以上の高齢男女において, 血漿 Klotho 濃度の低値と日常生活活動障害は関連

することが示されている (Crasto et al., 2012). また, 高齢者において, 血漿 Klotho 濃度 と握力に関連があり, 血漿 Klotho 濃度が低い人では, 握力が低いことが示唆されてい る (Semba et al., 2012). さらに, Klotho 欠損マウスは野生型マウスに比べて, 骨格筋重 量および筋線維径が小さく (Iida et al., 2011), 活動性も低い (Kuro-o et al., 1997). Klotho 低発現マウスは野生型マウスに比べて, 前肢握力が低く, 回転輪における自発 運動は断続的に走る傾向が認められる (Phelps et al., 2013). これらのことから, 血漿 Klotho 濃度の低下は骨格筋系, 心血管系, 呼吸器系の低下による活動性の低下をもた らす可能性が考えられている. このように, 血漿 Klotho 濃度の低下による身体活動へ の影響が示唆されているものの, 運動による Klotho への影響は不明である. 4-5. 血管への Klotho の影響 Klotho 欠損マウスにおいて, 大動脈および腎動脈の中膜石灰化や筋性動脈の内膜肥 厚が認められる (Kuro-o et al., 1997). 血管の石灰化は, 高カルシウム血症および高リ ン血症が一因となる. 血液中に Ca および Pi が高濃度で存在すると, それらからハイ ドロキシアパタイトが形成され, 血管壁に沈着する (Kuro-o et al., 2013). 血液中の Pi 濃度が上昇すると, 骨からの FGF23 分泌は増加し, 腎臓の膜 Klotho は FGF23-Klotho シグナルによりNa 依存性 Pi トランスポーター (Npt2a) の転写を抑制し, Pi 再吸収を 抑制する (Ohnishi et al., 2009). さらに, 血液中の活性型ビタミン D3濃度が高まると 腎臓の膜 Klotho は FGF23-Klotho シグナルにより活性型ビタミン D3合成酵素である Cyp27b1 の転写を抑制し, 活性型ビタミン D3による腸管におけるCa2+再吸収促進作用

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および腎臓におけるPi 再吸収促進作用は抑制される (Medici et al., 2008). さらに, 活

性型ビタミン D3は骨芽細胞および血管平滑筋細胞における RANKL 発現を増加させ

ることから, FGF23-Klotho シグナルは RANKL による骨吸収促進および血管平滑筋細 胞の骨芽細胞様細胞への分化促進の抑制に繋がる (Osako et al., 2010, Zhan et al., 2014). すなわち, これらの膜 Klotho による Pi および活性型ビタミン D3の調節により, 血管

の石灰化は抑制されると考えられている. また, Klotho 欠損マウスにおける大動脈の 石灰化は分泌Klotho タンパクの投与により抑制される (Chen et al., 2013). 血管内皮細

胞への過剰なCa2+の流入は内皮細胞のアポトーシスや透過性を亢進してしまうが, 分

泌Klotho タンパクは Ca2+の過剰な流入を抑制する (Kusaba et al., 2008). さらに, 分泌 Klotho は遠位尿細管における Ca2+再吸収を促進する (Huang et al., 2010). これらの Ca ホメオスタシスの調整を介して, 分泌 Klotho は血管石灰化の抑制に働く.

CKD 患者において, 内膜中膜複合体厚 (IMT) が大きい人では血清 Klotho 濃度が低 い傾向がある (Kitagawa et al., 2013). また, 動脈硬化性疾患のモデル動物として用い

られるOLETF ラットにおいて認められる血管内膜の肥厚および血管周囲のフィブロ

ーシスは, Klotho 遺伝子導入により軽減する (Saito et al., 2000). さらに, 血管内皮細

胞への Klotho タンパク添加は, 酸化ストレス誘導性のアポトーシスと細胞老化を抑 制する (Ikushima et al., 2006). アポトーシスは血管壁のリモデリングを誘導し, 細胞 老化は細胞を肥大させる. これらのことから, 分泌 Klotho は血管壁の肥厚に抑制的に 働くと考えられる. Klotho 低発現マウスは野生型マウスに比べて, NO 産生および内皮依存性血管拡張 反応が低いが, 野生型マウスとの並体結合によって内皮依存性拡張反応は野生型と同 レベルに増大する (Saito et al., 1998). さらに, 血管内皮細胞への Klotho タンパク添加

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は内皮型NO 合成酵素 (eNOS) のリン酸化を促進する (Six et al., 2014). これらのこと から, 分泌 Klotho は液性因子として働き, 血管内皮細胞における NO 産生を亢進し, 血管内皮機能を亢進することが示唆されている.

さらに, 血管内皮細胞への Klotho タンパク添加は酸化ストレスおよび炎症を抑制 する (Buendia et al., 2014; Maekawa et al., 2009). 酸化ストレスや炎症は, 細胞の老 化・アポトーシス, 石灰化, 血管内皮機能の低下など様々な動脈の器質的・機能的因 子に影響する (Wadley et al., 2013). したがって, 分泌 Klotho の酸化ストレス・炎症の 抑制は複合的に血管保護に働く.

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III. 本研究の仮説, 課題, 方法

1. 本研究の仮説と課題 本研究では, 習慣的な有酸素性運動が動脈伸展性を増大させる機序の解明を目的と して, 抗老化因子 Klotho に着目して検討を行った. 習慣的な有酸素性運動が腎臓の膜 Klotho 発現もしくは血液中の分泌 Klotho を増加させ, 動脈伸展性を増大させる機序に Klotho が関与するという仮説を立てた. そこで, この仮説を証明するために, 以下の 検討を行った. ① 動脈石灰化モデルラットにおいて, 長期の自発運動が腎臓の膜 Klotho 発現と動 脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響を検討する. ② 閉経後中高齢女性において, 有酸素性運動能力と血漿 Klotho 濃度の関係を検討 する. ③ 閉経後中高齢女性において, 有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度に及 ぼす影響を検討する. ④ 閉経後中高齢女性において, 血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性の関係を検討する. ⑤ 閉経後中高齢女性において, 有酸素性運動トレーニングが動脈伸展性を増大させ る機序に血漿Klotho が関与するか否かを検討する. ⑥ 閉経後中高齢女性において, 血漿 Klotho 濃度と血管内皮機能および内膜中膜複 合体厚の関係を検討する. ⑦ 閉経後中高齢女性において, 有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度およ び血管内皮機能・内膜中膜複合体厚に及ぼす影響を検討する.

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これらの検討を行うために, 以下の研究課題を設定した. 研究課題 1. 動脈石灰化モデルラットにおける長期の自発運動が膜 Klotho 発現 と動脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響 腎臓における膜 Klotho は Pi のフィードバックに重要な役割を果たしており, その 発現低下は動脈石灰化を惹起する. また, 動脈石灰化モデルラットにおいて, 長期の 自発運動が動脈石灰化を抑制することが報告されている. しかし, 運動による腎臓に おける膜Klotho 発現への影響は不明である. そこで, 研究課題 1 では, 動脈石灰化モ デルラットにおいて, 8 週間の回転輪による自発運動が膜 Klotho 発現に及ぼす影響, さらに内膜中膜複合体の肥厚を抑制する機序に膜 Klotho が関与するか否かを検討し た. 研究課題 2. 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が血漿 Klotho 濃 度に及ぼす影響 これまでに握力と血漿 Klotho 濃度の関係は報告されているが, 習慣的な有酸素性 運動が血漿Klotho 濃度に及ぼす影響は不明である. そこで, 研究課題 2 では, まず閉 経後中高齢女性において有酸素性運動能力と血漿 Klotho 濃度の関係を横断的に検討 した (研究課題 2-1). さらに, 閉経後中高齢女性における 12 週間の有酸素性運動トレ ーニングが血漿Klotho 濃度に及ぼす影響を縦断的に検討した (研究課題 2-2). 研究課題 3. 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が血漿 Klotho 濃 度と動脈伸展性に及ぼす影響

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これまでにCKD 患者における血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性に関する報告はあるが, 健常者における血漿Klotho 濃度が動脈伸展性に及ぼす影響は不明である. そこで, 研 究課題3 では, まず閉経後中高齢女性において血漿 Klotho 濃度と動脈伸展性の関係を 横断的に検討した (研究課題 3-1). さらに, 閉経後中高齢女性における 12 週間の有酸 素性運動トレーニングが動脈伸展性を増大させる機序に血漿 Klotho 濃度が関与する か否かを検討した (研究課題 3-2). 研究課題 4. 閉経後中高齢女性における習慣的な有酸素性運動が血漿 Klotho 濃 度と血管内皮機能および動脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響 有酸素性運動トレーニングによる血漿 Klotho 濃度の増大が血管の器質的および機 能的因子の改善に関与するという仮説を検証することを目的とした. そこで, 研究課 題4 では, 閉経後中高齢女性において血漿 Klotho 濃度と血管内皮機能および頸動脈の 内膜中膜複合体厚 (IMT) の関係を横断的に検討した (研究課題 4-1). さらに, 閉経後 中高齢女性における12 週間の有酸素性運動トレーニングが血漿 Klotho 濃度と血管内 皮機能およびIMT に及ぼす影響を検討した (研究課題 4-2). 2. 本研究で用いた方法 ① 組織染色および大動脈 IMT の測定 組織染色用の組織は採取後10%ホルマリン溶液に 48 時間浸し, 固定した. 固定が終 了した組織は水道水で洗浄後, 70%エタノールに一晩浸し, 段階的にエタノール濃度 を上げ, 脱水処理を行った. その後, クロロホルムに浸し, パラフィンに包埋した. パ ラフィンブロックをミクロトーム (リトラトーム; 大和光機工業) で薄切し, 切片ス

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ライドを作製した. キシレン, エタノール, 水の順番で脱パラフィン処理を施した.

染色法はIMT 測定にはヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色, 石灰化の観察にはコッ

サ染色を用いた. 大動脈 IMT は, HE 染色切片を顕微鏡観察 (倍率 5×) により撮影した

画像からランダムに10 ヶ所を計測した. 1 ヶ所につき 3 回測定を行い, その平均を採

用した. 計測には画像計測ソフト ImageJ 1.46r (National Institute of Health) を使用した.

② ウエスタンブロッティング

組織サンプルをタンパク抽出バッファー [10 mM Tris-HCl, 1% (v/v) NP-40, 0.1% (w/v) sodium deoxycholate, 0.1% (w/v) SDS, 0.15 M NaCl, 1 mM EDTA2Na・2H2O] 中に

てハサミで細切後に, ポッター式ホモジェナイザー (Digital Homogenizer; 井内盛栄 堂) でホモジェナイズした. ホモジェナイズ後のサンプル溶液をエッペンドルフチュ ーブに移し, 4ºC で 30 分間インキュベートした. 4ºC, 15000 rpm, 30 分間の遠心分離後 に上清を分取し, 分析まで–80ºC で保存した. サンプルのタンパク濃度の測定は, BCA 法により測定した. 泳動用サンプルはタンパク濃度が 1 µg/µL になるように調整し (25% NuPAGE LDS sample buffer, 0.1M DTT), 70ºC で 10 分間加熱した後, 直ちに SDS-PAGE を行った. SDS-PAGE は 5–20%グラジェントゲル (長寿ゲル; オリエンタ ルインスツルメンツ) を用いて, 各サンプルを 10 µg ずつウェルに流し, 80 V の定電圧 で120 分間の電気泳動を行った. SDS-PAGE 終了後, 20 V の定電圧で 60 分間のセミド ライブロッティング (トランスブロット SD セル; BIORAD) により, ゲルから PVDF メンブレン (PVDF transfer membrane; PALL) へのタンパクの転写を行った. その後, 5% (w/v) スキムミルク, 1%ポリオキシエチレン (20) ソルビタンモノラウレートを含 むPBS (–) (PBST) 中で, 60 分間振盪することにより, ブロッキングを行った. PBST で

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10 分間, 3 度の洗浄を行った後, メンブレンを一次抗体液に浸し, 室温で 60 分間反応 させた. その後, PBST で 10 分間, 3 度の洗浄を行い, 二次抗体反応を行った. 二次抗体 反応後, PBST で 10 分間, 3 度の洗浄を行った後, ECL-prime により発光させ, ルミノイ メージアナライザー (ImageQuant LAS-4000, Fujifilm) を用いてメンブレンを撮影し た. 一次抗体は抗ヒト Klotho モノクローナル抗体 (Trans Genic, 1:5000) およびマウス α-Tubulin モノクローナル抗体 (Cell Signaling; 1:10000), 二次抗体はそれぞれ抗ラット 抗体 (DAKO; 1:5000) および抗マウス抗体 (Santa Cruz; 1:5000) を用い, 5%スキムミ ルクPBST で希釈した. タンパク発現量の解析は, ImageJ 1.46r を用いて, バンドの計 測を行い, Klotho の発現量を α-Tubulin の発現量で補正した. ③ 身長, 体重, BMI の測定 身長は0.1 cm 単位, 体重は 0.1 kg 単位で計測し, BMI は以下の式から算出した. BMI = 体重/身長2 (kg/m2) ④ 血圧, 心拍数の測定 20 分間の安静後に, 血圧脈派検査装置 (form PWV/ABI; オムロンコーリン社製) を 用いて, 仰臥位にて右上腕血圧および心拍数を同時に測定した. 測定は連続して 2 度 行い, その平均値を採用した. ⑤ 頸動脈コンプライアンス, β スティフネスの評価 動脈伸展性の指標として, 頸動脈コンプライアンスおよび β スティフネスを評価し た. 超音波画像診断装置 (En Visor; Philips 社製) とリニアプローブ (7.5 MHz) を用い

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て, 右総頸動脈の横断面画像を B-mode で記録した. プローブは頸動脈洞から 1–2 cm の位置に総頸動脈長軸に対して 90°に当て, 血管壁の境界面が明瞭に確認できる箇所 を記録した. 画像解析ソフトを用いて, 最大血管径 (心収縮期) および最小血管径 (心拡張期) を測定した. 1 心拍につき 3 ヶ所, 10 心拍分の計測を行い, その平均値を採 用した. また, 同時に左頸動脈からアプラネーショントノメトリーセンサー (form PWV/ABI; オムロンコーリン社製) を用いて頸動脈波形を記録した. 頸動脈波形は上 腕の平均血圧および拡張期血圧によって補正した値を用いた. 頸動脈コンプライアン スおよびβ スティフネスは, 以下の計算式により算出した (Cootez-Cooper et al., 2003; Hirai et al., 1989). 頸動脈コンプライアンス = [(Ds – Dd)/Dd]/[2(Ps – Pd)πDd] β スティフネス = ln (Ps/Pd)/[(Ds – Dd)/Dd] ※ 式における表記は, Ds, 心収縮期最大頸動脈径; Dd, 心拡張期最大頸動脈径; Ps, 心収縮期頸動脈血圧; Pd, 心拡張期頸動脈血圧である. ⑥ 血管内皮機能の評価 血管内皮機能 (FMD) は超音波画像診断装置 (UNEXEF 18G; Unex 社製) および 10 MHz の電子リニア探触子を用いて, 右上腕動脈の血管径から評価した (Iwamoto et al., 2012). 20 分間の安静を取り, 仰臥位にて, まずベースラインの血管径を測定した. そ の後, 前腕に巻いた血圧計のカフで加圧 (安静時収縮期血圧 + 50 mmHg) し, 5 分間 の駆血・開放により虚血反応性充血を起こした. カフ解放後は 3 分間連続的に血管径 を記録した. FMD 値は以下の計算式により算出した. FMD (%) = [(最大血管径 – ベースライン血管径)/ベースライン血管径] × 100

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⑦ 血液生化学データの測定

採血は12 時間以上の絶食条件下で, 血管機能の測定後に行った. 上腕静脈から採血

を行い, 血液を 4ºC, 3000rpm, 15 分間の遠心分離後に, 血清および血漿を–80ºC で保存 した. 血清から総コレステロール, HDL コレステロール, LDL コレステロール, 中性脂 肪を測定した. 総コレステロールは Cholesterol oxidase HDAOS 法, HDL コレステロー ルはMedified Enzymatic 法, 中性脂肪は GPO-HDAOS 法を用いて測定し, LDL コレス テロールは以下のFriedewald 式から算出した.

LDL コレステロール = 総コレステロール – HDL コレステロール – 中性脂肪/5

⑧ 血漿Klotho 濃度の測定

血漿Klotho 濃度は ELISA 法により測定した (Pedersen et al., 2013) (Human soluble α-Klotho ELISA kit; Immuno-Biological Laboratories). サンドイッチ ELISA 法を用い, キ ットに付属のプロトコルに従って, Tetra Methyl Benzidine による発色後に, マイクロ プレートリーダー (iMark; BIORAD) を用いて 450 nm で吸光度を測定し, 比色定量し た. ⑨ 換気性作業閾値の測定 有酸素性運動能力の指標として, 自転車エルゴメーターを用いて, 換気性作業閾値 (VT) を測定した. 40W で 2 分間のウォームアップを行い, その後 1 分毎に 20W ずつ 負荷を上げ, 疲労困憊もしくは年齢から予測した最大心拍数 (220 – 年齢) の 85%に 達した時点で運動を終了した. 運動中の呼気ガス (酸素消費量, 二酸化炭素排出量) は呼気ガス分析装置 (AE280S; 日本ミナト医科学社製) を用いて測定した. 酸素消費

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量と二酸化炭素消費量から2 本の回帰直線を引き, それらの交点を VT とし, VT 時の 𝑉O2を算出した (Maeda et al., 2003).

(41)

IV. 研究課題 1

動脈石灰化モデルラットにおける長期の自発運動が 膜Klotho 発現と動脈内膜中膜複合体厚に及ぼす影響 1. 緒言 動脈の器質的変化は動脈伸展性に影響を及ぼす. 加齢による動脈の器質的変化とし て石灰化があるが, 石灰化は動脈伸展性の低下に繋がる (Cecelja et al., 2013). 特に閉 経後女性は, 骨量減少に伴い血管石灰化が進行するため, 骨粗鬆症と血管石灰化の連 関が問題となる (Kiel et al., 2001; Hak et al., 2000). 血管石灰化の要因として, 高カル シウム血症および高リン血症, 血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への分化などが考え られている. 骨吸収亢進や腎機能低下などにより血液中のカルシウム (Ca) とリン (Pi) が高濃度になると, Ca と Pi の結晶が血管壁に沈着することで石灰化が生じる (Kuro-o et al., 2013). エストロゲンは副甲状腺ホルモン (PTH) による骨吸収を抑制す る (Cosman et al., 1993). また, エストロゲンは血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への 分化に関与するRANKL シグナルを抑制する (Osako et al., 2010). さらに, エストロゲ ンは血管平滑筋細胞へのCa2+チャネルを抑制し, 細胞内への Ca2+流入を抑制する. す なわち, 閉経に伴うこれらのエストロゲンの作用の低下は, 血管石灰化の要因となる. また, 動脈石灰化は頸動脈内膜中膜複合体厚 (IMT) と関連する (Oei et al., 2002). ラ ットにおける卵巣摘出 (OVX) は大動脈の中膜を肥厚させるが, 閉経後女性における 3 年間のエストロゲン投与は頸動脈の IMT を低下もしくは変化させないことが示され ている (Espeland et al., 1995).

(42)

善を引き起こすことが報告されている (Bergstrom et al., 2008; Engelke et al., 2006). ま た, 閉経後の高齢女性において, 身体活動量が高い人では冠動脈石灰化レベルが低い ことが報告されている (Storti et al., 2010). OVX を施したラットでは骨密度の減少と ともに動脈石灰化が生じるが, 長期の有酸素性運動によりこれらは抑制される (Gala et al., 2001). 身体活動レベルは頸動脈 IMT と関連し, 高い身体活動レベルの人では 3 年後および6 年後の頸動脈 IMT の増大が抑制される (Juonala et al., 2010).

腎臓における膜Klotho は FGF23 の共役レセプターであり, 血液中の Pi 濃度が上昇 すると骨からのFGF23 分泌が増加することで, FGF23-Klotho シグナルが活性化し, Na

依存性 Pi トランスポーター (NaPi2a) の転写が抑制され, Pi 再吸収の抑制に働く

(Razzaque et al., 2009). そのため, Klotho 遺伝子欠損マウスは, Pi の血中レベルが高く, 動脈の著しい石灰化が認められる (Tsujikawa et al., 2003; Ohnishi et al., 2009).

これらのことから, 習慣的な有酸素性運動が動脈の石灰化および血管壁肥厚を抑制

する機序に腎臓における膜 Klotho が関与している可能性があるのではないかと仮説

を立てた. しかし, 運動による動脈石灰化の抑制メカニズムにおける腎臓の膜 Klotho の役割は不明である. そこで, 動脈石灰化モデルラットを用いて, 長期の自発運動に

(43)

2. 目的 腎臓における膜 Klotho は Pi のフィードバックを行うことから, 動脈石灰化および 血管壁肥厚に抑制的に働くと考えられる. しかし, 習慣的な有酸素性運動による動脈 石灰化および血管壁肥厚の抑制に腎臓の膜 Klotho が関与するかは不明である. そこ で, 閉経後女性の動脈石灰化の特徴を現すモデルラットを用いて, 長期の自発運動に よる動脈内膜中膜複合体厚 (IMT) に腎臓の膜 Klotho が関与するか否かを明らかにす ることを目的とした. 3. 方法 3. 1. 動物 動物はメスのWister ラット (日本クレア) , 16 頭を用いた. 動脈石灰化の誘導には, 卵巣摘出 (OVX) およびビタミン D3 とニコチン (VDN) を投与する方法を用いた

(Park et al., 2008). すべてのラットに 8 週齢で OVX を行い, 術後 1 週間の回復期間の 後, 9 週齢でビタミン D3とニコチンの投与を行った. ビタミン D3 (300,000 IU/5ml/Kg,

cholecalciferol; Sigma) は 筋 肉 内 注 射 , ニ コ チ ン (25mg/5ml/kg, nicotine hydrogen tartrate; Sigma) は経口ゾンデにより投与した. その後, 運動群, 対照群の 2 群にランダ ムに分け, 運動群のケージには回転輪を設置した. 8 週間の運動期間中, 回転輪の回転 数を記録し, 走行距離を算出した. 運動期間終了後, 麻酔下にて開腹し, 腹部大動脈 から血液を採取した. その後, 大動脈, 腎臓, ヒラメ筋を採取し, 重量を測定した. 大 動脈および腎臓は半分に分け, 一方はタンパク分析用としてすみやかに液体窒素で凍 結し, –80ºC で保存した. もう一方は, 組織染色用として 10%ホルマリン溶液に浸した. さらに, 卵巣を完全に除去できていたかを判定するために, 子宮の退縮を目視により

(44)

確認した. 動物は筑波大学動物実験取扱規定に準じた飼養管理を施し, 自由採食, 自由飲水と した. 室温 24ºC, 相対湿度 50%, 光周期を明期 12 時間とした. 3. 2. 測定項目および測定方法 3. 2. 1. 血液生化学 血液は4ºC, 2500 rpm で 15 分間の遠心分離を行い, 血清を分取した. サンプルは分 析まで–80ºC で保存した. 血清から Ca, Pi, 血中尿素窒素 (BUN), クレアチニン (Cre) の濃度を測定した. Ca は MXB 法, Pi はモリブデン酸直接法, BUN は Urease-GLDH 法, Cre は酵素法により測定した. 3. 2. 2. 組織染色 大動脈および腎臓を採取し, 組織切片を作製した. 固定は 10%ホルマリン溶液を用 い, パラフィン包埋を行った組織片を薄切し, 切片スライドを作製した. その後, HE 染色およびコッサ染色を行った. HE 染色像から大動脈 IMT 計測し, コッサ染色像か ら石灰化の観察を行った. 3. 2. 3. ウエスタンブロッティング 腎臓組織から抽出したタンパクを用いてウエスタンブロッティングを行った. 一次 抗 体 は 抗 ヒ ト Klotho モノクローナル抗体 (Trans Genic, 1:5000) およびマウス α-Tubulin モノクローナル抗体 (Cell Signaling; 1:10000), 二次抗体はそれぞれ抗ラット

(45)

発現量の解析は, ImageJ 1.46r を用いて, バンドの計測を行い, Klotho の発現量を α-Tubulin の発現量で補正した.

(46)

4. 結果 解剖時の子宮の目視により, 3 頭 (運動群 1 頭, 対照群 2 頭) は卵巣を完全に摘出で きていなかったと判断し, 検討から除外したため, 最終的に運動群 7 頭, 対照群 6 頭を 分析に供した. 体重は運動群と対照群で違いは認められなかった (図 2-1). 運動群に おける1 日あたりの走行距離の平均は 2554 ± 192 m であった (図 2-2). 運動群では対 照群に比べてヒラメ筋重量が有意に大きかったことから, 運動の効果が得られたと考 えられる (P < 0.05; 図 2-3). コッサ染色像の観察により, 腎臓の石灰化は運動群・対照群のすべてのラットで確 認された (図 2-4). 一方, 大動脈においては石灰化と思われる箇所が一部認められた ものの, 著しい石灰化は認められず, 群間での比較が困難であった (図 2-4). しかし, 大動脈IMT は運動群が対照群に比べて有意に小さかった (P < 0.05; 図 2-5). 腎臓における膜 Klotho タンパク発現は群内でも個体差が大きく, 群間で有意な差 は認められなかった (P = 0.440; 図 2-6). また, 走行距離と Klotho 発現, Klotho 発現と IMT には有意な相関関係は認められなかった (それぞれ R = 0.502, P = 0.251; R = -0.417, P = 0.157; 図 2-7).

血管石灰化の要因となるCa および Pi, 腎機能の指標である BUN および Cre の血清

(47)

表 1. ラットのミネラルおよび腎機能指標の血清濃度 測定項目 対照群 運動群 n 6 7 Ca, mg/dL 9.10 ± 0.05 8.86 ± 0.46 Pi, mg/dL 6.13 ± 0.20 6.66 ± 0.32 BUN, mg/dL 17.5 ± 1.2 16.1 ± 1.0 Cre, mg/dL 0.34 ± 0.02 0.33 ± 0.02 平均値 ± 標準誤差.

(48)

150

200

250

300

350

0

2

4

6

8

, g

,

Sed

Ex

2-1. . ± .

(49)

1000

2000

3000

4000

0

2

4

6

8

, m/

d

ay

,

2-2. . ± .

(50)

2-3. . ± .

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

Sed

Ex

/

, mg/

g

P < 0.05

(51)

50 µm

50 µm

2-4. ( ) ( ) .

, .

(52)

120

130

140

150

160

Sed

Ex

IM

T

, µ

m

50 µm

P < 0.05

A

B

2-5. IMT. A, HE . B, IMT. ± .

(53)

α-Tubulin

Klotho

A

B

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

Sed

Ex

K

loth

o

, ar

b

itr

ar

y u

n

it

2-6. Klothot . A, . Klotho

(135 kDa), α-Tubulin (52 kDa). B, Klotho

(54)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

1500

2000

2500

3000

3500

K

loth

o

, ar

b

itr

ar

y u

n

it

, m/day

100

120

140

160

180

0

1

2

3

IM

T

, µ

m

Klotho

, arbitrary unit

1

2

A

B

2-7. Klotho IMT . A, Klotho . B, Klotho IMT .

図 1-4. Klotho 遺伝子欠損マウスにおける大動脈中膜の石灰化   (a)
図 1-5.  膜 Klotho の切断による分泌 Klotho の遊離   (Huang et al., 2010 より改変 )
図 1-6.  加齢に伴う血中 Klotho 濃度の低下   (Yamazaki et al., 2010)

参照

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