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論文の内容の要旨

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

遷移金属錯体を用いて有機分子内の炭素-炭素 (C–C) 結合や炭素-水素 (C–H) 結合を切断す る反応は、炭化水素やオレフィン類、ベンゼンのような単純な有機分子を官能基化された有用な分 子へと直截的に変換する反応として、近年活発に研究されている。例えば末端アルキンは遷移金属 錯体と反応させることで、C–H 結合の切断とH の転位によりビニリデンに異性化することが知ら れており、この骨格変換反応を鍵としたさまざまな末端アルキンの変換反応が開発されてきた。こ の反応を炭素二置換内部アルキンで達成できれば新しい形式の C–C 結合活性化となることに加 え、従来末端アルキンに限定的であったビニリデンの化学を内部アルキンにまで展開することがで きると期待される。しかし、この反応はこれまで内部アルキンには適用し難いと考えられており、

本研究が行われる以前は基質がアシルアルキンに限定された反応が少数例知られているのみであ った。本論文は、種々の内部アルキンからビニリデン錯体を合成する反応の開発とその特徴や反応 機構に関する検討、さらにはそれと関連した反応である金属中心の遠隔転位による C–H 結合活性 化に関して研究を行った成果をまとめたものであり、全5章から構成されている。

第1章は序論であり、C–H、C–C 結合の活性化、ビニリデンの化学、金属中心の遠隔転位による CH活性化に関して総説した。

第2章では、ルテニウムや鉄錯体と種々の内部アルキンの反応からビニリデン錯体が生成する反 応を開発した。また、アルキン上の置換基による反応性・転位能の変化を実験的に解明し、分子軌 道計算をも援用して、本転位反応のメカニズムを解明した。加えて、アルキン-ビニリデン異性化 が可逆のプロセスであることも明らかとしている。

第3章では、インデニル基を有するルテニウム錯体と内部アルキンの反応から、内部アルキンの インデニル-ルテニウム間への挿入/β-炭素脱離と内部アルキンのビニリデン転位という二種類 の C–C 結合活性化反応の競合を初めて観測した。

第4章では、フェニル基を有するロジウム三価錯体と内部アルキンの反応から、ロジウム-フェ ニル間へのアルキン挿入、続く 1,4-ロジウム転位によってフェニル基のオルト位の C–H 結合が活 性化される反応を見出した。また、フェニル基の置換基効果を調べる過程で、この 1,4-転位反応は 可逆のプロセスであることを明らかとした。さらに、イリジウム三価アナログ錯体を用いた反応の 検討から、従来前例のない 1,3-金属転位反応による C–H 活性化反応を見出した。

第5章は、本論文の総括と今後の展望に関して述べている。

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論文審査の結果の要旨

1.論文の主題

Transformation of Internal Alkynes through C–C and C–H Bond Activation at a Transition Metal Complex

(遷移金属錯体上でのC-C および C-H 結合の活性化を鍵とする内部アルキンの変換反応)

2.当該研究分野における位置づけ

遷移金属錯体上で末端アルキンがビニリデンに異性化するいわゆるビニリデン転位は、C–H 性化反応の一種であり近年活発に研究されてきた。この反応を炭素二置換内部アルキンで達成でき れば新規な C–C 結合活性化反応になるが、このような変換反応は、従来基質がアシルアルキンに 限定された反応が少数例知られているのみであった。また、有機金属分子内において、金属中心が 同一分子内の数炭素離れた位置の C–H と位置を入れ替える「遠隔転位」と呼ばれる反応も、C–H 性化の手法として十数年にわたり活発に研究されてきた。しかし、この反応はこれまで適用できる 金属に制限があり、またその反応の特性や反応機構にも未だ不明な点が多いのが現状である。本研 究では、ビニリデン転位の適用範囲を一般の内部アルキンに拡張して反応機構などを明らかとし、

またRh(III)やIr(III)錯体が遠隔転位に有効であることを初めて示すなど、C–HおよびC–C結合活性

化の化学に関する重要な知見をもたらした。

3.論文の構成

本論文は、種々の内部アルキンからビニリデン錯体を合成する反応の開発とその詳細、および金 属中心の遠隔転位による C–H 活性化反応の開発と詳細に関する研究成果をまとめたものであり、

全5章からなる。

第1章 序論

第2章 内部アルキンのビニリデン転位とその可逆性 第3章 インデニルルテニウム錯体と内部アルキンの反応

第4章 Cp*Rh(III) および Cp*Ir(III) 錯体上における金属中心の 1,4-転位と 1,3-転位 第5章 総括と展望

4.論文の独自性・成果

本研究で取り上げている「ビニリデン転位」を応用した有機合成反応は、過去 40 年にわたり活 発に研究されてきているが、対象が原則的に末端アルキンのみという大きな制約があった。本論文 では、種々の内部アルキンがビニリデンに異性化する反応を新規に見出し、この反応を応用した分 子変換反応を開発することを目的に詳細を検討したが、「末端アルキンを用いなくてはならない」

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という従来の制約事項を解消した新たな反応系を構築できる点は極めて独自性が高い。また、この 研究成果をバックグラウンドとして研究を進めることにより、金属中心の遠隔転位による C–H 性化反応にもいくつかの重要な発見をもたらした。その成果は以下の2点に要約できる。

(1)種々の内部アルキンとルテニウムや鉄錯体の反応から、炭素二置換ビニリデン錯体が合成可 能であることを見出した。従来このような錯体を合成するには多段階の反応が必要、あるいは適用 基質に大きな制限がある、などの問題点があったことから、本反応はさまざまな炭素二置換ビニリ デン錯体の簡便な合成法として特筆すべきものである。また、ビニリデン錯体の生成は、本質的に 可逆反応であることや、アルキン上の置換基効果と分子軌道計算から、この反応は炭素置換基の求 核的な 1,2-転位によって進行していることを明らかにした。

(2)フェニル基を有する Cp*Rh(III) 錯体と内部アルキンを反応させることで、ロジウム-フェ ニル間へのアルキン挿入と、続くビニル位からフェニル基オルト位への 1,4-Rh 転位によって、分 子内アゴスティック相互作用をもつビニルアリール錯体が生成することを見出した。この 1,4-金属 転位反応は C–H 活性化の手法の一つであるが、従来適用できる金属は Rh(I) や Pd(II) などに限 られていた。本反応は Rh(III) 中心の 1,4-転位としての初の例である。詳細な検討から、このビニ ル位からアリール位への 1,4-転位は可逆のプロセスであることを初めて実験的に証明し、さらに、

反応場を Ir(III) 錯体へと展開することにより、従来例のない 1,3-Ir 転位の開発にも成功した。

5.論文の課題

内部アルキンのビニリデン転位が一般的な内部アルキンに対して進行することを見出したが、錯 体部分については未だ 8 族金属のルテニウム、鉄に限定されているため、今後、この反応を6, 7, 9 族などの錯体に展開して、金属に対する一般性を確立することが望まれる。また、生成したビニリ デン錯体といくつかの求核試薬の反応を検討しているが、いずれも化学量論反応であり、触媒反応 への展開には至っていない。今後は内部アルキンのビニリデン転位を鍵とした触媒的分子変換反応 へと展開することが望まれる。

6.論文の評価

上述のように、本論文では内部アルキンからの C–C 結合切断・組み換えによるビニリデン錯体 生成反応を見出すとともに、反応機構を含めた詳細を明らかとした。また、金属の分子内転位反応 による C–H 活性化反応においても、従来例のないロジウム三価錯体の転位を見出し、その反応の 可逆性、さらに新規な 1,3-金属転位による C–H 活性化を明らかとした。これらの成果は当該分野 に対する学術的貢献度が極めて高いものと判断し、本論文が博士(工学)の学位論文として価値あ るものと認める。また、平成 27 年 1 月 22 日に論文の内容とそれに関連した事項に関する試問 を行った結果、合格と認めた。

参照

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