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損害保険業界におけるコンプライアンス の展開

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損害保険業界におけるコンプライアンス の展開

佐々木 修

■アブストラクト

コンプライアンスは,損害保険業界において,非常に重要な経営課題とな っている。このため,相当の経営資源を投入し,創意工夫をしながら真摯に 取り組み,今日では様々な活動を通じ,質の高い対応が行われている。また,

コンプライアンスについては,継続的な取組みが重要であり,業界および各 社における取組みを発展的に持続させ,業界全体として高いレベルのコンプ ライアンス態勢を維持していく必要がある。今後さらに必要となる業界のコ ンプライアンスへの取組みおよび課題としては,多様化したビジネスモデル や最新の法制度を踏まえた活動等の強化,共通化・標準化の推進,保険に関 する教育の充実,新たな課題への対応が挙げられる。

■キーワード

コンプライアンス,法令等の遵守,独占禁止法

1.はじめに

コンプライアンス(compliance)とは 法令等の遵守 を意味し,単に 法令 のみではなく各種の規範や倫理的なルール等を含めて広く法令等を遵

*平成23年12月10日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成24年4月18日原稿受領。

1) 損害保険業に関する関係法令としては,保険業法,保険法,消費者契約法,

金融商品の販売等に関する法律,金融商品取引法等のほか,これら法律の施行

(2)

守する活動のことをいう。このコンプライアンスの取組みは,損害保険業界 の信頼性の維持に欠かせないものであり,各損害保険会社で,また,日本損 害保険協会において積極的に推進され,今日では相当程度,質の高い対応が 行われている。

本稿では,損害保険業界における取組みと現在に至るまでの経緯をまとめ,

今後の損害保険業界におけるコンプライアンスの一層の充実および損害保険 業界のよりよい発展に繫げることを企図するものである。なお,意見に係る 部分は,すべて筆者の個人的見解である。

2.損害保険業界におけるコンプライアンスの小史

コンプライアンスの取組みは, コンプライアンス という用語を使用し ていたかどうかは別として,監督官庁による規制を受けている業界の特性上,

新保険業法成立前の 保険募集の取締に関する法律 (いわゆる募取法)の 時代から実践されてきた。しかしながら,当時は,護送船団方式の体制のも とに,規模は異なるものの各社がほぼ同様の事業形態で業務を行っていた時 代であり,今日的な消費者や市場を意識したコンプライアンスとは異なる環 境であった。言わば,業界コンプライアンス黎明期である。

損害保険業界における今日的なコンプライアンスの展開に繫がる最初の契 機としては,1995年6月に公布された新保険業法(1996年4月施行)の導入 と並び,1994年10月の自動車保険修理工賃警告事件および1996年12月の日本 機械保険連盟 による独占禁止法違反事件が挙げられる。

⑴ 自動車保険修理工賃警告事件

自動車保険修理工賃警告事件は,公正取引委員会から, 協会は,会員が 令,施行規則並びに金融庁策定の 保険会社向けの総合的な監督指針 および

保険会社に係る検査マニュアル 等も挙げられる。

2) 日本機械保険連盟は,1956年5月の創立以来,会員会社に対して技術的援助 を行い,また,機械保険再保険プールの共同処理業務を行う等の業務を行って きた。しかし,公正取引委員会の排除勧告を受けたことを契機に,解散した。

(3)

損傷自動車の修理工賃を算定するに当たって指数方式を用いる際の対応単価 について,かねてより,全国の標準となる対応単価及び都道府県ごとの対応 単価を決定し,これを会員に実施させてきた疑いが認められた。 と指摘さ れた事件である。この警告事件により,独占禁止法に対する損害保険業界と してのコンプライアンスの意識が強く求められることとなった。

⑵ 日本機械保険連盟による独占禁止法違反事件

1996年12月,公正取引委員会は,機械・組立保険の料率について不当な取 引制限(カルテル行為)を行っていたとして,日本機械保険連盟(1997年9 月に解散)に対して,排除勧告を行った。公正取引委員会の勧告書によれば,

同連盟は独占禁止法第8条第1項第1号 に違反し,保険料率の決定等に関 与していたとされている 。この違反事件により,違反行為を行った損害保 険会社に対し,総額約54億円の課徴金納付命令が行われた 。

課徴金の額の大きさはもちろんのこと,本件を原因として業界団体の一つ が解散するに至ったことからも,損害保険業界全体に対する影響は大きく,

コンプライアンスの重要性を再認識することとなった。

3) 第8条(事業者団体の禁止行為)

事業者団体は,次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。

一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。(以下,略)

4) 勧告書においては, 日本機械保険連盟は,かねてから,機械保険等につい て,会員が引受けに当たり適用する保険料率の維持を図るため,標準基本料率,

割引率,特約料率等を決定し,会員にその内容どおりに認可申請させるととも に,内規と称する認可内容に基づいて詳細な標準基本料率,割引率,特約料率 等を定めた諸規定を決定し,これらを引受けに当たって適用すべき統一基準

(以下 タリフ という。)として設定し,会員にこれにしたがって保険料率を 算定させ,(中略)機械保険等の引受けを行わせていた。 とされた。

5) 独占禁止法違反に伴う 課徴金 の額は,カルテル実行期間中の対象商品ま たは役務の 売上額 に事業別に定められた算定率を乗じて算出される。この 売上額 については, 営業保険料 か, 営業保険料から純保険料を控除し た額 かが,公正取引委員会と損害保険会社において争われたが,2005年9月 13日の最高裁判所判決により, 営業保険料 であることが示された。

(4)

⑶ 独占禁止法に関する2つの事件を巡る損保業界の対応

損害保険業界においては,自動車保険修理工賃警告事件を受けて,1995年 11月に独占禁止法遵守のためのガイドラインである 損害保険会社の独占禁 止法遵守マニュアル (現在の 損害保険会社の独占禁止法遵守のための指 )が作成され,また,日本機械保険連盟事件のおよそ半年前にあたる 1996年5月に 独占禁止法遵守の観点から改善が必要な事項の対応等の推 進 を目的として, 業務運営特別委員会 (2001年7月に コンプライアン ス委員会 に改組)が設置された。

また,公正取引委員会は,日本機械保険連盟に対する勧告に際して,日本 損害保険協会に対しても,連盟の会員の大部分が日本損害保険協会の会員会 社であることから,今後,会員会社が独占禁止法違反行為を行うことがない ように指導することを要請した。これを受け,日本損害保険協会では,理事 会において独占禁止法遵守を確認するとともに,1997年2月に業務運営特別 委員会において損害保険業界としての独占禁止法遵守のための年次計画であ る コンプライアンス・プログラム を策定し,同プログラムに沿って独占 禁止法遵守活動を推進していくこととなった。

同プログラムにおいては,①会員会社,協会委員会,協会事務局,関係団 体への啓発活動,②各社への独占禁止法遵守の徹底と実行状況のチェック,

③協会委員会への独占禁止法遵守の徹底と実行状況のチェック,④公正取引 委員会事務総局への事前相談の活用,⑤関係団体への独占禁止法遵守の徹底,

⑥独占禁止法遵守の観点から協会機能のあり方を再検討した上での協会(委 員会 ,事務局)組織の見直しの実施の6項目の活動が掲げられた。

この後,同プログラムは,毎年,内容の見直しが行われ,当該内容に沿っ て独占禁止法遵守の取組みが行われている。日本機械保険連盟事件後,損害 6) 1995年11月の発行以来,1996年5月,1999年10月,2003年8月と改定され,

現在は第5版(2007年3月発行)が発行されている。

7) 1997年当時は,例えば,火災・地震保険委員会,海上運送保険委員会,自動 車保険委員会,新種保険委員会といった保険種目別の委員会が存在したが,現 在は,保険種目関係の委員会は業務委員会に一本化されている。

(5)

保険業界が独占禁止法に抵触することなく適切に活動できているのは,当時 の精力的な独占禁止法遵守の活動 によるところが大きく,現在の損害保険 業界における独占禁止法遵守の礎となっている。

1998年4月には,独占禁止法遵守の活動を推進してきた日本損害保険協会 の事務局組織が機構改編 され,それまでの 独占禁止法遵守を中心とした コンプライアンス から 損害保険に関する各種法令等に関するコンプライ アンス を志向していくこととなった。これまでの時代は,業界コンプライ アンスとしては独占禁止法対応に注力した時代であり,言わば独占禁止法注 力期と位置づけられる。

⑷ 新保険業法の施行

現在の保険業法(平成7年法律第105号)は,1995年6月7日に公布され た。この保険業法は,旧保険業法(昭和14年法律第41号)を全部改正したも のであり, 保険募集の取締に関する法律 (昭和23年法律第171号)および 外国保険事業者に関する法律 (昭和24年法律第184号)を取り込んだ新し い保険監督法であった。この新保険業法の誕生による新たなルールの整備 , さらには大きな金融自由化の流れも,独占禁止法に係る2つの事件とともに,

護送船団方式の体制から脱却する契機の一つとなったといえる。

8) 当時の活動について,一例を挙げれば,会員会社を対象とした独占禁止法講 習会を46都市において開催し,延べ2,908人の参加を得た。

9) それまで,独占禁止法遵守の推進を行っていた日本損害保険協会の 業務開 発室 が企画部(現在の総合企画部)の 法務グループ に名称変更された

(2001年4月に 総合企画部法務室 と機構改編され,現在に至る)。

10) 新保険業法の主な改正点としては,①標準責任準備金制度の導入,②相互会 社に関する規定の整備(株式会社化や総代会に関する規定の創設等),③ソル ベンシー・マージン基準の導入,④保険契約者保護基金の創設,⑤子会社方式 による生損保の相互参入,⑥保険商品・料率に係る規制緩和(届出制の導入 等),⑦配当基準等の法定,⑧保険計理人制度の拡充,⑨ディスクロージャー に係る規定の整備,⑩相互会社の保険金額の削減に関する規定の削除等がある。

(安居孝啓編著 最新 保険業法の解説 大成出版社,2010,p.7)

(6)

新保険業法によりもたらされた,損保・生保の相互参入等を含む金融自由 化により,損害保険業界に各社独自の商品開発やサービスへの取組みといっ たものが一層進み,それに伴い,金融庁における各種ルール等の整備 保険業法等の各種法令等の遵守の取組みも進んでいくこととなった。

⑸ 損害保険会社に対する行政処分

新保険業法施行や消費者保護の動きと併行して,1999年以降,行政処分 が順次実施された 。いずれの行政処分においても,当局から保険会社に対 しては,例えば 法令遵守体制に係る教育・指導を強化すること , 役員,

使用人及び損害保険代理店に対する法令等の遵守に係る教育・指導の強化を はじめ,法令等遵守体制の整備・充実を図ること。 等のコンプライアンス に関する態勢整備が求められた。

1999年から2002年頃まで,逐次,各金融業態に対し,行政処分が行われて いるが,保険に関していえば,大きな自由化の流れの中で,各社が創意工夫 をしながら,手探りでコンプライアンスを展開し始めた時代であったといえ る。こうした状況の中,損害保険会社では,コンプライアンス部門を設置,

充実させ,コンプライアンスの取組みを強化していくことになるが,そうし た中,いわゆる不払い問題が発生することになった。

11) 2000年5月の第一火災海上保険相互会社の破綻等,当時の環境も各種ルール 等の整備が行われた一因に挙げられる。

12) 金融監督庁(当時)は,1999年11月2日に,保険会社に係る検査マニュアル を整備することを目的として,検査部内に 保険検査マニュアルWG(ワー キンググループ) を設置し検討を開始することを発表した。マニュアルは,

保険会社に係る検査マニュアル として,2000年6月20日に発出された。

13) 保険会社に対する行政処分としては,保険業法第132条第1項に基づく 業 務改善命令 等および保険業法第133条に基づく 業務停止命令 等がある。

14) 主な行政処分は,1999年7月,2000年6月,2001年3月,2002年4月,2002 年8月,2003年5月,2003年11月,2004年8月に行われた。

(7)

3.不適切な保険金の不払い,支払い漏れ問題等の発生

⑴ 不適切な保険金の不払い問題の発生

2005年2月に,生命保険会社1社に対し,行政処分が行われた。内容は,

生命保険募集人の募集時の説明状況,告知義務違反の内容などを十分考慮 せず,詐欺・錯誤を広く適用し,本来支払うべき死亡保険金を支払っていな かった。 とされるものである。また,内部管理態勢上の問題等も複数点指 摘され,当該社に対しては,業務改善命令等が発せられた。

⑵ 費用保険金等の付随的な保険金の支払い漏れ

上記の本来支払うべき保険金を支払っていなかった事案に関連し,金融庁 から2005年9月に,保険業法第128条等の規定に基づく報告徴求が外国損害 保険会社を含む全ての損害保険会社に対し行われることとなった。金融庁か ら求められたのは,①過去3年間(2002年4月から2005年6月)において,

保険金支払事由が発生した事案における付随的な保険金の支払漏れ の件 数及びその支払完了状況,②保険金等支払管理態勢のあり方も含め,付随的 な保険金の支払漏れが発生した原因分析,③発生原因分析を踏まえた再発防 止策,の3点である。この報告徴求については,2005年11月,金融庁から調 査結果 が公表された。この調査により 付随的な保険金の支払い漏れ が判明した損害保険会社26社(うち日本損害保険協会会員会社19社)は,

2005年11月25日に金融庁から業務改善命令 を受けた。この業務改善命令 15) 付随的な保険金の支払漏れ とは,金融庁の公表資料によれば, 保険事故 が発生し,主たる保険金の支払いは行われているにもかかわらず,臨時費用保 険金等の付随的な保険金(見舞金,香典,代車費用等)について,契約者から 請求が無かったため,本来支払われていなければならないものを支払っていな かったことを指す。 とされている。

16) 調査結果によれば,支払漏れ件数の約9割が自動車保険の臨時費用保険金等 に関するものとなっている。

17) 支払い漏れ,その他コンプライアンスに関し,2006年5月および6月に,損 害保険会社2社に対して,業務停止命令(2週間)を含む行政処分が行われた。

(8)

を受け,各社では,業務改善計画を策定し,事後的な検証等を行い,2007年 6月末までに全社が完了を報告した 。

⑶ 医療保険等の第三分野商品の不適切な保険金不払い

上記と同様に,本来支払うべき保険金を支払っていなかった事案として,

医療保険 等の第三分野商品の不適切な保険金不払いがある。複数の保険 会社において,第三分野商品について,本来支払うべき保険金を支払ってい なかった事案が確認されたことを受け,金融庁は全ての損害保険会社(48 社)に対し過去5年間(2001年7月〜2006年6月)の 第三分野商品に係る 保険金支払い管理態勢の実態把握及び不払い事案に係る検証 について報告 するよう命令を出した(2006年7月14日)。この調査結果 を踏まえ,金融 庁から業務改善命令等が出され(2007年3月14日),各社で対応を行った。

⑷ 火災保険等の保険料誤り

日本損害保険協会では,2006年12月に,火災保険の各種割引の適用や保険 金額設定の適正性について,契約内容の自主調査を実施することを理事会で 確認し各社で取り組んだ。また,金融庁からも2006年12月20日付で 火災保

18) その結果,日本損害保険協会会員19社の 支払い漏れ は,累計で約47万件,

約368億円となった(数値は各社公表資料に基づく)。(日本損害保険協会ホー ムページ 保険契約の確認調査等について )

19) 医療保険の適切な運営について, 民間医療保険については,(中略)保険会 社の経営の安定性の観点も十分に踏まえたうえで,契約者にとって望ましい保 険商品の開発・提供が引き続き求められる。 (佐々木修(2009) 米国医療保 険の現状と課題に関する一考察 損害保険研究 第70巻第4号 財団法人損害 保険事業総合研究所)

20) 損害保険会社21社から,計5,760件,約16億円が不適切な不払いとして報告 された(数値は金融庁公表資料に基づく)。うち10社(日本損害保険協会会員 会社22社中8社)には,共通して第三分野商品の保険金支払管理態勢に重大な 問題が認められ,不適切な保険金の不払いも多数に上ったとして,金融庁より 第三分野商品の募集や新商品の開発等につき,業務の停止や改善に関する命令 が出された(2007年3月14日)。

(9)

険の適正な募集態勢等にかかる点検の要請について が発出された 。各社 の自主調査の結果,保険料誤り等が判明し ,各社で対応を行った。

⑸ 損害保険業界の対応

損害保険業界では,この不適切な保険金の不払い問題等の発生を真摯に受 け止め,この後,業界全体で,また各社においても様々な取組みを行い,信 頼回復に努めてきた。以下は,損害保険業界の取組みの一例である。

なお,この時代は,業界コンプライアンスが成熟するまでの過渡的な業界 コンプライアンス強化期と位置付けることができる。

①契約内容確認手続きの実施

損害保険各社では,顧客が保険契約を申し込む際に,保険商品に関する重 要な事項を説明することに加え, 契約内容が顧客の希望に沿う内容となっ ているか , 契約の保険料算出に関わる事項が適正であるか 等を確認する 契約確認手続き を実施した。具体的には,契約手続きにあたり 契約内 容確認書面 ( 契約内容確認シート 等と呼ばれた)へ記入願う等の対応を 行った。この 契約確認手続き については,契約者にも確認のための協力 を必要としたことから,各社においては契約者に分かりやすい表現・内容で 契約内容確認書面を作成したほか,日本損害保険協会としても,ポスターを 製作する等契約者への周知のための活動を行った。

21) 同資料では, …特に,火災保険においては,保険料の算出や保険金額の設 定についてさまざまな指摘がなされているところです。したがって,損害保険 会社の火災保険の募集態勢等については,①保険料の計算に際し,建物の耐火 性能に応じた保険料率を適切に適用する,②保険料の計算に際し,各種割引等 を適切に適用する,③保険金額を正しく設定するため,適切な態勢整備がなさ れているかについて,調査を行う必要があると認められます。 とされた。

22) 各社の自主調査の結果,2009年3月末時点において,累計162万件の契約に ついて,差額保険料399億円を返還した。(日本損害保険協会ホームページ 保 険契約の確認調査等について )

(10)

② 消費者の声 諮問会議の設置

日本損害保険協会では,2006年9月に,損害保険業界に対する外部からの 意見・要望・苦情等を積極的に聞き,会員会社の業務改善に資することを目 的とし,消費者の声を真摯に聴き,業界全体としての業務運営に反映させて いくための仕組みとして, 消費者の声 諮問会議 を設置した。

この諮問会議は,委員の過半数を消費者や学識経験者等外部の有識者によ って構成し,現在の各委員会・部会といった日本損害保険協会の組織とは別 に独立して設置された。諮問会議では,様々なルートから寄せられる消費者 の声を踏まえて,業界として取り組むべき具体的な課題等について論議し,

理事会に対して提言等を行った 。

③コンプライアンス委員会の改組,機能拡大

日本損害保険協会のコンプライアンス委員会は,先に述べた業務運営特別 委員会の流れを受けて,協会の各委員会下部の部会長等をメンバー とし て構成され, 常設 ではない 特別委員会 の位置付けであった。このた め,まず,コンプライアンス委員会を委員会規則上, 特別委員会 から

表1 契約確認事項の例 火災保険・地震保険

出典:日本損害保険協会ホームページ 自動車保険 傷害保険・医療保険

保険の対象(建物・家財)

建物の用途,構造

評価方法,評価額,保険金額 保険料の割引制度

地震保険の加入の有無

記名被保険者

運転される方の範囲,年齢 車の装備,装置

年齢・性別 被保険者の範囲

職業・職務および職種区分

(級別)

23) 日本損害保険協会ホームページ 消費者の声 諮問会議 。

24) 改編前のメンバー構成は,一般委員長,業務部会長,損害調査部会長,海上 部会長,販売調査委員長,情報システム委員長および企画部会委員の一部で構 成。

(11)

常設委員会 に変更するとともに,機動的に様々なコンプライアンスの課 題に対応すべく,メンバーを会員会社全社のコンプライアンス担当役員とす ることと改めた。さらに,従来は存在しなかった下部組織である コンプラ イアンス部会 (部長クラス),および コンプライアンス運営

PT(プロジ

ェクト・チーム) (課長クラス)を設置し,各社の各階層で横断的にコンプ ライアンスの実践を展開できる体制とした。

また,従来の活動である⑴コンプライアンス・プログラムの策定・実施

(ア.委員会活動,その他事業者団体としての活動チェック,イ.会員会社 向けガイドラインの作成・見直し等,ウ.会員会社のコンプライアンス推進 活動の支援・情報提供,エ.関係他団体との意見交換・情報収集)に加え,

所管事項を拡大し,⑵会員各社のコンプライアンスに係る取組みにつき,情 報交換の支援(好取組みの業界内共有化に係る取組み),⑶他業界における コンプライアンスに係る事例研究等を活動として掲げることとなった。

④保険金支払に係るガイドラインの策定

日本損害保険協会においては,2006年9月に,適時・適切な保険金支払に 資することを目的に,金融庁の 保険会社向けの総合的な監督指針 の内容 をも踏まえ, 保険金支払に関するガイドライン を策定した。本ガイドラ インでは,保険金支払にあたっての基本姿勢,適切な保険金支払のための態 勢整備,事故発生から保険金支払に至るまでの留意事項,苦情対応について,

損害保険会社が留意すべき事項がまとめられた。

また,第三分野の保険金について支払漏れが発生したことを踏まえ,2007 年6月に 第三分野商品(疾病または介護を支払事由とする商品 )に関す るガイドライン を策定した。同ガイドラインにおいては,保険募集に関す る留意点,保険金支払に関する留意点等について,損害保険会社が留意すべ

25) 第三分野商品は,ガイドラインにおいては, 所得補償保険,医療費用保険,

介護費用保険,医療保険,がん保険等の疾病又は介護を支払事由とする保険商 品。ただし,傷害保険等の 急激・偶然・外来 な傷害を支払事由とする商品 や海外旅行保険等の旅行保険を除く。 と定めている。

(12)

き事項がまとめられている。

⑤募集コンプライアンスガイドの策定

日本損害保険協会では,2007年3月 に,保険募集にあたって代理店が 遵守すべきことを体系的に整理し解説した 募集コンプライアンスガイド を作成した。各保険会社においては,自己責任原則のもと,法令等に基づい て,保険募集に関する詳細な規定・ルールを独自に定めている。しかしなが ら,この規定・ルールや具体的な対応が保険会社ごとに異なることがあり,

代理店はもとより,消費者にとっても保険募集の手続き等がわかりにくいと いった面があること,また,保険募集に関する適正な業務運営の確保に向け ては,保険会社のみならず代理店による主体的な管理・改善努力に負うとこ ろが大きく,代理店自らの内部管理態勢の構築を念頭においた取組みが不可 欠であることから,策定したものである。

保険募集のルールについて,策定以前は,体系的に分かりやすくまとめた 資料は存在しなかったため,本ガイドは今日では業界に不可欠な指針となっ ている。

⑥その他の対応

日本損害保険協会では,不適切な保険金の不払い,支払い漏れ問題等の発 生への対応として,上記の他,契約者が事故に遭ったときに保険金を受け取 る際に注意すべき事項をまとめた消費者向け冊子 保険金の請求から受け取 りまでの手引(保険金請求版バイヤーズガイド) を作成したほか, 損害保 険の保険金支払に関するガイドライン の内容を代理店・アジャスター・鑑 定人向けの各種試験に盛り込むといった対応を行った。

上記のほか,各社独自の対応例としては,保険商品の簡素化,商品・特約 等の絞込み,第三分野保険金等の審査体制の充実,積極的な情報開示等も挙 げられる。

26) 以後,改定が行われ,最新版は2011年12月13日付で発行されている。

(13)

4.現在の状況

⑴ 日本損害保険協会としての取組み

業界ベースの取組みとしては,コンプライアンス委員会において,現在,

①活動のチェックとして,委員会活動,その他事業者団体としての活動を適 正性の観点からチェックし,必要に応じて,公正取引委員会,弁護士等外部 専門家の意見を聴取し,コンプライアンスの徹底を図る,②コンプライアン ス・セミナーとして,会員各社向けに,時宜に応じたテーマで,学識者,消 費者代表,行政担当官等によるセミナーを開催する,③好取組み事例の意見 交換として,業界全体のコンプライアンスの推進を目的に,会員会社による 意見交換を実施している。また,業界としての自主規制機能の発揮として,

各社においても,業界コンプライアンスとは別途,保険業法等のコンプライア ンスを展開している。

・コンプライアン ス・プログラム 策定 等

・コンプライアン ス・プログラム に基づく各種取 組みの推進

・各種課題への適 宜の対応

・各種法令等に関 する取組み(情 報提供等) 等

・不適切な保険金 の不払い等への 対応

・コンプライアン ス委員会の改組,

機能拡大

・各種ガイドライ ンの策定 等

・独占禁止法違反 事件を受けた対

・業務運営特別委 員会(現在のコ ンプライアンス 委員会)設置

・独占禁止法遵守 マニュアル作成

(適宜の法令等遵 守の取組み)

2009年〜

1999年〜2008年 1995年〜1998年

〜1994年

業界コンプライア ンス

成熟期 業界コンプライア

ンス 強化期 独占禁止法注力期

出典:筆者作成 業界コンプライア

ンス 黎明期

表2 業界コンプライアンスの変遷

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損害保険会社のための各種ガイドライン が整備され,適宜,内容も見直 されているほか,コンプライアンスに関する各種情報や法令改正に関する情 報の提供等を通じ,コンプライアンスの推進に取り組んでいる 。

その他の業界全体の取組みとしては,最近では,損害保険募集人試験の 更新制度 の導入,損害保険募集人を対象として主要商品である自動車保 険,火災保険および傷害保険等に関する知識の一層の向上を図ることを目的 とした 商品専門試験 の実施,さらにそれらを体系的に整理した 損保一 般試験 の導入(2011年10月),損保一般試験に合格した募集人が更なるス テップアップを目指すための仕組みである 損害保険大学課程 の創設

(2012年7月)等の募集ルールの刷新,保険業法に基づく指定紛争解決機関 として国の指定を受けた そんぽ

ADR

センター (損害保険相談・紛争解 決サポートセンター)の設立(2010年10月)等が行われている。

⑵ 損害保険会社各社における取組み

損害保険会社各社においては,コンプライアンスの所管部門を中心として,

以下のような取組みが行われている(以下は,各社の取組みの一例である)。

様々な場面および方法で行うことにより,取組みの実効性を高めるよう努め ている。

27) 本文で紹介した各種のガイドライン(指針)の他, 募集文書等の表示に係 るガイドライン , 契約概要・注意喚起情報に関するガイドライン , 保険募 集の適正な活動に関するガイドライン , 傷害保険等のモラルリスク防止に係 るガイドライン 等がある。これらの指針は,原則として,日本損害保険協会 ホームページ上(協会のご案内 行動指針・規範等 )で公表されている。

28) 日本損害保険協会 ファクトブック2011 日本の損害保険 p.34。

(15)

⑶ 損害保険会社への信頼感,満足感の改善

日本損害保険協会では,損害保険業界に対する消費者の意識等を把握し,

会員各社の業務品質やサービス向上等につなげることを目的として, 損害 保険業界に対する消費者の意識調査 を実施している。

29) 2011年9月16日付日本損害保険協会ニュースリリース( 損害保険業界に対 する消費者の意識調査 の結果を公表します(2009年3月,2010年3月,2011

表3 損害保険会社各社における取組み 主な取組み

出典:筆者作成

基本方針およびコ ンプライアンス・

プログラム等の策

コンプライアンスの徹底について,経営方針として定め積 極的に取り組んでいくことを宣言するとともに,コンプラ イアンスの年次計画を策定し,計画的に実効性を重視して 取り組むこととしている。

コンプライアンス 委員会の設置

取締役会に直結したコンプライアンス委員会を設置する等 し,各種課題について,コンプライアンス部門のみではな く全社的に取り組む課題として対応している。

マニュアルの作成 役職員向けに遵守すべき法令等についてわかりやすくまと めたコンプライアンスマニュアル等を作成,配付している ほか,代理店向けにガイドを作成する等している。

研修の実施 あらゆる機会を通じて,例えば役職員の各階層別や代理店 向けに実施している。最近では,eラーニングも採り入れ られている。

コンプライアンス オフィサー等の設

地域におけるコンプライアンスも重視し,各地域にコンプ ライアンスオフィサーを配置したり,地域ごとにコンプラ イアンス委員会を設置する等,工夫を図っている。

ホットラインの設

コンプライアンスに関する専用窓口として,公益通報者保 護法に則ったホットラインを設置し,問題の未然防止等に 取り組んでいる。

モニタリングの実

各部支店等における日常業務に係る自主点検,コンプライ アンスオフィサーによるモニタリング,監査部門によるモ ニタリング等,様々な角度から漏れの無いチェック体制の 構築に努めている。

(16)

これまでの調査結果が取りまとめられ,2011年9月16日に公表された。日 本損害保険協会および会員会社の信頼回復に向けた種々の取組みによって,

損害保険会社(損害保険業界全体)に対する信頼感 , 損害保険会社の業 務品質やサービス向上に向けた各種の取組みに対する評価 等の項目で改 善・上昇傾向がみられている 。引き続き,より一層,消費者から信頼を得 られるよう,今後も継続して各種の取組みを行っていく必要がある。

5.東日本大震災への対応

2011年3月11日に発生した 東日本大震災 については,損害保険業界で は,震災当日に 大規模地震損害処理体制 の実施を史上初めて決定し,日 本損害保険協会本部内に 地震保険中央対策本部 を,同東北支部内に 現 地対策本部 を設置して,保険金支払および被災契約者への対応に万全を期 して取り組んだ。また,会員各社では,本社や現地に対策本部を設置し,全 国から応援要員を被災地へ動員して,被災契約者に対する事故受付,保険相 談,損害調査,保険金支払等について,迅速かつ的確な対応を行った。

特に,広義のコンプライアンスの観点からは,適切かつ迅速な保険金の支 払は重要な課題であった。迅速な保険金支払のため,航空・衛星写真による 全損地域の一括認定等を行った。また,一部で自己申告に基づく書面調査お 年5月調査の比較))。2011年5月調査の実施概要としては,調査対象は20歳以 上の男女(学生排除),調査地域は全国,調査方法はインターネット調査,サ ンプル数は3,200名である。

30) 調査結果の概要(抜粋)は,以下のとおりである。

1.損害保険会社(損害保険業界全体)に対する信頼感

信頼できる ある程度信頼できる と回答した人の割合は,2009年度3 月調査73.3%(750人),2010年3月調査77.6%(2,483人),2011年5月調査 78.4%(2,507人)となっている。

2.損害保険会社の業務品質やサービス向上に向けた取組みに対する評価 評価できる , ある程度評価できる と回答した人の割合は,2009年3 月調査44.8%(458人),2010年3月調査66.9%(2,143人),2011年5月調査 66.9%(2,143人) となっている。一方, どちらとも言えない 評価でき ない と回答した人の割合は,減少傾向にある。

(17)

よび募集人による損害調査サポートを実施するとともに,原発の警戒区域等 の居住者を対象とする特別措置の実施により,迅速な支払と被災者の利便性 を確保した。さらに,大量に発生した 津波による浸水損害 や 液状化に よる沈下損害 に対して,迅速・的確に保険金支払を行うための対応を実施 した。この結果,保険金の支払は,着実に行われており,引き続き,損害保 険業界として一致して取り組んでいる 。

6.今後の課題

損害保険業界全体のコンプライアンスは,今日的には新保険業法の施行や 独占禁止法違反事件を契機にスタートし,今日に至っている。保険金の不払 い問題の影響は大きいものがあったが,損害保険業界全体の取組みにより,

消費者の信頼は回復してきた。また,現在の損害保険業界および各社におけ る取組みは,相当程度高い水準にあると思われる。しかしながら,過去に問 題となった事案については真摯に受け止め,業界全体として高いレベルのコ ンプライアンス態勢を維持していく必要がある。

ここでは,今後さらに必要となる損害保険業界のコンプライアンスへの取 組みおよび課題等について,まとめることとする。

⑴ 業界としてのコンプライアンスの一層の推進(多様化等への対応)

損害保険業界としてのコンプライアンスの取組みは,好取組み事例の情報 交換等を通じ,各社のコンプライアンスに対する意識および態勢の構築に貢 献してきた。他社の好取組み事例を共有化することで,各社のレベルアップ を図ることができ,それが結果として,業界全体のレベルの向上に繫がって いる。こうした点を踏まえると,業界全体としてコンプライアンス向上に真 31) 2012年4月2日現在の東日本大震災に係る地震保険の支払件数および金額等

(日本社+外国社合計)は,受付件数885,188,調査完了件数877,879,支払件 数771,403,支払保険金1,224,117,849(千円)となっている。

(日本損害保険協会ホームページ 東日本大震災に係る地震保険の支払件数,

金額について(2012年4月2日㈪現在) )

(18)

摯に取り組んでいると言えるのではないか。今後は,さらに,多様化した損 害保険業界のビジネスモデルや最新の法制度を踏まえた活動等を強化してい くことができれば,一層効果的な取組みになるものと思われる。

⑵ 共通化・標準化の推進とコンプライアンス

よりよい商品・サービスを各社において開発し,競争し,その結果を消費 者に還元していくことは,経済活動として重要である。一方で,各社で共有 できるインフラ等を活用し,各種課題について消費者保護,インフラ整備等 に資する活動を業界として行うとともに,各社でバラバラに実施している業 務の共通化・標準化を推進することにより,事務コストや過重なロードを削 減し,その結果を消費者に還元することも必要である。このように,業界で 一致して対応可能な課題については,独占禁止法等のコンプライアンスに留 意したうえで,従来以上に積極的に取り組んでいく必要がある。

⑶ 保険に関する教育の充実

損害保険業界におけるコンプライアンスの取組みは,相当程度,充実し,

定着化が図られてきた。他方で,コンプライアンスの充実は,消費者保護に 資するものでありながら,損害保険業界単独の取組みでは一定の限界もある。

業界の取組みと,併行した消費者の保険に関する知識の向上も併せて求めら れる。消費者の保険に関する知識の向上のためには,業界の各種啓発活動等 と並び,行政等による保険に関する消費者教育の充実が重要である。

義務教育を含め,各階層における消費者教育が浸透していけば,結果とし て,消費者にとっては安心・安全に対する意識が高まるとともに,自らのニ ーズにあった保険の選択が一層容易となるし,保険会社側にとってもコンプ ライアンスが一方当事者の努力で終わらずに充足でき,かつコスト面でも損 害保険業界全体にメリットがあるものと思われる。

(19)

⑷ 新たな課題への対応

損害保険業界のコンプライアンスの中心は,各社レベルにおいてはまず保 険業法が重要である。新保険業法の施行以降も,今日まで様々な改正が行わ れ,今日のコンプライアンス対応の中心となっている。

また,最近では,反社会的勢力の排除への対応,技術革新の進展に伴う

IT

技術の活用やこれに伴うリスク,販売チャネル・販売手法の多様化への 対応等,時代の変化とともに新たな課題が発生している。こうした課題につ いては,業界レベルにおいても既に一部意見交換等の取組み等を行っている が,今後発生する様々な課題について,敏感に反応し,可能な限りプロアク ティブに業界全体として取り組んでいくことが必要である。

さらに,保険業法以外の各種法令についても,例えば,消費者庁の設置や 今日の消費者保護法制の進展等を踏まえ,業界全体または各社内において担 当部門間で連携を密接に行い,適切な対応を行っていくことが必要となる。

これまでの損害保険業界の取組みは,時々の課題を踏まえ,都度,そして 継続的に改善を行ってきている。コンプライアンスについては,質的にこれ で十分というレベルはなく,どこまでも終わりのない取組みのような面はあ るが,損害保険業界および各社において取り入れられている消費者目線を活 かした取組みを継続して進めていけば,業界全体として高いレベルのコンプ ライアンス態勢が維持できると思われる。

今後は,現状に満足することなく,高いレベルのコンプライアンスを確保 している業界として広く認知されるよう,引き続き真摯に取組みを行ってい くことが重要である。

(筆者は日本損害保険協会勤務)

参考 献

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参照

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