IT
技術の進歩と保険事業の展開:
はじめに
平成26年度大会シンポジウム
総合司会 岡 田 太
今年度の大会シンポジウムの原点は,平成14年度大会シンポジウム ネッ トワーク技術の普及と保険ビジネスモデル にさかのぼる。その基本構想は,
ネットワーク(インターネット)技術の進展による ネットワークの大衆化 と21世紀型ネットワーク社会の到来が,保険・金融事業および保険会社の企 業戦略にとってどのような意味を持つのかということを,パワーユーザとエ ンドユーザ(ユーザーの両極分化),革新コストと効率性,および国際競争 力という視点から検討すること であった。
詳細については 保険学雑誌 第581号をご参照願いたいが,シンポジウ ム全体を通じて得られた3つの論点 が指摘されている。第1点は,わが国 の保険企業はIT技術による諸革新を広い視点から位置づけて検討してゆく 必要があること,第2点は,インターネット技術の大衆化によって生じる保 険企業と消費者の費用負担構造の変化が及ぼす影響力は,予想以上に大きい こと,そして第3点は,情報通信技術の変化にもとづいた諸革新および ネ ットワーク社会 という新たな社会の編成原理の中で,はたして保険企業は,
何を販売しているのであろうかということを改めて原点に立ち戻って考え直 す必要性が再認識されたこと,である。
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*平成26年9月18日の日本保険学会大会(香川大学)報告による /平成27年1月18日原稿受領。
1) 米山高生 ネットワーク技術の普及と保険ビジネスモデル―平成14年度大会 シンポジウム― 保険学雑誌 第581号,2003年6月,p.9.
2) 同上,pp.10‑12.
【平成26年度日本保険学会大会】シンポジウム IT技術の進歩と保険事業の展開
平成14年度大会シンポジウム終了後も,IT技術はますます進歩を遂げ,
保険事業に大きな影響を及ぼしており,今回続編として本テーマが取り上げ られるに至った。われわれは,これら3つの重厚な論点を明示して考察して いるわけではないが,底流にある問題意識の多くを共有している。
ところで,今回のシンポジウムは大きく2つの特徴がある。1つは,前回 に引き続き業務プロセス研究所の尾籠裕之氏が参加し,今回は基調講演者と して10年間の変化を総括されていることである。なかでも, 保険ITの主 軸が基幹システムから顧客接点システムへ移行している との基本的視座に 立ち,顧客接点情報の蓄積・活用などを含む顧客接点における革新の重要性 を提起されている。
もう1つは,大手生命保険および損害保険企業の取り組みに焦点をあてて いることである。確かに,インターネット販売または専業会社の出現は象徴 的であるが,保険業界の主翼を担う大手生損保の伝統的なビジネスモデルの 革新は,内外に与えるインパクトが大きい。東京海上システムズの宇野直樹 氏は, モバイル技術を活用して顧客接点で取引が完結する次世代モデル について詳細に解説されている。日本生命の長崎豊氏は, ITインフラとし て顧客接点の革新を支える基幹システムの再構築 の事例を中心に幅広く述 べられている。両社とも,公益社団法人企業情報化協会の IT総合賞 を 受賞しており,先進的な取り組みの成果は高く評価されている。
このような現状をふまえて,明治大学の中林真理子氏は IT技術の進歩 と一般契約者の対応レベルのギャップが拡大していると認識し,それを埋め るためには法令遵守を超えた倫理的レベルの対応が必要 と述べられている。
また,香川大学の肥塚肇雄氏は 主にビックデータの利活用を視野に 個人 情報は誰のものか という根源的な問いかけをする一方,個人情報の多様性
IT技術の進歩と保険事業の展開:はじめに
3) 日本生命相互会社・ニッセイ情報テクノロジー株式会社は平成24年度(第30 回) 日本生命における新統合システム開発とその成果 ,東京海上日動火災保 険株式会社・東京海上日動システムズ株式会社は平成25年度(第31回) モバ イルを活用したお客様接点の革新(次世代モデル) により受賞された。
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から画一的かつ包括的な法規制よりも民間の自主規制ルール等の策定が望ま しい との見解を示されている。
以上,シンポジウムの特徴と概要について報告順に紹介した。なお,近年 関心が高まっているビッグデータについて,シンポジウムを計画した段階で は時期尚早であるため,主にパネルディスカッションでとりあげているが,
長崎氏と肥塚氏の論文において解説されている。
今後IT技術の発展が期待されるなかで,対面販売を中心とする大手生損 保企業がどのような付加価値を顧客に提供していくのか興味深い。
(筆者は日本大学准教授) 保険学雑誌 第 628号
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