【症例】A型急性大動脈解離併発後に破裂した腹部大動脈瘤の1救命例
5
0
0
全文
(2) 114. 日血外会誌 14巻 2 号. Fig. 1. a. b. c. d. Preoperative CT. Type A aortic dissection. (a) Diameter of the ascending aorta was 60 mm. (b) Pericardial effusion. (c) ruptured AAA (*) and double inferior vena cava (↑). (d) Aortic dissection had extended itself across the infrarenal AAA which size was 65 mm.. a Fig. 2. b. c. Operative finding. (a) Fenestration was performed at the proximal anastomotic site. (b) A sandwich type reinforcement, 10 mm cover of the prosthetic graft from inside of the native aorta and a felt strip on the outside likewise. (c) Proximal anastomosis was completed.. 胸部および腹部CT:上行大動脈から腹部大動脈に及. 離を発症し,解離は以前から存在した腹部大動脈瘤に. ぶA型大動脈解離で,上行大動脈は60mmに拡大し,少. 進展した.急性期は辛うじてことなきを得たが,血圧コ. 量の心嚢水が貯留していた.解離は,腎動脈下で最大. ントロールも全くなされていないことから腹部大動脈瘤. 径65mmの壁に石灰化を伴う紡錘状腹部大動脈瘤を越. 破裂を起こしたと診断し,直ちに緊急手術を行った.. え,両側腸骨動脈にまで進展していた.腹部大動脈瘤. 手術および経過:腹部正中切開にてアプローチし. 周囲には血腫を認め,破裂を疑った.また,重複下大. た.淡血性の腹水があり,後腹膜には多量の血腫を認. 静脈も合併していた(Fig. 1).. めた.破裂部位は瘤の起始部にあった.左側下大静脈. 以上,総合して考えると,約 1 カ月前にA型大動脈解. は血腫の中にうもれていて,瘤の起始部の頭側で右側. 52.
(3) 2005年 4 月. Fig. 3. 115. 石神ほか:A型急性解離併発後の腹部大動脈瘤破裂. Postoperative CT. (a) The false lumen of the thoracic aorta had disappeared. (b) Localized dissection was left in the abdominal aorta. (c) No false aneurysm were found at the proximal anastomotic site.. 下大静脈に合流していた.慎重に同部の剥離操作を行. a. b. c. 考 察. い,腎動脈下で遮断可能であった.瘤を切開してみる と解離は瘤内に進展していた.人工血管の中枢側吻合. 真性大動脈瘤と急性大動脈解離の合併の頻度は. は解離腔を開窓するべく解離した内膜を一部切除し. Cambriaら 1)は急性大動脈解離325例中18例(5.5%),. double barrel様に吻合した.外膜は解離の急性期に比べ. Robertsら2)は182例中13例(7.1%),黒田ら3)は83例中 7. ややしっかりしているものの,薄く脆弱であったので,. 例(8.4%)に認められると報告しており稀ではない.し. 外側はフェルトを用いて,内側は人工血管を約 1cm内. かし,解離が真性瘤と同じ部位に存在した例になる. 挿することで壁の補強とした.また人工血管は18mmを. と,Cambriaら1)は 5 例(1.5%),黒田ら3)は 1 例(1.2%). 選択し腹部大動脈との口径差をなるべく小さくした. と報告し,頻度はかなり少なくなる.真性大動脈瘤の. (Fig. 2).末梢側は右総腸骨動脈と左外腸骨動脈に吻合. 部位としてはCambriaら1)は83%,黒田ら3)は71%で,腹. し,Y字人工血管置換術を施行した.. 部が最も多かったとしている.. 術後は厳重な血圧管理を行い,A型解離の合併症を心. Cambriaら1)は合併形態から以下の 3 つのグループに. エコーとCT検査で慎重にフォローアップしながら全身. 分けている.腹部大動脈瘤手術後に急性大動脈解離が. 状態の改善に努めた.. 発症したGroup 1,解離が腹部大動脈瘤に達していない. 術後15日目にA型大動脈解離に対して手術施行した.. Group 2,そして解離が動脈瘤に達している Group 3で. 心嚢水は漿液性,上行大動脈は暗紫色で65mmに拡大し. ある.なかでもGroup 3は破裂の危険性が高く,著しく. ていた.右腋窩動脈送血,上下大静脈脱血にて体外循. 予後不良としている.Cambriaら1)の報告にある 5 例す. 環開始.上行大動脈を遮断し切開してみると,エント. べての腹部大動脈瘤が破裂し,手術が行われているが,. リーは上行大動脈にあり,大動脈弁はインタクトで. 術後の遺残瘤破裂で 3 例が死亡,腎合併症で 1 例死亡,. あった.内外膜を固定,解離腔内にGRFグルーを注入. 胸腹部大動脈人工血管置換術を施行した 1 例のみが生. し解離腔閉鎖した.超低体温下循環停止とし弓部大動. 存という結果で,予後不良であるとしている.佐々木. 脈内を観察すると,新たなエントリーはなく,脳分離. ら4)も保存的に治療した61例の急性B型解離を検討し真. 体外循環併用し上行大動脈人工血管置換を行った.. 性瘤との合併が遠隔予後を不良とする因子の 1 つであ. 術後経過はとくに問題なく順調であった.血圧コン. るとしている.本症例も上記Group 3にあたり,A型解. トロールも良好で,緊急入院より43日目に軽快退院し. 離発症約 1 カ月後に腹部大動脈瘤が破裂したものと推. た.. 測される.. 術後CT検査:術後 1 年 6 カ月でのCTで胸部大動脈. 本症例においては,我々は破裂した腹部大動脈瘤に. の解離腔は消失.腹部大動脈は右腎動脈と人工血管と. 対する手術を先行せざるを得なかった訳であるが,中. の間の小範囲に限局した解離腔の残存を認めたが径の. 枢側の解離腔が開存している際の人工血管吻合には工. 拡大はなく,人工血管の中枢側吻合部での仮性動脈瘤. 夫が必要であり,Cambriaら1)は解離腔の開窓を推奨し. の形成も認めなかった(Fig. 3).. ている.我々も同様に,解離した内膜を一部切除し. 53.
(4) 116. 日血外会誌 14巻 2 号. double barrel吻合を行ったが,吻合部の壁強度,とくに. い.自験例はA型急性大動脈解離併発後に破裂した重複. 解離した外膜の強度が問題である.. 下大静脈合併腹部大動脈瘤の手術報告であり,本邦で. 最近解離腔の経時的変化についての検討が報告され. は初めての報告例であると思われる.. はじめている.田村 5)は剖検例において,解離腔の経時. 結 語. 的組織変化を検討した結果,偽腔開存型では 2∼3 週で 外膜側より新生内膜の形成がみられ,内膜側ではこれ. 1) 真性腹部大動脈瘤にA型急性大動脈解離が合併,進. より遅れ,1 カ月までに外膜側よりも薄い新生内膜が形. 展し,破裂した症例を経験した.緊急に腹部大動脈瘤. 成され,全体として 1∼2 カ月で完成し,以後は新生内. 切除,人工血管置換術を行い,厳重な血圧管理のもと. 膜の厚さには大きな変化はなく経過していたことを明. 15日目にA型解離に対し上行大動脈人工血管置換術を施. らかにした.また細田,高橋は外科手術材料を用いて. 行し救命し得た.本症例では重複下大静脈をも合併し. 解離腔の経時的変化を検討している.細田ら6)は 6 つの. ており本邦初の報告例と思われる.. 時期に分類している.すなわち,① フィブリン付着期. 2)解離発症 1 カ月での腹部大動脈人工血管置換術に. (発症後 1 日前後) ,② 平滑筋反応期 (発症後 5 日前後) ,. おいては,中枢側吻合は解離腔を開窓したdouble barrel. ③ 新生内膜初発期(発症後約 1 週間),④ 新生内膜増. 吻合が望ましく,今回のフォローアップから我々の人. 生期(発症後約 2 週間),⑤ 新生内膜再生期(発症後約. 工血管内挿法は安全で妥当な吻合方法と考えられる.. 1 カ月前後),⑥ 新生内膜成熟期(発症後約 2∼3 カ月) の 6 期で,さらに約 6 カ月以後より新生内膜に粥状硬. 文 献. 化等が認められるとしている.高橋ら7)は解離壁のリモ. 1) Cambria, R. P., Brewster, D. C., Moncure, A. C., et al.:. デリングは解離壁の脆弱性を補うための外膜の線維化. Spontaneous aortic dissection in the presence of coexistent. および偽腔面の動脈化よりなるが,解離壁の中膜平滑. or previously repaired atherosclerotic aortic aneurysm. Ann.. 筋をよく保つようにしながら行われているようである. Surg., 208: 619-624, 1988.. とした.外膜は20日後には炎症細胞浸潤はほぼ落ち着. 2) Roberts, C. S. and Roberts, W. C.: Combined thoracic aortic. き,厚い線維化の層が完成するが,偽腔面の瘢痕化は. dissection and abdominal aortic fusiform aneurysm. Ann. Thorac. Surg., 52: 537-540, 1991.. 60日後には密で層状の膠原線維組織よりなり,いわゆ. 3) 黒田弘明,本田 祐,芦田泰之,他:真性大動脈瘤を. る完成した偽腔面の動脈化の形を取るとした.. 合併した大動脈解離症例の検討.日心外会誌,24:1-. 以上,諸家の報告から推察するに解離壁の外膜側の. 5,1995.. 強度はおよそ 2 カ月でほぼ確立するのではないかと思. 4) 佐々木建志,田中茂夫,池下正敏,他:B型急性大動. われる.よって,本症例のように解離発症 1 カ月での. 脈解離,非手術症例の遠隔予後と残存解離腔の運命.. 外膜の強度は脆弱で心もとないものと思われる.今ま. 日心外会誌,22:322-327,1993.. でこの時期の,解離腔を開窓しての人工血管吻合方法. 5) 田村浩一:大動脈解離の病理−解離腔の経時的変化に. については論じられてこなかった.我々は外側はフェ. ついて−.ICUとCCU,22:115-121,1998. 6) 細田泰弘,松山 淳,赤坂喜清:解離性大動脈瘤の病. ルトを用い,内側は人工血管を約 1cm内挿することで脆. 理学的検討.臨床科学,26:453-459,1990.. 弱な壁の補強とした.また大動脈と人工血管との口径差. 7) 高橋正人,増田弘毅:大動脈解離―新しい展開―8 . を小さくすることで吻合部解離壁にかかる力の軽減に努. 病理.病型分類.Heart View 5:1292-1297,2001.. めた.術中の出血もなく,術後約 1 年半のCTおよびMRI. 8) 安藤精一,緑川博文,高瀬信弥,他:重複下大静脈に. 検査においても瘤径の拡大や仮性動脈瘤の形成もみられ. 合併した腹部大動脈瘤の 1 手術例.外科,59:365-. ず,我々の人工血管内挿法は安全で妥当な吻合方法と考. 368,1997.. えている.今後も注意深くフォローアップしたい.. 9) Hans, S. S. and Gordon, M.: Double inferior vena cava and. 重複下大静脈に合併した腹部大動脈瘤の手術報告は. abdominal aortic aneurysm. J. Cardiovasc. Surg., 26: 76-. 極めて少なく,安藤8),Hans9)らの報告があるに過ぎな. 78, 1985.. 54.
(5) 2005年 4 月. 石神ほか:A型急性解離併発後の腹部大動脈瘤破裂. 117. Surgical Rescue in a Case of Ruptured Abdominal Aortic Aneurysm with a Double Inferior Vena Cava Following Acute Type A Aortic Dissection Naoyuki Ishigami and Kimitoshi Horiba Department of Cardiothoracic Surgery, Fujieda Municipal General Hospital Key words: Type A aortic dissection, Rupture of the abdominal aortic aneurysm, Fenestration, Double inferior vena cava. A 63-year-old woman, who experienced chest pain about one month previously, was urgently admitted to our hospital because of increasing abdominal pain. Echocardiography and CT scan showed a Stanford type A aortic dissection which had extended itself across the preexisting infrarenal abdominal aortic aneuyrysm(AAA). The diameter of the ascending aorta was 60 mm, and the AAA was dilated to 65 mm, with surrounding retroperitoneal hematoma. A double inferior vena cava was also recognized. We performed emergency laparotomy under a diagnosis of ruptured AAA following type A aortic dissection. Massive hematoma was found in the retroperitoneum and dissection had extended to the left common iliac artery. Fenestration was performed at the proximal anastomotic site in a doublebarrel form. Only a month after onset, the adventitia was still fragile, requiring a sandwich type reinforcement, with 10 mm covering of the prosthetic graft from inside the native aorta and also a felt strip on the outside. Keeping the blood pressure under strict control, we moved on to operate on the type A aortic dissection on the 15th day. The entry was found in the ascending aorta which was dilated to 65 mm, thus we replaced only the ascending aorta with a prosthetic graft. We experienced no postoperative complications and the patient was discharged 50 days after her first operation. Postoperative CT revealed that the false lumen of the thoracic aorta had disappeared, leaving a localized lumen in the abdominal aorta, which had not increased in diameter. No false aneurysm was found at the proximal anastomotic site. (Jpn. J. Vasc. Surg., 14: 113-117, 2005). 55.
(6)
図
関連したドキュメント
信心辮口無窄症一〇例・心筋磁性一〇例・血管疾患︵狡心症ノ有無二關セズ︶四例︒動脈瘤︵胸部動脈︶一例︒腎臓疾患
仙骨の右側,ほぼ岬角の高さの所で右内外腸骨静脈
10例中2例(症例7,8)に内胸動脈のstringsignを 認めた.症例7は47歳男性,LMTの75%狭窄に対し
および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値
49)Erlebach M, Wottke M, Deutsch MA, et al: Redo aortic valve surgery versus transcatheter valve-in- valve implantation for failing surgical bioprosthetic valves: Consecutive
A connection with partially asymmetric exclusion process (PASEP) Type B Permutation tableaux defined by Lam and Williams.. 4
いられる。ボディメカニクスとは、人間の骨格や