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〈論説〉集団分極化と民主的憲法論の課題--キャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』で問われた課題

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(1)集団分極化 と民主的憲法論の課題. 集 団分極化 と民主 的憲法論 の課題 キ ャ ス ・サ ン ス テ ィ ー ン 『イ ン タ ー ネ ッ ト は 民 主 主 義 の敵 か』 で 問 わ れ た課 題. 松. 尾. 0.集. 団分 極 化 と い う課 題. 1.消. 費 者 側 の動 機 と い う出発 点 と そ の憲 法 学 的意 味. 2.情. 報 環 境 の発 展 と サ イバ ー カ ス ケ ー ド. 3.集. 団分 極 化 と分 裂 化. 4.集. 団分 極 化 と民 主 的憲 法 論 の課 題. 0.集. 団分極 化 と いう課題. 0.1.『Republic.com2.0』 本 論 文 の 試 み は,非 R.Sunstein著 敵 か 』),こ. 陽. が 提 示 す る憲 法 学 的 課 題. 常 に 単 純 で あ る 。 キ ャ ス ・R・ サ ン ス テ ィ ー ンCass. 『Republic.com2.0』(邦. 題. 『イ ン タ ー ネ ッ トは 民 主 主 義 の. の 書 物 を 憲 法 論 へ 課 題 が 提 示 さ れ た 書 物 と して 読 む こ と(1)。た. (1)本 論 文 で は,サ. ンス テ ィー ンの 『イ ンタ ー ネ ッ トは 民 主 主 義 の 敵 か 』 を 主 要. な 読 解 の 対 象 とす る。 それ ゆ え,特 に 断 りの な い 限 り,本 書 か らの 引 用 は 頁 数 の み で 行 う。 た とえ ば(原 書 第 二 版 の頁 数=邦 訳 の頁 数),た. とえ ば,(13=28. 頁)で 引 用 す る。 と こ ろ で,原 書 第 一 版 に 基 づ い た 邦訳 が 出版 され た後,原. 書. の 第 二 版 が 公 刊 され て い る。 そ こで,第 二 版 で加 筆 さ れ た部 分 に つ い て は,原 書 第 二 版 の 頁 数 の み とす る。 そ の 際 に は,(第 二 版 頁 数)で 引 用 す る。 ま た,邦 訳 版 に しか な い 日本 版 序 文 につ いて は,(邦 訳 頁 数)と い う形 で 引 用 す る。 さ ら に,『イ ンタ ー ネ ッ トは民 主 主 義 の敵 か」で 展 開 され るサ ンテ ィー ンの 主 張 を 引 用 頁 な し に引 用 す る こ とが あ るが,そ. 51. の際 に は,本 論 文 中 で は,同 書 の こ とを/.

(2) 近畿大学法学. 第59巻第4号. だ それ だ けで あ る。 しか し,こ. の よ う な 読 み 方 は 必 ず し も 一 般 的 で は な い 。 本 書 は,そ. の邦. 題 が 示 す 通 り,イ ン ター ネ ッ トの 登 場 と い う情 報 環 境 の 変 容 が 民 主 政 に ど の よ う な 影 響 を も た らす の か,と. りわ け 悪 い 影 響 を も た ら して い る の で は. な い か と い う こ と に つ い て 論 じ られ て い る(2)。そ れ ゆ え,本 書 は,イ. ンター. ネ ッ トに 関 わ る 社 会 的 問 題 を 分 析 す る 論 者 に 多 く 引 用 さ れ て い る(3>。そ の よ うな 読 み 方 は至 極 ま っ と うな もの で は あ る。 こ れ に 対 して,本 し た,サ. 論 文 は,本. 書 が,新. しい情 報 通 信 技 術 の 問 題 を 素 材 に. ン ス テ ィ ー ン の 憲 法 学 的 格 闘 で あ る こ と に 焦 点 を あ て る ④。 よ り. 正 確 に い え ば,本. 書 を,ま. ず も っ て,憲. 法 学 者 と して の サ ン ス テ ィ ー ン が. 格 闘 して き た課 題 が イ ン ター ネ ッ トと い う情 報 通 信 技 術 の 舞 台 で 変 奏 す る. \ 「本 書 」 と 呼 ぶ 。 た と え ば,「 本 書 で は … … と 主 張 さ れ て い る 」 と い う と き,「 本 書 」 と は 『イ ン タ ー ネ ッ ト は 民 主 主 義 の 敵 か 」 を 指 す 。 訳 文 に つ い て は,適. 宜 修 正 して 引 用 す る 。 と り わ け,「polarization」. は 「集 団 分 極 化 」 と 統 一 す る が,本 (2)本. 書 と 同 様 に,イ. の訳語. 文 中 で 後 に詳 細 に検 討 す る。. ン タ ー ネ ッ トの 問 題 を 取 り上 げ て い る,サ. 著 作 と し て,『 情 報 の ユ ー ト ピ アInfotopia」(Sunstein2006)が ン タ ー ネ ッ ト は 民 主 主 義 の 敵 か 」 が,イ. ンス テ ィー ンの 存 在 す る 。 「イ. ン タ ー ネ ッ トの 負 の 側 面 を 中 心 に 描 い. た も の で あ る の に 対 し て,『 情 報 の ユ ー ト ピ ア 」 は,イ. ン タ ー ネ ッ トが 分 散 し た. 情 報 を 集 積 す る の に す ぐ れ た 技 術 で あ る と い う正 の 側 面 を 精 力 的 に 取 り 上 げ て い る と い う よ う に,二. 題 の 取 り上 げ 方 が 異 な る 。 ま た,『. 情報の. 法 学 的 な 枠 組 み を 強 く意 識 し て 問 題 を 論 じ て い る わ け で は. な い 。 そ れ ゆ え,本. 論 文 が 後 者 の 本 を 検 討 の 対 象 と して いな い 。. (3)た ω. つ の 本 は,問. ユ ー ト ピ ア 」 は,憲. と え ば,上. 出(2003),荻. 上(2007),鈴. 木(2007)参. 本 書 の 第 一 版 の 書 評 を 書 い た ベ ッ ク トー ル ドも,本. 照。. 書 の 価 値 は,イ. トが 民 主 政 に も た ら す 危 険 性 を 警 告 し た 点 に あ る の で は な く,民. ン ター ネ ッ. 主政 とうま く. 機 能 す る言 論 市 場 の い くつ か の 前 提 条 件 を 展 開 した 点 に あ る と 指 摘 して い る (Bechtold2002,244)。 で は)憲. 法 論,と. ら れ る の で,こ. そ して,サ り わ け,ア. ン ス テ ィ ー ン の 民 主 政 論 は(少. な くと も本 書. メ リカ憲 法 起 草 者 マ デ ィ ソ ンの 見 解 と一 体 的 に語. の ベ ッ ク トー ル ドの 読 み 方 も,結. じで あ る。. 52. 局 は 本 論 文 の 捉 え 方 と 全 く同.

(3) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 形 で 提 示 され,ま. た,そ の 課 題 に対 して どの よ うな 憲 法 学 的 応 答 が 可 能 で. あ る の か に つ き,憲. 法 学 者 と して の サ ン ス テ ィ ー ン が こ れ ま で 論 じて き た. 憲 法 論 の 全 体 像 が コ ンパ ク トに示 され て い る もの と捉 え る。 そ の よ うな 捉 え 方 が 正 当で あ る とす れ ば,本 書 は,サ ン ス テ ィー ンが 提 示 した 憲 法 学 的 課 題 と それ に対 す るサ ン ス テ ィー ン 自身 の 憲 法 学 的 応 答 と い う少 な くと も 二 つ の 部 分 に 分 け る こ と が 可 能 で あ ろ う。 本 論 文 の 課 題 は,. この サ ン ス. テ ィ ー ン が 提 示 し た 憲 法 学 的 課 題 を 析 出 す る こ と で あ る(5)。. 0.2.民. 主 的 憲 法 論 の視 座. さて,サ. ン ス テ ィー ンが 提 示 した憲 法 学 的 課 題 を 析 出す る こ とが 本 論 文. の 課 題 で あ る 。 こ の 課 題 に 取 り組 む 目 的 ・意 義 は 何 だ ろ う か 。 も ち ろ ん,. サ ン ス テ ィー ンが 提 示 した憲 法 学 的 課 題 を 明 らか にす れ ば,そ れ に対 す る. (5)も. ち ろ ん,提. 示 す る 課 題 と そ れ に 対 す る 応 答 と い う の は,し. 別 で き な い と こ ろ も あ る 。 そ れ ゆ え,本. 論 文 で も,提. 答 に も 言 及 す る と こ ろ が し ば し ば あ る 。 し か し,本 も の と し て 扱 い,課 て も,課. 論 文 で は,一. 応区別で きる. 題 を 析 出 す る こ と に 焦 点 を あ て る 。 ま た,区. 別で きるとし. 題 の み を 析 出 す る こ と で は 不 十 分 で,こ. の 課 題 に対 す る憲 法 学 的 応 答. も 分 析 す べ き と い う 意 見 も あ る か も し れ な い 。 し か し,そ た い 。 ま た,そ. ば しば 毅 然 と区. 示 す る課 題 の み な らず 応. の 場 合 に は,本. の 作 業 は他 日 に期 し. 書 の 読 解 とい う形 式 を と るか ど うか は わ か らな. い 。 本 書 が 提 示 し た 憲 法 学 的 応 答 に つ い て 一 言 だ け い え ば,本. 書 は,サ. ンス. テ ィー ンが さ ま ざ ま な著 作 や論 文 で提 示 して き た憲 法 論 が集 大 成 的 に 詰 め 込 ま れ て い る と こ ろ が あ り,そ. れ ゆ え,サ. た め に は 最 適 な 書 物 で あ る が,し. ンス テ ィー ンの 憲 法 論 の 全 体 像 を つ か む. か し,論. 旨 を よ り詳 細 に 知 り た け れ ば,サ. ス テ ィ ー ンの 他 の 書 物 ・論 文 に あ た っ た 方 が よ い だ ろ う。 た と え ば,サ. ン. ンステ ィー. ン が 提 示 す る リベ ラ ル な 共 和 主 義 の 全 体 像 と して は,Sunsteinl988,Sunstein 1993a,Sunstein2001,表. 現 の 自 由 論 に つ い て い え ば,Sunstein1993b,規. 論 に つ い て は,Sunstein1990,Sunstein1997と. い う よ う に 。 ま た,サ. テ ィ ー ン に つ い て 論 じ た 邦 語 文 献 と し て は,次 い え ば,森. 脇2010,共. い て は,毛. の文 献 を参 照 。 全 体 像 につ いて. 和 主 義 憲 法 論 に つ い て は,大. 現 の 自 由 論 に つ い て い え ば,大. 沢2011,第. 利2008。. 53. 制 ンス. 八 章;毛. 沢1994;毛 利1995a,集. 利1995b,表 団 分 極 化 につ.

(4) 近畿大学法学. 第59巻第4号. サ ンス テ ィー ンの 憲 法 学 的 応 答 が よ りよ く理 解 で き る と い う こ と は あ る。 しか し,本 論 文 が この 課 題 に取 り組 む 目的 は,サ ン ス テ ィー ンの 議 論 の 解 釈 学 に と ど ま ろ う とす る もの で はな い。 そ こで,も. う少 し広 い視 座 か ら本 論 文 の 試 み を 捉 え な お して お こ う。 現. 在,民 主 政 を 可 能 に し実 質 化 す る装 置 と して の 憲 法 の 役 割 が 見 直 され て 来 て い る(6>。憲 法 ひ い て は立 憲主 義 の 民 主 的 な 意 義 を見 直 して い こ う とす る 議 論 が 多 く登 場 して お り,私 は,そ. の よ うな 議 論 の 総 体 を,「 民 主 的 憲 法. 論 」,そ の よ うな 役 割 を持 った 憲 法 を 「民 主 的 憲 法」 と呼 ん だ こ とが あ る (松尾2010;松. 尾2011)の. で,こ こで もそ の 呼称 を用 い る。 しか し,こ の. 民 主 的 憲 法 論 は奇 妙 な もの に見 え るか も しれ な い。 と い うの も,従 来,立 憲 主 義 と民 主 政 は対 立 的 に捉 え られ て き た と こ ろが あ るか らで あ る。 す な わ ち,立 憲 主 義 と は,憲 法 と い う装 置 に よ って 国 家 権 力 の 専 制 を 抑 止 しよ う とす る もの で あ る と理 解 され て い る。 立 憲 主 義 に お いて 想 定 され る国 家. (6)民. 主 政 と 憲 法 と の 協 働 的 関 係 を 探 る 民 主 的 憲 法 論 は,憲. 哲 学 ・政 治 思 想 史 に お い て も,広 お い て は,本. 法 学 の み な らず,法. い文 脈 で議 論 さ れ て い る。 ア メ リカ憲 法 学 に. 論 文 で 取 り 上 げ る キ ャ ス ・サ ン ス テ ィ ー ン の. 義 」 の ほ か に も,ブ. 「リベ ラ ル な 共 和 主. ル ー ス ・ ア ッ カ ー マ ンBruceAckermanの. 政 」 論(Ackerman1991),マ 義 」論(Dorf2003)が. 「二 元 的 民 主. イ ケ ル ・ ドル フMichaelDorfの. 「民 主 的 実 験 主. あ る。 ア メ リ カ 憲 法 学 の 文 脈 で の 整 理 に つ い て は,ホ. ィ ッ. テ ィ ン ト ン の 分 類 が 興 味 深 い(Whittington2008,284-289)。. そ こ で は,立. 主 義 と 民 主 政 と の 関 係 を 調 和 さ せ よ う とす る ア プ ロ ー チ を4つ. に 整 理 して い る. が,そ. の う ち の3つ. の 文 脈 で は,ス. は 民 主 政 論 の 方 を 基 調 に し て い る 。 政 治 思 想 史(政. テ ィ ー ヴ ン ・ ホ ー ム ズStephenHolmesの. 論(Holmes1995),リ. ェ ー ム ス ・タ リ ーJamesTullyの. 主 義democraticconstitutionalism」(Tully2002)な 戦 後,主. と し て1970年. 代 か ら2000年. 治 哲 学). 「積 極 的 立 憲 主 義 」. チ ャ ー ド ・ベ ラ ミ ーRichardBellamyの. 主 義 」 論(Bellamy2007),ジ. 憲. 「政 治 的 立 憲 「民 主 的 立 憲. どが あ る。 第 二 次 世 界 大. ま で の,憲. 法 改 正 と違 憲 審 査 制 との 論 点 に. 絞 って 立 憲 主 義 と民 主 主 義 の関 係 に つ い て の ア メ リカ 憲 法理 論 の 展 開 を 紹 介 検 討 し た も の と して,次 と して,松. 尾2011参. を 参 照,阪. 口2001。. 照。. 54. これ らの 議 論 の 一 部 を 検 討 した 拙 稿.

(5) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 権 力 の 担 い手 あ る い は その 正 統 性 の 源 泉 が,君 主 で あ るか,人 民 で あ るか は関 係 な く,と もか くも公 権 力 を 統 制 す る もの だ と考 え られ て い るの で あ る。 その 結 果,民 主 的 に選 択 され た結 果 も,場 合 に よ って は,立 憲 主 義 的 制 約 を 受 け る こ と にな る。 この よ うな 理 屈 で,憲 法 と民 主 政 の 関 係 は,対 立 的 に捉 え られ て き た の で あ る(7>。そ れ ゆ え,こ. の よ うな 対 立 的 に捉 え る. 従 来 の 見 解 か らみ れ ば,協 働 関 係 を 重 視 す る民 主 的 憲 法 論 と い うの は,奇 妙 な 試 み に見 え よ う(8)。 この 奇 妙 な 試 み で あ る民 主 的 憲 法 論 を よ り詳 細 に整 理 検 討 して い く必 要 が あ る こ と は言 う まで もな い。 本 論 文 で サ ン ス テ ィー ンの 議 論 を 取 り上 げ る理 由 も こ こ に存 す る。 と い うの も,サ ン ス テ ィー ン 自身 も,初 期 か ら一 貫 して民 主 政(「 共 和 政 」 「熟 議 民 主 政 」)を 可 能 に し実 質 化 す る うえ で の 憲 法 の 役 割 を 考 察 して き たか らで あ る。 民 主 的 憲 法 論 を 明 らか にす る うえ で は,そ こ にお け る憲 法 観 は何 か,民 主 政 観 は何 か,両 者 の 関 係 を 積 極 的 に捉 え る と い って も具 体 的 に は どの よ う に捉 え るの か,と. い っ た問 題 が 解 き明 か され て い く必 要 が あ るだ ろ う。. しか し,本 論 文 で 取 り扱 うの は その よ うな 問 題 で はな い。 そ の よ うな 問 題 を 取 り組 む た め に は,サ ン ス テ ィー ンが 提 示 した憲 法 学 的 応 答 を 明 らか に す る こ とが 早 道 で あ る。 本 論 文 の 課 題 は,あ. くまで もサ ン ス テ ィー ンが 提. 示 した憲 法 学 的 課 題 を 明 らか にす る こ と に あ る。 本 論 文 が この よ うな 課 題. (7)こ. この 対 立 の 背 景 に は,リ ベ ラ リズ ム 対 民 主 政 とい う伝 統 的 な 対 立 が 控 え て. い る こ と も注 意 して お く必 要 が あ る。 つ ま り,民 主 的憲 法 論 とい うの は,リ ベ ラ リズ ム と民 主 政 の 捉 え 直 しの 作 業 で もあ る。 (8)な お,こ. の よ うに対 比 的 に提 示 す る と,従 来 の 憲 法 論 と民 主 的 憲 法 論 が 対 立. し,相 互 排 他 的 な関 係 に あ る と みえ るか も しれ な い が,し か し,民 主 的 憲 法 論 の な か に は,む. しろ相 補 的 な関 係 を説 くこ と も不 可 能 で は な い し,ま た,そ の. よ うな 立 場 も十 分 に存 在 す るだ ろ う。 と くにバ ン ジ ャマ ン ・コ ンス タ ンが,古 代 人 の 自 由 と近 代 人 の 自 由の 相 補 的 な 関 係 を説 いた こ と は,従 来 の 憲 法 論 と民 主 的 憲 法 論 の 相 補 性 を 明 らか にす る上 で 示 唆 的 で あ る(松 尾2011参. 55. 照)。.

(6) 近畿大学法学. 第59巻第4号. に限 定 す るの は,本 論 文 の 目的 は,民 主 的 憲 法 論 が 強 ま って い る背 景 の 一 端 を明 らか に した いか らで あ る。 一 部,結 論 を 先 取 り して いえ ば,民 主 的 憲 法 論 は,立 憲 主 義,ひ. いて は,そ の 背 景 の 思 想 に あ る リベ ラ リズ ムの 危. 機 か ら,立 憲 主 義 と リベ ラ リズ ム に代 わ る救 世 主 と して の 民 主 政 と い う形 で 登 場 した もの で はな い。 民 主 的 憲 法 論 は,民 主 政 の 危 機 か ら登 場 したの で あ り,も っ と いえ ば,リ ベ ラ リズ ム と民 主 政 の 双 方 の 危 機 か ら登 場 した もの と さえ いえ るの で あ る。 サ ン ス テ ィー ンが 提 示 す る憲 法 学 的 課 題 を 仔 細 に分 析 す れ ば,そ の 危 機 の 一 端 が 明 らか にな るだ ろ う。 したが って,本 論 文 の 目的 は,サ ン ス テ ィー ンの 提 示 す る憲 法 学 的 課 題 を読 み 解 くこ と に よ って,民 主 的 憲 法 論 の 課 題 の 一 端 を 明 らか にす る こ と に あ る。. 0.3.本. 論 文 の焦 点 と構 成. サ ンス テ ィー ンの 提 示 す る憲 法 学 的 課 題 を 読 み 解 くと い って も,本 論 文 の 多 くの 叙 述 は,彼 が 着 目す る現 象 の 分 析 に焦 点 が あて られ る。 具 体 的 に は,カ スケ ー ド,集 団 分 極 化 と い っ た現 象 の 分 析 で あ る。 それ らの 現 象 を 分 析 す る際 に,サ ン ス テ ィー ン は,社 会 心 理 学 的 な 知 見 に依 拠 す る部 分 が 多 い。 本 論 文 の 叙 述 も,サ ン ス テ ィー ンの そ う した知 見 の 紹 介 が どの よ う な もの で あ るか を 分 析 す る過 程 で,社 会 心 理 学 上 の 知 見 を 紹 介 引 用 す る こ とが 多 くな る。 それ ゆえ,一 見 憲 法 学 と関 係 のな い叙 述 が 続 くこ とに な る。 しか し,そ の 作 業 は,最 終 的 に は,サ ン ス テ ィー ンが 本 書 で 提 示 した憲 法 学 的 課 題 を 析 出す る た め に あ る と い う こ と に は留 意 して い ただ き た い。 本 論 文 の 構 成 につ いて で あ るが,以 下 で は,ま ず,1に テ ィ ー ンの 議 論 の 出発 点 が ど こ に あ るの か,ま な の か を 簡 単 に確 認 し,次 に,2に. お いて,サ. ンス. た,そ の 憲 法 学 的 意 味 は何. お いて,個 人 は,ど の よ うな 動 機 で,. どの よ うな 情 報 技 術 を 採 用 し,そ の 選 択 の 結 果,ど の よ うな 事 態 が 生 じて 56.

(7) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 い るの か とサ ン ス テ ィー ン はみ て い るの か,さ. らに,3に. お いて,そ の よ. うな 技 術 が も た らす 集 団 分 極 化 と集 団 分 極 化 に伴 う分 裂 化 が 民 主 政 に どの よ うな 影 響 を も た らす の か,最 後 に,4に. お いて,以 上 の 議 論 を 踏 まえ て. サ ン ス テ ィー ンが 提 示 した憲 法 学 的 課 題 は何 か と い う順 に議 論 を 進 めて い く。. 1.消. 1.1.何. 費 者 側 の 動 機 と い う出 発 点 と そ の 憲 法 学 的 意 味. が 問 題 な のか. 本 節 で は,サ. ン ス テ ィ ー ン の 出 発 点 を 確 認 し,そ. の う え で,そ. の 出発 点. の 憲 法 学 的 意 味 を 簡 単 に検 討 す る。 さ て,本. 論 文 の 冒 頭 で 述 べ た と お り,本. 書 は イ ン タ ー ネ ッ トと 民 主 主 義. の 関 係 一 般 に つ い て 論 じ た も の で は な い 。 イ ン タ ー ネ ッ トと 民 主 主 義 の ど ち らか を 主 題 と し て い る か と い え ば,「 第 一 の 主 題 は,民 で も 特 に 熟 議 民 主 政(deliberativedemocracy)で 文 で 述 べ る よ う に,民 理 念,(2)理. 主 政,そ. のなか. あ る」 と 日本 版 へ の 序. 主 政 論 の 方 が 主 題 で あ る 。 民 主 政 論 と い っ て も,(1). 念 を 実 現 す る 制 度,(3)理. 念 を 体 現 す る/支. の さ ま ざ ま な 次 元 に 区 別 さ れ う る し,ま な 見 解 が 存 在 す る 。 そ れ は,民. た,そ. え る社 会 の 構 成 な ど. の 次 元 ご と につ いて も多 様. 主 政 に 「熟 議 」 と い う 修 飾 語 を 付 け て も 同. じ こ と で あ り,「 熟 議 民 主 政 」 論 内 部 で も多 様 な 立 場 が 存 在 す る だ ろ う 。 そ の よ う な 民 主 政 論 の 詳 細 に 立 ち 入 る こ と な く,本 と す る の は,サ. 論 文 が 明 らか に しよ う. ン ス テ ィ ー ン が 提 示 し た 解 答 で は な く,サ. 提 示 した 課 題 で あ る。 サ ン ス テ ィ ー ン は,何. ン ス テ ィー ンが. を 課 題 と して 取 り上 げ る の か,. そ の 出 発 点 を 確 認 して お く必 要 が あ る だ ろ う 。 本 書 に お い て サ ン ス テ ィ ー ン が 取 り組 む 課 題 は,民. 主 的 な 社 会 にお け る. 「表 現 の 自 由 の シ ス テ ム が 機 能 す る た め の 秘 訣 を 探 し 当 て る こ と」(5=28. 57.

(8) 近畿大学法学. 頁)で. 第59巻 第4号. あ る(9)。そ の 秘 訣 と は,(1)異. な る 意 見 へ の 接 触 と(2)市 民 の 間 で 共 有. 体 験 を も つ こ と と い う 二 つ の 条 件 で あ っ た(5-6=29頁)。 は,「 民 主 政 が 機 能 す る た め の 」 条 件(6=29頁),あ 持 の 前 提 条 件 」(222=201頁)な. そ れ らの 条 件 る い は,「 共 和 制 維. の で あ る 。 そ れ ゆ え,サ. ンス テ ィー ンが. 取 り組 む 課 題 は 民 主 政 が も た らす 弊 害 や 民 主 政 の 暴 走 と い っ た 事 態 で は な い 。 こ れ らの 民 主 政 の 前 提 条 件 が イ ン タ ー ネ ッ トの 普 及 と い う 情 報 環 境 の 変 化 に よ って どの よ うな 影 響 を 受 け るの か と い う こ とが 問 題 な の で あ る。. 1.2.ウ. ェ ブ2.0に お け る 個 人. こ の 問 題 に ア プ ロ ー チ す る う え で サ ン ス テ ィ ー ン が 着 目 す る の は,「 完 全 な フ ィル タ リン グが 可 能 にな っ た と き に民 主 的 社 会 に起 こ る さ ま ざ まな 問 題 」(11=34頁)で は,情. あ る 。 こ の 問 題 を 取 り 扱 う た め に,サ. 報 の 供 給 側 で は な く,情. ン ス テ ィー ン. 報 の 消 費 者 側 に着 目す る。. ス ピ  チマ  ケ ッ ト. 私 は,言 論 市 場 の 『需 要 』 側 の 問 題 に注 目 して い くつ も りで あ る。 マ イ ク ロ ソ フ ト,ネ ッ トスケ ー プ等 の 生 産 者 の 活 動 で はな く,消 費 者 の 選 択 や 好 き嫌 いか ら生 じる問 題 が あ る。 一 般 的 な 見 方 で は,最 大 の 問 題 は情 報 通 信 の 選 択 を す る何 百 万,い や 何 十 億 と い う人 た ち に あ る の で はな く,大 企 業 に あ る と され る。 しか し,長 期 的 にみ れ ば,よ. り. 深 刻 で,か つ 最 も軽 視 され て き た リス ク は,消 費 者 の 動 機 だ と私 は考 え る(13=36頁)。. (9)サ. ン ス テ ィ ー ン が 繰 り返 し明 示 的 に 主 題 と し て 提 示 して い る の は,民. 条 件 と は 何 か と い う 問 題 で あ る(第. 主政の. 一 版,5-6頁;5=28頁;222201頁)。. た だ し,副 次 的 な 議 論 と し て,自 由 論 も控 え て い る(た と え ば,121-122=117 -118頁) 。 そ の 議 論 は,サ ンス テ ィ ー ンの憲 法 観 の 全 体 像 を 特 定 す る うえ で は重 要 で は あ る か も し れ な い が,民. 主 政 論 に特 化 した 形 で 検 討 を 進 め る。. 58.

(9) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 こ こ で 需 要 側 と は,表. 現 ・情 報 の 伝 達 の 受 け 手 側,サ. れ ば,「 消 費 者 」 の こ と で あ る 。 逆 に,供 テ レ ビや 新 聞 な ど の マ ス ・メ デ ィ ア,広 イ トな ど の,企. ン ス テ ィー ン に よ. 給 側 と は,報. 道 の 分 野 で い え ば,. 告 に つ い て は,ア. マ ゾ ンな どの サ. 業 の こ とで あ る。. 需 要 側 の 問 題 を 取 り上 げ る ゆ え に,し. ば し ば 取 り上 げ ら れ る 供 給 側 の 独. 占 的 な 振 る 舞 い や 不 公 正 な 取 引 行 為 の 問 題 は 取 り上 げ ら れ な い 。 情 報 通 信 技 術 と の 関 連 で よ く取 り上 げ られ る 例 を い くつ か あ げ れ ば,ま. ず,ネ. ッ ト. ワ ー ク産 業 の サ ー ビ ス を提 供 す るた め に 必 要 不 可 欠 な イ ン フ ラ ス トラ ク チ ャ ー を 提 供 す る 企 業 の ボ トル ネ ッ ク 独 占 の 問 題,ま. た,消. 費 者 に気 づ か な い よ. う に 広 告 を す る ス テ ル ス ・マ ー ケ テ ィ ン グ の よ う に,大 費 行 動 を 容 易 に 操 作 可 能 に な っ て し ま う,い さ ら に,イ. 企業が消費者の消. わ ゆ る 社 会 的 権 力 の 問 題 ⑩,. ン タ ー ネ ッ トが 登 場 して 情 報 が 一 見 普 遍 的 に 行 き わ た る よ う に. 見 え て も,情. 報 環 境 の 差 に よ っ て 生 じ る 情 報 格 差(デ. の 問 題 な ど が あ る(14=37頁 る 論 点 は,本. ジ タ ル ・デ バ イ ド). 以 下 も参 照)。 こ の よ う な よ く取 り上 げ ら れ. 書 で は 取 り上 げ られ な い 。. そ の 代 わ り に 取 り上 げ ら れ る の が,「 消 費 者 」 の 問 題 で あ る 。 こ の. 「消. 費 者 」 と い う言 葉 にサ ン ス テ ィー ンが 込 めて い る イ メー ジ に は注 意 が 必 要 で あ る 。 「消 費 者 」 と い え ば,一. 般 的 に は,企. 業 が 市 場 で販 売 す る商 品 を. 購 入 し消 費 す る 者 が イ メ ー ジ さ れ る だ ろ う 。 しか し,本. (10)こ. の 点,「. 書 で 議 論 され て い. イ ンタ ー ネ ッ トと法 」 と い う テ ー マ に つ いて の著 名 な 法 学 者 で あ. り,サ. ン ス テ ィ ー ン の 同 僚 で も あ っ た ロ ー レ ン ス ・ レ ッ シ グLawrenceLessig. が,イ. ン タ ー ネ ッ ト技 術 が 抱 え る 問 題 と し て 取 り上 げ る の は,ア. の 設 計 を 通 じ て,企. 業 が 消 費 者 の 行 動 を(消. ーキテ クチャ. 費 者 が 気 づ か な い と こ ろ で)操. 作. す る と い う危 険 が 強 ま る と い う点 で あ る。 ア ー キ テ クチ ャは 人 々の 行 動 を 統 御 す る と い う 点 で は 法 と 同 じ機 能 を 有 して お り,ア. ー キ テ クチ ャは 一 種 の 法 とな. る 。企 業 の 商 業 的 利 益 に よ っ て ア ー キ テ ク チ ャ の 内 容 が 決 定 さ れ る こ と を,レ シ グ は 「法 の 私 有 化 の 一 種akindofprivatizedlaw」 2006,77=110頁)。. 59. と 呼 ん で い る(Lessig. ッ.

(10) 近畿大学法学 る の は,た. 第59巻第4号. と え ば,特. 定 の 政 治 問 題 の た め に個 人 で ホー ムペ ー ジを 作 る人. 間 も 含 ま れ て い る の で あ り,普 し,消. 通 に イ メ ー ジ さ れ る,財. や サ ー ビスを 購 入. 費 す る 消 費 者 だ け を 指 して い る の で は な い 。 よ り広 い ニ ュ ア ン ス を. 含 ん で い る。 サ ン ス テ ィ ー ン が 込 め た ニ ュ ア ン ス を 掬 い 取 る た め に は,彼. が何を問題. に し た い の か と い う 点 を 振 り返 っ て お く必 要 が あ る 。 サ ン ス テ ィ ー ン が 問 題 に し た い の は,イ. ン タ ー ネ ッ トが 民 主 政 に と っ て バ ラ 色 の 未 来 を 用 意 し. て い る の か と い う 点 で あ る 。 一 般 に,イ 立 し た お か げ で,送. ン タ ー ネ ッ トと い う 情 報 環 境 が 成. り手 と 受 け 手 が 分 離 し た メ デ ィ ア の 時 代 か ら,一. 個人. が 世 界 に その 意 見 を 発 信 で き る よ う にな っ た と いわ れ る。 この よ うな 時 代 は 「ウ ェ ブ2.0」 と 呼 ば れ る 。 そ れ ゆ え,本 費 者 」 と い う の は,ウ. 書 で サ ン ス テ ィ ー ン が い う 「消. ェ ブ2.0時 代 に お け る 自 分 の 情 報 環 境 を 自 分 の 好 み に. あわ せ て カ ス タマ イ ズ で き る よ う にな った個 人 と い う ぐらい の意 味 で あ る。 情 報 環 境 と い う の は,情. 報 を 発 信 す る環 境 と情 報 を 受 け 取 る(≒. 選 別 す る). 環 境 の 二 つ に 分 け られ る が,サ. ン ス テ ィ ー ン が 本 書 で 問 題 視 して い る の は,. の ち に 詳 細 に ふ れ る よ う に,情. 報 を 選 別 す る フ ィル タ リン グ技 術 で あ る。. そ れ ゆ え,本. 書 の 出 発 点 は,情. 報 通 信 技 術 の 発 展 に よ り情 報 の 選 別 が 自. 由 に で き る よ う に な っ た 個 人 で あ る 。 た だ,こ 機 を 問 題 の 出 発 点 に 据 え る と して も,ど す る の か 。 ま た,消. の よ うな 視 点 で 消 費 者 の 動. の よ うな 観 点 で その 動 機 を 問 題 視. 費 者 の 動 機 と情 報 技 術 の 発 達 が どの よ う に関 係 す るの. か。. 1.3.「 憲 法 学 者 」 サ ンス テ ィー ンの 出 発 点 の 奇 妙 さ それ らの 問 題 を 論 じる前 に,出 発 点 と して 消 費 者 の 動 機 を 据 え る こ と 自 体 の 憲 法 学 的 意 味 につ いて 論 じて お こ う。 結 論 を 先 取 り して 言 え ば,消 費 者 の 動 機 を 出発 点 に据 え る こ と は,憲 法 学 的 に は,き わ めて 特 殊 な の で あ 60.

(11) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 る。 サ ンス テ ィー ン は,ア 脇2010参. メ リカ を 代 表 す る憲 法 学 者 の一 人 で あ る(森. 照)。 その 著 作 は多 くの 他 の 憲 法 学 者 に引 用 され て い る(多 大 な. 批 判 もさ れ て い る)。 こ こ で の 問 題 は,憲 法 学 者 で あ る サ ンテ ィー ンの 出 発 点 の 奇 妙 さを 確 認 して お くこ とで あ る。 と こ ろで,サ. ン ス テ ィー ンの 出発 点 が 憲 法 学 的 に特 殊 で あ る と して も,. そ の前 に憲 法 学 で い う 「憲 法 」 が,一. 般 常 識 か らす れ ば,特. 殊な意 味を. 持 って い る。 憲 法 学 で い う 「憲 法 」 と は,実 質 的 意 味 の 憲 法 と いわ れ,形 式 的 意 味 の 憲 法 に限 定 され る もの で はな い と いわ れ る。 形 式 的 意 味 の 憲 法 と は,あ る特 定 の 手 続 きを 経 て ま さ に 「憲 法 」 と い う名 称 を 付 与 され る形 で 制 定 され た もの の こ とで あ る。 ア メ リカ合 衆 国 憲 法 典,日 本 国 憲 法 典 が それ で あ る。 これ に対 して,実 質 的 意 味 の 憲 法 と は,特 定 の 内容 を も った 憲 法 を 憲 法 とす る もの で あ る。 その 特 定 の 内容 につ いて は,ど の 内容 が 含 まれ るの か につ き,い ろ い ろな 見 解 が あ りう る。 まず も って 憲 法 学 者 の 中 で 一 致 して い るの は,固 有 の 意 味 の 憲 法 と い う 内容 で あ る。 国 家 な い し政 府 が 存 在 す る以 上,国 家 や 政 府 を 成 立 せ しめ るル ー ル の 集 合 が あ る。 この ル ー ル の 集 合 は,憲 法 と名 付 け られ て い よ うが い ま いが,国 家 を 構 成 す る と い う意 味 で は実 質 的 に は憲 法 で あ る と い うの で あ る。 これ は,古 代 か ら 存 在 す る憲 法 と いえ る。 次 に,近 世 か ら近 代 へ と至 る過 程 で 生 成 した,実 質 的意 味 の憲 法 が あ る。 す な わ ち,1789年 (い わ ゆ る フ ラ ンス 人 権 宣 言)第16条. の 人 お よ び 市 民 の 権 利 の宣 言. の 「権 利 の 保 障 が 確 保 され ず,権. 力. の 分 立 が 定 め られ て いな いす べ て の 社 会 は,憲 法 を もつ もの で はな い」 と い う規 定(11)に 象 徴 され る よ う に,近 代 に お いて,憲 法 は,個 人 の 権 利 と権 力 分 立 を 制 度 化 す る こ と に よ って,国 家 権 力 の 専 制 を 防 止 し,も って 個 人. ⑪. こ の 規 定 に お い て,「 国 家 」 で は な く て 「社 会 」 と い う 表 現 が 採 用 さ れ て い る こ と の 意 味 に つ い て は,参. 照Troper1994,217=117頁. 61. 。.

(12) 近畿大学法学. 第59巻第4号. の 自 由を 守 る もの だ と理 解 され て き た。 この よ うな 憲 法 観 を 近 代 立 憲 主 義 と呼 ぶ 。 個 人 の 権 利 や 権 力 分 立 を 制 度 化 す るル ー ル も,実 質 的 意 味 の 憲 法 な の で あ る。 この よ う に,憲 法 学 者 に と って 「憲 法 」 と は,憲 法 と規 定 さ れ て いれ ば何 で も い い もの で はな くて,特 定 の 内容 を 持 っ た実 質 的 意 味 の 憲 法 で あ る。 そ して,現 代 の 憲 法 学 者 の 多 くの 出発 点 と して い るの は,近 代 立 憲 主 義 的 意 味 で の 憲 法 な の で あ る⑫。 この近 代 立 憲主 義 の観 点 か ら して,消 費 者 の 動機 に着 目す るサ ンス テ ィー ンの 出発 点 は どの よ う に位 置 づ け られ るの か 。 まず,近 代 立 憲 主 義 の 目標 は,人 び との 自 由を 守 る た め に国 家 権 力 を コ ン トロー ル す る こ とで あ る。 中心 的 な 問 い は,国 家 の 不 当な 介 入 か ら個 人 の 自 由を いか に して 守 るの か で あ る。 それ ゆえ,近 代 立 憲 主 義 に よ って 理 解 され た憲 法 は,国 家 の 権 力 を対 象 と して い るの で あ って,ま. た,守 るべ き 自 由の 中心 は国 家 か らの 自. 由 にな る。 この よ うな 憲 法 観 で は,公 私 の 区 分 が 維 持 され るべ き こ と にな ろ う。 これ は,公 私 区 分 論 と呼 ばれ る。 この よ うな公 私 区分 論 か らす れ ば, 消 費 者 の 動機 を 出発 点 とす る こ とは,憲 法 学 的 に は,で きな い は ず で あ る。 た とえ ば,三 菱 樹 脂 事 件 最 高 裁 大 法 廷 昭 和48年12月12日 判 決(民 集27巻11 号1536頁)⑱ が述 べ る よ うに,「 私 人 間 の 関 係 に お いて は,各 人 の 有 す る 自. ⑫. この よ うな 近 代 立 憲 主 義 に は,さ ま ざ ま な前 提 が あ る と指 摘 さ れ て い る。 ま ず,フ. ラ ンス の公 法 学 者 オ リヴ ィエ ・ボ ー は,近 代 立 憲 主 義 とは,国 家 権 力 の. 制 限 を 中心 とす るが,そ. の た め に は 制 限 の 対 象 と して の 国 家 が 主 権 を も った 形. で 存 在 しな けれ ば な らな い と説 く(Beaud1996)。. 次 に,法 哲 学 者 の 嶋 津 格 は,. 「国 家 機 関 とは相 対 的 に独 立 す る もの と して理 解 され る社 会秩 序 と私 法 の体 系 が 前 提 され,そ. れ の機 能 を 国家 の恣 意 的介 入 か ら守 り,個 人 の 自 由を 確 保 す る こ. と こそ が 憲 法 の 主 要 な 目的 と考 え られ る」 と述 べ,国. 家 か ら相 対 的 に 自律 した. 社 会 秩 序 と その 社 会 秩 序 を体 現 して い る と い え る私 法 の体 系 が 存 在 して い る と 説 くの で あ る(嶋 津2011,37頁)。 議 論 され た,国. 以 上 の 議 論 を ま とめ れ ば,ド イ ツ憲 法 学 で. 家 と社 会 の 二 元 論 が 近 代 立 憲 主 義 の 前 提 で あ った とい え よ う。. この こ と は,サ ンス テ ィー ンの 憲 法 観 を 読 み 解 くうえ で の 導 きの 糸 とな ろ う。 ⑬. 以 下 本 判 決 の 説 明 につ い て は,宍 戸2010が. 62. 大 い に参 考 にな った 。.

(13) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 由 と平 等 の 権 利 自体 が 具 体 的 場 合 に相 互 に矛 盾,対 立 す る可 能 性 が あ り, この よ うな 場 合 に お け る その 対 立 の 調 整 は,近 代 自 由社 会 にお いて は,原 則 と して 私 的 自治 に委 ね られ 」る とさ れ る の で あ る。 それ ゆえ,日 本 で は, 小 中学 校 の教 育 で は,「 人 権 」 とい え ば,私 人 間 に も通 用 す る もの と して 教 え られ るの に対 して,憲 法 学 が 想 定 す る憲 法 観 は,そ の よ うな 用 法 を 原 則 と して 否 定 す る,あ. る い は別 の次 元 の話 と して 処理 す るの で あ るω。 で. は,サ ン ス テ ィー ンの 出発 点 は憲 法 上 不 可 能 な もの な の だ ろ うか 。 必 ず しも不 可 能 で はな い。 法 学 の 議 論 に は しば しば例 外 が 伴 う よ う に, この 公 私 区 分 論 に も例 外 は あ る。 二 つ の 場 合 が 考 え られ る。 第 一 に,私 人 間 に も妥 当す る憲 法 価 値 を 想 定 す る場 合(「 客 観 的価 値 秩 序 」 と呼 ば れ る) と,第 二 に,個 人 の 自 由を 脅 か す 存 在 と して 国 家 権 力 の み な らず 社 会 権 力 を も重 視 す る場 合 が あ る⑮。 第 一 に,公 私 関 係 な く一 貫 して 守 られ るべ き価 値 と い う もの が 存 在 す る と い わ れ る。 日本 国憲 法 の例 を挙 げ れ ば,「 児 童 は,こ らな い」 と規 定 す る憲 法27条3項. れ を酷 使 して はな. の児 童 酷 使 禁 止 条 項,ま. た,「 奴 隷 的 拘. 束 」 と 「意 に反 す る苦 役 」 を 禁 止 す る憲 法18条 の 規 定 が 存 在 し,こ れ らの 規 定 は,私 人 対 政 府 の み な らず,私 人 対 私 人 との 関 係 にお いて も,直 接 に 適 用 され る と され て い る⑯ が,私 人 間 に も妥 当す る憲 法 価 値 が 想 定 され て. ω. この よ うな,小. 中 学 校 教 育 にお け る憲 法 観 と大 学 教 育 にお け る憲 法 観 の 違 い. は,大 学 で憲 法 学 を は じめ て学 ぶ学 生 に講 義 す る者 に と って の,最 初 の 難 関 で あ ろ う。 同 様 の 指 摘 を す る者 と して,宍 戸2010,25頁 ⑮. 以下参照。. 第 一 の 場 合 を,憲 法 が直 接 適 用 さ れ る場 合,第 二 の場 合 を,憲 法 が 間 接 的 に 適 用 され る場 合 と呼 ぶ こ と もで きよ う。 も っ と も,「直 接 適 用 され る場 合=憲 法 価 値 が 普 遍 的 に妥 当 す る場 合 」,「間 接 適 用 説=社 会 的 権 力 が 登 場 す る場 合 」 と い う等 式 が 成 り立 つ と まで 主 張 す る もの で はな い。 あ くま で サ ン ステ ィー ンの 出発 点 を 確 認 す るた め の 叙 述 な の で,憲 牲 に して い る。. q6>渋 谷2001,55頁. 参照。. 63. 法 学 上 の 議 論 の い くらか の 正 確 さ は犠.

(14) 近畿大学法学. 第59巻第4号. い る と いえ よ う。 も っ と も,近 代 立 憲 主 義 を 強 調 す る論 者 は,こ れ らの 規 定 が あ くまで 例 外 的 な もの だ と解 釈 す るだ ろ う。 第 二 に,社 会 的 権 力 を 重 視 す る場 合 で あ る。 先 に引 用 した,三 菱 樹 脂 事 件 最 高 裁 大 法 廷 判 決 は,「 私 人 間 の 関 係 に お い て も,相 互 の社 会 的 力 関 係 の 相 違 か ら,一 方 が 他 方 に優 越 し,事 実 上 後 者 が 前 者 の 意 思 に服 従 せ ざ る を え な い場 合」 に は,「 私 的 自治 の 名 の 下 に優 位 者 の 支 配 力 を無 制 限 に認 め る と き は,劣 位 者 の 自 由や 平 等 を 著 し く侵 害 ま た は制 限 す る こ と とな る お そ れ が あ る こ と は否 み難 い」 と し,「 私 的 自治 に 対 す る一 般 的制 限 規 定 で あ る民 法 一 条,九 〇 条 や 不 法 行 為 に関 す る諸 規 定 等 の 適 切 な 運 用 に よつ て,一 面 で 私 的 自治 の 原 則 を 尊 重 しな が ら,他 面 で 社 会 的 許 容 性 の 限 度 を 超 え る侵 害 に対 し基 本 的 な 自 由や 平 等 の 利 益 を 保 護 し,そ の 間 の 適 切 な 調 整 を図 る方 途 も存 す る」 とす る。 こ こで い う 「基 本 的 な 自 由や 平 等 」 と い うの は,憲 法 上 の 自 由や 平 等 と い う こ とで あ る。 す な わ ち,私 人 間 関 係 に お いて も,社 会 的 力 関 係 の 相 違 が あ る場 合 に は,民 法 な どの 規 定 の 解 釈 に 際 し憲 法 上 の 自 由や 平 等 の 利 益 に配 慮 す る と い う もの で あ る⑰。 以 上 の 議 論 か らサ ン ス テ ィー ンの 出発 点 は どの よ う に評 価 で き るだ ろ う か 。 まず,既. に述 べ た よ う に,消 費 者 の 動 機 を 問題 視 す る と い うサ ン ス. テ ィ ー ンの 出発 点 は,大 企 業 の 権 力 を問 題 にす る もの で はな い。 ウ ェブ2.0 時 代 の 個 人,自 分 で 情 報 を 収 集 しか つ 発 言 で き る時 代 に お いて も生 じう る 事 態 が,サ. ン ス テ ィー ンが 取 り組 む 課 題 な の で あ る。 それ ゆえ,社 会 的 権. 力 に着 目す る第二 の系 列 に含 まれ る もので は な い。そ れ で は,サ ンス テ ィー ンが 消 費 者 の 動 機 を 問 題 視 して い るの は,私 人 間 に も妥 当す る憲 法 的 価 値. ⑰. い わ ゆ る間 接 適 用 説 に よ る説 明 で あ る。 近 時 は,本 判 決 は間 接 適 用 説 で はな く,憲 法 は 私 人 間 関 係 に関 わ らな い の だ とい う無 効 力 説 を 示 した もの で あ る と す る立 場 も存 在 す る(高 橋2010,97-107頁. 64. 参 照)。.

(15) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 を 想 定 して い るか らで あ ろ うか 。 本 節 の 冒頭 で ふ れ た よ う に,本 書 で の 彼 の 目的 は,民 主 政 の 前 提 条 件 を 検 討 す る こ と に あ った 。 そ の こ とか らす れ ば,私 人 間 に も妥 当す る憲 法 的 価 値 と い うの は,民 主 政 に関 わ る価 値 で あ る こ と は確 か だ ろ う。 ま た,本 書 で サ ン ス テ ィー ンが 取 り組 む 問 題 は,民 主 政 が 社 会 で いか に 機 能 す るの か と い う社 会 一 般 の 人 々 に 関 わ る 問題 で あ って,児 童 酷 使 や 奴 隷 的 拘 束 の よ うな 局 所 的 な 場 面 に関 わ る問 題 で はな い⑱。 例 外 的 に政 府 が 介 入 して対 処 す る とい う問 題 で は な い 。 この よ うな 出発 点 に立 つ サ ン ス テ ィー ンの 憲 法 観 が,従 来 の 近 代 立 憲 主 義 を べ 一 ス に した憲 法 観 とは異 な る点 を 内 包 して い る こ とは 明 らか で あ ろ う⑲。 と りわ け,「 自由 の最 大 の 敵 は消 極 的 な 国 民 で あ る。 公 開 議 論 は政 治 的義 務 で あ る」 と い う ブ ラ ン ダ イ ス裁 判 官 の 言 葉 を 繰 り返 し好 意 的 に引 用 す る こ とか ら して も,サ ン ス テ ィー ンが 立 って い る地 平 が,近 代 立 憲 主 義 の 地 平 と は か な り異 な る こ と は確 認 で き よ う。. ㈹. も っ と も,先 進諸 国 の 企 業 が い わ ゆ る途 上 国 の 児 童 を 酷 使 して 製 品 を 製 造 し て い る よ うな 場 合 に は,児 童 酷 使 は社 会 一 般 に か か わ る 問題 と もい え る。た だ, 現 在 の 体 制 は,児 童 を 雇 用 して 労 働 させ る こ と も原 則 と して 禁 じ られ て い るの で あ り,ま た,そ の よ うな規 範 は社 会 一 般 に普 及 して い る とい え よ う。 民 主 政 が いか に機 能 す るの か と い う問 題 に比 べ て れ ば,相 対 的 に局 所 的 な 場 合 にの み 問 題 にな る事 態 で あ る こ と は確 か だ ろ う。. ⑲. 既 に述 べ た よ う に,サ こで 憲 法 観 とは,自. ンス テ ィー ンの憲 法 観 につ い て は別 論 文 に委 ね る。 こ. 由観,権 力 分 立 観,法(ひ. い て は 規 制)観. 国 家 観 な どを 含 む もの で あ る。 現 時点 で の見 込 み を い え ば,サ. 参 加 の 形 態, ン ステ ィー ンの. 憲 法 観 は,宍 戸 が 提 示 す る 「民 主 主 義 社 会 の 前 提 の 確 保 」 モ デ ル(あ 「公 共 体 基 本 秩 序 」 と して の憲 法 観)(宍 る。 た だ,サ. 戸2010,42頁. るいは. 以 下)に 近 い と考 え て い. ンス テ ィー ンは,裁 判 所 が 民 主 主 義 社 会 の 前 提 の 実 現 を 担 う こ と. につ い て は懐 疑 的 で あ る こ と に も留 意 して お く必 要 が あ るだ ろ う。. 65.

(16) 近畿大学法学. 2.情. 第59巻第4号. 報 環境 の発 展 とサ イバ ー カスケ ー ド. 本 書 の 出発 点 が 情 報 通 信 技 術 の 発 展 に よ り情 報 の 選 別 が 自 由 にで き る よ う にな っ た個 人 に あ る こ と は,こ れ ま で の議 論 で確 認 した。で は,個 人 は, どの よ うな 動 機 で,ど の よ うな 情 報 技 術 を 採 用 し,そ の 選 択 の 結 果,ど の よ うな 事 態 が 生 じて い るの か 。. 2.1.完. 全 な フ ィル タ リン グ. サ ン ス テ ィ ー ン は,消 費 者 の 動 機 の 側 が 重 要 で 深 刻 な 問 題 だ と す る 。 「… 誰 も が す べ て の メ デ ィ ア に ア ク セ ス で き る よ う に な る と して も,私 す る 問 題 の 解 決 に は な ら」(17-8=41頁)ず,生 消 さ れ た と して も,消. が議論. 産 者 と消 費 者 の 格 差 が 解. 費 者 の 動 機 の 問 題 は 残 る か らで あ る 。 消 費 者 の 動 機. の 問 題 が 重 要 で あ る 理 由 は,そ. れが. 「長 期 的 に 見 れ ば,よ. り深 刻 で,か. 最 も 軽 視 さ れ て き た リ ス ク 」 で あ る か らで あ る 。 長 期 的 に 見 れ ば,深 リ ス ク で あ る理 由 は,「 消 費 者 が 一 般 に 混 乱 し た り,不. gether民. 壁 に 理 に か な っ て い て も,全. れ ぞ れ単 独 で. 体 と して はwhentakento-. 主 的 な ゴ ー ル に 逆 行 して し ま う こ と が あ る か ら 」(13=36-37頁). で あ る と す る ⑳。 そ れ ゆ え,消. 費 者 個 人 の 動 機 そ れ 自体 の 問 題 で は な く,. 消 費 者 全 体 の 行 動 を み た 場 合 に 問 題 に な る の で あ る 。 す な わ ち,消 人 の 動 機 を 問 題 視 す る と い っ て も,個 か と い う 倫 理 的 な 問 題 を 扱 っ て,消. ⑳. 刻な. 合 理 で あ っ た り,. 悪 意 が あ っ た り す る か ら」 で は な く,「 消 費 者 の 選 択 が,そ はinisolation完. つ. 費者個. 人 が 善 く生 き る と は ど の よ う な こ と. 費 者 個 人 の 動 機 を 是 正 しよ う と い う話. 消 費 者 の 不 合 理 さが 問 題 にな らな い と い う意 味 で はな い。 別 の書 物 で は,消 費 者 の選 択 が 消 費者 の厚 生 を阻 害 し うる と い う こ と も問題 に して い る(Sunstein andThaler2008)o. 66.

(17) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 で は な い ⑳。 そ う で は な く,個. 人 の 行 動 の 集 積 が,究. 極 的 に は集 合 的 決 定. を 産 出 す る 民 主 政 に と っ て も た ら し う る 影 響 を 問 題 視 して い る の で あ る 。 で は,個. 人 の 行 動 の 集 積 が どの よ うな リス クを もた らす の だ ろ うか 。 そ. の リ ス ク を 明 らか に す る た め に は,次 ま ず,そ. の 二 つ の 問 い に応 え る必 要 が あ る。. の リス ク は どの よ うな 情 報 通 信 技 術 に よ って 高 ま るの で あ ろ うか. と い う 問 い と,そ. の 技 術 は消 費 者 の どの よ うな 動 機 と結 びつ いて い るの だ. ろ うか と い う問 いで あ る。 本 書 で,サ. ン ス テ ィ ー ン は,イ. ン タ ー ネ ッ トに 関 わ る す べ て の 情 報 通 信. 技 術 に 着 目 し た わ け で は な い 。 イ ン タ ー ネ ッ トと い う 情 報 通 信 技 術 は,さ ま ざ ま な 技 術 の 集 積 が 成 り立 っ て い る 。 イ ン タ ー ネ ッ トは 様 々 な 層layer に 分 か れ る 。 例 え ば,情 physicallayer」,「. 報 通 信 技 術 と 法 の 専 門 家 ベ ン ク ラ ー は,「 物 理 層. 論 理 層logicallayer」,「. コ ン テ ン ツ 層contentlayer」. 三 つ の 層 に 分 け て い る(Benkler2006,392)。 ハ ー ドと して の)コ 「論 理 層 」 と は,通. ン ピ ュ ー タ,ワ. わ ゆる. イ ヤ ー の よ う な 物 質 の 次 元 の こ と で,. 信 す る 際 の ア ル ゴ リ ズ ム や 標 準 な ど の 次 元 の こ と で,. 「コ ン テ ン ツ 層 」 と は,メ. ⑳. 「物 理 層 」 と は,(い. ッセ ー ジ な ど の 内 容 の 次 元 の こ と で あ る ⑳。 ま た,. した が って,本 書 の訳 者 あ とが き で石 川 が,サ. ンス テ ィー ンが 「一・ 人 で も多. くの 国 民 が 民 主 的 プ ロセ ス に参 加 す る こ とで,思. い が けな い 価 値 観 や 見 解 に遭. 遇 し,人 間 と して 円熟 す る こ とに期 待 を抱 い て い る わ け だ」(220頁,傍 者)と. い うの は,本 文 の よ うに理 解 す る 限 りで は,ミ. 点引用. ス リー デ ィ ン グな もの と. な ろ う。 本 書 が 問題 に して い る の は,消 費 者 の 個 人 の 生 き方 の 問 題 で はな いか らだ 。 も っと も,サ ン ステ ィー ン 自身 が そ の よ うな 倫 理 観 を 抱 い て い る こ とは 否 定 しな い し,本 書 の 議 論 の 背 景 にあ る こ と は十 分 に考 え られ る。 ⑳. これ らの 区別 は,別 に イ ン ター ネ ッ トの話 に 限定 され る もので は な く,コ ミュ ニ ケ ー シ ョンー 般 にお いて も用 い る こ とが で き る。 例 え ば,普 通 の 会 話 で は, 声 に よ って メ ッセ ー ジを 伝 達 す るが,音. は 物 理 的 な 振 動 に よ って 生 じる もの で. あ り,そ の振 動 を可 能 にす る物 理 層 の レベ ル は前 提 に さ れて い る し,ま た,文 法 規 則 と い う一 定 の 論 理 に従 わ な け れ ば メ ッセ ー ジは相 手 に 届 か な い だ ろ う。 も ち ろん,哲 学 的 に は,文 法 規 則 とい う論 理 層 は,内 容 も規 定 す る側 面 が あ り,/. 67.

(18) 近畿大学法学. 第59巻第4号. こ れ らの そ れ ぞ れ の 層 に つ い て も,多 ン ス テ ィ ー ン が 重 視 す る の は,こ. 様 な 技 術 が 関 わ って い るだ ろ う。 サ. の う ち の ほ ん の 一 部 で あ り,特. に注 目す. る の が フ ィ ル タ リ ン グ 技 術 で あ る ㈱。 フ ィル タ リン グ技 術 の 何 が 問 題 な の だ ろ うか 。 通 信 され る際 の 新 興 テ ク ノ ロ ジ ー に よ っ て も た ら さ れ る の は,何. を 見 る か を 消 費 者 が よ り容 易 に. フ ィ ル タ リ ン グ で き る よ う に な る と い う事 態 で あ る(5=28頁)。 信 技 術(の. 一 部)の. 情 報通. おか げで 個 人 は完 全 な フ ィル タ リン グ能 力 を 得 る。 完. 全 な フ ィ ル タ リ ン グ 能 力 と は 何 だ ろ う か 。 サ ン ス テ ィ ー ンの い う 「完 全 さ」 は,消. 費 者 が 見 た い もの だ けを 見 る こ とが で き る と い う こ とで あ る。 見 た. くな い も の(子 で)済. ど も に 見 せ た くな い も の)を. む よ う に,Vチ. に,フ. ど も に見 せ な い. ッ プ な ど の フ ィ ル タ リ ン グ 技 術 で あ らか じ め 排 除 す. る こ と が で き る 。 と こ ろ で,こ タ リ ン グ(=見. 見 な い で(子. の 技 術 は ど の よ う に して そ の よ う な フ ィ ル. た くな い も の の 決 定)を. 行 う の だ ろ う か 。 た と え ば,第. 一. ィル タ リン グ技 術 を 導 入 す る際 に どの よ うな 情 報 を み るの か につ い. て の 消 費 者 自身 の 決 定. た と え ば,自. 分 が 見 た い ニ ュ ー ス の み を あ らか. じ め 設 定 して お く 「デ イ リー ・ ミー 」 と,ネ ス テ ィ ー ン が 呼 ぶ も の,第 て の 情 報 と,そ. 二 に,消. グ ロ ポ ン テ に な ら っ て,サ. 費 者 自身 の 過 去 の 消 費 行 動 につ い. の よ う な 消 費 行 動 と 類 似 す る,つ. ま り趣 味 嗜 好 が 似 通 っ た. 別 の 消 費 者 の 消 費 行 動 に つ い て の 情 報 と を 比 較 して 企 業(が ト)が. お薦 めす る と い う決 定. グ と い う,こ 費 者(ま. た,趣. ン. 採用す るソフ. こ れ を コ ラ ボ レー シ ョ ン 型 フ ィ ル タ リ ン. れ ら二 つ の 決 定 が あ る だ ろ う 。 い ず れ に して も,当 味 嗜 好 が 似 通 っ た 消 費 者)の. 過 去 の(消. 費)行. \ 明 瞭 な 区 別 は出 来 な い と い う批 判 は あ るか も しれ な いが,と. 動 が,現. 該消 在. りあ え ず 区 別 で き. る と い う話 で あ る。 ㈱. この こ とか ら もわ か る よ う に,サ. ンス テ ィー ンの 関心 は,イ. 民 主 政 関 係 一・ 般 にあ るの で はな い。. 68. ン ター ネ ッ トと.

(19) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 の 選 択 肢 を 決 定 す る 。 サ ン ス テ ィ ー ン は,こ completefiltering」. れを. 「完 全 な フ ィ ル タ リ ン グ. と 評 価 し て い る ⑳。 も っ と も,そ. ま 消 費 者 が 鵜 呑 み に す る こ と な く,別. れ らの 決 定 を そ の ま. の 何 らか の セ カ ン ド ・オ ピ ニ オ ン を. 参 照 す る こ と も で き る の で あ る か ら,「 少 な く と も 第 一 次 的 に は 」 と い う 限 定 付 き の も の と 理 解 す る べ き で あ ろ う ㈱。. ⑳. た だ,こ. こでい う 「 完 全 さ」 の意 味 は 限定 さ れ た もの で あ る。 そ の 意 味 を 明. らか にす るた め に,い. くつ か の注 釈 を加 え て お こ う。 第 一 に,我. 味 嗜 好 につ いて よ く知 って い る と して も,我. 々は 自分 の 趣. 々は そ れ に基 づ い て 意 思 決 定 で き. て い るだ ろ うか とい う問 題 が あ るだ ろ う。 甘 い もの が 苦 手 な の に見 た 目で 思 わ ず 購 入 して し ま う こ と はあ る。 そ の 場 の ノ リで 自分 が 嫌 い な カ ラオ ケ に参 加 す る人 も い る。 フ ィル タ リ ング の設 定 時 に お い て も,決 定 が 自分 の 趣 味 嗜 好 を 最 大 化 して い な い こ と も あ りう る。 そ の原 因 は,短 慮 に基 づ くもの で あ った り, 意 志 の 弱 さ に基 づ くもの で あ った りす るだ ろ う。 第 二 に,そ. もそ も 自分 の 趣 味 嗜 好 を よ く知 って い るだ ろ うか と い う問 題 が あ. る。 た と え ば,「食 わ ず嫌 い」 とい う問 題 が あ るだ ろ う。 自分 の 意 思 決 定 と して は 「納 豆 」 が 嫌 いで あ った と して も,食 べ て み る と意 外 お い しか った とい う事 態 の こ とで あ る。 過 去 の決 定 は,自 分 の 趣 味 嗜 好(自 分 の 厚 生 を 高 め る こ と) の す べ て の 可 能 性 を 網 羅 す る もの で はな い。 排 除 され て し ま った 将 来 の 選 択 肢 の な か に は,本 当 な らば 自分 が望 ん だ もの が あ る か も しれ な い。 この よ うな 選 択 が な され る原 因 の 一 つ は,人 が 全 般 的 に 現 在 の 状 況 に固 執 す る傾 向 を 示 す と い う 「現 状 維 持 バ イ ア ス」 が あ る とい え る。 そ の意 味 で は,「 完 全 な フ ィル タ リ ン グ」 は,完 全 で は な い。 以 上 の よ う に 「完 全 な 」 フ ィル タ リン グ技 術 と い って も,視 点 を 変 え れ ば 完 全 で はな い 。 サ ンス テ ィー ンが 特 に取 り上 げ る 「完 全 な フ ィル タ リン グ」 は, 実 質 は,過 去 の 決 定 に つ い て の 情 報 を ベ ー ス に して 未 来 の 選 択 肢 を 形 成 して い くた め の す ぐれ た 技 術 に過 ぎな い こ と に注 意 が 必 要 で あ る。 ⑳. サ ン ステ ィー ン 自身 は,こ の よ うな 限定 を付 して い な い。 第 一 次 的 に提 示 さ れ る選 択 肢 が 決 定 を 重 要 な 程 度 で 誘 導 す る こ とが あ るか らで あ ろ う。 この 選 択 肢 の 提 示 の 仕 方 を 問 題 にす るの は,サ. ンス テ ィー ン と行 動 経 済 学 者 セ イ ラー の. 共 著 『Nudge」(SunsteinandThaler2008)に 検 討 につ い て は,福 原2010参. お いて で あ る(こ こで の 構 想 の. 照)。 な お,本 論 文 で は,本 書 で サ ンス テ ィー ン. が 問 お う と して い る課 題 を よ り明 確 にす る と い う 目的 以 外 で は,サ ンが 紹 介 す る知 見 の 社 会 学 的 妥 当 性 を 検 討 しな い。 た だ,こ. ン ステ ィー. こで 若 干 の 問 題 の. 概 略 だ け示 して お こ う。 まず,本 書 で は,後 に述 べ る よ うな 集 団 分 極 化 とい う, イ ン ター ネ ッ トの 負 の 側 面 が 強 調 され す ぎて い る と い う批 判 で き る だ ろ う。 こ/. 69.

(20) 近畿大学法学 で は,こ. 第59巻第4号. の よ うな フ ィル タ リ ング技 術 を 消 費者 は なぜ 用 い るの だ ろ うか。. サ ン ス テ ィ ー ン は,関 -57=70-77頁. 連 す る 二 つ の 理 由 を 挙 げ て い る(以. 以 下 を 参 照 した) 。 一 つ は,人. 知 っ て お り,嫌. 下 の 記 述 は,49. は 自分 の 好 み や 嫌 い な もの を. いな もの を 目 に触 れ な い よ う にす る た め に フ ィル タ リン グ. す る と い う わ か りや す い 理 由 で あ る 。 こ の よ う な 人 間 の 行 動 は 特 に 目 新 し い 現 象 で は な く,た. だ,こ. の 取 捨 選 別 が フ ィル タ リン グ技 術 に よ って よ り. 完 壁 に 近 い も の に な っ た と い う も の で あ ろ う 。 こ の よ う な 行 動 は 集 団 レベ ル で も 同 様 で あ り,そ う 一 つ の 理 由 は,情. の 場 合 に は 「集 団 主 義groupism」. 報 の オ ー バ ー ロ ー ド(過 負 荷)の. 通 信 技 術 の 発 達 の お か げ で,新 ケ ー ブ ル ・テ レ ビ,政. 々 に提 供 され る情報 は爆 発 的 に増 大 して い る。. ィ ル タ リ ン グ を して 過 剰 な 情 報 に 対 処 す る 必 要 が あ る 。 問. こ で の フ ィ ル タ リ ン グ は,単. は な く,自. な る選 択 肢 を 秩 序 付 け る た めだ けで. 分 の 世 界 観 と 衝 突 しな い も の を 選 択 す る た め に 用 い られ る と い. う こ と で あ る 。 実 際,白 の 十 傑 を 較 べ る と,双. \ れ に つ い て は,サ で,イ. 聞 ・テ レ ビ と い う主 要 メ デ ィ ア の み な ら ず,. 々 は こ れ らす べ て の メ デ ィ ア の 情 報 に 目 を 通 す こ と は で き な. い 。 そ こ で,フ 題 は,そ. 問 題 に関 わ る。 情 報. 治 家 や ジ ャ ー ナ リ ス トが 発 行 す る メ ー ル マ ガ ジ ン,. 専 門 家 に よ る プ ロ グ な ど,人 も ち ろ ん,人. と呼 ばれ る。 も. 人 の 人 気 テ レ ビ番 組 十 傑 と ア フ リ カ 系 ア メ リ カ 人 方 の リ ス トに 入 る 番 組 は ほ と ん ど な い と い う(こ. ン ステ ィー ン 自身 の 別 の 著 作. 『Infotopia」(Sunstein2006). ン タ ー ネ ッ トの 正 の 側 面 に 焦 点 が あ て ら れ て い る の で,そ. ス を と れ ば い い よ う に 思 う 。 も ち ろ ん,ネ い う も の で は な い 。 次 に,あ. れ. ち らで バ ラ ン. ッ ト上 の 問 題 す べ て を 網 羅 で き る と. る フ ィ ル タ リ ン グ ソ フ トを 用 い た と し て も,そ. れ. が 消 費 者 の 行 動 の す べ て を 決 定 す るわ けで はな い と批 判 で き るだ ろ う。 た とえ ば,ア. マ ゾ ン の コ ラ ボ レ ー シ ョ ン型 フ ィ ル タ リ ン グ を 利 用 し て い る 者 は,そ. れ. だ けで 消 費 行 動 の す べ て を 決 め て い るわ けで は必 ず しもな いだ ろ う。 イ ン ター ネ ッ ト上 の そ れ 以 外 の 情 報 も 利 用 す る し,ま い る 。 ま た,コ. た,ネ. ッ ト以 外 の 情 報 に も 触 れ て. ラ ボ レ ー シ ョ ン 型 フ ィ ル タ リ ン グ で も,思. って も見 な か った 商. 品 との 出会 い は あ るだ ろ う。 フ ィル タ リン グが 選 択 を 操 作 す る とい う結 論 には 相 当 慎 重 で あ るべ きで あ ろ う。. 70.

(21) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 は,後 述 す る分 裂 化 の一 例 で も あ る)。 この よ う に,オ ー バ ー ロー ド化 す る情 報 環 境 の 変 化 の も とで,人. 々 は ます ます 自分 自身 の 意 見 に近 い考 え 方. の み を選 別 し,他 者 の意 見 に対 して鈍 感 に な る とい うの で あ る㈱。 す な わ ち,情 報 環 境 の 変 化 が,自 分 の 好 み に あ る よ う に フ ィル タ リン グす る消 費 者 の 行 動 を よ り強 化 して い るの で あ り,そ の 意 味 で,二 つ の 理 由 は相 互 に 関 連 し合 うの で あ る。 この よ うな 理 由で フ ィル タ リン グ技 術 の 利 用 は ます ます 普 及 して い くの で あ る。. 2.2.カ. ス ケ ー ドの 諸 側 面. こ の よ う に して. 「自 身 の 声 の 反 響 を 聴 き,自. 高 ま っ て い る 」 現 象 が 発 生 し,そ ケ ー ドcybercascades」 ドcascade」. らを 隔 離 す る 能 力 が 劇 的 に. の 結 果 の ひ と つ と して,「 サ イ バ ー カ ス. と 呼 ば れ る 事 態 が 生 じ る(44=65頁)⑳. と い う の は,も. と も と は,連. 。 「カ ス ケ ー. な っ た小 さな 滝 の こ とを 意 味 す. る 。 先 の デ イ リー ・ ミー や コ ラ ボ レー シ ョ ン 型 フ ィ ル タ リ ン グ の 例 が 示 し て い る の は,単. ⑳. に 自 分 の(ま. 同 じ よ う な こ と は,す ち,民. 去の決. で に ト ッ ク ヴ ィ ル に よ っ て も指 摘 さ れ て い た 。 す な わ. 主 社 会 の 形成 の初 期 か ら同 じ問題 が 指 摘 され て き たの で あ る。 ト ック ヴ ィ. ル の こ の 議 論 に つ い て は,参 ⑳. た は 自 分 と 類 似 の 趣 味 嗜 好 の 者 の)過. 照 高 山2012,276。. 「カ ス ケ ー ド」 と い う 言 葉 自 体 は,サ い 。 そ の 用 語 が 示 す 実 体 も,社 多 く,ま. ンス テ ィー ンの オ リジナ ル の 用 語 で はな. 会 心 理 学 で い う 「同 調 」 と 重 な り 合 う と こ ろ が. た,「 情 報 カ ス ケ ー ド」 と い う 言 葉 も,か. な り前 か ら使 わ れ て い る(た. と え ば,Bikhchandani,Hirshleifer,andWelch1992)。 な お,第. 二 版 で は,さ. tionalcascades」 cades」. と,評. ら に,情. 報 に つ い て 生 じ る 「情 報 カ ス ケ ー ドinforma-. 価 につ い て生 じる. と い う 区 分 が 導 入 さ れ て い る(第. 「評 判 カ ス ケ ー ドreputationalcas-. 二 版6)が,全. 体 の 議 論 に影 響 を 与 え. る も の で は な い 。 な お,「 情 報 カ ス ケ ー ド」 の 定 義 に お い て,自 や 判 断 を あ て に す る こ と な く,他 決 定 す る こ と と し て い る(第. 己 が 有 す る情 報. 者 が 持 ち 込 ん だ とい う シ グナ ル を 基 礎 に して. 二 版84)。. と と矛 盾 す る可 能 性 が あ るだ ろ う。. 71. こ れ は,個. 人 の 合 理 性 を 仮 定 して い た こ.

(22) 近畿大学法学. 第59巻第4号. 定 が 連 な って 選 択 肢 が 形 成 され る と い う こ とで あ っ た。 この よ うな 連 な り が,「 サ イ バ ー カ ス ケ ー ド」 と 呼 ば れ る 。 た だ,サ. ン ス テ ィ ー ン 自 身 は,「 カ ス ケ ー ド」 を 「あ る 特 定 の 事 実 あ る. い は 見 解 が,多. 数 の 人 が 信 じて い そ う だ と い う 理 由 だ け で,広. る 情 報 交 換 の プ ロ セ ス 」 だ と定 義 し て い る(44=65頁)。 義 は,こ. くゆ きわ た. し か し,こ. の定. れ ま で サ ン ス テ ィ ー ン が 問 題 に して き た 現 象(「 デ イ リ ー ・ ミー 」. と 「コ ラ ボ レー シ ョ ン 型 フ ィ ル タ リ ン グ 」 の 二 つ)か. らす れ ば,狭. くか つ. 広 い。 ま ず,サ. ン ス テ ィ ー ン の 「カ ス ケ ー ド」 の 定 義 で は,「 多 数 の 人 が 信 じ. て い そ う だ と い う 理 由 だ け で 」 と,カ. ス ケ ー ド(と. い う 決 定 の 連 鎖)が. 生. じ る 原 因 が 定 義 の 中 に 組 み 込 ま れ て い る 点 で 狭 い 。 「デ イ リー ・ ミー 」 や 「コ ラ ボ レー シ ョ ン 型 フ ィ ル タ リ ン グ 」 が 用 い ら れ る 状 況 で,第 そ こ で 提 示 さ れ る 選 択 肢 を そ の ま ま 利 用 す る こ と の 理 由 は,多 い る と い う 理 由 と は 別 に あ り う る(た. と え ば,第. 一次 的 に 数 が 信 じて. 一 次 的 に提 示 され た選 択. 肢 以 外 の 選 択 肢 を 探 求 す る の が 面 倒 く さ い と い う こ と が あ る だ ろ う)。 そ して,サ. ン ス テ ィ ー ン は,多. 数 の 人 が 信 じて い る こ と を 理 由 と して 伝 播 し. て い く事 態 だ け を 問 題 視 して い る の で は な い 。 伝 播 して い く理 由 を 限 定 し て い る 点 で,定 次 に,サ. 義 は狭 い。. ン ス テ ィ ー ン の 定 義 で は,伝. 播 さ れ る 内 容 は,「 あ る特 定 の 事. 実 あ る い は 見 解 」 と さ れ て い る だ け で あ る 。 しか し,「 デ イ リー ・ ミー 」 「コ ラ ボ レ ー シ ョ ン型 フ ィ ル タ リ ン グ 」 の よ う な サ ン ス テ ィ ー ン が あ げ る 例 を 考 え る と,こ. れ らの 例 に お い て は,伝. 播 さ れ る 内 容 は,類. 似の趣味集. 団 の 選 択 の 統 計 的 情 報 に基 づ いて フ ィル タ リン グ され た選 択 肢 で あ る。 つ ま り,カ が,多. ス ケ ー ドで は,決. 定 者 そ れ 自 体 が な ん ら選 好 を 持 っ て い な か っ た. 数 者 に 釣 ら れ て 決 定 を す る と い う 事 態 を 含 む の に 対 し て,完. フ ィ ル タ リ ン グ と い う の は,自. 分(あ. る い は 同 類)の. 72. 全 な. 過 去 の 決 定 に基 づ い.

(23) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 て 構 成 され る選 択 肢 に基 づ いて(釣. られ て?)決. 定 す る と い う事 態 を 念 頭. に置 いて い る。 伝 播 され る 内容 の 点 で は,定 義 の 方 が 広 い。 サ ン ス テ ィー ン は,完 全 な フ ィル タ リン グ技 術 か ら カ スケ ー ドの 話 へ と 移 行 す るの で あ るが,そ. こ に は,以 上 で 触 れ た(用 語 上 の)若 干 の ズ レが. あ る よ うに思 う。 以 下 で は,「 カ ス ケ ー ド」 を 「あ る特 定 の事 実 あ るい は 見 解 が 広 くゆ きわ た る情 報 空 間 の プ ロセ ス」 と定 義 して 論 じて い く。. 2.3.ノ 』 、 手 舌 本 節 の 議 論 を ま と め れ ば,個. 人 は,オ. と で 自 分 の 好 み に 合 わ せ る 形 で,フ と に く る 情 報 を 選 別 し,そ. ー バ ー ロ ー ド化 す る 情 報 環 境 の も. ィ ル タ リ ン グ 技 術 を 採 用 し,自. の 結 果,サ. 分の も. イ バ ー カ ス ケ ー ド現 象 が 生 じて い る. と い う もの で あ る。 で は,完 全 な フ ィ ル タ リ ン グ や カ ス ケ ー ド現 象 の 何 が 問 題 な の だ ろ う か 。 サ ン ス テ ィ ー ン 自 身 は,既 が,し. か し,問. 述 の よ う に,消. 費 者 の 動 機 を 出 発 点 に して い た. 題 の 根 源 は 個 人 の 不 合 理 性 に あ る の で は な い と して い る 。. 繰 り返 し 引 用 す れ ば,「 消 費 者 の 選 択 が,そ な っ て い て も,全 =36-37頁)が. れ ぞ れ 単 独 で は完 壁 に理 にか. 体 と して は 民 主 的 な ゴ ー ル に 逆 行 し て し ま う こ と」(13. 問 題 な の で ,個. 々の 消 費 者 の 行 動 の 集 積 か ら生 じる社 会 全. 体 へ の 影 響 が 問 題 と な る 。 そ れ ゆ え,サ の 不 合 理 性 の 問 題 は,当. ン ス テ ィ ー ン は,本. 書 で は,個. 人. 座 の と こ ろ 捨 象 して い る と い え る ㈱。 ま た,フ. ィ. ル タ リ ン グ 技 術 の 利 用 を 否 定 して い る の で は な い 。 親 が 子 ど も が 視 聴 す る 番 組 を フ ィ ル タ リ ン グ す る 事 例 な ど を あ げ て,む. しろ フ ィル タ リン グ技 術. の 有 用 な 場 面 を 強 調 して い た り も す る 。 た だ,完. 全 な フ ィル タ リン グや サ. ⑳. 現 状 維 持 バ イ ア ス に つ い て は,サ. ン ス テ ィ ー ン も,本. 書 の 後 に,行. 動経済学. 者 セ イ ラ ー と の 共 著 と して 公 刊 さ れ た 書 物 で 分 析 し て い る(SunsteinandThaler 2008,34=61頁. 以 下)の. で,問. 題 自体 を 無 視 し て い る わ け で は な い 。. 73.

(24) 近畿大学法学. 第59巻第4号. イ バ ー カ ス ケ ー ドは,異. な る 意 見 へ の 接 触 と い う,. 一つの民主政の機能条. 件 に 反 し う る こ と は 明 らか で あ ろ う 。. 3.集. 団分極 化 と分裂 化. こ こ ま で は,個 人 の 決 定 レベ ル に お さ ま り得 る 問 題 で あ る 。 繰 り返 す が, サ ン ス テ ィ ー ン が 問 題 に す る の は,個. 人 の 決 定 レベ ル を 超 え た 「全 体 」 の. 問 題 で あ る 。 そ の 際 に 登 場 す る 用 語 が,「 集 団 分 極 化grouppolarization」 で あ る 。 サ ン ス テ ィ ー ン の 定 義 に よ れ ば,集. 団 分 極 化 と は,同. じよ うな 考. え 方 を 持 っ た 「グ ル ー プ で 議 論 を す れ ば,メ. ンバ ー は も と も との 方 向 の 延. 長 線 上 に あ る 極 端 な 立 場 へ と シ フ トす る 可 能 性 が 大 き い 」(60=80頁)と い う こ と で あ る 。 フ ィ ル タ リ ン グ 技 術 を 用 い て,自 を 持 っ た 者 と の み 接 触 して い け ば,集. 分 と 同 じよ うな 考 え 方. 団 分 極 化 が 発 生 す る 条 件 で あ る,同. 胞 集 団 の 集 ま りが で き る こ と は 明 らか で あ ろ う 。 「集 団 分 極 化grouppolarization」 ウ ンRogerBrownの. と い う 言 葉 自 体 は,ロ. 『社 会 心 理 学 』 の 教 科 書(Brown1986)を. ン 自 身 が 参 照 して い る こ と(231n.10=207n.9)か. ジ ャ ー ・ブ ラ サ ンス テ ィ ー. らわ か る と お り,サ. ス テ ィ ー ン の オ リ ジ ナ ル の 用 語 で は な く,社. ン. 会 心 理 学 に お いて 伝 統 的 に用. い られ て い る 言 葉 で あ る 。 以 下 で 集 団 分 極 化 を 分 析 して い くが,分 に,集. 団 分 極 化 と い っ て も,多. 析 の 意 味 は二 つ 存 在 す る。 第 一. 様 な 局 面 を 含 ん だ 現 象 で あ り,そ. の多様な. 局 面 ご と に 規 範 的 含 意 も 異 な り 得 る と い う こ と で あ る 。 第 二 に,サ テ ィ ー ン が 問 題 視 して い る の は,集. 団 分 極 化 そ れ 自 体 と い う よ り も,む. ンス し. ろ 集 団 分 極 化 が も た ら し う る 帰 結 の 方 な の で あ る 。 こ れ らの こ と を 明 らか に す る た め に は,集. 団 分 極 化 に つ い て の 正 確 な 分 析 を して お く必 要 が あ る 。. 74.

(25) 集団分極化 と民主的憲法論の課題 3.1.集. 団 分 極 化 と そ の原 因. 3.1.1.カ ま ず,集. ス ケ ー ド と集 団 分 極 化 団 分 極 化 の 内 容 を 分 析 す る 前 に,先. 程 の カ ス ケ ー ドと 区 別 して. お こ う。 カ ス ケ ー ドは,単. に 「あ る 特 定 の 事 実 あ る い は 見 解 が 広 く ゆ き わ た る 情. 報 交 換 の プ ロ セ ス 」 の こ と を 指 す の で あ り,極. 端 な 立 場 へ と至 るか ど うか. は 別 の 話 で あ る 。 極 端 な 立 場 に 至 る こ と も あ る か も しれ な い が,し そ う で な い こ と も あ る だ ろ う 。 こ れ に 対 して,集 は,集. 団 で 議 論 し た 結 果,結. し た が っ て,両. 3.1.2.集. か し,. 団 分 極 化 が 指 して い る の. 果 的 に極 端 な 立 場 に至 る と い う現 象 で あ る。. 者 は 同 じ現 象 を 指 す の で は な い ⑫9。. 団分 極 化 の分 析. 集 団 分 極 化 の 中 身 は 何 な の か 。 社 会 心 理 学 の 議 論 を 参 考 に しつ つ,よ. り. 分 析 的 に捉 え て い こ う。 (の. 「極 端 」 と は 何 か. 集 団 分 極 化 と は,結 あ る。 その. 果 だ け 言 え ば,「 極 端 な 立 場 」 に 至 る と い う こ と で. 「極 端 さ 」 が い か な る 事 態 を 指 す の か 。 社 会 心 理 学 で は,こ. 「極 端 さ 」 は,過. の. 激 な 方 向 に シ フ トす る こ と だ け を 意 味 す る の で は な い 。. 集 団 で の 討 議 に よ っ て 選 択 が 変 わ る こ と は 「選 択 シ フ トchoiceshift」 呼 ば れ る。 こ の 選 択 シ フ トに は,リ. と. ス ク 愛 好 的 な 集 団 で 話 し合 い を す れ ば,. 結 果 的 に よ り リ ス ク の 高 い 選 択 肢 が 採 用 さ れ る 傾 向 が 強 い と い う 「リ ス キ ー ・シ フ トriskyshift」 す れ ば,結. ⑳. の み な らず,リ. ス ク 回 避 的 な 集 団 で 話 し合 い を. 果 的 に よ り安 全 な 選 択 肢 が 採 用 さ れ る 傾 向 が 強 い と い う 「コ ー. 本 書 を参 照 しつ つ,情 報 社 会 論 を論 じる社 会 学者 の鈴 木 謙 介 は,(サ イバ ー ・) カ スケ ー ドと集 団 分 極 化 の 意 味 を,そ 2007,206)が,そ. れ ぞ れ を逆 に して,理 解 して い る(鈴 木. れ は単 純 な 誤 読 で あ る。. 75.

参照

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