光重合による高分子微粒子の合成方法の検討
仲 幸 彦 大 嶋 威 之I
要旨
架橋性モノマー
( D i e t h y l e n eg l y c o l d i m e t a c r y l a t e )
の酢酸エチル溶液に対する,光重合法による高分子 微粒子の合成方法について検討をおこなった.合成反応は,光ラジカル重合開始剤( 2
,2 ‑ D i m e t h o x y ‑ 2 ‑ p h e n y l a c e t o p h e n o n e ; DMPAP
もしくはB e n z i l )
を用いて静置下でおこなった.2G
モノマーの仕込み濃度として
1
1.6 w t % (
モノマー溶媒体積比1 : 9 )
,DMPAP
の濃度0 . 1 4 wt%
,重合時間1 2 0
分において収率6 7
.4 %,粒径1.2 3
土0.09μm
の良好な実験結果が得られた.1 .
緒言高分子微粒子は,様々な分野で利用されている(1) 抗原抗体反応を利用した免疫診断薬や,薬物徐放 による局所投与,イオン交換樹脂,高速液体クロマトグラフの固定相,液晶ノtネルのスペーサー剤,そし て遺伝子工学の実験薬にも応用されている.高分子微粒子の一般的な合成方法として分散重合や乳化重合 が知られているが,これらの方法で単分散微粒子を合成する場合,温度や乳化剤(分散剤),触媒,撹搾 などの条件選択によって結果が大きく変わる.
一方,ジエチレングリコールジメタクリレート
( 2 G )
の有機溶液の系に放射線を照射するするだけで,容易に粒子の大きさがそろった単分散微粒子が合成できることがわかっている(2‑4) 放射線による方法は,
単純な組成の溶液で簡単に単分散微粒子が得られる. しかし,放射線を照射するには特殊な設備が必要で,
取り扱いが容易でない.われわれは,より簡便な操作で合成する方法として 光重合による微粒子合成を 検討した.
2 .
実験方法モノマーは,新中村化学製のジエチレングリコールジメタクリレート
( D i e t h y l e n eg l y c o l d i m e t a c r y l a t e 2 G ) (
図1)を,活性アルミナによって精製し用いた.溶媒は,シグマアルドリッチ製特級酢酸エチルを 用いた.光重合開始剤は,東京化成工業製の2
,2 ‑
ジメトキシー2 ‑
フェニルアセトフェノン( 2
,2 ‑ D i m e t h o x y
回f H 3 f H 3 H2C=C H2C=C
CO CO
O‑CH2CH20‑CH2CH2一0 図1 Diethylene glycol dimethacrylate (20)
原稿受付 2005年6月20日
試験管 75W超高圧水銀ランプ 図2 光重合による微粒子合成の装置概略図
本研究の一部は、近畿大学生物理工学部戦略的研究No.03‑IV‑17,2004の助成および科学技術振興機構・和歌山県地域結集型共同 研究事業の研究助成を受けた.
1. Department of Genetic Engineering, Kinki University, Wakayama 649・6493,Japan.
2‑phenylacetophenone ; DMPAP)もしくはナカライテスク製べンジル(Benzil)を用いた.
仕込み2Gモノマー濃度 11.6wt%(モノマー溶媒体積比 1:9)の試料溶液は, 2Gモノマー 0.25mlを 内径 10m mのパイレックスガラス製試験管に入れ,あらかじめ必要量のDMPAPを溶解しである酢酸エ チル 2.25 mlを加え,シリコンキャップで栓をして冷暗所に保存した.試料溶液は重合反応の前に,酢 酸エチルで飽和させた窒素を流量 15ml/minで20分間ノてプリングし,酸素除去をおこなった.
光重合の光源は,東芝ライテック製
75W
超高圧水銀ランプを用いた 試料は水銀ランプの中心からの 距離4cmに置き,静置化で光照射した.照射中は送風ファンにより冷却した. (図2)微粒子の回収は, 0.2μmテフロンメンプランフィルターによって漉過し,酢酸エチルで、洗浄した後,真 空乾燥をした.
形状の観察は日立製作所製 S‑2250N走査型電子顕微鏡(SEM)によった.粒子径の大きさはSEM写 真から計測した.粒子径分布算出のために計測した微粒子の個数は 50である.反応溶液中の微粒子数算 出のために使用した 2Gポリマーの比重は1.21である.
結果と考察
重合開始剤の検討
光ラジカル重合開始剤には,ケタール系の DMPAP(最適波長域 340‑350nm)およびべンゾインエー テル系のBenzil(最適波長域 250‑260nm)の代表的な2種類の光ラジカル開始剤を用いた.光ラジカル 重合開始剤の量と高分子微粒子の収率の関係を図
3
に示す.重合開始剤を用いないで、合成した場合には,収率は極めて低く,重合開始剤を用いることによって収率に著しい改善がみられた.2Gモノマーに対す る超高圧水銀ランプを光源とする光重合では,重合開始剤が必要で、あることがわかる.高分子微粒子の収 率に対する光ラジカル重合開始剤の量には,ピークがみられた.いずれの重合開始剤を用いる場合でも,
重合開始剤の使用量が増えると,収率が低下したが,これは重合開始剤の分解により過剰に生成する開始 ラジカルによる停止反応が起こり,高分子合成の連鎖反応を阻害していると考えられる 重合開始剤を用 いない放射線重合では,放射線量に対する収率の変化も一様で、あり,この点、は異なる結果であった.
重合開始剤としてDMPAPを用いた場合には, 2Gモノマーの仕込み濃度11.6wt%において, DMPAP 濃度が0.31wt%のとき,微粒子の収率として 59.9%が得られたが,重合開始剤濃度0.24wt%以上で の合成では,生成物の一部が試験管の壁に付着したり,重合終了前に生成物が沈殿した(表 1). DMPAP
3 .
3.1光重合開始剤の効果 表 I
Shape
︐G噌G
e e M M
u b u b
e e
r且VA O D O D O D o b
A A
A盛regated Initiator Yield Size
wt% % m m
T67 0.00 16.0 0.66 ::1:0.06 T68 D恥1PAP 0.052 37.6 1.05土0.08 T69 DMPAP 0.14 51.7 1.17土0.12 T70 DMPAP 0.22 54.1 1.32土0.11 T71 D恥1PAP 0.31 59.9 1.54土0.13 T185 Benzil 0.052 31. 7 1.28土0.10 T199 Benzil 0.020 62.6 1.32士0.10 T184 Benzil 0.057 71.6 1.89土0.14 T175 Benzil 0.14 71.1 2.13土0.15 2Gモノマーの仕込み濃度11.6wt%,反応時間60分
%
︑o
p
ツ ハ
‑
n﹃
of
‑ B M H 100
RunNumber
ヌ
¥2 2L F
20 ー・
。 。
1.0 1.5 2.0Concentration ofInitiator / wt%
光重合開始剤の濃度と収率の関係 2Gモノマーの仕込み濃度 11.6wt%
0.5
図
3
濃度0.24wt%以上で得られた生成物についての SEMによる観察では,生成物には微粒子同士が塊状 な っ て い た り , 球 形 で な い 粒 子 が 認 め ら れ た.DMPAP濃 度 が0.14wt%の と き に , 独 立 し た 微 粒 子 (1.17 :t 0.12μm)が収率 51.7%で得られた.以上のことから, 2Gモノマーの仕込み濃度 11.6wt%
の場合における,光重合開始剤
o
MPAPの濃度は,約0.14wt%程度が適当であることがわかった.一方,重合開始剤として Benzilの場合には,仕込み2Gモノマー濃度 11.6wt%において,生成物の収 率のピークとなる Benzil濃度は, 0.057 wt%であった.形状については, Benzil濃度を 0.14wt%以上 にした場合には,得られる高分子微粒子に一部が塊状になり微粒子が見られた.以上のことから,重合開 始剤としてBenzilの濃度は0.056wt%程度が適当であることがわかった.
異なるタイプの重合開始剤である, DMPAPとBenzi1の比較では, Benzilのほうが低濃度でも収率が よく,粒子径の大きな微粒子が得られた.実験操作からみると,試験管を用いるような少量合成の場合,
o
MPAPの方が操作が容易であるので,本研究ではDMPAPを光重合開始剤として用いることにした.よ り大量に合成する場合には,光重合開始剤としてBenzilを用いる方がよいと考えられる.100
80
;f!. 60
て
3
コ 4020
。 。
5.0 10 15 20 2G concentration I wt%図
4
2Gモノマーの濃度と収率の関係 反応時間 120分,DMPAP0.13 wt%図 5(b) 2G高分子微粒子の SEM写宍
25
2Gモ ノ マ ー 濃 度 11.6wt%反 応 時 間 120分,
DMPAP 0.13 wt%
図5(a) 2G高分子微粒子の SEM写宍
2Gモ ノ マー濃 度 3.5wt%反 応 時 間 120分,
DMPAP 0.13 wt%
図5(c) 2G高分子微粒子のSEM写宍
2Gモ ノ マ ー 濃 度 20.6wt%反 応 時 間 120分,
DMPAP 0.13 wt%
(Y)は, 3.2 2Gモノマー濃度と収率および微粒子の形状の関係
試料溶液の仕込み 2Gモノマー濃度と収率の関係を図 4に示す.仕込み 2Gモノマー濃度が高い方が収 率が良くなる結果が得られた. 3.5
wt%
から 22.8wt%
までの範囲では,独立した球形の微粒子が得られ たが, 22.8wt%
を超える濃度では,微粒子と塊状の粒子が混在した状態となり,さらに 28.3wt%
では 完全にゲ、ル化し,微粒子は得られなかった(図 5a,5b,5c).低濃度側では, 2.4wt%
で得られた微粒子 は痕跡量であった 仕込み 2Gモノマー濃度において, 2.4wt% ' " " ‑ '
22.8wt%
の範囲のときに独立した微 粒子が得られた.重合反応の進行にともなって,試料中の 2Gモノマー濃度は低下する.微粒が得られる 2Gモノマー 濃度の範囲が 2.4
wt%
より高い濃度であることから,試料溶液中の 2Gモノマー濃度が 2.4wt%
るまで低下すると,微粒子の形成が終わると考えられる. したがって,仕込み 2Gモノマー濃度が11.6
wt%
の溶液の場合,有効なモノマー量は約 80%と予想される.仕込み 2Gモノマーのうち仕込み 2Gモノマー濃度2.4
wt%
相当分が微粒子形成に寄与しないことから,得られる微粒子の計算上の収率 仕込み 2Gモノマー濃度を Mとして,にな
Y =
(1 ‑2.4 /M ) x
100 となる.試料溶液の仕込み 2Gモノマー濃度と得られる微粒子の直径の関係を図6に示す 粒子径は仕込み 2G モノマー濃度が高くなると,小さくなるという結果が得られたが,この点も放射線重合による合成と異な
る傾向である.特に低濃度の場合には,光重合による方法の方が放射線重合による合成よりも, 2倍程度 大きい微粒子が得られた.
図 5a,5b,5cは,異なる仕込み 2Gモノマー濃度から得られた微粒子の形状の違いを示している.仕込 み 2Gモノマー濃度が 11.6
wt%
(図 5a)の場合には形状のよい微粒子が得られ,これより低濃度側で得 れらた粒子の形状も良好で、あった.仕込み 2Gモノマー濃度が 17.3wt%
では 2つの粒子が接合したと思 われる微粒子や非球形の微粒子が多くみられ, 20.6wt%
(図 5c)では表面が滑らかではない微粒子が生 成した.さらに, 28.3wt%
で、は完全にゲル化した.われわれは,得られる高分子微粒子の収率と形状お よび実験操作を考慮、して,仕込み 2Gモノマー濃度は 11.6wt%
(モノマー溶媒体積比 1:9)が適当と考え,以降の標準的な実験条件とした.
0.5
350 300 250 150 200 TimeI min 100
50 100
80
60
40
20
宇佐
¥2 2L P
25
.
20
10 15
20 concentration I wt%
0 0 2.5
,[ 1.5
¥ Q) N
m
光重合時間と収率の関係
2Gモ ノ マ ー の 仕 込 み 濃 度
1
1.6 wt%
,DMPAP
0.13
wt%
図7 2Gモノマーの濃度と粒子径の関係
図6
反応時間 120分,
DMPAP
0.13wt%
12 10
、、、g
戸
、H Q)
,1:J
Z
1011bJ)
。
1.6
•
1.2 自立
¥UN
岡 田 0.8
• • ‑ h ' @ . . .
100 150 200 Time/min 10
10 0 350
300 250 150 200 Time/min 100
50 0.4
。 。
350光重合時間と粒子数の関係
2G
モノマーの仕込み濃度1 1 . 6 wt%
,反応時間300 250 50
図
9
光重合時間と粒子径の関係2G
モノマーの仕込み濃度1
1.6 wt%
,反応時間 図8
120
分,DMPAP0 . 1 3 wt%
3 . 3
重合時間と収率,微粒子の形状の関係重合時間と収率の関係を図
7
に示す.重合反応の時間経過とともに微粒子の収率は一様に上昇する.2G
モノマーの仕込み濃度1
1.6 wt%
の場合,重合時間200
分で,収率は約80
%まで達し,その後は一 定値になった.収率の値80
%は,微粒子が得られる最低濃度からの推定する収率と一致している.重合 の進行によって,溶液中に残っている2G
モノマー濃度は減少し2
.4wt%
より低濃度になり,微粒子の 収率に寄与する高分子の生成はおこらなくなっていると考えられる.光重合の反応時間と得られる微粒子の大きさの関係を図
8
に示す.重合反応の時間経過とともに,得 られる高分子微粒子の直径が大きくなり,仕込み2G
モノマー濃度が1
1.6wt%
の場合,120
分で 1.2 μm
になり,180
分で1.4μm
に達する.光重合の反応時間に対する反応溶液中の粒子数の変化を図
9
に示す.光重合反応が進行しでも粒子の 数が変化していない.これは,重合反応の開始によってごく初期に微粒子の核が生成し,その後は新たな 微粒子の核はできず,重合反応の進行とともに微粒子の大きさが大きくなることを示している.重合反応 の途中から新たな微粒子の発生がないことが,粒子径がそろった微粒子が得られる原因と考えられ,点は放射線重合による場合と基本的に同じメカニズムであり,架橋性モノマーである
2G
の有機溶媒から の微粒子合成方法の特徴である.重合時間が
120
分の時,仕込み2G
モノマー濃度1
1.6wt%
の場合,収率は6
プ.4%,粒径1.23
土0.09μm
の良好な形状の微粒子がえられた.120
分をこえて長時間反応させると,生成している微粒子 が沈降しはじめ,形状に悪影響を与えるようである.光重合時間は合成時間は,120
分までが適当で、あ るといえる.この
1 2 0
分,DMPAP0 . 1 3 wt%
4 .
結論光重合においても単分散微粒子が得られることがわかり,収率および形状の良い微粒子の合成条件を求 めることができた.今後は微粒子の新たな利用法ために,表面修飾により分子認識力を持つ微粒子を検討 する計画である.
参考文献
超微粒子ポリマーの応用技術,
1 9 9 1
,シーエムシー, (東京)M. Y o s h i d a
,M.Asano
, I.K a e t s u a n d Y
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radiation‑induced polymerization in the presence of organic solvents. Radiat.Phys.Chem., 30, 39.
(3) Y.Naka, I.Ketsu, Y.Yamamoto and K.Hayashi, (1991), Preparation of Microspheres by Radiation‑Induced Polymerization. 1.Mechanism for the F ormation of Monodisperse Poly( diethylene glycol dimethacrylate) Microspheres. J.Polym.Sci., Polym. Chem. Ed., 29, 1197.
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英文抄録
P r e p a r a t i o n o f Polymer M i c r o s p h e r e s by Means o f P h o t o I n i t i a t i o n P o l y m e r i z a t i o n
Yukihiko N aka, Takeshi Oshima
Preparation of polymer microspheres from ethyl acetate solution of diethylene glycol dimetacrylate by means of photo initiation polymerization is described. Polymerization is initiated by DMPAP or Benzil and solution is kept under unstirred. We obtained good results (67.4 % ,1.23士0.09μm)丘om11.6 wt% of 2G solution, in the presence ofO.14 wt% ofDMPAP, under 120 min irradiation.