有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向
里 吉 昭.宣*
(昭和63年8月24日受付)
On the Tendency of the Mold Wall Movement in the Organic Self−curing Mold
Akinori SATOYOSHI*
(Received August 24,1988)
概 .要
この研究の目.的は,鋳物砂に発生する鋳型壁移動の発生機構とその防止策を解明することである。そこで,有機系 自硬性鋳型に関して,とれらの鋳型の粘結剤である樹脂や硬化触媒の種類を変えて,高温圧縮試験及び.ばく熱加圧試 験を行ない,無機系自硬性鋳型と比較することにより,有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向を調査した。得ら れた結果は次のとおりである。
(1)加熱温度が上昇すると,.また圧縮応力が増すと,変形率は大きくなる。
(2)フラン系樹脂を粘結剤とする鋳型においては,.フラン樹脂の純度の高いほど,変形率は小さくなる・
(3)7ラ.≧系轡脂鳶面識剤.ζ穿為鋳聖停お.吟で}む.理北鯨燥の種類によって変形率や圧縮強度が変わる。 ..
..(4.).有機系.自礁性鋳型㊧変形率偉,無機系自硬性鋳.型のそれよりも小さい。
また・これらの高渥圧縮試験犀研ばく熱二丁試験の結果と・すでに得.られている無機系自硬性鋳型の鋳型壁整動から
(5>有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動は,.無機.系自硬性鋳型のそれよりも小さいと推測される。
SYNOPSIS
The objection of the present investigation is to elucidate the paechanism and causes of the mevement of sand mold wall to find out methdds for it prevention. High temperature compressive and shock heating tests were per−
formed to study the influences of various factors which caused mold wall movement in the organic self−curing sand.
The following factors were studied; the kind of resin and guring agent and the kind of bi.nder. Resu}ts obtained are follows;
1 ) The ratid of sand defortri a ti6n was more greater with eleVating temperature and increasing compressive stress.
2) ln the mold which fur an resin as binder is tised, the ratio of sand deforination was decreased with the higher purity of.resin.
3 ) ln the・.mbld which furan resin as bipder is used, the ratio of sand deformation qpd the compressive strength of sand were varied in case the different curing agents were used,
4 ) The ratio of sand deformation in the organic self−curing mold was more smaller than that of the inorganic self−
curing mold.
And judging from these results and the data which were obtained by previous pouring tests on the cement bonded mold and sodium silicate bonded mold,
5 ) lt was supposed that the tendency of the mold wall movement in the orghnic self−curing mold was smaller than that of the inorganic self−curing mold,
津山高専紀要 第26号 (1988)
1.緒 言
筆者は,鋳物砂に発生する鋳型壁移動現象に関して,そ の発生機構と防止策を解明するため,鋳型壁移動に影響を.
及ぼすと考えられる種々の要因について,鋳型壁移動発生 の過程や傾向を調査している。
現在までの研究により得られた結果をまとめると,次の ようになる。合成写生型については,溶湯に関して,鋳込 み温度が高く,静溶湯圧が高いと,また凝固時にオーステ ナイトと黒鉛が共晶するねずみ鋳鉄等の溶湯を鋳込むと鋳 型壁移動は大きくなる。また,鋳型に関して,鋳型の強度・
硬度・充てん密度(見かけ密度)・耐火度等が低い場合や,
鋳型が高水分であると鋳型壁移動は大きいが,鋳型にピッ チ粉や石炭粉等の揮発性炭素質を添加したり,鋳型を乾燥 型にするとか塗型をすることにより鋳型壁移動は減少す る1)2)。とくに,鋳型内の水分による水分凝縮層の形成が,
鋳型強度のいっそうの低下をもたらし,鋳型壁移動の発生 に大きな影響を及ぼしている,言い換えれば,この水分凝 縮層の形成が鋳型壁移動の発生主因となっていることが判 明している2)〜6>。セメント鋳型については,鋳型壁移動は,
セメント量が増すと,またセメントを超速硬セメントに変 えたり,糖みつのような硬化促進剤を添加すると減少する が,水分量を増したり,流動化させると増加する。これら をまとめると,セメント鋳型の鋳型壁移動は,セメント水 和物の高温下における分解による強度低下が原因となって 発生することになる7)。また,けい酸ソーダ系自硬性鋳型
については,鋳型壁移動は,硬化反応時に発熱する硬化剤
.を使用すると,またピッチ粉のような揮発性炭素質を添加 したり,一型をすると減少するが,けい酸ソーダ量が増し たり流動化させると増加する。したがって,このけい酸ソー ダ画塾硬性鋳型の鋳型壁移動は,けい酸ソーダゲル(シリ カゲル)の軟化が主因となって発生することになる8)。ま た,これらセメント鋳型やけい酸ソーダ系鋳型の無機系自 硬性鋳型と合成砂生型の鋳型壁移動状況を比較すると,水
分凝縮層の影響を除けば,鋳型壁移動の発生過程はほぼ同 じであるが,合成砂の鋳型壁移動ははるかに大きい。
しかし,近年には,前述の種々の鋳型に対して,フラン 系樹脂を主として,種々の樹脂を粘結剤とする有機系自硬 性鋳型の研究が急速に進歩し,一般的にも実用化されてき た。そこで,本研究では,有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動 の発生傾向を調査するため,フラン樹脂,フェノールウレ タン樹脂及びオイルウレタン樹脂を粘結剤とした有機系自 硬性鋳型に関して,樹脂の純度や硬化触媒の種類等を変え て高温圧縮試験及びばく熱加圧試験を行なった。さらに,
セメント鋳型とけい酸ソーダ系鋳型についても同様の試験 を行ない,これらの結果及びすでに得られている鋳込み試 験結果等7)8)をそれぞれ比較することにより,有機系自硬 性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向を推定した。
2.試 験 方 法
2.1 試料砂及び配合
試料砂の骨材は,浮選けい砂を使用し,粘結剤としてフ ラン樹脂,フェノールウレタン樹脂及びオイルウレタン樹 脂の3種類を使用した。Table 1及びTable 2は,それぞ れ使用けい砂の粒度分布及び化学成分を,またTable 3及 びTable 4は,フラン樹脂及び硬化触媒の化学成分を,そ れぞれ示す。この場合,フラン樹脂以外の樹脂及び硬化触 媒あるいは硬化剤の化学成分は不明である。
フラン樹脂を粘結剤とする配合砂については,フラン樹 脂の主成分である,フルフリルアルコール(以下FAと呼 ぶ)の含有量の異なるフラン樹脂A,B及びCの3種類,
硬化触媒については,キシレンスルホン酸(以下XSAと 呼ぶ)とパラトルエンスルホン酸(以下PTSと呼ぶ)が それぞれ主成分であるE及びFの2種類を使用した。これ ら試料砂の配合割合は,Table 5に示す。↑able 5に示す ように,フラン砂については,樹脂A〜Cと硬化触媒Eを 組み合わせた配合砂をそれぞれフラン砂(1),フラン砂(2)及 びフラン砂(3)とし,またフラン樹脂Aと硬化触媒Fを組み
Table 1 使用けい砂の粒度分布 粒 度(メッシュ)(%)
使用けい砂
40 50 100 140 200 270 PAN
二選けい砂 1.0 10.2 42.4 35.6 8.2 1.6 こん跡
Table 2 使用けい砂の化学成分 化 学 成 分(%)
使用けい砂
Sio2 A1203 Fe203 CaO MgO
浮選けい砂 97.1 1.34 0.35 0.14 0.09
Table 3 フラン樹脂の化学成分 化 学 成 分(%)
フラン樹脂
FA N H20
A 90以上 2以下 4以下
B 80以上 4以下 7以下
C 50以上 9以下 16以下
.FA フルフリルアルコール
Table 4 フラン樹脂用硬化触媒の化学成分 化 学 成 分(%)
硬化触媒 XSA PTS H2SO4 H20 メタノール E 55〜60 10以上 5〜15 10以下 F 60〜70 10以上 20〜30 2以下 XSA キシレンスルホン酸
PTS パラトルエンスルホン酸
合わせた配合砂をフラン砂(4)とした。
試料砂は,遊星歯車式混砂面を使用し,フラン樹脂系砂 については,けい砂に硬化触媒を加えて45sec混合の後,
樹脂を加えてさらに45sec混合し,フェノールウレタン砂 及びオイルウレタン砂については,けい砂に樹脂及び硬化 触媒を加えてlmin混合の後,硬化促進剤を加えてさらに 40sec混合して,それぞれ調製した。また,これら有機心
向硬性砂と比較するために,既報7)8)のセメント砂及びけ い酸ソー・一ダ砂もそれぞれ標準配合の試料砂を調製した。
2.2 高温圧縮試験
2.2.1 高温圧縮用試験片の作製 高温圧縮用試験 片は,内径28.6mmの耐熱性試験筒(以下試験筒と呼ぶ)内 に試料砂を入れ,つき固め機を利用して高さ50.8mmになる ように一定の条件でつき固めて成型し,試験筒のまま20℃
の温度に保持した低温定温器内で24hr放置の後,試験に 供した。
2.2.2 高温圧縮試験の方法 高温圧縮試験は,
Fig.1に示す高温鋳物砂試験機の炉内温度が200〜1200℃
Tab萱e 5 試料砂の配合
配 合 割 合 配 合 砂・ 名
粘 結 剤 硬化剤あるいは硬化触媒
フラン砂(1) フラン樹脂A 1.5%(対けい砂) 硬イヒ角虫媒E 50% (女寸樹月旨)
フラン砂② フラン樹脂B 1.5%(対けい砂) 硬化触媒E 50%(対樹脂)
フ ラ ン.砂
フラン砂(3) フラン樹脂C 1.5%(即けい砂) 硬化触媒E 50%(対樹脂)
フラン砂(4). フラン樹脂A 1.5%(対けい砂) 硬化触媒F 50%(対樹脂)
有 機 系
フェノールウレタ ン砂
フェノールホルムアルデヒド樹脂
@ 1.0%(対けい砂)
│リイソシアネート
@ 1.0%(往けい砂)
ピリジン誘導体 O.1%(対けい砂)
オ イ ル ウ .レ タ ン 砂
油変性アルキッド樹脂
@ 1.5%(対けい砂)
│リイソシアネート
@ 20%(対樹脂)
ナフテン酸コバルト T%(対樹脂)
セ メ ン ト 砂 ポルトランドセメント@ 10%(対けい砂) 水
U%(対けい砂)
無 機 系
け い 酸 ソ 一 ダ 砂 けい酸ソーダ@ 6%(対けい砂)
ダイカルシリケート R%(対けい砂)
津山高専紀要第26号(1988)
ユ 加熱炉 2 ロワーポスト 3 アッパーポスト
5 耐熱円板下部 6 耐熱円板上部 7 耐熱性試験筒
ρ0 7 5
4 3
2
片験試砂4
1
Fig.1 高温圧縮試験装置
8
の所定温度に達したとき,上下にSic製耐熱円板をはめ 込んだ高温圧縮用試験片を,炉内のロワーポスト上にセッ トする。試験片は,その中心部が所定温度に達するまで炉 内に保持した後,9mm/minの圧縮速度で圧縮し,所定の 圧縮応力が試験片に作用したときの変形量を求める。試験 片の所定温度における変形量は,O−2.OMPaの圧縮応力 の範囲内で,O.5MPaごとに高温鋳物試験機に取り付けた 差動変圧器により,変位計を介して記録計に自記させた。
試験片を所定の圧縮応力で圧縮したときの変形率は,圧縮 前の試片の高さに対する圧縮時の試験片の高さの百分率と して求めた。なお,試験片の中心部が所定の温度に達する 時間は,次のとおりである。
200℃:45min 400℃:36min .600℃:31min 800℃:20min 1000eC:14min 1200℃:12min 2.3 ばく熱加圧試験
2.3.1 ばく熱加圧用試験片の作製 ばく熱加圧用 試験片は,内径95mm,高さ100mmの鋼管内に試料砂を入れ,
高温圧縮用試験片と同じ条件となるようにつき固めて成型 し,20℃の温度に保持した低温定温器内で24hr放置の後,
試験に供した。
2.3.2 ばく熱加圧試験の方法 ばく熱加圧試験は,
Fig.2に示すように,1200℃に保持したばく熱加圧試験装 置の炉体下部にばく熱加圧用試験片をセットし,炉体上部 と合わせて10sec待機した後,直径40mmのエレマ製加圧子 により,鋳込み試験における静溶湯圧に相当する 0.03MPaの圧力を加え,試験片表面の動きをエレマ加圧
子の動きに変えて差動変圧器・変位計を介して記録計に自 記させた。
1.炉塞下部 Q 炉体上部 R ばく熱用
@ 試験片
1
4 発熱体
@ 5 エレマ加圧子
@ 6 差動変圧器
U5
4 2
鼈鼈鼈鼈 一 一一一哺
一 一
ユ
3
Fig.2 ばく熱加圧試験装置
(ばく熱温度:1,200℃加圧力:0,03MPa)
3.試験結果及び考察
3.1 高温圧縮試験結果
3.1.1 加熱温度の影響 Fig. 3は,骨材を浮選け い砂とし,粘結剤を樹脂A,硬化触媒をEとしたフラン砂
(1)について,200 一一 1200℃の温度範囲において,加熱・圧 縮した場合の変形率と圧縮応力の関係を示す。Fig,3から は,加熱温度が上昇すると,また圧縮応力が増すと変形率 は大きくなっていることがわかる。予備実験においては,
試料砂を試験筒内につき固めた後,砂試験片を試験筒から 出して高温圧縮試験を行なったが,この場合には,約600℃
の温度において,圧縮荷重をかけ始めると同時に試験片は 崩壊してしまった。このことは,樹脂が酸化雰囲気中では,
約600℃までの温度において完全に燃焼し,粘結力を失う ことにより,変形率も急激に増大することを示している。
したがって,Fig.3の結果は,次のように考えることがで きる。すなわち,本実験においては,鋳造時の鋳型の状態 により近づけるため,試験筒内に試験片をつき固めた状態 で,その上下に耐熱円板をはめ込んだことによって,酸化 雰囲気中であっても試験片の中心部までは完全に燃焼せ ず,表面層のみが燃焼しているため,加熱温度が上昇して
も,変形率は急激に増加せず,徐々に増加した結果という ことになる。
また,800℃以上の温度になると,加熱温度が高いため に雰囲気の影響をあまり受けないが,樹脂は燃焼して可縮 間隙(げき)が増すことに加えて,砂粒も軟化し始めるた め,変形率は600℃の温度までと比較して,より大きくなっ たものであろう。
4
3
o
o 0.5 工.0 1.5
圧縮応力MPa
2.0
5
4
ま 3
樋十
2
1
o
o O,5 1,0
圧縮能力
5ぬユM 2.0
Fig.4 フラン砂の変形率に及ぼすフラン樹脂の純度の影響 Fig. 3 フラン砂(1)の変形率に及ぼす加熱温度の影響
圧縮応力が増すと,変形率が大きくなるのは当然のこと であるが,加熱温度が高い範囲においては,とくにその影 響は大きくなる。一般的には,静溶湯圧は鋳込み溶湯が普 通ねずみ鋳鉄の場合で,約0.01MPa以下と小さい値であ るが,本実験では,この静溶湯圧と比較して非常に大きい と考えらける最大圧縮応力を2,0MPaとした。これは次の ような理由によるものである。すなわち,鋳込み溶湯がね ずみ鋳鉄の場合,凝i固過程においてオーステナイトと黒鉛
とが共晶し,黒鉛が融液内に晶出するときに,それらの密 度の相違から体積が急激に膨脹し,鋳型壁に大きな圧力が 作用することになる。このとき,鋳型壁に対して作用する 鋳鉄溶湯め圧力は,筆者らの研究9)10)によれば,炭素当量 により相違はあるが,約2D v 3.OMPaであることが判明 している。
以上の結果は,フラン樹脂の純度や硬化触媒の種類ある いは樹脂の種類が異なっても,傾向としては,変形率の大 小はあるものの同じである。
3.1.2 フラン樹脂の純度の影響 Fig.4は,骨材 を浮選けい砂,硬化触媒をEとし,フラン樹脂をA,B及
ラン砂(1),(2)及び(3)の変形率と圧縮応力の関係の一例であ り,加熱温度が1200℃の場合である。
一般的には,有機系自硬性鋳型のように,高温下で試験 を行なう場合,酸化雰囲気であると,樹脂が酸素等と反応 してデータがばらつく可能性が非常に大きく,非常に正確 なデータが必要な場合には,アルゴン等の不活性ガス雰囲 気中で試験を行なわなければならない。本実験においては,
使用した装置・器具の性能の制限のため,雰囲気を変える ことができなかったが,このことをある程度考慮して試験 筒内に試験片をつき固め,その上下に耐熱円板をはめ込ん で酸化雰囲気の影響を小さくしたものの,多少の影響や データのばらつきがあると思われる。しかし,この点につ いては,可能な限り多数個のデータを取ることによって データのバラツキを小さくするようにしたことと,実際の 鋳造時の鋳型に近い状態で試験を行なったということで,
データの信頼性はあるものと考えている。
Fig. 4から,変形率は,フラン砂(1)が最も小さく,順に フラン砂(2),(3)と大きくなっている。この傾向は,図には 示していないが,200一一1000℃の温度範囲においても同じ である。しかし,Fig.4に見られるほどの変形率の差はな
い。
津山高専紀要第26号(1988)
有している11)12>が,この熱硬化性はフラン樹脂の主成分 であるFA(フルフリルアルコール)の含有量の大小,す なわち純度によって異なる。定性的には,FA量が高い,
言い換えれば,フラン樹脂の純度が高いほど熱硬化性も大 きく,したがって強度も大きくなる。フラン砂(1)の変形率 が三つの配合砂の中で最小になったのは,この砂に使用し たフラン樹脂が,最も純度の高いフラン樹脂Aで,したがっ て粘体力の大きいことが理由であろう。逆に,フラン砂(3)
の変形率が最大になったのは,フラン樹脂Cが一度以上使 用した鋳物砂,すなわち再生応用として使用されている樹 脂であり,鋳物砂中の樹脂の燃焼に起因する不純物の増加
を抑えるため,純度を低くしてあることが原因である。
3.1.3 フラン砂の硬化触媒種類の影響 Fig.5は,
骨材を浮選けい砂,フラ7樹脂をAとし,硬化触媒をE及 びFと変えたフラン砂(1)及びフラン砂(4)についての変形率 と圧縮応力の関係の一例であり,加熱温度が1200℃の場合 である。Fig.5からは,変形率は,硬化触媒がE {フラン 砂(1)}の場合がF けラン砂(4)}の場合よりも小さいこと がわかる。この傾向は,200〜1000℃の各温度においても 同じである。このように,硬化触媒の種類が変わると変形 率に差が生ずるのは,硬化触媒中の主成分の相違によるも のと思われる。すなわち,硬化触媒E及びFは,それぞれ 主成分がXSA(キシレンスルホン酸)及びPTS(パラ トルエンスルホン酸)であり,分子構造的には,XSAが ベンゼン環に二個のメチル基と一個のスルホン基を有して いるのに対し,PTSはベンゼン環に一個のメチル基と一 個のスルホン基を有している相違があるのみである。しか し,XSAあるいはPTSがフラン樹脂の主成分のフルフ リルアルコールと反応する場合,XSAのほうが早く反応 し,したがって強度の実現も早いか.ら,変形率はXSA,
すなわち硬化触媒Eのほうが小さくなったと考えられる。
3.1.4 粘結剤種類(鋳型種類)の影響 Fig.6は,
骨材を浮立けい砂とし,有機系自硬性砂の粘結剤である樹 脂を変えたフラン砂(1),フェノールウレタン砂及びオイル
ウレタン砂と,無機系自硬性砂の粘結剤をセメント及びけ い酸ソーダと変えたセメント砂及びけい酸ソーダ砂の変形 率と圧縮応力の関係の一例であり,加熱温度が1200℃の場 合である。
ここで,有機系及び無機系の各自.硬性砂の硬化機構の概 略について簡単に説明すると,次のようになる。フラン砂 については前述のとおりであるが,フェノールウレタン砂 及びオイルウレタン砂の硬化については次のように考える ことができる。フェノールウレタン砂は,フェノールホル ムアルデヒド樹脂とポリイソシアネートを粘結剤とし,ピ リジン誘導体を硬化促進剤とするもので,フェノールホル ムアルデヒド樹脂中のOH基とポリイソシアネートのNC
5
4
3
−r静
間2
1
o o
フラン砂:樹脂A チ熱温度:1,200℃
ρ綾 V
砂色 テ賎
一
O,5 1,0 1,5 圧縮応力 MPa
2,0
Fig,5 フラン砂の変形率に及ぼす硬化触媒の種類の影響
10
8
ま.辮 6
4
2
06
加熱温度:1,200℃
/づ黛
@満り
コ〜、
7ヤ砂把ナ 1 め﹂1
乙L 。。・
レ1葬彩巻γ砂
O,5 1,0 1,5
圧縮応力 MPa
2,0
Fig.6 変形率に及ぼす鋳型粘結剤の種類の影響
0基が反応して硬化する。オイルウレタン砂は,油変性ア ルキッド樹脂とボリイソシアネートを粘結剤とし,ナフテ ン酸コバルト(金属石けん)を硬化剤とするもので,アル キッド樹脂中のOH基及びCOOH基とポリイソシアネー
トのNCO基が,まず初期硬化し,さらに乾性油の空気酸 化重合により高分子化反応によって硬化する。また,セメ
ント砂及びけい酸ソーダ砂の硬化機構については既報のと おり7)8>であり,セメント砂は,ポルトランドセメントを 粘結剤とし,水により硬化し,けい酸ソーダ砂は,けい酸
ソーダを粘結剤とし,ダイカルシュウムシリケートを硬化 剤として硬化する。
Fig.6から,変形率は,有機系自活盛砂と無機系自硬性 砂とでは,はっきりとした相違があることがわかる。すな わち,有機系自硬性砂の変形率にはほとんど差がないが,
無機系自硬性砂の変形率は,有機系自硬性砂のそれに比較 して2倍以上も大きく,また同じ無機系自硬性砂について は,セメント砂とけい酸ソーダ砂とでは,変形率に大きな 差があることである。これらの傾向は,200〜800℃の温度 範囲においては,変形率にあまり差もなく,同じであるが,
1000℃以上の高温になると,変形率にも著しい相違が出る ようである。このように,.有機系自硬性砂において,変形 率にほとんど差が見られないのは,樹脂や硬化剤等の相違
はあるが,基本的には,硬化機構が類似しており,試料砂 調製時に流動性が良く,試験片がよくつまっているため,
温度上昇によって反応生成物が燃焼し,粘結力を失って灰 化しても,戸越間隙(げき)が小さく,変形しにくいこと が原因であろう。有機系自硬性砂の変形率が,無機系自硬 性砂の変形率よりも小さくなったのは,有機系自硬性砂の 試験片成型後,24hr放置したときの圧縮強度が,無機系
自硬性砂の約10倍以上と大きいことが主原因であろう。ま た,セメント砂とけい酸ソーダ砂の変形率に相違があるの は,これらの砂の硬化機構と反応生成物の相違,すなわち セメント砂の高温における水和物の分解とシリカゲルの高 温における軟化という相違がそのまま現われたとしか考え
られない。
3.2 ばく熱加圧試験結果
3.2.1 ばく熱加圧試験の意義 鋳型に鋳込み溶湯 を鋳込み始めた直後の鋳型表面は,溶湯の熱により砂粒が 急激に加熱され,砂粒等が急激に膨脹するため,鋳型空間 内方に張り出す。その後,溶湯が鋳型空間に満たされてい くにつれて,鋳型壁に作用する静溶湯圧が大きくなるとと もに,鋳型表面の砂粒や粘結剤等は鋳型の温度上昇により 軟化・分解していく。このような鋳型と溶湯の作用を実験 室的にシュミレートしたのが,ばく熱加圧試験である。し たがって,このばく熱加圧試験は,鋳造時に発生する鋳型
ると言える。すなわち鋳込み時の鋳型表面と同じ状態とな るように,ばく熱加圧用試験片の一面を1200℃の温度で急 熱し,10secの待機時間を鋳込み溶湯のふく射熱により鋳 型表面が照らされるばく熱時間,エレマ加圧子による 0.Q3MPaの加圧力を静溶湯圧及び加熱温度(ばく熱温度)
を溶湯による熱と置き換えたものである。
O,8
O,6
O,4
O,2
o
一〇,2
ばく熱温度
@ 1,200℃
チ 圧 力 O,03MPa
i 7砂︑づラ
.ヒメント砂
︸
1 l I
けい酸ソーダ砂
o 2 4 6 8 10 ばく熱時間 mln
Fig.7 加圧子の移動量に及ぼす鋳型の種類の影響
3.2.2 ばく熱加圧試験結果 Fig.7は,骨材を浮 選けい砂とし,有機系自硬性砂の代表例としてのフラン砂
(1)と無機系自硬性砂のセメント砂及びけい酸ソーダ砂の各 試験片を,ばく熱温度1200℃,加圧力0.03MPaでばく熱 加圧した場合の加圧子の移動状況を示す。
Fig.7において,加圧子の移動量の正・負の符号は,加 圧前の試験片の高さを基準0とし,加圧子が砂粒等の膨脹 によって加圧方向の逆方向に押し戻された場合(加圧前の 試験片の高さより高く.なった場合)を正,加圧子が試験片 内に埋まり込んだ場合(加圧前の試験片の高さより低く なった場合)を負としている。
Fig.7から,いずれの配合砂においても,加圧開始直後 には,加圧子は正方向に大きく移動し,その後,直ちに負 方向に移動している。各配合砂について見ると,加圧子の 移動量は,けい酸ソーダ砂が最も大きく,セメント砂,フ ラン砂(1)の順に小さくなっている。加圧開始直後において,
加圧子の移動量が正方向に大きくなっているのは,試験片
をばく.Mし始めてから加圧するまでに10secのばく熱時間 があり,このばく熱時間中,試験片表面が急激に加熱され るため,砂粒が急激に膨脹したことが原因である。このば く熱加圧用試験片において,加圧子を押し上げる砂の膨脹
津山高専紀要第26号(1988)
o
罎
O,1
細 鰺 O,2 劃 酬 O,3
O,4
0 2 4 6 8
鋳込み開始からの経過時問,min
Fig,8 有機系自硬性砂の鋳型壁移動の発生傾向の推定図
i〒 、. 有機紬陶砂〔フラ、 〜.一r■一一_噛r」 ノ砂〔1)〕
@ 口耳卜.
1
1けい醗ソ_
ダ砂
10
加圧子の移動量が負方向に変わるのは,試験片表面の温度 が上昇し,砂粒を粘結している粘結剤の分解あるいは軟化 等の影響が膨脹の影響よりも一時的に大きくなるため,加 圧子による圧力によって,加圧子は試験片内に侵入してい くことによるものである。すなわち,これらの状態は,鋳 造時の鋳型壁移動現象の発生過程2)と基本的には同じであ
ると言える。言い換えれば,このばく熱加圧試験において,
加圧子の移動量の小さい砂,すなわち0に近い砂ほど,鋳 造時に鋳型壁移動は小さいことになる。
また,フラン砂(1)の場合,加圧子の移動量が小さいのは,
高温圧縮試験結果で述べたように,試験片成型時,流動性 が良いために試験片がよくつき固められ,・粘結剤が燃焼し て分解しても,可縮間隙(げき)が小さいことと強度が大 きいことが原因であろう。セメント砂やけい酸ソーダ砂に おいて,フラン砂(1>よりも加圧子の移動量が大きくなった のは,セメント水和物の分解およびけい酸ソーダゲルの軟 化の影響が,フラン砂よりも大きく現れたものであろう。
しかし,全体的には,三つの砂の加圧子の移動量に大きな 差異がないことから,鋳型壁移動傾向は,フラン砂(1)が小
さいと推定さ.れるものの,相違はあまりないと考えられる。
3.3 有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向 Fig.8は,鋳込み試験によってすでに求められているセ
メント鋳型及びけい酸ソーダ鋳型の鋳型壁移動曲線と,今 回の高温圧縮試験及びばく熱加圧試験の各結果から有機系 自硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向を推定した図である。
Fig,8において,セメン.ト砂及びけい酸ソーダ砂の鋳込 み試験方法等については,既報のとおり7>8)であるが,鋳 込み試験片は,口100×500mmの角棒で,鋳込み溶湯はFC 20相当のねずみ鋳鉄,鋳込み温度は1400℃である。有機自 硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向は,図中において一点鎖 線で示しており,フラン砂(1)の場合である。この結果は,
あくまでも高温圧縮試験及びばく熱加圧試験の結果から推 定したものであり,鋳型壁移動の変化状況については,鋳 込み試験を行なわないと断定はできないが,筆者が得てい
るデータ及び経験等から,
ないものと確信している。
4.結
この推定図には,大きな狂いは
言
有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動の発生傾向について,そ の粘結剤である樹脂及び硬化触媒等の種類を変え,高温圧 縮試験及びばく熱加圧試験を行ない,無機系自硬性鋳型の 鋳型壁移動と比較することにより調査した。
得られた結果は次のとおりである。
(1)加熱温度が上昇すると,また圧縮応力が増すと,変形 率は大きくなる。
(2)フラン系樹脂を粘結剤とする鋳型においては,フラン 樹脂の純度の高いほど,変形率は小さくなる。
(3)フラン系樹脂を粘結剤とする鋳型においては,硬化触 媒の種類によって変形率や圧縮強度が変わる。
(4)有機系自硬性鋳型の変形率は,無機系自硬性鋳型のそ れよりも小さい。
また,これら高温圧縮試験及びばく熱・加圧試験の結果 と,すでに得られている無機系自硬性鋳型の鋳型壁移動か
ら
(5)有機系自硬性鋳型の鋳型壁移動は,無機系自硬性鋳型 のそれよりも小さいと推測される。
5.参 考 文 献
1)片島,重松,里吉:鋳物,44,(1972),5,416 2)片島,重松,里吉:鋳物,45,(1973),11,945 3)片島,重松,里吉:鋳物,47,(1975),7,492 4)片島,松浦:鋳物,47,(1975),4,260
5) L. 1. Toriello, J. F. Wallace :・Trans. of AFS, 64 (1956), 512
6) C.T, Marek, A.R, Kesker : Modern Casting, 2 (1968), 99
7)里吉:津山工業高等専門学校研究紀要,第24号,
(1986), 57
8)里吉:津山工業高等専門学校研究紀要,第25号,
(1987), 69
9)片島,里吉,重松:鋳物、47−9(昭50−10),72
10)李,加山:鋳物,47−8(昭50−8),549
11)村山:フェノール樹脂(昭54),45,日刊工業新聞社 12)牧口他:特殊鋳型,(昭46),285,日刊工業新聞社