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トバモウイルス

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 薦 田 圭 介

学 位 論 文 題 名

トバモウイルスRNA 複製複合体形成機構の生化学的研究 学位論文内容の要旨

    プラス 鎖RNAウイル スに属す るトパモウイルスは,植物細胞内に侵入すると,脱外 被して 細胞質中 にゲノムRNAを放出す る.ゲノムRNAは細胞内 でmRNAとして機能し,ウ イルスゲノムRNAの複製に必須な130 kDa,180 kDaのタンバク質(以下,複製夕ンパク質と 呼ぶ)が翻訳される.翻訳された複製夕ンバク質はゲノムRNAとともに,生体膜上に複製複 合体と呼ぱれる構造体を形成し,その内部においてゲノムRNAから相補的なマイナス鎖RNA を合成して,さらにマイナス鎖RNAを鋳型として子孫ゲノムRNAを多量に複製する.これ らの過程は一見単純なようだが,鋳型選択のメカニズムやRNA複製に関与する宿主因子の実 体など未解明な部分が多い.

    これまでに,ウイルス感染細胞内で既に形成された複製複合体の単離・精製,およ びその性状に関する報告が数多くなされてきた.しかし,感染細胞を用いた実験では,ウイ ルス複製サイクルが繰り返されなければ解析可能な量の複製複合体が蓄積されないため,ウ イルス複製サイクルの中の一過程に焦点を絞った解析は困難であった.そこで本研究では,

卜バモウイルスに属するトマトモザイクウイルス(Tomato mosaic virus: ToMV)のゲノム RNAを試験管内で翻訳・複製させる系の確立を目指した.材料としては,ToMVの宿主であ るBY‑2夕バコ培養細胞を用いた,植物細胞の体積の大部分は液胞によって占められており,

単に細胞を破砕しただけでは液胞内に含まれるRNaseやプ口テアーゼが抽出液中に混入して しまう.そこで,BY‑2プ口トプラストをパーコールと呼ばれるシリカゾル溶液中で遠心する ことで,液胞を除去する技術を利用した,得られた脱液胞化プロトプラストを破砕し,低速 遠心により核や未破砕細胞を除去して,目的の脱液胞化BY‑2プロトプラスト抽出液(BYL) を調製 した.BYLを 用いてToMVゲ ノムRNAを翻 訳したとこ ろ,市販の試験管内翻訳用小 麦胚芽抽出液を用いた場合と同程度に,130‑kDa,180‑kDa夕ンバク質が翻訳された.さらに,

翻訳後の反応液にRNA合成基質を添加したところ,生体内と非常によく似たパターンでウイ ルスRNAが合成された.以上より,ToMV複製複合体が試験管内で新規に形成されたことが 示された.

    次に,この試験管内系を用いて,ToMV複製複合体が生体膜上に形成される過程につ いて解析した.遠心操作によりBYLから生体膜を除去した抽出液(membrane‐depletedBYL: mdBYL)を用 いてTOMVRNAを翻 訳したところ,130−kDa,180‐kDa夕ンパク質がBYL反応 液を用いた場合と同程度に合成された.しかし,RNA合成基質を添加してもマイナス鎖RNA の合成は起こらなかった.ところが,翻訳後反応液を生体膜成分とインキュベートすると,

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RNA合成基 質の添加 によりToMVの マイナス 鎖,プラ ス鎖RNAが合成 された.っまり生体 膜の除去と再添加により,ToMVゲノムRNAの翻訳過程と複製過程を実験的に分離すること が可能となった.また,ToMV複製夕ンパク質が生体膜と結合していない条件下では,マイ ナス鎖RNAが合成されないように非常に厳密に制御されていることが示唆された.二本鎖 RNAは,RNAサイレンシングなどのウイルス防御機構の引き金となることが知られており,

生体膜上により細胞質から隔離された複製複合体の内部でのみマイナス鎖RNAが合成され ると推測される.

    ToMV RNAを 翻訳 し たmdBYL反応 液 中 には , 複製 複 合 体が 生 体膜 に 形 成さ れる前 段階の 複合体が 蓄積して いると推 測された ため,ToMV RNA翻訳後のmdBYL反応液をショ 糖密度勾配遠心解析に供した.遠心後,複製夕ンバク質は40S以下と,約70Sの少なくとも 2種類の沈降係数を示した.各画分に生体膜成分を添加したところ,約70Sの画分にのみRNA 合成活性が検出された,よってこの画分には,複製複合体の構成因子が生体膜以外すべて含 まれていると示唆された.次に,同一画分に分画された複製夕ンパク質とゲノムRNAがーつ の複合体を形成しているのか解析するため,FLAG夕グ融合180‑kDa夕ンバク質をコードす るToMV RNAをmdBYL反 応液で翻 訳し,当 該画分からアフイニテイー精製を行った.その 結果,FLAG夕グ融合180‑kDa夕ンバク質と共に,もう一方の複製夕ンバク質である130‑kDa 夕ンバク質とToMVゲノムRNAが共精製された.したがって,少なくとも130‑kDa,180‑kDa 複製夕ンバク質とゲノムRNAがーつの複合体に含まれていることが明らかとなり,以後この 複合体を複製複合体の前駆体(pre‑membrane targeting complex: PMTC)と呼ぶことにした.

    一 方,40S以 下の沈降係 数を示し た複製夕 ンバク質 はPMTCを形成 していな いと思 われた .この複 製夕ンバ ク質に, 複製複合 体形成に必要と思われるToMVゲノムRNAおよ び生体膜などのBYL成分などを,翻訳阻害剤であるピューロマイシン存在下で添加しても,

ウイルスRNA合成活性が検出されなかった.っまり,ToMV複製複合体の構成因子を単に試 験管内で混合しただけでは複製複合体が形成されず,PMTCの形成過程において翻訳反応と 共役して起こる段階があると推測された.次に,PMTC形成における各複製夕ンバク質の役 割を解析するため,130‑kDa,180‑kDa夕ンパク質を個別に発現するようなToMV RNAを用い て解析をおこなった結果,まずゲノムRNAと130‑kDa夕ンパク質が翻訳反応依存的に結合し て複合体を形成し,その後から180K夕ンパク質が翻訳反応と共役せずに相互作用することで,

PMTCが形成されることが示唆された,130‑kDa,180‑kDa夕ンパク質が同一のゲノムRNAか ら翻訳 される野 生型ToMVでも同様の形成過程を経ていると考えられ,まず合成量の多い 130K夕ンパ ク質が翻訳反応依存的にゲノムRNAと結合し,次いで180‑kDa夕ンパク質が結 合 してPMTCが 形 成される と予想さ れた.宿 主のmRNAなど 細胞に多 量に存在 するRNA分 子の中から,ウイルス自身のゲノムRNAを選択するためには,複製夕ンバク質が翻訳されな が ら 直 近 の ゲ ノ ム RNAと 結 合 す る 様 式 が 最 も 合 理 的 で あ る と 推 測 さ れ る .     以上の ように本 研究を通 じて,BYLを 用いた新 規ウイルスRNA試験管内翻訳・複製 系 に よ り , ToMV複 製 複 合 体 形 成 機 構 の 一 端 を 解 明 す る こ と が で き た .

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学位論文審査の要旨

主査  教授 副査  教授 副査  教授

副査  上級研究A     ( ( 独 )

内藤  哲 伴戸久徳 上田一郎 石川雅之

農業生物資源研究所・植物科学研究領域)

学 位 論 文 題 名

トバモウイルスRNA 複製複合体形成機構の生化学的研究

本論文は,和文33頁,13図からなり,参考論文3編が添付されている。

  プラス鎖RNAウイルスに属するトパモウイルスは,植物細胞内に侵入すると,外被夕ンパク質が 外 れ, ゲノ ムRNAを 細胞 質 に放 出す る。 ゲノ ムRNAは 細 胞内 でmRNAと して 機能 し, ウイルス ゲノムRNAの複製に必須な130 kDa,180 kDaのタンバク質(以下,「複製夕ンバク質」)が翻訳さ れる。翻訳された複製夕ンパク質はゲノムRNAとともに,生体膜上に複製複合体と呼ばれる構造体 を 形成 し, ゲノ ムRNAか ら 相補 的な マイ ナス 鎖RNAを 合 成して,さらに マイナス鎖RNAを鋳型 として子孫ゲノムRNAを多量に複製する。これらの過程に関しては,鋳型選択のメカこズムやRNA 複製に関与する宿主因子の実体など未解明な部分が多い。従来,複製複合体に関する研究は,ウイル ス感染細胞内で既に形成された複製複合体の単離・精製によるものであった。しかしながら,感染細 胞を用いた実験では,ウイルス複製サイクルが繰り返されなければ解析可能な量の複製複合体が蓄積 さ れな いた め, ウイ ルス 複製 サイ クル の中 の一 過程 に 焦点 を絞 った 解析 は困 難で あった。

  本論 文は ,トバモウイルスに属するトマトモザイクウイル ス(ToMV)のゲノムRNAを試験 管内 で翻訳・複製させる系を確立し,生体膜上に複製複合体が形成される過程の分子的解剖を行ったもの である。論文の内容は以下のように要約される。

  試験管内翻訳・複製系を 構築する材料として,ToMVの宿主であるBY‑・2夕バコ培養細胞を用い た。植物細胞の体積の大部分は液胞によって占められており,単に細胞を破砕しただけでは液胞内に 含まれる各種の分解酵素が抽出液に混入する。そこで,BY‑2プ口トプラストをバーコール溶液中で 遠心することで,液胞を除去する技術を利用した。得られた脱液胞化プ口トプラストを破砕し,核お よ びそ の他 の夾 雑物 を除 去し て, 脱液 胞化BY‑2プロトプラスト抽出液(BYL)を調製した。BYL を用いて′rorvfVゲノムRNAを翻訳したところ,市販の小麦胚芽抽出液と同程度に複製夕ンパク質 が翻訳された。さらに,翻訳後の反応液にRNA合成基質を添加したところ,感染細胞内と非常によ

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く似たパターンでウイルスRNAが合成された。以上により,ToMV複製複合体をi式験管内で新規に 形成させる実験系が構築された。

  この試験管内翻訳・複製系を用いて,′roMV複製複合体が生体膜上に形成される過程を解析した。

遠 心 操作 に よ りBYLから 生 体 膜を 除 去 した 抽 出 液(membraneIdepleted BYL: mdBYL)では複 製夕ンパク質は翻訳されるが,マイナス鎖RNAの合成活性は認められなかった。ところが,翻訳後 の反 応液を生 体膜成 分とイン キュベー トする ことによりToMVのマイナス鎖,プラス鎖RNA合成 活性が回復した。っまり生体膜の除去と再添加により,ToMVゲノムRNAの翻訳過程と複製過程を 実験的に分離することが可能となった。

  ToMV RNAを翻訳し たmdBYL反応液中 には, 複製複合体が生体膜に形成される前段階の複合体 が 蓄瞶し ていると 推測さ れた。そ こで,ToMV RNA翻訳後のmdBYL反応液をショ糖密度勾配遠心 解析に供したところ,複製夕ンバク質は沈降計数40S以下と,約70Sの少なくとも2つの画分に分 画 された 。各画分 に生体膜成分を添加したところ,約70Sの画分にのみRNA合成活性が検出され たことから,この画分には生体膜以外の複製複合体の構成因子がすべて含まれていると示唆された。

夕グ付き180‑kDa夕ンパク質を用いたアフイニティー精製実験により,この画分では180−kDa 130‑kDaの両 複製夕ン パク質とToMVゲノムRNAがーつの複合体を形成していることが示された。

こ の複合 体を複製 蝮合体前駆体(premembrane targeting compexPMI℃)と名付けた。一カ,

40S以下の沈降係数を示した複製夕ンパク質は恥凪℃を形成していないと考えられ,′roMVゲノム RNAおよ び生体膜 などのBYL成分 を添加し ても, ウイルスRNA合成活性は倹出されなかった。つ まり,T(mW複製複合体の構成因子を単に試験管内で混合しただけでは複製複合体は形成されず,

PMTCの 形 成 過 程 に お い て 翻 訳 反 応 と 共 役 し て 起 こ る 段 階 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。   次に,130一.kDa,18ひ・kDa夕ンパク質を個別に発現するようなT(ぬ仆′RNAを用いて解析をおこ なった結果,まずゲノムRNA1301kDa夕ンパク質が翻訳反応依存的に結合して複合体を形成し,

その後から180*Da夕ンパク質が翻訳反応と共役せずに相互作用することで,PMI℃が形成される こ とが示 唆された 。野生型TOMVでも同様の形成過程を経ていると考えられ,まず合成量の多い 130一kDa夕ンパク質カ灌闘班覊鰌な字的にゲノムRNAと結合し,次いで1801kDa夕ンパク質が結合 し てPMTじが形成 される と予想さ れた。宿 主のmRNAな ど細胞 に多量に 存在するRNA分子の中か ら,ウイルス自身のゲノムRNAを選択するためには,複製夕ンパク質カ澑詛訳と共役してゲノム耐乢へ と結合する様式は合理的である。

  本研 究により 確立さ れたBYLを用いた ウイル スRNA試験管内翻訳・複製系は,RNAウイルスの 複製機構の研究に新たな方法論を導入するものであり,学術的に高く評価できる。よって審査員一同 は , 薦 田 圭 介 が 博 士 ぽ ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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参照

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