Mem. Schoo. lB. O. S. T. Kinki University No. 18 : 15 '"'‑' 18 (2006) 15
熱重合による高分子微粒子の合成
仲 幸彦1, 大 島 威 史 1, 宮 武 繁1
要旨
特殊な設備を使うことなく,均一な微粒子が得られる合成方法について記述している.架橋性モノマー であるジエチレングリコールジメタクリレートと良溶媒である酢酸エチルを溶媒とする均一溶液から合成 している.重合開始剤にはAIBNを用い,重合を阻害する溶存酸素による誘導期間を利用した熱重合により,
良好な結果が得られている.
1 .緒言
合成によって得られる直径 1μm程度の微粒子はマイクロスフィアと呼ばれている.高分子工業におい て効率的な素材合成の過程で微粒子が生成し,これらは引き続く成形によってプラスチックとして形を変 えるが,微粒子としては利用されない.近年,高分子化合物として合成される微粒子が,様々な分野で微 粒子として利用されている.いくつか例をあげると,抗原抗体反応を利用した免疫診断薬や,薬物徐放による 局所投与,化粧品の基材成分,イオン交換樹脂,高速液体クロマトグラフの固定相,液晶パネルのスベーサー 剤,レーザープリンターのトナーなどがある(1)
高分子微粒子を合成する一般的な合成方法としては,懸濁重合,分散重合や乳化重合などが知られてい る.懸濁重合は,水,水に不溶なモノマー,モノマーに可溶な重合開始剤および分散安定剤を用いる.機 械的撹祥によってモノマーを微細モノマ一滴とし,重合の進行によってモノマ一滴を高分子固体へと変化 させる方法である.乳化重合は,水,水に不溶なモノマー,水に可溶な重合開始剤,および界面活性剤を 用いる.モノマーは,界面活性剤で安定な微細モノマ一滴としておき,重合反応は水モノマー界面で進行 する.分散重合は,溶媒,溶媒に可溶なモノマ一重合開始剤および安定剤を用いる.分散重合は,懸濁重合 や乳化重合とは異なり,撹持された均一相から,重合によって高分子の溶解度が低下し,微粒子の生成が 起こる.したがって溶媒は,モノマーは溶解するが高分子は溶解しない貧溶媒が選ばれる.
一方,ジエチレングリコールジメタクリレート(20)と有機溶剤のみの系にy線を照射するだけで,容易に 粒子の大きさがそろった微粒子が合成することがわかっている(2・3) この方法は,モノマーと溶媒の均一溶 液から微粒子が生成することから分散重合に類似するが,微粒子の形成は静置化で進行する.溶媒は良溶 媒が選ばれ,架橋性モノマーを主剤として使う場合にのみ微粒子の生成が起こる.乳化剤や分散剤,安定剤 などを入れる必要はない.最大の欠点は放射線を照射する特殊な設備が必要であり,一般的な微粒子合成で はないことである.
われわれは,架橋性モノマーの示す特異的な微粒子形成を利用した,光重合法による微粒子合成をすで に開発している(4) 本報告では,より一般的な熱重合法での微粒子の合成について記述する.
2.実験方法
モ ノ マ ー は , 新 中 村 化 学 製 , ジ エ チ レ ン グ リ コ ー ル ジ メ タ ク リ レ ー ト (Diethylene glycol dimetacrylate :20 )を用いた.重合禁止剤の除去は,活性アルミナによった.溶媒は,アルドリッチ製,特 級酢酸エチルをそのまま用いた.重合開始剤は, AIBN(2,2' ‑Azobisisobutyronitrile)もしくは BPO(Benzoyl‑
原稿受付 2006年 6月 19日
本研究は近畿大学生物理工学部戦略的研究No.04‑IV・27,2005の助成を受けた.
1.近畿大学生物理工学部遺伝子工学科,干649‑6493和歌山県紀の川市西三谷930
16 Mernoirs of The School of B. O. S. 1. of Kinki University No. 18 (2006)
peroxide)を用いた.
試料溶液の調整は,あらかじめ2つの溶液を用意し,合成の直前に混合する方法をとった.モノマー溶 液(A)は,内径 10mmの試験管に酢酸エチル 1.75mlおよび 200.25mlを入れ,シリコンゴムキャップで 栓をし3アルミホイノレで、全体を遮光保存し準備した酸素除去は,酢酸エチルで飽和させた窒素を15rnl/min で5分程度通気させることによった.開始剤溶液(B)は,30m)のパイレックス製パイアルに酢酸エチノレ10ml とAIBN160 mgを入れ,アノレミホイノレで、遮光保存し準備した.B~夜は窒素通気を行わず, 酸素が溶存してい る状態にした.
合成は'恒温槽で、行った.あらかじめ,60o
C
に設定した恒温槽に溶液A液の入った試験管を入れ, 30分間予 熱をした.ガスタイトシリンジに溶液B~夜を0.5mlを取り,恒温槽に保持している溶液A液の入っている試験 管に溶液B液を入れ,振とう撹祥し,恒温槽に戻して重合反応を開始させた.反応の停止は,試料管を恒 温槽より取り出し,氷温に冷却することによった.合成した微粒子は 0.2μrnPTFEメンブレンフィルターにより糠過し,分離された微粒子はフィルター上 で、酢酸エチルにより3回洗 浄 し た 回収した微粒子の乾燥は, 10 mlガラス製サンフ。ル管に移し,真空乾燥 機の中に入れ,約20時間真空乾燥をした.
微粒子の形状は,目立製作所製 S‑2250N走査型電子顕微鏡(SEM)により観察と撮影をした粒子径の測定 は,SEM写真をスキャナー (エプソン製GT‑9800F,解像度 300dpi)で読み,画像解析ソフト(ImageJ)によ って微粒子周上の3点の座標を計測し,直径と標準偏差を表計算ソフ ト(Excel)により求めたサンフ。ル数は おとした.
3. 結果と考察
3. 1 撹枠と重合開始剤
架橋性モノマーと良溶媒から微粒子を合成する本方法は,溶液を静置させて重合させることが重要であ る.一般的な熱重合法では,均一な開始反応を維持することが重要であるので,必然的に撹枠下での重合 反応になる.図1は,撹枠を加えながら合成し得られた微粒子のSEM写真である.独立した微粒子も存在 しているが,結合した微粒子が見られた重合中に撹枠により微粒子同士が接触結合したと考えられる.20 モノマーの有機溶液から微粒子を合成する場合には,撹祥をせずに合成することが重要であることがあら ためて確認できた.
放射線重合や光重合では 連鎖反応を開始するラ ジカルの生成を制御するのは容易である. しかし,
熱分解によりラジカノレを生成させる熱重合では,反 応容器の温度の制御がラジカルの生成の制御と連動 している.われわれは残存酸素が連鎖反応の開始を 遅らせることに着目し,あえて溶存酸素を残すこと で,溶液の温度均一性と静止状態を確保する方法を 試みた.重合開始剤を混合した時点で残存している 酸素は,高分子の生成が開始されるまでの誘導期間 を作り,撹持した溶液が静止するまでの時間を確保 できると考えた.
熱分解によりラジカノレを生成する重合開始剤を使 図 1 撹枠しながら合成して得られた微粒子 わない場合と使用した場合について,重合時間120 のSEM写真.2Gモノマー濃度 11.6 w協,反応温 分で合成した.重合開始剤を用いない場合には, 度 60oC,反応時間 120分 AIBNO. 35 wt弘
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n偲ntrationI wt%図 2仕込み2Gモノマー濃度と収率の関係 反応時間 120分,反応温度 60oC,
AIBN
0.35 wt%2SJ 3 2G高分子微粒子のSEM写盲 2Gモノマー濃度 11.6wt%,反応温度 60o
C
,反応時間 120分,AIBN
0.35 wt%120分の反応時間内では微粒子は得られなかった.
このことは重合開始剤を混合するまでに,モノマー溶液をあらかじめ予熱しておくことが可能であるこ とを示している.重合開始剤である
AIBN
を使用した場合には,微粒子が得られた.本研究では,主としてAIBN
を重合開始剤として用いて実験を行った.3.2 モノマーの濃度
試料溶液の仕込み2Gモノマー濃度と収率の関係を図 2に示す.モノマー濃度が高い方が収率が良くな る結果が得られた.モノマー濃度が, 2.4 wt%から 25.0 wt%までの範囲では,独立した球形の微粒子f 得られた.モノマー濃度が 22.8wt%を超える場合では,微粒子と塊状の粒子が混在した状態となり,さ らに 27.lwt%で、は完全にゲ、ル化し,微粒子は得られなかった.低濃度側では 1.2wt%で得られた微粒
は痕跡量であった.重合反応の進行にともなって試料中に残る 2Gモノマー濃度は低下する.微粒子が得 られる 2Gモノマー濃度の下限は 1.2wt%より高い濃度であることから,試料溶液中の 2Gモノマー濃 度が 1.2wt%付近まで低下すると,微粒子の形成が終わると考えられる.したがって,仕込み 2Gモノ マー濃度が 11.6wt%溶液の場合,高分子微粒子になる有効なモノマー量は 10wt%相当量であり,収率 は最大約 90%といえる.
粒子径は,仕込み2Gモノマー濃度が高くなると大きくなるとしづ結果が得られた.仕込み2Gモノマー 濃度が11.6wt% (図3)の場合には形状のよい微粒子が得られ,これより低濃度側で得られた粒子の形状 も良好であった.仕込み2Gモノマー濃度が 20.6wflloでは非球形の微粒子が多くみられ, 25.0w仇 では表面が滑 らかではない微粒子が生成した.
3.3 重合時間
重合時間と収率の関係を図4に示す.重合反応の時間経過とともに微粒子の収率は一様に上昇する.熱重 ム法で2Gモノマーの仕込み濃度 11.6wt%の場合,重合時間 200分で,収率は約 90%まで達し,その 後は反応を続けても収率は変わらなかった.実験での収率 90%は,微粒子が得られる最低濃度からの推 定される収率と一致した.重合後半において,溶液中に残っている2Gモノマー濃度は減少し 1.2wt%よ
り低濃度になると,微粒子の形成に脊与する高分子の生成はおこらなくなると考えられる.仕込み2Gモ ノマー濃度が 11.6wt%の場合,重合時間t20分において粒径 1.1μmの良好な形状の微粒子が得られた.
18
100 80
旨R
言
60>= 40 20
Memoirs of The School of B. O. S. T. of Kinki University No. 18 (2006)
100 200 time/min
300
図 4 重合時間と収率の関係.2Gモノマー濃度 11.6 wt%,反応温度 60oC, AIBN 0.35 wt%
図4において,反応開始から約 3分間,重合の始まらない誘導期間がある熱重合法での微粒子形成を可能 にするためには,重合期間中に熱の出入りがないようにしないといけない.そのために,重合反応が始ま るまでに溶液を撹祥し,溶液内の温度を均一にし,さらに溶液を静置させるために誘導時間を確保した.
4. 結 論
溶液の撹祥を行わず,均一な溶液から熱重合法による微粒子の合成には,熱分解によりラジカルを生成す る開始剤の添加と,誘導期間を確保することによって可能である.熱重合は,操作が簡単で,大量に合成 することが可能である.反面,重合開始剤が必要で反応の制御が難しいという短所がある.放射線重合法,
光重合法,熱重合法それぞれの合成方法には長所と短所があるので,目的に応じて重合法を選ぶことが出来 る.今後は様々な利用が期待される.
参 考 文 献
(1) 室井宗一監修,超微粒子ポリマーの応用技術, (1991),シーエムシー, (東京)
(2) Yoshida, M., Asano, M., Kaetsu, 1. and Morita, Y. (1987) Character of polymer microspheres prepared by radiation‑induced polymerization in the presence of organic solvents. Radiat. Phys. Chem., 30, 39‑45.
(3) Naka, Y., Kaetsu, ,.1Yamamoto, Y. and Hayashi, K. (1991) Preparation of Microspheres by Radiation‑ Induced Polymerization. 1.Mechanism for the Formation of Monodisperse Poly (diethylene glycol dimethacrylate) Microspheres. J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., 29, 1197‑1202.
(4) 仲幸彦,大島威之 (2005)光重合による高分子微粒子の合成方法の検討,近畿大学生物理工学部紀要,
No.16, 13・18.
英 文 抄 録
P r e p a r a t i o n ofPolymer M i c r o s p h e r e s by Means ofThermal P o l y m e r i z a t i o n
Yukihiko Naka
, I
Takeshi Oshima1 and Shigeru Miyatake1Preparation of polymer microspheres from ethyl acetate solution of diethylene glycol dimetacrylate by means of thermal polymerization is described. Polymerization was initiated by AIBN and solution was kept under unstirred. We successfully obtained microspheres by remaining oxygen as inhibitor.
1. Department ofGenetic Engineering, Kinki University, Kinokawa, Wakayama 649・・6493,Japan