6 HIV に関する偏見や差別について考えよう
ワーク1
あなたはエイズや HIV についてどのようなことを知っていますか。
ワーク2
エイズや HIV に関して、次の文が正しいと思う場合は○を、誤っていると思う場合は×
を( )の中に書きましょう。
ア) HIV には、HIV 陽性者やエイズ患者と接触して感染する。
イ) HIV には、HIV 陽性者との性行為でのみ感染する。
ウ) HIV に感染すると、完治させる治療薬がないため必ず発病し、死に至る。
エ) 母親が HIV 陽性者の場合、生まれてきた子どもは必ず感染する。
オ) 避妊具を使用すれば、感染を100%防ぐことができる。
カ) HIV 検査は、保健所では無料でしかも匿名で受けられ、結果は本人にだけ 知らされる。
( )
( )
( )
( )
( )
( )
ワーク3
(1) 平成12年度に内閣府大臣官房政府広報室が行った「エイズに関する世論調査」(平 成12年12月実施)の中から、次の2つの質問に答えてみましょう。
問1 「エイズ患者またはエイズの原因となるウィルスの感染者に対する社会的偏見や差 別があってはならない」という見方にあなたは同感しますか、それとも同感しませ んか。この中から1つだけあげてください。
(ア)同感する。
(イ)どちらかといえば同感する。
(ウ)どちらかといえば同感しない。
(エ)同感しない。
(オ)わからない。
問2 あなたの職場(学校)で、エイズ患者やエイズの原因となるウィルスの感染者が 一緒に働くことについて、あなたはどう思いますか。この中から一つあげてください。
(ア)好ましい。
(イ)どちらかといえば好ましい。
(ウ)どちらかといえば好ましくない。
(エ)好ましくない。
(オ)わからない。
*平成12年度「エイズに関する世論調査」内閣府大臣官房政府広報室 (平成12年12月実施)より
(2) 問1 ・ 問2 に対する自分の答えから、どういうことに気づきますか。またそれは なぜでしょうか。自由に書いてみましょう。
(3)(2)で気づいたことから、あなたはどうしていけばいいと思いますか。
ワーク4
以下の手記を担任もしくは生徒の代表が全体の前で朗読したあと、感じたこと・思った こと・考えたことなどを書いてください。
KOSUKE・31歳・DJ
スゴク感動した話があったんです。
友達にスゴク好きな人ができてね、
つきあう事になったんだけど。
ある日、※検査の話になったらしいんです。
相手の人は定期的に検査をしてる人なんだけど、
ぼくの友達は最近まったく受けてなかった。
だから、受けておいでよって言われて すぐに受けに行ったんだけど。
でね、その検査の結果が出る日にその相手の人から、
「2通メールを送ったから」っていわれたらしいんですね。
そのうちの一通は、「陰性だったときに読んで」って いうメールで、もう一通は陽性だったときの。
結果によって、「どっちかのメールを見て」って 言われたらしいんです。
で・・・結果は陰性だったので、
その「陰性だったとき」のメールを見たんですね。
そのメールは
「好きだよ。これからもずっといっしょにいられたらいいね」っ て内容だったんです。
ところが、その子は気になったから、
もう一通のメールも見てみたらしいんです。
そしたら、それが全く同じ内容だったんですって。
「好きだよ、これからもずっといっしょにいれたらいいね」
それを聞いて、ぼくは、恋人同士が検査を受けるって いうのは、必ずしも疑うって意味じゃないんだなあ。
より信じあうために検査を受けるって
コトだってあるんだなあって思ったんです。
※検査…HIV抗体検査のこと
解説 6 HIVに関する偏見や差別について考えよう
1 ねらい
中学校において、生徒たちは HIV 感染や後天性免疫不全症候群(エイズ)について正し い理解と予防法を学ぶよう※学習指導要領により定められている(中学校学習指導要領(平 成10年12月告示、平成15年12月一部改正)「保健体育」及び中学校学習指導要領(平成 20年3月改訂)「保健体育」)。また、特にエイズの予防に関する取扱いについては、高等 学校においても引き続き取り上げられ(高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「保 健体育」)、さらに中学校及び高等学校の「特別活動」においても記載されている(中学校 学習指導要領(平成20年3月改訂)「特別活動」、高等学校学習指導要領(平成21年3月 告示)「特別活動」)。
HIV 感染は、現在、効果ある治療法の開発により感染者を取り巻く環境が大きく変わり、
かつてのように「死に至る病」ではなくなっている。にも関わらず、以前と同じような差 別や偏見が現在も残り、HIV 感染者は病気そのものよりもそういった差別や偏見への不安 に悩み、感染を隠し続けるという精神的苦痛を強いられている。
ここでは、今まで学習してきた HIV 感染に関する知識・理解の確認をするとともに、性 に対する正しい理解を基盤に、適切な行動がとれるよう人権尊重の精神に基づき、HIV 感 染者に対して偏見や差別を持たずに望ましい人間関係を築くことについて考えさせたい。
また、早期の検査・発見によりエイズの発症を抑えられるため、検査の重要性についても 認識させたい。
2 進め方
◎3~5人のグループをつくる。
(1)ワーク1について
保健体育等で学習した既知情報についてブレインストームさせる。生徒がエイズ・
HIV 感染についてどのようなことを知っているかについて、
① 個人で記入させる。
② グループごとにあげさせる。
③ ワーク2にはない HIV とエイズの違い(※)等基本的なものについては、全体で確 認するとよい。グループ内発表で議論になる部分があれば、後で確認できるよう 記録させる。
※ HIV とエイズは違うもの。HIV というウィルスが粘膜などをとおして体内に入り、
そのまま放置していると、体の免疫機能が徐々に破壊される。その結果、特定の疾 患を発症した状態を「エイズ(後天性免疫不全症候群)」という。
確認させる。
① ひととおり、生徒に取り組ませた後、答え合わせをする。その際、丁寧な解説 や理由の説明を必ず行う。
② その場で一つひとつの設問に対して挙手させ、正答率を発表する。
③ 7つの設問全体の正答率を算出し、発表する。
④ 全体の正答率からエイズ・HIV 感染に関して必要な正しい知識が身についてい るか確認させる。
3 解説
(1)ワーク2について
ア)HIV には、HIV 陽性者やエイズ患者と接触して感染する。(×)
…HIV は大変感染力が弱く、熱や消毒液にも弱いウィルスである。粘膜や血管に達 するような皮膚の傷に HIV を含む体液が直接触れることにより、感染の可能性があ るが、傷のない皮膚からは感染しない。また、唾液、涙、尿などの体液には他の人 に感染させるだけの十分なウィルスが含まれていない。よって、キス、せき、くしゃ み、握手など日常生活の接触では感染しない。
イ)HIV には、HIV 陽性者との性行為でのみ感染する。(×)
…性的接触による感染に比べれば感染ルートの割合としては低いが、注射器・針の 共用による感染と母子感染がある。
平成24年9月30日現在のHIV感染者の性別、国籍別、感染経路別報告数の累計
男 女 計
HIV 感染者合計 11,025 802 11,827 異 性 間 の 性 的 接 触 2,359 650 3,009 同 性 間 の 性 的 接 触 7,489 3 7,492
静 注 薬 物 使 用 35 2 37
母 子 感 染 14 9 23
そ の 他 235 38 273
不 明 893 100 993
「厚生労働省エイズ動向委員会報告」(平成24年9月30日現在)より作成
ウ)HIV に感染すると、完治させる治療薬がないため必ず発病し、死に至る。(×)
…必ずしも発病するとは限らない。治療の進歩により発病を遅らせる薬の開発など があり、HIV に感染していることを早く知って治療を開始すれば、エイズの発症を 防ぐことが可能になった。「HIV=死」と捉えるのは誤った認識である。
エ)母親が HIV 陽性者の場合、生まれてきた子どもは必ず感染する。(×)
…HIV に感染している母親の子宮内、出産時、母乳から感染するケースは多いが、
帝王切開を行い母乳を与えないようにすれば、感染はかなり防げる。
オ)避妊具を使用すれば、感染を100%防ぐことができる。(×)
…HIV 予防には全ての避妊具が有効なのではないが、コンドームを正しく装着し使 用することはかなり有効である。
カ )HIV 検査は、保健所では無料でしかも匿名で受けられ、結果は本人にだけ知らさ れる。(〇)
…ワーク4の手記にも登場するが、HIV 検査は無料かつ匿名で受けられる。無料で 受けられる機関を、ホームページ【「HIV 検査相談マップ」//www.hivkensa.
com/】で調べることができる。
(2)ワーク3について
1 内閣府大臣官房政府広報室で行った「エイズに関する世論調査」のうち、2つの 問いに答えさせる。ここでは、「エイズの原因となるウィルスの感染者」とは「HIV 陽性者」である。
2 問1 により学習している事柄からの「建前」、 問2 で実際どう行動するかとい う「本音」の食い違いが生じるであろうことを狙っている。
3 (3)において、「なぜ抵抗を感じるのか?」について掘り下げて考えさせ、その 上で自分がどうしていけばいいかを考えさせたい。
(3)ワーク4について
手記を全体に対して朗読する。この手記は相手のことを思いやった行動の一つの例 である。手記の内容を理解し、HIV やエイズに関して正しい知識を身につけ、自己の 行動に責任を持って生きることの大切さや、人間尊重の精神に基づく望ましい人間関 係の在り方について考えさせ、行動できる一助としたい。
なお、ワーク2のカ)やワーク4の手記にもあるとおり、HIV 検査を無料でしかも 匿名で受けられる。無料で受検できる検査機関は、ホームページ【「HIV 検査相談マッ プ」//www.hivkensa.com/】で調べることができる。検査機関によって検査日時が 異なり、予約が必要かどうかの違い、結果が即日わかるかあるいは1週間後予約して 聞きに行ってわかるかどうかの違いなどがあり、事前に調べてから受検する方がよい。
<引用文献>
HIV マップ
http://www.hiv-map.net/
データで見る、ゲイ・バイセクシャルとHIV/エイズ情報ファイル2010 http://www.hiv-map.net/works/pdf/file.pdf
「Think About AIDS~ラジオが届けたHIV陽性者たちの声」ホームページ
http://www.thinkaboutaids.jp/(特定非営利活動法人「ぷれいす東京」)より引用
<参考文献>
中学校学習指導要領(平成10年12月告示、平成15年12月一部改正)「保健体育」
中学校学習指導要領(平成20年3月改訂)「保健体育」
高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「保健体育」
中学校学習指導要領(平成20年3月改訂)「特別活動」
高等学校学習指導要領(平成21年3月告示)「特別活動」
特定非営利活動法人SHIP http://www.ship-web.com/Top.html 神奈川県・神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS -人権を考える-」
平成23年3月発行
厚生労働省エイズ動向委員会報告(平成24年9月30日現在)
7 同和問題について考えよう【教職員用】
このワークでは、まず教職員が同和問題について考えます。特に、最近の学術研究の成 果をふまえた、大きく変わりつつある部落史について理解し、生徒に対する今後の同和教 育につなげていくことを目的としています。
ワーク1
あなた自身について(1)、(2)の問いに答えましょう。
(1)あなたが同和問題(部落問題)をはじめて知ったのはいつ頃ですか。
ア 小学校入学以前 イ 小学校時代 ウ 中学校時代 エ 高等学校時代
オ 大学・短期大学時代 カ 社会人になって
キ はっきりと覚えていない
ク 同和問題(部落問題)を知らない
※エ・オの経歴にあてはまらない方は、「カ」とお答え下さい。
(2)あなたは同和問題(部落問題)をどのようにして知りましたか。
ア 家族から聞いて知った イ 友達から聞いて知った ウ 学校の授業で知った
エ 職場や近所の人から聞いて知った
オ テレビ・ラジオ・新聞・本などで知った カ インターネットで知った
キ 同和問題の集会や研修会で知った ク 県や市町村の広報誌や冊子で知った
(3)「同和問題」についてはじめて知ったとき、どのようなイメージをもちましたか。
(4) 「同和問題」について、現在どのようなイメージをもっていますか。もし(3)で答 えたイメージと変わっていたら、なぜ変わったのでしょうか。
ワーク2
次の問1~問4に答えましょう。
問1 部落差別は、いつごろからはじまったと考えられますか。
ア 鎌倉時代 イ 室町時代 ウ 江戸時代
問2 江戸時代の身分制度はどのようになっていたと考えられますか。
ア 士農工商・えた非人とされ、部落の人々は他の人よりも下に位置づけられていた。
イ 武士や百姓・町人とは別な身分を制度化し、それ以前よりも強固な身分制度を確 立していた。
ウ 「士と農工商」という、武士が農民と町人を支配する身分制度をつくりあげていた。
問3 江戸時代の被差別部落の人々の生活はどのようなものであったと考えられますか。
ア 居住地や服装を決められ、村や町の祭りなどには参加できなかった。
イ 河原や荒地など生活条件の悪いところに住まわされたり、村や町の祭りなどへの 参加を禁止されていた。
ウ 貧しく、厳しいものであった。
問4 江戸時代の被差別部落の人々はどのような仕事をしていたと考えられますか。
ア 農業を営んで年貢を納めたり、牛馬の皮革加工や草履・雪駄づくり、医療・医薬 品製造に携わったりした。
イ 少ない土地の耕作や日用品の加工、死んだ牛馬の処理や皮革加工などの仕事を 行った。
ウ 当時の人々の好まないつらい役目を負わされていた。
ワーク3
生徒や卒業生等が同和問題で悩んでいたり、同和問題について相談を受けた例があれば それらをあげ、考慮すべき点や課題を話し合いましょう。
解説 7 同和問題について考えよう【教職員用】
1 ねらい
同和問題とは、日本の歴史の中で人為的・政治的につくられたもので、同和地区(被差 別部落)出身であるというだけの理由で就職や結婚において不当な差別を受け、社会的不 利益を受けているという人権問題である。
被差別部落に関する研究については、近年、多くの新しい成果が次々と発表され、被差 別部落の歴史に関する文献も数多く出版された。そこでは、これまで当然のように語られ てきた部落差別の成り立ちを単純に「近世の政治体制による分裂支配」に求める考え方や、
「被差別部落の生活はつねに貧困で悲惨であった」といった見方などに、大きな修正と見 直しが求められている。こうした中で、教育現場でも、「被差別部落史の見直し及び転換」
が大きな課題となっている。
生徒に対して同和問題を語る前に、教職員自身が正しい認識を持っているか、肩書きや 住んでいる場所などで人を判断してしまってはいないか、ふりかえってみる必要がある。
話し手である大人の偏見が生徒に刷り込まれてしまうことを避けるのが本ワークシートの ねらいである。
2 進め方
(1)ワーク1について
進行役がアンケートの(1)(2)を読み上げ、参加者は選択肢ごとに挙手する。挙 手により、部落史に関する認識の実態を全体で把握する。
(2)ワーク2について
問1~問4について、各自が解答を選ぶ。その後、次の解説をもとに、認識を修正 する必要のある点を確認する。その際、DVD「部落の歴史(中世~江戸時代)~差別 の源流を探る」(字幕入り)の視聴が効果的である。
(3)ワーク3について
現在や過去の事例について、個人情報の扱いを慎重にした上で、2名~5名のグルー プ内で共有する。複数のグループがある場合は、最後に全体に発表し、課題を明らか にする。
(解答、解説は「3 解説」を参照)
3 解説
被差別部落の歴史的起源には、近世政治起源説・異民族起源説・職業起源説・宗教起源
するという目的があった。しかし、近年多くの研究者たちによる様々な領域からのアプロー チにより、被差別部落の人々の多様な姿が明らかにされてきた。また、近世政治起源説の 見直しも進められ、現在小中高等学校で使用されている社会科・歴史教科書の記述も改め られた。さらに、部落史だけではなく、江戸時代への評価も大きく変わってきている。そ のため、新しい部落史や江戸時代への評価の変化を積極的に取り入れる必要がこれまで以 上に求められている。
部落史の参考となる最近の研究成果などを次のように例示する(「人権学習ワークシー ト集Ⅲ」参照)。なお、これらの知識の整理は、あくまでも人権を尊重し差別を許さない 態度を培うために必要である、ということを理解する。
(1)近世政治起源説の見直し(問1:(答)イ)
かつて、被差別民の起源について、近世政治起源説と言われる考えが中心的であった。
しかし、現在は、被差別民の起源については、中世か古代末期にまでさかのぼると考 えられている。かつて、特に死・出産・血などを非日常的なものとして「ケガレ」と 考える意識があり、その「ケガレ」を清める役割(「葬送」「死牛馬の処理」「行刑」「造 園」「掃除」)を担う人々への畏怖の念が、次第に「ケガレ」に関わる者への賤視観に つながったと考えられている。このような差別意識の底流を権力が利用し、江戸時代 中期になって制度的に確立していったと考えられるようになっている。
(2)江戸時代の身分制についての見直し(問2:(答)イ、問4:(答)ア)
被差別部落の人々は、「武士・町人・百姓」とは別な身分とされて、地域社会から排 除と差別を受けていた(必ずしも身分の序列で最底辺におかれたわけではない)。特に 江戸時代中期から被差別部落の人々への差別が強化されてきたと言われている。しか し、実際には、(1)にあげた「ケガレを清める役割」以外にも雪駄の販売や皮革製品、
医薬品の生産・販売、治安維持などで社会的・経済的に被差別部落の人々と他の身分 の人々との多様な交流が日常的にあったことが明らかになっている。
(3)江戸時代の被差別部落の生活の見直し(問3:(答)ア)
被差別部落の人々が一様に「貧しかった」という見方は、否定されている。被差別 部落の人々の中には、富裕な人も、貧しい人もいた。ある被差別部落の周辺の農村では、
18世紀以降に人口が停滞していった。しかし、その被差別部落では、人口が増加して いたことが実証されている。その理由として、さまざまな手工業品や医薬品などの生産・
販売を行っていたことや、諸役を行うことによって経済力があったことなどが考えら れている。だからといって、被差別部落の全ての人々が豊かであったとは見られてい ない。また、生活条件の悪い地域に住まわされた事例もあるが、全国的ではないと見 られている。注意すべきことは、被差別部落の人々は貧しいことが原因で差別されて いたのではないということである。
(4)被差別民の文化への貢献
中世における猿楽をはじめとする諸芸能や、慈照寺・鹿苑寺の庭園や優れた石塀な どが、被差別民によって生み出された。また、「蘭学事始」に記載されている人体解剖 を実際に行い、内臓について正確な知識をもって説明をした人物は被差別民である。
さらに、医者や医薬品製造などに従事していた人もいた。このように、被差別民は、
日本の文化や医学の発展に功績を残している。
(5)「解放令」について
明治4(1871)年にいわゆる「解放令」が出たことによって、それまで被差別身分 とされていた人々は、制度上は多くの武士や百姓・町人とともに平民となった。その 一方で、それまで与えられていた特権が奪われたために、経済的基盤を失い、社会的・
経済的な差別が強められてしまった。だが、解放令には、以後、各地で起きた多くの人々 の差別に反対する運動のよりどころとなったという意義もある。
(6)部落解放運動について
解放令以後、全国各地で被差別部落の生活状況を改善することで差別をなくそうと する運動が行われていた。その中で、被差別部落の人々による自主的な解放運動を行 う全国水平社が大正11(1922)年に創立された。これ以後、各地で水平社が設立され、
差別をなくす活動を展開した。神奈川県では、水平社は設立されなかったが、青和会 が設立され、差別をなくすための活動を展開した。
戦後、基本的人権の尊重をうたった日本国憲法が施行された後も、部落差別は続いた。
そのために、昭和40(1965)年、国の同和対策審議会から「同和問題の早急な解決は国 の責務であり、同時に国民的課題である。」とした答申が出された。この答申などに基づき、
さまざまな同和対策を行う特別措置法が平成14年(2002)年3月まで施行され、生活環 境面などの改善において成果を上げたといえる。
しかし、現在でも、公共物への落書きやインターネットへの差別的な書き込みが絶えな いなど、同和地区関係者への差別意識や偏見はまだ解消された状況とは言えない。一人ひ とりが同和問題について正しい理解と認識を深め、差別を許さない心をもって、差別の連 鎖を断ち切ることが教育に求められていることを十分に認識した上で、生徒に同和問題に ついて考えさせたい。
なお、同和問題に関する認識を確実なものとし、より豊富な情報を得るために各県立学 校に配付されている次の図書を参照していただきたい。
<配付図書>
「これでわかった!部落の歴史 私のダイガク講座」
「ビジュアル部落史 第1巻~第5巻」
「神奈川の部落史」
<引用文献>
「人権学習ワークシート集Ⅲ-人権教育実践事例・指導の手引き(高校編第12集)-」
神奈川県・神奈川県教育委員会
<参考文献>
DVD「部落の歴史(中世~江戸時代)~差別の源流を探る」(字幕入り)
「転採・新採教職員対象同和教育研修(A研修)」栃木県大平町教育研究所研究収録 http://www.cc9.ne.jp/̃kenkyujo/kiyou/h13y/tyousa13/t13-09.htm
「同和教育の手びき 第34集 同和教育指導資料集部落問題学習の充実を目指して―部 落史の見直しと教育内容の創造(抄)」奈良県教育委員会(平成4年3月20日)
http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-9206.htm
「Ⅲ『部落差別』は『つくられたもの』です」大分市教育委員会
https://www.city.oita.oita.jp/www/contents/1214983340750/activesqr/
common/other/burakusabetuha.pdf
8 同和問題について考えよう
このワークでは、同和問題(部落差別)について考えます。同和問題は、日本固有の重 大な人権問題です。日本の歴史の歩みの中で、人為的、政治的につくられたものです。現 在でも、同和地区関係者への差別意識や偏見は、解消された状況にあるとは言えません。
偏見や誤った考えが伝えられて差別が繰り返されるという差別の連鎖があったからです。
同和問題と向き合って、正しく理解し、差別を許さない心をしっかりともちましょう。
ワーク1
【調べ学習】被差別部落の歴史の見直しが進んでいます。その結果、次の事項がどのよ うに説明されているか、教科書や歴史書などを調べてみましょう。
(1) 室町時代の「河原者」とは、どのような場面で何をしていた人だと説明されていま すか。調べましょう。
(2) 江戸時代の被差別部落の人々の身分について、どのように説明されていますか。調 べましょう。
(3) 江戸時代の被差別部落の人々の生活について、どのように説明されていますか。調 べましょう。
(4) 江戸時代以降の被差別部落の人々の社会的役割について、どのように説明されてい ますか。調べましょう。
(5) (1)~(4)で調べたことをクラスに発表しましょう。他のグループの発表で気に なる視点があれば、書きましょう。
(先生の説明)
ワーク2
次の表は、神奈川県が平成5年と平成13年に行った「人権と同和問題についての意識 調査報告書」のうち、結婚にかかわる項目の質問と調査結果を示したものです。
*神奈川県教育委員会「HUMAN RIGHTS」より作成 問 かりに、あなたが同和地区の人と恋愛し、結婚しようとしたとき、親や親戚から強い
反対を受けたら、あなたはどうしますか。(未婚者のみ)
選 択 肢 平成5年 平成13年
自分の意志を貫いて結婚する 20.7% 26.5%
親の説得に全力を傾けたのちに、自分の意志を
貫いて結婚する 67.2% 61.2%
家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない 9.1% 9.1%
絶対に結婚しない 3.0% 1.9%
無回答 0.0% 1.3%
(1)前ページの調査結果をもとに、考えましょう。
① 「家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない」「絶対に結婚しない」と回答した人の 理由を想像してみましょう。
② 平成5年と平成13年とで「家族の者や親戚の反対があれば、結婚しない」の数字が 変わっていない理由を考えてみましょう。
(2) グループで、(1)で考えた各自の意見を発表して、グループの中でどのような意見 があるかを確認しましょう。
ワーク3
ワーク1で調べたことと、ワーク2で話し合ったことをもとにして、誰もが差別されな い、差別しない社会を作るために、自分たちでできることについて、各自の考えをグルー プで発表し合いましょう。
解説 8 同和問題について考えよう
1 ねらい
同和問題とは、日本の歴史の中で人為的・政治的につくられたものである。同和地区(被 差別部落)出身というだけの理由で就職や結婚などで不当に差別され、社会的な不利益を 受けているという人権問題である。
同和地区関係者への偏見や差別意識がいまだに解消されたとはいえない状況で、この ワークが差別してしまうかもしれない自分に気づき、どのように行動するのか考えるきっ かけになるようにする。また、被差別部落や被差別身分の起源、江戸時代までの被差別身 分の人々の生活に関する研究は、最近大きく進展している。その影響は、小・中・高等学 校の教科書の記述内容の変化にまで及んでいることを、このワークでは考慮している。
2 進め方
(1)ワーク全体に関わる配慮事項
• グループの人数は5~6人程度。
• 生徒が互いの意見に対して、否定をしないように配慮する。
• 人権についての配慮がない発言があった場合でも、その場で注意したり、否定し たりしないが、看過せず生徒自身で気づき合えるように示唆する。
• ワーク全ての最後に、まとめの時間を設けて、参加者全員が、差別をしない、許 さないことについて確認できるようにする。また、人権に配慮のない発言があった 場合、その問題性を生徒たちが気づかない場合は、必ず指摘する。
(2)ワーク1
• 同和問題について、ワークの前文の内容程度の説明を行う。
• ワークシートを配付し、(1)~(4)の課題をグループ別に分担して調べる。
• 調査方法としては、小・中・高等学校の教科書の記述内容を比較してみる。図書 館等で最近の歴史書等を参考にして調べることを薦める。
また、次の各県教育委員会のインターネット上の人権教育資料を参考にこのワー クと解説を作成した。このワークを行う時は、参照することを薦める。
長野県教育委員会「人権教育指導の手引~ヒューマンライツ イン ながの(社会教育編)~」
http://www.pref.nagano.lg.jp/kyouiku/jinken/jinken42.htm 高知県教育委員会人権教育課 人権教育資料集のサイト
http://www.pref.kochi.lg.jp/%7Ejinkyou/jinnkenn/gakkou/tunagari/tunagari-top.html 和歌山県教育委員会 人権教育のサイト
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/500100/koumoku2/sub7_2.html
(3)(先生の説明)
• ワーク1を元に、解説をする。
(例) その地域に住んでいるというだけで、何のいわれもないのに差別され、偏見を 持たれた人がいる。
(4)ワーク2
• 生徒がそれぞれに自由に思ったことを書くようにする。
• グループとして意見を統一する必要がないことを伝える。
(5)ワーク3
• 生徒ができるだけ多様な意見を発表できる雰囲気を作るようにする。
3 解説
教師は生徒に「差別や偏見はいけない」等、人権尊重の理念や人権に関する知識につい て話をするが、実は教師自身も服装や外見や肩書きや住んでいる場所で人を判断している 場合があるかもしれない。話し手である教師(大人)の偏見が生徒に刷り込まれしまうこ とも十分考えられる。生徒の差別意識の背景に大人がいる可能性を考えて、大人から子ど もへの差別の連鎖を、教育の力で断つことが求められている。
同和問題について取り上げる場合、地理歴史科や公民科の教科書に記載されている同和 問題に関連する歴史の諸問題についての知識を教えるだけでなく、いまだに同和地区関係 者への偏見や差別意識が解消されていない状況にあることを認識して、生徒一人ひとりの 心の中に差別を許さない心をしっかりと育むことが大切である。
(1)平等について
憲法14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的 身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とあ る。そして、平等とは、「人を分け隔てなく、等しいものは等しく扱う」ことである。
これらのことから、かながわ人権施策推進指針では「誰もが機会の平等を保障され、
能力が発揮できる社会づくりをめざす」ことが基本理念に述べられている。この「機 会の平等」を保障するためには、あらゆる人々が互いに違っていることを認め合うこ とが前提になる。例えば、日本語を母語としない児童・生徒に対して、個別に日本語 授業を行うことなどは、能力の発揮の機会を保障し、教育を受ける権利の保障のため に必要なことになると考えられる。他と異なった扱いであっても、それが状況によっ ては、平等を保障することにつながるのである。
(2)「差別」とは?
籍地や家族の職業などを理由に不採用にすることは、不採用の理由が本人の能力・適 性とは関係のない予断と偏見に基づくものであり、「差別」といえる。
なぜ「差別」は生まれるのか?
「差別」は、「偏見」から生まれるという。十分な根拠のないマイナスイメージ(偏見)
を、個々の差異を無視してその集団に当てはめ、それが「ことば」や「態度・行動」
として表に出ると「差別」を生むと考えられる。
「差別」をしない、させないためには?
「自分の偏見に気づくこと」「偏見をなくそうと努力すること」が大切である。その ためには、人権に関する知的理解を深めるとともに、人権感覚を養うことで、自他の 人権を守ろうとする意識・意欲・態度を向上させ、それらを実際の行為に結びつける 実践力や行動力を育成することが求められる。
(3)被差別部落の歴史の転換
同和地区(被差別部落)の歴史を学ぶ場合に留意すべきことは、知識を増やすこと が最終目標ではなく、民主的、平和的な国家・社会の一員として、有為な社会の形成 者として必要な自覚と資質を養うために、人権を尊重し差別を許さないようになるこ とが、この学習の最終的な目標になっていることを忘れないことである。
被差別部落の歴史について指導する場合に、参考となる最近の研究成果などとして 次のことを例示する。また、前章教師用解説により補足する。
日本の歴史の中で、人為的に形作られてきた身分制度により、一部の人々が住居や職業、
結婚などを制限される差別を受けてきました。特定の地域の出身であることやそこに住んで いることを理由に差別される我が国固有の人権問題を、同和問題といいます。
こうした身分による差別は、すでに室町時代には一部の職業の人々が差別されていたこと にはじまると考えられています。江戸幕府は、武士や百姓・町人とは別な身分を制度化し、
それ以前よりも強固な身分制度を確立しました。この制度の下で厳しい差別を受けていた 人々は、農業を営んで年貢を納めたり、優れた技術で牛馬の皮革加工や草履・雪駄づくり、
医療・医薬品製造に携わったりするなどしたほか、城や寺社の清掃、幕府や藩の役人のもと で町や村の警備を行うなどして、社会を支えてきました。また、猿楽などの古くから伝わる 芸能を継承発展させて、日本文化に大きく貢献しました。
明治4(1871)年に「解放令」が出て江戸時代の身分制度は廃止され、それまで被差別 身分とされていた人々は、制度上は多くの武士や百姓・町人とともに平民となりました。し かし、多くの人々に身分差別の意識が残っている中で、被差別身分だった人々は、身分に伴っ て認められていた皮革加工などの権利が否定され、経済的に厳しい状況に置かれました。そ うした状況の中で、差別から解放を求める運動が各地ではじまりました。
~「同和問題の正しい理解のために」神奈川県教育委員会(p.3)~
(4)今後の課題
インターネットへの差別的な書き込みが絶えないなど、同和地区関係者への差別意 識や偏見はまだ解消された状況とは言えない。これからも、一人ひとりが同和問題に ついて正しい理解と認識を深め、差別を許さない心をもって、差別の連鎖を断ち切る ことが、教育に求められている。
<引用文献>
「人権学習ワークシート集Ⅲ-人権教育実践事例・指導の手引き(高校編 第12集)」
『9 同和問題について考える』(教材編p.33~p.34,解説編p.72~p.75)神奈川県教 育委員会 平成20年3月
<参考文献>
「神奈川の部落史」 編・著者「神奈川の部落史」編集委員会
「神奈川県史」(政治・経済篇)
9 異文化を体験してみよう①
ワーク1
(1) 次の動作(習慣)を、「①いつも自分でやっている方法」でやってみましょう。そし て、次に「②いつもと違う方法」でやってみましょう。
そしてまた、もとの「①いつも自分でやっている方法」でやってみましょう。
A 腕を組む。 B 肩にカバンをかける。
C 「あいうえお」と書く。 D 消しゴムで字を消す。
(2) それぞれの動作を、「②いつもと違う方法」でやってみたときの感想を書いてみま しょう。
A B
C D
(3) それぞれの動作を、再度「①いつも自分でやっている方法」でやってみたときの感 想を書いてみましょう。
A B
C D
ワーク2
(1)次の文字を書き写してみましょう。
(2)アラビア文字の「書き方の基本」を聞いてもう一回書いてみましょう。
(3) (1)・(2)を体験した感想を書いてみましょう。
(4)次の①~④の文をルビを参考に読んでみましょう。
また、下の単語の意味の説明を参考に訳してみましょう。
①
ンゥトヤッニーバーヤ -ナア
①訳)
②
ンゥトザーミルィテ -ナア
②訳)
③
ンユーィビラア タンア
③訳)
④
ンムリッアム タンア
④訳)
(5)次の①・②の文字を、指示に従って書き写してみましょう。
①
②
朝食の後、私の父は事務所に行く。
彼は、石油会社の社員である。
私の妹は、学校で昼まで勉強する。
それから彼女の友達と遊ぶために、公園に行く。
(6)(1)~(5)でアラビア文字を書き写したときの感想を書いてみましょう。
(7) 漢字を使わない国から来た人が、漢字と仮名ばかりの黒板の文字をノートに写そう としています。アラビア文字を書き写す体験を参考に、その人の気持ちを想像して 書いてみましょう。
ワーク3
(1) 他の言語と比べて、「日本語の難しさ」にはどのようなことがあるか考えてみましょう。
(2) 高校生活の中の規則(学則、生徒心得、生徒会会則など)に使われている言葉を5 つ書き出し、日本語を母語としない人にもわかるように説明を考えてみましょう。
言 葉 説 明
1
2
3
4
5
全体をとおして… このワークを行った感想を自由に書いてみましょう。
解説 9 異文化を体験してみよう①
1 ねらい
外国につながりのある生徒が増えているにもかかわらず、文化や習慣の違いから、彼ら は戸惑いや暮らしにくさを感じ、他の生徒との交流も誤解や無理解によってなかなか進ま ない状況にある。
日常的に異文化の中で暮らす困難さを体験し、他者の文化を理解しようとする姿勢を育 成する。
2 進め方
(1)ワーク1について
• 「①いつも自分でやっている方法」「②いつもと違う方法」とは…
例えば、A ①右手が上で腕を組む。 ②左手が上で腕を組む。
B ①左肩にカバンをかける。 ②右肩にカバンをかける。
C ①普通の書き順で「あいうえお」と書く。
②全く逆(下から上、右から左)の書き順で「あいうえお」と書く。
D ①右手で消しゴムを使う。 ②左手で消しゴムを使う。
• 感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
• その他、「腕時計を違う手にする」「利手ではない方の手でトランプを切る(紙を 数える)」「右脚と右手を同時に出す歩き方をする」など、様々な方法が考えられる。
(2)ワーク1
• (1)は、「書き方の基本」を知らずに書き写す作業を想定して行わせる。
• (2)の「書き方の基本」は、文字は「右→左へ」「線は上→下へ」「点は後で」。
点は後からふるが、1文字ごとにふってもよいし、1つの単語が書き終わってか らまとめてふってもよい。(英語の筆記体を右から逆に書くイメージ)
• (3)の感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
• (4)では、アラビア語は文字を右から左に書くため、ルビも右から左にふってあ る。例えば、①の読みは「アナー ヤーバーニッヤトゥン」となる。
なお、男性形の「あなた」は「アンタ」と読む。
• (4)の訳は、
となる。
なお、アラビア語には多くの言葉に男性形と女性形があり、ワーク2の例文で 用いられているそれぞれの言葉の形は次のとおりである。
私(女性形) 日本人(女性形) 生徒(女性形)
あなた(男性形) アラビア人(男性形) 先生(男性形)
• (5)は、クラスの列ごとに交互に「A班」「B班」とする。
・1回目は、「A班」に①(アラビア語)を、「B班」に②(日本語)を書かせる。
・2回目は、交替して各々やっていない方を書かせる。
・ 2回とも、書くときは一斉に作業を開始させて、終わったら筆記用具を置くよう に指示しておく。
• (6)・(7)は、感想記入後、意見を出し合って共有するとよい。
(3)ワーク3について
• (1)の例;「漢字が複雑」
「漢字の読みが何とおりもある(その時によって変化する)」
「擬音語・擬態語が多い」
「ニュアンスが少し違う言葉が多い」など
• (2)の例;「教科」「科目」「単位」「学期」「休業日」「開校記念日」
「祝日」「生徒証」「日課表」「公欠」「生徒心得」「遅延証明」
①「私(女性)は、日本人です。」
②「私(女性)は、生徒です。」
③「あなた(男性)は、アラビア人です。」
④「あなた(男性)は、先生です。」
3 解説
(1)ワーク1について
それぞれの国や地域にはそれぞれの文化や習慣があり、日常的に行っている習慣と 違うことをすることだけでも、違和感やストレスを感じることを体験させたい。
(2)ワーク2について
文字などは、幼い頃から少しずつ自然に書き方の基本的なルールを身につけている ものである。それが獲得されていない場合(例えば、非漢字圏からきた生徒が日本の 漢字を習う場合など)には、文字を「絵」として「写す」ことになる。
ここでは、アラビア語という日常的にはあまり接することのない言葉を使って、そ の大変さと、書き間違いなどの多さなど(日常会話が獲得できていても「書く」とい うことを習得することの難しさ)を体験することによって、異文化の中で暮らすこと について考えさせたい。
また、日本語とアラビア語を同時に書き写す作業では、作業のスピードに差異が出 ることが容易に想像できる。周囲の人たちが作業を終えていく中で慣れない作業を行 うという体験をとおして、異文化の中での暮らしにくさを想像し、日常生活の中で互 いにどのようなアプローチができるかなどについても考えを深めさせたい。
アラビア語は、西アジア・北アフリカのアラブ諸国を中心に、世界の言語の中でも 広く用いられている言語の一つである。このアラビア語を公用語としている主な国に は、アラブ首長国連邦、アルジェリア、イスラエル、イラク、エジプト、クウェート、
サウジアラビア、シリア、チュニジア、バーレーン、モロッコ、ヨルダン、リビア、
レバノンなどがある。
(3)ワーク3について
ワーク2の体験をベースに私たちが日常的に使っている「日本語」について見つめ 直し、日本語を母語としない人にどう説明したらよいか(どう接したらよいか)につ いて考えを深めさせたい。知らない言語を話す者同士が、互いに知らないことを理由 に誤解し合うこともあるため、伝える手段として「わかりやすい言葉」に言い換える すべを会得し、交流する態度を育成したい。
これは、「子どもに対して」「障害(知的障害や発達障害)がある方に対して」「高齢 者に対して」の言葉掛けの際にも同様に言えることではないだろうか。
10 異文化を体験してみよう②
ワーク1
(1) 次のルールでジャンケンゲームをやってみましょう。
① グループの中で、リーダーを1人、訪問者を3人決める。
② 訪問者は一旦退出し、その間にジャンケンのルールを確認する。
③ 訪問者を招き入れ、リーダーのかけ声でジャンケンを繰り返す。訪問者が入っ てからは、リーダーのジャンケンのかけ声以外は、喋ってはいけない。
但し、言葉以外の方法ならば、訪問者にルールを教えてもよい。
④ 訪問者は、どのようなルールでジャンケンをしていたかをあてる。
(2)ゲームの感想を書きましょう。
私は…〔 リーダー ・ 訪問者 ・ その他の人 〕(自分の役割に○)
ワーク2
(1)グループにわかれてトランプゲームを行いましょう。
① A・Bの2グループにわかれる。
② それぞれのグループで、配付されたシートを黙読し、
ゲームのルールを確認する。(ここからは指定の言葉以 外一切話してはいけない。)
③ 1回戦: それぞれのグループでルールを確認しなが らゲームを行う。
④ 1回戦のそれぞれのグループの勝者(1位)の人は、
特命大使としてもう一方のグループに視察に行く。
⑤ 2回戦: それぞれのグループのルールでゲームを行 い、もう一方のグループの特命大使はその 様子を視察する。
⑥ 2回戦のそれぞれのグループの勝者2名(1・2位)
の人は、自分のグループが派遣した特命大使から他の グループのルールの説明をうけ(筆談のみ)、特命大使 とともにもう一方のグループへ行く。
⑦ 3回戦: それぞれのグループのルールでゲームを行
⑧ 3回戦目のルールをワークシートの(2)に記入する。(元のグループに残った 人は、元のルールを記入。グループ特命大使と2名は、もう一方のグループのルー ルを記入。)
⑨ それぞれのグループのルールが正しかったかどうかについて、答え合わせをす る。
(2)3回戦目のゲームのルールを書いてみましょう。
カード交換の方法;
「ピー」という言葉の意味;
「ポー」という言葉の意味;
ゲームの「勝ち」;
勝った人はどうするか;
普段の表情;
(3)このゲームを行った感想を書き、互いに意見を発表しましょう。
○ 特命大使になった人:最初にもう一方のグループに行ったときの感想と、3回戦の ときの感想
○ 3回戦でもう一方のグループに行った人:もう一方のグループでのゲームの感想 ○ ずっと最初のグループにいた人:特命大使や他の2人がもう一方のグループに行っ
てしまったときの感想と、自分がずっと同じグループにいたことについての感想 私は…〔 特命大使・もう一方のグループに行った人・ずっと最初のグループにいた人 〕(自分の役割に○)
(4)他のグループの人や他の立場だった人の意見を聞いて、気づいたことを書きましょう。
(5)全体をとおして… このワークを行った感想を自由に書いてみましょう。
解説 10 異文化を体験してみよう②
1 ねらい
外国につながりのある生徒が増えているにもかかわらず、文化や習慣の違いから、彼ら は戸惑いや暮らしにくさを感じ、他の生徒との交流も誤解や無理解によってなかなか進ま ない状況にある。
異文化シミュレーションゲームを行うことによって、日常的に異文化の中で暮らすこと や言葉を用いない文化理解の困難さを体験し、他者の文化を理解しようとする姿勢や異文 化を受け入れようとする姿勢を育成する。
なお、このゲームは異文化シミュレーションゲーム「バーンガ※1」と「バファバファ※2」 をもとに考案した。
⎡|
||
||
||
⎣
※1 バーンガ … 神奈川県教育委員会「人権学習ワークシート集Ⅳ 人 権教育実践事例・指導の手引き(高校編第13集)」(p.8~p.9)参照
※2 バファバファ … 2つの文化を作り出し、擬似的に異文化体験を作 り出すことによって自分たちと異なる文化に対する感じ方、行動を 振り返り、異文化間の交流のあり方を考えるゲーム。
⎤|
||
||
||
⎦
2 進め方
(1)ワーク1について
① グループ・訪問者の人数は7人以上であれば適宜でよい。
② リーダーは立っていて、他の人から見えやすい方がやりやすい。
訪問者を含め、ジャンケンをする人は車座(いすを用いても良い)になる。
訪問者は、固まって座っても離れて座ってもよい。
③ ジャンケンルールは、リーダーの指示で全員が同じものを出す。
例えばリーダーが…
•口を大きく開けたら「パー」、縦に開けたら「チョキ」、結んだら「グー」
•足を開いたら「パー」、片方前に出したら「チョキ」、閉じたら「グー」
• ジャンケンの掛け声の前に、「じゃあ始めるよ」というジェスチャーで、手を 頭に当てたら「パー」、鼻に当てたら「チョキ」、口に当てたら「グー」
④ 感想記入後、それぞれの役で意見を出し合って共有するとよい。
(2)ワーク2について
① ゲームはA・Bの2グループで対戦する。
• 1グループあたりの人数は、最低6人必要(できれば10人程度)である。
② Aグループ、Bグループにそれぞれゲームのルール(<別紙>参照)を配付する。
• 【*シート*】はAグループ用、【**シート**】はBグループ用である。
異なるシートを配付することを生徒に気づかれないようにする。
• 各シート内の 『ゲームの進め方』 は、AグループとBグループの共通のルー ルである。
• 各シート内の 『ルール』 はAグループ・Bグループで異なるルールである。
• 各シートは生徒それぞれに配付し、1回戦が終わるころ生徒に意識させない ようにそれとなく回収する。
③ Aグループ・Bグループでの一回戦の各勝者が、「特命大使」として、相手チー ム(Aグループの特命大使はBグループ、Bグループの特命大使はAグループ)
を視察する。その際、あらかじめ<別紙>【メモ用紙】を渡し、記入してよい。(1)
⑥の説明の際には、見ながら説明してもよい。
④ それぞれの回にかかる時間が長い場合は、2人があがって終了としてもよい。
⑤ 3回戦終了後、(2)を記入させる。その際、3回戦目のルールなので、「特命 大使」と「もう一方のグループに行った人(2回戦の1・2位)」はもう一方のグ ループのルールを記入し、「ずっと最初のグループにいた人」は自分たちのグルー プのルールを記入して、答え合わせの際に使用する。
⑥ (3)感想記入後、それぞれの役で意見を出し合い、(4)に気づきをまとめさ せる。
⑦ 時間があれば、1回戦(それぞれのルールの下でのゲーム)を2回行ってもよい。
3 解説
(1)ワーク1について
異文化の中でどのように行動してよいかわからないときの不安感を体験するととも に、言葉を介さずに伝える方法について考える。
(2)ワーク2について
特命大使や2名の訪問者によって文化が伝わるということと、ルールがよくわから ないという不安感などを体験する。互いのルールへの誤解など、現実に異文化理解の 場面で起こりうることも、ゲームの進行状況によっては体験可能である。
ゲーム中は、特定の言葉以外話してはいけないが、アイコンタクトやボディランゲー ジは可能なので、言葉を介さない意思疎通の体験も行うことができる。
2回戦目では、特命大使は1人で別の環境に入って行くが、3回戦目は仲間が一緒 である。それぞれの時の気持ちや互いの感情についても考えてもらいたい。マイノリ ティの人たちが固まる(グループ化する)ことは、批判的に捉えられがちであるが、
文化(立場)を同じくする者同士が互いに結びつき合う気持ちについても考えるきっ かけとしたい。
<別紙>(コピー用シート)
【*シート*】
【**シート**】
【メモ用紙】
カード交換の方法:
「ピー」という言葉の意味:
「ポー」という言葉の意味:
ゲームの「勝ち」:
勝った人はどうするか:
普段の表情:
11 犯罪被害者とその家族の人権について考えよう
Aさんのお兄さんは、昨日の夕方、通りがかりの人に暴行されて意識不明となり、病院 で手当を受けています。Aさんなど家族の人たちは、交代でお兄さんに付き添うことにし、
Aさんは先ほど自宅に戻ってきました。
先ほど朝のニュースで事件のことが報道され、事件の概要とお兄さんの名前、自宅の住 所が町名まで伝えられていました。すると…
ワーク1
ニュースで報道されたためか、報道陣や近所の人がAさんの自宅の前に集まってきまし た。その人たちは、何を話していると思いますか。3つあげてみましょう。
●
●
●
ワーク2
Aさんの自宅の電話やインターホンが何度も鳴りました。どのような人が、どのような 用事で電話をしてきたり、訪ねてきたと思いますか。3つあげてみましょう。
●
●
●
ワーク3
(1)2人一組のペアグループを作り、「話す人」と「聞く人」に分かれましょう。
(2) 「話す人」は、自分が考えたワーク1・ワーク2の内容を「聞く人」に伝えましょう。
「聞く人」は、Aさんの家族の立場に立って「話す人」の言葉を聞きましょう。
(3)「聞く人」は、「話す人」の言葉を聞いて感じたことを下に書きましょう。
(4)「話す人」と「聞く人」を交代し、(1)~(3)を行いましょう。
ワーク4
ワーク1~3をもとに、事件の被害者の家族が本当にしてほしいと思う「周囲の人々の 支えや協力」とは、どのようなことだと思うか、自分で考えてみましょう。
ワーク5
ワーク4で考えたことをグループ内でお互いに発表した上で、事件の被害者の家族が本当に してほしいと思う「周囲の人々の支えや協力」について話し合い、3つにまとめてみましょう。
●
●
●
解説 11 犯罪被害者とその家族の人権について考えよう
1 ねらい
犯罪被害者やその家族は、犯罪そのものによる被害だけでなく、第三者から「二次被害」
を受けることも多い。シミュレーションを通じて犯罪被害者の家族の立場や気持ちを想像 させ、将来二次被害を作り出さないようにすることをねらいとしている。
2 進め方
ワーク1・2については平常の机配置で行い、生徒は各自自分の考えを記入する。ワー ク3・4はペアワーク、ワーク5はグループワークとし、考えを共有させる。
(1)ワーク1について
自宅前に集まってきた人々が何を話しているかを想像させ、3つ以上記入させる。
この時点では、相談せずに自分の力で考えるように指導する。
(2)ワーク2について
自宅の電話やインターホンで誰がどのような言葉を発するのかを想像させ、3つ以 上記入させる。(1)と同様に、相談せずに自分の力で考えるように指導する。
(3)ワーク3について
最小グループである2名で「犯罪被害者の家族」の側に立って考えることで、(2)
で第三者が特に意図せずに発した言葉や行為、またその繰り返しが、当事者にとって 大きな痛手となりうることを理解させる。
ワーク3の取組みの際には、生徒の中に犯罪被害者やその家族としての体験を持つ 生徒がいる可能性もあることに十分配慮し、そういったことを配慮しない不適切な発 言が生徒に見られた際にはその時間内に正すよう留意する。また、教員側からの言葉 として、「犯罪被害者やその家族は、犯罪そのものの心の痛手のみならず、時として、
周囲の人々やマスメディア、またはそれらを通じて間接的に事件を知った人々からの 好奇の目や心無い言葉に苦しめられ、事件が忘れ去られたあとも、後遺症として苦し むことにもなりかねないのだ」ということ伝えたい。
(4)ワーク4
ワーク3で、家族の気持ちになって聞いた感想や、教員から説明されたことをもとに、
犯罪被害者の家族にとって必要なこととは何かを、引き続きペアで考えさせる。