バイオロギングによるキアンコウの行動解析
竹谷裕平
*1・奈良賢靜
*2・小坂善信
*1Behavioral Analysis of the Yellow Goosefish Lophius litulon
Using Bio-logging Techniques
Yuhei T
AKEYA, Kensei N
ARA, and Yoshinobu K
OSAKAWe analyzed the ecology and the movement of the yellow goosefish Lophius litulon by a data logger
that recorded the experienced water temperature and the swimming depth per hour. Sixty fish tagged with a
data logger were released in the eastern part of the Tsugaru Strait in June 2010, and 8 fish were recaptured
by July 2011. The data indicated that they inhabited this area at a depth shallower than 200m, and water
temperature data were concentrated around 6.0 - 16.0 °C. Moreover, vertical movements were mainly
con-firmed at night.
We speculate that most individuals were staying in the eastern part of Tsugaru Strait where fish were
released for a long period of time.
*1
地方独立行政法人青森県産業技術センター下北ブランド研究所 〒 039-4401 青森県むつ市大畑町上野 154
Local Independent Administrative Agency Aomori Prefectural Industrial Technology Research Center Shimokita Brand Research Institute, 154 Uwano, Ohata, Mutsu, Aomori, 039-4401 Japan
[email protected] *2 地方独立行政法人青森県産業技術センター食品総合研究所 *3 平成 21 年青森県海面漁業に関する調査結果書(属地調査年報) *4 竹谷裕平(未発表) 2012 年 3 月 8 日受付,2013 年 5 月 22 日受理 キアンコウ(Lophius litulon)は日本周辺に広く分布 し,特に太平洋北部海域では主に底びき網漁業の対象種 として重要な位置を占めている。水産庁はこの海域にお けるキアンコウの資源回復計画を策定し,2002 年度か ら独立行政法人水産総合研究センターが資源評価調査を 行っているが,当該海域における本種の成長,移動,産 卵等に関する情報は少ない1)。 一方,青森県の年間漁獲量は 1,000 トン弱,漁獲金額 は 5 億円前後で推移しており,全国的にも重要な生産地 となっている*3。特に,津軽海峡東部沿岸では盛漁期で ある 5 ~ 6 月にかけて刺網や底建網でキアンコウが大量 に漁獲されているが,高需要期である 11 ~ 2 月に比較 すると極端に価格が安いため,漁家経営上,生産額を数 量で補う傾向にあり,資源管理には問題がある。そこ で,青森県ではこの海域に分布する本種の成長,移動, 産卵等を明らかにし,資源管理手法を検討する目的で各 種調査を実施してきた。これまでにも,本種の移動や成 長は,津軽海峡東部沿岸における標識放流調査によっ て,76.9% が放流海域とその隣接する本県太平洋沿岸海 域で再捕されることが明らかにされている。その一方 で,残りが北海道や神奈川県,富山県等で再捕されてお り,その移動経路には未知な点が多い2),*4。 そこで,本研究では経験水温と生息水深を毎時記録で きるデータロガーを装着した個体を放流し,再捕された 個体で得られたデータにより,キアンコウの生態と移動 を解析した。
Journal of Fisheries Technology, 6(1), 1︲15, 2013 水産技術,6(1), 1︲15, 2013 原 著 論 文
材料と方法
実験に供したキアンコウは,2010 年 6 月 4 日~ 14 日 の間に,青森県下北郡風間浦村沖水深 43 ~ 80m の海域 で,刺網により漁獲された全長 35 ~ 70cm の 60 個体と した(表 1,図 1)。野呂・竹谷2)が実施した標識放流の 方法と同様に,個体識別番号を刻印したディスクタグと ともにビニールチューブでデータロガーをキアンコウの 背びれ基部に結着した。データロガー装着魚は全長を測 定した後,その場で速やかに放流した。 データロガーは,水深(水圧)・水温を記録できる LAT-1100(Lotek Wireless Inc., 空 中 重 量 4.5g, 寸 法 31.5mm × 15.0mm × 5.6mm,メモリーは 64KB)を使用 した。水深と水温は 1 時間ごとに記録するように設定 し,これを生息水深,経験水温とした。生息水深の測定 範囲は 0 ~ 1,000m(分解能 0.5m)で,経験水温の測定 範囲は-20 ~ 45℃(分解能 0.02℃)であり,記録期間 は 730 日間とした。データロガーの表面には連絡先を記 載して,再捕した漁業者から報告を受けたものを回収し た。回収したデータロガーは,Lotek LAT Reader (Lotek Wireless Inc.)を使用して,データを読み取った。得ら れた生息水深は 20m ごとに,経験水温は 2℃ごとに階 級を設定して,頻度分布を解析した。さらに,経験水温 と潮汐の関係を解析するために,Microsoft Excel 2000 の FFT ツールを使用して各データをフーリエ解析して表し たパワースペクトルを比較した。なお,潮汐は気象庁が 公開している観測資料のうち下北地点(青森県むつ市関 根,41° 22′ N,141° 14′ E,標高-264.0cm)における毎 表 1.再捕されたデータロガー装着魚の再捕状況 図 1.データロガー装着魚の放流場所および再捕魚の再捕場所 点線は水深 200m 帯を示すたが,それ以外には一定の周期で急激な変化を繰り返し た。即ち,10 ~ 5 月に生息水深が比較的安定したにも 関わらず,うち前半,10 ~ 1 月には経験水温が一定の 周期で急激な変化を繰り返した。全ての個体で,深夜を ピークとする急激な水深変化が頻繁に発生し,この後に 昼間の数時間から数日,長いもので数週に渡って水深が 安定するという傾向が確認された(図 3)。今回の調査 で最も遠隔地である北海道室蘭沖で再捕された(a)で は 8 月 15 日~ 9 月 7 日,深夜をピークとするスパイク 状の水深変化が毎日発生していたが,昼間に水深が安定 することはなく,22 ~ 308m の間を激しく上下し,そ れに合わせて水温も 2.9 ~ 17.1℃と激しく上下した(図 2-1)。一方,同様に遠隔地である北海道函館市で再捕さ れた(h)でも,2011 年 6 月 27 日~再捕日まで,深夜 をピークとするスパイク状の水深変化が 0 ~ 396m の間 でほぼ毎日発生していたが,それに合わせて水温が上下 する様子は確認できなかった(図 2-2)。 生息水深と経験水温 生息水深はそれぞれ(a)1 ~ 308m,(b)4 ~ 364m,(c)5 ~ 220m,(d)18 ~ 321m, (e)25 ~ 406m,(f)12 ~ 264m,(g)15 ~ 339m,(h) 0 ~ 396m であった(図 4)。頻度分布を解析したところ, 200m 未 満 の 頻 度 が そ れ ぞ れ(a)91.1%,(b)89.5%, (c)99.9%,(d)92.4%,(e)85.6%,(f)99.9%,(g) 88.9%,(h)56.3% で,平均 88.1% を占めた。モードは, (a)60 ~ 80m,(b) と(e)80 ~ 100m,(c)40 ~ 60m,(d) と(f)100 ~ 120m,(g)140 ~ 160m,(h) 240 ~ 260m であった。また,(g)では全体の頻度のう ち,80 ~ 100m の階級で 17.3%,140 ~ 160m の階級で 21.3%,(h)では全体の頻度のうち,120 ~ 140m の階 級で 13.3%,240 ~ 260m の階級で 20.0% と,複数のモ ードが確認された。また,データの記録期間が 360 日以 上に渡った(f),(g)および(h)について,2011 年 1 ~ 6 月における月別生息水深の頻度分布の推移を解析し た( 図 5)。(f) は,1 ~ 4 月 に 100 ~ 120m,5 ~ 6 月 に 80 ~ 100m の階級でモードを示した。(g)は,1 月 に 100 ~ 120m,2 ~ 3 月に 160 ~ 180m,4 月に 140 ~ 160m,5 月に 80 ~ 100m,6 月に 60 ~ 80m の階級でモ ードを示した。(h)は,1 月に 200m 以深,2 ~ 3 月に 120 ~ 140m,4 月 に 140 ~ 160m,5 月 に 120 ~ 140m, 6 月に 60 ~ 80m の階級でモードを示した。 経 験 水 温 は そ れ ぞ れ(a)2.9 ~ 17.1 ℃,(b)3.9 ~ 19.4 ℃,(c)4.9 ~ 19.7 ℃,(d)3.9 ~ 17.2 ℃,(e)3.2 ~ 16.4 ℃,(f)3.0 ~ 22.0 ℃,(g)3.3 ~ 21.9 ℃,(h) 2.9 ~ 24.3℃であった(図 6)。モードは,(a),(b)お よび(e)で 10 ~ 12℃,(c)および(d)で 12 ~ 14℃, (f)で 6 ~ 8℃,(g)および(h)では 8 ~ 10℃であっ 時潮位のデータを使用した*5。解析には,FFT ツールを 使用するためにデータ数を 2 の n 乗の値に設定する必要 があるため,便宜上,およそ 3 ヶ月分に相当する 2,048 個に設定した。即ち,夏期(2010 年 6 月 14 日 6:00 ~ 同年 9 月 7 日 13:00),秋期(同年 9 月 7 日 14:00 ~ 同 年 12 月 1 日 21:00),冬期(同年 12 月 1 日 12:00 ~ 2011 年 2 月 25 日 5:00),春期(同年 2 月 25 日 6: 00 ~同年 5 月 21 日 13:00)の 4 期に分けて行った。 最後に,各個体における月の旬別の平均経験水温およ び平均生息水深と,各地先の平均水温を比較して移動経 路を推察した。まず,各個体における月の旬別,即ち各 月 1 ~ 10 日( 上 旬 ),11 ~ 20 日( 中 旬 ),21 ~ 末 日 (下旬)ごとの平均経験水温および平均生息水深を算出 した。次に,生息海域周辺と考えられる青森県下北郡大 間町大間崎および同郡東通村尻屋崎,北海道函館市大鼻 岬,同市恵山岬の各地先について,気象庁が公開してい る北海道周辺・日本東方海域旬平均表層水温*6より水 深 100m および 200m における月の旬別の平均水温を読 み取った。各個体における月の旬別の平均生息水深が 150m 未満の場合では 100m 水深の海水温と,各個体に おける月の旬別の平均生息水深が 150m 以上の場合では 200m 水深の海水温と,各個体の平均経験水温を比較し た。
結 果
データロガー装着魚の再捕 放流した 60 個体中,2011 年 7 月までに再捕されたのは 8 個体で,再捕率は 13.3% であった(表 1,図 1)。データの取得期間は,短いもの で 141 日,長いもので 410 日であり,その中の 3 個体は ほぼ 1 年以上のデータを取得できた。ここで,記録期間 が短かった個体から順に(a)~(h)とする。再捕場所 は,(a)が北海道室蘭市,(h)が同函館市で,それ以外 は放流地点と同じ青森県風間浦村で再捕された。放流水 深は 55m から 80m と概ね同じであったのに対して,再 捕水深は(b)の 14m から(d)の 140m まで広い範囲 となった。放流時と再捕時の全長から,算出した 1 年当 たりの成長量は,(a)の 0.0cm/year から(c)の 35.5cm/ year まで広い範囲にわたった。なお,(h)については, 再捕時の体長データが得られなかったため,成長に関す るデータは得られなかった。装着したデータロガーから データを読み取り,それぞれ(a)3,382,(b)4,133,(c) 4,444,(d)4,754,(e)5,933,(f)8,619,(g)8,761, (h)9,843 件の生息水深および経験水温のデータを回収 できた(図 2-1,2-2)。全体的に,生息水深は,6 ~ 9 月 には急激な変化を繰り返したが,それ以外には比較的安 定していた。また,経験水温は,2 ~ 5 月に安定してい *5 気象庁 http://www.data.kishou.go.jp/db/tide/genbo/index.php, 2012 年 1 月 20 日 *6 気象庁 http://www.data.kishou.go.jp/db/hakodate/jun/t100_h.html, 2012 年 1 月 20 日た。また,上半期(2011 年 1 ~ 6 月)と下半期(2010 年 7 ~ 12 月)に分けて解析したところ,上半期では, モードが(e),(g)および(h)で 8 ~ 10℃,(f)で 6 ~ 8℃と,全体で 6 ~ 10℃に集中していた(図 7)。一 方,下半期では,モードが(a),(b),(c)および(d) で 12 ~ 14℃,(e),(f),(g)および(h)で 10 ~ 12℃ と,全体で 10 ~ 14℃に集中していた(図 8)。 経験水温と潮汐の関係 データの記録期間が長期に渡っ た(f),(g),(h)について,経験水温と潮汐のパワー スペクトルを比較した(図 9-1,9-2)。 その結果,全 4 期の潮汐において 11.6 および 23.1 μHz,即ち約 24 時間と 12 時間の周波数にピークが確認 された。一方,夏~秋期のキアンコウの経験水温から得 られたパワースペクトルにおいても,潮汐と同様の周波 数においてピークが確認されたが,冬期には(h)でこ のピークが半減し,春期の(g)および(h)には確認さ れなかった。 再捕個体の生息水深における月の旬別の平均経験水温と 各地先水温推移の比較 各個体における月の旬別の平均 水温および平均水深と各地先の水温とを比較した(図 10-1,10-2,図 11)。 青森県内で再捕された個体のうち,(b),(c),(d), (e)および(g)の生息水深 0 ~ 150m における月の旬 別の平均経験水温については,大間崎地先水深 100m の 水温変化に類似していた。そのうち(c)は,6 月下旬 から 7 月中旬にかけて,生息水深 0 ~ 150m における月 の旬別の平均経験水温が,尻屋崎地先水深 100m の水温 変化に類似していた。(f)については,放流直後~ 10 月下旬の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経 験水温が,大間崎地先水深 100m の水温変化に類似して 図 3.2010 年 7 月における再捕個体(f),(g)および (h)の生息水深 深夜において頻繁に確認された急激なスパイク の事例 それぞれ黒線は(f),赤線は(g),青線は(h) の生息水深を,点線は深夜 0 時を示す 図 4.生息水深の頻度分布
図 5.再捕個体(f),(g)および(h)の 2011 年 1 月~ 6 月における生息水深の頻度分布の推移
いた。一方,11 月上旬から生息水深 0 ~ 150m における 月の旬別の平均経験水温が大間崎地先水深 100m の水温 推移と比較して著しく低下し,大鼻岬地先および恵山岬 水深 100m の水温推移に類似していた。 青森県外で再捕された個体のうち(a)については,7 月上旬~中旬の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の 平均経験水温の推移が,尻屋崎地先水深 100m の水温変 化に類似していた。一方,8 月上旬以降の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温は大間崎地先お よび尻屋崎地先水深 100m の水温変化よりも約 5℃以上 低く推移していた。(h)については,放流直後~ 8 月中 旬の生息水深 150m 以深における月の旬別の平均経験水 温が大間崎地先水深 200m の水温変化に類似していた。 一方,8 月下旬~翌年 1 月下旬の生息水深 150m 以深に おける月の旬別の平均経験水温が,大鼻岬地先水深 200m の水温変化に比べて若干低く推移していた。
考 察
津軽海峡東部沿岸におけるキアンコウの生態について は,野呂・竹谷2)がディスクタグによる標識放流調査を 実施しており,移動や成長等について報告しているが, その移動経路や詳細な生態等については不明であった。 今回のデータロガーによる調査によって,移動中の経験 水温や生息水深など,基礎的な生態に関するデータが得 られた。 小坂3)は,仙台湾周辺では 11 月頃からキアンコウの 群れは接岸を始め,2 ~ 6 月に水深 80m 以浅に濃密な 分布域を形成し,7 月以降には分布の中心は深みに移り, 8 ~ 10 月には分布域は最も深くなると報告している。 しかし,今回の調査で得られた 8 個体のデータはそれぞ れ複雑に移動しており,明確な傾向を示さなかった。一 方,津軽海峡東部沿岸におけるキアンコウの産卵時期 は,漁業者からの聴き取りや洋上における卵塊の視認か ら 4 ~ 6 月であると考えられているが,この時期(ただ し,放流直後の 2010 年 6 月を除く)のデータを含む (f),(g)および(h)の例では,キアンコウが 1 ~ 4 月 に 100m 以深に生息し,5 ~ 6 月になると 60 ~ 100m の 海域へ移動する傾向が確認された。これらのデータを以 て産卵期の特徴的な行動として言及するには個体数が少 ないが,産卵期に浅場へ移動する傾向と一致していた。 (h)については,浅場への段階的な移動の合間でも最大 水深 405.7m への急激な沈降が頻繁に確認された。この 行動が何を意味するものなのか言及することは難しい 図 7.上半期(2011 年 1 ~ 6 月)における経験水温の頻度分布 図 8.下半期(2010 年 7 ~ 12 月)における経験水温の頻度分布図 9-1.再捕個体(f),(g)および(h)の経験水温および毎時潮位のデータを月の旬別にフーリエ解析して表した
パワースペクトル
図 9-2.再捕個体(f),(g)および(h)の経験水温および毎時潮位のデータを月の旬別にフーリエ解析して表した
パワースペクトル
図 10-1.再捕個体(a),(b),(c)および(d)の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温と,各地先水
図 10-2.再捕個体(e),(f),(g)および(h)の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温と,各地先水
が,特徴的な行動の一つであった。 一般に,200m 以浅は大陸棚と呼ばれ,海底も有光層 に属することから好漁場になると考えられている。今回 の調査で生息水深の頻度を解析したところ,200m の頻 度が平均 88.1% を占めたことから,キアンコウの主な 生息水深は 200m 以浅であると考えられた。一方,津軽 海峡東部沿岸は,水深 0 ~ 100m の海域が大陸棚,水深 100 ~ 400m の海域が傾斜の大きな陸棚斜面であるが, 頻度分布のモードから生息水深が 100m 前後であると考 えられたことから,特に大陸棚縁辺部に生息すると推察 された。また,佐藤4)はこの海域で 5 ~ 11 月が成層期 であり,鉛直方向の水温差が 8 ~ 9 月に 10 ~ 13℃と大 きくなることを報告しているが,この様な条件は成層を 利用した環境水温の選択に有利であると考えられた。ま た,キアンコウは主にカタクチイワシやサバ類などの魚 類やスルメイカ等の頭足類などを捕食していると考えら れているが3),これら餌料となる魚種も 200m 以浅を中 心に分布していることから,キアンコウは 200m 以浅に 分布していると推察された。通説ではアンコウ科のほと んどが深海魚であると考えられているが,主な生息水深 が 200m 以浅であるキアンコウは深海魚ではないと言え る5)。 野呂・竹谷2)は,春季における産卵期の漁獲状況と水 温の関係において,漁場の表面水温が 10.6 ~ 12.9℃の 時に漁獲個体数が増加することを報告している。さら に,米田6,7)は,東シナ海および黄海における分布域に ついて 6 ~ 16℃の水温帯に集中することを報告してい る。また,米田6,7)は,底層水温 16℃を超える海域には 分布しないことを報告している。さらに,九州西方域で は秋から初冬,水温の低下とともに黄海などから大陸沿 岸を南下する群れが現れ,翌年の春には済州島の西方に 達し,その後,水温の上昇とともに北方へ戻るという回 遊を行うことが考えられている8)。今回の調査結果から, 上 半 期(2011 年 1 ~ 6 月 ) と 下 半 期(2010 年 7 ~ 12 月)に分けて解析すると,上半期は 6 ~ 10℃,下半期 は 10 ~ 14℃の水温帯に集中していることがわかった。 図 11.再捕個体(e),(g)および(h)の生息水深 150m 以深における月の旬別の平均経験水温と,各地先水深 200m における水温推移との比較
着底期間中の水温は頻繁に上下しており(図 2),こ れは潮汐と強い関係性が認められた。特に,夏~秋期に おいてこの傾向が強く認められた。これに加え長時間に 渡って着底するという通説を踏まえれば,個体自身によ る大規模な水平移動により環境水温が急激に変化したと 考えるよりは,特に夏~秋期において潮汐による水温変 化が発生する環境に着底していたと考えられる。 最後に,各個体における月の旬別の平均水温および平 均水深と各地先の水温とを比較して移動経路を推察した (図 12)。 これは,津軽海峡大間崎地先の水温推移に類似してい た。今回の調査で再捕された個体のほとんどは同海域で 浮上・沈降して,異なる水深帯の着底場所に移動してい たと考えられた。深夜において頻繁に確認された急激な 水深変化がその一例で(図 3),スパイク状の水深変化 のほとんどは夜間に発生していた(図 2)。当該調査で は長期的な生態と移動を観察するために生息水深と経験 水温の記録を 1 時間ごとに設定したが,より細かいスパ イク,即ち 1 時間に満たない浮上・沈降が存在する可能 性があり,より詳細な調査が必要である。 図 12.推察されたデータロガー装着魚の移動経路 ○は放流場所,点線は水深 200m 帯を示す
北海道恵山岬沿岸へ,さらに室蘭市がある北方向へ,(f) は 11 月上旬に津軽海峡北海道沿岸へ,(h)は 8 月下旬 に同じく津軽海峡北海道沿岸へ,即ちキアンコウ漁業の 閑散期である 7 ~ 11 月の期間に放流海域外へ移動した ものと推察された。これらの結果は,風間浦村から放流 された標識魚が数ヶ月後に津軽海峡東部~青森県太平洋 沿岸域に再捕された結果と一致していた2)。 今回の調査で放流作業が行われた青森県風間浦村では 2kg 未満の小型個体の再放流が実施されているが,今回 の調査から放流魚のほとんどは分散することなく放流沿 岸域に滞留していたと考えられた。さらに,キアンコウ が選択する傾向にある水温帯等が明らかになった。これ らは,陸上水槽による親魚養成,種苗生産における飼育 水の水温管理などにも有効に活用し得るものである。
謝 辞
本稿の執筆にあたり御助言頂いた青森県農林水産部水 産局水産振興課野呂恭成課長代理,地方独立行政法人青 森県産業技術センター水産総合研究所資源管理部伊藤欣 吾部長,北海道大学大学院水産科学研究院桜井泰憲教 授,同綿貫豊准教授,風間浦村産業建設課坂本幸喜総括 主幹,データロガー装着魚の放流・再捕に御協力頂いた 蛇浦漁業協同組合,下風呂漁業協同組合,南かやべ漁業 協同組合,室蘭漁業協同組合,北海道胆振総合振興局胆 振地区水産技術普及指導所,並びに査読いただいた審査 員および担当編集委員の皆様に深く感謝する。文 献
1) 伊藤正木・服部 努・成松庸二(2009)平成 21 年度キア ンコウ太平洋北部の資源評価.平成 21 年度我が国周辺水 域の漁業資源評価,水産庁増殖推進部他,888-902. 2) 野呂恭成・竹谷裕平(2009)青森県沿岸におけるキアンコ ウの生態と標識放流(その 2).東北底魚研究,29,2-8. 3) 小坂昌也(1966)キアンコウの食生活. 東海大学海洋学部 紀要,1,51-71. 4) 佐藤晋一(2009)津軽海峡における水温の長期変動.青森 県水産総合研究センター研究報告,6,9-13. 5) 田村 保・丹羽 宏(1986)深海の魚.化学と生物,24 (5),326-333. 6) 米田道夫(2006)東シナ海産アンコウとキアンコウの生殖 と分布・移動.東北底魚研究,25, 72-75.7) YONEDA, M., TOKIMURA, M., HORIKAWA, H., YAMAMOTO, K., MATSUYAMA, M., and MATSUURA, S.(2002)Spawning migration of the anglerfish Lophius litulon in the East China and Yellow Seas. Fisheries Science, 68(Supl.1), 310-313. 8) 阿保宗明・本間昭郎(1997)現代おさかな事典 漁場から
食卓まで MODERN ENCYCLOPEDIA OF FISH. エヌティー エス,東京,pp. 294-296. 青森県内で再捕された個体のうち,(b),(c),(d), (e)および(g)の生息水深 0 ~ 150m における月の旬 別の平均経験水温については,大間崎地先水深 100m の 水温変化に類似していたことから,放流海域周辺から大 きく移動していなかったものと推察された。そのうち (c)は,6 月下旬から 7 月中旬にかけて,生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温が,尻屋崎地先 水深 100m の水温変化に類似していたことから同周辺海 域に向けて東方に移動し,再び放流海域周辺に移動した ものと考えられた。(f)については,放流直後~ 10 月 下旬の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験 水温が,大間崎地先水深 100m の水温変化に類似してい たことから,放流海域周辺から大きく移動していなかっ たものと推察された。一方,11 月上旬から生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温が大間崎地先 水深 100m の水温推移と比較して著しく低下し,大鼻岬 地先および恵山岬水深 100m の水温推移に類似していた ことから,放流海域から親潮の影響下にある津軽海峡北 海道沿岸東部海域へ北上したと考えられた。また,2 月 上旬以降は各地先の水温差が不明確であるため移動の推 察が困難であったが,この期間中に青森県側へ南下し, 最終的に青森県風間浦村で再捕されたものと推察され た。 青森県外で再捕された個体のうち(a)については,7 月上旬~中旬の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の 平均経験水温の推移が,尻屋崎地先水深 100m の水温変 化に類似していたことから,放流直後から 7 月上旬にか けて津軽海峡青森県沿岸域を太平洋方向へ移動していた ものと考えられた。一方,8 月上旬以降の生息水深 0 ~ 150m における月の旬別の平均経験水温は大間崎地先お よび尻屋崎地先水深 100m の水温変化よりも約 5℃以上 低く推移していることから,同旬から親潮の影響下にあ る恵山岬以北に移動し,最終的に北海道室蘭市沖で再捕 されたと考えられた。(h)については,放流直後~ 8 月 中旬の生息水深 150m 以深における月の旬別の平均経験 水温が大間崎地先水深 200m の水温変化に類似していた ことから,放流海域周辺から大きく移動していなかった ものと推察された。一方,8 月下旬~翌年 1 月下旬の生 息水深 150m 以深における月の旬別の平均経験水温が, 大鼻岬地先水深 200m の水温変化に比べて若干低く推移 していたことから,津軽海峡北海道沿岸に移動したもの と推察された。また,(f)と同様に,2 月上旬以降は各 地先の水温差が不明確であるため移動の推察が困難であ ったが,この期間中に太平洋側へ移動し,最終的に北海 道函館市で再捕されたものと推察された。 これらの推察結果を総合すれば,(b),(c),(d),(e) および(g)は放流海域周辺から大きく移動していない ことが推察された。一方,(a)は 7 月上旬に津軽海峡青 森県沿岸を尻屋崎に向けて東方向へ,8 月上旬に太平洋
トド被害防除対策としての強化刺網開発
磯野岳臣
*1・新村耕太
*2,3・服部 薫
*1・山村織生
*1Development of Reinforced Bottom Gillnets for Mitigation of Damages from
Steller Sea Lion Eumetopias jubatus
Takeomi I
SONO, Kouta N
IIMURA, Kaoru H
ATTORIand Orio Y
AMAMURAOn the western coast of Hokkaido, bottom gillnets have been damaged due to Steller sea lions (SSL).
The destruction of nets and depredation of catches have amounted to more than 1 billion JPY per year since
the early 1990s. As mitigation measures, endeavors have been made to develop reinforced bottom gillnets
(RBGs). The RBGs are comprised of three layers: a panel of standard netting, sandwiched by a pair of outer
nets made of strong fibers. Dyneema, Tetoron and Vectran have been tested as the strengthening fibers.
RGBs are required to be operable, catchable, and reasonably priced as well as being defensive against SSL
damage. However, none of the three materials completely met these requirements yet. In this paper, the
de-velopments of RBG’s in the period of 2001-2006 is reviewed. Of the three fibers tested, Dyneema was
con-cluded to be the most promising, although the price is still too expensive to be acceptable to fishermen.
*1
独立行政法人水産総合研究センター 北海道区水産研究所 〒 085-0802 北海道釧路市桂恋 116
Hokkaido National Fisheries Research Institute, FRA, 116 Katsurakoi, Kushiro, Hokkaido 085-0802, Japan [email protected] *2 元・独立行政法人水産総合研究センター開発調査センター *3 現・水産庁増殖推進部 2012 年 7 月 12 日受付,2013 年 5 月 22 日受理 北海道沿岸および青森県の一部では 10 ~ 5 月,トド の越冬回遊が見られる1)。トドの来遊は主に北海道日本 海側の積丹以北に集中し,これらの海域を中心にトドを 原因とする刺網や定置網の破網,漁獲物の食害等の漁業 被害が発生している2)。北海道庁による集計被害額は 1992 年以降 10 億円を越え続けており,2008 年 4 月~ 2009 年 3 月の集計被害額は約 13.9 億円であった3)。被 害は刺網に集中しており,業種別の被害金額では刺網が 81.5% と突出して多く,次いで定置網が 8.8%,底建網 が 5.4% と続き,その他の漁業が 4.2% であった。刺網 漁業の被害内容として,羅網した漁獲物を網ごと喰い破 られ,漁獲物と漁網を損失すること(破網および食害), 破網により本来得られる筈であった漁獲が得られないこ と(CPUE の低下),および甚大な被害により休漁もし くは操業期間の短縮を余儀なくされること(操業機会の 損失)が挙げられる2)。被害発生海域では,これまでに 行政機関および漁家による駆除や追い払い等の被害対策 事業が行われてきた2)。しかし,トドの来遊する冬期, 北海道日本海側は概して海況が悪く,これら対策の実施 機会が乏しい。また,シャチの鳴音や大音圧を用いた威 嚇により,漁具の近傍から一時的にトドの駆逐に成功す る場合もあったが,馴化により継続的な効果は得られな かった4)。さらに,上陸場において農業用スズメ忌避爆 音機を使用することによりトドを駆逐することは可能で あったが,隣接する岩場へ移行するのみであり5),被害 の軽減には繋がらなかった6)。このように,トドを漁場 から持続的に駆逐する方策は現時点では皆無である。 一方,漁具そのものをトドによる攻撃から防護するこ とも試みられてきた。北海道後志地方の小型定置網で は,トド被害に遭う袋網部分に強化繊維を使用すること により,被害軽減に成功している7)。しかし,最も深刻 な被害を受ける刺網では,このような強化繊維を用いた Journal of Fisheries Technology, 6(1), 17︲26, 2013 水産技術,6(1), 17︲26, 2013
撚り数によって網糸直径,引張強度および価格等が異な る(表 2)。 2001-2002 年,2005 年および 2006 年冬期,かれい刺 網漁業で試験操業を行った。使用船舶は 9.7t,海底水深 20 ~ 50m 程度の沿岸域において,操舵 1 名のほか,作 業員 2 ~ 3 名で操業を行った。外網に用いた強化繊維 は,ダイニーマ 12 本,4 本および 2 本撚り,テトロン 36 本および 24 本撚り,ベクトラン 4 本撚りを試用し, 外網目合は 400,450 および 600mm とした。これに伴 い,異なる仕立ての強化網を各調査年で用いた(表 3)。 各調査年において,これらの強化網と普通網を交互もし くはランダムに 2 ~ 12 反毎に連結し,計 17 ~ 24 反と なる 1 本の試験網を作成した。この試験網を用いて,8: 00 ~ 11:00 に投網を行い,翌日の 7:00 頃に揚網した。 ただし,海況によっては 15:00 に投網したり,2 晩浸 漬後に揚網した場合もあった。これら試験網に関して, 一反当たりの漁獲重量もしくは尾数(CPUE),操作性, 被害防除効果および価格の許容範囲を評価した。まず, 揚網した試験網を陸上に持ち帰り,魚種別漁獲尾数およ び重量を強化網と普通網に関して記録した。網種間の CPUE の違いを調べるため,網種と各操業結果を対応の あるデータとして Tukey の方法による多重比較を行っ た。また,網種間の体長組成を比較するため,無作為抽 出 し た マ ガ レ イ を 0.1cm 単位で計測し,Kolmogorov-Smirnov 検定で比較した。被害防除効果の指標として, 破網箇所の規模および個数を強化網と普通網に関して記 録した。なお,破網規模として,浮子綱から沈子綱まで 至る「特大穴」およびそれより小規模な「その他」の 2 種類を設定した。操作性の指標として,2001-2002 年調 査時は強化網および普通網の揚網時間を 1 分単位で計測 して比較した。2005 年および 2006 年調査時は,試験操 業を依頼した 4 名の漁業者に対してアンケート調査を行 った。評価項目は,1)「投網時」(絡みの有無)および 被害防除は行われてこなかった。このため,認可法人海 洋水産資源開発センター(現 独立行政法人水産総合研 究センター開発調査センター:以下センター)では,通 常の刺網を 2 枚の強化繊維網で挟む三枚網構造の強化刺 網を試作した。なお,この三枚網構造の刺網を以下「強 化網」,強化繊維で作成した網部分を「外網」,普通刺網 部分を「身網」と称する(図 1)。2001 ~ 2006 年,セン ターは外網の強化繊維として,高密度ポリエチレン繊 維,ポリエチレンテレフタレート繊維およびポリアリレ ート繊維を用いて強化網を作成した。なお,本強化刺網 開発では,高密度ポリエチレン繊維として東洋紡績株式 会社(大阪市北区)の「ダイニーマ」を,ポリエチレン テレフタレート繊維として東レ株式会社(東京都中央 区)および帝人株式会社(大阪市中央区)の「テトロ ン」を,ポリアリレート繊維として株式会社クラレ(東 京都千代田区)の「ベクトラン」を用いた。本稿では各 強化繊維としてこれらの名称を使用する。調査期間中, 被害防除効果および CPUE を観察しながら,強化繊維 で作成した網糸をより細くすることにより,強化網の操 作性向上と低価格化を試みた。また,2003 ~ 2006 年に は北海道水産林務部(以下 北海道庁)による試験操業 「とど被害防止漁具実証事業」も行われ,ダイニーマお よびテトロンが試用された8-11)。センターおよび北海道 庁が行った試験操業場所を図 2 に,概要を表 1 に示し た.しかし,強化網は通常の刺網を網糸直径の太い外網 で挟むため,操作性,CPUE および価格の点で問題にな りやすく,現状では普及に至っていない。本稿では,比 較的同一条件で行った 2001-2002,2005 および 2006 年 の北海道石狩市における試験結果について試験操業の概 要を述べ,CPUE,操作性,被害防除効果および価格に ついて整理し,その成果と普及に向けた問題点の抽出を 目的とした。
材料と方法
強化繊維として用いたダイニーマは,超高分子ポリエ チレンを原料とし,有機繊維の中でも高い強度と弾性率 を有し,吸水性が極めて低いため耐水・耐候性に優れ る12, 13)。テトロンはポリエステル系合成繊維であり,廉 価である。ベクトランは高強力ポリアリレート系の繊維 で,強度と耐磨耗性が高く吸水性は低い14)。各繊維は, 図 1.強化網の構造 ●:センター,○:北海道庁図 2.強化網試験操業場所2 3 4 1 表 1.2001-2006 年強化網試験操業のまとめ 太字のデータを本稿での分析に用いた *1 9,000m 当たりの繊維重量(g) *2 センター:独立行政法人水産総合研究センター,北海道庁:北海道水産林務部 *3 位置を図 2 に示した *4 各事業結果における著者らの印象を優“5”から劣“1”までの 5 段階で記した 表 2.強化刺網開発で試用した強化繊維および普通網の特徴 *1 9,000m 当たりの繊維重量(g) *2 マガレイ用強化網および普通網(1,000 反購入時)(調査年当時)
漁獲対象種であるかれい類の CPUE は,魚種別重量が 記録されていなかったため 1 反当たりの尾数 CPUE で 比較した結果,普通網 6.5 ± 4.7 尾 / 反に対して強化網 7.7 ± 9.2 尾 / 反であり,網種間の差は見られなかった (Tukey’s test, p > 0.05)。 2005 年はダイニーマ 2 本撚り,テトロン 36 本撚りお よびベクトラン 4 本撚りを用いて計 34 回の試験操業を 行った。延べ使用反数は,普通網 263 反,強化網 3 種で はダイニーマ,テトロンおよびベクトランの各々で 267,263,268 反であった。試験操業計 34 回のうち, 詳細なデータが得られた 8 ~ 18 回目までの結果を用い て 1 反当たりの重量 CPUE を算出した(表 4)。漁獲重 量 合 計 の CPUE(平均値± S.D.)は,普通網で 3.1± 3.0kg/ 反であったのに対し,強化網 3 種ではダイニーマ, テトロンおよびベクトラン(以下同順)の各々で 3.4± 2.9,4.4 ± 3.6 および 3.8 ± 3.4kg/ 反であり,普通網 - テ トロン間でのみ差が見られた(Tukey’s test, p < 0.05)。ま た,かれい類合計の重量 CPUE も普通網 1.9±2.2kg/ 反 に対し強化網は 2.1 ± 2.0 kg/ 反,2.9±2.8 kg/ 反および 2.5 ± 2.8kg/ 反であり,普通網 ︲ テトロン間でのみ差が 見られた(図 3, Tukey’s test, p < 0.05)。さらに,マガレ イおよびクロガシラガレイにおける網種間の重量 CPUE を 比 較 し た 結 果, マ ガ レ イ CPUE は 普 通 網 で 0.2± 0.3kg/ 反,強化網は 0.2 ± 0.2 kg/ 反,0.2±0.2 kg/ 反およ び 0.2 ± 0.3/ 反であり,網種間の差は見られなかった (Two-way ANOVA, p > 0.05)。一方,クロガシラガレイの CPUE は,普通網で 0.2 ± 0.3kg/ 反,強化網は 0.5±0.7 kg/ 反,0.7 ± 0.8 kg/ 反および 0.8±0.9/ 反であり,普通 網 ︲ テトロンおよびテトロン ︲ ダイニーマにおいて差が 見られた(Tukey’s test, p < 0.05)。 2006 年はテトロン 24 本撚り目合 600 および 450 ㎜を 用いて計 21 回の試験操業を行い,延べ使用反数は,普 通網で 164 反,強化網 2 種では各々 164 および 163 反で あった。試験操業 21 回のうち,詳細なデータが得られ た 18 回目までの結果を用いた(表 4)。漁獲重量合計の CPUE( 平 均 値 ± S.D.) は, 普 通 網 で 7.6±5.9 kg/ 反, 強化網は目合 600mm および 450mm の各々で 8.6±6.0 kg/ 反および 8.3 ± 5.7 kg/ 反であり,網種間の差は見ら れなかった(Tukey’s test, p > 0.05)。また,かれい類合計 の重量 CPUE も普通網 6.4 ± 5.6kg/ 反に対し強化網は 6.9 ± 5.6 および 6.2 ± 4.4kg/ 反であり,網種間の差は見られ なかった(Tukey’s test, p < 0.05)。さらに,マガレイおよ びクロガシラガレイにおける重量 CPUE を比較した結 果,マガレイ CPUE は普通網で 0.1 ± 0.1kg/ 反,強化網 は 0.1 ± 0.1 および 0.0 ± 0.1 kg/ 反であり,網種間の差は 見られなかった(図 3, Tukey’s test, P > 0.05)。また,ク ロガシラガレイの CPUE は,普通網で 0.5 ± 0.5kg/ 反, 強化網は 0.5 ± 0.5 および 0.5 ± 0.4 kg/ 反であり,網種間 の差は見られなかった(Tukey’s test, p > 0.05)。合計 10 回分の操業において無作為に抽出したマガレイの体長を 「揚網時」(揚網機ドラムへの噛みおよび手での掴み), 2)「重量と嵩」,3)「全体的な評価」,4)「再び使いたい か」および 5)「普通網の何倍までの価格なら許容範囲 か」である。なお,1)における揚網機ドラムへの噛み とは,揚網時にドラム上で網が滑ると円滑に網を揚げる ことができないため,ドラムの溝における強化網の掛り 具合を示す。手での掴みとは,捌きやすさの印象を表 す。1)~ 3)について,「支障なし」,「扱いにくいが支 障なし」,「支障あり」の 3 段階で評価した。4)は「使 いたい」,「何とも言えない」,「使いたくない」,5)は 「2 倍程度」,「3 倍程度」,「4 倍程度」で評価した。また, 経済性の評価として,強化網を導入した場合に普通網と の間に生じる差額を初期投資額ΔI とし,これを回収可 能とするための年数n を試算した。r1およびr2を普通 網と強化網における 1 回当たりの身網交換反数(反 / 回),n1およびn2を各網における身網の交換間隔(年 / 回),v を身網 1 反の価格(円 / 反)とする。いま,n 年 後に普通網と強化網の保守費用の差額が初期投資額ΔI に等しくなる場合,普通網および強化網の身網の交換は 各々n / n1およびn / n2回行われ, ΔI = v r1 n / n1 - v r2 n / n2 (1) で表され, n = ΔI / v (r1 / n1 - r2 / n2) (2) に変形される。また,甚大な破網被害により普通網の身 網交換は毎年発生し,強化網は高い防除効果により身網 耐用年数まで継続して使用できるものと仮定する。その 場合,n1 = 1 および n2は身網耐用年数と同義となり,(2) 式は, n = ΔI / v (r1 - r2 / n2) (3) となる。さらに,n2 → ∞もしくは r2 = 0 の場合, n = ΔI / v r1 (4) となり,n の収束値が算出される。ただし,n ≧ n2≧ 1 とし,n 年間は強化網外網の交換は生じないものとする。 試算には,2005 年に行った 3 種の強化網の試験結果を 用い,これらの網を各々 32 反敷設する操業を年 34 回行 うものとした。網単価には表 2 に示した網地のみの価格 を用い,強化網における外網と身網との連結は漁業者自 ら行うものとした。また,長期的に使用可能な沈子綱, 浮子等の価格は除外した。 統計解析は R 2.12.2 を使用した15)。
結 果
操業概要と CPUE 2001-2002 年はダイニーマ 12 本撚 りを用いて計 5 回の操業を行い,延べ使用反数は普通網 では計 59 反,強化網では計 40 反であった。漁獲重量の 合 計 は, 普 通 網 お よ び 強 化 網 で 各 々 299kg お よ び 169kg,1 反当たりの重量 CPUE(平均値 ±S.D.)は 5.7 ± 3.6kg/ 反および 4.5 ± 2.0kg/ 反であり,有意差は見ら れなかった(Tukey’s test, p > 0.05)(表 4)。一方,主要表 3.2001-2002,2005 および 2006 年に用いた普通網および強化網の仕様
した後のテトロン繊維の吸水による重量増加が問題視さ れ,「漁業者 1 名による単独操業では使用不可能」との 意見があった。 被害防除効果 強化網における身網・外網および普通網 の破網状況を表 6 に示した。2001-2002 年に合計 5 回行 った試験操業のうち,普通網における破網は合計 3 箇所 見られた。このうち 2 箇所は 1.5 × 1.5cm と小規模だっ たが,浮子綱から沈子綱に至る特大穴が 1 箇所発生し た。ただし,これらの被害によって解体した網は発生し なかった。一方,強化網では,外網および身網のいずれ においても破網は見られず,解体した網も発生しなかっ た。 測定した結果,平均値±S.E. は,普通網では 20.0± 0.1cm(n=310), 強 化 網 目 合 450mm は 20.1±0.1cm (n=300), 強 化 網 目 合 600mm は 20.0±0.2cm(n=227) であり,普通網および強化網 2 種の体長組成間に有意差 は認められなかった(図 4, Kolmogorov-Smirnov test, P > 0.05)。 操作性 2001-2002 年,普通網 16 反およびダイニーマ 12 本撚り 10 反の揚網時間を計測した結果,普通網部分 では 24 分(1.5 分 / 反),強化網部分で 21 分(2.1 分 / 反)であり,強化網は普通網の約 1.5 倍の時間を要した。 また,通常使用している普通網 40 反の揚網時間は約 60 分であった。2005 年調査において使用した強化繊維に よる網糸直径はダイニーマ 2 本撚り,テトロン 36 本撚 りおよびベクトラン 4 本撚りで各 1.0,1.4 および 1.3mm (表 2)であり,ダイニーマ 12 本撚りに比して網糸直径 を 30 ~ 50% 細くした。しかし,揚網時のドラムの噛み 具合に関して,漁業者 4 名中 1 名が「支障あり」,3 名 が「扱いにくいが支障なし」との意見を示した(表 5)。 特にテトロン 36 本撚りは,他繊維より網糸直径が太い ためドラムの溝に入りにくく,潮流の速い時等にはドラ ム上で滑りやすかった。重量および嵩については,3 名 が「支障なし」,1 名が「扱いにくいが支障なし」とし たが,網糸直径の太いテトロン 36 本撚りは,「重たく, 嵩張る」とのコメントがあった。一方,ダイニーマ 2 本 撚りは「細くかつ軽量で繊維表面が滑らかなことから, 投揚網時の操作性に優れていた」とのコメントを得た。 2006 年に使用した強化繊維の網糸直径はテトロン 24 本 撚りで 1.2mm であった。調査対象の漁業者 4 名全員が, 投網時の繰り出しおよび揚網時のドラムの噛み具合に関 して両目合とも「支障なし」と回答した(表 5)。しか し,重量と嵩については,4 名中 1 名が「支障あり」,2 名が「扱いにくいが支障なし」であり,特に操業に使用 図 3.2005 および 2006 年,普通網および強化網の重量 CPUE *:p < 0.05, Tukey’s test 図 4.普通網および強化網 2 種(テトロン 24 本撚り 外網目合 450mm および 600mm)で漁獲されたマガレイの体長組 成
普通網も 108.8 反が必要であり,これを普通網の初期購 入反数とした。一方,強化網の身網に解体は発生しなか ったため(表 6),1 回当たりの身網交換反数 r2を 64 反 / 回(敷設 32 反のほか揚網直後に投網する替えの 32 反, 計 64 反),初期購入反数も 64 反とした。その結果,各 強化網を導入した際に発生する初期投資額ΔI は,ダイ ニーマ,テトロンおよびベクトランで各々 262.7,95.0, 293.7 万円となった(表 7)。また,普通網の交換間隔 n1 を 1 年,耐用年数 n2年毎に強化網身網の交換を行う場 合として(3)式を用い,n ≧ n2≧ 1 の範囲で耐用年数 n2を変化させた結果を図 5 に示した。ダイニーマおよ びベクトランでは,耐用年数n2が 1 年の場合,初期投 資の回収には約 20 年を要した(図 5)。耐用年数 n2を 2 年とすると回収に必要な年数は 40% 程度減少したが, その後 3 年以降の減少は僅かであった。強化網身網の耐 用年数n2を無限もしくは身網交換反数r2を 0 とした時, 回収に必要な年数はダイニーマで 8.0 年,ベクトランで は 8.9 年に収束した。テトロンにおいては,身網耐用年 数n2が 1 年の場合初期投資の回収に 7 年を要したが,2 年では 40% 程度減少し,収束値は 2.9 年であった。
考 察
CPUE かれい類の CPUE は,テトロンでは 2005 年ク ロガシラガレイ CPUE で普通網に比べ有意に高く,こ 2005 年調査では,破網は普通網において 394 箇所見 られ,強化網における身網の破網は,ダイニーマ,テト ロンおよびベクトランの各々で 92,94 および 122 箇所 (以下同順)であった。特大穴は普通網で合計 67 箇所 (0.25 箇所 / 反)見られたのに対し,強化網における身 網の破網箇所は,各々 2,5 および 2 箇所(0.01,0.02 および 0.01 箇所 / 反)に留まった。解体反数は普通網 で合計 27 反発生し,これは使用延べ反数の約 10% に相 当した。一方,強化網において解体は発生しなかった。 2006 年調査では,普通網における破網が合計 237 箇 所であったのに対し,テトロン外網目合 600mm および 450mm で各々 68 および 69 箇所であった。特大穴は普 通網で合計 10 箇所(0.06 箇所 / 反)であったのに対し, 強化網では各々 0 箇所であった。また,調査期間を通じ て普通網が 10 反解体されたのに対し,強化網で解体に 至る被害は発生しなかった。一方,強化網の外網部分の 破網箇所は,各々 15 および 29 箇所であったが,いずれ も小規模で補修が可能であった。 価格の許容範囲 アンケート調査で得られた「価格の許 容範囲」については,「2 倍」とする意見が多かった(表 5)。採算性の検討では,2005 年漁期を通じて普通網使 用反数の約 10% が解体された(表 6)。このことから, 普通網の 1 年当たりの交換反数 r1を 108.8 反 / 年(32 反 / 回× 0.1 × 34 回 / 年)とした。また,最初に購入する 表 5.2005 ~ 2006 年試験操業時に行った強化網アンケート調査結果 表 6.普通網および強化網における破網被害 * 浮子綱から沈子綱まで広がる破網れも 3 反しか収容できなかった11)。このため,各網の 1 カゴ当たりの浸漬後重量は,普通網 37.0kg(7.4kg×5 反),テトロン 46.8kg(15.6kg × 3 反)およびダイニーマ 36.0kg(12.0kg × 3 反)となり,テトロンが極端に重い。 ダイニーマ繊維は吸水性が極めて低い13)一方,テトロ ン繊維はケトン基を含む構造のため親水性を有し,吸水 による重量増加が避けられない。これは容積増加による カゴ数の増加(1.6 倍)と共に,荷揚げ運搬作業を少人 数あるいは単独で行う特に高齢の漁業者にとって重大な 問題となり,複数の試験操業地域で普及の可能性は低い と指摘された11)。一方,投揚網時の操作性に関しては, ダイニーマ 2 本撚りが「優れて」いると評価された。 被害防除効果 普通網は 1 漁期を通じた使用で使用反数 の 6 ~ 10% が解体されたのに対して強化網身網の解体 は発生しなかったことから,激甚な破網被害を防除する うえで高い効果を有することが確認された。また,強化 網における反当たりの身網破網数は普通網の 1/4 ~ 1/3 程度(強化網:0.34 ~ 0.46 個 / 反,普通網:1.45 ~ 1.50 個 / 反)であったのに対し,特大穴数は普通網で 0.10 ~ 0.25 個 / 反に対し強化網で 0.01 ~ 0.02 個 / 反と 1/10 程度であった。これらのことから,強化網は網の解体に 至る特大穴の発生を大幅に減らすことにより漁業被害を 軽減可能と考えられた。このような被害防除効果は,漁 網の損失に限らず,破網による CPUE の低下の防止お よび操業機会の損失を防ぐことにも寄与すると考えられ る。 ただし,この被害防除効果が得られた理由は明らかで ない。本研究における破網状況と,トドの胃中より最大 径 20 ~ 200cm の刺網が出現した知見*および傷の付い た漁獲物やその頭部のみが刺網に残されていた事実19) から,トドによる刺網被害に至る過程として,以下が考 えられる。即ち,1)刺網敷設面に対しトドが突き抜け の他の強化網においても同等もしくはより高い結果が得 られ,強化網の実用上問題にはならなかった(表 4)。 その要因として,強化網の破網数が普通網に比べて少な かったこと(表 7)および強化網の三枚網構造が寄与し た可能性が考えられる。刺網による漁獲は「刺し」およ び「絡み」によって行われ,クロガシラガレイなどの異 体類では絡みが中心である16)。三枚網は普通網の刺し に加えて絡みを多く発生させ,優れた漁獲効率を有する ことが知られている17)。また,このような漁獲機構の 違いは,サイズ選択性に影響する可能性がある。例え ば, コ ノ シ ロClupanodon punctatus お よ び サ ッ パ Herklotsichthys zunasi など紡錘形の魚では,三枚網で漁 獲された個体の体長範囲は普通網に比べて広い場合があ る18)。しかし,本試験操業において強化網で漁獲され たマガレイの体長組成は普通網と差がなく(図 4),乱 獲の原因となる小型個体の選択的な漁獲の傾向は認めら れなかった。絡みを中心とする漁獲機構が普通網と三枚 網において共通であった可能性が考えられる。 操作性 強化網の揚網は普通網に比べて 1.5 倍の時間を 要した。普通網 40 反を全て強化網に変えた場合,揚網 時間は 60 分から 90 分へと増加することが予想された。 これは 12 本撚りダイニーマ繊維による網糸直径が 2.0 ㎜と太かったため(表 1),揚網機ドラムの溝に収まり 難く,網の滑りが発生したことによる。揚網機ドラムの 噛み具合が問題視されたのは,外網の網糸直径が 1.4mm 以上のダイニーマ 12 本撚りおよびテトロン 36 本撚りで あったが,これより細い網糸直径では良好とされた。漁 場への移動時間が 5 ~数十分程度と比較的短い沿岸での 操業において,揚網は全操業時間に占める割合が大きい ため,1.5 倍の差異は普及に向けての欠陥となり得る。 また,テトロンではより細い網糸直径であった 20 本お よび 24 本撚りにおいても,網容積の増大と吸水後の重 量増加が大きく問題視され,「漁業者 1 名による単独操 業では使用不可能」との意見もあった。2006 年,北海 道庁が行ったかれい刺し網強化網試験によると,網の反 当たり湿重量は普通網が 7.4kg であったのに対し,ダイ ニ ー マ 2 本 撚 り は 12.0kg, テ ト ロ ン 20 本 撚 り で は 15.6kg に達した。また,操業の漁網運搬に使用するカゴ に普通網が 5 反収容可能であったに対し,強化網はいず 図 5.初期投資額回収に必要な年数と身網耐用年数 網地単価および操業条件等は 2005 年試験操業結果を用 いた(n ≧ n2≧ 1) 表 7.強化網導入に伴う初期投資額
害を受けなかった場合でも通常 3 ~ 4 年程度で交換され ている。従って,被害防除効果が比較的高かったダイニ ーマおよびベクトランを外網に使用した場合でも身網の 交換は必要であり,現状では実用性に乏しいことが明ら かになった。一方,テトロンは比較的安価であったため 少ない年数で採算が取れる結果となったが,北海道庁が 行った試験操業において「耐久性がないため 2 年しか使 えない」との意見がテトロンを継続使用した漁業者から 挙げられた10)。ただし,ここで行った採算性の検討で は,強化網による漁網の損失防止のみに着目し,強化網 身網の耐用年数が延びる効果を検討した。強化網には破 網による CPUE 低下防止および操業機会の損失を防止 する効果もあるが,これらの点については評価していな い。前者の差は僅かであったが,後者については,破網 被害により出漁を断念している漁業者にとって有効な手 段になる可能性があり,これらの評価は今後の課題とし て残された。 まとめ テトロン繊維は他の強化繊維に比べて初期投資 額を少ない年数で回収できると試算され,かつ高い CPUE が見られた調査年もあった。しかし,浸漬後の重 量増加および低い耐久性が実用するうえで致命的な欠陥 となった。このため,当調査においてテトロンは強化網 繊維として不適切と結論付けられた。ベクトランは操作 性および価格でダイニーマに劣った。一方,ダイニーマ 2 本撚りを用いた強化網の被害防除効果は高く,CPUE と操作性も実用に耐え得る性能を有した。しかし,高額 な価格が導入に当たっての障壁となるため,普及実用化 に際しての課題として残された。強化網の低価格化に は,網糸直径を細くすることがある程度有効であるた め,ダイニーマによる網糸直径を更に細くしてみること も有用かもしれない。しかし,被害防除性能と網価格は トレードオフの関係にあり,低強度,軽量な外網は廉価 で操作性に優れるが,被害防除性能は低くなる。強化網 の普及実用のためには,被害発生機序および強化網によ る被害防止機序を明らかにするとともに,漁場現場で求 められる防除性能と価格を勘案しつつ,更なる低価格化 の方策を探求する必要がある。
謝 辞
強化刺網の試験操業にあたっては,多くの漁業者およ び漁業協同組合,水産普及指導所の御協力を戴いた。特 に,石狩湾漁協浜益支所の和田郁夫氏,門脇習也氏,門 脇 弥氏,菊池政雄氏,藤川 彰氏には,開発初期から る形で網ごと略取し特大穴を発生させる,2)突き抜け ないものの,ついばむように網地ごと漁獲物を摂食し, 小~中型の穴を発生させる,3)漁獲物のみを摂食する ものの,破網は発生しない等である。本研究で強化網に より特大穴の発生が抑えられたことから,強化網は 1) の行動に制限を与えたと考えられる。目合 400mm およ び 600mm の外網を通過可能な外周はそれぞれ 800mm 以下および 1,200mm 以下である。トドの肩部における 周囲長は幼獣(0 ~ 2 才)平均値でメス 984mm および オス 1,218mm であり*,今回使用した外網を破網しない 限りトドは通過できない。また,目合 400mm と 600mm では,反当たり特大穴数はほぼ同一であった(表 6)。 目合の拡大は重量,嵩および価格の低減につながるた め,外網目合として 600mm が最適と考えられた。一方, 強化網の構造上 2)および 3)の発生を完全に抑止する のは困難である。ただし,強化網では反当たりの身網破 網数が普通網に比べて 1/4 ~ 1/3 に減少しており,この 被害防止効果が得られた機序の解明は今後の課題として 残された。 また,強化繊維網糸の引張強度が高い程,強化網身網 における特大穴数は少なかった。すなわち,特大穴数の 対普通網比は,引張強度 50kg 以上で 3 ~ 7%,引張強 度 34kg で 13 ~ 25% であった。このため,網の解体に 至る大規模な破網を防止するためには,外網の引張強度 を 50kg 以上とすべきである。ただし,強度と経済性は トレードオフ関係にあり,網糸直径を太くした場合価格 は上昇し,操作性は低下する(表 2, 5)。そのため,導 入にあたっては漁業者自らが仕様を決定するのが望まし い。 価格の許容範囲 アンケート調査の結果,漁業者が自ら 購入を希望する価格の限界は普通網の 2 倍程度であった (表 5)。普通網の網地 1 反当たりの価格が 3,036 円であ ったのに対し,2005 および 2006 年に用いたダイニーマ, テトロンおよびベクトランの外網の価格は,各々 4.3, 1.7 および 4.8 万円であり(表 2),「2 倍程度」からは大 きな差がある。また,身網の耐用年数を変化させること で採算性を検討した結果,初期投資額回収可能となる年 数 n の収束値は,ダイニーマおよびベクトランで 8 ~ 9 年,テトロンで約 3 年であった。これは,強化網外網が この期間耐用し,かつこれと同年数身網交換を行わない 場合である。本試験操業において,解体に至る特大穴の 発生は抑えられたが,合計 68 から 122 個の破網が身網 で見られた(表 6)。また,身網に用いるナイロン繊維 は紫外線による経年劣化も受けやすいことから,漁業被 * 後藤陽子・和田昭彦・前田圭司・三橋正基・磯野岳臣・山村織生(2010)胃内容物中に出現した漁網からみたトドによる漁 業被害.日本水産学会大会講演要旨集(秋季).p.105 * 磯野岳臣(2000)トド Eumetopias jubatus の成長様式、成長量の経年変化および地理的変異に関する比較形態学的研究.北海 道大学大学院水産学研究科博士論文.p. 1237) 北海道水産林務部(2009)とど被害防止対策の取組み,札 幌,1p. 8) 北海道水産林務部(2004)平成 15 年度とど被害防止漁具 実証事業報告書,札幌,22p. 9) 北海道水産林務部(2005)平成 16 年度とど被害防止漁具 実証事業報告書,札幌,20p. 10) 北海道水産林務部(2006)平成 17 年度とど被害防止漁具 実証事業報告書,札幌,17p. 11) 留萌支庁(2006)平成 17 年度とど被害防止漁具実証事業 報告書,留萌,12p. 12) 大田康雄(1998)高強度ポリエチレン繊維の機能と用途展 開.繊維学会誌,54,8-11. 13) 大田康雄(2010)高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ®」. 繊維学会誌,66,91-97. 14) 頼光周平(2010)ポリアリレート繊維(その特性と用途). 繊維学会誌,66,86-90.
15) R Development Core Team(2011)R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria.
16) 横山信一・西内修一・丸山秀佳(1998)クロガシラガレイ に対するカレイ刺網の網目選択性.日本水産学会誌,64, 979-986.
17) 中村秀男・川崎毅一(1959)三枚網(Trinal Gill Net)の漁 獲試験に就いて.北海道大學水産學部研究彙報,10,123-130. 18) 小池 篤・松田 皎(1988)三枚網の内網のたるみ,内網 の網目の変化と漁獲.日本水産学会誌,54,221-227. 19) 独立行政法人水産総合研究センター(2005)地域漁業影響 調査.平成 16 年度水産庁委託事業国際資源調査等推進対 策事業トド資源調査事業報告書(部内資料),108-118pp. 多くの御助言と御協力をいただいた。また,北海道庁水 産林務部は試験結果の公開を快く許可してくださった。 二人の査読者からは有益な助言およびコメントを頂い た。本研究は,水産庁委託国際資源評価等推進事業およ び全漁連委託有害生物被害軽減実証事業の一環として行 われた。
文 献
1) HOSHINO, H., T. ISONO, T. TAKAYAMA, T. ISHINAZAKA, A. WADA, and Y. SAKURAI(2006) Distribution of the Steller sea lion Eumetopias jubatus during winter in the northern Sea of Japan, along the west coast of Hokkaido, based on aerial and land sighting surveys. Fish. Sci., 72, 922-931.
2) 服部 薫(2008)漁業被害問題.トドの回遊と消長.「日 本の哺乳類学 3 水生哺乳類」(加藤秀弘編)東京大学出版 会,東京,254-280pp. 3) 北海道水産林務部(2009)平成 20 年度トドによる被害状 況.札幌,1p. 4) 独立行政法人水産総合研究センター(2006)トド被害対策 試験. 平成 17 年度海洋生物混獲防止対策調査事業報告書 (部内資料),78-85pp. 5) 独立行政法人水産総合研究センター(2011)自動撮影カメ ラによる上陸場観察(北側斜路・磯谷).平成 22 年度全漁 連委託事業有害生物被害軽減実証事業(トド)調査報告書 (部内資料),15-22pp. 6) 独立行政法人水産総合研究センター(2008)浜益現地聞取 り調査.平成 19 年度水産庁委託事業国際資源調査等推進 対策事業トド資源調査事業報告書(部内資料),65-68pp.
脱血処理によるサケ加工品の品質向上について
辻 浩司
*1・野俣 洋
*2・蛯谷幸司
*3・信太茂春
*4・佐藤暁之
*1Quality Improvement of Chum Salmon Oncorhynchus keta
Product by the De-blood Processing
Koji T
SUJI, Hiroshi N
OMATA, Koji E
BITANI, Shigeharu N
OBUTAand Akiyuki S
ATODe-blooding is an effective method for adding high value to fresh marine products and has been
report-ed to be effective for keeping the color of fresh salmon fillet. In this study, the effects of de-blooding on the
quality of processed salmon products were assessed by investigating chemical parameters and by sensory
evaluation. De-blooding reduced the trimethylamine (TMA) contents in dry salmon (toba), salted salmon
(yamazuke), and flaked salmon significantly compared to their untreated counterparts. After storage of six
months at -30°C, de-blooded salmon roe showed significantly higher values in lightness of luminosity (L*),
redness index of chromaticity (a*) and chroma, and lower peroxide value (PV) compared to non-de-blooded
samples. Sensory evaluation of fillet and dry salmon also showed quality improvement by de-blooding.
*1
北海道立総合研究機構網走水産試験場 〒 094-0011 北海道紋別市港町 7-8-5
Hokkaido Research Organization Abashiri Fisheries Research Institute, 7-8-5, Minato, Monbetsu, Hokkaido 094-0011, Japan [email protected] *2 北海道立総合研究機構水産研究本部 *3 北海道立総合研究機構中央水産試験場 *4 北海道立総合研究機構釧路水産試験場 2012 年 11 月 2 日受付,2013 年 5 月 22 日受理 2011 年のサケ・マス(生鮮・冷蔵,冷凍)の輸入数 量は,25.8 万トンあり,そのうちチリ産の養殖サケが 67% を占めている1)。一方,国内のサケ・マス漁獲量は 14.6 万トンにとどまり,そのほとんどが北海道産のサケ Oncorhynchus keta で あ る2)。 北 海 道 の サ ケ 生 産 量 は 2003 年の 23.1 万トンをピークに減少傾向が続き3),産 地価格も輸入量増加の影響で低下している現状にあ り4),高付加価値化による国産サケの需要拡大が求めら れている。 魚類の脱血処理は,生鮮水産物の高付加価値化のため の有効な方法であることが報告されている。脱血処理し たブリ,マアジ,シマアジでは,筋肉軟化の遅延効果が 認められ5),カツオでは,メト化率が低く,肉の赤色度 (a* 値)が高まることが報告6)されている。これまでに, 筆者ら7)は脱血処理したサケ肉の色調は,a* 値と黄色 度(b* 値)に差はみられなかったが,明度(L* 値)は 無処理のサケに比べ有意に高い値を示し,0,5,10℃で 4 日間の貯蔵中も高く維持されることを報告している。 さらに,高橋ら8)は,脱血処理が凍結保存におけるサケ 特有の肉色保持に有効であることを報告している。こう したなか,北海道の漁業協同組合の一部では数量を限定 し,サケを脱血処理する取組が始められている。一方, サケは生鮮や冷凍での流通の他に,各種加工品の原料と しても利用されているが,鮮魚と同様に品質の向上や差 別化による需要の拡大が望まれている。しかし,原料と なるサケの脱血処理が加工品の品質に与える影響につい ては,これまで明らかにされていない。そこで本研究で は,各種サケ加工品の品質に及ぼす原料の脱血処理の効 果について,製品の臭いや色調および脂質酸化を化学的 指標と官能検査により評価したので報告する。
Journal of Fisheries Technology, 6(1), 27︲32, 2013 水産技術,6(1), 27︲32, 2013 原 著 論 文