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農業の市場再設計

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Academic year: 2021

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流通市場から考える国内農業の改革について

―所有権理論と取引費用理論を用いてー

<要約> 日本の農業では従来の市場取引の仕組みに対して、卸売市場を通さないで出荷側と小売 等の消費側が直接取引をする割合が増え続けている。本稿の目的は第一に現状の農業市場 の構造的問題点は何か、それを流通市場の観点から考えることであり、直接取引が増加し ている理由を理論的に分析することでそれを示す。直接取引は増加しているが日本全体の 農業生産額を上昇させているわけではないことから現状の限界にも言及する。そして第二 に現状の問題点を踏まえた上で構造改革の政策提言に言及することである。市場取引と市 場外取引の分析には取引費用を用い、構造的問題には所有権理論を用いて分析し、2つの 理論の分析結果から政策提言を行う。 丹沢 安治ゼミナール 中央大学 総合政策学部 政策科学科 学籍番号:06W1405002C 上田 直幸

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<目次> 1.はじめに 1-1 問題意識と研究目的 1-2 本稿の構成 2.流通構造の理解と農業市場の概況 2-1 国内の農作物流通構造 (a)青果の国内総流通量 (b)青果の卸売市場経由率 2-2 農業市場の概況 (a)農業総産出額 (b)生産農業所得 (c)農業就業人口 (d) 農業経営体経営収支の動向 (e)生産・流通経費の構成 3.先行研究・理論的枠組みの提示 3-1 農業構造改革の先行研究 3-2 取引費用理論 3-3 所有権理論 4.理論的分析 4-1 仕入れコストの総和 4-2 農業市場の所有権問題 4-3 分析モデル 5.政策提言 6.結論

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1 はじめに 1-1.問題意識と研究目的 日本の農業問題が取り上げられて久しい。日本は世界で最も食に関しては多様で豊かな 国であると言えるがその足腰は非常に弱い。農家の所得である生産農業所得は10 年以上減 尐傾向が止まっておらず、また農業就業者の高齢化による引退や事業の不成立から耕作放 棄地が未利用の資源として放置されている。農業は日本にとって脆弱な産業の代名詞であ り、その国際競争力の弱さは結果として日本の農業総産出額の低下が示している。日本の 農業がなぜこのような事態になったのかを考えることが、問題意識のスタートであった。 ここ10 数年の間に日本の農業市場では、卸売市場を通さないで出荷側と小売等の消費側 が直接取引をする割合が増え続け、それによって農業法人の成功事例も多数出てきた。日 本農業の構造改革を考えるうえで、いくつかの農業法人の成功事例を取り上げ、彼らのや り方を他の農業法人も参考するよう提言している著書は多数存在する。しかし理論的枠組 みで現在の市場の構造的な問題点を説明した上で、農業市場の構造をダイナミックに改革 させる政策提言を行っているものはない。 本稿の目的は第一に現状の農業市場の構造的問題点は何か、それを流通市場の観点から 考えることである。既存の制度を否定するように直接取引が増加しているがその理由を理 論的に分析することである。直接取引は増加しているが日本全体の農業生産額を上昇させ ているわけではないことから、現状の限界にも言及する。そして第二に現状の問題点を踏 まえた上で、構造改革の政策提言に言及することである。市場取引と市場外取引の分析に は取引費用を用い、構造的問題には所有権理論を用いて分析し、2つの理論の分析結果か ら政策提言を行う。 なお本稿では農業の中でも青果物の市場に範囲を限定することを確認しておく。すなわ ち、食肉や牛乳・卵、米・麦などの穀物は範囲外とし扱わない。これらを同一に扱わない のには2つ理由がある。1 つは食肉以外に当てはまることだが流通プロセスが青果と異なっ ているからである。特に牛乳・卵は卸売市場という仕組みを取っていないため同一に扱う ことはできない。2 つ目に食肉・穀物に当てはまるのだが財の性質が青果と異なっているか らである。青果に比べはるかに貯蔵、保存期間が長くそれを生かしたビジネスモデルが行 われているため、一括りに農作物として分析の対象にすることが難しい。また今回は青果 物を加工しての販売は研究の対象外とした。青果物の財の特徴であり難しさの1つは貯蔵 困難性であり、ここを踏まえた市場構造の改善を研究することに価値があると考えている。 1-2.本稿の構成 まず第二章では現在の日本の農業市場を現状の農業流通の仕組みや農業という市場の現状 をデータも用いながら明らかにする。第三章では農業の構造改革の先行研究として影響を 受けた井熊均・三輪泰史の『甦る農業』を紹介するとともにその不足を示し、理論的枠組 みとして本稿の分析に用いる取引費用理論、所有権理論を説明する。第四章では理論的枠

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組みによる分析を行うとともに複数の理論を組み合わせることによって分かる農業の構造 的問題を示す。そして第五章では問題点を踏まえた上での政策提言を行う。 2 流通構造の理解と農業市場の概況 2-1 国内の農作物流通構造 日本の青果物の流れを示したのが図1)である。まず出荷側から消費側へ流れるには 2 種類 のルートがある。それは市場取引と市場外取引である。市場外取引は出荷側と消費側とで 直接契約を行っている場合である。個人の農家と個人宅が結んでいる取引から出荷組合と 小売業者が結んでいる場合までケースは様々だが、構造としては単純な取引である。一方 で卸売市場を通るルートは多尐複雑になる。出荷者は1つの農業法人の場合から農協など の集荷団体まで規模は様々だが、市場を通す場合、まずその市場の運営会社(大卸)に青 果物を全て委託することになる。その際出荷団体は全国の卸売市場で一番高値を付ける市 場を見極めながら出荷し、大卸は委託された青果物は拒否することはできない。大卸に委 託された青果物は市場内の中卸業者や売買参加者にセリや相対によって、売られていく。 売買参加者とは市場内で売買を許可された者のことであり、例えば町の八百屋などがこれ に該当する。セリとはその日に着た青果物を競売することであり、相対とは過去の相場な どを参考に事前に量と価格の交渉を行うことである。現在大きな市場であるほどセリの行 われる割合は減っており、特に日本最大の青果市場である大田市場では売買される青果の9 割が事前の相対である。その理由は、小売業の商売が現物が来てからでは間に合わないた めである。事前にチラシなどに目玉商品の宣伝をする大手小売では、その日になってみな いと何をいくらで仕入れられるか分からないセリでは都合が悪いため相対の取引が行われ ている。なお小売業者には卸売市場での売買参加資格がなく、また大卸が直接小売業者に 売ることは市場法で禁止されているため中卸業者が仲介に入っている。基本的に卸売市場 に入ってくる青果物は出荷者側からの委託だが、相対取引で決まった数量が確保出来ない 可能性がある場合、大卸が買付を行うこともある。

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なお卸売市場には2種類あり全国各地に存在する。1つは農林水産大臣の認可制である中 央卸売市場である。これは例えば東京では東京青果株式会社が運営する大田市場、東京シ ティ青果株式会社が運営する築地市場、大果大阪青果株式会社の運営する大阪市中央卸売 市場などがあり全国に76 か所ある。もう1つは都道府県知事の許可制である地方卸売市場 がありこちらは全国に1207 か所ある。どちらも基本的な機能は同じであるが、中央卸売市 場の方が取扱数量、売上高ともに大きく、農業市場に多数存在する卸売市場のなかでも存 在感を持っていると言える。

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(a)青果の国内総流通量 1 これは農林水産省のデータをもとに作成したグラフである。国内の青果物の流通量は平成 元年からほぼ変わらず横ばいであることがデータからうかがえる。ここから分かることは、 日本において流通する青果物の総量が増える見込みはなく、市場が成熟しているというこ とである。また市場規模を拡大するためには総量よりも青果物1つ、1つの価値を高める 必要があるということである。 (b)青果の卸売市場経由率 2 先ほどの(a)のグラフで国内の青果物流通量は横ばいが続いていることを示したが、にも かかわらずこのグラフから分かるのは、青果物の卸売市場経由率は、平成に入って数字の 1,2農林水産省(2010)卸売市場情報『卸売市場の現状』 をもとに作成

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下降が続いているということである。特に果実は顕著であり、20年間で経由率は約半分 になった。市場経由に代わる方法としてこの20年間に数字を増やしたのは、生産団体の 小売が市場外で行う直接取引である。 2-2 農業市場の概況 (a) 農業産出額 3 2-1(a)のグラフにおいて日本の青果物の総量はここ20年変化していないことは述べたが、 にもかかわらず青果物の国内における産出額は減尐が続いている。これは国内の農作物価 値がここ20年間で減尐し続けているとも言い換えられる。 3農林水産省(2010)生産農業所得統計『平成 20 年農業総産出額(概算)(全国)』 をもとに 作成

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(b) 生産農業所得 4 総産出額に比例して、農業を行ったことによって得られる所得を示す、生産農業所得もこ の20年間で下がり続けていることが分かる。また総産出額のうちの何%が所得になるか を示す生産農業所得率もその値が減っていることから、現在農業という市場は市場規模全 体が縮小しつつ、なおかつ農作物生産者はその中の取り分が減り続けている状況にあると 言える。 (c)農業就業人口 5 そのような状況で現在農業に就業する人口数を示したのが(c)グラフである。農業就業人口 4 農林水産省(2010)生産農業所得統計『平成 20 年農業総産出額(概算)(全国)』 をもと に作成 5 農林水産省(2010) 農林業センサス、農業構造動態調査(農林水産省統計部) をもとに作 成 千人

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は20年前の60%程度に減尐した。減尐したということは採算の取れなかった経営体が 事業から撤退したということであり、人的資源の再配分の動きが進んでいるということで ある。この減尐していることが適切であるか問題であるかどうかには触れないが、現状の 青果物の生産農業所得に対してこの就業人口では多すぎることは示唆しておく。平成20 年の生産農業所得はグラフ(b)で示した通り約3兆円である。これに対して平成20年の農 業就業人口は300万人であるから、3兆円÷300万人=100万 となり、1人辺り 農業の生産から得られる所得は年間でわずか100万ということになる。 (d)農業経営体経営収支の動向 6 実際の農業経営体の経営収支の動向を示したのがグラフ(d)である。やはり農業によって得 られる所得は、平均すると役100万であり、後は農業以外の所得で生活しているのが、 日本の農業経営体の現状である。この農外所得とは例えば兼業農家では、農業以外の仕事 から得られる収益、あるいは政府などの補助金、また高齢者であれば年金などが当てはま る。農業のみで生計を立てている農業従事者はわずかであるというのが日本の現状である。 6 農林水産省(2010)農業経営統計調査 『個別経営の経営形態別経営統計』(経営収支)を もとに作成

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(e)生産・流通経費の構成 最後に本論の流通改善によって日本の農業市場を改善する意義について、流通費が農作物 価格に与える大きさを示す。 このグラフが示す通り、例えばほうれんそうは、出荷経費・卸経費・小売経費の合計が5 8%と小売店並んだ際の価格のうち 58%が流通コストであることが分かる。またトマトに 関しても 45%と小売店に並んでいる際の価格の約半分が流通のコストによって生じている ものであることが分かる。つまり現状青果物の価格の大きな決定要因となっているのは、 流通コストであり、このコストを削減することで国内農業市場全体の改善に繋がることが 伺える。 3.先行研究・理論的枠組みの提示 3-1 農業構造改革の先行研究 井熊均・三輪泰史は著書『甦る農業』の中で、既存農作物流通の限界を指摘し、農業法人 に卸売市場に頼らない新たな販路の拡大を提唱している。卸売市場の問題点として①卸売 市場が商品の価格決定に関与できない販売チャネルであることによる不安定性(卸売市場 で高値が付いてしまうことのリスク)、②農作物の画一化による付加価値化の困難性③多段 階マージンによる高コスト化を上げている。特にコストに関しては多段階の流通による中 間マージンよって、生産者の手取りを圧迫し、収益性を低下させていると指摘している。 また輸送費は中間マージンの大きな割合を占める流通経費であるが、この点も輸送ルート が 2 段階になることによって輸送経路が伸び、積み込み、積み下ろしの作業が複数回にな ることによる費用増加を指摘しており、この多段階輸送による商品の鮮度务化、品質务化 が結果的に生産者の手取りを減尐させること述べている。

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この考えに基づけば卸売市場を通さないことで、農家の手取りは増え、小売は仕入れ価格 を安く抑えられることによるWin-Win の関係が成立する。ただしここには、取引費用の考 えが欠落している。詳しくは次で述べるが、農家と小売とが取引を行う際にかかる費用が、 市場を使う場合と比べて増える手取り以上にかかる場合には、直接取引は成立しないと考 えられるため、市場取引と市場外取引を行う際の両者の取引費用を比較する必要性が存在 する。 3-2 取引費用理論 取引費用とは交換の当事者が財・サービスの交換のために負担すべき、すべての犠牲や デメリットである。特に以下の 5 つのものがあげられる。①開始における調達、販売、開 発、そしてその製造準備のために必要な旅費、コミュニケーション費用、コンサルタント に対する費用、一定の共通経費。②合意への到達における交渉費、法的助言に関わる費用、 販売、開発、製造そして調達間の同期化と計画の費用。③実行における交渉プロセスの統 御、管理のためのコスト。④コントロールにおける品質、納期の監視、調達のベンチマー クの決定。⑤事後処理における事後的な品質、数量、価格または納期に関する変更のため に生ずる追加費用。これらは金銭的に把握できるものだけでなく努力や時間といった、定 量化の難しいデメリットも考慮しなければならない。 取引費用理論では行為者の限定された合理性と機会主義という2つの中心的な行動上の 特性として仮定している。経済主体は合理的に行動しようという意思を持っているが、そ のための十分な情報を持っていない。1つの理由としては人間の理性には情報処理能力に 限界があるということである。もう2つ目の理由はある特定のクラスの知識は、言語によ ってコミュニケーションすることができないというものである。例えば実務の経験によっ

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て培われた能力やスキルは言葉では表せないし、伝えることはできない。また経済行為者 は個人の効用最大化のために他人の不利益を引き起こしたり、社会的規範を無視すること もあると考える。 取引費用を決定する重要な環境条件は取引の不確実性、特殊性、戦略的意義、頻度と測 定問題である。不確実性は取引が行われる財・サービスの提供に関する取り決めに必要と される変更の回数と度合いであり、変更の必要性が頻繁で予測できないほど取引費用は増 加する。特殊性とは資源をその取引にしか利用できない資産に投資する場合であり、特殊 性を伴う場合、経済行為者はより機械主義的行動をする。戦略的意義とはもしそれが高度 に特殊な資産への投資であるために躊躇されるような取引でも戦略的に重要であれば行わ れるということである。頻度が問題となるのは取引が高い頻度で行われ、長期契約によっ て当事者間の結びつきが強まる場合、取引費用は低下するからである。取引の結果や取引 した製品の品質評価の際に探索コストやコントロールコストが吊り上る場合取引費用は増 加するという点で測定問題も影響する。 3-3 所有権理論 ある財に対するプロパティー・ライツは4つの権利に分けられる。①財を利用する権利、 ②財の形態と内容を変更する権利、③発生した利潤を自分のものにする権利または損失を 負担する義務、④財を譲渡し、清算による収益を受ける権利である。またオリバー・ハー ト、オリバーウィリアムソンによれば資産の所有者は以下の2つの権利を有していること になる。Ⅰその資産が生み出すあらゆる残余収益を受ける権利、Ⅱ資産の使用方法につい ての究極的な権限である残余コントロール権である。所有者は予測できないことが発生し たときの残余請求者として一方的に意思決定し、対処することができるという点からその 資産を生産的に活用するインセンティブを持つとされており、すなわち資産の価値を左右 する力が最もある人間が所有者になることが効率的であると考えられている。またジョ ン・マクミランは著書『市場を創る』において所有権・財産権の重要性をベトナムのトラ ック会社を例で次のように説明している。 ベトナムのトラックは以前は国家によって所有されていた。あるいは、われわれの所有 権の定義と整合的に正確に言うならば、トラックは誰にも所有されていなかったことにな るだろう。残余コントロール権は曖昧で、トラックに対する究極的なコントロール権を誰 が持っているのかは不明確であった。またトラックによって生み出された残余収益を受け る権利は誰にもなかった。ドライバーに所有権を与えることは、ドライバーに残余コント ロール権を与えることである。官僚的なルールや手続きから解き放たれて、ドライバー達 はありとあらゆる臨機応変な方法を用いてトラックを修理することが出来るようになり、 スペアの部品をあさったりすることが出来るようになった。所有権はまた、ドライバー達 に残余所得分を与えたので、ドライバー達は、トラックを走らせておくインセンティブや

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もっと儲かるようなトラックの新しい使用方法を見つけるインセンティブを持つようにな った。 4.理論的分析 4-1 仕入れコストの総和 取引費用を用いることにより仕入れコストの総和は、(a)仕入れ価格+(b)取引費用である。 仕入れコストが市場取引よりも低くなるのは、前章で説明した。 この場合 手取り-取引費用<300 では市場外取引は選択されない。取引費用を低く抑え るには前章で述べた環境条件に依存する。農作物は天候など外部条件によって収穫に影響 が出やすい財であるため、取引の不確実性を減らすにはある程度のリスクに耐えうる規模 が必要となる。それは農家という零細家族経営ではない農業法人や農協単位との取引で可 能となる。さらに多くの農業法人はある作物という財の専門企業であり、簡単に作物を切 り替えることはないため、それらの作物の生産と販売を繰り返すことになる。一定の高い 頻度での取引が行われ、長期契約によって当事者間の結びつきを強くできれば、取引費用 は低減する。さらにある付加価値を農作物に与える戦略を小売と出荷者側とで取っていれ ば、特殊性、戦略的意義、測定コストの観点から、取引費用は低減する。 ここで分かるのは財の活用のために戦略的な活動を取れば、取引費用は低減できるという ことであり、市場外取引のメリットを享受できるということである。 しかし現実問題として財である農作物を販売するために戦略的な活動をしている農業法 人や農協は稀である。それは現状の農業市場の構造における所有権の分配問題に起因する と考えられる。 4-2 農業市場の所有権問題 まず農作物の価格決定において市場取引では不公正が存在する。卸売市場において価格

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決定を行うのはセリの場合には売買参加者間の競り合いであり、相対取引の場合において も過去の相場と大卸と中卸業者との交渉によって決定され、出荷側の意向は反映されない。 つまり大卸が常に一定のマージンを得られるのに対し、農家はその手取りを外部者に依存 するという構図になる。そのため大卸には財の価値を生産的に活用するインセンティブを 持たない。農家が自身の財である農作物の価値を上げるためには、市場外の取引を行うこ とが必至であるが所有権の問題に起因して起こっているのが、農作物の需要・供給のアン バランスであり、これが農作物の価値を抑える要因になっていと考えられる。 市場外取引の優位性は取引する農作物Aが希尐で付加価値があるほど実現されやすい。 逆に農作物Aが市場で過剰にある場合、その作物を市場外取引によって購入させるのは難 しい。例えば農作物Aの市場の需要が100であるのに対して、供給が300ある状況を 考える。大卸は野菜が入れば常に一定のマージンが入るため、また市場法により過剰の入 荷(供給)であることを承知していても数量調整をするインセンティブを持たない。する と過剰に供給されるAに対して、中卸は原価割れ価格や本来の価格よりも低い評価額から の価格提示が可能となり、結果その先にいる小売は、市場外取引を行う必要もなく市場か ら安く購入することが可能となる。 これが起こるのには2つの原因が考えられる。1つは農家から小売までの多段階流通プ ロセスの結果、需要の発信元である消費側に出荷側が遠くなり過ぎていることである。2 つ目の理由は、大卸が必ず引き取るという了解があるために供給過多、生産の過剰投資を 行った際の責任づけがなされていないためである。それは大卸にも多量に仕入れた際の責 任づけがないということと同義である。 しかし農家にとってこの市場構造は作りさえすれば引き取るという構図でもある。特に 零細農家にとって市場外取引を行うために環境条件を整えるのは困難なため現行のシステ ムから脱却するのには大きなリスクを伴う。国内の多くの農家は零細であるためにリスク 回避的であり、資産を生産的に活用させるインセンティブは尐なく、結局現状の卸売市場 システムを利用すると考えられる。

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5.政策提言 問題となるのは①取引費用を低減させるための外部環境を整える政策、②農作物の所有 権問題を解決することによる資産の最適な活用にインセンティブを持たせることの 2 点で ある。そのため私はⅠ農業の法人化の推奨・企業参入の緩和による取引費用削減とⅡ卸売 会社の青果物取引仲介会社への改革による取引費用の提言と所有権の明確化を提案する。 Ⅰ農業の法人化の推奨・企業参入の緩和による取引費用削減 青果物の生産にとって天候という外部環境による収穫不良のリスクは、小売と農業法人 が取引の意思決定をする際に考慮しなければならない取引費用として常について回る。ま たあるタイミングで偶然にも青果物 A が豊作となり、市場価格が大きく下落してしまう場 合ことも小売企業にとっては大きなリスクであるから考慮に入れる必要がある。このよう な外部環境のリスクを考慮しながら取引関係を結ぶには、お互いにある程度リスクに耐え うる組織構造である必要がある。国内の農家には家族経営のような零細農家が多いが、直 接取引のメリットを農作物生産者全体に享受させるためには、農家の農業法人化が必須で ある。また法人経営を行うことで特殊な資産への投資と戦略的な互恵関係の構築を生産側 と小売側とで築くことも可能である。そのような点からも農家の農業法人化の推奨は必然 であり、農地の取得に関する優遇や特殊な財を生産するにおける農機具や種子の購入など 関係特殊資産への投資の補助を国・都道府県のみならずパートナーとなる小売側からも展 開することが望ましい。さらには現状参入に規制がかかっている企業の農業生産を緩和し、 効率的な生産を行う企業の推奨を進めるべきである。 Ⅱ卸売会社の青果物取引仲介会社への改革による取引費用の提言と所有権の明確化 農作物の所有権問題を引き起こしているのは、現状の市場法に基づく卸売市場の仕組み である。これらは戦後の日本において質よりも安定した量を求めた時代、そして高度経済 成長においてやはり総量を求められ一定量を安定的に適切な価格帯で供給するには効率的 に機能したシステムだが、環境の変化によって総量よりも財それぞれの価値に重点が置か れた際には、価格決定に生産者や大卸が関与できないシステムであること、農作物の画一 化によって付加価値化が困難であることによって時代にそぐわなくなってきた。またこの 卸売市場という制度は、制度を継続するうちに農業という産業に弱体性をもたらしていっ たと言うことができる。それはどのような農作物でも引き取るという卸売市場という仕組 みを続けたことによって、安定した収益を得られる安心を生産者に与えた代わりに、所有 権の責任のあいまいさによって革命的な生産効率の改善を起こそうというイノベーション を起こさせなくなった。また売れないものを作ることのリスクや生産側自身に顧客と言う 概念やマーケティングといった消費者側を意識した思考を失わせた。結果ゆるやかに後退 し、ある時期においてもはや非効率になったということである。 卸売市場(大卸)には、農業法人や農協などの生産者側と小売業などの消費者側から多 くの情報が集まるという点で、取引費用理論が重要視している情報格差の問題を是正する

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役目を担える組織である。旧来のように大卸や仲卸が仲介する流通では中間マージンの発 生で価格が高騰してしまうためこのような手数料ビジネスではなく、今後は卸売企業を生 産者と小売業者が取引関係を結びやすくするアドバイザー、仲結び会社に転換することを 提案する。これは生産側と消費者側双方のことをよく知る大卸が、取引パートナーとして 適切なもの同士をつなげ、さらに生産に関するリスクや関係特殊資産への投資の一部を補 助してはどうかということである。輸送において途中の荷積み分けが必要であれば今まで 通りの市場の敷地を利用させ、最適な青果物流通を考える専門企業に卸売企業をすること を提案する。 6.まとめ 本稿では国内農業が停滞・弱体化している要因を流通市場の観点から考えた。それは青 果物の価格に占める流通コストが全体の役半分という大きな割合を占めているためである。 従来の卸売市場を経由する手法と近年増加した生産者・小売側との直接取引とを比較分析 した結果、直接取引を拡大していくことが生産者側・小売側双方に利益があることが判明 し、これを推進することが望ましいという結論のもと政策提言を行った。しかし、実際の 実行可能性や実行にける現状の生産者や仲卸業者など各事業者への影響については十分に 考えられていない。農業市場の改革に向けて考えなければならない問題は多く残るが、日 本における流通制度改革の1つの概念を提示したとして理解して頂けたら幸いである。 謝辞 本稿を執筆するにあたり 1 年生の基礎演習も含めると五年もの間ご指導を頂けました丹 沢先生、卒業されていった先輩方や同期、後輩といった多くの方からご教授とご協力を頂 きました。多くの方々とゼミナールを通じてお付き合い頂けたことをこの場を借りて心よ りお礼申し上げます。

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<参考文献> 書籍 ・デイビッド・べサンコ他 :『戦略の経済学』 奥村昭博他訳 (2002) ダイヤモンド社 ・ジョン・マクミラン:『市場を創る』 瀧澤弘和/木村友二訳(2007) NTT 出版 ・スイッツェ・ダウマ他 :『組織の経済学入門』丹沢安治 他訳(2007) 文眞堂 ・ アーノルド・ピコー他 : 『新制度派経済学による組織入門』丹沢安治 他訳(2007)白桃 書房 ・ 永田啓恭:『市場と制度』(1993)阿吽社 ・ 金子勝:『市場と制度の政治経済学』(1999)財団法人東京大学出版会 ・井熊均・三輪泰史:『甦る農業』(2009)学陽書房 ・ 財部誠一:『農業が日本を救う』(2008)PHP 研究所 ・ 鈴木忠和:『青果物市場の経済学と制度学』(1990)巌南堂書店 ・ 堀田学:『青果物中卸業者の機能と制度の経済分析』(2001)財団法人農林統計協会 論文 ・古村敏之(2007) :『法人による農業の経営戦略に関するー研究』 中央大学大学院研究年 報 10 号 ・関根佳恵(2006):『多国籍アグリビジネスによる日本農業参入の新形態』歴史と経済第 193 号 ・谷口葉子:『卸売市場における有機農作物の取引形態と流通の円滑化に関する考察』 神 戸大学農業経済 ・菊池哲夫(2009):『地方卸売市場卸売会社の経営破綻と再建の課題』東京農大農学集報,54 (1),1-9(2009) 資料 ・ 農 林 水 産 省 ( 2010 ) 卸 売 市 場 情 報 『 卸 売 市 場 の 現 状 』 http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sijyo/info/pdf/2genjyou.pdf ・ 農林 水産 省(2010)生産農業所得統計『平成 20 年農業総産出額(概算)(全国)』 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/pdf/sansyutu_gaisan_09.pdf ・ 農 林 水 産 省(2010) 農 林 業 セ ン サ ス 、 農 業 構 造 動 態 調 査 ( 農 林 水 産 省 統 計 部 ) http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html ・農林水産省(2010)農業経営統計調査 『個別経営の経営形態別経営統計』(経営収支) http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/einou_syusi/pdf/syusi_08.pdf ・野菜政策に関する研究会(2005) :『野菜政策の基本的方向』

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