20. 膵胆管合流異常の胆道発癌における炎症と DNA 障害に関する検討
-ハムスター胆道上皮細胞を用いた研究
浜松医療センター 消化器外科 北里 周 <はじめに> 膵胆管合流異常では高率に胆道癌の合併がみられる。膵胆管合流異常では、解剖学的に膵管と胆 管が十二指腸壁外で合流することで Oddi 括約筋作用が膵胆管合流部に及ばないために膵液と胆 汁の相互逆流が生じ、膵液と混和した胆汁が胆道内にうっ滞することで胆道粘膜が慢性的に炎症 刺激を受け胆道癌が惹起されると考えられている。しかしながら、その詳細な機序については不 明な点も多い。近年、胆道上皮の発癌過程において酸化ストレスによる DNA 障害の関与が示唆さ れており、慢性炎症と酸化ストレスが胆道上皮細胞に与える影響について解明が求められる。我々 はこれまでにハムスターを用いた実験で、胆道の慢性炎症と胆道発癌の関連性を示してきた。今 回、ハムスター胆道上皮細胞を用いて行った炎症と酸化ストレス(特に誘導型一酸化窒素合成酵 素(iNOS)発現と一酸化窒素(NO)産生)および DNA 障害に関する実験について紹介する。 <材料と方法>5-6 週齢雌性 Syrian golden hamster を用い、コラーゲンゲル培養法によりハムスター正常胆嚢 上皮細胞を分離して、培養液のみを加えた Control 群、サイトカイン刺激(Cytokine mixture; IL-β、IFN-γ、TNF-α)を加えた CM 群、さらに Cytokine mixture と iNOS 阻害剤である L-N(G)-monomethyl arginine(L-NMMA)を加えた L-NMMA 群を作成し、以下の項目を検討した。
検討項目
(1) HPLC 法にて、培地内に存在する NO2 および NO3 の濃度を測定。
(2) RT-PCR 法にて、Control 群と CM 群における iNOS mRNA の発現について検討。 (3) Comet Assay 法を用いて、NO によって障害された DNA の割合を評価。
<結果>
(1) NO2/NO3 濃 度 は 、 Control 群 が 10.35±0.47uM 、 CM 群 が 11.06±0.18uM 、 L-NMMA 群 が 10.46±0.18uM で、Control 群と比べ CM 群で有意に高値を示した(p<0.001)。また、L-NMMA 群 の NO2/NO3 濃度は Control 群と同程度まで減少し、CM 群と比べ有意に低値を示した(p<0.001)。 (図)
(2) RT-PCR による検討では、CM 群において iNOS mRNA の発現を認めた。
(3) 傷害された DNA の割合は Control 群 2.14±0.59%、CM 群 5.14±0.69%、L-NMMA 群 1.70±0.62% であり、CM 群は Control 群と比べ有意に高値を示し(p<0.001)、L-NMMA 群は CM 群と比べ有意 に低値を示した(p<0.001)。 <考察> サイトカイン刺激により、正常胆嚢上皮細胞での NO 産生は著明に増加し、この NO 産生は iNOS 阻
要望演題 3
32害剤を加えることで抑制された。また、サイトカイン刺激下で胆嚢上皮細胞に iNOSmRNA の発現を 認めたが、非刺激群では認めなかった。このことから、ハムスター正常胆嚢上皮細胞において、 サイトカイン刺激により iNOS 発現と NO 産生が促進されることが示された。さらに comet assay 法による DNA 障害の評価では、サイトカイン刺激群で DNA 障害が有意に高度であり、この DNA 障 害は iNOS 阻害剤により抑制された。これらの結果から、正常胆嚢上皮細胞においてサイトカイン 刺激により iNOS を介した DNA 障害が誘導されることが示された。 <結語> 炎症を基盤とした胆道発癌過程の一つとして、iNOS 発現を介した NO 産生による DNA 障害の関与 が示唆された。 (図) 33