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身体疾患を合併する精神疾患患者の自宅退院に関連する因子の検討

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 366 45 巻第 6 号 366 ∼ 372 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 研究論文(原著). 身体疾患を合併する精神疾患患者の 自宅退院に関連する因子の検討* 石 橋 雄 介 1)# 林   久 恵 2) 坪 内 善 仁 1) 福 田 浩 巳 1)  洪   基 朝 3) 西 田 宗 幹 1). 要旨 【目的】身体疾患を合併した精神科入院患者において,自宅退院が可能であった患者の特徴を明らかにす ること。【方法】2012 年 1 月∼ 2016 年 6 月の間に理学療法(以下,PT)を実施した統合失調症および気 分障害を有す患者 108 例を対象に,PT 終了時の転帰を自宅群と非自宅群に群分けし,自宅退院に影響を 及ぼす因子を検討した。【結果】ロジスティック回帰分析の結果,自宅退院に影響を及ぼす因子として, 身体疾患発症時の生活場所が自宅(OR 6.12),終了時 Barthel Index(以下,BI)65 点以上(OR 5.37) , 終了時 Global Assessment of Functioning(以下,GAF)51 点以上(OR 3.68) ,同居家族あり(OR 2.98) が抽出された。【結論】自宅退院が可能な精神科入院患者の特徴として,身体疾患発症時の生活場所が自 宅であること,終了時の BI および GAF が高いこと,同居家族がいることが明らかとなった。 キーワード 精神科入院患者,自宅退院,多変量解析. 改革ビジョンでは「入院医療中心から地域生活中心へ」. はじめに  日本の精神疾患患者は増加の一途をたどっており, 2014 年には 390 万人を超え と長期にわたる. 5). ,政策面で. という方策を推し進めていくことが示され 1). ,平均在院日数は 274.7 日. 2). 。 ま た, 本 邦 は 経 済 協 力 開 発 機 構. も医療経済の視点から退院を促進することが課題となっ ている。  精神科病院に新規入院した患者 802 例を対象とした前. (Organization for Economic Co-operation and Develop-. 向き研究では,入院期間が 1 年を超える患者の 6 割が,. ment:OECD)諸国の中で一般人口に対する精神科病. 精神症状に加え行動障害,生活障害および身体症状のい. 3) 床の比率がもっとも高く ,精神科医療の脱施設化が遅. ずれかを有していたことが示されている. れている。オーストラリアで行われた精神科病院の閉鎖. 身体症状に対する理学療法(Physical Therapy:以下,. に伴う調査では,入院から地域ケアに移行できた患者. PT)により自宅退院を促すことは,病床数の減少,医. は,生活への満足度および精神病症状が有意に改善し,. 療費の削減,患者の QOL(Quality of Life)向上に寄与. 地域に戻ることが予後の改善にも寄与することが報告さ. する可能性があると考えられる。しかし,精神科的治療. れている *. 4). 。このような背景の中,精神保健医療福祉の. Investigation of Relationship between Multi Factors and Home Discharge in Psychiatric Inpatients with Physical Complications 1)秋津鴻池病院リハビリテーション部 (〒 639‒2273 奈良県御所市池之内 1064) Yusuke Ishibashi, PT, MSc, Yoshihito Tsubouchi, OT, MSc, Hiromi Fukuda, PT, Muneyoshi Nishida, PT: Department of Rehabilitation, Akitsu Kounoike Hospital 2)星城大学リハビリテーション部 Hisae Hayashi, PT, PhD: Department of Rehabilitation and Care, University of Seijoh 3)秋津鴻池病院精神科 Motoasa Kou, MD: Division of Psychiatry, Akitsu Kounoike Hospital # E-mail: u_bridgestone@yahoo.co.jp (受付日 2018 年 2 月 13 日/受理日 2018 年 8 月 8 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 10 月 6 日]. 6). 。生活障害や. を継続しながら身体合併症に対する治療および PT が実 施できる病院や施設は限られており,精神科に勤務して 7) いる理学療法士の数は,全体の 1.7% に留まっている 。. また,PT 領域の研究において,精神疾患患者は対象か ら除外されることが多く,身体合併症を有す精神疾患患 者の PT に関する研究は数少ない。そのため,どのよう な患者が PT の対象となり,どのような患者が自宅退院 を見込めるのかといったことは明らかになっていない。  そこで,本研究では身体疾患を合併した精神科入院患 者において,PT 実施後に自宅退院が可能であった患者 の特徴を明らかにすることを目的とした。.

(2) 身体疾患を合併する精神疾患患者における自宅退院の関連因子. 367. 介護保険ありとし,障害者手帳は,身体障害者手帳また. 対象および方法. は精神障害者保健福祉手帳を取得している者を障害者手. 1.対象. 帳ありとした。.  対象は,秋津鴻池病院精神科病棟に入院し,2012 年 1. 2)治療経過にかかわる項目. 月∼ 2016 年 6 月までの期間に PT を実施した統合失調.  入院から PT 開始までの日数,身体疾患発症から PT. 症および気分障害を有すすべての症例 190 例とした。精. 開始までの日数,PT 開始から終了までの日数を調査した。. 神疾患は ICD-10(国際疾病分類)の基準にしたがって. 3)日常生活活動(Activities of Daily Living:以下,ADL). 精神科医が診断し,統合失調症,統合失調症型障害およ.  ADL の評価には,Barthel Index(以下,BI)を用い,. び妄想性障害に含まれるコード(F20-F29)の診断があ. PT 開始時および終了時に評価した。自宅退院に必要な. る者を統合失調症,気分(感情)障害に含まれるコード. BI スコアのカットオフ値については日本リハビリテー. (F30-F39)の診断がある者を気分障害と分類した。除. ション・データベース協議会に登録された 1,442 名の脳. 外基準は,PT 終了時の転帰が死亡もしくは治療転院で. 卒中患者を対象とした分析において,65/60 点であった. あった者,調査項目のデータが欠損していた者とした。. ことが示されており. また,入院期間が 1 年以上におよぶ長期在院者は,自宅. 終了時の BI が 65 点以上の場合を 1,60 点以下の場合. 退院がきわめて困難であることが報告されており. 8)9). ,. 12). ,本研究では,PT 開始時および. を 0 としダミー変数に変換した。. 本研究では,入院から PT 開始までの期間が 1 年以上の. 4)精神機能. 長期在院者は解析対象から除外した。.   精 神 機 能 の 評 価 に は, 機 能 の 全 体 的 評 定(Global Assessment of Functioning:以下,GAF)を用い,PT. 2.理学療法の具体的内容. 開始時と終了時に評価した。GAF は,Luborsky によっ.  PT プログラムは,全身調整,関節可動域運動,筋力. て開発され. 増強運動,基本動作練習を中心に,患者の状態に合わせ. ニュアル第 4 版(Diagnostic Statistical Manual of Mental. て実施した。PT の開始は,対象者の心身機能の悪化に. Disorders, 4th Edition:DSM- Ⅳ)の第 5 軸として用い. 伴い身体機能および ADL 能力の低下を生じ,身体的要. られており,病気の症状(重症度)と社会で果たす役割. 因への介入が必要であると主治医が判断した時点,PT. (機能レベル)の 2 つの視点で精神機能を評価すること. の終了は退院または能力の改善によりこれ以上の介入が. ができる。10 の機能範囲に分割されており,0 ∼ 100 点. 必要ないと判断した時点とした。. で評価し,得点が高い程機能が良好であることを表す。. 13). ,アメリカ精神医学会の精神疾患診断マ. 日本語版については,高橋らにより翻訳後,信頼性と妥 14). 。地域で生活する精神障. 3.調査項目. 当性の検討がなされている.  以下の調査項目について,診療録より後方視的に調査. 害者の GAF スコアの平均は 56.5 点であったことを示す. した。. 先行研究があり. 1)患者背景因子. は社会的,職業的機能における中等度の障害」に分類さ.  PT 開始時の情報から,年齢,性別,精神疾患名,身. れる。本研究では,PT 開始時および終了時の GAF ス. 体疾患名,既往歴,身体疾患発症時の生活場所(自宅・. コアを「中等度」と「重度」の境界である 51/50 点とし,. 自宅以外) ,身体疾患発症前の歩行自立度(自立・非自. 51 点以上の場合を 1,50 点以下の場合を 0 としダミー. 立),同居家族の有無,介護保険の有無,障害者手帳の. 変数に変換した。. 15). ,51 ‒ 60 点は「中等度の症状,また. 有無を調査した。身体疾患はリハビリテーション対象疾 患規程にしたがい,脳血管疾患,廃用症候群,運動器疾. 4.統計解析. 患の 3 つに分類した。既往歴は,Charlson Comorbidity.  PT 終了時の転帰が自宅であった者を自宅群,施設ま. Index(以下,CCI)を用いてスコア化した。CCI は,. たは継続入院であった者を非自宅群とし,各調査項目の. 高齢者の生命予後にかかわる併存疾患の集積を得点化し. 群間比較を行った。年齢は対応のない t 検定を,CCI,. 定量化されたもので,1987 年に Charlson らによって開. 身体疾患発症から PT 開始までの日数,入院から PT 開. 発された. 10). 。本研究では,2004 年に Quan らがアップ. 始までの日数,PT 開始から終了までの日数,開始時お. デートしたものを使用し,スコアは 1 点:慢性肺疾患,. よ び 終 了 時 BI, 開 始 時 お よ び 終 了 時 GAF は Mann-. リウマチ疾患,慢性合併症を伴う糖尿病,腎疾患,2 点:. 2 Whitney U 検定を,その他の項目は χ 検定を用いた。. うっ血性心不全,認知症,軽度の肝疾患,片麻痺または. また,自宅退院に影響を与える要因を検討するため,自. 対 麻 痺, 悪 性 腫 瘍,4 点: 中 等 度 か ら 重 度 の 肝 疾 患,. 宅退院を従属変数,群間比較で有意差が認められた項目. 11). を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステッ. 介護保険は,要支援または要介護認定を受けている者を. プワイズ法)を行った。この際,多重共線性を考慮する. AIDS / HIV,6 点:転移性固形腫瘍となっている. 。.

(3) 368. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 図 1 対象者選定のフローチャート PT 終了時の転帰が死亡もしくは治療転院であった者,調査項目のデータが欠損していた 者は解析対象から除外した.また,入院期間が 1 年以上におよぶ長期在院者は,自宅退院 がきわめて困難であることが報告されており,入院から PT 開始までの期間が 1 年以上の 長期在院者も解析対象から除外した.. ために,独立変数間で相関係数の絶対値が 0.7 以上と. 2.患者背景因子および治療経過にかかわる項目. なった場合は,臨床的に重要と思われる変数をモデルに.  自宅群は,身体疾患発症時の生活場所が自宅の割合. 残した。統計解析ソフトは SPSS, ver24.0(IBM Japan) を使用し,各検定の有意水準は 5%とした。. 2 2 (χ = 15.4, df = 1, p<0.001)や,同居家族がいる割合(χ. = 4.3, df = 1, p=0.04)が非自宅群に比べて高かった。 また,年齢が若く(p=0.01),身体疾患発症から PT 開. 5.倫理的配慮. 始までの日数が短かった(p=0.04)。一方,性別,精神.  本研究は,医療法人鴻池会秋津鴻池病院研究倫理審査. 疾患,身体疾患分類,CCI,身体疾患発症前歩行自立度,. 委員会の承認を得て実施した(承認番号:17-001)。診. 介護保険の有無,障害者手帳の有無,入院から PT 開始. 療情報は調査実施施設にて対象者の包括的同意が得られ. までの日数,PT 開始から終了までの日数には両群間で. ている事項のみを調査対象とし,データベースは連結可. 有意差を認めなかった(表 1) 。. 能匿名化を行った後,暗証番号を設定して研究関係者の みが閲覧できる状態で保管した。 結   果. 3.ADL および精神機能  開始時 BI は両群間で有意差を認めなかった。一方, 終了時 BI(p<0.001) ,開始時 GAF(p=0.004) ,終了時. 1.患者特徴. GAF(p=0.002)は自宅群が高値を示した。また,自宅.  本研究の解析対象者選定におけるフローチャートを図. 群は,PT 開始時および終了時 BI が 65 点以上である者. 1 に示す。除外者は,PT 終了時の転帰が死亡もしくは. の割合が高く(p=0.03, p<0.001) ,PT 開始時および終了. 治療転院であった者が 18 名,調査項目のデータが欠損. 時 GAF が 51 点以上である者の割合も高かった(p=0.01,. していた者が 32 名,入院から PT 開始までの期間が 1. p=0.003) (表 2)。. 年以上の長期在院者が 32 名であった。長期在院者 32 名 のうち,PT 終了時に自宅退院した者はみられなかった。. 4.自宅退院に影響を及ぼす関連因子. 最終的に本研究の解析対象者は 108 名であり,自宅群が.  多重ロジスティック回帰分析の独立変数は,年齢,身. 60 名,非自宅群が 48 名(施設退院 17 名,継続入院 31 名). 体疾患発症時の生活場所,同居家族の有無,身体疾患発. であった。. 症から PT 開始までの日数,終了時 BI,終了時 GAF の.  対象者の身体疾患は 3 つに分類したが,各身体疾患の. 6 項目とし,ステップワイズ法にて投入した。その結果,. 内訳は表 1 に示すように多岐にわたっており,自宅以外. 自宅退院に影響を与える因子として,身体疾患発症時の. で身体疾患を発症した者が 45 名(41.7%)いた。これは,. 生 活 場 所 が 自 宅( オ ッ ズ 比 6.12,95%CI 2.30 ‒ 16.26,. 精神科入院中に心身機能の悪化があり,PT の関与が必. p<0.001) ,終了時 BI 合計点 65 点以上(オッズ比 5.37,. 要となった患者が一定数存在することを示す結果である。. 95%CI 1.93 ‒ 14.95,p=0.001),終了時 GAF スコア 51 点 以 上( オ ッ ズ 比 3.68,95%CI 1.13 ‒ 12.02,p=0.03) ,同 居家族あり(オッズ比 2.98,95%CI 1.11 ‒ 7.92, p=0.03).

(4) 身体疾患を合併する精神疾患患者における自宅退院の関連因子. 369. 表 1 患者背景因子および治療経過の群間比較 自宅群 n=60. 非自宅群 n=48. p値. 年齢(歳). 60.1 ± 14.4. 66.9 ± 13.9. 0.01*. 男性. 23 (38.3%). 13 (27.1%). 0.22.   統合失調症. 22 (36.7%). 21 (43.8%). 0.46.   気分障害. 38 (63.3%). 27 (56.2%). 26 (43.3%). 14 (29.2%). 項目. 精神疾患. 身体疾患分類   運動器疾患 #1   脳血管疾患. #2. 0.26. 5 (8.3%). 7 (14.6%). 29 (48.3%). 27 (56.2%). 1.0[0.0 ‒ 2.0]. 0.5[0.0 ‒ 2.0]. 発症前生活場所自宅. 45 (75.0%). 18 (37.5%). 発症前歩行自立. 48 (80.0%). 36 (75.0%). 0.54. 同居家族あり. 44 (73.3%). 26 (54.2%). 0.04*. 介護保険あり. 23 (38.3%). 26 (54.2%). 0.10.   廃用症候群 #3 CCI(点). 障害者手帳あり 発症から PT 開始(日). 0.16 <0.001**. 27 (45.0%). 17 (35.4%). 0.31. 14.0[6.0 ‒ 26.5]. 22.0[11.0 ‒ 46.5]. 0.04*. 入院から PT 開始(日). 7.0[1.0 ‒ 23.0]. 18.5[1.0 ‒ 60.5]. 0.08. PT 開始から終了(日). 84.5[47.0 ‒ 129.5]. 117.5[72.8 ‒ 148.3]. 0.04*. 平均値±標準偏差,n (%),中央値[四分位範囲] ,*:p<0.05,**:p<0.01 :運動器疾患には,大 骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折,自殺企図による多発骨折などを含む. #2 :脳血管疾患には,脳梗塞,脳出血,頭部外傷によるクモ膜下出血や硬膜下血腫などを含む. #3 :廃用症候群の原因疾患には,肺炎,イレウス,統合失調症や気分障害の増悪などを含む. CCI:Charlson Comorbidity Index,PT:Physical Therapy #1. 表 2 ADL および精神機能の群間比較 項目 開始時 BI(点)   ≧ 65 点 終了時 BI(点)   ≧ 65 点 開始時 GAF(点)   ≧ 51 点 終了時 GAF(点)   ≧ 51 点. 自宅群 n=60. 非自宅群 n=48. 40.0[13.8 ‒ 77.5]. 37.5[10.0 ‒ 51.3]. 0.11. 20 (33.3%). 7 (14.6%). 0.03*. 85.0[75.0 ‒ 91.3]. 60.0[40.0 ‒ 80.0]. <0.001**. 49 (81.7%). 22 (45.8%). <0.001**. 60.0[51.0 ‒ 65.0]. 51.0[40.8 ‒ 55.8]. 46 (76.7%). 26 (54.2%). 61.0[55.0 ‒ 70.3]. 55.0[42.8 ‒ 61.0]. 0.002**. 53 (88.3%). 31 (64.6%). 0.003**. p値. 0.004** 0.01*. 中央値[四分位範囲],n (%),*:p<0.05,**:p<0.01 BI:Barthel Index,GAF:Global Assessment of Functioning. が抽出された(表 3)。  終了時 BI と終了時 GAF を変数とした散布図を図 2. 考   察. に示す。終了時 BI が 65 点以上かつ終了時 GAF が 51.  本研究では,身体疾患を合併した精神科入院患者を対. 点以上の場合,自宅退院率は 72%,終了時 BI が 60 点. 象とした調査を行い,自宅退院が可能であった患者の特. 以下かつ終了時 GAF が 50 点以下の場合,自宅退院率. 徴として,身体疾患発症時の生活場所が自宅であるこ. は 14% であった。. と,PT 終了時の BI および GAF が高いこと,同居家族 がいることが明らかとなった。これは,精神科入院患者 の自宅退院には,身体機能以外の要因が関与することを.

(5) 370. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 表 3 多重ロジスティック回帰分析 95%信頼区間 偏回帰係数. オッズ比. 下限. 上限. p値. 発症時生活場所自宅. 1.81. 6.12. 2.30. 16.26. <0.001**. 終了時 BI  ≧ 65 点. 1.68. 5.37. 1.93. 14.95. 0.001**. 終了時 GAF ≧ 51 点. 1.30. 3.68. 1.13. 12.02. 0.03*. 同居家族あり. 1.09. 2.98. 1.12. 7.92. 0.03*. 2. モデル χ 検定 p<0.01,判別的中率:81.48% *:p<0.05,**:p<0.01 BI:Barthel Index,GAF:Global Assessment of Functioning. 図 2 終了時 BI および GAF スコアと自宅退院の可否 Ⅰ:終了時 BI ≧ 65 点,終了時 GAF ≧ 51 点 自宅退院 44/61 名(72%) Ⅱ:終了時 BI ≦ 60 点,終了時 GAF ≧ 51 点 自宅退院 9/ 23 名(39%) Ⅲ:終了時 BI ≦ 60 点,終了時 GAF ≦ 50 点 自宅退院 2/ 14 名(14%) Ⅳ:終了時 BI ≧ 65 点,終了時 GAF ≦ 50 点 自宅退院 5/ 10 名(50%) BI:Barthel Index,GAF:Global Assessment of Functioning. 示すと同時に,自宅からの入院者や同居家族がいる患者. は介護保険や障害者手帳の有無は自宅退院の可否に関連. は,BI および GAF を改善することで,自宅退院が可能. していなかった。今回の調査では地域の社会資源の状況. となることを支持する所見である。. までは確認できておらず,介護保険や障害者手帳をもっ.  精神科病院長期入院者の退院に関する要因については. ているが,地域の社会資源が乏しくサービスを利用でき. 「本人要因」,「家族要因」,「病院環境要因」,「地域環境. ない患者の存在が結果に影響した可能性が考えられる。. 要因」,「その他の要因」に区分し検討することが提案さ.  「家族要因」では,退院阻害要因として家族がいない. れているため. 16). , 当該区分にしたがって本調査結果を. ことが大きく影響しているという報告. 20). がある。本研. 整理し考察を加えたい。本調査で独立変数として設定し. 究でも自宅退院が可能であった患者の特徴として,同居. た「身体疾患発症時の生活場所」は「地域環境要因」, 「同. 家族がいることが挙げられており,この結果は先行研究. 居家族の有無」は「家族要因」,「PT 終了時の BI およ び GAF」は「本人要因」に対応すると考えられる。  「地域環境要因」について,住まいの確保や地域での サポート体制が課題となることが指摘されている. を支持するものと考える。また,先行研究では,家族の 「受け入れ意識」が長期入院と短期入院を識別する独立. 17). 。. した因子であると報告されており. 21). ,自宅退院には同. 居家族の有無だけでなく家族の心理的条件も考慮する必. 本調査結果においても身体疾患発症前に自宅で生活して. 要があると考えられる。. いることが自宅退院に影響を及ぼす因子として検出され.  精神科病院入院者の退院にかかわる「本人要因」に関. たことから,新たに住まいを確保することの難しさが示. する総説では,5 要因(精神疾患や精神症状,性別,年. された。一方,退院阻害要因として地域資源の乏しさを. 齢,在院期間,退院への本人の意識)が提示されている. 挙げている報告. 17‒19). は多くみられるが,今回の結果で. が. 16). ,ADL については先行研究がなく,要因に含まれ.

(6) 身体疾患を合併する精神疾患患者における自宅退院の関連因子. 371. ていない。しかし,ADL レベルは退院にかかわる「本. めには,今後多施設共同研究を行い,より多くの症例を. 人要因」として影響が大きいと考えられたため,本研究. 集積することが必要である。. では脳卒中患者を対象にした研究. 12). を参考に,独立変. 数とした。その結果,終了時 BI が 65 点以上かつ終了. 結   論. 時 GAF が 51 点以上の場合,自宅退院率は 72%,終了.  本研究では,身体疾患を合併した精神科入院患者を対. 時 BI が 60 点以下かつ終了時 GAF が 50 点以下の場合,. 象とした調査を行い自宅退院が可能であった患者の特徴. 自宅退院率は 14% であることが確認された。PT を実施. として,身体疾患発症時の生活場所が自宅であること,. した精神科入院患者を対象とした調査. 22). では,PT 前. 後で BI および GAF が有意に改善することが示されて おり,PT 終了時の BI および GAF は自宅退院の可否に ついて検討する際に重要な意味をもつと考えられた。精 神科領域のチーム医療の中で,PT は身体機能の改善お よび ADL の向上を図り,波及効果として精神機能の改 善を進めることで自宅退院の実現に貢献できるものと考 える。  しかし,統合失調症患者の ADL 構造に関する先行研 究では,非精神疾患患者とは大きく異なることが指摘さ れており. 23). ,BI のカットオフ値については疾患特異性. を考慮する必要があるかもしれない。また,GAF のカッ トオフ値は,地域で生活する精神障害者の GAF スコア の平均. 15). を参考に「中等度」と「重度」の境界である. 51/50 点でダミー変数化したが,先行研究と本研究の対 象者は ADL レベルが異なっており,ADL を考慮した GAF のカットオフ値については先行研究がないため, その点を考慮したうえで再検討の余地があると考える。  今回,分析対象者 108 名のうち 60 名が PT 終了時に 自宅へ退院しており,自宅退院率は 55.6% であった。厚 生労働省の資料では,精神病床の新規入院患者の 88% は 1 年未満で退院しており,そのうち 71.4% は自宅に退 院できたと報告している. 24). 。一方,1 年以上入院して. いる患者の 51.8% は 65 歳以上の高齢者であると報告さ れており. 24). ,本研究の自宅退院率は全国調査と比較し. て低かったが,対象者の約半数が 65 歳以上の高齢者で あったことが影響した可能性があると考えられた。ま た,分析対象から除外した長期入院者 32 名のうち自宅 に退院できた者は 1 名もおらず,先行研究. 8)9)25). と同. 様に長期在院者は自宅退院が困難である実態が明らかと なった。そのため,自宅生活中に身体疾患を発症し,入 院早期に PT が開始された患者については,PT 終了時 に自宅退院を達成し,入院を長期化させないことが重要 であると考えられる。  本研究の限界として,対象者の身体疾患が多岐にわ たっていたこと,単一施設の研究であったため一般化す ることが難しいことが挙げられる。また,本研究の分析 対象となった 108 名は,期間中に PT を実施したうちの 57% に該当し,PT を実施していない症例の存在も考慮 すると,限局された集団を対象とした解析となってい る。身体疾患を統一し,一般化の可能性を高めていくた. PT 終了時の BI および GAF が高いこと,同居家族がい ることが明らかとなった。 利益相反  本研究に関連して,開示すべき利益相反はない。 文  献 1)厚 生 労 働 省 統 計: 平 成 26 年 患 者 調 査 の 概 況.http:// www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/kanja. pdf(2017 年 12 月引用) 2)厚生労働省統計:平成 27 年(2015)医療施設(動態)調 査・ 病 院 報 告 の 概 況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/ saikin/hw/iryosd/15/dl/gaikyo.pdf(2017 年 12 月引用) 3)OECD Health Statistics 2017: Hospital beds. https://data. oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm(2017 年 12 月引用) 4)Hobbs C, Tennant C, et al.: Deinstitutionalization for longterm mental illness: a 2 year clinical evaluation. Aus N Z J Psychiatry. 2000; 34: 476‒483. 5)厚生労働省精神保健福祉対策本部:精神保健医療福祉の改 革 ビ ジ ョ ン.http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/dl/ tp0902-1a.pdf(2017 年 12 月引用) 6)安西信雄,井上新平:全国の精神科病院への新規入院患者 の前向き調査から「重度かつ慢性」の基準と必要な治療を 考える.日社精医誌.2016; 25: 372‒380. 7)仙 波 浩 幸, 青 木 菜 摘, 他: 理 学 療 法 士 実 態 調 査 報 告 ― 2010 年 1 月実施―.理学療法学.2010; 37: 188‒217. 8)藤田利治,佐藤俊哉:精神病院での長期在院に関連する要 因―患者調査および病院報告に基づく検討―.厚生の指 標.2004; 51: 12‒19. 9)中村 研,高石佳幸,他:自宅退院の可能性―有床総合病 院精神科病棟の閉鎖から考える―.精神科治療学.2010; 25: 1111‒1115. 10)Charlson ME, Pompei P, et al.: A new method of classifying prognostic comorbidity in longitudinal studies: development and validation. J Chronic Dis. 1987; 40: 373‒383. 11)Quan H, Li B, et al.: Updating and validating the Charlson comorbidity index and score for risk adjustment in hospital discharge abstracts using data from 6 countries. Am J Epidemiol. 2011; 173: 676‒682. 12)Sato A, Fujita T, et al.: Activities of daily living independence level for home discharge in stroke patients based on number of caregivers: an analysis of the Japan Rehabilitation Database. Phys Ther Res. 2017; 20; 23‒27. 13)Luborsky L: Clinicians’ Judgments of mental health a proposed scale. Arch Gen Psychiatry. 1962; 7: 407‒417. 14)高橋三郎,大野 裕,他:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・ 統計マニュアル.医学書院,東京,2003. 15)小高真美:地域で生活する精神障害者のニーズと生活の質 に関する研究.ルーテル学院研究紀要.2007; 41: 41‒60. 16)朝野英子,栄セツコ,他:精神科病院長期入院者の退院 に 関 す る 要 因 の 文 献 的 検 討. 生 活 科 学 研 究 誌.2010; 9: 95‒106. 17)森川将行,龍田 浩,他:堺市・平成 19 年度精神科在院.

(7) 372. 理学療法学 第 45 巻第 6 号. 患者調査における退院阻害要因についての統計学的解析. 堺市こころの健康センター研究紀要.2009; 27‒33. 18)古屋龍太:退院・地域移行支援の現在・過去・未来―長期 入院患者の地域移行は,いかにして可能か.精神医療 第 4 次.2010; 57: 8‒12. 19)岩上洋一:地域移行支援は地域の課題―精神障害者地域移 行支援特別対策事業を通して.精神医療 第 4 次.2010; 57: 23‒27. 20)大島 巌,岡上和雄:家族の社会・心理的条件が精神障害 者の長期入院に及ぼす影響とその社会的機序 全国家族福 祉ニーズ調査のデータによる多変量解析的アプローチ.精 神医学.1992; 34: 479‒488. 21)下野正健,清原千香子,他:精神病床数,在院日数および. 統合失調症者の退院に関連する要因の検討.最新精神医 学.2008; 13; 475‒488. 22)石橋雄介,西田宗幹,他:精神科病棟入院患者の現状と理 学療法の効果.理学療法科学.2017; 32: 509‒513. 23)仙波浩幸,関口毬子,他:精神分裂病患者の日常生活動作 ― FIM を用いた検討―.理学療法科学.2001; 17: 71‒75. 24)厚生労働省資料:長期入院精神障害者をめぐる現状.http:// www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyok ushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000046397.pdf(2017 年 12 月引用) 25)Hashimoto M, Matsuzaki Y, et al.: Medication-Related Factors Affecting Discharge to Home. Biol Pharm Bull. 2014; 37: 1228‒1233.. 〈Abstract〉. Investigation of Relationship between Multi Factors and Home Discharge in Psychiatric Inpatients with Physical Complications. Yusuke ISHIBASHI, PT, MSc, Yoshihito TSUBOUCHI, OT, MSc, Hiromi FUKUDA, PT, Muneyoshi NISHIDA, PT Department of Rehabilitation, Akitsu Kounoike Hospital Hisae HAYASHI, PT, PhD Department of Rehabilitation and Care, University of Seijoh Motoasa KOU, MD Division of Psychiatry, Akitsu Kounoike Hospital. Purpose: The aim of this study was to examine predictive factors connected with the home discharge of psychiatric inpatients. Methods: This study included 108 inpatients with schizophrenia or mood disorder, who had undergone physical therapy (PT) between January 2012 and June 2016. We retrospectively studied the factors from the medical records and compared these between the two groups. Next, we analyzed the differences between factors using multiple logistic regression analysis. Results: Factors associated with psychiatric inpatients’ home discharge indicated by the multiple logistic regression analysis were “place of residence before physical disease onset” [p<0.001, odds ratio (OR) 6.12, 95% confidence interval (CI) 2.30-16.26]; “Barthel Index (BI) score at the time of PT end ≧ 65 points” (p=0.001, OR 5.37, 95% CI 1.93-14.95); “Global Assessment of Functioning (GAF) score at the time of PT end ≧ 51 points” (p=0.03, OR 3.68, 95% CI 1.13-12.02); and “presence of the primary caregiver” (p=0.03, OR 2.98, 95% CI 1.09-2.98). Conclusions: Place of residence before physical disease onset, higher BI score at the end of PT, higher GAF score at end of PT, and presence of the primary caregiver might be the factors associated with psychiatric inpatients’ home discharge. Key Words: Psychiatric inpatients, Home discharge, Multivariate analysis.

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