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はじめに 研究の概要 問題意識 先行研究 研究の目的と方法 中学生の高校選択の現状 県公立高校入学者選抜制度の概要 現行の入学者選抜制度 入学者選抜制度等の変遷 428

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中学生の高校選択の現状と

高校の情報提供の在り方

【要旨】 本研究の目的は、中学生の高校選択の現状と高校の情報提供の実態について分析すること により、中学生の高校選択の現状に対応した高校の情報提供の在り方を明らかにすることに ある。 分析にあたり、まず高校選択の現状を把握するため、埼玉県の公立高校入学者選抜制度等 の変更が高校選択に与える影響について分析し、「偏差値追放」後も偏差値が志望校決定率 や進学率等に影響を与えていること、「学区撤廃」により高校選択の幅が拡大した一方で特 定の旧通学区域に進学志望が集まっていること、「推薦入試制度の変更」以降も偏差値によ る高校選択が行われ特定の高校に進学志望が集まっていることなどを明らかにした。 次に、普通科のある埼玉県立全日制高校および在籍する1 年生を対象に実施した 2 つの調 査結果について分析し、学校説明会が高校選択の主要な情報源であること、中学生が期待す る情報と高校が提供する情報に齟齬があること、学力判断の主要な情報源が業者テストであ ること、高校選択に塾の影響があることなどを明らかにした。 これらの分析結果を踏まえ、高校の情報提供の在り方に関して、「入学者選抜における学 力検査結果を中学校に提供すること」、「学校説明会の実施内容を再検討すること」、「塾との 連携を検討すること」の3 つの政策提言を行った。 2012 年 2 月 政策研究大学院大学 教育政策プログラム M J E 1 1 0 0 7 吉野 浩一

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目 次

はじめに ……… 418 1.研究の概要 ……… 420 1.1 問題意識 ……… 420 1.2 先行研究 ……… 423 1.3 研究の目的と方法 ……… 425 2.中学生の高校選択の現状 ……… 427 2.1 県公立高校入学者選抜制度の概要 ……… 427 2.1.1 現行の入学者選抜制度 ……… 427 2.1.2 入学者選抜制度等の変遷 ……… 428 2.2 偏差値追放の現在 ……… 429 2.2.1 中途退学率の変化 ……… 430 2.2.2 志望校決定率の変化 ……… 432 2.2.3 業者テスト申込率と志望校決定率 ……… 433 2.2.4 業者テスト申込率と高校進学率 ……… 436 2.2.5 志望校未決定率と卒業率 ……… 437 2.3 学区撤廃と高校選択 ……… 439 2.3.1 学区撤廃による変化 ……… 440 2.3.2 高校選択への影響 ……… 442 2.4 推薦入試制度変更以降の高校選択 ……… 445 2.4.1 高校選択の傾向 ……… 445 2.4.2 不合格者の状況 ……… 447 3.高校選択と情報提供の調査分析 ……… 449 3.1 調査の概要 ……… 449 3.2 情報源と情報提供の目的 ……… 449 3.3 高校選択の時期 ……… 451 3.3.1 決定時期と学力判断 ……… 451 3.3.2 学校説明会と高校選択の時期 ……… 454 3.4 高校選択の悩み ……… 455 3.5 高校選択の情報 ……… 458 3.5.1 高校選択の大切な要素と役立った内容 ……… 458 3.5.2 学校説明会と入学後の印象相違度 ……… 461

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3.6 学校説明会の在り方 ……… 464 3.7 学校説明会と受験勉強 ……… 468 3.8 人気校と準人気校の情報提供 ……… 469 3.9 高校選択と塾 ……… 471 4.研究のまとめと政策提言 ……… 473 4.1 研究のまとめ ……… 473 4.1.1 中学生の高校選択の現状から ……… 473 4.1.2 高校選択と情報提供の調査分析から ……… 473 4.2 考察 ……… 475 4.3 政策提言 ……… 477 おわりに ……… 482 参考文献 等 ……… 483 参考資料 ……… 487

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はじめに

本研究の出発点は、中学生がどのように高校を選択しているのか、また、高校は中学生の 高校選択に対応した情報を提供できているのかという「高校選択と情報提供に関する疑問」 である。 中学生の高校選択のための情報提供の場として、高校が中学生を対象に実施しているもの の代表は、学校説明会である。埼玉県の公立高校を例にとると、平成24 年度の入学者選抜 を実施するすべての公立高校147 校が中学生を対象とした学校説明会(体験入学・見学会等 含む)を年3 回以上実施し、そのうち 9 校が 10 回以上実施している 1。学校説明会の実施に は、高校側にとってかなりの時間と労力を要する。もし、この学校説明会における情報提供 が中学生の高校選択に役立っていないとしたら、実施にかかる労力は他に費やした方が効率 的であるし、内容に不足があれば、すぐにでも改善を図るべきである。 現在、中学生の98.2%が高校に進学する 2中、高校に進学する理由はさまざまであり 3 個人レベルでの高校選択の要素も多様である 4。高校が、中学生の情報ニーズに応じた情報 提供を行うことができれば、中学生はより適切に高校選択を行うことができるはずである。 そして、中学生がより適切に高校選択をすることができれば、今まで以上に意欲を持って高 校に入学することができるはずである。さらに、意欲を持って高校に入学する生徒が増える ことは、高校の教員にとっても、指導のやりやすさなど教育活動にもよい影響を及ぼすに違 いない。 現在の日本の学校教育制度の中で、高校への進学は中学生にとって大きな節目であり、私 立中学校 5や公立の中高一貫校 6等を受験した生徒を除き、多くの中学生にとって入学試験 は初めての経験 7となる。受験に向け、志望校を決定するための高校選択は、中学生自身の 将来にも影響を及ぼす重要な決定となる 8。 この中学生の高校選択に影響を与える、平成以降の国の主な動向として、まず平成5 年の 「高等学校教育の改革の推進に関する会議」の第3 次報告「高等学校の入学者選抜の改善に 1 埼玉県教育委員会(2011h)。 2 文部科学省「学校基本調査」より、全国の平成 23 年 3 月中学校卒業者の高等学校等進学率は 98.2%である。 3 日本進路指導協会(2006b)、p.74 より、進学を希望する理由の 1 位は「将来に役立つ知識・技術」、2 位 は「学校生活を楽しみたい」、3 位は「大学などに進学したい」である。 4 日本進路指導協会(2006b)、p.76 では、志望校選択の理由として 16 項目を示している。 5 埼玉県(2011)、第 1 表より、県内にある中学校総数 447 校中、国立が 1 校、私立が 24 校である。 6 埼玉県内にある公立中高一貫校のうち入学者選抜を行っているのは、併設型の伊奈学園中学校 1 校(1 学年80 人定員)のみである。 7 埼玉県(2011)、第 5 表より、県内にある中学校の 1 年生数の総計 65,670 人、公立中学校の 1 年生は 622,403 人、公立中高一貫校の 1 学年定員 80 名であることから、入学試験を実施しない中学校の在籍率は、 94.9%となる。 8 竹内(1995)、p.104 は、ある地域における四年制大学進学結果から「トップの高校に行かなければ偏差 値の高い学校への進学確率は大幅に減ること」を示している。

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ついて 9」がある。当時の文部省はこの報告に基づき、平成5 年 2 月 22 日に「高等学校入学 者選抜について 10」を通知し、受験機会の複数化や推薦入学を積極的に活用することなど入 学者選抜の改善を求めている。また、高校の情報提供に関する動向として、第15 期中央教 育議会答申 11や第16 期中央教育審議会答申 12がある。文部省はこれらの答申に基づき、平 成9 年 11 月 28 日に「高等学校入学者選抜について」を通知し、その中で進路指導の改善に 触れ、各高校の校風や教育内容、入学者選抜についての情報を、生徒や保護者に積極的に提 供することを求めている。 このような状況の中、現在の中学生はどのように高校を選択しているのであろうか。また、 高校は現在の中学生の高校選択に対応した情報を提供できているのであろうか。本研究は、 埼玉県を対象に、この「高校選択と情報提供に関する疑問」の追究を通して、中学生の高校 選択の現状を明らかにし、中学生の高校選択の現状に対応した高校の情報提供の在り方を示 すことを目指すものである。 本稿では、第1 章の「研究の概要」で本研究の問題意識について述べ、第 2 章の「中学生 の高校選択の現状」で、埼玉県の入学者選抜制度等の変更が中学生の高校選択に与えた影響 について、特に平成5 年の「偏差値追放」と平成 16 年の「学区撤廃」、平成 17 年の「推薦 入試制度の変更」を中心に、既存データから論じる。そして、第3 章の「高校選択と情報提 供の調査分析」で、普通科のある埼玉県立全日制高校および在籍する1 年生を対象に実施し た2 つの調査結果について分析し、中学生の高校選択の現状、中学生が必要とする情報と高 校が提供する情報との関係を論じる。最後に第4 章の「研究のまとめと政策提言」で、本研 究についてまとめと考察を行い、政策提言する。 なお、本稿では、原則として「高等学校全日制課程普通科」を「全日制普通科高校」と表 記し、類似の表現についてはこれに準じるものとした。 本研究が、これから高校に入学する中学生とこれから中学生を受け入れる高校双方の満足 度を少しでも上げることにつながれば幸いである。 9 高校の入学者選抜の改善についてのさまざまな提言がなされた第 14 期中央教育審議会の答申(平成 3 年 4 月)を踏まえ、より具体的な方策について検討を重ねていた「高等学校教育の改革の推進に関する会議」 は、平成5 年 1 月に「第 3 次報告―高等学校入学者選抜の改善について -」を取りまとめた。 10 この通知では、選抜方法の多様化、選抜尺度の多元化を図る方策を示すとともに、一部の私立高校で中 学校から提供された業者テストの偏差値等によってかなり早い時期に事実上の合否決定を行っているこ とに触れ、業者テストの偏差値を用いない入学者選抜の改善を求めている。 11 中央教育審議会(1996)では、「完全学校週 5 日制の下で、子どもたちに[ゆとり]を与え、[生きる力] を育成するためには、過度の受験競争の緩和が必要であり、この視点から、高等学校入学者選抜について、 今後一層改善が進められることが強く望まれる」と指摘している。 12 中央教育審議会(1997)で、高校の入学者選抜の改善等について具体的な提言がなされている。

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.研究の概要

1.1 問題意識 本節では、中学生がどのように高校を選択しているのか、また、高校は中学生の高校選択 に対応した情報を提供できているのかという「高校選択と情報提供に関する疑問」の問題意 識について、高校進学率、中途退学者理由別割合、中学生の進路状況の3 点から述べる。 まず、高校進学率から、問題意識について述べたい。図1 — 1 は、昭和 30 年から平成 23 年までの全国と埼玉県の高校進学率の推移を表したものである。 図 1 — 1 全国と埼玉県の高校進学率の推移(昭和 30 年から平成 23 年) 出典: 文部科学省「学校基本調査」 13および埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。 注 : 高校進学率は、中学校卒業者のうち、高校等の本科・別科、高等専門学校に進学 した者(就職進学した者を含み、浪人は含まない)の占める比率である。ただし、 昭和58 年までの高校進学率には、高校の通信制課程(本科)への進学者を除く。 全国の高校(高等専門学校を含む)進学率は、昭和49 年に 90%を越え、平成 23 年には 98.2%に達し、中学校卒業者のほぼ全員が高校に進学する状況が続いている。埼玉県の高校 進学率も、昭和48 年に 90%を越え、平成 23 年には 98.4%に達しており、全国の傾向とほ ぼ同様に推移している。 このように約40 年間にわたり高校進学率が 90%以上を維持していることは、現在の中学 生をはじめその親世代も含めて自分の周りのほとんどの人が高校に進学するという状況を生 んでいると言えよう。この高校全入の状況の下で、中学生はどのように高校選択を行ってい るのであろうか。これが第1 の問題意識である。 次に、中途退学者理由別割合から、「高校選択と情報提供に関する疑問」の問題意識につ 13 平成 23 年の数値には、岩手県、宮城県および福島県の中学校卒業者は含まれていない。 14 文部省(1992)では、積極的進路変更を理由とする中途退学への指導の在り方にも触れている。

1. 研究の概要

1.1 問題意識

本節では、中学生がどのように高校を選択しているのか、また

高校は中学生

の高校選

対応した必要な

情報を提供できているのかという「高校選択と情報提供に関する疑問」

の問題意識について、高校進学率、中途退学者理由別割合、中学生の進路状況の

3 点から

述べ

るたい

まず、高校進学率から、問題意識について述べ

たいる

。図

1-1 は、昭和 30 年から平成

23 年までの全国と埼玉県の高校進学率の推移を表したものである。

1-1 全国と埼玉県の高校進学率の推移(昭和 30 年から平成 23 年)

出典:文部科学省「学校基本調査」13および埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。 注 :高校進学率は、中学校卒業者のうち、高校等の本科・別科、高等専門学校に進学した者(就 職進学した者を含み、浪人は含まない)の占める比率である。ただし、昭和58 年までの高 校 進学率には、高校の通信制課程(本科)への進学者を除く。

全国の高校(高等専門学校を含む)進学率は、昭和

49 年に 90%を越え、平成 23 年には

98.2%に達し、中学校卒業者のほぼ全員が高校に進学する状況が続いている。埼玉県の高校

進学率も、昭和

48 年に 90%を越え、平成 23 年には 98.4%に達しており、全国の傾向とほ

ぼ同様に推移している。

このように約

40 年間にわたり高校進学率が 90%以上を維持していることは、現在の中学

生をはじめその親世代も含めて自分の周りのほとんどの人が高校に進学するという

風潮状

を生んでいると言えよう。この高校全入の

風潮状況

下中

で、中学生はどのように高校

選択を行っているのであろうか。これが第

1 一

の問題意識である。

次に、中途退学者理由別割合から、

「高校選択と情報提供に関する疑問」の問題意識につ

13

平成 23 年の数値には、岩手県、宮城県および福島県の中学校卒業者は含まれていない。

40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 昭 和 30 年 昭 和 32 年 昭 和 34 年 昭 和 36 年 昭 和 38 年 昭 和 40 年 昭 和 42 年 昭 和 44 年 昭 和 46 年 昭 和 48 年 昭 和 50 年 昭 和 52 年 昭 和 54 年 昭 和 56 年 昭 和 58 年 昭 和 60 年 昭 和 62 年 平 成 1 年 平 成 3 年 平 成 5 年 平 成 7 年 平 成 9 年 平 成 11 年 平 成 13 年 平 成 15 年 平 成 17 年 平 成 19 年 平 成 21 年 平 成 23 年 全国 埼玉県 ����� 中央揃え

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いて述べる。中途退学については、進路選択の一つとして考えることもできる 14が、埼玉県 では、中途退学の防止を重要な施策として位置づけ、さまざまな取組を行っている 15。 図1 — 2 は、平成 21 年度の埼玉県公立高校における、中途退学者の理由別割合を表したも のである。 図 1 — 2 平成 21 年度 中途退学者の理由別割合(埼玉県公立高校)       出典: 埼玉県教育委員会(2011a)、p.8 より抜粋。 中途退学の理由で最も多いのは、「学校生活・学業不適応」の52.7%である。報告書 16 よると、「学校生活 ・ 学業不適応」とは 、「当該学校 、 高校生活または授業に対する熱意 、 興味 、 関心 、 適応等の不足や喪失を原因とした退学」のことであるが 、 細かくは「もとも と高校生活に熱意がない」、「授業に興味がわかない」、「人間関係がうまく保てない」、 「学校の雰囲気があわない」、「その他」に分類され、「もともと高校生活に熱意がない」が 30.4%と最も多い。 退学理由の5 割強が「学校生活・学業不適応」であり、この原因として、中学生自身の進 15 埼玉県ほか(2009)に、「基本目標Ⅱ豊かな心と健やかな体の育成」の施策として「いじめ・不登校・高 校中途退学の防止」を掲げている。また、埼玉県(2007)」では 、1 年生の中途退学率および中途退学者 数を 、 平成23 年度までにそれぞれ 3.4%以下 、1、300 人以下にするという数値目標を掲げ、対策に取り 組んでいる 。 16 埼玉県教育委員会(2011a)、pp.9—10。 17 文部省(1992)には、高校中途退学の原因として「目的意識や学習意欲が不十分なまま高等学校に入学 する生徒がいる」ことや「高等学校の教育方針・教育内容や学科の特色等の理解を図る指導の不足」等 の指摘がある。

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-422 - 学意欲の低さや中学校の進学指導の在り方等 17が考えられるが、中学生が高校選択をするに あたり、十分な情報を得られないために「学校生活・学業不適応」が生じている可能性も否 めない。中途退学者等を対象にしたある調査 18によると、「みんなが行くから」を高校進学 理由にした生徒が27.4%という結果 19である。また、先行研究から、高校進学動機が学校適 応や中途退学と関連することはすでに指摘されており 20、現在も高校入学と入学後の学校適 応の関連について研究が進められている 21。このように高校選択が中途退学と関係のあるこ とから、高校の情報提供の在り方、すなわち高校が中学生の高校選択の現状に対応した情報 を提供できているのかという疑問が生じる、これが第2 の問題意識である。 最後に、中学生の進路状況から、「高校選択と情報提供に関する疑問」の問題意識につい て述べる。表1 — 1 は、平成 19 年から平成 23 年の埼玉県内の中学生(県内国・公・私立中 学校または特別支援学校中学部を卒業した者)の進路状況の推移を表したものである。5 年 間の県内中学校の卒業生の進路状況は、卒業生総数が平均で約66 千人、卒業生の約 98%が 高校等進学者で、約93%が全日制高校に進学している。また、卒業生の約 85%が県内の全 日制高校に進学し、約60%が県内の公立全日制高校に進学している。このことから、埼玉 県内の中学校卒業者に対し後期中等教育を実施する上で、埼玉県内の公立全日制高校が担う 役割の大きさを示している。 表 1 — 1 埼玉県内中学校卒業者の進路状況の推移(平成 19 年から平成 23 年)  出典: 埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。  注:上段は実人数(人)、下段は卒業者総数に対する構成比(%) 埼玉県の公立高校入学者選抜は、埼玉県教育委員会(2010d)によると、前期募集と後期 募集の2 回の試験日を設定し、すべての公立高校が同一日で試験を実施するため、前期募集 と後期募集で最大2 校しか受験できない。また、前期募集で合格した受験生は、後期募集に 出典:埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。 注 :上段は実人数(人)、下段は卒業者総数に対する構成比(%) 埼玉県の公立高校入学者選抜は、埼玉県教育委員会(2010d)によると、前期募集と後 期募集の 2 回の試験日を設定し、すべての公立高校が同一日で試験を実施するため、前期 募集と後期募集で最大 2 校しか受験できない。また、前期募集で合格した受験生は、後期 募集に出願できないため 1 校の受験で終わってしまう。入試日がそれぞれに違い、複数回 の受験機会のある私立高校とは、中学生の高校選択の意味合いも違うはずである。 また、埼玉県の公立高校の学科は、普通科、専門科目(農業、工業、商業、家庭、看護 等)を中心とした専門学科、普通科と専門学科が融合した総合学科の3 つからなっている22。 専門学科や総合学科の高校は、その科目の違いから、教育活動や進路状況において明確な 特色をもっており、普通科の高校にはない、各高校の特色を打ち出した情報提供を行うこ とができる。 中学生の約60%が進学し、志望校を絞らなければならない公立全日制高校への進学を第 1 一志望とする中学生のうち、特色がわかりづらい公立全日制普通科高校23に進学する中学 生はどのように高校選択を行っているのであろうか、また、公立全日制普通科高校は、、中 22 埼玉県教育委員会(2011c)、第 8 表。 23 埼玉県教育委員会(2011j)、第 1 表より、平成 23 年度の埼玉県内の公立全日制高校は 152 校あり、そのうち公立全日制普通科高校は 111 校である。 県外 就職者 無業者等 平 成 計 国立 公立 私立 国公私立計 計 65,767 64,362 61,824 55,702 149 39,625 15,928 6,122 1,061 935 86 456 196 540 663 100.0 97.9 94.0 84.7 0.2 60.3 24.2 9.3 1.6 1.4 0.1 0.7 0.3 0.8 1.0 64,688 63,381 60,574 54,711 154 39,003 15,554 5,863 1,319 937 77 474 185 470 651 100.0 98.0 93.6 84.6 0.2 60.3 24.0 9.1 2.0 1.4 0.1 0.7 0.3 0.7 1.0 65,421 64,272 61,147 55,355 145 39,510 15,700 5,792 1,451 1,076 85 513 143 307 696 100.0 98.2 93.5 84.6 0.2 60.4 24.0 8.9 2.2 1.6 0.1 0.8 0.2 0.5 1.1 67,783 66,534 62,701 57,184 146 40,775 16,263 5,517 1,834 1,353 97 549 157 327 761 100.0 98.2 92.5 84.4 0.2 60.2 24.0 8.1 2.7 2.0 0.1 0.8 0.2 0.5 1.1 64,231 63,174 59,208 54,277 151 38,676 15,450 4,931 1,789 1,501 84 592 138 308 607 100.0 98.4 92.2 84.5 0.2 60.2 24.1 7.7 2.8 2.3 0.1 0.9 0.2 0.5 0.9 21年3月 22年3月 23年3月 進学者 計 全日制 計 県  内 19年3月 20年3月 卒業者 総数    高  等  学  校  等  進  学  者 専 修 学 校 ・ 各 種 学 校 ・ 公 共 職 業 能 力 開 発 施 設 等 進 学 者 ・ 入 学 者 全 日 制 高 等 学 校 定時制 高等学 校 通信制 高等学校 高等 専門 学校 特別 支援 学校      上段:実数(人)、下段:卒業者総数に対する構成比(%) 県外 就職者 無業者等 平 成 計 国立 公立 私立 国公私立計 計 65,767 64,362 61,824 55,702 149 39,625 15,928 6,122 1,061 935 86 456 196 540 663 100.0 97.9 94.0 84.7 0.2 60.3 24.2 9.3 1.6 1.4 0.1 0.7 0.3 0.8 1.0 64,688 63,381 60,574 54,711 154 39,003 15,554 5,863 1,319 937 77 474 185 470 651 100.0 98.0 93.6 84.6 0.2 60.3 24.0 9.1 2.0 1.4 0.1 0.7 0.3 0.7 1.0 65,421 64,272 61,147 55,355 145 39,510 15,700 5,792 1,451 1,076 85 513 143 307 696 100.0 98.2 93.5 84.6 0.2 60.4 24.0 8.9 2.2 1.6 0.1 0.8 0.2 0.5 1.1 67,783 66,534 62,701 57,184 146 40,775 16,263 5,517 1,834 1,353 97 549 157 327 761 100.0 98.2 92.5 84.4 0.2 60.2 24.0 8.1 2.7 2.0 0.1 0.8 0.2 0.5 1.1 64,231 63,174 59,208 54,277 151 38,676 15,450 4,931 1,789 1,501 84 592 138 308 607 100.0 98.4 92.2 84.5 0.2 60.2 24.1 7.7 2.8 2.3 0.1 0.9 0.2 0.5 0.9 21年3月 22年3月 23年3月 進学者 計 全日制 計 県  内 19年3月 20年3月 卒業者 総数    高  等  学  校  等  進  学  者 専 修 学 校 ・ 各 種 学 校 ・ 公 共 職 業 能 力 開 発 施 設 等 進 学 者 ・ 入 学 者 全 日 制 高 等 学 校 定時制 高等学 校 通信制 高等学校 高等 専門 学校 特別 支援 学校 ����: 行間 : 1 行 ����: インデント : 最初の行 : 1 字 18 内閣府政策統括官(2009)。 19 内閣府政策統括官(2009)、p.11。 20 那須(1991)、p.105 は、中途退学の現状として「中学校での進路選択になおざりな部分があったこと」 を指摘している。 21 例えば、永作ほか(2003)がある。

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出願できないため1 校の受験で終わってしまう。入試日がそれぞれに違い、複数回の受験機 会のある私立高校とは、中学生の高校選択の意味合いも違うはずである。 また、埼玉県の公立高校の学科は、普通科、専門科目(農業、工業、商業、家庭、看護等) を中心とした専門学科、普通科と専門学科が融合した総合学科の3 つからなっている 22。専 門学科や総合学科の高校は、その科目の違いから、教育活動や進路状況において明確な特色 をもっており、普通科の高校にはない、各高校の特色を打ち出した情報提供を行うことがで きる。 中学生の約60%が進学し、志望校を絞らなければならない公立全日制高校への進学を第 1 志望とする中学生のうち、特色がわかりづらい公立全日制普通科高校 23に進学する中学生は どのように高校選択を行っているのであろうか、また、公立全日制普通科高校は、中学生の 高校選択のための情報をどうとらえ、どのように提供しているのであろうか。これが第3 の 問題意識である。 1.2 先行研究 中学生の高校選択については、さまざまな面から研究や調査が行われている。その中では、 高校選択または進路選択の二つの語が用いられているが、現在の高校進学率の状況から、就 職を選択の対象として検討しているものは少なく、二つの語は同義として使用されている例 が多い。したがって、ここでは高校選択という語を用いることにする。 中学生の高校選択に関する研究として、高校選択過程での中学生の意識、高校選択時の要 因、高校入試制度が中学生の高校選択へ与える影響などについての研究、また、高校選択能 力そのものや高校進学動機尺度についての研究がある。 高校選択過程での中学生の意識について論じたものに、耳塚(1986)、苅谷(1986)、藤田 (1996)、森永(2004)がある。耳塚(1986)は、「選抜装置」としての中学校の役割を明ら かにするために、8 小中学校の児童生徒 1,195 人を対象に 2 年間にわたる継続的な調査を行 い、中学生は「学業成績」を基準に生徒集団内部での成績ヒエラルヒーの中に自らを位置づ け、そこでの位置を反映した進路意識を形成することを論じている。苅谷(1986)は、高校 入学前の中学生が「自己選抜」により将来の教育期待を制約することを究明するために、耳 塚(1986)の 8 小中学校を対象としたパネル調査のデータを用い、より高い偏差値ランクの 高校に進学することはより高い教育期待につながること、数値として示された学業達成とい う基準にもとづく序列に占める相対的な位置が中学生の将来の成功を予示する基準とみなさ れることを述べている。藤田(1996)は、東京の選抜システムを事例に中学生の受験競争意 識を探るために、中学3 年生に聞き取り調査および質問紙調査を実施し、中学生は、受験競 争をクラスや学校の友達といった具体的な敵対的競争ではなく、抽象的な偏差値と自らの関 22 埼玉県教育委員会(2011c)、第 8 表。 23 埼玉県教育委員会(2011j)、第 1 表より、平成 23 年度の埼玉県内の公立全日制高校は 152 校あり、その うち公立全日制普通科高校は111 校である。

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係で生起する「個人化された」競争として捉えていることを述べている。森永(2004)は、 進路プロセスにおける中学生の意識構造を探るために、中学生6 人に 1 年間の聞き取り調査 を行い、中学生が自己の偏差値および高校ランクは把握しないまま受験に臨んでいること、 通常の勉強と受験との間に連続性がないことを明らかにしている。しかし、森永(2004)の 偏差値を把握しないままという前提は対象が6 人ということもあり、全体の傾向とは言い難 い。耳塚(1986)、苅谷(1986)、藤田(1996)は共通して、学業成績や偏差値などにより、 中学生が高校選択をする以前に自らの高校選択の範疇を規定していることを論じている。 中学生の高校選択時の要因について論じたものに、久世ほか(1981)、白石(2003)、山本 (2011)がある。久世(1981)は、中学生の高校選択の要因を探るために、全日制普通科高 校に進学希望のある中学3 年生 870 名に調査を実施し、高校選択において重視する要因が自 分の学力と先生や家族の意見であることを明らかにしている。ここでの学力とは、日ごろの 学業成績と模試の成績のことである。白石(2003)は、通学区域(学区)の在り方と高校選 択の要因との関係を探るために、すでに高校を卒業した20 代の男女 100 名に聞き取り調査 を行い、高校選択の要因は学力、友人関係、地元が大きく、高校選択に困難な面となること は学力面、通学面であることを明らかにし、通学区の拡大は学力による一層の序列化が繋が り、遠方までの通学の負担など、高校選択上の困難性が増加する可能性を述べている。久世 ほか(1981)、白石(2003)はいずれも高校選択の要因に学力を挙げている。山本(2011)は、 キャリア教育の視点から高校選択時の進路情報ニーズの構造、学科による異同、体験入学会 の効果を究明するため、7 校 6 学科に所属する公立高校 3 年生 274 名に調査を実施し、専門 学科の進路情報ニーズは、授業と進路が顕著であること、進路情報を吟味するためには4 ~ 5 校程度の体験入学会に参加する必要があることを明らかにした。しかしながら、明らかに した進路情報ニーズの傾向が、各学科の傾向であるのか、各高校の傾向であるのかは明らか にできていない。また、体験入学会における説明内容との関係にまでは踏み込んでいない。 高校入試制度の中学生の高校選択への影響について論じたものには、小川(1996)、中澤 (2003)、松森(2006)がある。小川(1996)は、埼玉県の平成 6 年の高校入試制度改革により、 業者テスト追放が私立の早期生徒確保に対する抑制という目標をある程度実現したこと、観 点別評価や推薦入試の導入が学力最上位層の中学生に公立選択を敬遠させることになったこ とを述べている。中澤(2003)は、推薦入試制度の中で中学生が何を重視して志望校を選ぶ かを探るために、埼玉県内の高校2 年生 913 名を対象に調査を実施し、推薦入学で目的意識 が明確な生徒を獲得できているかの判断は留保せざるを得ないこと、学科の特性などを打ち 出しにくい普通科についてはさらに詳細な検討が必要であることを示している。松森(2006) は、長崎県の高校入試制度改革が受験生にどのような影響を与えたかを究明するために、5 公立高校の1 年生に調査を行い、制度変更は好意的に受け入れられていること、「校風が好 き」という理由が高校選択に大きな意味をもつことを明らかにしている。小川(1996)、中 澤(2003)、松森(2006)はいずれも、入試制度が中学生の高校選択に影響を与えているこ とを論じており、中澤(2003)は、研究の対象として普通科高校を検討する必要があること

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を指摘している。 その他、中学生の進路選択能力、進路選択自己効力や高校進学動機尺度に関する論文とし て、長谷川(1999)、永作ほか(2003)、永作ほか(2005)、富永(2008)、富永(2009)があ る。長谷川(1999)は、進路選択自己能力と self-efficacy および家族に関する自尊感情との 相関を明らかにしている。永作ほか(2003)は、自己決定理論 24に基づいた自律的高校進学 動機尺度を作成し、中学生の進路指導や高校生の学校不適応に有用な知見が得られることを 期待している。永作ほか(2005)では、高校へ行くことの価値を自己決定的な価値として内 在化できるように、中学校は指導・援助を行うことが重要であると結論づけている。「進路 選択自己効力は『個人が進路を選択するにあたって必要な課題を成功裡に収めることができ る信念』と定義されている」とした富永(2009)は、進路選択能力から進路選択自己効力を 媒介して進路選択行動に至るという構造が中学・高校・大学で一定していることを示し、富 永(2008)では、それまでの進路選択自己効力と進路選択に関わる要因との関連を検討した 研究についてまとめている。 中学生の高校選択に関する調査については、各都道府県単位で行われているものや企業が 行っているものもあるが、ここでは、文部科学省委託による全国的な調査について触れる。 平成16 年、17 年度文部科学省委託事業「中学校および高等学校における進路指導に関する 総合的実態調査 25」は、進路指導に関するさまざま調査結果を掲載しているが、その中の一 つ「志望校選択の理由」(3 つまで回答)では、1 位が「学力に合っているから」で 37.9%、 2 位が「個性を伸ばすことができる」で 33.5%である。また、「高等学校に入学した動機」(す べて回答)では、普通科の1 位が「学力に合っているから」の 59.5%に対して、専門学科の 1 位は「就職に有利だから」の 50.0%である。ここでも普通科における中学生の高校選択の 要因として学力の影響が大きい。 1.3 研究の目的と方法 「1.1 問題意識」から、「高校選択と情報提供に関する疑問」を解明することにより、中 学生の高校選択という重要な決定過程の特徴を探りだし、中学生の高校選択の現状を明らか にすることは有意義であると考えた。しかし、これらのうち、高校選択における意識や高校 選択の要因分析は、「1.2 先行研究」でかなり研究されている。したがって、本研究では、 先行研究であまり扱われていない、公立全日制普通科高校に進学した生徒の高校選択の現状 を明らかにし、その現状と公立全日制普通科高校の情報提供の実態との比較を通して、高校 の情報提供の在り方を探ることに重点を置くこととした。先行研究との主な相違点は、対象 を公立全日制普通科高校に限定したこと、中学生の高校選択の現状と県立全日制普通科高校 が提供する情報との比較を行うことにある。 24 self-determination Theory:SDT。 25 日本進路指導協会が実施した調査結果は、日本進路指導協会(2006a)、日本進路指導協会(2006b)に 収められている。

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以上から、中学生の高校選択に対応した情報を高校は提供すべきであるとの考えに立ち、 本研究の目的を以下とし、対象を埼玉県の公立全日制普通科高校と在籍する1 年生とした。 本研究の目的 「中学生の高校選択の現状と高校の情報提供の実態について分析することにより、中学生の 高校選択の現状に対応した高校の情報提供の在り方を明らかにすること。」 研究の方法については、(1)既存データによる分析と(2)調査結果による分析の 2 つとした。 なお、統計分析にはエクセルおよびSPSS 26を使用し、アンケート作成および集計処理には SQS 27を使用した。 (1)既存データによる分析 既存データを利用し、入学者選抜制度等の変更による中学生の高校選択への影響について 分析を試み、第2 章で「中学生の高校選択の現状」として論じた。 (2)調査結果による分析 事前調査および本調査を、ア、イのとおり実施し、調査結果から、中学生の高校選択の現 状と高校の情報提供の実態および各高校の特徴とを関連付けながら分析を試み、第3 章で「高 校選択と情報提供の調査分析」として論じた。 ア 事前調査(平成23 年 10 月 21 日から 28 日に実施) 埼玉県立全日制普通科高校10 校を対象に「学校の情報提供に関する事前調査」および「高 校選択に関する事前調査」を依頼し、10 校と在籍する 1 年生 57 人(男 30 人・女 27 人)か ら回答を得た。調査項目については、先行研究や調査を参考に作成した。 イ 本調査(平成23 年 11 月 7 日から 25 日に実施) 事前調査の結果から調査項目の精選、追加を行い、埼玉県立全日制普通科高校104 校のう ち、1 年生が在籍する 100 校を対象に「学校の情報提供に関する調査」を、また、各高校に 在籍する1 年生 1 クラス(40 名程度)を対象に、「高校選択に関する 1 年生振り返り調査」 を依頼し、83 校、2,989 人(男 1,420 人・女 1,569 人)から回答を得た。 26 統計解析ソフト。 27 アンケート集計のためのオープンソースソフトウェア、http://sqs2.net/。

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.中学生の高校選択の現状

本章では、中学生が行う高校選択の現状について、埼玉県の公立高校入学者選抜制度や関 連する制度の変更が与えた影響を中心に述べる。 2.1 県公立高校入学者選抜制度の概要 埼玉県の公立高校入学者選抜制度(以下、「入学者選抜制度」という)については、国や 県の政策の影響を受けたり、入学者選抜制度自体に改善が求められたりし、変更が行われて きた。入学者選抜制度は、公立高校への進学を考えている中学生の高校選択に大きく影響を 及ぼすものである。本節では、入学者選抜制度および関連する制度について、現行制度とそ の変遷について、整理する。 2.1.1 現行の入学者選抜制度 まず、現行の入学者選抜制度について、平成23 年度の公立全日制高校を例に確認する。 平成23 年度埼玉県公立高校入学者選抜の日程 28は、次のとおりである。 平成23 年度埼玉県公立高校入学者選抜の日程 1 前期募集  平成23 年   2 月 7 日(月)8 日(火)…入学願書、調査書、学習の記録等一覧表等提出   2 月 9 日(水)10 日(木)…志願先変更期間   2 月 16 日(水)…学力検査   2 月 17 日(木)…実技検査(芸術系学科等)、面接(一部の学校)   2 月 24 日(木)…入学許可候補者発表   2 月 25 日(金)…入学手続に関する確認書提出締切 2 後期募集  平成23 年   2 月 28 日(月)3 月 1 日(火)…入学願書、調査書、学習の記録等一覧表等提出   3 月 2 日(水)…志願先変更期間   3 月 4 日(金)…学力検査等   3 月 10 日(木)…入学許可候補者発表 次に、入学制選抜制度の概要について、「平成23 年度入学者選抜リーフレット 29」から5 点にまとめる。 (1)通学区域(学区)はなく、全県から受験可能である。 (2)前期募集、後期募集の 2 回の募集があり、前期募集では 5 教科(国・社・数・理・英)、 後期募集では3 教科(国・数・英)の学力検査が課され、加えて面接や実技検査を実施す る高校がある。 28 埼玉県教育委員会(2010c)。 29 埼玉県教育委員会(2010e)。

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(3)前期募集の人員の割合は、普通科が募集人員の 50%から 75%、専門学科等が募集人員 の50%から 100%の範囲で各高校が定め、後期募集の人員は残りの人員となる。 (4)選抜方法は、学力検査の得点、調査書の得点および実技検査(または面接)の得点に各 高校で定めた定数をそれぞれ乗じて得られる得点の合計に基づいて選抜する。 (5)各高校の定数や得点の重みの付け方については、「平成 23 年度埼玉県公立高等学校入学 者選抜における各高等学校の選抜基準 30」(平成22 年 7 月)に示されている。 中学生の高校選択の視点から入学者選抜制度をみると、高校選択の対象は県内のすべての 高校であること、高校選択の時期は遅くとも2 月上旬までに志望校を決定する必要があるこ と、各高校の選抜基準が異なることに留意して、中学生は高校選択を行うことになる。 2.1.2 入学者選抜制度等の変遷 次に、埼玉県の公立高校入学者選抜制度等について、主な変遷を以下に示す 31。 埼玉県公立高校入学者選抜制度等の主な変遷 1 推薦入試の実施(昭和 54 年から平成 16 年まで)※中学校長の推薦による  ・昭和54 年から 農業科で実施  ・昭和59 年から 普通科のある高校 1 校で実施  ・平成元年から 普通科のコースで実施  ・平成6 年から 普通科のあるすべての高校で実施  ・平成7 年から 総合学科で実施 2 推薦入試の廃止と受験機会の変更  ・平成17 年から  「推薦入試」「一般入試」を改め、「前期募集」「後期募集」にし、「前 期募集」を中学校長の推薦の要らない自己推薦に変更  ・平成22 年から 「前期募集」でも学力検査を実施  ・平成24 年から 「前期募集」と「後期募集」に募集定員を分けず 1 回の募集に変更 3 面接の実施  ・昭和62 年から 志願者全員を対象に実施  ・平成22 年から 各高校の判断により実施 4 入学者選抜に関する情報の公表  ・平成6 年から 「入学者選抜要領」の公表  ・平成22 年から 「各高等学校の選抜基準」の公表 5 調査書の「学習の記録」の改訂  ・平成12 年から 中学校の指導要録の変更に伴い、相対評価から絶対評価に変更 6 「学区撤廃」  ・平成16 年から 公立全日制普通科高校の通学区域を撤廃 7 業者テストと偏差値の禁止  ・平成5 年から 中学校から業者テストと偏差値を追放 30 平成 22 年度入学者選抜から、各高校が定めた選抜基準を埼玉県教育委員会がとりまとめ、埼玉県教育委 員会HP で公開している。 31 埼玉県教育委員会への聞き取り調査。

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それぞれの変更は、当然に中学生の高校選択に何らかの影響を与えたと考えられるが、平 成以降の主な変遷のうち、特に現在でもその制度が維持され、公立高校進学を希望する多く の中学生に関係している、平成5 年のいわゆる「偏差値追放 32」と平成16 年の「学区撤廃」、 平成17 年の「推薦入試制度の変更」について、中学生の高校選択との関係から検討する。 2.2 偏差値追放の現在 大学入試では当然のように使用される偏差値だが、現在の高校入試においては、その状況 は異なる。埼玉県では、平成5 年の「偏差値追放」以前には中学校を会場に業者テストを実 施し、中学1 年、中学 2 年で年に 1 回から 3 回、中学 3 年で年に 5 回から 7 回程度実施して いた 33。業者テストの結果に示される偏差値を、中学生も保護者も高校選択の参考として用 い、中学校でも偏差値を参考に進路指導をしていた。「偏差値追放」に至る経緯については、 本研究に直接かかわらないため詳細には触れないが、その経緯は、竹内(1993)、小川(2000)、 寺脇(2008)、中澤(2004)に詳しい。 当時の文部省は、「偏差値追放」に関わる通知「高等学校入学者選抜について 34」を平成 5 年 2 月 22 日付けで発出している。通知内容のうち、「偏差値追放」に関する部分は、「3  業者テストの偏差値を用いない入学者選抜の改善について」であり、特に「業者テストによ る偏差値等に依存した進路指導は行わないこと」、「中学校は業者テストの実施に関与するこ とは厳に慎むべき」であることが示され、「平成6 年度入学者選抜から直ちに改善すること」 を求めている。平成6 年度入学者選抜からの改善は、実質的には、平成 5 年に中学 3 年生に なった生徒がが対象になるもので、平成5 年から中学校の進路指導における偏差値の使用が 禁止されることを意味する。埼玉県でも、この通知により、平成5 年以降現在まで、中学校 を会場にした業者テストの実施と偏差値を使用した進路指導は行われていない 35。 本節では、平成5 年の「偏差値追放」が現在どのような状況を生んでいるのかを明らかに し、中学生の高校選択への影響を検討する。 32 中学校の進路指導から業者テストを排除し、偏差値の使用を禁じた一連の動きをいう。 33 埼玉県教育委員会への聞き取り調査より、実施回数は各中学校の判断により決定されていたため、実施 回数については中学校ごとにばらつきがあった。 34 文部省(1993)より、通知内容は、「1 公立高等学校の入学者選抜について」、「2 私立高等学校の入学 者選抜の改善について」、「3 業者テストの偏差値を用いない入学者選抜の改善について」、「中学校にお ける進路指導の充実について」等からなっている。 35 埼玉県教育委員会への聞き取り調査。

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2.2.1 中途退学率の変化 はじめに、中途退学率の変化から検討する。高校進学動機が高校入学後の学校適応や中途 退学と関連していることは、例えば、那須(1991)などで指摘されている。また、「1.1 問 題意識」で述べたように、中途退学の最も多い理由は「学校生活・学業不適応」であり、高 校選択が「学校生活・学業不適応」に関係することから、中途退学と「偏差値追放」の関係 について考察する。 図2 — 1 は、昭和 57 年度から平成 21 年度の全国と埼玉県の公立高校の中途退学率の推移 を表したものである。埼玉県で最も中途退学率の高かった平成13 年度の公立高校の退学者 数は、4,637 人で中途退学率は 3.3%(全国 70,528 人、2.5%)、公立全日制高校の退学者数は 3,888 人で中途退学率は2.9%(全国 53,922 人、2.0%)である 36。中途退学率の推移の特徴をあげ てみると、全国と埼玉県はともに公立高校、公立全日制高校の中途退学率が、平成6 年度を 境に上昇し、ピークを迎えたのち下降していくことがわかる。平成6 年に高校進学したのは、 最初に「偏差値追放」された学年の生徒である。 図 2 — 1 全国と埼玉県の公立高校中途退学率の推移(昭和 57 年度から平成 21 年度)     出典: 埼玉県教育委員会(2011a)より筆者作成。     注 : 表中の「年」は年度を表す。 しかし、埼玉県の中途退学率が平成6 年以降上昇する一因を「偏差値追放」の影響に求め るには、2 つの疑問が生じる。1 つ目は、退学者数は高校 1 年から 3 年までの総数であり、「偏 差値追放」学年の影響がすぐに出るはずはないという疑問であり、2 つ目は、全国も平成 6 以降、同様の変動が生じるはずであるのに、全国と比較し埼玉県の変動が大きいのはなぜか という疑問である。 1 つ目の疑問、「偏差値追放」学年の影響であるが、埼玉県の退学者が全国に比して 1 年 36 埼玉県教育委員会(2011a)。 - 15 - 2.2.1 中途退学率の変化 はじめに、中途退学率の変化から検討する。高校進学動機が高校入学後の学校適応や中 途退学と関連していることは、例えば、那須(1991)などで指摘されている。また、「1.1 問題意識」で述べたように、中途退学の最も多い理由は「学校生活・学業不適応」であり、 高校選択が「学校生活・学業不適応」に関係することから、中途退学と「偏差値追放」の 関係について考察する。 図2-1 は、昭和 57 年度から平成 21 年度の全国と埼玉県の公立高校の中途退学率の推移 を表したものである。埼玉県で最も中途退学率の高かった平成13 年度の公立高校の退学者 数は、4,637 人で中途退学率は 3.3%(全国 70,528 人、2.5%)、公立全日制高校の退学者数 は3,888 人で中途退学率は 2.9%(全国 53,922 人、2.0%)である36。中途退学率の推移の 特徴をあげてみると、全国と埼玉県はともに公立高校、公立全日制高校の中途退学率が、 平成6 年度を境に上昇し、ピークを迎えたのち下降していくことがわかる。平成 6 年に高 校進学したのは、最初に「偏差値追放」された学年の生徒である。 図2-1 全国と埼玉県の公立高校中途退学率の推移(昭和 57 年度から平成 21 年度) 出典:埼玉県教育委員会(2011a)より筆者作成。 注 :表中の「年」は年度を表す。 しかし、埼玉県の中途退学率が平成 6 年以降上昇する一因を「偏差値追放」の影響に求 めるには、2 つの疑問が生じる。1 つ目は、退学者数は高校 1 年から 3 年までの総数であり、 「偏差値追放」学年の影響がすぐに出るはずはないという疑問であり、2 つ目は、全国も平 成 6 以降、同様の変動が生じるはずであるのに、全国と比較し埼玉県の変動が大きいのは なぜかという疑問である。 1 つ目の疑問、「偏差値追放」学年の影響であるが、埼玉県の退学者が全国に比して 1 年 36 埼玉県教育委員会(2011a)。 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 昭 和 57 年 昭 和 58 年 昭 和 59 年 昭 和 60 年 昭 和 61 年 昭 和 62 年 昭 和 63 年 平 成 1 年 平 成 2 年 平 成 3 年 平 成 4 年 平 成 5 年 平 成 6 年 平 成 7 年 平 成 8 年 平 成 9 年 平 成 10 年 平 成 11 年 平 成 12 年 平 成 13 年 平 成 14 年 平 成 15 年 平 成 16 年 平 成 17 年 平 成 18 年 平 成 19 年 平 成 20 年 平 成 21 年 全国公立中途退学率 全国公立全日制中途退学率 埼玉県公立中途退学率 埼玉県公立全日制中途退学率 ��変�� 中央揃え

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生に多いという現状から明らかにしたい。図2 — 2 は、平成 21 年度の埼玉県と全国の公立高 校における中途退学者の学年別中途退学者構成比である。データの制約から、平成21 年度 のデータで検討するが、学年別中途退学者の割合は、全日制と定時制を合わせて、1 年生が 56.9%、2 年生が 18.7%、3 年生が 6.5%、4 年生が 0.6%、単位制の生徒が 17.3%となってい る。これらのことから、埼玉県における公立高校の中途退学者の約6 割が 1 年生で退学して おり、「偏差値追放」学年の影響が出やすかったと考えられる。 図 2 — 2 平成 21 年度 埼玉県と全国の公立高校における中途退学者の          学年別中途退学者構成比       出典 : 埼玉県教育委員会(2011a)、p.6 より抜粋。 2 つ目の疑問、埼玉県の変動が大きい理由については、「偏差値追放」への対応における 埼玉県と他の都道府県の違いが考えられる。この平成5 年の「偏差値追放」の発端は、平成 4 年 10 月に当時の埼玉県教育委員会教育長が、「埼玉県では中学校での業者テストを廃止し、 偏差値を使った進路指導をやめる 37」と宣言したことに始まる。したがって、他の都道府県 に比べ「偏差値追放」への対応が進んでいたことが予想される。全国の業者テスト実施状況 については、平成4 年 12 月の衆議院文教委員会における、昭和 61 年当時「学校が関与して いる業者テストが行われているところが三十七都道府県あった」という答弁 38がある。また、 平成5 年の新聞記事 39によると、「校長会などが中心になって実施する公的テストが全国各 地で浮上している。(中略)県段階で新設や拡充の動きがはっきりしているのは八県。これに、 従来から実施している地域を加えると十四道県にのぼる。」とある。他の都道府県では、も ともと業者テストを導入していなかったり、公的テストを実施したりしていることから「偏 差値追放」の影響が少なかったために、埼玉県に変動の差が生じたと考えられる。 1年生 1,508人 56.9% 2年生 496人 18.7% 3年生 173人 6.5% 4年生 16人 0.6% 4年生 358人 0.9% 単位制 458人 17.3% 1年生 17,660人 44.8% 2年生 9,781人 24.8% 3年生 3,315人 8.4% 単位制 8,298人 21.1% ᇸ⋢┴බ❧ ඲ᅜබ❧ 37 寺脇研(2008)、p.208。 38 平成 4 年 12 月 8 日の衆議院文教委員会で輿石東委員の質問に対する野崎弘政府委員の答弁(国会会議録 検索システムによる)。 39 朝日新聞(朝刊)、1993 年 5 月 22 日。

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2.2.2 志望校決定率の変化 前項で、平成6 年の中途退学率上昇の一因として、平成 5 年の「偏差値追放」の影響を検 討してきたが、年次系列での詳細な分析をするには、前項で述べた1 つ目の疑問、退学者数 は高校1 年から 3 年までの総数であり「偏差値追放」学年の影響がすぐに出るはずはないと いう点で、やや明確さに欠ける面がある。したがって、年次系列での変化がはっきりする志 望校決定率の変化との関係から「偏差値追放」の影響について述べる。 図 2 — 3 埼玉県内中学生の高校等への志望校決定率の推移(昭和 45 年から平成 23 年)   出典 : 埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。   注 : 「志望校決定率①」は 10 月 1 日現在、「志望校決定率②」は 1 月 10 日現在(ただし、平成 17 年以降 は12 月 15 日現在)のもの。 図2 — 3 は、昭和 45 年から平成 23 年の埼玉県内中学生の高校等 40への志望校決定率の推 移を表したものである。埼玉県では、県内の中学校3 年生の 10 月 1 日現在と 1 月 10 日(平 成17 年以降は 12 月 15 日)現在における進路希望調査 41を実施している。この調査におけ る高校の進学希望率とは、高校進学を希望しかつ志望校が決まっている中学生数を県内中学 卒業予定者数で除したものであるが、ここでは、わかりやすくするために、進学希望率を「志 望校決定率」と表現し、該当の中学3 年生が高校に入学する年を基準に作成した。 10 月 1 日現在での「志望校決定率①」と 1 月 10 日現在での「志望校決定率②」に着目す ると、平成5 年入学生以前は、「志望校決定率①」と「志望校決定率②」が多少の上下をし ながらも同様の変化を示しているが、平成6 年入学生以降は「志望校決定率①」が下降、「志 望校決定率②」が上昇し、開きが大きくなっている。「志望校決定率①」と「志望校決定率②」 40 高校等は、高校(全日制・定時制・通信制、別科)、中等教育学校後期課程高等専門学校、特別支援学校(高 等部)を指す。 41 調査対象は、3 月に県内国・公・私立中学校または特別支援学校中学部を卒業する予定の生徒であり、 平成18 年度の調査から県内特別支援学校中学部の卒業予定者を調査対象に加えている。- 17 - 2.2.2 志望校決定率の変化 前項で、平成6 年の中途退学率上昇の一因として、平成 5 年の「偏差値追放」の影響を 検討してきたが、年次系列での詳細な分析をするには、前項で述べた 1 つ目の疑問、退学 者数は高校1 年から 3 年までの総数であり「偏差値追放」学年の影響がすぐに出るはずは ないという点で、やや明確さに欠ける面がある。したがって、年次系列での変化がはっき りする志望校決定率の変化との関係から「偏差値追放」の影響について述べる。 図2-3 埼玉県内中学生の高校等への志望校決定率の推移(昭和 45 年から平成 23 年) 出典:埼玉県教育委員会(2011f)「中学校等卒業者の進路状況調査」より筆者作成。 注 :「志望校決定率①」は10 月 1 日現在、「志望校決定率②」は 1 月 10 日現在(ただし、平成 17 年以降は 12 月 15 日現在)のもの。 図2-3 は、昭和 45 年から平成 23 年の埼玉県内中学生の高校等40への志望校決定率の推 移を表したものである。埼玉県では、県内の中学校3 年生の 10 月 1 日現在と 1 月 10 日(平 成17 年以降は 12 月 15 日)現在における進路希望調査41を実施している。この調査におけ る高校の進学希望率とは、高校進学を希望しかつ志望校が決まっている中学生数を県内中 学卒業予定者数で除したものであるが、ここでは、わかりやすくするために、進学希望率 を「志望校決定率」と表現し、該当の中学3 年生が高校に入学する年を基準に作成した。 10 月 1 日現在での「志望校決定率①」と 1 月 10 日現在での「志望校決定率②」に着目 すると、平成5 年入学生以前は、「志望校決定率①」と「志望校決定率②」が多少の上下を しながらも同様の変化を示しているが、平成6 年入学生以降は「志望校決定率①」が下降、 40 高校等は、高校(全日制・定時制・通信制、別科)、中等教育学校後期課程高等専門学 校、特別支援学校(高等部)を指す。 41 調査対象は、3 月に県内国・公・私立中学校または特別支援学校中学部を卒業する予定 の生徒であり、平成18 年度の調査から県内特別支援学校中学部の卒業予定者を調査対象 に加えている。 85.0 86.0 87.0 88.0 89.0 90.0 91.0 92.0 93.0 94.0 95.0 96.0 97.0 98.0 99.0 100.0 昭 和 45 年 昭 和 46 年 昭 和 47 年 昭 和 48 年 昭 和 49 年 昭 和 50 年 昭 和 51 年 昭 和 52 年 昭 和 53 年 昭 和 54 年 昭 和 55 年 昭 和 56 年 昭 和 57 年 昭 和 58 年 昭 和 59 年 昭 和 60 年 昭 和 61 年 昭 和 62 年 昭 和 63 年 平 成 1 年 平 成 2 年 平 成 3 年 平 成 4 年 平 成 5 年 平 成 6 年 平 成 7 年 平 成 8 年 平 成 8 年 平 成 10 年 平 成 11 年 平 成 12 年 平 成 13 年 平 成 14 年 平 成 15 年 平 成 16 年 平 成 17 年 平 成 18 年 平 成 19 年 平 成 20 年 平 成 21 年 平 成 22 年 平 成 23 年 志望校決定率① 志望校決定率② ��変�� 中央揃え

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の最大の差は、平成15 年の 4.33 ポイントが最高で、当該年の 10 月 1 日現在での県内の中 学卒業予定者数68,365 人のうち 2,960 人に相当する。このことは、平成 5 年入学生まで、1 月に志望校を決定していた中学生は10 月時点で既に志望校を決定していたが、平成 6 年入 学生以降、中学生は10 月時点で志望校を決めていない約 3,000 人の中学生が、1 月時点になっ て志望校を決定する状況となり、平成6 年以降、志望校の決定時期が遅くなっている生徒が 存在することを意味する。 中学生が学業成績や模擬テストの結果を自身の学力と捉え、高校選択を行っていること は、先行研究 42からも明らかである。平成5 年入学生までは、業者テストを中学校で実施 していたために、中学1 年生の段階から中学生は自身の学力を判断する情報として偏差値 を知っていた 43。しかし、平成5 年の「偏差値追放」により、業者テスト受験への強制力が なくなり、自ら学校外で実施される会場テストに申し込む必要が生じた。その結果、高校 選択を本格的に考え始める時期まで申し込まず、志望校決定に遅れを生じさせたのではな いかと考えられる。 しかし、志望校決定の遅れについては、実際に業者テストとの関係をみなければ判断でき ない。そこで、中学校を会場に実施できなくなった業者テストの申込率と志望校決定率との 関係を検討することで、「偏差値追放」による志望校決定の遅れについて考察したい。 2.2.3 業者テスト申込率と志望校決定率 これまで、中途退学率と志望校決定率が平成6 年以降に大きく変化し、その変化の一因と して「偏差値追放」の影響を疑い、論を進めてきた。ここでは、中学校を会場に実施できな くなった業者テストと志望校決定率との関係から、「偏差値追放」の影響を考察する。 まず、中学生が高校を選択する過程について考えてみたい。例えば、埼玉県には、公立全 日制高校が152 校、そのうちの 111 校に普通科があり 44、公立高校を志望する中学生がいき なり特定の高校を志望校に決定することは、一握りの生徒を除き考えにくい。中学生の高校 選択の過程として、まず学校の成績や学校外の業者テストにより、自分の成績(学力)を判 断し、自分の合格可能性のある高校をいくつか想定し、その後志望校を絞っていくと考えら れる。このように自分の成績によって事前に高校を選択していることは、苅谷(1986)の「自 己選抜」、耳塚(1986)の「自己評価」、竹内(1995)の「事前選抜」という言葉で説明され ている。 図2 — 4 は、平成 6 年から平成 23 年の 9 月と 11 月の中学 3 年生対象の業者テスト 45申込率を、 該当する中学3 年生が高校に入学する年を基準に作成したものである。 42 耳塚(1986)、苅谷(1986)、藤田(1996)。 43 北辰図書株式会社 HP より、平成 23 年度の会場テストは、中学 1 年生対象が 1 回、中学 2 年生対象が 3 回、 中学3 年生対象が 8 回実施されている。 44 市立高校 7 校を含む。 45 北辰図書株式会社が実施する「北辰テスト」のこと。

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「偏差値追放」以前の平成4 年まで、埼玉県では中学校を会場に業者テストを実施し、例 えば、平成4 年では 1 校を除き県内すべての公立中学校が実施していた 46。しかし、平成5 年の「偏差値追放」により、中学校を会場とした業者テストの実施ができなくなり、業者テ ストは学校外の会場を借りての実施となった。「偏差値追放」の平成5 年の県内の中学 3 年 生在籍数による業者テスト申込率は、9 月実施で 36.0%、11 月実施で 50.2%となった 47。こ の年の業者テストを申し込んだ中学3 年生は、平成 6 年に高校に進学した学年の生徒である。 申込率は年を追うごとに増加し、平成22 年の 9 月が 79.4%、11 月が 81.7%となっているが、 ほぼ100%であった平成 4 年以前の状況にはない。また、「偏差値追放」後、年を経るごと に業者テストを利用する中学生が増えている。 図 2 — 4 埼玉県内の中学 3 年生の業者テスト申込率(平成 6 年から平成 23 年入学)   出典: 「進学志望率①」は埼玉県教育委員会(2011f)より、「業者テスト申込率」は北 辰図書株式会社からの提供データ 48より筆者作成。 図2 — 5、図 2 — 6 は、平成 6 年から平成 23 年の埼玉県内の中学 3 年生の業者テスト申込率 と志望校決定率の関係を表した散布図である。「志望校決定率①」は、10 月 1 日現在のもの、「志 望校決定率②」は1 月 10 日(平成 17 年以降は 12 月 15 日)現在のものである。矢印により 年次進行を表した。業者テスト申込率は、後述する「高校選択に関する高校1 年生振り返り 調査」結果から、多くの中学生が志望校を決定する時期である9 月から 12 月に最も影響が あると考えられる9 月実施のものとし、該当する中学 3 年生が高校に入学する年を基準に作 成した。また、図2 — 6 には、回帰直線とその数式、決定係数を表示した。 「9 月業者テスト申込率」は、その実施時期から 10 月 1 日現在の「志望校決定率①」と 1 月10 日現在の「志望校決定率②」の両方に相関があると考え、採用した。しかしながら、 46 北辰図書株式会社からの聞き取り調査より、埼玉県内全域を対象とした業者テストは、平成 4 年以前も 平成5 年以後も北辰図書株式会社が行っている。 47 北辰図書株式会社から提供された北辰テスト申込率データより。 48 以降、「北辰図書データ」と表記する。

(21)

実際には、図2 — 5 から「9 月業者テスト申込率」と「志望校決定率①」との間に相関はなく、 図2 — 6 から「9 月業者テスト申込率」と「志望校決定率②」に高い正の相関がある。また、 年を経るごとに「9 月業者テスト申込率」が高くなるにつれ、「志望校決定率②」も高くなっ ていくことから、業者テストが志望校決定率に影響を与えていると考えられる。 しかし、業者テスト結果により志望校を決定しているのではなく、進学意識の高い生徒が 業者テストを受けているのではないかという反論が予想されるが、このことは中学生がどの 時期に高校選択を考え始め、いつ志望校を決定しているかという決定過程から判断する必要 がある。この点については「3. 高校選択と情報提供の調査分析」で、「高校選択に関する 高校1 年生振り返り調査」の結果から述べることにする。いずれにしても、「9 月業者テス ト申込率」は「志望校決定率①」とは相関がないが「志望校決定率②」と相関があることに 疑いはなく、業者テストの結果、すなわち偏差値が高校選択の過程である志望校決定と関係 があると言えよう。 図 2 — 5 埼玉県内中学生の業者テスト申込率と高校等への志望校決定率①の相関        (平成 6 年から平成 23 年入学) 出典: 「志望校決定率①」は埼玉県教育委員会(2011f)より、「9 月業者テスト申率」 は北辰図書データより筆者作成。 図 2 — 6 埼玉県内中学生の業者テスト申込率と高校等への志望校決定率②の相関        (平成 6 年から平成 23 年入学) 出典: 「志望校決定率①」は埼玉県教育委員会(2011f)より、「9 月業者テスト申込 率」は北辰図書データより筆者作成。 92.8 93.2 93.6 94.0 94.4 94.8 95.2 95.6       志望校決定率① 9月業者テスト申込率 96.6 96.8 97.0 97.2 97.4 97.6 97.8 98.0       志望校決定率② 9月業者テスト申込率 y = 0.02x + 95.996 R² = 0.7093

図 2 — 8 埼玉県内中学生の全日制高校への志望校決定率の推移(昭和 48 年から平成 23 年)     出典 : 埼玉県教育委員会(2011f)より筆者作成。 次に、志望校未決定率と卒業率の関係から、高校選択の遅れについて検討する。 志望校未決定率とは、10 月 1 日現在での「志望校決定率①」と 1 月 10 日現在での「志望 校決定率②」の差で、 「志望校決定率②」から「志望校決定率①」を減じたものであり、志 望校が決定していない生徒の率を表す。卒業率は、 「 2.2.1 中途退学率の変化」で偏差
図 2 — 20 は、表 2 — 4 から、それぞれの偏差値ランクごとの不合格者数について、前期・ 後期募集の不合格者数総計に占める割合を図にしたものである。前期・後期募集の不合格者 数の割合でみると、前期募集に対し後期募集で上位、中下位、下位ランクの高校の割合が増 加している。上位の割合が増加するのは、偏差値ランクの上位の高校を志願する中学生がそ の志願を後期募集でも維持する傾向の表れであり  58 、中上位、中位が減少し、中下位、下位 が増加するのは、どうしても公立高校に進学したいという安全策の表れであ
図 3 — 1 は、 「振り返り調査」の問(4)「志望高校を選ぶときに、どこから情報を得ましたか」 に対する回答(3 つまで)について、回答者総数における回答数の割合を図にしたものである。 「高校の学校説明会」が 53.1%と最も多く、中学生の高校選択の主要な情報源となっている。 図 3 — 2 は、「振り返り調査」の問(6)「志望高校を選ぶために、何校の高校の学校説明会 に参加しましたか」に対する回答を図にしたものである。 96.1%の生徒が高校選択のために 学校説明会に参加しており、0 校と回答した生徒
図 3 — 4 高校選択の悩みについての 4 クラスタ分類による散布図 表 3 — 10 は、4 つのクラスタごとに属する生徒が、どの高校に属しているか、その傾向を 探るために作成した、平成 23 年入試実倍率と高校選択の悩み 4 クラスタのクロス表である。 平成 23 年入試実倍率は、平成 23 年の入学者選抜における前期募集出願者数を各高校の全募 集人員(転編入枠人員を除く)で除したもの  68 である。入試実倍率 3 段階については、「情 報提供調査」への回答のあった県立全日制普通科高校 83 校の平
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