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この節では、「4.2 考察」を踏まえ、次の3つについて、政策提言する。提言にあたっては、

新たな予算措置を必要としないことを前提に行う。

提言1 中学生の高校選択における学力判断の新たな情報として、埼玉県教育委員会は、入 学者選抜における学力検査結果を中学校に提供することを検討するべきである。

「4.2 考察」で、偏差値を利用しない生徒の志望校決定が遅くなり、卒業率に影響を与え ている可能性があることから、偏差値に代わる学力判断の新たな情報を中学生の高校選択の ために提供することが必要であると指摘した。また、「自分の学力にあう」は高校選択の大 切な要素であることからも、その必要性は高い。偏差値すなわち業者テストに代わるものを 考えた場合、まず考えられるのが公的テストであろう。埼玉県でも現在、中学校長会の主催 する公的テストが中学3年生を対象に県内15地区で年2~3回実施 71されており、県教育 長も県議会で公的テストの効果的な活用について答弁している 72。しかし、現在の実施回数 では、中学生が公的テスト結果によって合格可能性のある高校を安易に決定してしまうとい う事前選抜 73を自ら行ってしまい、特に学力低位の生徒の学習意欲の低下を招きかねない。

71 埼玉県教育委員会への聞き取り調査。

72 埼玉県議会平成232月定例会における、秦哲美議員の質問に対する前島富雄教育長の答弁。

73 耳塚(1986

より広域な地域での実施や回数の増加は新たな費用や負担が生じる可能性があるため、検討 案の対象から除いた。また、業者テストの中学校での実施の復活や公的テストの外部発注も 考えられるが、「偏差値追放」が現在も維持されていることや新たな予算措置が必要となる ことから、検討案の対象から除いた。

中学生の高校選択の情報として、中学生が単に順位や偏差値を知るだけではなく、中学校 の日常の教育活動や進路指導と結びつくことで、より効果が期待できることが重要であるこ とから、検討案として、次の2点を提示する。

(1)は埼玉県教育委員会が主体となってシステムづくりを行うものであり、(2)は(1) の実現まで暫定的に中学校が主体となって行うものである。

(1)検討案1「学力検査の結果を中学校に直接提供する」

各公立高校の入学者選抜における学力検査の結果(各受験生の得点と各高校の得点分布)

を受験生の在籍する中学校へ情報提供する。中学校は進路データとして蓄積することができ、

この進路データを日常の教育活動や進路指導と結びつけることにより、中学校の進学指導や 中学生の高校選択への情報提供の充実が期待できる。

実施にあたっては、個人情報保護の視点から法令上の問題が考えられるが、東京都では、

学力検査や面接・作文などの得点データを、受験した高校から在籍する中学校長に送付し、

受験生への得点開示を行っている 74。得点データの利用は中学校によりさまざまである 75が、

東京都の事例を参考にすることで実現の可能性は高い。

(2)検討案2「簡易開示された学力検査得点を利用する」

(1)の検討案1が実施までに時間を要する場合、実施までの対応策が検討案2である。

埼玉県では、学力検査得点の簡易開示を実施しており、定められた期間内に受験した高校 に受験生本人が請求することで得点を知ることができる 76。その得点を中学校が進路データ として利用することができれば、検討案1に準じた効果が期待できる。

現在、受験生本人が入手した学力検査得点について、塾は収集を行っているが、中学校に は収集を行う制度はない 77。検討案1が実現すれば、公立高校を受験したすべての生徒の得 点を進路データとして利用できるが、検討案2では、得点を入手した生徒のうち、さらに承 諾を得られた生徒の得点のみの入手となってしまう。しかし、限られた生徒の得点であって も進路データとして年ごとに蓄積することで、中学校の進学指導や中学生の高校選択への情 報提供に資することが期待できる。

74 東京都教育委員会(2011

75 東京都教育委員会への聞き取り調査。

76 埼玉県教育委員会HP「平成23年度入試についてのQ&A

77 埼玉県教育委員会および教育関係者への聞き取り調査。

提言2 中学生の高校選択の現状に対応した情報提供の場となるよう、高校は、学校説明会 の対象・時期・内容について再検討するべきである。

「4.2 考察」で、高校の情報提供が不十分であり、中学生の高校選択の現状に対応した情 報提供の場として、学校説明会の内容等の改善の必要性を指摘した。各高校が学校説明会の 目的に応じて再検討できるよう、3つの視点を以下に示す。

(1)対象について

① どの時期の学校説明会にも、高校選択を考え始めた時期の生徒と決定する時期の生徒が混 在すること(「3.3 高校選択の時期」)を意識した学校説明会になっているか。

②各高校の学校説明会に1/3以上参加している生徒が持つ高校選択の悩み「高校進学後の心 配」に対応できる内容である「どの高校が自分の適性や個性にあうかわからない」、「進学 した高校でやっていけるかわからない」、「それぞれの高校の教育内容の違いがわからない」

(「3.4 高校選択の悩み」)を意識した学校説明会になっているか。

③バスや自転車も含め通学時間が1時間30分未満の生徒(「3.6 学校説明会の在り方」)を 対象に学校説明会の開催を周知しているか。

(2)時期について

①学校説明会の内容が高校選択を決定する時期の生徒を対象にしたものであれば、「中学3 年生の9月から12月」(「3.3.2 学校説明会と高校選択の時期」)になっているか。

② 学校説明会の内容が高校選択を考え始めた時期の生徒を対象にしたものであれば、「中学 3年生の4月から8月」になっているか。その際、中学校2年生を対象にすること(「3.3.2  学校説明会と高校選択の時期」)を検討したか。

(3)説明内容等について

①学校説明会の時間(「3.6 学校説明会の在り方」)が長くなっていないか。

②現在実施している学校説明会の内容が、学校説明会の情報提供項目における再検討の視点 をまとめた表4—1に照らし、自校の学校説明会の目的に合っているか。

表41 学校説明会の情報提供項目における再検討の視点

注:○印は維持・拡充すべき項目、●印は改善すべき項目であり、○と●両方がある項目は、各高校の学 校説明会の実施内容により、いずれを重視するかの判断が必要である。

  また、「参考」には、「備考」に関係する本稿の章・節・項を示した。

【表41について補足】

「中学生の期待以上の効果」、「中学生の期待以下の効果」については、「3.5.1 高校選択の 大切な要素と役立った要素」を参照し、各項目のポイントの差に違いがあることを考慮する 必要がある。「もっと説明が必要」、「より正確な説明や印象が必要」については「3.5.2 学 校説明会と入学後の印象相違度」を参照し、印象相違度について留意する必要がある。

「自分の学力にあう」については、中学生の期待が最も高いにもかかわらず効果が低く、「提 言1」とも関わるが、すべての高校で改善するべき項目である。「校則が自分にあう」につ いては、すべての高校で説明するべき項目であり、特に偏差値下位群の高校については重要 な項目となる。「学力を伸ばせる」については、すべての高校でより正確な説明や印象が必 要な項目であり、準人気校が入試実倍率を高める方策の一つとなる項目でもある。

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(2)時期について

①学校説明会の内容が高校選択を決定する時期の生徒を対象にしたものであれば、「中学

3年生の9月から12月」(「3.3.2  学校説明会と高校選択の時期」)になっているか。

②学校説明会の内容が高校選択を考え始めた時期の生徒を対象にしたものであれば、「中 学3年生の4月から8月」になっているか。その際、中学校2年生を対象にすること

(「3.3.2  学校説明会と高校選択の時期」)を検討したか。

(3)説明内容等

①学校説明会の時間(「3.6  学校説明会の在り方」)が長くなっていないか。

②現在実施している学校説明会の内容が、学校説明会の情報提供項目における再検討の 視点をまとめた表4-1に照らし、自校の学校説明会の目的に合っているか。

表4-1  学校説明会の情報提供項目における再検討の視点

学校説明会の情報提供項目

中学生の 期待以上の効果

【維持・拡充】

中学生の 期待以下の効果

【要改善】

もっと 説明が必要

【要改善】

より正確な説明 や印象が必要

【要改善】

備 考 参 考

(章・節・項)

自分の学力にあう 中学生の高校選択に大切な要素1位の項目 3.5.1

学力が伸ばせる 学校説明会の目的1位の項目

人気校にあり準人気校にない項目

3.5.2 3.8

進学実績がよい 入試実倍率と相関ある項目 3.6

類型やコースがある 選抜基準が自分にあう 学びたい科目がある

個性を伸ばせる

やりたい部活動ができる 中学生の高校選択の大切な要素3位の項目 学校説明会の目的2位の項目

人気校と準人気校の共通項目

3.5.1 3.5.2 3.8

興味ある行事がある 学校説明会の目的3位の項目 3.5.2

伝統校風がよい

学校の評判がよい 第3者の評価を伴うので難しい項目 3.5.1

先輩の感じがよい

先生の感じがよい

校則が自分にあう 全校対象、特に偏差値下位群校に多い項目 3.5.2

施設設備がよい

通学に便利 説明項目として不必要 3.5.13.6

周辺地域の環境がよい

  注:○印は維持・拡充すべき項目、●印は改善すべき項目であり、○と●両方がある項目は、各高校の学校説明会の

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