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37:417 症例報告 37: , 要旨 78 MRA Key words: carotid stenting, ischemic intolerance, balloon protection はじめに 症 例 CAS no/slow

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Academic year: 2021

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 要旨:症例は 78 歳男性で,左中心前回の皮質梗塞による右上肢の単麻痺で発症.頸部 MRA で左 頸部内頸動脈狭窄を指摘.狭窄部は内出血を伴う脆弱性プラークが示唆された.発症約 2 カ月後に 頸動脈ステント留置術を施行.バルーンによる遠位プロテクションを選択.左内頸動脈を遮断する と直後より右片麻痺,失語,意識障害が出現.鎮静下に速やかにステントを留置し,遮断時間は 8 分 50 秒.血流再開後の撮影で末梢塞栓はみられなかったが,遮断解除後も虚血症状は改善しなかっ た.治療 3 時間後には右片麻痺は改善したが失語が続き,完全に改善したのが治療翌々日であっ た.バルーン遠位プロテクションでは虚血耐性が問題となるが,血流再開後虚血症状は多くは速や かに改善するとされる.本症例は片麻痺が約 3 時間,失語が 30 時間程度遷延したが,新たな脳梗塞 はみられず,その後完全回復し,純粋に虚血不耐性による症状が遷延したものと考えられた. Key words: carotid stenting, ischemic intolerance, balloon protection

1)市立角館総合病院脳神経外科 (2015 年 1 月 7 日受付,2015 年 2 月 27 日受理) doi: 10.3995/jstroke.10317 はじめに  頸動脈ステント留置術(CAS)における遠位プロテク ションは,現時点でバルーン型デバイスとフィルター型 デバイスが使用されている.脆弱で体積の多いプラーク 症例では,フィルター型の場合 no/slow flow を来しその 場合虚血性合併症を生じることが多く1),また特に con-centricタイプのフィルターでは,小径もしくは液状プ ラーク等に対するデブリスの補足能が疑問視2–6)され, そのような症例ではバルーン型プロテクションが選択さ れるようになってきている7).しかし,バルーンプロテ クションの短所として一時的に血流を遮断することから 虚血耐性が問題となる.通常,鎮静を併用し速やかに手 技を終了させることで虚血症状は速やかに改善すること が多いが,今回,バルーン遠位プロテクション下に CASを行い,短時間の一時遮断にもかかわらず虚血症 状が遷延した憂慮すべき症例を経験したので報告する. 症  例  症例:78 歳,男性  主訴:右上肢の脱力  既往歴・家族歴:特記事項なし  生活歴:20 歳代から約 10 年の飲酒・喫煙歴有り.現 在無職.  現病歴:2014 年 4 月某日一過性の右上肢脱力を自 覚.数時間で改善.約 3 週間後午前 10 時頃再度右上肢 の脱力を自覚したため当院救急外来を受診した.  初診時現症:意識清明.右手指に限局した 2/5 の筋力 低下あり.身長 165 cm,体重 65 kg,血圧 170/66 mmHg, 脈拍 61 回 / 分,整.  初診時画像所見:初診時頭部 CT,MRI では左頭頂葉 の陳旧性皮質梗塞によると思われる萎縮性変化の他,拡 散強調画像で左中心前回に新鮮小梗塞を認め,MRA で 左頸部内頸動脈の中等度狭窄を指摘された(Fig. 1).左 中大脳動脈は末梢全域まで描出されており,塞栓再開通 の機序が示唆された(Fig. 1).  入院後経過:左頸部内頸動脈の狭窄はあるが,梗塞巣 は皮質に限局した小梗塞であり,MRA の所見と併せ同 狭窄部を原因とする A to A embolism と考えられた.急 性期にはアルガトロバンとエダラボンの点滴静注を行

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い,シロスタゾールとクロピドグレル,スタチンを併用 し,狭窄部のプラーク安定化を図った.頸動脈エコーで は病変は低輝度.MRI プラークイメージでは,狭窄部 は T1・T2 プラークイメージで高信号を呈し,TOF では 等信号であり,lipid rich necrotic core を有するプラーク 内出血を伴う脆弱性プラークが示唆された(Fig. 2). PETでは,左頭頂葉の陳旧性梗塞部で CBF 欠損がみら れる他,明らかな安静時 CBF 低下や DIAMOX 負荷にお ける血管反応性の低下はなく,局所的な OEF の上昇も みられなかった.脳血管撮影では狭窄度は NASCET 法 で約 70%.右総頸動脈用手圧迫で前交通動脈からの cross flowを認めなかった.MRA と同様左後交通動脈は fetal typeであり,左 P1 は描出されなかった.入院後新 たな神経学的脱落症状の出現はなく,右手指の麻痺も改 善した.今後の脳梗塞再発予防のため外科的介入が必要 と判断.狭窄部位は頸椎 C3 の高さ(Fig. 3A)で,頸動脈 内膜剝離術(CEA)高危険因子はなく,CEA を勧めたが 本人が強く CAS を希望したため,発症約 2 カ月後に CASを行った.脆弱なプラークが示唆されたため, フ ィ ル タ ー で は な く カ ロ チ ド ガ ー ド ワ イ ヤ ー PS (Medtronic, Santa Rosa, CA, USA)を使用した遠位プロテ

クションを選択した.6F ガイディングシースで左総頸 動脈選択.カロチドガードワイヤー PS で病変通過し, 左内頸動脈をテストインフレーションすると,直後より 右片麻痺,全失語,意識障害が出現したため,その直後 にデフレーション.約 10 秒で血流再開し,速やかに症 状が改善した.デバイスの十分なセットアップの上,ジ ア ゼ パ ム, ペ ン タ ゾ シ ン に よ る 鎮 静 下 に,10 mm× 24 mm Carotid Wallステント(Boston Scientific Natick, MA, USA)を留置した(Fig. 3B).遮断時間は 8 分 50 秒.周術 期に極端な低血圧や徐脈はみられなかった.治療中,終 始 JCS10 程度の意識障害を認め,右片麻痺,全失語, 右半側無視の状態.後拡張後に吸引した血液に,明らか なデブリス・血栓を認めなかった.遠位バルーンをデフ レーションした後の最終頭蓋内撮影で明らかな末梢塞栓 を認めなかった(Fig. 3C)が,症状は改善しなかった.高 度虚血再灌流の影響を考慮し,その時点でエダラボンの 投与を開始した.術直後に行った頭部 CT では出血その 他変化なし.治療終了後約 3 時間で,意識は JCS3 に改 善.何かを喋ろうとする動作がみられるようになり,右 片麻痺はこの頃ほぼ完全回復した.治療後 6 時間程で軽 度の運動性失語に改善.治療翌朝 7 時頃には,少し言葉 Fig. 1 初診時拡散強調画像(A),FLAIR(B)ともに,左前頭葉中心前回に新鮮梗塞を認める. 頭部 MRA(C)で明らかな頭蓋内動脈の狭窄はなく,頸部 MRA(D)で左頸部内頸動脈起始部に狭窄を認める. A B C D

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が出にくい程度.その後も軽度の運動性失語が続いてい たが,治療約 20 時間後に行った拡散強調画像では,左 前頭葉白質に 1 カ所のわずかな小さい高信号を認めるの みであった(Fig. 4).約 48 時間後には失語を含め,完全 回復した.以後新たな神経学的脱落症状の出現はなく, 独歩で退院した. 考  察  本症例では,プラークイメージや頸動脈エコーを参考 に脆弱なプラークと判断し,バルーンプロテクションを 選択した.高度狭窄ではなく,ガードワイヤーの病変通 過時に生じるデブリス飛散の可能性は低いと判断し,近 Fig. 2

頸部 T1-plaque image 矢状断(A),T1-plaque 軸位断(B),T2-plaque 軸位断(C)ともに,プラーク は高信号を呈する.TOF 軸位断(D)では等信号を呈し,lipid rich necrotic core を有するプラーク 内出血を伴う脆弱性プラークが示唆される. Fig. 3 治療前左頸部内頸動脈撮影側面像(A),治療後左頸部内頸動脈撮影側面像(B),治療後頭蓋内撮影 側面像(C) 狭窄部は充分な拡張が得られており,脳動脈に明らかな末梢塞栓を認めない. A B C D A B C

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位プロテクションではなく遠位プロテクションを選択し た.CAS 中の経頭蓋ドップラーモニタリングにおける 微小栓子信号(MES)の発生数をみた研究8)で,MES の発 生がフィルターデバイスで明らかに多いとした結果から も示される様に,血流停止状態を作成するバルーンプロ テクションは,フィルタープロテクションと比較し,理 論的には塞栓防止効果が高い7)と考えられるが,その一 方で虚血耐性が問題となる.血流遮断に伴う虚血不耐性 は概ね 4∼23%で出現する3, 9–11)とされ,対側内頸動脈閉 塞患者で Willis 動脈輪を介した後方循環系からの側副血 行が不十分な場合,有意に虚血症状を呈しやすい12),も しくは少なくとも 2 本の Willis 動脈輪を欠く場合有意に 内頸動脈の閉塞で虚血症状が出現する13).または,形態 学的な前交通・後交通動脈の存在の有無をもって側副血 行の評価を行った研究11)では,どちらも形態学的に欠い ている場合に 55.6%に虚血不耐性が生じたとの結果が, MRAでの観察により示されている.本症例では,対側 内頸動脈の狭窄はなく,両側前大脳動脈 A1 部はほぼ同 程度の径で,左後交通動脈が発達しており,一見虚血耐 性がある様に思われたが,前交通動脈,左後大脳動脈 P1部を欠いていることから結局重篤な虚血症状が出現 したと推測される.術前よりこの可能性を十分認識し, また後拡張後の吸引血液に明らかなデブリスを認めな かったことも併せて考えると,結果的にはフィルタープ ロテクションを選択すべきであったかもしれない.更に は,プラークが脆弱である事を重視するのであれば,よ り血流遮断時間を短くする観点から,病変通過時の一時 近位遮断(パロディー変法)を併用したフィルタープロテ クションがより安全であったと考えられる.  虚血不耐性であっても,通常血流再開後に虚血症状は 多くは速やかに改善する3, 9, 10)とされるが,失語が 4 時 間,片麻痺が 12 時間遷延したとする報告11)もみられ る.本症例では血流停止時間は 8 分 50 秒であり,過去 の報告3, 9–11)と比較して特別長い血流停止時間ではない のにもかかわらず,これまでの報告と比較し遥かに長時 間虚血症状が継続した.遷延した神経症状にもかかわら ず,画像上いわゆる血行力学性の広範囲の梗塞に至らな かった理由は明らかではないが,一つは,全身麻酔には 及ばないものの,ジアゼパム等による鎮静が脳保護的に 働いた可能性が考えられる.古くから,全身麻酔による 鎮静は脳からの代謝要求を減少させ神経保護に働くと考 えられており,特に低濃度の短い期間の全身麻酔下での 短い虚血時間においては,それが致死に至らないストレ ス因子となり,小胞体からの中等度のカルシウムイオン 放出を介し神経保護作用をもたらす14)と考えられてい る.本症例では幸い可逆性の虚血症状で事なきを得た が,短時間の治療であっても全身麻酔下での CAS を考 慮した方がより脳に対して愛護的であったかもしれない. Fig. 4 治療 20 時間後に施行した MRI 拡散強調画像.左前頭葉白質に微小な新鮮梗塞が認められる (矢印).その他に明らかな新鮮病変を認めない.

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は過灌流現象が生ずる可能性はあり得ると考えられる. また,脳卒中急性期に起きる痙攣は早期痙攣として知ら れており,2∼6%と比較的稀に生じ,24∼48 時間以内 に起きる事が多いとされる16, 17)が,本症例においても, この早期痙攣が発生した可能性は否定できない.テスト インフレーション直後の症状と,治療後の遷延した症状 を同一の機序と決めつけず,過灌流や早期痙攣の可能性 も念頭に置き,術後鎮静の継続,厳格な降圧,抗痙攣薬 の投与も考慮すべきであったと思われた.  まとめとして,本症例を経験した上で今後安全に CASを行っていくために考えられる方針としては,術 前の対側頸動脈,前交通動脈,後交通動脈などの形態評 価により,虚血不耐性が強く予測される場合には,フィ ルタープロテクションが手技の簡便さからも第一に考慮 される.本症例の様に脆弱なプラークが存在し,なおか つ虚血不耐性が予想されるような場合,フィルターでは 塞栓性合併症が危惧されるため,全身麻酔下でのバルー ンプロテクション CAS が最も安全に行いうる治療であ ろう.様々な事情により全身麻酔を選択できない場合 は,十分な鎮静を行い,エダラボンや抗痙攣薬の投与を 考慮してもよいかもしれない.いずれの条件・場合にお いても,何より重要な点は血流停止時間をできうる限り 短時間にすることであろう.そのためには,血流停止後 に使用するデバイスの全てを,すぐに使えるよう完璧に セットアップしておき,速やかに手技を完遂させること が何より重要であると考えられた.  著者は日本脳卒中学会への COI 自己申告を完了して おり,本論文の発表に関して,開示すべき COI はない. 参考文献 1) 石橋敏寛,村山雄一,佐口隆之ら:頚動脈ステント留置 術での血栓塞栓症 :MRI によるプラーク性状評価と distal protection deviceとの関連.JNET 3: 3–9, 2009

2) du Mesnil de Rochemont R, Schneider S, Yan B, et al:

Diffu-Vasc Surg 52: 1188–1194, 2010

6) Maleux G, Demaerel P, Verbeken E, et al: Cerebral ischemia af-ter filaf-ter-protected carotid araf-tery stenting is common and cannot be predicted by the presence of substantial amount of debris captured by the filter device. AJNR Am J Neuroradiol 27: 1830– 1833, 2006

7) 徳永浩司,杉生憲志,西田あゆみら:頚動脈狭窄症に対 する Angioguard XP を用いた頚動脈ステント留置術の治 療 成 績 ―PercuSurge GuardWire に よ る 治 療 成 績 と の 比 較―.JNET 3: 79–85, 2009

8) Rubartelli P, Brusa G, Arrigo A, et al: Transcranial Doppler monitoring during stenting of the carotid bifurcation: evaluation of two different distal protection devices in preventing emboli-zation. J Endovasc Ther 13: 436–442, 2006

9) Vitek JJ, Al-Mubarak N, Iyer SS, et al: Carotid artery stent placement with distal balloon protection: technical consider-ations. AJNR Am J Neuroradiol 26: 854–861, 2005

10) Chaer RA, Trocciola S, DeRubertis B, et al: Cerebral ischemia associated with PercuSurge balloon occlusion balloon during carotid stenting: Incidence and possible mechanisms. J Vasc Surg 43: 946–952; discussion 952, 2006

11) 綾部純一,久保篤彦,渡辺正英ら:Double balloon protec-tionを用いた頚動脈ステント留置術での intolerance の検 討.脳卒中の外科 41: 435–439, 2013

12) Lee JH, Choi CG, Kim DK, et al: Relationship between circle of Willis morphology on 3D time-of-flight MR angiograms and transient ischemia during vascular clamping of the internal ca-rotid artery during caca-rotid endarterectomy. AJNR Am J Neuro-radiol 25: 558–564, 2004

13) Montisci R, Sanfilippo R, Bura R, et al: Status of the circle of Willis and intolerance to carotid cross-clamping during carotid endarterectomy. Eur J Vasc Endovasc Surg 45: 107–112, 2013 14) Wei H, Inan S: Dual effects of neuroprotection and

neurotoxici-ty by general anesthetics: role of intracellular calcium homeo-stasis. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 47: 156– 161, 2013

15) Backhaus R, Boy S, Fuchs K, et al: Hyperperfusion syndrome after MCA embolectomy̶a rare complication? Am J Case Rep 14: 513–517, 2013

16) Chung JM: Seizures in the acute stroke setting. Neurol Res 36: 403–406, 2014

17) Alberti A, Paciaroni M, Caso V, et al: Early seizures in patients with acute stroke: frequency, predictive factors, and effect on clinical outcome. Vasc Health Risk Manag 4: 715–720, 2008

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Abstract

A case of carotid stenting with prolonged ischemic symptoms by transient distal balloon protection

Suguru Yamaguchi, M.D., Ph.D.,1)

and Katsuhiro Nishino, M.D., Ph.D.1)

1)

Department of Neurosurgery, Kakunodate Municipal Hospital

A 78-year-old man was admitted to our hospital because of right hand weakness due to small cortical infarction at left precentral gyrus. Neck MR angiography revealed left neck internal carotid artery stenosis. The stenotic part was fragile plaque with intra-plaque hemorrhages. We performed carotid artery stenting (CAS) approximately 2 months after the onset. Because fragile plaque was suggested, we chose the distal protection using the Carotid Guard-Wire PS (Medtronic, Santa Rosa, CA, USA), not a filter. Immediately after the distal balloon was inflated on trial, the patient presented right side hemiparesis, aphasia, and consciousness disturbance. Carotid Wall stent (Boston Scientific Natick, MA, USA) was placed in a rapid manner under sedation. Total occlusion time was 8 minutes 50 seconds. Af-ter the distal balloon became deflated, his symptoms did not disappear regardless of any distal embolisms in the final angiography. Three hours later, his right hemiparesis was recovered almost fully, but his aphasia continued. At last, his neurological deficits disappeared completely after 2 days. The CAS procedure using balloon protection has prob-lems about the ischemic intolerance. Commonly, the symptoms of intolerance are improved rapidly after restore pa-tency of blood flow. In this case, ischemic symptoms prolonged for 2 days in spite of cerebral infarction not being seen. It was thought that the ischemic intolerance purely caused this symptom.

Key words: carotid stenting, ischemic intolerance, balloon protection

参照

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