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退院前における急性期男性心疾患患者の心肺運動負荷試験指標について──疾患群別ならびに年代群別の比較検討── 利用統計を見る

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全文

(1)

退院前における急性期男性心疾患患者の心肺運動負

荷試験指標について──疾患群別ならびに年代群別

の比較検討──

著者

太附 広明

著者別名

TATSUKI Hiroaki

雑誌名

東洋大学大学院紀要

50

ページ

297-320

発行年

2014-03-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00006562/

(2)

退院前における急性期男性心疾患患者の

心肺運動負荷試験指標について

──疾患群別ならびに年代群別の比較検討──

福祉社会デザイン研究科ヒューマンデザイン専攻博士後期課程 1 年

太附 広明

要旨

背景:心肺運動負荷試験(CPX)指標のデータは健常者や維持期心疾患患者を対象にした ものが多く、急性期心疾患患者を対象とした報告は少ない。 目的:退院前における急性期男性心疾患患者の CPX 指標を疾患群別・年代群別に提示し、 比較検討すること。   対象:2010 年 1 月から 2013 年 3 月までに急性期病院において退院前に CPX を実施した男 性心疾患患者 242 名で、診断内訳は急性冠症候群(ACS 群)170 名、心不全群 41 名、開 心術群 31 名。 方法:自転車エルゴメーターによる CPX を 10.9 ± 6.2 病日(3 ~ 42 病日)に実施した。そ して CPX 指標である V・E-V・CO2 slope、⊿ V ・ O2 / ⊿ WR、無酸素性代謝閾値(AT)、運動 処方強度を疾患群別、年代群別(中年者群、前期高齢者群、後期高齢者群)に分類し比較 検討した。 結果:V・E-V・CO2 slope において後期高齢心不全群は疾患群別・年代群別分類のうち最も高 値であり、AT、運動処方強度においては最も低値であった。また、⊿ V・O2/ ⊿ WR にお いては後期高齢心不全群と開心術群の全年代群で低値であった。 考察:後期高齢心不全群は入院前からの身体活動低下、開心術群は手術後の換気効率低下が 原因と推察する。 結語:退院前における急性期男性心疾患患者の CPX 指標は後期高齢心不全群と開心術群で 不良であった。 キーワード  心肺運動負荷試験・急性期心疾患患者・心臓リハビリテーション

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目次

Ⅰ 緒言 Ⅱ 理論的背景  1.CPX について  2.運動負荷試験の目的  3.CPX から得られる指標   1)V・E ‐ V・CO2 slope   2)⊿ V・O2 / ⊿ WR   3)無酸素性代謝閾値   4)最高酸素摂取量  4.心臓超音波検査指標   1)左室駆出率   2)イーオーバーイープライム Ⅲ 対象 Ⅳ 方法  1.調査項目について  2.CPX について  3.心臓超音波検査と冠危険因子について Ⅴ 倫理的配慮 Ⅵ 結果  1.対象者について  2.疾患群別・年代群別にみた CPX の各指標   1)V・E ‐ V・CO2 slope について   2)⊿ V・O2 / ⊿ WR について   3)AT について   4)運動処方強度について  3.CPX 指標と年齢との関係  4.CPX 指標と LVEF との関係  5.CPX 指標と E/E’ との関係 Ⅶ 考察

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Ⅰ 諸 言

 心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は、狭心症や急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction:以下、AMI)などの虚血性心疾患患者、心不全患者、冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Graft:以下、CABG)や心臓弁置換術などの心臓手術後患者を対象として 実施されている。これら心疾患患者に対して運動処方を行う際には心肺運動負荷試験 (Cardiopulmonary Exercise Testing:以下、CPX)を実施し、その結果に基づいて行うこ とが「心疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」25)によって推奨されて いる。CPX には様々な測定項目があり、そこから得られる指標から対象者の心肺機能や運 動耐容能を判断することが可能である。これらのことから CPX から得られる指標は心リハ における運動処方・運動指導や負荷量設定の基準として極めて重要である。ところが CPX 指標の平均値データは健常者とスポーツ選手を対象とした大宮ら26)の報告、17 歳から 78 歳までの健常男女 474 名を対象とした Sun ら29)の報告、75 歳以上の高齢女性 101 名を対象 とした Binder ら8)の報告などの健常者を対象とした報告が散見するのみである。先行研究 をみると心疾患患者を対象とした CPX 指標の研究は、回復期や維持期の症例を対象として、 換気能力や心機能、身体機能との関連、重症度判定、生命予後との関連性を検討した報告が 多数なされている5), 9), 12), 18), 20), 22), 24), 33), 35)。それに対して、急性期の研究は発症後 3 ~ 4 週間 経過した AMI 患者を対象とした報告11), 14)、早期の虚血性心疾患、CABG 後、弁膜症手術 後を対象とした報告15), 23), 27)が散見するのみである。つまり、同一疾患内による検討が多く、 AMI や心不全、心臓手術後症例を疾患別、年代別に比較検討した報告は文献検索の範囲内 ではない。  急性期心疾患患者に対する CPX は心リハの診療報酬基準認定施設の多くで運動処方なら びに運動指導を行う目的で臨床的に実施されており、退院前における心疾患患者の CPX 指 標は退院時の心肺機能を示す重要な要素と言える。したがってこれら CPX 指標は、多数例 標本によって標準化すべき事項と考える。そこで、本研究の目的は急性期病院における退院 直前の急性期男性心疾患患者の CPX 指標を疾患群別ならびに年代群別に分類し、これらを 比較検討して今後の基礎資料とすることである。

Ⅱ 理論的背景

1.CPX について

 トレッドミルや自転車エルゴメーターなどの運動負荷装置を用いて段階的に運動負荷を増 加させる。同時に心電図、血圧、心拍数、呼気ガス分析装置による各種呼吸指標をモニタリ ングしながら酸素・二酸化炭素濃度の測定を行って、換気能力、持久力や最大運動能力など を判定する検査である。リハビリテーションで運動療法を行う際などに適切な運動強度を設 定するために行われる。

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2.運動負荷試験の目的

 運動負荷試験の目的には冠動脈疾患の診断、循環器疾患の重症度評価や予後の推定、運動 時の心機能評価、運動処方の決定等が挙げられる。その中でも CPX に特徴的なものが運動 処方の決定に関する事項である。表 1 に米国胸部疾患学会・胸部内科学会によって示された CPX の適応7)を小林16)が翻訳したものを示す。

3.CPX から得られる指標

1)V・E-V・CO2 slope  V・E-V・CO2 slope は一定の二酸化炭素排出量(V ・ CO2)に対する分時換気量(V ・ E)の比から 求められ、換気効率を表す。運動時の心拍出量の増加を反映しており、心不全症状が重度な ほど増加し、息切れ症状に対応する。必ずしも最大負荷を必要とせず再現性も良好であるが、 呼吸性代償開始点(Respiratory Compensation Point:以下、RC ポイント)以上では V・E の増加量が大きくなる。このため slope が急峻となって V・E-V・CO2 slope の数値が大きくなる。

このことから解析範囲に関する V・E-V・CO2 slope の判定には注意が必要である。さらに V・E-V・CO2 slope の値は換気血流比不均等分布が大きい時、一定量の V ・ CO2 を達成するため に必要とする V・E が高くなるため換気効率が低くなっていることを示し、その結果 slope が 急峻となる。正常値は 35.0 未満で、一般的に年齢が上がると上昇し、男性に比べ女性の方 表1 CPX の適応(米国胸部疾患学会 / 胸部内科学会)

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が高く、心不全が重度なほど高値である13) 2)⊿ V・O2 / ⊿ WR  ⊿ V・O2 / ⊿ WR は自転車エルゴメーターによる CPX で計測できる指標で、仕事量増加に 対する酸素摂取量の増加程度を表す。心拍出量の増加率を反映し、心拍出量のほか、血流分 布、動静脈酸素較差、筋肉代謝が影響する。10 ~ 20 ワットランプ負荷時では性別に関わらず、 約 10ml/min/ W が正常であるが、ランプ負荷が急峻になるほど数値が低下するので異なっ たプロトコル間の比較には注意を要する。年齢や性別による影響は少なく、健常者に比べ心 疾患患者の方が値が低く、心不全が重度なほど低値である13) 3)無酸素性代謝閾値(Anaerobic Threshold:AT)  AT は増加する運動強度において有気的エネルギー代謝(有酸素運動)から無気的エネル ギー代謝(無酸素運動)に切り替わる直前の運動強度である。CPX での AT 判定基準は V・O2に対して V ・ CO2が増加し始める時点の V ・ O2(V slope 法)ならびに V ・ E/V・CO2が上昇せ ずに V・E/V・O2が上昇し始める点(タイムトレンド法)がある2), 3)。  運動処方強度はランプ負荷による AT 値から求める。心拍数で運動処方を行う場合には AT レベルの心拍数を処方する。しかし運動処方強度の設定は CPX 時の負荷量の増加に対 する酸素摂取量が一定の遅れののちに増加するため、AT 出現時のワット数をそのまま運動 処方として用いると過負荷になってしまう。このため便宜上 AT の 1 分前の運動強度を処 方することが一般的である2), 3) 4)最高酸素摂取量(peakV・O2)  peakV・O2は運動負荷試験の終点での酸素摂取量を指し、最大心拍出量を反映している。 米国では心移植の基準(peakV・O2≦ 14 ml/kg/min)に用いられる。ただし、被験者の意欲 に左右されるため完全な客観的指標とはなりにくい面もある3)。一方、最大酸素摂取量 (V・O2 max)は生体固有の最大酸素摂取能力で peakV ・ O2とは異なる。つまり peakV ・ O2はあ る 1 回の運動負荷試験での最大酸素摂取能力であり、V・O2 max はその対象者の持つ最大酸 素摂取能力である13)。すなわち VO 2 max ≧ peakV ・ O2の関係が成り立つ。

4.心臓超音波検査指標

 心臓超音波検査から得られる指標のうち、本研究で用いた調査項目について以下に述べる。

1)左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction:以下、LVEF)

 LVEF は左室が拡張したときの血液容量から収縮したときの容量を差し引いた分で、左室 が 1 回収縮したときに拍出される血液量を表す。左室全体の機能を反映し、正常値は 50.0%

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以上で、心機能の重症度を表す。 2)イーオーバーイープライム(以下、E/E’)  E/E は ’ 左室流入血流速度(E)と僧帽弁輪速度(E’)の比で求められる左室拡張能の評 価指標である。正常値は 8.0 未満で、15.0 よりも大きい場合は左室の拡張障害が疑われる。 近年、収縮能の異常は認めない拡張障害型の心不全が指摘されている32)。このため注目す べき項目である。

Ⅲ 対 象

 対象は 2010 年 1 月から 2013 年 3 月までに相模原協同病院に入院後、心リハを実施し CPX を施行した男性心疾患患者 242 名(平均 62.8 ± 11.3 歳、32 歳~ 85 歳)である。疾患 別の内訳は AMI と不安定狭心症からなる急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:以下、 ACS 群)170 名、心不全群 41 名、心臓血管外科手術後患者(以下、開心術群)31 名である。 尚、これらは診療科からの心リハ依頼時の診断名から分類した。ACS 群は主に胸痛を主訴 と し、 緊 急 の 冠 動 脈 カ テ ー テ ル 検 査 な ら び に 冠 動 脈 形 成 術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)実施後である。心不全群は動悸や呼吸苦等の訴えとともに肺うっ血や 下肢の浮腫等の心不全症状を認め診断されたものであり、ACS に心不全症状を合併した場 合は ACS 群に分類した。開心術群の内訳は CABG 19 名、CABG・大動脈弁置換術(Aortic Valve Replacement:AVR)2 名、CABG・僧帽弁輪形成術(Mitral Annulo Plasty:MAP) 1 名、AVR4 名、AVR・MAP1 名、僧帽弁置換術(Mitral Valve Replacement:MVR)3 名、 僧帽弁形成術(Mitral Valve Plasty:MVP)1 名である。全例とも手術執刀は同一の心臓血 管外科医 2 名によって胸骨正中切開術による開心術が実施された。さらに、対象者を年齢に よって 65 歳未満の中年者群、65 歳から 75 歳未満の前期高齢者群、75 歳以上の後期高齢者 群の 3 群に分類した。  除外基準として、①下肢の麻痺や明らかな運動器疾患を合併した症例、② CPX において 運動耐容能が低くウォーミングアップで既に AT を超えていた症例、③ AT 以下で心電図 上有意に ST 低下がみられた症例、④重篤な不整脈が生じた症例、⑤終了時のガス交換比(R) が 1.0 未満の症例とした。さらに、⑥埋め込み型除細動器やペースメーカー埋め込み後、⑦ 狭心症など PCI 施行後心リハ未実施例、⑧人工血液透析実施者は CPX を実施していても対 象から除外した。    対象の投薬状況は ACS ならびに心不全症例については基本的にβ遮断薬を使用している。 対象者は全症例 CPX 実施後に自宅退院しており、その多くは CPX 実施翌日に退院となっ ている。しかし一部の症例は医学的管理(投薬コントロール、血糖コントロール等)や家族 の都合等で CPX 実施から数日後の退院となっている。

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Ⅳ 方 法

1.調査項目について

 調査項目は診断名、年齢に加え、冠危険因子として糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙の 有無、肥満度(Body Mass Index:以下、BMI)、心臓超音波検査所見として LVEF、E/E’、 CPX 指標として V・E-V・CO2 slope、⊿ V ・ O2 / ⊿ WR、AT、運動処方強度、CPX 測定日(発 症もしくは術後からの日数)の合計 14 項目である。これらを診療録ならびに CPX 分析デー タから後方視的に抽出した。

2.CPX について

 CPX は自転車エルゴメーターを用いたランプ負荷にて実施した。また、CPX 実施につい ては心リハを専門とする循環器内科医師 1 名と理学療法士、臨床検査技師によって行い、解 析は CPX を実施した循環器内科医師が行った。使用機器はミナト医科学社製呼気ガス分析 装置エアロモニター AE-310S(ブレスバイブレス法)、コンビ社製エアロバイク 75XL、心 電計は GE Healthcare CASETMである(図 1)。CPX の実施は、循環器内科医師によって対 象者の全身状態、即ち、炎症症状、肝機能、腎機能、貧血、胸水、不整脈、心室瘤や心内血 栓の有無、バイタルサインならびに投薬状況、(特にβ遮断薬投与量増量中は実施を回避) などを検討して判断された。  CPX のランプ負荷は 10 ワットランプ負荷を中心に測定し、症例の年齢や身体状況に応じ て 5 ワットランプ、20 ワットランプ負荷でも測定した。CPX のランプ負荷プロトコルは呼 気ガスの安静時測定 4 分、ウォームアップ 4 分(5 ワットランプ負荷の場合は 3 分)、ラン プ負荷、クールダウンである。ACS 群と開心術群は発症および手術後早期のため AT を超 えた RC ポイントレベルまでとした。尚、心不全群の一部の症例は peakV・O2まで測定したが、 今回は全症例 AT レベルまでの結果を解析条件とした。CPX 結果の解析にあたって、 V・E-V・CO2 slope は RC ポイントまでを一次解析して求め、AT は判定基準に基づき V slope

法ならびにタイムトレンド法から判定した。運動時周期性呼吸(Exercise Oscillatory Ventilation:EOV)を認めた症例についても上述の方法にて判断し、運動処方強度の決定 は AT の 1 分前の運動強度とした。

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3.心臓超音波検査と冠危険因子について

 心臓超音波検査から得られる LVEF と E/E’ について、これらのデータは CPX 測定日に 一番近いものを抽出し、開心術群に関しては術後のデータを採択した。LVEF は Simpson 法による測定値を採用した。冠危険因子は既往歴ならびに合併症として診療録に記載されて いるものを抽出し、その有無を調査した。  以上より、CPX から得られた各指標の平均値をまとめるとともに、疾患群別、年代群別 に比較検討した。次いで、CPX 指標に対する年齢、心機能(LVEF)、拡張障害(E/E’)と の影響を検討する目的で両者の関連性を検討した。

4.統計学的分析方法

 統計処理には統計分析パッケージ SPSS 11.0J を使用し、以下に述べる検定方法を用いて 有意水準を 5%未満とした。疾患群分類に対する年代群分類、糖尿病、高血圧、脂質異常症、 喫煙の有無との関連性についてはχ2 検定を用いた。また診断群別にみた年齢、BMI、 LVEF、E/E’、CPX 測定日、CPX 指標の 3 群間比較には一元配置分散分析を用い、多重比 較はボンフェローニ法を採用した。さらに年齢、LVEF、E/E’ と CPX 指標との関連性につ いてはピアソンの単相関分析を用いた。

Ⅴ 倫理的配慮

 CPX は治療の一環として、主治医より対象者に説明した上で実施している。また、デー タの取り扱いに関しては主に平均値を用いており、個人の特定ができないよう配慮した。相 図1 自転車エルゴメーターを用いた CPX

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模原協同病院では臨床データや治療、検査結果等を症例報告等で使用する可能性について ホームページ等で公示している。本研究は相模原協同病院倫理委員会の承認を得ており、東 洋大学大学院紀要論文として作成した。

Ⅵ 結 果

 CPX のランプ負荷は対象者 242 名中、10 ワットランプ負荷で 218 名を測定し、20 ワット ランプ負荷で 14 名(全て中年者群)、5 ワットランプ負荷で 10 名(中年者群 1 名、前期高 齢者群 1 名、後期高齢者群 8 名)を測定した。開心術症例において術後の重篤な呼吸合併症 はなく、測定に際して CABG の大伏在静脈採取による下腿創部痛の訴えはなかった。その他、 心電図上 ST 低下や心室性期外収縮を認めた症例が数名いたが、重篤な不整脈、胸痛、気分 不快等の訴え、意識消失などの大きな問題は生じなかった。

1.対象者について

 対象者の内訳を表 2 に示す。対象者を疾患群別に ACS 群、心不全群、開心術群の 3 群、 年代群別に中年者群、前期高齢者群、後期高齢者群の 3 群にそれぞれ分類した。診断群分類 と年代群分類間には有意差を認め、中年者群において ACS 群が多く、開心術群が少ない、 後期高齢者群において ACS 群が少なく、開心術群が多いという分布状況であった(p < 0.01)。 疾患群別にみた平均年齢は開心術群が ACS 群に比べ有意に高かった(p < 0.01)。  冠危険因子に関しては全体で高血圧の合併率が高かった。診断群別に冠危険因子の有合併 率を比較した結果、脂質異常症のみ有意差を認め、その合併率は ACS 群と開心術群で高く、 心不全群で低いという分布状況であった(p < 0.01)。BMI は ACS 群が開心術群に比較し て有意に高く(p < 0.01)、心不全群とは差を認めなかった。  疾患群別にみた各指標において LVEF は心不全群が ACS 群ならびに開心術群と比較して 有意に低く(p < 0.01)、正常値よりも低値を示した。E/E’ は ACS 群において正常範囲よ りも高く、心不全群ならびに開心術群はこれよりも有意に高い値を示し(p < 0.01)、左室 の拡張障害が疑われる 15.0 以上の値であった。  CPX の測定日は ACS 群の測定日が他の 2 群に比べ有意に早かった(p < 0.01)。  CPX 指標に関して、V・E-V・CO2 slope、⊿ V ・ O2 / ⊿ WR 、AT、運動処方強度の順に疾患群 別にみた 3 群間の比較を示す。まず、V・E ‐ V・CO2 slope は心不全群と開心術群の 2 疾患群 が ACS 群に比べて有意に高く(p < 0.01)、双方とも平均値は正常値の 35.0 以上の値であっ た。次いで、⊿ V・O2 / ⊿ WR は開心術群が ACS 群に比べ有意に低かった(p < 0.01)。AT も開心術群が ACS 群に比べ有意に低かった(p < 0.01)。運動処方強度は心不全群と開心術 群には差はないものの、ACS 群に比べ両者は有意に低値であった(vs 心不全群:p < 0.05, vs 開心術群:p < 0.01)。

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2.疾患群別・年代群別にみた CPX の各指標

 表 2 に示した各疾患群の CPX 測定結果をさらに年代別に検討した。それぞれ各 CPX 指 標に分けて以下に示す。 1)V・E-V・CO2 slope について  V・E-V・CO2 slope の疾患群別・年代群別の平均値の比較を表 3 に示す。まず、疾患群別比 較の結果について述べる。中年者群において心不全群と開心術群は ACS 群に比べ有意に高 かった(p < 0.01)。前期高齢者群においては開心術群が ACS 群に比べ有意に高い値を示し た(p < 0.01)。後期高齢者群における V・E-V・CO2 slope の値は疾患群別に差はなかったもの の 3 疾患群ともに 35.0 以上の高値を示した。

 次に年代群別比較の結果について述べる。ACS 群での V・E-V・CO2 slope の値は前期高齢者

群と後期高齢者群には差を認めないもののいずれの群も中年者群に比べて有意に高値であり (p < 0.01)、年代が上がるごとに高値を示した。心不全群では後期高齢者群が中年者群に対 し有意に高い値を示した(p < 0.01)。この心不全群における後期高齢者群は疾患群別・年 代群別にみた 9 群の中で最も値が高かった。また、開心術群では年代群別に差はないものの 全年代で高い値であった。 表2 対象の内訳

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2)⊿ V・O2 / ⊿ WR について  ⊿ V・O2 / ⊿ WR の疾患群別・年代群別の平均値の比較を表 4 に示す。まず、疾患群別の 比較結果について述べる。中年者群と前期高齢者群の両群において ACS 群に比べると開心 術群の⊿ V・O2 / ⊿ WR 値が有意に低かった(p < 0.05)。しかし後期高齢者群では疾患群に よる差はみられなかった。また、開心術群の平均値は各年代ともに低値だった。  年代群別比較については各疾患群ともに有意差は認められなかった。 3)AT について  AT の疾患群別・年代群別の平均値の比較を表 5 に示す。疾患群別の比較では中年者群と 表3 CPX 指標結果 V・E ‐ V・CO2 slope 表4 CPX 指標結果 ⊿ V・O2 / ⊿ WR

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前期高齢者群においては差がなかった。後期高齢者群において心不全群は ACS 群に比べて 有意に低値であり(p < 0.05)、この AT 値は疾患群別・年代群別にみた 9 群の中で最も低 い値であった。  年代群別に比較した AT 値については 3 疾患群ともに有意差を認めなかった。 4)運動処方強度について  運動処方強度の疾患群別・年代群別の平均値の比較を表 6 に示す。まず、疾患群別比較の 結果について述べる。中年者群と前期高齢者群の両群において開心術群が ACS 群に比べて 有意に低値であった(中年群:p < 0.05 ,前期高齢者群:p < 0.01)。後期高齢者群では心 不全群が ACS 群に比べて有意に低値であり(p < 0.01)、AT と同様、運動処方強度も心不 全群の後期高齢者群は疾患群別・年代群別にみた 9 群の中で最も低い値であった。  次に年代群別比較結果について述べる。ACS 群において中年者群の運動処方強度が前期 高齢者群に比べ有意に高かった(p < 0.05)。心不全群では後期高齢者群が他の 2 つの年代 群に比べ有意に低く(p < 0.01)、疾患群別比較の箇所でも述べたように 9 群の中で最も低 い運動処方強度であった。開心術群では年代群間の運動処方強度に有意差を認めなかった。 表5 CPX 指標結果 A T

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3.CPX 指標と年齢との関係

 V・E-V・CO2 slope と年齢には正の相関を認め(r=0.483,p < 0.01)、年齢が高くなるほど  V・E-V・CO2 slope が高くなり、換気効率が低下していた(図 2)。  ⊿ V・O2 / ⊿ WR ならびに AT と年齢との関係は相関係数が低く、関連性はなかった(⊿ V・O2 / ⊿ WR と年齢:r=‐0.197,p < 0.01,図 3)、(AT と年齢:r=‐0.122,p < 0.01,図 4)。  運動処方強度と年齢には負の相関を認めた(r= ‐ 0.405,p < 0.01)。即ち、運動処方強 度は年齢が若いほど高く、高齢者ほど低かった(図 5)。 表6 CPX 指標結果 運動処方強度 図2 年齢と V・E ‐ V・CO2 slope の関係

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図3 年齢と⊿ V・O2 /WR の関係

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4.CPX 指標と LVEF との関係

 CPX の各指標と LVEF との関係は相関係数が低く、関連性を認めなかった。LVEF に対 する CPX 各指標の関係を以下に示す。即ち、V・E-V・CO2 slope(r= ‐ 0.266,p < 0.01)、⊿ V・O2 / ⊿ WR(r=0.220,p < 0.01)、AT(r=0.206,p < 0.01)、運動処方強度(r=0.216,p < 0.01)であった。

5.CPX 指標と E/E’ との関係

 CPX の各指標と E/E’ との関係を以下に示す。V・E-V・CO2 slope と E/E’ との関係は弱い正

の相関を認め(r=0.342,p < 0.01)、E/E’ が高いこと、つまり拡張障害の影響が高いほど V・E-V・CO2 slope が高く、換気効率が低下していた。

 ⊿ V・O2 / ⊿ WR ならびに AT と E/E’ との関係は相関係数が低く、関連性は認めなかった

(⊿ V・O2 / ⊿ WR と E/E’:r= ‐ 0.236,p < 0.01)、(AT と E/E’:r= ‐ 0.295,p < 0.01)。

 運動処方強度と E/E’ には弱い負の相関を認めた(r= ‐ 0.341,p < 0.01)。つまり E/E’ が低く、拡張障害の影響が少ないほど運動処方強度が高かった。

Ⅶ 考 察

 退院前における急性期男性心疾患患者の CPX 指標を疾患群別、年代群別に算出して比較 検討した。CPX 指標について小池19)は AT 計測に関してタイムトレンド法を用いた場合に は V・O2と V ・ CO2のグラフから視覚的に求めるために検者間で多少なりとも値が異なり、運 動時間が短い重症の心不全患者は AT を決定しにくいため誤判断の可能性を指摘している。 図5 年齢と運動処方強度の関係 

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一方、V・E-V・CO2 slope と⊿ V ・ O2 / ⊿ WR はともに呼気ガス指標の経時的な変化を直線回帰 することで算出するため、呼気ガス分析に由来するランダムノイズに影響されにくく客観的 かつ再現性が良好な指標であると述べている。つまり、AT 値は検者間で多少の誤差が生じ やすいが、V・E-V・CO2 slope と⊿ V ・ O2 / ⊿ WR は AT に比べると信頼性の高い指標と判断さ れる。本研究における CPX 指標の解析は心リハを専門とする循環器内科医師 1 名によって 前述の判定基準にしたがって行われており、検者間の差はなかったと言える。ただし、 EOV を認めた症例に関しては AT の判定基準に則った判定が困難な場合もあり、AT 値に 多少の誤差を生じた可能性も否定できない。しかし今回は臨床的データの提示を目的として いるためこれらも加えて検討した。  緒言で述べたようにこれまで心疾患に対する CPX 指標の研究は主に回復期や維持期の症 例を対象として報告されてきた。特に維持期の症例を対象として生命予後との関係が検討さ れている。即ち、V・E-V・CO2 slope 値は心疾患患者の 40.0 以上あるいは心不全患者の 35.0 以 上が予後不良12) 18)、⊿ VO 2 / ⊿ WR 値は心疾患患者の 7.0 ml/min/W 以下が予後不良18)、 AT 値は心不全患者の 11.0 ml/kg/min 未満が予後不良と報告されている12)。今回の結果か らは、V・E-V・CO2 slope と⊿ V ・ O2 / ⊿ WR 値に関しては後期高齢心不全患者群と開心術群の 全年代群の平均値がこれに該当しており、AT 値に関しては心不全群の全年代群が該当して いた。しかし、これらの先行研究は維持期の症例を対象としているため、急性期症例が対象 である本研究の結果をそのまま適応することは難しい。なぜなら AT 値は回復期において 病状経過とともに増加することが山崎ら36)によって示されているほか、他の CPX 指標も同 様に病状経過とともに改善すると報告されている1), 15), 28)からである。  一方、急性期の心疾患患者を対象とした研究報告が少ない理由として、急性期では病態が 不安定であり、得られた CPX 指標もその病態の影響を強く受けやすく個人差が大きいこと が挙げられる。さらに CPX 指標は病状改善とともに変化していき、長期的指標として援用 しにくい点が推察される。近年では医療費の削減や医療の効率化と標準化を目的としてクリ ニカルパスや診断群分類包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の導入によ り在院日数がますます短縮している。これに伴い入院中の CPX 測定日も過去の研究報告11), 14) と比べて早期化している。したがって、急性期の CPX 指標をまとめる条件や意義が困難に なってきていると言える。しかし退院前における心疾患患者の CPX 指標は運動処方と病状 の理解ならびに退院後の運動指導を行う上で極めて重要である。そして今後は心疾患患者の 再入院率や予後の指標として用いられ研究される可能性もある。本研究は本邦で初めて急性 期男性心疾患患者における退院前の CPX 指標を疾患群別・年代群別に比較し、まとめたも のである。本研究から得られた CPX 指標の平均値は邦人急性期男性心疾患患者を対象とし た場合の参考値を示したと言える。  これより、以下に CPX の 4 つの各指標における疾患群別、年代群別の比較検討を示して

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いく。第一に V・E-V・CO2 slope について述べる。V

E-V・CO2 slope は ACS 群、心不全群におい

て加齢とともに高値を示していた。図 2 に示すように V・E-V・CO2 slope は年齢の影響を受け ており、このことは先行研究13)の結果と合致していた。また、心不全群における後期高齢 者群は疾患群別・年代群別に分類した 9 群の中で最も高値であった。この原因としては、加 齢による生理的影響が換気効率低下の一因と考える。さらに V・E-V・CO2 slope は心不全症状 が重度なほど高値を示すとされている。麻野井6)は、慢性心不全は分時換気量が大きく、 浅く早い換気様式や低心拍出による換気血流不均等分布から生理的死腔を生じるとしてい る。本対象の高齢心不全患者においては年齢の要素に加え上記に示した同様の機序にて換気 効率が低下し、V・E-V・CO2 slope が高値であったと推察する。加えて V ・ E-V・CO2 slope は開心 術群の全年代において高値を示していた。この点については、開胸術後は手術侵襲によって 呼吸機能が低下する21)ことが指摘されている。開心術群は手術後の侵襲や創部痛のために 十分な換気、つまり深呼吸が困難で浅く速い呼吸パターンになっていることや胸部ドレーン 留置による肺コンプライアンス低下が原因と推察される。また開心術後は胸水が貯留するこ とが多く、CPX の際には胸水の有無を確認しているものの、少なからずその後遺症も影響 して換気効率を低下させたのではないかと思われる。加えて換気効率を低下させる因子とし て血管内皮細胞機能や交感神経活性の関与17), 27), 34)が挙げられている。しかし、今回はこれ らの因子を検討していないため明らかにできない。  2 番目に⊿ V・O2 / ⊿ WR について述べる。⊿ V ・ O2/ ⊿ WR は年代群別比較において差はみ られなかった。これは⊿ V・O2/ ⊿ WR の値は年齢の影響が少ないという報告13)を支持する 結果であった。また、⊿ V・O2/ ⊿ WR は異なったプロトコル間の比較には注意を要する13)。 本研究では 10 ワットランプ負荷で 218 名(90.1%)と多くの症例を測定したこと、20 ワッ トランプ負荷は全て中年者群、5 ワットランプ負荷では 10 名中、後期高齢者群 8 名を測定 したが、年代群別比較に差がなかったことからプロトコルの違いによる影響はなかったと考 える。  ⊿ V・O2 / ⊿ WR の値を疾患群別にみると開心術群の値が低い結果であった。この理由に ついても開心術後の浅い呼吸が影響し、仕事量増加に対する十分な酸素摂取量獲得が困難 だったのではないかと推察する。逆に考えると、術後に十分な胸郭運動と深呼吸が可能とな れば改善する可能性がある。今回の結果は入院期の開心術患者について呼吸法に関する指導 や訓練の必要性を示唆するものと考える。高橋ら31)によると心臓手術後の肺活量は術前に 比べて、1 日目で約 48.0%、1 週間後で 72.1%、2 週間後は 80.6%、3 週間でも 88.5%に低下 していたという。そして術後の肺活量回復率は術前の NYHA(ニューヨーク心臓協会)心 機能分類Ⅱに比べⅢの方が不良であったと報告している。つまり術前の心機能が不良だと術 後の肺活量回復率も不良であった。加えて、インセンティブスパイロメーターの使用は肺活 量の回復には効果はなかったことも報告している。また高橋ら30)は開心術後の呼吸理学療

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法に関して、CABG 患者を対象に人工呼吸器離脱後から翌朝まで呼吸理学療法(用手的呼 吸介助)を行った群とコントロール群、インセンティブスパイロメーター群の 3 群を比較し ている。この結果、呼吸理学療法群は他の 2 群に比べ酸素投与期間が短く、他の 2 群はとも に無気肺が 3 例(8.6%)生じたものの呼吸理学療法群では生じなかったと報告している。回 復期心臓手術後症例においては深井ら10)が呼吸訓練の効果を報告している。本研究の対象 者において開心術症例の呼吸訓練は酸素療法に加え、全症例に虚脱肺予防のためマスク型人 工呼吸器を使用している。理学療法士による呼吸訓練については深呼吸に加え、上肢挙上運 動に伴う呼吸訓練(シルベスター法)を実施しているが、その他の呼吸理学療法手技につい ては現状では個別の対応となっている。臨床的に開心術後早期は浅く速い呼吸パターンを呈 し、痰の喀出困難、そして胸骨正中切開後の創部痛や創部離開への恐怖心から前傾姿勢をとっ ており頸部から肩甲帯周辺の疼痛を訴える症例が多い。このような症例に対して軽い用手的 呼吸介助手技を実施すると呼吸パターンの改善とともに「呼吸が楽になった」「深呼吸がで きるようになった」などの訴えや前傾姿勢の改善を経験することがある。しかし、胸骨正中 切開後の症例に対する呼吸介助手技は創部離開や疼痛増強などのリスクがあり、実施者の知 識と経験が必要である。これらの点を踏まえて現段階では必ずしも用手的呼吸介助手技が必 要とは断言できない。そして用手的呼吸介助手技は臨床的には効果的かもしれないことに加 え、高橋らが検証した早期からの呼吸理学療法は呼吸合併症予防には効果はある30)ものの、 退院前の CPX 指標に影響を及ぼしているかは不明であり、今後の検討課題である。さらに は開心術群の中でも弁置換術後の症例については術後早期には置換弁がまだ十分に適応して いない可能性がある。このため心拍出量が十分に確保できない結果、末梢への酸素供給能力 が低下し、仕事量に対する酸素摂取量が低下していることも予測される。この点については、 弁置換術例と他疾患との比較検討や、弁置換術例における病態変化と⊿ V・O2 / ⊿ WR との 経時的推移を合わせて検討すべきであり、これも今後の課題である。  3 番目に AT について以下に述べる。AT 値は各疾患群とも年代間に統計学的な差はみら れなかった。疾患群別の比較では後期高齢者群においては心不全群が ACS 群に比べ有意に 低値で、開心術と比べると有意差はないもの低い値であった。このことは心不全群の後期高 齢者群は特に運動耐容能が低いことを示している。今回、AT は年齢との間に関連性を認め なかったことから AT が低値であることは単に加齢が原因とは判断できない。だが、心不 全は異なる基礎心疾患からなる総称的な症候群であり長期的な病歴を辿ることが多い。後期 高齢者ともなると、もともと心機能が低く、慢性心不全からの急性増悪となり入院したケー スも多いと思われる。つまり、今回の入院前から慢性心不全を抱えており、日常の身体活動 量が低い状態であったと推察され、その結果、運動耐容能が低く CPX にて低い AT 値であっ たと考えられる。  慢性心不全を対象とした運動耐容能からみた心機能分類として、Weber と Janicki の分類35)

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がある。これによると、AT レベルでは、クラス A(無症状~軽症)> 14、クラス B(軽 症~中等症)11 ~ 14、クラス C(中等症~重症)8 ~ 11、クラス D(重症)5 ~ 8、クラス E(非常に重症)< 4(ml/kg/min)に分類されている。この基準を参考にすると今回の心 不全群の平均値は全てクラス C に該当しており、中等症~重症となる。しかし、このデー タ分類は欧米人を対象とした慢性心不全患者である。本研究の対象は急性期であることや日 本人の運動耐容能は欧米人よりも低いため日本人に当てはめることは適切でない4)という 意見もあり、単純には検討できず参考資料にとどめるべきである。  また、開心術群は有意差がないものの全年代で低い AT 値を示した。この点についても V・E-V・CO2 slope や⊿ V ・ O2 / ⊿ WR と同様、呼吸機能低下による換気効率の低下により運動 時の十分な末梢への酸素供給が低下し運動耐容能が低下していたことが原因と推察される。 開心術群のうち、術前の日常活動状態を考えると CABG 施行例つまり冠動脈疾患は比較的 保たれていたと思われるが、重度の弁膜症患者は労作時の息切れを生じ、心不全症状を抱え ており、低い日常活動機能であったことが推察される。今回は CABG 例と弁膜症例を開心 術群としてまとめているため検討はできないが、今後はこれらを疾病別に比較検討すべきで ある。  4 番目に運動処方強度について述べる。運動処方強度は、疾患群別比較では中年者群と前 期高齢者群において開心術群が ACS 群に比べて有意に低かった。この理由として ACS 群 の中年群はもともと体力があり、合併症も少ない軽症例が多かったため運動耐容能が高く、 運動処方強度が高かったと考えられる。一方、開心術群の中年者群は前述のごとく、呼吸機 能低下による換気効率や仕事量増加に対する十分な酸素摂取量が獲得できずに運動処方強度 が低値であったと考える。特に弁膜症患者は前述のごとく術前から低い日常活動状況だった のではないかとも推察される。また、心不全群における後期高齢者群の運動処方強度は中年 者群と前期高齢者群に比べて有意に低く、疾患群別・年代群別に分類した 9 群で最も低かっ た。これは AT の結果を用いて運動処方強度を算出するため、AT において心不全群の後期 高齢者群が低値であった原因と同様のことが背景にあると解釈される。高齢心疾患患者、特 に心疾患の終末像である心不全患者は心機能をはじめ全身状態が著しく低下し、合併症を有 することも多い。歩行に介助を要する場合や日常生活能力も低いため、CPX が実施できな い症例も多数存在する。今回の対象者は AT レベルまでではあるが CPX を完遂しており、 高齢心不全患者の中でも比較的身体機能が良好な症例群に該当すると思われる。  CPX 指標と心機能との関連性に関しては、今回、CPX 指標と LVEF には強い相関関係は 認めず、LVEF は直接 CPX 指標には影響していなかったと考える。また、E/E’ は一部で弱 い相関を認めたものの、相関係数は低く、心疾患の病態に影響を及ぼしているものの、CPX 指標結果には大きく関与していなかったと思われる。  今回の退院前 CPX 指標の結果からは後期高齢心不全患者群と全年代の開心術群は診断群

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別・年代群別に比較して不良であった。したがって、これらの対象者は心肺機能からみて退 院後の経過を注意深く観察するほか、心肺機能や運動耐容能改善を図るため外来での心リハ を推進していく必要があると考える。本研究の CPX 指標の結果が退院時における男性心疾 患患者のデータとして臨床現場の参考になれば幸甚である。

Ⅷ 研究の限界

 本研究の対象は急性期であり、投薬内容の変更も大きく、CPX に対する投薬の影響を十 分に検討できなかった。また、症例数については ACS 群に比べて心不全群と開心術群が少 なく、これらは年代群の分類によって後期高齢者群の該当者数はさらに少なくなった。今後 は症例数を増やして検討を進めるとともに、女性患者についても検討を加えたい。また、症 例数を増やし標準化するために多施設大規模調査等の実施も一案と考える。

Ⅸ まとめ

 退院前における急性期男性心疾患患者 242 名を対象に自転車エルゴメーターによる CPX を実施し、得られた指標を疾患群と年代群別に分類し比較検討した。その結果、後期高齢心 不全群は V・E-V・CO2 slope において疾患群別・年代群別分類のうち最も高値であり、AT、運

動処方強度においては最も低値であった。また、後期高齢心不全群と開心術群の各年代群は ⊿ V・O2 / ⊿ WR が低値であった。これらの症例は退院前 CPX 指標からみてその後の経過を 注視する必要性が示唆された。

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(25)

The Cardiopulmonary Exercise Testing Indices at

Hospital Discharge in Male Patients with Acute Heart

Disease: A Case Comparison Study on Age and Disease

TATSUKI, Hiroaki

Background: Cardiopulmonary exercise testing (CPX) are often measured in healthy

subjects or patients with chronic heart disease, however little data is reported in patients with acute heart disease.

Purpose: To examine the difference of CPX indices on age and diagnosis in male patients

with acute heart disease.

Methods: Two-hundred and forty-two male patients (131 middle age, 78 young-old and 33

old-old age) with acute heart disease groups (170 patients group with acute coronary syndrome, 41 patients group with heart failure, and 31 patients group who had cardiac surgery), from January 2010 to March 2013, participated. CPX indices (V・E-V・CO2 slope,

⊿ V・O2 / ⊿ WR, anaerobic threshold :AT and the exercise prescription strength) were

measured by a bicycle ergometer. These indices were compared across 3 ages and 3 diagnostic groups.

Results: V・E-V・CO2 slope, AT and prescribed exercise strength became worse depend on

age with older ages in all groups. ⊿ V・O2 / ⊿ WR were poor in patients with cardiac

surgery and the old patients with heart failure.

Discussion: These results indicated that old age patients had a low level of physical

capacity. In particular, the old patients with heart failure may result from a low activity level. The patients who had cardiac surgery might have a low ventilation efficiency.

Conclusion: CPX indices were poor in the old patients with heart disease and patients

who had cardiac surgery.

Key words

参照

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