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2.実験

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Academic year: 2021

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(1)

長崎大学学芸学部自然科学研究報告第16号31‑57 (1965)

貝殻結晶の成長に関する合成的研究

第2報 結晶の性状とカゼイン溶解条件との関係

今井壮一・森修一

(昭和39年6月15日受理)

Synthetic Studies on the Growth of Shell Crystals 2. On the Relation of the Solving Condition of

Casein to the Nature of Crystals Soiti IMAI and Shuichi MORI

前報で述べたような炭酸カルシウムを主成分とし,タンパク質を含む種々な結晶の生成条件を一層明 らかにするために,母液調製に用いるカゼインの溶解条件を変えて実験を試みた。その結栄,カゼイン の濃度は変らなくても使用したカゼイン溶液の熟成度の相違によって結晶形態は種々に異なることを認 めた。またⅩ線粉末法によって結晶型を調べたところ,過熟したカゼインを用いるとカルサイトを生じ 易く,カゼインの新溶液を用いるとパテライトが得られ易くなり,ピロリン酸ナトリウムの少量を加え

るとパテライトの生成を助長する傾向があることを認めた。

I.緒苫

前報において我々は溶液中から炭酸カルシウムの結晶が成長する場合に,カゼイソ,ピロリ ソ酸ナトリウム,ホルマリ‑Jなどが適当に存在すると微結晶の集金よりなる同心環や渦巻状そ の他の結晶が得られることを報著したが,その生成条件が非常に不安定であったので,さらに 主としてカゼイソの溶解状態に注目して検討を加えた結果をここに報告する0

2.実験

結晶をつくる器具および処理法は前報と同じにした。母液調製用の各瞳原液も前報と同じ濃 さのものを用いたが,カゼイン溶液についでは溶剤として用いる了ソモエア水の濃度や温度, 溶解時間などを変えて作った。また参考のためカゼイン溶液の粘度を毛細管法で測定した。

結晶型の判定はプレパラ‑トに付着した結晶をかき集めて得た試料の粉末Ⅹ線写真によっ た。

*長崎大学学芸学部化学教室**長崎県立口加高校

(2)

3.結果および考察

 カゼィγ溶液の経時的変化を考える一助として測定した粘度は,測定直前に原液を10倍にう すめて30QCではかった相対粘度であるが,大体の傾向として溶液は初期に粘度を増し,極大 値を経て時間とともに減少して行くことを知った。その例を次に示す。

試料A

試料B

相対粘度経過時間

経過時間相対粘度

5分 15分 30分 60分 120分 180分

1.27 F1.29  1.25  1.24   1.22   1.21

1時間 5時間 1日 2日 3日(沈)・ ・6日

1.12   1.16   1.11  1.10  1.10       ・・1.10

A,Bともにカゼィγ19に濃アγモニア水20ccを加えて,前者は55。C,後者は300Cで溶解 および熟成を行なった原液から作った試料である。なおA原液では1日後に,B原液では3日 後に白色の軽い沈殿が現われた。沈殿が現われると原液の上部は透明度がよくなった。試みに 溶解後15日を経過した原液の上澄部をとり,乾固して得たものについてリγの含量を測定した ところ0.76%であったが,別に夏期を含んで4ケ月放置した原液の上澄部から得た乾固物のリ γは0.49%であった。また沈殿部分については遠心分離したのみで乾燥した試料のリγを概測

した値が,15日の方は1.2%で4ケ月の方が1.9%であった。以上の結果から考えるとカゼィγ はアγモニアに溶けると,まず分散がおこり,ついで分子の折りたたみがほどけることによっ て粘度が増大し,その後,分子の分裂がおこって粘度が減少するものであろう。0.14%の希ア γモニア水に溶解した場合は溶解の初期もそ・の後も数目間に渡って粘度の変化はほとんど認め

られなかった。

 なおセル・一ス・アセテート膜を用いて電気泳動も試みたが,カゼイソの濃アγモニア溶液 で沈殿を生じていないものは3成分に分離したのに,4ケ月放置した上澄液は明瞭な分離が認 められず,移動速度が最も遅い成分の附近に広く拡散して居た。

 カゼィγ溶液の経時変化については概略上に述べたような結果を得たが,その溶解条件や使 用量と結晶形態との関係を概括すると次のような傾向が認められた。第1表に関する結晶の作

り方は第1報の基準母液の処方に準じたものであるが,ホルマリγは6倍希釈液を用い,ピ・

りγ酸ナトリウム液は2cc加えた。結晶作製温度は550C,時間は約1昼夜であった。結晶形 態の類型欄の数字は写真の番号を示す。

(3)

貝殼結晶の成長に関する合成的研究(第2報) 55

第1表

アンモニ ア濃度  %

0.14

0.28

2.8

14

28

溶解温度

 OC

50

50

55

55

55

溶解時間

20分 50分 50分 24時間 5分 50分

1時間

24時問 5分 50分

1時間 5時間

24時間 5分 50分

1時間 4〜5時間

結晶形態の類型

5左上,17 1,2,5

1,2,5左(無環)

1,2,5左,15(微粒)

5左,9左,第1報7 5左,6の核,9左

5左,6の核,9左,半球(11)

5,半球,微粒,ナマコ状

5左,4,6 5左,9,第1報7

9,第1報ワ,半球,微粒,ナマコ状 半球,微粒集合半球

第1報8,微粒集合球 第1報7〜8,微粒集合球、

微粒集合球 7近似,半球(11)

8近似,12,微粒集合球

備考第1報7〜8は同心環結晶である。

  半球(11)は表面に放射線模様が認められる半球または段付半球であって,

  ユ1に似た表面をもつもの。

 これらの結果からカゼィγの溶解状態に関しては,その分子がよく分散して,しかも分裂が おこらない期間の溶液を使用すると同心環や渦巻状の結晶が生じ易い傾向があると思われる。

熟成が過ぎた溶液を用いる・と結晶が微粒化して,大きな集合体ができにくくなる傾向を感じ た。写真13は55。Cで3時間溶解してから室温に20日間放置したカゼィγ液を用いた場合の例 であり,写真14は3ケ月あまり放置したカゼィγ液を用いた場合の例である。

 カルシウムの濃度を変えた実験の中で写真15の結晶は注意をひいた。濃アγモニア水に溶解 したカゼィンを室温に1日放置したものを用いて第1表の結晶作成と同じ要領で,ただカルシ ウムの量のみを減じて行くと合成母液に対してo.6mg/cc(基準量)からo.5までは前に述べた ものに類する同心環結晶が生じたが0.3mg/ccの母液から出た結晶は写真15に見られるように 段々と中央が高く盛り上っていて,各段は極微粒子が融着している感じが見られる。この傾向 は0.4mg/ccの母液にも幾分認められたが過渡的状態であった。このカルシウム濃度は和田(1)

がアコヤ貝の母液について報告している340〜480γ/ccに近い領域であることは興味が深い。

 つぎにピ・リソ酸ナトリウム液2ccを用いた前述の基準母液からカゼイγの量を減じていく と,その使用量1cc附近で写真17のような結晶がよく現われた。カゼィγおよびカルシウムの 量を別々に変化させた実験結果を通覧して,同心環や渦巻状の結晶が生じ易いと思われるよう

(4)

な・母液中のカゼイγ対カルシウムの量の比は約1.4対1附近であった。

 過熟したカゼィソ原液(夏期20日以上経過したもの)の上澄部を基準量の%程度加えた母液 からは写真18に示すようなミミズ状の結晶が得られた。これは写真5の長く伸びた結晶が極端 に紬くなって,伸長方向を軸として3600回転したような感じを受けるものである。同類の結晶 は・これより前に貝類のコγキオリγ溶液を含む母液から得たのが最初であって,この点で炭 酸カルシウムの結晶に及ぼすカゼィγとコγキオリソとの影響については何らかの類似性があ

るカ〉もタ…口れない。

 生成する結晶型におよぼすカゼィγの影響を主にして,X線で調べた結果の概要は第2表に        第2表

カゼイン 液使用量

0.5

CC

0.8

1.5

2.5

4.5

リン酸液

使用量

0.l cc

0

0.1

0

0.1

0

0.1

0

0.1

0

カゼイン新液

V V

V,(C)

V,C,(A)

V,C,(A)

V伊C,A V,(C)

V,C

V,(C)

C

カゼイン旧液 V,(C)

C V,C C C V,C

V,(C)

V,C C C

備考.Vはバテライト,Cはカルサイト,Aはアラゴナイト   型を表わし()は少量混在することを意味する。

示すようになった。この表で母液調製は基準溶液に準じて総量が23ccになるようにし,カルシ ウム液は15ccを,ホルマリγは6倍液1滴を加え,総量の不足分は水で補った。結晶型の欄でカ ゼィγ新液は濃アγモニア水を溶媒とし55。C附近で数分間加温して溶かしたものを原液とし た場合であり,カゼィγ旧液は約4ケ月室温に放置してあった原液の上澄液を使用した場合の 結果を意味する。この表から知られるようにカゼィソ液が新しい場合にはバテラィトを生じ易

く,古い液の上澄部を用いるとカルサィトが現われる傾向が強くなる。 この結晶作成は55。C 附近で約2日間保って行なったものであるが,旧カゼィγ液を用いた場合には第一次微粒子と

して発生したベテラィトがカルサィトに転移し易く,これに反して新カゼィン液を用いた場合 にはバテラィトからカルサイトヘの転移に対する抑制作用が強いために第2表のような結果に なったのではないかと考えられる。この事についてなお表が示す如くピ・リγ酸ナトリウムを 加えた場合には・それを加えない場合よりもバテライトが現われる傾向が強いように感じられ

(5)

貝殼結晶の成長に関する合成的研究(第2報) 55

る点も同様な解釈を支持するのではあるまいか。 しかしながらカゼィγ新液を4.5cc用いた場 合にカルサィトが著るしく現われている点については解釈に苦しむ。

 ホルマリγの存否に関する実験も行なったが,結晶型に対しては明らかな影響が認められな かった。しかし新カゼィγ液を多量に用いた場合にはホルマリソを加えた方が幾分かバテライ

トを生じ易くなるのではないかと思われた。

 以上の結果から,筆者らが1961年(2)の報告の中で貝殼結晶が形成される場合に関して想定 した無定形の被膜微粒子はおそらくベテラィトの被膜微粒子であろうと考えたい。この一次微 粒子が貝においてはどのような条件の相違でアラゴナィト型になったり,カルサィト型に転移

したりするのであろうかという点に関しては今後の研究に待たなければならない。

 終りにこの研究に際してX線利用の面に・ういては当学部物理教室の諸教官から多くの御援助 を頂いたこと,ならびに実験については今井澄江,南征子両君の労を多とし合せて厚く感謝し

ます。

1)K6ji WADム:国立真珠研究所報告 7,711(1961)

2)今井壮一:長崎大学学芸学部自然科学研究報告 12号,7一一1ワ(1961)

写  真  説  明

 特記しないものは総て基準母液の処方に準じピロリン酸ナトリウム液は2cc,ホルマリンは6倍液1 滴を加えたので,カゼィン溶解に用いたアンモニアの濃度(%),温度,時間,顕微鏡倍率だけを記す。

 なお,プレパラート上には種々な結晶が混在するのが普通であって,−写真は類形の説明に用いるため選 び出した結晶である。同じプレパラート上には写真の結晶が最も多い場合が大部分であるが,中には小 数なものであった写真もあるσ

(6)

1.

2.

5.

4.

5.

6.

7.

8。

       第 1 図 版

0.28%,55。C,5時間.×150 0.14%,55。 ,2時間.×150 2.8%,55。,50分』×150 14%,55Q,5 分.×150 ユ4 %,550,50分.×150

5と同じプレパラートの反対面上に生じたもの.×150 14%,550,5時間.×150

7と同じ原液を室温で2日間放置して使用. ×150

(7)

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(8)

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(9)

57

第 2 図 版

9.

10.

11.

12.

15.

14.

15.

ユ6.

17.

18.

28%,55),5 分.ピロリン酸ナトリウム0.026mg/cc.

28 %,550 ,5 分.リン酸量普通(0.1mg/cc).

Ca濃度が基準液の%,その他10と同じ条件.

28 %,55。 , 4日寺間.

12と同じカゼィン液を室温で20日間放置したものを使用.

28%,常温,110日.

28 %,55),5 分,常温1日放置,Ca濃度%.

ユ4とほとんど同じ条件,高倍率.

28%,550,5 分,カゼイン濃度が基準液の%.

28%,500,10 日,カゼイン濃度  同  %.

×150

×150

×150

×150

×600

×150

×600

×600

×150

×150

参照

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