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学位授与番号 13301甲第4892号

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Academic year: 2022

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(1)

肝障害性薬物ビルダグリプチンのチオール基に対す る共有結合性に関する研究

著者 水野 克彦

著者別表示 Mizuno Katsuhiko

雑誌名 博士論文要旨Abstract 

学位授与番号 13301甲第4892号

学位名 博士(創薬科学)

学位授与年月日 2019‑03‑22

URL http://hdl.handle.net/2297/00058895

doi: https://doi.org/10.1016/j.bcp.2018.08.043

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学 位 授 与 の 日 付 学 位 授 与 の 要 件 学 位 授 与 の 題 目

論 文 審 査 委 員

水野 克彦 博士(創薬科学)

医薬保博甲265 平成31322

課程博士(学位規則第4条第1項)

肝障害性薬物ビルダグリプチンのチオール基に対する共有結合性 に関する研究

主査 中島 美紀 副査 玉井 郁巳 副査 加藤 将夫 副査 中西 猛夫 副査 深見 達基

(3)

学位論文要旨

学位論文題名

肝障害性薬物ビルダグリプチンのチオール基に対する共有結合性に関する研究

英文題名

Novel metabolites of vildagliptin, covalently bound to thiol residues of biomolecules

専攻創薬科学専攻

研究室:薬物代謝安全性学研究室 氏名:水野 克彦

主任指導教員氏名:中島 美紀

(4)

【Abstract】

Vildagliptin, which is used to treat type 2 diabetes, rarely causes to liver injury as an adverse reaction.

A case report suggested the involvement of immune responses in the hepatotoxicity. The aim of this study was to investigate whether vildagliptin has the potential to covalently bind to macromolecules in cells, a process that could initiate immune-mediated hepatotoxicity. By in vitro incubation,

vildagliptin and anagliptin, containing a cyanopyrrolidine moiety, rapidly reacted with L-cysteine in a non-enzymatic manner. Structural analysis of the vildagliptin- and anagliptin-cysteine adducts, termed M407 and M487, respectively, revealed that nitrile moieties of them were irreversibly converted to a thiazoline acid. After single oral administration of vildagliptin to male Sprague Dawley rats, M407 was detected in plasma. Sum of urinary and fecal excretions of M407 up to 48 h reached 2% of the dose. It was demonstrated, using bile duct-cannulated rats, that M407 was secreted to bile as a glucuronide, termed M583. Another novel glutathione-conjugated metabolite of

vildagliptin, M464 was detected in feces and bile. Formation of M464 was confirmed by in vitro study. In conclusion, this study clarified that vildagliptin has a potential to irreversibly and covalently bind to thiol residues in proteins, being relevant to idiosyncratic DILI in humans.

【背景・目的】

薬物性肝障害は医薬品の開発中止や上市薬の市場撤退の主要原因のひとつである。特に、

特異体質性肝障害は発症頻度が非常に低いため、非臨床試験や臨床開発早期における検出は 困難である。特異体質性機序による副作用の発症メカニズムは、アレルギー性と非アレルギ ー性に分類され、後者では適応免疫の寄与が疑われる。薬物あるいはその反応性代謝物の細 胞内高分子への不可逆的な共有結合により生体内の免疫応答が惹起され、免疫学的機序の肝 障害に至る場合がある。共有結合により生成した薬物-蛋白質複合体はハプテンと呼ばれ、

ネオアンチゲンの生成を誘導し、免疫反応の引き金となる。

求電子性の薬物やその反応性代謝物は、蛋白質内の求核性置換基、主にシステインのチオ ール残基に結合する。そのため、チオール残基を有する還元型グルタチオン (GSH) やその 構造類似体が、in vitroにおける求核性トラッピング試薬として汎用されている。薬物のグ

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ルタチオン抱合体はin vivoではシステイン付加体へと加水分解され、さらにアセチル化を 受けメルカプツール酸へと代謝される。これらの代謝物は共有結合能の指標に用いられる。

ビルダグリプチンはジペプチジルペプチダーゼ-4 (DPP-4) 阻害薬で、2型糖尿病の治療薬 である。その重篤な副作用として低頻度ながら肝障害が報告されている。肝障害患者では薬 剤誘発性リンパ球刺激試験が陽性であったことより、肝障害の発症に免疫応答が関与するこ とが示唆されている。近年、ビルダグリプチンがヒト肝細胞に対する共有結合能を有するこ とが報告されたが、その反応機序は明らかにされていない。本研究では、ビルダグリプチン 誘導性肝障害の発症メカニズムの解明に向けて、ビルダグリプチンがどのような機序で生体 内の蛋白質に対して共有結合するか明らかにすることを目的とした。

【結果・考察】

(1) 求核試薬存在下におけるDPP-4阻害薬と代謝物の安定性

ビルダグリプチンとそのカルボン酸代謝物であるM20.7ならびに他のDPP-4阻害薬 (ア ナグリプチン、アログリプチン、シタグリプチンおよびリナグリプチン) の共有結合性をin

vitroで比較検証した。ヒト酵素源 (ヒト肝ミクロソーム (HLM) またはサイトゾル (HLC))、

求核試薬 (GSHまたはL-システイン) 等と37˚Cで所定時間反応させた後、被験薬の安定性 を液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計 (LC-MS/MS) で評価した。その結果、酵素 源の有無に関係なくL-システインを含む反応液でビルダグリプチンの安定性が低下し、半減 期は約20分と算出された。一方、GSHを含む反応液および求核試薬を含まない反応液中で は安定であった。これより、GSHよりもL-システインのほうがビルダグリプチンの捕捉に 適していると考えられた。ビルダグリプチンと同じシアノピロリジン構造を有するアナグリ プチンでも、ビルダグリプチンと類似した結果が得られ、その半減期は約30分と算出され た。シアノピロリジン構造を有さないM20.7、アログリプチン、シタグリプチンおよびリナ グリプチンはいずれの条件下でも安定であった。したがって、ビルダグリプチンとL-システ インとの反応は非酵素的であり、DPP-4阻害薬のシアノピロリジン構造が関わっていること を明らかにした。

(2) システイン付加体M407とM487の構造決定

システイン存在下におけるビルダグリプチンの減衰に伴いシステイン付加体が生成され ることが考えられたため、高分解能液体クロマトグラフィー-質量分析計 (LC-MS) と核磁気

(6)

共鳴 (NMR) を用いて生成物の構造決定を行った。ビルダグリプチンをL-システインと2 時間反応させて得られた生成物をM407と命名し構造解析した結果、M407はシアノピロリ ジン構造のニトリル基がシステインと不可逆的に反応してチアゾリンに変換されたもので あることが明らかになった。アナグリプチンについても同様の検討を行った結果、生成物と してチアゾリン酸を含むシステイン付加体であるM487が検出された。これより、ビルダグ リプチンはシステイン残基を有する蛋白質に対して不可逆的に共有結合することが示唆さ れた。不可逆的な共有結合は、ビルダグリプチンによる特異体質性肝障害の発症メカニズム のひとつと推定される。

(3) システイン付加体生成の速度論的解析と物質収支

ビルダグリプチンまたはアナグリプチンから生成するシステイン付加体の生成速度を検 討した。ビルダグリプチンをヒト肝画分の存在下または非存在下でL-システインと反応さ せた結果、ビルダグリプチン濃度の減衰と並行してM407の生成が認められ、反応中の物質 収支は一定であった。さらに各濃度-時間推移を基にビルダグリプチンの半減期とM407の 生成速度定数 (kpr) を算出した結果、HLMまたはHLCの存在下においても各パラメータの 有意な変動は認められなかった。アナグリプチンからのM487の生成についても同様の結果 が得られた。これらの結果より、チアゾリン酸生成物の生成過程においてシトクロムP450 やDPP-4のようなヒト肝酵素の寄与はほとんどないと考えられた。

M407生成反応について酵素非存在下で種々の反応条件を比較検討した結果、反応温度の 低下に伴いM407のKprは低下し、反応速度の温度依存性が認められた。M407のkprL-シ ステイン濃度と正比例に増加したが、基質濃度を変動させても一定であった。また基質濃度

およびL-システイン濃度の増加に対するkprの飽和は認められなかった。M407のkprは酸性

条件と比較してアルカリ条件で高値を示した。これらの結果は、M407が非酵素的反応によ り生成するという仮説と矛盾しなかった。

(4) ラットにおけるビルダグリプチンと代謝物の血漿中薬物動態と排泄

M407のようなビルダグリプチンのチオール付加体が生体内で生成しているか調べるため、

非絶食の雄性SDラットに30 mg/kgのビルダグリプチンを経口投与し、ビルダグリプチンと

代謝物 (M20.7とM407) の血漿中濃度推移、尿、糞および胆汁中排泄を評価した。M20.7

の血漿中濃度はビルダグリプチンよりも高値を示した。また血漿中においてM407も検出さ

(7)

れ、M407のAUCinfはビルダグリプチンの約1%であった。これより、M407は生体内にお いても生成していることが明らかになった。M407は尿中より糞中で多く検出され、総排泄 率は投与量の約2%であった。次に、糞中に検出されたM407が生体内で生成されたものか 確認するため、胆管カニューレ処置ラットにビルダグリプチンを投与し、胆汁サンプルを分 析した結果、ビルダグリプチンとM20.7に加えて、M407も胆汁中で検出された。これより、

糞中で検出されたM407は生体内で生成されたものであることが示された。

(5) ラット血漿、尿、糞および胆汁中の代謝物検索

さらなる代謝物情報を得るため、正常ラットと胆管カニューレ処置ラットから得た血漿、

尿、糞および胆汁サンプルを高分解能LC-MSで分析した。未知のチオール付加体代謝物を 検出するため、フルスキャンモードで得られたプリカーサーイオンのマススペクトルを網羅 的に解析し、投与サンプルに特異的なピークをすべてピックアップした。各ピークの測定精 密質量から推定分子式を算出した後、プロダクトイオンスペクトルを基に構造推定し、ビル ダグリプチン由来のチオール付加体代謝物かどうか判別した。その結果、胆汁中にM407の グルクロン酸代謝物であるM583を検出し、尿、糞および胆汁中に含チアゾリンGSH付加 体であるM464を検出した。以上より、ラット生体試料中において、既知代謝物に加え新た に2種のチオール付加体代謝物、M583とM464を見出した。

(6) ラットにおける胆汁中M583排泄率

M407のグルクロン酸抱合体であるM583は胆汁中に検出されたが、糞中では検出されな かったため、胆汁排泄されたM583が消化管内のβ-グルクロニダーゼ等で脱抱合されて M407に変換されている可能性が考えられた。本仮説を検証するため、胆汁サンプルをβ-グ ルクロニダーゼ処理した後のM407排泄率を算出した。β-グルクロニダーゼ処理時と未処理 時のM407胆汁中排泄量の差を基に、M583の胆汁中排泄率を算出した結果、投与量の約0.1%

であった。ビルダグリプチンのグルクロン酸抱合体であるM20.2についても類似した結果 が得られ、M20.2の胆汁排泄量は投与量の約33%と算出された。以上より、胆汁排泄された M583は消化管内のβ-グルクロニダーゼにより脱抱合されてM407へと変換されることが示 唆された。

(7) In vitroにおけるビルダグリプチンとGSHとの反応におけるM464生成

M464の構造はL-システインの共有結合により生成するM407と類似していたため、M464

(8)

はM407と類似したメカニズムにより、すなわちGSHによる共有結合と脱アンモニア反応 により生成すると推測された。この仮説を検証するため、ビルダグリプチンをGSHと24 時間反応させ生成物を検索した。その結果、生成物としてM464とM611を検出した。M464 はラット尿、糞および胆汁中で認められたものと一致したため、ラットin vivoで認められ たM464はビルダグリプチンとGSHとの共有結合により生成することが示唆された。M611 のGSH抱合部位はシアノピロリジンのニトリル基で、M464と同じであったため、ビルダ グリプチンの共有結合性においてニトリル基の寄与が大きいことが示唆された。さらに M611はチアゾリン構造を有していなかったため、ビルダグリプチンのGSHへの共有結合 には、チアゾリンの環化を伴わない反応様式が存在することが明らかになった。しかしラッ トの血漿、尿、糞および胆汁中において、M611や想定される代謝物であるシステイン抱合 体およびメルカプツール酸代謝物が検出されなかったことから、M611の生成はin vitroに限 定的なものであるか、もしくはin vivoではM611はさらなる代謝物に代謝された可能性も考 えられる。以上より、ラットの代謝物であるM464はビルダグリプチンのGSH抱合により 生成すること、またGSH抱合によりチアゾリンの環化を伴わないM611が生成することを 明らかにした。

【結論】

本研究では、ビルダグリプチンがin vitroおよびラットin vivoにおいて、L-システインお よびGSHのチオール基に不可逆的に共有結合することを明らかにした。これより、ビルダ グリプチンがヒトin vivoにおいて生体内の蛋白質に不可逆的に共有結合することが示唆さ れた。ビルダグリプチンによる特異体質性肝障害は不可逆的な共有結合により惹起される可 能性があると考えられ、さらなる発症機序の解明や、臨床における肝障害の回避に向けて有 用な情報を提供できた。

(9)

審査結果の要旨

2型糖尿病治療薬であるビルダグリプチンの副作用として、低頻度ながら肝障害が報告さ れている。肝障害の発症に免疫応答の関与が示唆されているものの、発症機序は明らかにな っていない。本研究は、ビルダグリプチンによる肝障害の発症機序の解明に向けて、ビルダ グリプチンが生体内の蛋白質に共有結合する可能性を、L-システインとグルタチオン (GSH) に対する共有結合性に着目して検討したものである。ビルダグリプチンは非酵素的にL-シス テインと共有結合すること、そのシステイン付加体M407はシアノピリミジン構造のニトリ ル基がチアゾリンに変換されたものであることをin vitro実験により見出した。また、ビル ダグリプチンを経口投与したラットの血漿、尿、糞および胆汁中にM407を検出し、尿と糞 への総排泄量は投与量の約2%に達した。胆汁中にM407のグルクロン酸代謝物を、尿、糞 および胆汁中に含チアゾリンGSH付加体であるM464を検出した。さらに、ビルダグリプ チンとGSHを長時間反応させることによりin vitroでもM464の生成を確認し、in vivoで検 出されたM464がビルダグリプチンのGSH抱合により生成されることを示した。したがっ て、ビルダグリプチンがヒトin vivoにおいても生体内の蛋白質に不可逆的に共有結合する ことが示唆され、ビルダグリプチン誘導性肝障害の引き金となっている可能性を示した。

以上、本研究成果はビルダグリプチンのチオール基に対する共有結合性を初めて示したも のであり、博士 (創薬科学) に値すると判定した。

参照

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